ピッチの王様とエリアの騎士   作:現魅 永純

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 感想返信

>> カケルの江ノ島戦絶好調ですね。バタフライエフェクトも色々と起こってて楽しいなぁ
レアルでのオリジナル展開もあるのかな?
→ありますが、シーズン始まってからはほぼ掲示板になると思います。練習参加とクラシコだけは普通に執筆するつもりですし、人気の掲示板回があれば後ほどダイジェストにでも描写するつもりです。


>> エスカレーター式でも外部受験の一般枠があるから定員に決まりがあって仕方ないにしても高等部に繰り上げ入学できない学力とか公太ェ……。
 駆がいないから適当クロスを受け取れる選手がいなくて脚を鍛えても公式試合では出番が原作より与えてもらえなさそう
→繰り上げ入学不可は原作通りだから仕方ないネ。
 アバウトクロスはなまじ駆君が受け取れるから意表突けるって点で修正しなかっただけで、受け取れないならそれなりに役立つ扱い方はするタイプだと思うんすよね岩城監督。


 W杯以来のドイツ戦で4-1撃破、次試合トルコ戦にて何人かの主力を温存してタケの圧倒的な運動量で4-2撃破!
 見事な代表戦の後に続くレアル戦で敗戦にも関わらずMOMでもおかしくなかった活躍ぶりにこの人のファンで良かったと心から思います。
 明日行われるCLインテル戦、その他日本人選手の様々な活躍をモチベーションに執筆を続けていきます。
 しかしみなさん……お好きですね……(アンケート結果を見つつ)


 いつも通り前書きが長くなりましたが、本編をどうぞ。
 ……1万文字以内を目指すと1.5倍の文字数になるのなぁぜなぁぜ?




35話『別種』

 

 

 

 

(……多分、もう一回やってくるってのはねぇな)

 

 

 圧巻の5人抜き、完璧に反応して見せたGKさえ触れるのが精々な強烈なシュート。U-17W杯ベストイレブンのRWGに選ばれ得点王へと輝いたその実力を遺憾無く発揮したプレーを見て、荒木は想定する。

 

 

(織田への視線誘導や俺に対する左脚の加速……キックフェイントはまあ別にしても、1回目だから効果的なプレーってのをこの一連の流れで使ってる。……それを加味してもエグいドリブルだったのに違いはないが、ここまで意識させるプレーをして同じ事をするのは駆には合わない)

「マコ、基本的に駆にはツーマークで頼む。中盤で待つポゼッションなら俺と挟む。前線で狙ってるなら堀川と連携してくれ」

「おお、U-17得点王だからってビビってばかりじゃいらんねぇよな」

 

 

 ゴール前での選択だけならば兎も角、ハーフライン付近から開幕速攻単独突破はあまりにも駆から逸脱したプレースタイルだ。これがU-17W杯後からの『成長』ならば強く否定する事は出来ないが、少なくともプレミアでの試合映像を観るにそれは違う。

 試合映像の時と面子が違うから、周りに頼るよりも自分中心の方が良いと判断したからと言われても、それも違うだろう。中盤の支配能力で言えば駆よりも優れている選手が少なくとも1人はいる。

 

 ともすると。

 

 

(マークを引き付ける為……か? そんな事をせずとも駆に警戒を向けるのは分かってる筈……いや、だからこそ? 警戒が向く最初だからこその速攻ドリブル……けど確実に点を取る為なら自分の存在を薄めるのが駆のスタイルだろ。クソ、敢えてドリブルを選択した理由が分かんねぇ)

 

 

 駆はドリブル能力が特別優れている訳ではない。それは紛れもない事実だ。

 ゴール前での直感、傑をも上回る天性の集中力。それらが世界へと通ずるものであれ、足下のテクニックはやはり平凡の域を出ない。

 駆け引きで躱す事は可能だろう。先の5人抜きはそれが連続でハマった結果とも言える。

 

 だがこんな最序盤にそんな駆け引きに出る理由が無い。

 

 

(───まあ理屈の通った突発的な発想をやるからな、駆は。存外「なんとなく出来そうだからやったら出来た」もあり得そうだが、流石に希望的観測か? ……まあ、流れを見ながら判断するしかねぇよな)

 

 

 駆には左脚による『超速の振り』や『見ないトラップ』など、突発的な発想を自身の技の一つとして昇華させた事実が存在する。それを考えると荒木の希望込みとは言え正解に近いと思ってしまう。

 ははは、と。アンニュイな笑みを溢しつつ、方針を定めハーフラインにセットされたボールの下へと近寄る。

 

 

(何となく出来そうな気はしたけど……思ったより上手くいった)

 

 

 荒木の希望的観測は、事実である。

 “記憶”による直感の補正はあれど、駆は先ほどの5人抜きをできそうな気がしたからやっただけ。そこに深い理由はない。その後のプレーへの影響を考えたわけでもなく、やりたくなったからやっただけだ。

 だが当人の考えは兎も角、圧巻のプレーを行なった影響は大きく出る。

 

 江ノ島のボールでプレーは再開。

 荒木を中心とする江ノ島は、基本的にどれだけ良い形で彼に預けるかが鍵となる。ワンタッチで叩くも良し、スペースを広げてドリブルで運ばせるも良し。傑からも認められたボールタッチのセンスは決して飾りではない。

 だが、彼に良い形で預けるには周りの技量も必須。江ノ島は決して低いレベルではない。個々の技術は現在の鎌学と遜色ない程に高いだろう。それでもU-17W杯得点王の肩書とそれに偽りのない圧巻のプレーを披露され、気圧されてしまうくらいにはメンタルが鍛えられていない。

 

 駆は前線守備に走る選手。当然開始直後からボールを追い掛ける。そのプレッシャーは凄まじく、早めに荒木に預けたいという気持ちが出てしまう。

 そして駆が意図せずとも、その現状を先読みし利用するのが試合の流れを支配する者の務め。

 

 流石に鎌学相手に自陣エリアから真っ向ドリブルを仕掛けるつもりが無かった荒木は、ワンタッチで叩くかキープの為にボールを待つ事になる。

 それを予知し、死角から飛び出し荒木よりも早くボールに触れる存在───佐伯 祐介だ。

 

 

「クッ……」

「流石に、荒木さんを近くにして長くは持ちませんよ」

 

 

 荒木は直ぐに取り返そうと佐伯に身体を密着させる。自由な選択はさせず、読み合いへと持ち込む為に。

 だがそうなると先に読んでいた佐伯は、ボールキープの選択はせずに即座にサイドへとボールを流す。スイングは短く、予備動作を極力無くし荒木に反応させない為に、蹴るよりも押し出すパス。

 

 

(マコを駆のマークに付かせたからサイドに少し猶予が出来ちまってる、けどそのスペースはウチの、)

「嵌める為のポイント、でもそれはポゼッションが確立された相手には弱い」

「……!」

 

 

 鎌学のサイドにいる選手はある程度自由に運ぶ。江ノ島はDFと中央の選手で選択肢を消しに掛かるが、予めパスコースを決めていた鎌学は決して慌てる事はない。

 ヒールパスで後ろにボールを蹴り、その選手へと江ノ島が詰め寄ろうとするも、そのボールはダイレクトで逆サイドへ。

 

 

「嵌めるよりも早くボールを出されれば、運動量は更に増える。素早い判断を強制されれば当然穴は出来るでしょうね」

(コイツ……江ノ島の戦術を変更させる気か? ポゼッションで支配されればキツいのがウチなのは確かだ。けどその変更まで読んでる可能性もあるだろ。このままが無難)

 

 

 荒木がそう考えてから5分。

 江ノ島は一度も鎌学からボールを奪う事は叶わず、鎌学は自陣を全く使わないポゼッションで試合を支配していた。

 江ノ島の空けられたスペースを繰り返し使う事で体力の消耗を激しくさせ、判断能力を奪う。まだ前半10分も経っていない時間帯で、江ノ島には疲労が色濃く出る選手が多くなっていた。

 

 

(ブービートラップが全く機能しねぇ、これだと闇雲に体力を使うだけだ。こうまで奪えねぇってなると流石に絞って攻めさせた方が良いか?)

 

 

 荒木は一度ベンチに視線を移動させる。そこに佇む江ノ島の監督である岩城が難しい表情を出しながらも重く頷き、荒木の考えを肯定する。

 

 

「薫と火野は両サイドに陣取ってプレッシャー! 中に入らせるように! 他は下手にサイドに寄らずに中を固めろ!」

(流石に練習試合でポゼッションだけして時間潰しってのはないだろ。今のはあくまでもウチに有効なやり方をしてただけ……このパス回しが出来る相手に自由に攻めさせるのはリスクだが、そうでもしねぇと消耗させられた後に好き放題されるのがオチだ)

 

 

 荒木の見解は正しい。

 練習試合で有る無しに関わらず、多大な運動量を要求する相手に対してサイドチェンジを交えたポゼッションは非常に有効だ。下手にボールの行き先だけを追いかければ明確な穴が生まれるし、逆に我慢強く耐えたとしても体力の消耗は激しい。

 脳疲労に身体疲労。両方が重なれば判断能力は甘くなる。交代しても同じ事だ。

 

 一方的な支配をされるより、リスクを冒してでも純粋な攻防へと持ち込むべき。荒木の判断は正しい、が。

 

 

「───……なら、中央突破で」

 

 

 それは、攻防を制する能力があってこそ。

 

 

(! 鎌学も二列目からを完全に中央に寄せた、短いパス回しで崩すか。上等っ)

「……荒木さん」

「───ッ!!?」

 

 

 エリア付近、サイドにいる選手から中央の佐伯へとボールが戻される。その瞬間に荒木は出来る限り()()()()()()()()()()()()()()プレッシャーを掛ける。高速ポゼッションは嵌れば守備側が後手で追い掛ける形になる。思考する余裕が無くなるから、先ずは出所を潰すのがマスト。

 これで遅らせられれば御の字、通っても素早くフォローに入れる位置に織田がいる。

 

 取れる可能性は高い───そう思った瞬間。

 

 

「言葉がブラフの可能性も考えないと」

 

 

 佐伯はダイレクトで、右斜めへと強くボールを放った。

 左から来たボールを右真横にダイレクトでは可能でも難しく、出すならば真っ直ぐか左側への落とし。そう判断した荒木はそこを重点的に塞いだ。

 しかし佐伯が出したのは右斜め。駆がいる方向ではなくもう1人のFW、西島の居る方向。だがそこは。

 

 

(そっちはラインを───)

 

 

 荒木も可能性は考慮していた。予め確認し、ダイレクトで出されればオフサイドである事も理解しており、故にこそ其処へのパスは無いと判断していたのだ。

 オフサイドラインを超えている。そう荒木が思考したのも束の間。

 

 カーブで曲がっていくボールは西島を追い越しサイドへと流れる。このボールに対する西島の関与は一切なく、当然オフサイドにはならない。

 オフサイドに気付いてボールを諦めたかと、彼にマークへと付いていた海王寺がそう思った刹那。

 

 

「マークを緩めるな海王寺!」

 

 

 荒木から怒号の様に発せられる指示。

 そしてボールに釣られる視線。広がる視野で拾うその姿。右SBだ。

 固めた中央に集めた視線から外れ、それまで守備的に張っていた右SBが駆け出す。FWを(デコイ)にする事で渡る確率を高めた。

 言語化すれば単純な事。だが圧倒的なまでのポゼッションを見せつけ、中央突破を試みたと思わせた瞬間のサイドへのパス。それも囮にしたFWをオフサイドラインを超えさせる事でDF陣に安堵という油断さえ与える。

 

 江ノ島は思考が間に合わず、そのパスがSBへと渡る事を見送ることしか出来ない。

 西島へのマークは緩んだ。当然だがマイナス方向へのパスはオフサイドにならない。

 シュートコースがガラ空きの状態だ。右SBから送られてきたボールを西島がニアへと押し込み、鎌学は2点目を獲得。

 

 

(……下手したらこいつら、傑や鷹匠がいる時よりもポゼッション出来てるんじゃねぇか? というより、アイツらが居る時とは別種のチームって感じだ)

 

 

 当然、個々の能力を考えれば傑と鷹匠───及び他三年の選手を含めた全勢力の鎌倉学館高等部が強いのは間違いない。

 だが共有している戦術と実行する能力。連携という点を見ると、中等部から長く共有してきた1・2年の組み合わせは、確かに上回る。

 

 そして。

 

 

「マコ、前を塞げ! そのまま持ち運ばせるな!」

 

 

 前半終了間際。佐伯がエリア外から放ったミドルが李にパンチングで弾かれ、ボールは攻撃陣の鎌学視点から左側へと溢れる。

 そこに出現するのは駆。驚異的なまでの嗅覚で体をゴールに向けた状態でボールを拾う。しかしダイレクトでは打てない。駆の嗅覚を知っている為セカンドボールを取られる事を前提にしていた荒木が、兵藤にマンマークを予め指示していたからだ。

 

 この角度ではファーへと放つのも難しい。ニアのコースを確実に防げばダイレクトで無闇に蹴るのは壁へと当たるのが必然。

 駆は数瞬足を止める。兵藤がボールに飛びついて来ればそのまま躱す為に、またそれ以上に味方のポジショニングを整える為に。

 駆としては詰め寄られた方が五分五分の駆け引きに出ざるを得ず厄介だったが、最初の突破が頭に残っているのだろう。迂闊に奪いに来る様子は見せない。ともすれば視野を広げる余裕が出来る。

 

 

「駆!」

 

 

 中央に居るのは佐伯。ミドルを弾かれてすぐにボールの向かう方向を確認し、()()()()()()()()()()()()パスを受けやすいポジショニングを逸早く整えていた。しかしそれと同じ反応をする選手が1人。

 

 

「させっかよ……!」

「……!」

(流石に反応早いな、荒木さん。けど想定内。奥にもう1人居る。駆のホイップキックならそっちに変動可能───)

(奥に1人居たな、そっちのケアも入れると賭けに出る必要があるな。どっちにとか駆け引きしてる暇はねぇ。パス出た瞬間に反射でブロックに行かねぇと)

(───或いは荒木さんもそれを視野に入れた上で賭けに出るか? なら駆次第だ、どっちに出してもいい。準備は出来てる)

 

 

 それぞれが試合をコントロール出来る支配能力を持つ者同士。その思考が割り出すお互いの想定を確信しつつ、最後は駆次第だと結論を出した。

 その強い視線を受ける駆の選択に───

 

 

「は……ッ!?」

(……おいおい)

 

 

 荒木は驚愕を、佐伯は呆れを溢す。

 なんと選んだのはシュート。パスコースへと誘導する為に縦を必死に塞ぎシュートブロックに脚を差し出す兵藤の股の間。

 パスから変動しシュートへと成ったそのキックはストレートに抜けていき、ファーサイドの読み、及びパスを出された後のポジショニングを整えていた李に一切反応をさせず、ニアを撃ち抜いた。

 

 

(確かに駆のゴール前の判断能力は飛び抜けてる。だが普段の想定なら打たないでパスした筈だ。エリア外からあの角度で縦を塞がれれば普通は迷う。けど今日の駆は……多分()()()()

 

 

 絶好調の時。気分がノッてる時。極限の集中状態にある時。最高のパスを受けた時。

 【真っ白な領域(エンプティ・ゾーン)】。決して毎回その空間を認識出来る訳ではなく、絶好調でも見れない場合が大半だ。

 

 江ノ島を相手にする今の駆は、直近数試合のプレミアリーグよりも遥かに上回る集中状態にある。無論、ボールを受ければ100%それが発揮されるという訳ではない。

 だがゴールを決めて、汗を拭い冷静に呼吸を整える駆に、佐伯は思わず笑う。

 

 

(想定を更新しよう。だが最高潮のお前が、俺の想定内で収まってくれるなよ。調和は外れず、飛び抜けて魅せてくれ)

 

 

 前半終了を知らせる短い笛が鳴り、各々が自陣のベンチへと戻って行った。

 

 

 

♢♦︎♢

 

 

「『……素晴らしいチームだな』」

「『ありがとうございます』」

 

 

 スタンドで試合を見守る人物。一高校サッカーの練習試合の観戦には相応しくないが、それでも真剣に選手たちを評価するその言葉に感謝の返事。

 レアルの監督ギダンと、かつてアメリカのリーグで【リトル・ウィッチ】の名を冠した美島 奈々の会話は、通訳を介する事なく行われる。

 

 ビッグクラブの監督が相手だ。水分補給等のもてなしをするにも普通のマネージャーでは萎縮してしまう。そこで白羽の矢が立ったのがセブンだった。

 前半途中までの間は、リトル・ウィッチを知っていたギダンがレアル系列でプリメーラ・ディビシオン・デ・ラ・リーガ・デ・フトボル・フェメニーノ───通称リーガFの女子サッカースペインリーグのトップチームへの勧誘等を挟んでの会話だったが。試合が進むにつれて、ギダンの試合への集中は増して行った。

 

 

「『通常、あれだけ優れたパフォーマンスを発揮するFWがいれば集めたい気持ちが強くなるだろう。だがカマガクはそうでは無い。カケルの特性を理解して、パフォーマンスの瞬間的な爆発を出来る様にチームを崩さずにいる』」

「『……絶好調の選手に集めなかった結果、よくない結果になるという場合もありますが、ギダン監督はそういう考えではないのですね?』」

「『ははは、まあプロではケースバイケースだがな。試合状況を見てパターンを変える時もある。私が褒めたいのは、彼らのやり方が“今後”を見据えているものであるからさ』」

 

 

 ギダンは渡された水で口を潤し、言葉を紡ぐ。

 

 

「『プロ、或いはカケルが抜けた後のカマガクというチームの存続……出来るプレーを習慣化し必然的な成功を呼び寄せる事も目的だろうが──』」

 

 

 

 

「駆くん在りきではあっても、駆くん頼りではありません。それが恐ろしい点です」

 

 

 江ノ島高校サッカー部生徒が集まるベンチで告げる岩城の言葉。

 ピンと来なさそうな様子の中塚が問い掛ける。

 

 

「何が違うんすか?」

「アレだけのプレーを魅せられても、彼らは駆くんに必要以上のボールを集めようとしません。故に頼りではない。あくまでも“駒”の一つと捉え、役割を全うさせている。故の在りきです」

「……そっすね。駆だけに警戒を集めればその隙を周りがついてくる。逆に周りに注意が分散すれば、駆のルートが開く」

「鎌学には恐ろしくない選手が居ない。普通であれば抑えるべき選手というのがピックアップされますが、此方の動きに合わせて有効な手を打つ。それらを一人一人が個人レベルで実行出来ている。……中塚くんには覚えがありませんか?」

「俺は祐介の指示に従ってたんで……」

「……やはり心臓は彼ですか」

 

 

 岩城が難しい顔で考え込み、数秒の沈黙を経て口を開く。

 

 

「個人戦術が全体的に高いのは間違いありませんが、やはり駆くんと佐伯くんは飛び抜けている部分がある。この2人を抑えなくては攻撃すら出来ずに完封されるでしょう。ですが、駆くんに対しては改める必要はありません」

「えっ?」

「か、彼に2点取られているにも関わらずですか?」

「2点に()()()()()()()()()です。本領を発揮すれば前半の間に彼単独で4点取られてもおかしくありませんでした。DFの皆さんは良くやっています」

 

 

 オフ・ザ・ボールの動き、ゴール前での駆け引き、シュート技術───ゴールに関する駆の技量は、紛れもなく1流のそれだ。フィジカル強度やボールコントロール能力こそ高校レベルではあるが、既に十分プロでやれるモノを揃えている。

 そんな選手を相手に2点に抑えられているのは、DF陣が粘り強く耐えている証拠だ。

 

 

「サッカーに於ける得点は、オフェンスの成功とディフェンスの失敗をピックアップしてしまいます。前半3失点という結果はDFとしての手応えの無さを感じてしまうでしょう。ですが、彼にシュート本数を2つに抑えられた事実は間違いない。その2つもイレギュラーな得点でした」

 

 

 岩城は一度間を置き、再び口を開く。

 

 

「駆くんへの対処は正しい。自信を持ってプレーして下さい。もちろんイレギュラーをそのまま見逃す訳には行きませんので対処はしますが」

「取り敢えず佐伯のマークっすね。じゃあオレが……」

「いえ、荒木くんにはフリーで居てもらいたい。DF意識に全てを注げば、君なら対処可能でしょう。しかし我々の本質は超攻撃型。そして中心は君です。それを変える訳にはいかない」

「……正直に言うと、織田でも荷が重いっすよ? アレは傑の読みを相手にしてると思った方がいい」

「織田くんには申し訳ありませんが、僕もそれに同意です。成長に期待してマンマークも一つの手ではありますが、折角の鎌学相手だ。彼らを抑えつつ、江ノ島のサッカーをしっかりと発揮したい」

「難しい要求っすね」

「手はあります。鎌学が受け入れてくれるかどうか次第ですが……」

 

 

 「サッカーでの反則にならない程度には、自由にやって大丈夫」。試合前に駆が放った言葉を思い返しつつ、「これを想定しての事かな」と苦笑しつつ、言葉を続ける。

 

 

「一先ず、後半からのメンバーチェンジですが───」

 

 

 

♢♦︎♢

 

 

 

「……ホントに出るのか」

 

 

 ビブスを来て柔軟をし、軽くウォーミングアップをする───江ノ島監督、岩城の姿を見て、予め監督からの伝達があったとはいえ困惑する。

 普通の経験者程度であれば、多少フィジカルに自信があったとしても対処は容易だ。しかし。

 

 

(今までの試合からしても、江ノ島の監督は曲者だからな……鎌学の力量が分かった上で入るなら、何かしらの策がある筈だ。あの人自身が相当な選手って可能性もある。どう動いたものか……)

「祐介」

「ん……どうした、駆」

「何となく、祐介が今考えてる事が分かるから簡潔に伝えとこうと思って」

 

 

 ボールは江ノ島から。センターサークルにセットされそれぞれの準備が整うまでの間に、駆は短く祐介へと言い放つ。

 

 

「あの人を相手にするのは、兄ちゃんを相手にする感覚と思ってやった方が良いよ」

「───了解」

 

 

 駆が確信を持って言うならば、岩城という選手としてのプレーを知っていると言う事。そして駆からの評価が『逢沢 傑』は、紛れもなく最大限の賞賛。

 つまり、『予知』に収まる選手ではないという事だ。

 

 

(荒木さん相手でも結構ギリギリなんだがなぁ……多分そのレベルが出るって事は、荒木さんのプレーを最大限に発揮させるって事だ。まあ練習試合……相手が強い分にはこっちも臨むところ)

 

 

 佐伯は苦い笑みを浮かべつつ、手を挙げて主審を務める部員に準備の完了を知らせる。

 そして、後半開始のホイッスルが響いた。

 

 江ノ島は2-5-3の超攻撃型フォーメーション。しかし後半からは左WGに居た火野を下げて足の速い中塚を。八雲に変えて日比野を投入しフォーメーションを3-4-3の中盤ダイヤモンドへと変更。

 沢村に代わって入った岩城は左MF───WB(ウィングバック)*1の位置へ。

 

 

(公太をウィングの位置って事はつまり───)

 

 

 前線のポジションを整える為に幾度かのパス回し。位置が定まり、ボールは荒木へと。

 ワンタッチのフライパスで放られたボールは江ノ島のCF、長身の高瀬へ。精度の高い荒木からのパスだ。真っ向の競り合いでは国松でも勝つのは厳しい。胸トラップで収められ、ボールはサイドへと流れる。

 

 

(放り込んでのスピード勝負、まあそう来るか。けど公太のアバウトクロスは江ノ島も分かってる筈だ。しっかりとマークに付けばクロスは怖くない。恐らく狙いはクロスによる競り合いじゃなく)

 

 

 中塚と同じサイドに身を置いた存在が素早く駆け寄る姿を見て、佐伯は己の思考に確信。

 

 

(空けたスペースで自由に待つ為。けどマークは全員つけてる。ワンタッチでは出せない様にした。ドリブルで切り込んで来るか?)

 

 

 佐伯が岩城へとジリジリ詰め寄る。そして、違和感。

 

 

(……? かなりキープするな。スピードに乗せた割に溜めるのか)

 

 

 サイドを抜けた中塚に鎌学DFは中から追い詰めスペースを埋めていく。精度の低いクロスならいつ放り込んでもいいぞとプレッシャーを掛ける中で選択したのは後ろへのパス。

 受け取ったのは岩城。ダイレクトは選択せずにボールをキープ。佐伯が寄せるも、まだ仕掛ける様子はない。

 

 

(───いや、そうか。目的は少しでも俺を荒木さんから離す為)

的場(七番)マーク!」

 

 

 視界には入っていない。下手に視線を動かせばその間にパスを出されても仕方がないから。しかし岩城の行動から全体の動きをシミュレーションし、その中でも一番危険なポイントへ素早く指示を出す。

 中塚に出されても奇跡的なトラップでも起こらない限りは脅威にはならない。出来たとしても味方は充分対処可能な位置にいる。角度からして荒木からの位置のパスを直接ゴールへと叩くのは高瀬には難しいだろうし、足下が無いのは明確だ。直ぐに挟みに行けば容易く取れる。

 

 ともなれば、中央で受けてテクニカルに運ばれるのが一番厄介。視線を動かさずに把握できる江ノ島選手の位置からして二列目以上の飛び出しはない。

 警戒すべきは的場。

 

 

「流石の判断です」

 

 

 佐伯の想定通り、岩城のパスは荒木へと渡る。マークが厳しくダイレクトプレーは無理と判断したのだろう。トラップしてボールをキープ。

 距離感は近い。佐伯はそのまま荒木の前に入りドリブルスペースを埋めに掛かる。

 

 

(俺一人で荒木さんからボールを奪うのは厳しいが、キープが長引けば周りのフォローが入れる。エリア内にさえ侵入させない様にすれば───)

 

 

 重心は後ろ気味に、ボールを奪う姿勢ではなく時間を稼ぐ体勢。奪いに来ない相手を置き去りにするのは荒木でも至難の業だ。

 だが荒木が選択したのは。

 

 

(パス───ミドルレンジ───さっきの───)

「国松さっ───、……!」

 

 

 近距離後方へのパス。

 それを認識して高速で思考し出した結論は、先程中へと入る動きをしたであろう的場へのパス。荒木からのダイレクトではないタイミングにズラすことで受けられる状態を作り出しただろうと想定。

 

 

(ミスった───ッ)

 

 

 そこまでは完璧な読みだった。しかし己が国松に指示を出したことにミスを察する。

 

 テクニカルではあるが強度はない。最悪エリア外ならば身体をぶつけられる。中へと動いた的場への対処ならば国松が一番良いという判断だった。

 だがここでもう一つの可能性。的場がフィニッシャーではなく、繋ぎ役だとしたら。

 咄嗟の競り合いにおいて、江ノ島の長身FWに対抗出来るのは国松だった。的場がそれを引きつけつつ、ラストパスを出す役割を担ってると、指示を出しつつ回転する思考が可能性を見つけ出した時には既に遅かった。

 

 織田のダイレクトは的場が足下で受けれるように調整されたロブパスで出される。浮いたボールは咄嗟に出した佐伯の脚を超えていき、国松の目の前で受ける的場へ。

 緩いボールだ。トラップならば浮いたボールの処理は容易ではない。しかし。

 

 

「キーパー前!」

 

 

 ダイレクトで浮かすならば話は別。

 左膝を曲げ、僅かに地面から離し、ボールに触れると同時に上へフリック。アウトリフトでダイレクトパスを行いボールを浮かす。僅かに前へと移動するパスに反応するのは江ノ島の長身FW、高瀬だ。

 反射的に国松も競り合おうとするも、先に触れたのは高瀬。振り抜いた頭で弾かれたボールは強く推進。コースを狭める為にキーパーへと指示を出すも間に合わず、ゴールネットを揺らした。

 

 

(……あの人の溜めも、荒木さんのパックパスも、予想外の手だった。なにせプレーを遅らせる一手だ)

 

 

 アシストもゴールも1年生コンビによるもの。ハイタッチで喜ぶ様子を眺めながら、佐伯は先ほどのゴールまでの過程を振り返る。

 

 

(けど、その後のプレーは素早かった。だから思考の修正が間に合わなかった。……最短で塞ぎに来たこちらの判断を遅らせる事でズラしたんだ。“予知”を過ぎさせ、修正を余儀なくされた所に速攻で叩き込む。読まれていることを分かっているからこその選択。凄いな、面白い)

 

 

 自身の“予知”とはまた違う脳の使い方。

 駆が『逢沢 傑』を相手にしているものと考えた方が良いと言ったのも納得がいく一連の流れだった。

 岩城の直接関与したプレーは中塚からボールを受けて“溜め”を作っただけ。だがその溜めこそが、佐伯の“予知”を乱すキッカケとなった。

 

 その予想外に、佐伯は笑う。

 

 

(今回の試合は、学べる事が多そうだ)

 

 

 では次は守備の方を魅せてくれ、と。リスタート後、佐伯は前半とは変わって自身にボールを集める様に周りへと指示を出す。

 必然的に前半を参考にした守備の指示は変える必要がある。当然熟考するだけの余地を与えるつもりもない。

 

 佐伯は速攻で仕掛ける。

 ダイレクトプレーを多めに、最終的にゴール前で佐伯自身がボールを受ける。

 身体を開きオープンにトラップ。斜め左前で抜け出す駆にパスを出すと見せかけ、キックフェイントでディフェンスに来た織田を躱す。

 

 

(駆のマークについてるDFを引き摺り出し───)

 

 

 こうなれば佐伯はコースが開く。エリア外とはいえ完全フリーの状態。ディフェンスはこれを見過ごす訳にはいかない。

 だがDFを引き摺り出せば駆のマークが緩む。そのままの抜け出した状態ではオフサイドラインを超えているが、駆のオフ・ザ・ボールの質を考えれば即座に修正しライン手前に止まるだろう。

 

 だがその想定は外れる。

 

 

(っ、動かな……いなら俺のミドルで)

「2歩、遅くなりましたね」

「クッ……!?」

 

 

 駆のマークに付いていたDFが一切動きを変えない。

 動揺するもパスを出せばインターセプトされるのは目に見えている。パスからの切り替えで右足を踏み込み軸を再度整えてシュート体勢へ。

 だがそれに要した二歩が、寄せる時間を与えてしまった。

 

 岩城が即座に対応し、横からボールを奪取。シュートブロックですらなく完全に江ノ島のボールにした。

 

 

(さっきと同じだ、本来すべき行動からズラす事で思考の修正を強制させる───けど)

 

 

 佐伯は岩城の前を塞いでパスコースとドリブルコースを封鎖しながら、考えを止めない。

 

 

(リスクがあまりにも大きいだろ今のは……! オフェンス側の時ならミスった一つでも良い、けどディフェンスはミス一つがそのまま1点に繋がる。どんな心臓してんだこの人)

 

 

 選手個々の判断と言われればそれまで。

 しかし予定調和とでも言うべき岩城の対応を見て、間違いなくこの人が止め方に関与していると確信出来る。幾ら練習試合と言えど、シュートコースをわざと空けるなどディフェンスからしたら九死に一生を得ている想いだろう。

 

 

(リスクは高くても保険はあった。駆くんの位置と海王寺くんの位置からしてシュートコースが狭められていたし、李くんならば反応して触れる可能性がある故のチャレンジ)

 

 

 その答えを、岩城は思考する。

 引き出してパス。最短最速で刺す為に佐伯と駆の縦の位置関係はそこまでズレていなかった。マークに付いている海王寺の体格も合わさり、ミドルで迷いなく打たれてもキーパーは充分に触れる可能性がある。それもあって佐伯はパスの選択を“予知”の最終判断に持ってきた訳だが。

 しかしそれでも大きなリスクを孕んだのは確か。そして何よりも。

 

 

(予想外だったのは、駆くんが咄嗟に外へと開いた事だ。明らかにシュートコースを空ける為の動き。もし佐伯くんがそこまで読んでいれば、李くんもノーチャンスだった)

 

 

 佐伯も、そして岩城自身も予想外の咄嗟の反応。

 駆の“予知”か、或いは直感か。染み込んだFWとしての得点に対する嗅覚か。

 

 

(改めて間近で見ると、レアルが惚れ込むのも分かる。類稀なるFWとしての天性の才能。使う側は苦労するだろうが……。傑くんや佐伯くんがとても学生レベルとは思えない支配能力を持つのも理解出来るな)

 

 

 ボールはバックパス。

 いつの間にか最終ライン付近まで戻っていた荒木へと渡り、ダイレクトでフィードを───

 

 

「! クソ、目敏いな駆っ」

 

 

 出される前に駆がスライディングでパスコースに滑り込む。叩かれたボールは駆の脚に当たりサイドラインを超える。

 荒木が前線に居なくても、佐伯が守備に戻れていないという点はあまりにも大きい。荒木の精度で前線に一気に送られてカウンターを貰えばピンチは必須。

 

 一気に叩き込んで1点差をイメージしていた荒木から賞賛を込めた苛立ちが溢れる。

 それを受けながら、駆は佐伯の様子を見て岩城に話しかける。

 

 

「……岩城さんは」

「? はい」

「あまり自分で仕掛けて来ないんですね?」

「……ええ、今の僕はあくまでも江ノ島の攻守を成立させる為に居ますので。それに君達の守備は素晴らしく堅いですから、僕一人でどうにか出来るものでもありませんよ」

 

 

 どこか岩城を羨望混じりに見て、思考する佐伯を端目に、駆も同じく考え込む。

 

 

(岩城さん一人でも多分突破出来るけど……前者は嘘じゃないな。あくまでも江ノ島にサッカーをやらせる為の立ち位置って感じで、直接のボールタッチは出来るだけ避けてるし……この人はやるって決めたらそれを実行するタイプだ。で、()()()()祐介の予知(土俵)に対抗してる。こういうやり方もありますよっていうお手本を見せてるんだ。となると、下手に岩城さんのやり方を断定するのは祐介の成長を妨げる事になる……)

「分かりました、そういう事にしておきます」

「あはは、ありがとうございます」

(……やはりこの子は“視点”が違う。単純な攻防だけでなく、成長を加味しての事だと見抜かれた。感覚がプロのそれに近い)

 

 

 言葉の駆け引きは終わり。

 そう言う様に駆が背中を見せて走る様子を眺めながら、岩城は先ほどのやり取りで駆が感じ取ったであろうモノを読み取り戦慄する。

 “視点”が高校部活生徒のそれではない。幾ら“世界”を経験し得点王へと輝いた実績があると言っても、それでプロの感覚が身につく訳でもない。にも関わらず、駆は物事の視点をプロとして捉えている様に見える。

 

 プロを目指す心構えではなく、プロである心構え。

 一体どこで身につけたのやらと、だがそれを考えても無駄かと頭を振って思考を整える。

 

 

 ───結局その後、江ノ島は勢いに乗って一点を追加するも駆が返し、試合は4-2で終わりを迎える事になる。

 全体を通して見れば2点差。後半からのスコアのみで考えれば2-1で江ノ島が勝る部分もあったが、その点を喜ぶ者は居ない。何せ“大人”が居なければ江ノ島は自分たちのサッカーを満足に発揮することは出来なかったから。

 

 神妙な面持ち。だが確かな手応えとこれからの成長を予感させる顔付きがお互いのチームに溢れている。

 互いの監督の下で整列し挨拶を終え、それぞれ帰る準備を始めていた。

 

 

「駆君、今日はありがとうございました」

「! あ、はい。此方こそ楽しい試合が出来ました」

「引き留めてすみません。ただ、一つ聞きたい事がありまして」

「……? はい」

「我々江ノ島は、超攻撃型フォーメーションを命題に今の組み合わせを行なっています。ですが鎌学を相手にする以外でも、どうも決定力に欠く部分が見えてしまう。まだ未熟な1年生をレギュラーでFWに置いてる為、仕方ないとは思うのですが、どうすればいいのかと」

「……」

「すみません、相手チームの選手に聞くべき質問では無いです───」

「FWが高い要求を続ける事だと思います」

「……!」

 

 

 後半からの江ノ島は充分なチャンスを演出していた。前半の支配率21%とシュート本数0というスタッツとは打って変わり、後半単体で考えれば支配率43%にシュート本数7という記録を残している。

 このシュート本数記録も、大体は苦しい状況での苦し紛れのシュートに近いものが多い。その内の2本を決めているのだから充分に良い結果とも言えるだろう。

 

 だがこの試合、単独シュート本数3回でその全てを決めている逢沢 駆。

 一見すれば、1点目と3点目のシュートを決めるシーン自体はとても難しい訳ではない。でも駆というストライカーに一切の手抜きなしで警戒していた江ノ島がそんなイージーな状態を簡単に許す筈が無い。

 それを創り出したFWの観点を聴きたい。そんな質問をしつつ、総体や選手権で当たるかもしれない相手に教える義理はないかと岩城が引き下がろうとすると、駆は己を言語化する。

 

 

「あくまでも、僕の感覚ですけど……自分の打ちやすい状況を作ります。それがパサー側からしてどれだけ通すのが難しくても」

「選択肢の減る結果になるとしても、ですか?」

「はい。自分はここなら確実に決められる。決められる立ち位置には来た。後は貴方が通すだけ。……それには自分を信頼して貰うまでの過程は絶対に必要になりますし、チームへの貢献も捨ててはいけないと思いますが。同時に、ストライカーとしてのエゴも捨ててはいけないと思います」

 

 

 信頼出来る奴がここを通せばとパサーに思わせる。無闇矢鱈なチャレンジ精神ではなく、自分の得意を発揮させる立ち位置を確保した上で、パサーにチャレンジを要求する。

 決めやすい状況を作り出すというのは最善を選択すると言う事で、それは点取り屋としては至極当然の要求とも言えるだろう。それだけならば岩城も辿り着く思考でしか無い。

 

 しかし、()()()()。その言語化は岩城の胸にスッと入る感覚だった。

 

 

「江ノ島には荒木さんも、織田さんも居ますし。その要求を熟せるポテンシャルは充分に秘めてると思います。『江ノ島高校特有の練習法』を利用して他のチームにはないパスワークを生み出すのも良い」

「……砂浜での練習の事ですか?」

「さあ? チームの事に関しては岩城さんが考えるべきだと思いますから、これ以上は特に言いません。それより、僕も一つ訊いて良いですか?」

「ええ、もちろん」

 

 

 駆は江ノ島高校サッカー部の部員たちが此方に聞き耳を立てていないことを確認してから、彼らに聞こえない声量で問い掛ける。

 

 

「岩城さんは、プロにならないんですか?」

「え……?」

「フィジカル勝負やドリブル突破……敢えて封じていたその手札を使えば、僕らは逆転されていてもおかしくなかった。部分的でもそれは分かります。十二分にプロでやれるレベルの物を貴方は持っている」

「……」

「もちろん、欧州では既に居る若手監督としてクラブを率いるとか、そういう夢を持ってるなら応援します。ですが選手としてプレーしていた岩城さんはとても楽しそうだった。……強制したい訳じゃないんです。ただ僕個人の感想として、貴方がプロ選手として活躍する姿を見てみたい」

 

 

 岩城は意表を突かれたように驚愕の表情を溢す。

 続く駆の言葉を受けて視線を下げ、悩む。

 

 

「……江ノ島のサッカーを見ていて、よくこのシーンで自分がボールを持っていたらという想像をします」

「はい」

「U-17日本代表が世界を制覇する光景を見て、時代の流れが変わる瞬間を感じました」

 

 

 岩城は江ノ島サッカー部員を、そして鎌学高等部のサッカー部員達を眺めながら一瞬間を置き、再び口を開く。

 

 

「そして今日、日本の高校サッカー界を変えるであろう鎌学との試合に自らのプレーで体感を経て、改めて思います。僕は選手として、夢を追いかけたい」

「……!」

「君にも、僕のパスを受けてもらいたいですからね。そこが大きな舞台であれば尚のこと」

「……残念と言いますか、いや幸いかな。僕は今年の総体には出られませんし。選手権でもお互いに居るとは言い切れないので」

 

 

 岩城からの言葉を受けて、駆は不敵に笑みを浮かべながら握手の為に手を差し出す。その手を岩城は握った。

 

 

「次に会う時は、プロとしてになるかもしれませんね」

「ええ、その時は宜しくお願いします」

 

 

 

 

*1
守備的なミッドフィルダー選手(簡単な説明)

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