ピッチの王様とエリアの騎士   作:現魅 永純

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 感想返信

>>岩城監督が出るだけで駆と祐介がいる鎌学と同等レベルで戦える(しかも、駆は覚醒している)のはプレーヤーとしての才能が圧倒的なんよ...
→面子の中だとフィジカル最強、ボールコントロール最強、予知能力と空間認識能力を最強はまあ設定通りなので……ある程度縛りプレイしてもまあこれくらいはやれるとは思います。



 借り物の翼で2周くらい飛んでました。今3周目に入っています。ご友人との踊りを楽しみ飼い犬としてはしゃぎ回っていたので思っていたより長引きました。予定だと今月の10日くらいには投稿するつもりだったんですけどね……。
 やるゲームが増えると楽しいですが執筆時間が削られるのは悩ましいです。まあボチボチ進めていきますので、気長にお付き合い頂けるよう願います。




36話『未開の地』

 

 

 

 夏の大会───高校部活動に於ける三つの大会の一角となる総合体育大会の神奈川県予選は、鎌倉学館が圧倒する形で優勝を迎えることになった。

 チーム内に代表選手のいる鎌学はスーパーシードの権利を得ており、県内ベスト8からの大会参戦。とは言えプレミアでの試合日程もあり、疲労は相応に溜まっていると言えるだろう。

 それでも高校サッカーチームに於ける“最強”を冠した鎌学の勢いは決して衰える事は無かった。

 

 スーパーシードに相応しい実力を見せつける。準々決勝は代表帰りの傑と鷹匠を温存した状態で6-0勝利。続く準決勝ではベストメンバーを選出して挑み、全国でも上位と言える面子の葉蔭を相手に4-1と差を見せつけての勝利となる。

 県大会決勝では全国からのメンバーを加味し、駆を除いたメンバーでの試合。こちらは8-0と、U-17世界大会得点王を抜きにしても圧倒的なまでの攻撃力と守備力を見せつける試合となった。

 

 そして、各学校は長期休暇期間となる夏休みへと突入する。

 全国総合体育大会への進出を逃す事になった高校の多くは合宿期間に当てる所は多く、全国進出組は大会に向けての移動時期となるだろう。

 そんな中で一人。目まぐるしい活躍を世代別代表で残した事で“世界”に1歩早く踏み出す事になった少年は、高校サッカー部員達の夢の舞台に立つ事なく、空港の場に佇んでいる。

 

 

(……海外自体は何度か行ってるけど、流石に1人となると心細いなぁ)

 

 

 “記憶”にせよ“今”にせよ、代表選出による海外経験は幾度となくある。だがいずれも代表メンバーと共に飛行機へと乗り込んでいたのだ。

 周りに味方がいる状況と1人とではまるで違う。

 

 

「じゃ、駆。世界への切符、絶対に手にしてこいよ」

「うん、もちろん!」

「世界観が違う話だな……駆、全国は俺らで取ってやる。レアルでは余計な事は考えずに全力でな!」

「はい、国松さんも代表に選ばれる様に頑張ってください!」

「……」

「ほら、傑さんも何か」

「あー……まあ特別何か言う事もないが。()()()()、開いてこい」

「……お見通しだったりする?」

「何となく、自分がこの話を受ける立場だったらどう考えるかを読み取っただけだ。合ってるかは兎も角な」

 

 

 国松が疑問の表情を浮かべ、そのやり取りから考えを察した佐伯が「なるほど」と頷く。

 新しい道───直接表現を避けた兄からのその激励に、駆は笑みを持って応える。

 

 

「いつでも連絡───は時差もあるし無理かもしれないけど、ええと、後でスペインとの時差調べてこっちかからも掛けるし───」

「あはは……心配しなくても大丈夫だよ。あと時差は分かってるから、向こう着いたら問題ない時間に連絡するね」

 

 

 大人もついている代表の試合による帯同ならば兎も角、少なくともフライトの間は1人となる今回の海外行きは心配となるらしい。母の焦る表情を見て、駆は苦笑する。

 それぞれの挨拶を聞き届け、最後に自身の恋人であるセブンと向き合った。

 

 

「駆、手首出して」

「……? はい」

「んー……これでよし」

「ミサンガ?」

「うん。あの日と同じ、私の手作り。駆がレアルに参加するって決まってから用意はしてたんだ」

「なら一昨日でも……ぁ」

「…………」

 

 

 一昨日。そのワードが出た瞬間にセブンはスッと顔を背け、駆も同じく気不味く頬を染めながら顔を背ける。

 変な空気感が僅かに漂うもの、表情を整えたセブンがリュックからもう二つ程のミサンガを取り出し、その片方を傑へと差し出した。

 

 

「あの時の私とは違って駆が在住する訳じゃないのは分かってるけどね。ただ改めて、3人でW杯優勝の夢を叶える為に。世代別じゃなくてフル代表の舞台でね。ビッグクラブの練習参加は、間違いなくその足掛かりになると思うから」

「……うん」

 

 

 3人ともその場でミサンガを着けて、見せ合いながら傑が言葉を紡ぐ。

 

 

「3人でサムライブルーのユニフォームを着る。今度は「いつかきっと」じゃなくて、必ず叶える“誓い”だ」

「うん、必ず───」

 

 

7/25 13:50

 

 

「じゃあ、行ってきます」

 

 

 日本の怪物が、スペインの地へと飛び立った。

 

 

 

♢♦︎♢

 

 

 

「………」

「やあ、駆」

 

 

 レアル・マドリードのスタッフから案内されたホテル。練習はレアル・マドリードのトップ選手達がツアーマッチから帰って来て1日を置いた3日後から始まり、そこから一週間がスカウトを受けた有望株や下部組織からの目ぼしい人材を含めた選手達の練習期間となる。

 つまり、その間は特に何もない訳だ。

 

 その間に自主練を行うならばレアル・マドリードが所有する練習場で行う許可を貰っている。観光に充てるのも良いし、時間になるまでホテルにいるのもアリ。

 観光となると自腹にはなるが、ホテルの宿泊費やホテル内で提供される食事に関してはレアル・マドリードが請け負ってくれるというVIP待遇。

 

 初日は時差の影響を加味して軽いトレーニングとスペインの環境を見るつもりだった。日本発から約30時間───現地スペインに於いて昼過ぎの到着となり、僅かな休息と荷物の整頓を行った後に外に出る。

 つもりだった。が、自身の泊まるホテルの部屋から出た瞬間に掛けられた声に、駆は思わず口を開いて茫然としてしまう。

 

 目の前にはレオナルド・シルバ。ブラジルの至宝と名高く、また半年前。昨年度のU-17W杯に於いて決勝で激戦を繰り広げた相手が、唐突にスペインという場で話しかけてくれば当然の反応とも言える。

 

 

「……れ、レオ?」

「ああ、期待通りの反応で何よりだヨ。傑には黙っている様に伝えて正解だった」

「何でここに……? って、え、兄ちゃんは知ってたの?」

「此処にいる理由はキミと同じ。ボクもマドリーの練習参加をするからサ」

 

 

 後者の質問に対しては先に言った通りで繰り返し言うまでもない。そうやって前者の質問のみに答えたレオに、駆はどう返事をしたものかと悩む。

 

 

「前に話したが、蹴学との契約の最中だからネ。プロ契約が出来ない中で、蹴学は大会最中。今はフリーの時期ダ。コネ作りには最適な時期。元々マドリーからの誘いはあったし、キミが参加するのは知っていたから丁度いいタイミングだっタ」

「レオもマドリーから誘われてたんだ」

「ブラジルはEU加盟国ではないが、若手に対しての注目はアジアに比べれば遥かに高いからネ。寧ろU-17の実績があるとは言え、キミに注目が集まったのが意外ダ」

 

 

 欧州サッカーに於いての差別意識は高い。実力はあってもそういった面から起用されないという事は多々あり、容易く無くなるモノではない。

 言われてみれば、ギダンもフットワークこそ軽かったが何処か「アジアの人間にとっては栄誉だろう」と下に見ている節はあった。駆はそこまで気にしていなかったが、根底に染み付いているモノが多少はあるのだろう。

 

 

「今は日本代表にも欧州リーグに所属する選手が増え始めていて、欧州市場にも日本のリーグが記載されタ。だから次に、アジアの若手にも注目を集め始めたのかもしれなイ。……まあ、大人の事情はボクには知り得ないけど」

 

 

 そういった面倒は代理人に任せているからネ。そうやって肩を竦めるレオに、駆は苦笑する。

 

 

「それより駆、この後はどうするつもりダ? ボクも到着は今日だったし、軽く近くを見て回るつもりだが」

「あ、僕も同じ。セブンから一度、ビッグクラブを擁する街はゆっくり観て回った方が良いって言われて。代表戦だとあまり自由には動けないからこの際に」

「リトル・ウィッチか。確かに彼女は海外に暫く居たし、日本との違いを良く知っているネ。……折角だ、一緒に観て行こう」

 

 

 

♢♦︎♢

 

 

 

「レオは確か、U-13の世界大会でスペインに来た事があるんだっけ?」

「ああ、傑と同じくネ。彼と同じチームでプレーした事があるというのは?」

「うん、知ってる。大会の後に誘われていたユースチームで」

「……きっと、最初で最後のチームプレーだ。この先クラブの方針で共にする事はあるかもしれないが、ボク自身はそうありたいと思う」

 

 

 サッカーに於いて、生涯のライバルでありたい。浸る様にそう言いながら歩くレオの隣で、駆もそうあって欲しい気持ちを持つ。

 

 

「ああ、U-13の世界大会と言えば……多分同時期かナ?」

「……?」

「ハル───四季 遥も、スペインで傑と会っていたらしいネ。彼からは興味深い話を聴いている」

「四季さん? レオが何で四季さんを?」

「ん、傑から彼について聴いていたのか?」

 

 

 レオの言葉に思わず「あっ」と表情を崩しかけるが、取り繕って同意する様に頷く。駆の様子を不可解に思ったレオが暫く見つめるが、やがて視線を逸らして語り始める。

 

 

「彼の名誉の為に詳細は伏せるが……彼はスペイン1部の下部組織(カンテラ)に所属していタ。だが追い出され、ヨーロッパのクラブを転々としていたんだ。どこもトップから声が掛けられる事なく、ボクがドイツにいる時に出会っタ」

「レオがドイツに?」

「フランクフルトから声を掛けられてね。ああ、彼も居たよ。カール」

「ゼッケンドルフとレオが同じチーム……!」

「はは。まあボクが練習参加した時、既に彼はプロ側の選手だったが。……話を戻そう。ハルは別にフランクフルトに居たわけでは無いが、ボクが泊まっていたホテルの近くの練習場でフットサルをしていたんだ。ほんの息抜きで向かった先で、出会いは本当に偶然だっタ。彼のテクニックは突出していて、思わず気になって色々聴いたんだヨ。そしてクラブに入らない事情も知ってしまっタ」

「……」

 

 

 四季 遥。“記憶”の駆が知っている存在。近い将来にJリーグ2部のプロサッカークラブ、湘南ブルーインパルスと契約を結んでいた選手。

 駆の知る限り、彼が特定の高校に在籍していた事はない。海外から日本へと帰国して直ぐに湘南との契約に応じていた筈だ。

 

 レオが蹴学との契約で一年間、高校サッカーに専念していれば無かった事。だが彼が蹴学との契約をあくまでも練習参加に絞り、選手登録を冬の大会である選手権に限定して海外クラブへの練習参加の余地を与えた事で、本来なかった出会いが生まれている。

 

 

「だからボクが誘ったんだ。キミの母国でサッカー界を一新する計画が立てられていると。渋られたが、「最後にイギリスに行かせてくれ」と頼まれ……そこでもダメだったと報告を受けた後に、蹴学へと招待したのサ」

「……あれ、でも蹴学のベンチには居なかったような」

「会ったのは最近だからネ。県予選は登録が間に合わなかったんだ。だから公式試合に出れるのは全国からになる」

「なるほど」

 

 

 ただでさえユース出身に加えて海外の世代別代表を2人所持している学校が、更に2人世界級(ワールドクラス)の選手が追加されるのかと。駆は年末年始で行われる大会に、思わず笑みを浮かべてしまう。

 そしてレオの言葉を反芻し、思い当たる。

 

 

(イギリス……スコットランドか。ゴードン・ストラカンの出身地……事情を知ってると納得が行く選択だ。けど片目が見えないながら年間MVPに輝いた選手が生まれた地でさえ、四季さんは断られたのか)

 

 

 四季が湘南に来るまでの経緯は聞いてこなかった。「プロなら学校行ってる暇ないだろ」とか、欧州経験がある故にプロ意識が人一倍強い選手だったという認識だ。

 

 

「それで……どうだい? 結構歩いたと思うが、スペインという地は」

「……初めてゆっくり観て回って、改めて日本とは全然違う場所だと思った。色々な所でサッカーをやってるのもそうだけど……その殆どが芝生だ」

 

 

 日本にも芝生はある。河川敷沿いで練習すれば天然の芝生でプレーすることも出来るし、整った人工芝のフットサルコートなんかも決して珍しい訳ではない。

 だが、最も違う点が───。

 

 

「その上、大人の指導者が凄く多い」

「……ああ。ボクも欧州の地に来て一番驚いた点だ」

 

 

 時間はまだ夕方よりかなり前。大人は働いている時間帯。だが無職には見えない───何なら店の制服を着たままの人すら居る。

 それも、教え方は丁寧だ。教えられた直後に上手くなる、なんて事は流石にないが。子供は大人の教えに沿い、そのやり方を徐々に身体へと馴染ませていっている。

 

 

「子供に教えられる人があんなに多くいて……それになんか、こう言っては何だけど」

「所作に合わないほど綺麗、かナ?」

「……うん」

 

 

 子供の身嗜みは特別整えている様には見えない。だがスパイクやシャツは異様に綺麗だ。ボールの数はそこに居る子供の数を優に超えているし、かと言って全員がサッカーに全てを賭けていると言えるほどの熱はない。そこはかとない違和感を覚えてしまう。

 

 

「それもそうだ。何せスパイクやシャツ……サッカーに必要な道具は、周りにいる大人からの“投資”だからネ」

「え?」

「いや、ジュニアクラブではないし、投資のお下がりと言うべきカ? マドリーの地だからネ、有力な人材を集めるには積極的なのだろう。それこそ本来サッカーをする事すら叶わなかった者達にもサッカーをさせる程に」

 

 

 投資。その言葉を聴いた駆は、周りの大人へと視線を向ける。

 

 

「マドリーの地で選手を支えるのは紛れもなくその地のファンであり、そして現地のファンである彼らは誰よりもマドリーのスーパースター達を見続けてきタ。端的に言えば、目が肥えていル。細かいところはクラブの指導者に任せる事になるだろうが、良いプレーを教えるだけならば彼らにも可能だ」

「……」

「そしてめぼしい人材がいればクラブとコンタクトを取り、その子をクラブへと引き取って貰う。こういったサイクルで開花する才能があれば、いずれ街へと帰るマネーは莫大なモノとなる」

 

 

 もちろん、毎回そうなるとは限らない。投資した本人に必ずしも還元する訳ではないし、場合によっては敵に塩を送る行為にもなりかねないだろう。

 それでも街全体が『スーパースター』を見出すのに全力であるという事実は相応の効力を持つ。

 

 無論、ただサッカーを楽しむ子を強制的に上手くさせる訳でもない。どうやったらもっと楽しく出来るかという大人達の共通意識も、日本ではなかなか見られないだろう。

 

 

「凄い国だ……」

「良いことばかりでもないさ」

 

 

 国がサッカーへと懸ける情熱に感嘆していれば、レオは静かに首を振る。

 

 

「適度に楽しめるのはジュニア世代までだ。何せ投資はあくまでも子供。ある程度の年齢を超えてそこそこに楽しむには自身の財源が必要になる。逆に才能があってクラブへと加入する事が出来ても、チームに合わず追い出される事もあるネ」

「追い出される?」

「日本は入団し、入団した子の親が資金を提供するだろう? だがスペインは、必要な費用は可能な限りクラブ側が出すんだ。つまり不必要と判断されれば切り捨てられル」

「……子供の頃からプロの感覚を味わってる、って事なんだ」

「そうだネ。サッカーだけが生きる為の手段となれば、そこに懸ける熱は大きくなる。だがそれはサッカーへの熱と直結する訳ではない。莫大なマネーでオファーした選手がやる気を無くす事例も珍しくないんだ」

 

 

 無論、かの有名なバロンドール選手が、あらゆるタイトルを獲得した上で現役選手としてのキャリアの最後を多額に支払ってくれたクラブで過ごす場合もある。ビッグクラブでやれる充分な能力が無いと自己判断して移籍する場合もあるだろう。

 ただ、そうやって『サッカー』を楽しむには相応の環境がいる。

 

 

「楽しいを更新し続けるならば相応の強さがいる。生きる為の手段ならばビジネス意識が強くなる。スペインは後者である事が多く、必ずしも良い事ばかりとは言えないのサ」

「……スペインは拾い上げる才能が多いと同時に、切り捨てられる才能も多い」

「ああ、だから日本の環境をボクは気に入ってるんだ。整っているが故にサッカーへの情熱がシンプルに伝わってくる。勿体無い部分は多いが、蹴学のプロジェクトはそれを変えるキッカケになってくれるだろう」

 

 

 そうでなければどれだけお金を積まれた所で蹴学に協力する事は無かっただろう。傑と戦う場は世界中のどこにでもある。

 

 

「うん、ボクのキャリアの最後は日本で迎えるのも悪く無い」

「あはは、決断早いなぁ」

「選択の一つだ。考えておくに越した事はないヨ」

 

 

 レオの溢したビジョンに思わず駆が苦笑して返すと、レオは薄く笑ってそう答える。

 キャリアの最後。サッカー人生を歩むにせよ、アスリートの選手生命はそう長くない。サッカー選手ともなれば40までプレー出来れば良い方と言えるだろう。場合によっては治療不可の大怪我を負う事すら有り得る。

 

 

(選択の一つ、か)

 

 

 レオの言葉を聴いて思い耽る。

 言う通り、選択が多いに越した事はない。一つ明確なビジョンを定めた所で、決して思い通りに行く訳ではないから。

 駆にも目標はあるが、それを達成した時───或いは挫折した時にどうするか。

 

 

『おーいそこの兄ちゃん達! ぼーっとしてるなら練習付き合ってよ!』

「!」

 

 

 ぼんやりと、未来について考えて。

 悩む様子をレオに見られていると、唐突に大きなスペイン語が発せられる。

 ハッと駆が声の方向へと視線を向けると、練習している子供達の1人が駆の方へと手を振っていた。

 

 

「……僕たちに言って……るのかな? ってあれ、レオ?」

「ほら駆、早く来いヨ!」

「はやっ!?」

 

 

 駆が疑問を横に投げつけるも、そこにレオの姿は無い。向き直れば既に練習場へと走っていた。

 先程までの話を振り返れば、現地で子供のサッカーに混じる経験は幾度となくあるのだろう。だから呼び掛けに対して躊躇いなく応じている。

 

 レオを追い掛ける形で駆もその場へと向かっていった。

 

 

『あの人たちすぐ疲れるから物足りないんだよ! 軽い練習で良いから付き合ってくんない?』

(子供の体力って凄いからな……この時間帯から夕方あたりまでって考えると、まあ大人はよっぽど運動してないと体力保たないよね)

 

 

 既に子供達に囲まれて、大人気なくボールキープを続けるレオを目の端で捉えながら、声を掛けてきた子供と向かい合う。彼は既にゴール前に立っていて、要はキーパー練習に付き合ってほしいそうだ。周りには疲弊してる大人達が多く、子供の体力についていけてない様子。

 子供はどうしてもシュートを打ちたがるものだと思っていた。少なくとも子供の頃の駆はそうだった。そこも国の違いなのだろうかと思いながら、軽い助走をつけて声を掛ける。

 

 

『じゃあ打つよ』

 

 

 軽く、軸を固定して。威力は弱く、狙いは良くしてのコントロールシュートを放つ。

 少し反応が遅れれば決まるシュートだ。しかしキーパーをする子供は難なくそれに反応し、飛びつく事なく横ジャンプでしっかり地に足を着けてキャッチする。

 

 

『これじゃ練習にならないよ! あと兄ちゃんスペイン語ヘタ!!』

「よ、容赦がない……」

 

 

 リスニングは問題なく出来る。発声もスペインに訪れるまでにかなり学んできた。

 とはいえやはり本場からすれば違和感の芽生える出し方なのだろう。大人であれば拙くともその意味を察してくれるが子供はそうもいかない。

 

 遠慮のない言葉の攻撃に駆は若干涙目ながらに苦笑してしまう。

 子供が投げたボールをトラップして足裏でピタリと止め、視線をレオの方へと向ける。

 それを受けたレオは笑みを浮かべつつ、その意味を察して言葉を放った。

 

 

「本気で打ってやれ、駆。怪我はさせないようにナ」

「……分かった。『なら、遠慮なく打たせてもらうよ』」

 

 

 この子供はキーパーの基本を分かっている。仮に山勘であれ、動きを見てから打てば子供に当たる事はないだろう。

 駆は子供に声を掛け、助走をつけて脚を振るう。

 

 鞭のようにしなる脚は子供の動きを捉えた思考を反射させて軌道を変更。勢いよく放たれたボールは子供の予測とは逆方向へと飛び、ネットを揺らした。

 

 

『───す、すっげぇ! 兄ちゃん凄いシュート打つな! どっかのクラブに入ってるの!?』

『この辺のクラブじゃないよね、見た事ないし! ねえ今の打ち方教えて!』

『ほぉー、この蹴り方は中々観れんな。それにあの威力……ミドルレンジで場面を整えた時の脅威は途轍もない』

 

 

 寄って集って───褒めて要求されて評論されて。多くの言葉を浴びた駆は顔を引き攣らせながら答えていく。

 自国の学校の部活、蹴り方はこんな風に。子供からの質問にそう返答する中で、ふと放たれる言葉。

 

 

『あー!! この兄ちゃんどっかで観たことあると思ったけど、代表戦でウチを叩きのめした奴だ!!』

 

 

 心臓が跳ね上がる。

 

 

『んん、代表戦? ウチは近年で日本(ハポン)との対戦はなかったぞ坊主』

『フル代表じゃなくて世代別! 年齢は忘れたけど!』

『世代別? ……まさかU-17のアレか! 準決勝が酷すぎて途中で観るの止めたが、あの時の相手は確かに日本(ハポン)だったな!』

 

 

 冷や汗が垂れ落ちる。

 子供と大人とのやり取りを聴きながら、どうしたものかと思考を回す。

 頭に浮かぶのは疑問の言葉ばかり。対策など欠片も浮かぶ事はない。

 

 やがて振り返った大人の視線を真正面から受けて、駆は直立で身体を強張らせた。

 肩を強く掴まれて───

 

 

『アンタ、マドリーに入ってくれるのか! 強い選手は是非とも歓迎だ!』

「……へ?」

 

 

 歓迎の言葉を受ける。

 思わず困惑して目を開いて閉じてを繰り返していると、後ろから喉を震わして笑うレオの声が届いた。

 

 

「駆。彼らは代表を蔑ろにしている訳ではないが、()()()()()()()()なんだ。マドリーが輩出する多くのスーパースターは他の国籍を持つ選手だしネ」

「……それだけクラブが誇りである、って事なんだ」

「ああ。クラブは街の歴史そのものだ。先人達、スーパースターが繋いだ確かな経歴が、キミという選手を歓迎するのサ。……まァ、キミがマドリーに入るかどうかは別としてナ」

 

 

 日本との違いを一番大きく感じる。

 地元故のサポーターをやっている───それ自体はどこの国でもあるし、大多数の場合はそうだろう。だがラ・リーガに比べて遥かに創設から期間が短いJリーグのクラブチームですら、クラブと街の歴史の背景はそこまで感じる事はない。

 何故なら地元民の殆どはサッカーファンですらないから。多種多様なスポーツを出来るという環境が、一つのスポーツクラブと街の歴史の密度を鍛える事が出来なくなっている。

 そもそもサポーターの多くは地元民ですら無いこともあるだろうし、クラブという枠組みではなく選手個人を応援するファンもそれなりに居るだろう。

 

 無論スペインでも全員が地元クラブチームのサポーター、なんて事はないだろう。サッカーでは無い別のスポーツに関心を持つ人も居るはずだ。

 だが、クラブに対するアプローチとサポーターとしての在り方がまるで違う。

 

 

『……まだ、レアル・マドリードに入ると決まった訳じゃ無いですよ』

『うーん、そうか』

『ただ、入ってみたいとは……思います』

『───おお! じゃあアンタが活躍したらウチの店に是非とも来てくれ! 良い魚仕入れとくぜ!』

(魚……?)

 

 

 後ほどに分かった話だが。日本人は生で食べるのが日常という程に魚が大好物だから魚介系が喜ばれるだろう、と。そう判断しての言葉だったらしい。別に店が魚介系一辺倒という訳でもなかった。

 そこは人によるだろう。少なくとも駆は毎日生魚を食べる偏食ではない。

 だが選手の為の行動。選手とサポーターとの距離感の近さ。そこに全力である姿勢に、駆は思う。

 

 

(……セブンの想定がどんなものだったのかは分かんない。僕はあくまでも“新しい道”と日本代表の糧にする目的でギダン監督の交渉を受けたけど)

 

 

 自分の教えたホイップキックを実践しようと練習する子供の姿。楽しそうに自分の店をアピールして是非来てくれと伝える大人の姿。

 地面に広がる芝生と背景に映る街並みに『レアル・マドリード』の歴史を感じた駆は、子供達に誘われる前に話していたレオとの会話の続きを紡ぐ。

 

 

「レオ、僕は」

「ン?」

「欧州5大リーグを全部経験してみたい。その国の在り方を肌で感じ取りたい……って、何となく思った」

「選択の一つだ、否定はしないサ。だがそれには相応の実績が必要になるヨ。……ああいや、なるほど。選手としてとも限らないか*1

「ううん、あくまでも選手として。それで最後に、日本に持ち帰りたい」

「……5大リーグの制覇は、選手としては史上2人目になるか*2。アジア人では間違いなく初となるだろう。ハハ、君の挑戦は恐れ知らずだナ」

「───あくまでも選択の一つ、だからね」

「ああ、そうだナ。選択の一つだ」

 

 

 U-17 W杯の制覇とビッグクラブからの勧誘で、少し達観していた所があった。自分は既に選手として上積みにいるのだと。

 だが自分の知らなかった街とクラブの繋がりを知って、バロンドールという輝かしい個人タイトルを獲得した選手が属していたクラブチームの雰囲気を知って。フットボールの選手であれば誰もが夢見る頂に近付いていると理解し、“熱”が強くなる。

 

 選択の一つとは言うが。

 その目標はどこまでも上を見ていて、いっそ全部叶えてやるという程の気概を持って発せられていた。

 

 

 

 三日後。

 サッカーファンであれば一度は聞いた名の選手達が揃う、レアル・マドリードの練習が始まる。

 

 

 

*1
カルロ・アンチェロッティは監督として欧州5大リーグの全てに就任している

*2
フロリン・ラドチョウという選手が5大リーグの全てで得点を残している。その他近年に於いて「ステヴァン・ヨベティッチ」と「ジャスティン・クライファート」が五大リーグ全てに属しているが、時代背景を考えて現時点ではカウントしていない

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