ピッチの王様とエリアの騎士   作:現魅 永純

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 感想返信

>>駆くん、バンディエラ√に続きまさかの五大リーグ制覇√を解放か。さらに上を目指してゆくゆくは優勝請負人√もワンチャンいけるか……?
→バンディエラ√に関しては監督の希望でしかないので駆くんの意識的には五大リーグ制覇の方に向いてます。ただあんま活躍しすぎるとアジア人による下方補正入っても馬鹿みたいな市場価格になるのでどのみちレアルでの実績に左右されますね。


>>ご友人!新しいゲームを始めると更新が スロー、スロー、クイック、クイック、スロー となってしまいますよね。
→クイックになるタイミングがあったら悩まんやろがいぶっ飛ばすぞブルートゥ! そして悪いな、私が友と呼べる人間は1人しか知らない!
 ちなみに3周終わりました。そろそろこの世界にもコーラル到達して私の脳内にもエアちゃんが現れる頃だと思います


>>筋をなぞるだけでもなく、チート最強というほどでもなく、よく練られた素晴らしい作品ですね。このクオリティで速く更新は無理でしょうなぁ
→や、ぶっちゃけ早く更新するだけなら可能は可能なんです……大体の執筆内容は既に決まってて、ある程度進めたら掲示板メインにしつつお気に入りの話を小説形式で執筆するつもりなので。
 ただしそれには『執筆に集中して他の娯楽に目移りしない』という制約と誓約が必要となるので、あくまで個人的に執筆を楽しんでる私からするとキツい生活になると言いますか……根がゲーム好き人間だから……



 11月は投稿出来なくてすみませんでした orz
 あのぉ……イーフトで過去一のショータイム建英が登場してぇ……ドリブルが楽しくてぇ……あと久しぶりに読者側になったらよう実の二次創作漁りまくっちゃって……はい。
 年末は仕事の方が27、28日で4時間残業予定入ってるので休息含めると執筆は難しいですが、1月入ってからは予定が変更無い限り2週間ほど休みが取れているのでその間に執筆を進めて2話以上の投稿が出来る様にするつもりです。


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37話『レアル・マドリード』

 

 

 

 

Real Madrid

 

 言わずと知れた、フットボールに於ける世界有数のビッグクラブの一つ。

 最も美しきポゼッションを披露するFCバルセロナを抑え、スペインのトップリーグであるカンペオナト・ナシオナル・デ・リーガ・デ・プリメーラ・ディビシオン───通称『ラ・リーガ』にて最も多くの優勝記録を獲得。

 欧州内最強を決めるUEFAチャンピオンズリーグでも、優勝最多記録を保持している。

 

 国内カップ戦であるコパ・デル・レイ。FIFAクラブワールドカップ。数えればキリがない程多くのタイトルを獲得しており、ビッグクラブと称されるチームの中でもトップクラスと言って差し支えないだろう。

 その強さを象徴する一つの理由として、レアル・マドリードはこう名称されている。『銀河系軍団』と。

 ドリームチームと言い換えても良いだろう。即ち、その世代に於ける有力選手を集わせているクラブチームという事だ。

 

 多くのタイトルを獲得し支持を受け、潤沢な資金源を惜しみなく使い現代の猛者達を集める。チームとして成り立っており戦術も組み込まれてはいるものの、レアル・マドリードの強さを継続させるのは個人能力が高い選手を多く確保している点だ。

 選手登録数には限度があるし、出場させる人数もスタメン11人に加えて定められた交代枠の分のみ。リーグ戦に加えて国内カップ戦、まして欧州トップリーグの上位チームとなればチャンピオンズリーグでビッグクラブとの連戦になり、一年間に於ける試合数は増して過密日程となる。

 

 ターンオーバー*1をするにせよ中2日というスケジュールも珍しくない。

 それを乗り越えるには相応のメンタルとスタミナが必要になる。

 

 

 ───逢沢 駆という選手は、運動量に長けている。身体能力という面で捉えればスピードもフィジカルも然程優れている訳ではないが、同年代の中ではトップクラスのスタミナを有していると言って良い。

 現代サッカーに於いて、FWの仕事はただ点を取るだけではない。前線守備という面でのチーム貢献を求められるポジションになっている為、駆のスタイルは現代にフィットしているだろう。

 

 だが同年代でどれだけ優れた能力を持っていても、まだ高校年代に上がったばかりの15〜16歳の少年では全盛期には程遠い。

 トップリーグの強度で過密日程を熟せるだけの持久力は当然ながら持ち合わせていない。

 

 

「……ぁ、ゲホッ……ハ、ハ……ァ」

 

 

 必然、練習参加した選手の中で最も低い能力は駆となる。

 下部組織から呼ばれている選手は昨シーズン中にも参加しており今回で2度目3度目というのが多い。1度目という選手もいないわけではないが、ビッグクラブの下部組織で鍛えられた身体能力はトップリーグでも遺憾無く発揮されており、駆程の息の乱れは無い。

 見ればレオもかなり呼吸を繰り返しており、それがトップリーグの強度を物語っていた。

 

 これだけの体力消耗がただの走り込みでなっているのだから驚愕だ。レアル・マドリードの練習風景は事前に確認しており、これについても駆は知っていたが。

 

 

(……映像で観るよりキツいな、これ)

 

 

 強度の高いプレーを90分保たせる。言葉にすれば簡単ではあるし、自己練習で付いていけるようにしていたつもりだ。

 だが実際に体験するとまるで違う。

 

 

(言語化が出来ないけど、自分で同じペースの同じ時間の走り込みをやるのと全然違うんだよね……)

 

 

 ある程度息が落ち着いたところで深呼吸を数回。激しく鼓動する心臓の音が緩みつつあるのを感じながら、最後に大きく息を吐く。

 脚は痙攣まではしていない。重たく感じはするものの、その後の練習にも問題なく参加できるだろう。

 

 若いと復帰が早くて良いなと頭をポンポンと叩きながら言い放ってくるレアル所属のベテランに苦笑を零しつつ、彼らの後について行き次のメニューの説明を受ける。

 走り込みによる()()()()。次はロンド───日本語で鳥籠を示す練習。

 

 世界トップレベルと言えど、肉体改造の面を除けば練習内容は日本のサッカークラブと大差ない。内容が分からず戸惑って能力が発揮出来ない、なんてことは決してないだろう。

 だがレベルはまるで違う。

 

 ダイレクトパスで繰り広げられるパス交換。トラップで止まることは一切なく、軽々と繋がれていく。

 駆が汗を垂れ流しながら必死に喰らいつく中で、周りのベテラン選手は全く気負うことなく簡単に素早い判断を重ねている。

 

 

(鳥籠はインパルスでもやってたけど───)

 

 

 首を振って、距離感を正確に測りながらパスの強さを調整しつつ、余裕のない中で思考を回す。

 

 

(距離が近い……から、視野が狭まる上に判断の速さが求められる。パススピードで選択肢がバラけるから、その辺りを上手いこと調整してこの人達は()()()()()な……)

 

 

 “記憶”の中でプロ契約を果たした湘南ブルーインパルス時代にも、鳥籠という練習内容は幾度となくやっていた。

 その時とは違う点を言語化しつつ、修正点を理解する。

 

 

「………っ!」

 

 

 強めのパス。それを予測していたかのように2人の鬼がコースを塞ぎに掛かる。柔めのパスでは簡単に取られるだろう。強いパスとなるとダイレクトでのホイップキックは確実にミートせずに蹴り損ねる。

 浮きパス、アウトスピンキック、股抜き───選択肢が無い訳ではないが、倒せたとしてもパス相手には次の行動が制限されてしまう。取られない事を目的とするならばそれでも良いだろうが、折角のトップレベルで妥協はしたくないのが駆の本音。

 

 

「────」

 

 

 直感に従う。

 ボールに当てようとした右脚を後ろへと引き、軸足に踏み込んでいる左脚の裏へとインサイドキックで通す。ディフェンスの重心の逆を突くことでパス相手に余裕を保たせる選択だった、が。

 

 

(やば、ズレた……)

「『すみません、鬼代わります!』」

 

 

 強いパスをコントロールするには難しい体勢だった為ミートがズレてしまい、ボールは誰もいない所へと転がっていく。

 拾いに行く他選手へ謝罪の意を込めながら手を挙げつつ、鬼の交代を宣言。

 

 

(……ほう)

 

 

 その一連の様子を眺めながら、現レアル・マドリードの選手の1人は興味深そうにしていた。

 何十と繋がるパス交換の末に駆はボールを奪い、再びパス側へと移動する。

 

 

(……あれ?)

 

 

 鎌学にいる時よりも遥かに早く思考を回しながら、違和感を覚え始める。

 向かってくるパスを叩く。頭を振り、再びパスを───そうやって繰り返す頻度が、先ほどよりも多くなっている気がした。

 

 

(いやこれ……気のせい、じゃない?)

 

 

 確信する。明らかに鬼と交代する前での鳥籠よりも、自身にパスが回っている回数が増している。

 必然、取られる回数も多い。取られて鬼と交代し、取って交代し。他選手よりも明らかに多い交代をして、鳥籠を終える事になる。

 

 

(最後の方は、かなり喰らいつけたかな。あー普段より頭回してるから糖分が欲しくなる……)

 

 

 体力以上に脳疲労を強く感じる。

 日本の環境程ではないがやはり夏場、暑さはそれなりだ。気軽に胃に入れられる糖分がないので、代わりにスクイズボトルに入っている水を多く飲んで喉の渇きを潤し、頭から被って熱を払う。

 

 

「『へい坊や』」

「っ、あー……『はい、スリーズさん』」

「『練習中でも気を使うようにした方が良いがな、水はあまり胃に入れすぎるなよ。口の中の渇きを無くすだけならゆすぐ位の感覚が丁度いい。身体のベストパフォーマンスを保つならそうするべきだ』」

「……!『はい、ありがとうございます!』」

 

 

 スリーズ───カイ・スリーズ。レアル・マドリードに在籍して何年も経過しているベテランのドイツ人選手。彼から声を掛けられて駆は思わず上擦った声で慣れないスペイン語の返事をするが、特に気にすることなくアドバイスをしてくれる。

 喉が渇いたら水を飲む。子供の頃から続けてきた当然の習慣でさえ、アスリートとなるならば改善するべき部分であるという教え。

 

 駆は礼を言いつつ、濡らした髪をタオルで拭い、軽く水分補給をするスリーズに自分から話しかけた。

 

 

「『スリーズさん、鳥籠(ロンド)では()()()()()()()()ありがとうございました』」

「『……何のことだろう?』」

「『トップレベルの速さに慣れさせてくれたんですよね?』」

「『さて、私は必死そうな顔が面白くて若手を虐めたくなっただけなのだが』」

「『あはは、そういう事にしておきます』」

 

 

 ───至極、当然の事であり、あらゆる面にて言える事ではあるのだが。実際経験を重ねる以上に糧となるものはないだろう。

 知識の蓄えで前提条件を満たす必要があるものは数多いが、成功体験や失敗体験を繰り返す事で抑えるべき点というのを自分で考える事が出来る。もちろん()()()()()()という点を忘れて経験だけを積み重ねても大きな糧となる事はないのだが。

 

 スリーズが言葉をはぐらかしたのも、それに対する答えを明確にする訳にはいかないからだろう。ただ提示されたメニューをこなして経験を重ねるだけの選手にさせない思惑がある。

 

 

(過去にレアル・マドリードへと練習参加したアジア人は何人かいるが……)

 

 

 そんな彼は次の練習メニューの説明を受けている駆の顔を見ながら、思考する。

 

 

(その何れも、最初の走り込みで極限まで疲労が溜まった状態で次の練習へと進むから、まともに思考を回そうとしない。だから今回と同じような事をした場合、殆どは直情的にネガティブな思考や苛立ちを覚える)

 

 

 身体が疲れ切っているから、当然最大パフォーマンスの発揮は不可能。その上で早い鳥籠、ましてや自身へとパスが来る頻度が他に比べて遥かに多いとなれば、「自分は虐められているのでは?」という思考に陥りやすい。スペインに限らず、欧州に於ける人種差別の意識が高いのは周知の事実だからだ。

 少なくとも、今までレアル・マドリードへと練習参加したアジア人が契約まで至らないのはそれが理由。ネガティブな捉え方をしてしまうから、その本質を理解する事が出来ない。

 

 

(発音はヘタクソだがスペイン語が出来るってだけなら過去にも居た。彼が今までのアジア人と違う点があるとすると……異常にポジティブである事)

 

 

 駆は本来そこまでポジティブな人間ではない。スリーズの知るアジア人の大抵は、『国内に於ける最も上手い選手でありレアル・マドリードにさえ見初められた自尊心』を持って練習参加をしており、それを粉々にする程に練習へとついていけないことが起因して契約に至るまでにならない。

 だが駆に、そこまでの自尊心は無い。自国で自分より上手い選手など幾らでも存在するし、レアル・マドリードの中では底辺の弱さという自覚がある。

 

 だから「自分は下手」と割り切り、それ以上のネガティブにはしない。上手い選手のあらゆる行動に意味を見出す。

 ポジティブというよりは、フラットな思考で理屈を繋げられるようにしているというのが正しい。

 

 

(次は紅白戦か。彼の真髄はここで分かるかな?)

 

 

 練習メニューにはギリギリ着いて来れる程度。ポゼッションや判断能力の早さには()()()()()から、試合には直ぐに入り込めるだろう。

 今のところは本当に最低限の能力。しかしフットボールに於いて、練習でどれだけ良い動きを見せたところで本番で役立たなければ意味がない。逆に言えば、練習で最低限の動きだったとしても本番で役立つならば、評価はひっくり返る。

 

 パス練習、シュート練習、持久走、ドリブルの1対1。切り出した一部分の要素よりも、試合形式での結果が一番分かりやすい。

 そうして始まる紅白戦。先ずはレアル・マドリードに既に在籍している現役選手のみで行われる。プレシーズンの練習初日だから流している部分は間違いなくあるのだろうが───

 

 

(……え、映像越しに観るリーガの試合なんかよりも遥かに凄いプレッシャーだ)

 

 

 恐らく現地で試合を観ればもっと凄いのだろう。そんな気持ちを抱きながら、行われる試合に目を奪われる。

 

 

「……面白いだろう? 駆」

「!」

「今のキミの思考を当てて見せようカ。映像越しに観る試合よりも遥かに凄いプレッシャー。現地で試合観戦をすればもっと凄いのだろう、かナ?」

 

 

 ずっと流暢に流れていたスペイン語の中で、慣れ親しんだ日本語が耳を差す。

 駆同様、外から召集された練習参加組であるレオから話し掛けられた。

 

 

「……うん」

「しかし残念、それは正しくない」

「え?」

「今この場で行われている紅白戦のプレッシャーは、実際の試合よりも遥かに高い強度なんだヨ。クラシコともなれば話は別だろうが、少なくともリーガ1部の中堅クラブとの試合に比べればネ」

「じ、実際の試合よりも、紅白戦の方が……?」

「紅白戦()()()サ」

 

 

 レオは顔を前に向けながら視線を一瞬だけ駆に移動させ、すぐに試合へと意識を集中させながら言葉を紡ぐ。

 

 

「先日も伝えたが、プロ選手にとってのサッカーとは生活そのものだ。だが君……日本人とは、その意味合いの重さがまるで違う」

「意味合いの、重さ」

「海外に出れば知る事になるとは思うけどネ。親族の存在する地でプロアスリートからの道を逸れても、最悪食っていける。日本には生活保護の制度もあるし、余程の事情がなければ受けられる義務教育で充分な知識があれば、別の仕事を見つけられだろう?」

 

 

 まだ高校に上がって三ヶ月。“記憶”も卒業したばかりの時までしかなく、プロサッカー選手としての仕事……それも国内のみしか経験がないから、レオの指す言葉が正しいかを断言までは出来ない。

 ただ少なくとも、日本は恵まれている。これは紛れもない事実だ。

 

 

「彼らにはサッカー(これ)しかない───もちろん皆が皆、そういう環境に置かれた選手ばかりとは言わなイ。だがそういう選手が多い環境で育てば自ずと染まる。……話が少し逸れたが、要はサッカーが仕事である以上は結果が求められる。そして結果を出すためには最低でも試合に出る必要があるんだ」

「……だから試合に出る為の紅白戦は、実際の試合よりも高い強度を?」

「他にも理由はあるだろうが、一番はそこだと僕は思うヨ」

 

 

 そうして口を閉ざすレオへと一度目を向けて、再び試合に没頭する様に視線を戻す。だがそれは先程での呆気に取られた様子とは違い、重苦しく現実を受け止める様な、『海外でプロをやる意味』を探るかの様な雰囲気だった。

 

 

(……割って来ないって事は、ここまではセーフかな)

 

 

 横目で駆の様子を見つつ、背後にいるコーチの存在を思いながら思考する。

 

 

(ギダン監督から駆には余計な事を言わない様に釘を刺されてしまったし、これ以上は言わない方が良いか。まあ理由は分かる。吹き込まれたプロの在り方を実行するよりも、プロとして自分はどう在るべきかを考えて欲しいんだろう)

 

 

 ピピィッッ───と、試合を止める笛の音。ファールやオフサイドの時に比べれば長い笛は、20分のみの試合の1つ目が終わる事を示すモノだった。

 次いでコーチがボードを使って次の試合に出場するメンバーの発表。全3試合の内の2試合目に、駆とレオはサブ組で名前が入っている。

 

 ビブスを着てピッチ内に移動する最中、同じサブ組に入っていた1人の選手に駆は近付いた。

 

 

「『スリーズさんはメインではなくサブ組なんですね?』」

「『知っての通り怪我明けだからな、先ずはサブから。プレシーズンの試合までに問題がなければメインの方に戻るという話らしい。……私と同じチームは不服かな?』」

「『いえ、とんでもない! 僕としては嬉しい話です!』」

「『ははは、後でサインをやろう』」

「『良いんですか!?』」

「……駆、監督見てるヨ?」

「あっ……」

 

 

 はよポジションに着けと言わんばかりに見つめてくるギダンの方を指差し駆に呼び掛けるレオ。

 駆は顔を引き攣らせて早足で1トップの位置へと移動する。

 

 

(緊張感が無いのは頼もしいと言うべきか、プロとしては不安と言うべきか)

 

 

 レオはそこで駆に対しての視線を切り、ピッチ全体を見渡す。

 

 

(レアル・マドリードの基本陣形は4-3-3の1ボランチ、前線ウィング型。この形は『最も三角形を作りやすいフォーメーション』であり、戦術としては非常にオーソドックスと言える。お互い同じ形だから戦術差は生まれない)

 

 

 バルサも似た様な形を取る事は多いが、彼方の場合はポゼッションを淀みなく繋ぐ為であり、三角形を作りやすいフォーメーションを最大限に活かす目的があるだろう。

 レアルの場合は三角形はあくまでも最低限の役割。カウンターの際に素早く繋げる様にする為であり、選手達が下手に戦術に縛られない様にする目的が大きい。

 

 オーソドックスだからこそ、個々の選手の動きが非常に目立つ。選手個人としての評価を獲得しやすいから、紅白戦の評価はイコール試合でどれだけ役に立つかに繋がる。

 

 

「ふー……スぅ

 

 

 息を吐き出し、短く吸う。合掌して試合前のルーティンを行い、感覚を研ぎ澄ます。

 

 

(いつもの、最大限能力を発揮する為じゃ無い。“記憶”で培ったプロの感覚を覚ます為に……父さんの言葉を忘れるな。自分の為の結果じゃ無い。チームの為の結果を。今だけは練習生じゃなく、レアル・マドリードの選手として入り込む)

 

 

 合掌を解き、ゆっくりと目を開く。

 審判が丁度ゴールキーパーに確認を取り終えて、口元に笛を持っていった。

 少し長めのスタートの合図。駆は走り出す。

 キックオフはメイン組のボールで始まり、先ずは前線守備から。

 

 

(圧、すご……けどやる事は変わらない)

 

 

 トップスピードは然程速くない。だから追い掛ける守備ではなく追い詰める守備。可能な限り選択肢を減らす。

 後ろを確認しつつ消していくパスコース。だが。

 

 

「『位置が甘いぜジャッキー・チェン』」

「くっ……」

 

 

 駆の脚が届かない位置ギリギリ。先程後方を振り返った時にはいなかった筈の選手がボールの進む先に存在しており、パスは繋がる。

 

 

(寄せさせる事で視線を集中、後方への予測が難しい段階で受ける選手が移動……シンプルだけど意思疎通が淀みない。というかジャッキー・チェン?)

 

 

 疑問を覚えるが、それは余計な思考だと直ぐに切り替える。パスが繋がるのはサッカーに於いて当たり前に近い。穴のない守備など無く、今のは大きなミスですらないのだから悔やむ必要などないだろう。

 判断を少し早める意識を持ち、全体の味方の位置を見つつどの程度のペースで戻るべきかを判断。空いているスペースを埋めるために駆け出し、パスコースを塞ぐ。

 

 やがて味方がボールを奪うと、駆は素早く前へ移動。相手の最終ラインから振り返って全体を見つつ、思考を回す。

 

 

(どっちもトライアングルが形成できてる……けど、中盤が埋められてて移行できない。なら僕は───)

 

 

 間を繋ぐ中継役。そう結論づけて、相手最終ラインから降りる形で味方のボール保持者(ホルダー)に近づいていく。

 駆にパスが来ると同時に、中盤を埋めていた相手選手が詰め寄る。

 

 

(はっや、いけど僕から向こうのトライアングルに繋ぐ必要はない。簡単にリターンするだけで充分!)

 

 

 降りる形で受け取った以上、ゴールに背を向けている体勢。無理やり前を向こうとターンすれば相手選手の寄せにぶつけられて簡単にボールを奪われていただろう。駆の身体能力(フィジカル)ではファールにならない程度のチャージでも簡単に弾き飛ばされる。

 だが競り合って無理に逆方向へと渡す必要はない。

 

 駆はダイレクトで優しく落とし、パスを渡してきた味方に返す。すると駆へと寄せたDFが空けたスペースへと鋭くボールを蹴り、逆サイドへの選手へと渡った。

 

 

(どのみち速攻は出来ない、ドリブルスペースを空けてフォロー出来る位置に移動。パスの選択肢になって良い様に視野の確保も───)

 

 

 後ろに味方のフォローがない状態でのドリブル突破はリスクが大きい。“記憶”に残る、湘南に入りたての頃に教えてくれた四季の言葉。

 逆に言えば、フォローがいる状態ならばドリブル突破によるリスクを抑えられる事を示している。パスの選択肢にもなるし、フォローできる位置に入る事で味方にドリブル突破を仕掛けても良いと言外に伝えることが可能。

 

 

(っと、サイドか……一旦ボールを落ち着かせる為だ、今のうちにFWの位置に戻ろう)

 

 

 ふっ、と息を大きめに吸い呼吸を確保。頭を回し続け移動していれば忘れてしまいがちだが、息を入れる所でしっかりと呼吸しなければこの圧の中では20分も保たせる事など出来ないだろう。

 

 

「『さて、ここまで見た限りで彼らの動きはアシスタントコーチとしてどう観る?』」

 

 

 ピッチ内でボールの動きが落ち着くと同時に、試合を眺めているギダンが付近のコーチへと話し掛けた。

 2回目の紅白戦は1回目と違って多くの練習生を入れている。既にレアルに在籍している選手の評価は全体の流れから可能だが、プレースタイルを全て把握出来ている訳ではない練習生に関しては観察すべき点が多くなる。オフ・ザ・ボールの事も考えればギダン1人で全てを把握するのは流石に不可能。

 

 だからこうしてアシスタントコーチを介して評価をする。

 

 

「『レオナルド・シルバは流石の一言ですね。初日で既に問題なくマドリーのサッカーに入り込み、得意の足下で自身の主張も出来ている。流石はブラジルの至宝と言うべきでしょう』」

「『他に気になる選手は?』」

「『既に何度かウチの練習に参加しているユースの───』」

「『ああ、彼はもうプレシーズンの試合で試す事は決めている。トップでの契約も進めてる最中だ』」

「『他には────』」

 

 

 そうして紡いでいく中で、試合は再び動く。今度は自分の介入する部分が無いと判断して最終ラインギリギリのポジショニングを取りディフェンスに圧を掛ける動きをする駆を見ながら、ギダンは別のアシスタントコーチへと問い掛ける。

 

 

「『カケル・アイザワは?』」

「『可もなく不可もなく。マドリーのサッカーを淀みなく出来てはいますが、自己の主張が目立たない。今までのアジア人の中では良い方ですけど、プレー自体はマドリーの選手ならば誰でも熟せるレベルと言わざるを得ないですね』」

「『そうか』」

「『……わざわざあの様な選手の為に日本へ?』」

 

 

 ギダンは手元のメモに記録を残しながら、アシスタントコーチの問い掛けには答えず言葉を紡ぐ。

 

 

「『世の中にはワンタッチゴーラーと呼ばれる存在がいる事を知っているかな?』」

「『ウチで言えば、数年前に在籍していたクリスチアーノが該当しますね』」

「『得点を決める事が重要であるフットボール。だが彼らの様な簡単にゴールを決めるだけの選手は、低い評価を受ける事も多い』」

 

 

 クリスチアーノは個人としても破格に優れていたが、と。アシスタントコーチが口にした元レアルの選手の補足をしつつ、言葉を続ける。

 

 

「『それは何故か。「マンマークに着けばいい」「DFがザル」「アレなら自分でも決められる」と、イージーゴール故に凡人に容易くイメージさせてしまうからだと私は思う』」

 

 

 だが、と。

 

 

「『どのクラブもそれは分かっている筈だが、果たしてそれでクリスチアーノは止められただろうか?』」

「『……結果的に、マドリード在籍中に4度のバロンドール受賞を果たしました』」*2

「『そう。どういうゴールであれ、得点を量産する選手への警戒は怠ってはいけない。誰よりも理解している筈のプロでさえ、彼を止める事は出来なかった。プロでさえ止める事が出来ない動きをしていたからだ」』

「『それとアイザワ()に、どんな関係が?』」

「『───FWである彼を評価をするには、まだ早計というだけさ。何故ならFWに求められるのは、得点力だから。そこに繋ぐ為に出来る事をしている。先ずは信頼だ』」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ギダンだけは、駆の動きの意図を理解して話す。駆は駆なりのプロ意識を持ち、自分の評価の為にはまずチームメイトとしての信頼を得る必要があると。

 もちろん、彼を評価したアシスタントコーチも始まって数分の動きで全ての評価を下していた訳ではない。だがギダンの話を耳に通し、先程までよりも駆に向ける意識を微かに強くした。

 

 

(よし、ゴール前。人数は揃ってる、ここはパサーに近付いてデコイ気味に───)

 

 

 ゴール前。ペナルティエリアの僅か外。右側でボールを持つのはSBの選手。自分含めゴール前にいるのは5人。その1人であるレオがファーサイドで待ち構えているのを確認し、駆はボール保持者(ホルダー)のSBへと近付いていく。

 エリア内で最も注目を集めやすいのはボールだ。それを持つ選手、またその周囲は多くの選手の視野に入る。そこに敢えて近づき『何かする』と思わせ、自身へと視線を集中させるのが駆の狙いだ。

 

 そうすればファーサイドにいるレオが外へと向かう事で視線と逆方向に移動でき、フリーになれる。SBからの視点ならばそれは分かる筈。

 

 

「────ッ」

 

 

 その駆の想定を裏切るかの様に、SBは駆へと横パスを出してくる。

 ワン・ツーで抜け出させてからのマイナス気味にクロスを送るためか。だがオフサイドラインを超えていないのに重心は前に向いておらず抜け出す様子はない。

 或いはストライカーなら打ってみろという試しか。コースは狭いが狙えない事もないし、トラップしてからでも躱して狙う選択もある。

 

 だが駆はSBへと近づく前に確認したゴール前の状況を思い出す。

 その瞬間に思考は凝縮され、直感が導き出したのは───スルーという選択。

 

 

「……!」

 

 

 スルーしたボールが向かった先にはスリーズが居た。彼はボールをトラップし、口の端を吊り上げながら脚を振り被る。

 

 

「『素晴らしい。ご褒美といこうか』」

 

 

 その視線の先には駆。パスをスルーして踏み込んだ左脚は沈み込んでおり、抜け出す為の加速の準備を完了させている。

 レアル側の考えとしては、スルーせずにダイレクトやワントラップで直ぐに決める事が出来るのならばそれでも良かった。多少の窮屈ならば問題ない程度の得点力を示し、レアルの新たな武器という主張が出来るから。

 しかし、世界トップクラスでそれが出来るほどの能力はないと駆は自覚している。だからあくまでも自分の最大限の武器を扱うシチュエーションへと持ち込んだ。

 

 レアル・マドリードのサッカーを崩す事のないまま、新たな選択肢の一つとして自分を主張する。その両立は、アシスタントコーチから見た駆のFWとしての評価を一新させることになる。

 ボールに釣られて駆への視線の多くが外され、集中はスリーズへと向く。当然駆の近くにいた選手は対応しようと最終ラインを把握しつつ重心を後ろへと下げているが、左脚を使った彼の加速は現時点で世界トップクラスの能力。

 止めるのならば、進行方向に身体を置いて駆のタックルによるファールを誘発するか、最終ラインなど気にせずなりふり構わず喰らいつくべきだ。

 

 飛び出すタイミングの見極めと、世界トップクラスの加速が織りなすラインブレイクは。

 

 

「『ッ、マジか!?』」

 

 

 世界最強クラブのDFさえも置き去りにする。

 エリア内、キーパーとの一対一。乱れないボールコントロールで絶好のシチュエーション。

 

 

(この加速に初見で合わせられた、脚に吸い付く様なパスだ)

 

 

 抜け出して、前のめりになっていた重心をトラップの瞬間だけは僅かに戻すことを想定していた。体勢の難しい状況で打つ事になるだろうと思っていたが、駆の重心を一切崩さない素早いパス。それでいてボールの置き所を決めやすい回転で、完璧な体勢のままキーパーとの一対一を迎える事になる。

 駆のFWとしての評価は今のラインブレイクにより大きく更新する事になっただろう。だが真骨頂はここ。キーパーとの一対一を制する能力がなければ、FWとしての評価は落ちる。幾ら時を経るにつれて在り方が変わっていると言っても、FWとして何より重要なのが得点力である事には変わりない。

 

 世界最強のクラブは、どのポジションにも世界有数の能力を持った選手がいる。GKも例外ではない。

 フィールドプレイヤーとは違ってGKはゴールを背にした状態の一対一の経験は桁外れに多く、どれだけ絶好のシチュエーションを作り上げても止めてくる可能性は十分にある。それがレアル・マドリードのGKともなれば尚更だ。

 

 GKは飛び出し、シュートコースを狭めていく。同時に近づく事で駆の軸足の向きを即座に判断出来るようにして、反射能力によるセーブ率を高める。

 駆に対して軸足による方向判断は無意味ではあるが。

 

 

「……ッ」

 

 

 駆は冷静な表情を崩す事ないまま脚を短く振る。ミドルレンジではない以上、シュート威力を高める必要もなく、普段の溜めは要らない。

 軸足をファーサイドに向け右脚を振る。GKは重心をファーサイドに寄せ、手を伸ばし───

 

 

「『───なにッ!?』」

 

 

 ニアサイドを抜けていくボールに驚愕し、反射的に脚を伸ばすものの届かない。

 ボールはゴールへと吸い込まれていき、駆のゴールとしてカウントされる。

 

 

「よし……!」

 

 

 たかが練習中の紅白戦、されど世界トップクラスが万全に能力を扱う紅白戦。

 その中でゴールを決めた達成感に、駆は思わずガッツポーズを取る。

 

 

「『ゴラッソだな』」

「『ありがとうございます!』」

 

 

 位置的に自分でミドルを狙う選択もあっただろうが、ご褒美と称してアシストをくれたスリーズに頭をくしゃくしゃに撫でられつつ褒められて、駆は先程までの冷静な表情が嘘かの様に破顔し礼を言う。

 先までの駆のプレーを頭の中で流しながら、それを眺めるレオが思考する。

 

 

(……この試合の中で、プロとしてどう確立するかを見ていくつもりだったんだが。幾ら国内でプロの練習に参加をしていたとしても、ここでの圧とはまた別物だろうから)

 

 

 レオは駆の全部を知っている訳ではない。だから国内でプロの練習に参加しているかは予想に過ぎないが、仮に参加していても世界トップクラブのそれとは別物だというのは身をもって知っている。

 だが。

 

 

(完全に杞憂で余計なお世話だったな。駆は駆なりに答えを持っていた様だ。傑が見つけたエリアの騎士は規格外だな、本当に)

 

 

 苦笑し、同じくゴールを褒める為に駆へと近寄って行った。

 

 

 

 

*1
先発メンバーを多く入れ替えて控え選手を起用し、主力の選手を休ませる手段

*2
クリスティアーノ・ロナウドは過去5度のバロンドールを獲得しているが、そのうちの一つはマンUに所属している時





 ※これはフィクションです。実在する選手とは関係ありません。
 作中で実名出して自我を持たせると運営にコロコロされちゃうのであくまでモチーフにしたキャラだとお考えください。多分畜生クロースと名高きお方がここまで良い性格してない筈なので。
 原作に登場しない人物は出来るだけ書きたくはないですし、読者側的にもあまり良い印象は持たれないかもしれませんが……話を進める都合上は仕方ないと受け止めていただけると幸いです。

 アンケートによる結果は駆くんとセブンのイチャラブ(R-18 )が健全イチャラブより倍近くの投票が入っていました。
 総合評価1万を超えたら記念で投稿するつもりで執筆進めておきます。既に伏線は張ったからちゃんとストーリー性があるタイプのR-18です。

 R-18の短編別作品として投稿させて頂く形になりますので、本作品をお気に入りに登録していてもお気に入り小説リストでは更新されません。
 投稿してすぐを逃したくない場合はハーメルンのユーザーお気に入り登録をして活動報告をご覧頂くか、Xでの更新報告から閲覧する事をお勧めします。


 次回は掲示板形式の予定。
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