───悔しいが。
天才という奴は存在していて。自分では敵わないと思える奴は世界に何人も居て。
でもそれが心折れる理由になった事は無かった。
一番の理由は、そんな天才と一緒にプレー出来るんじゃないかという期待があったからだ。天才と言えどポジションは違っていて、それぞれの役割に振り分けられている。あの日、あの時。“天才”という奴に天狗だった鼻っ柱を叩き折られて、同時に心が躍ったのを覚えている。
あの天才───逢沢 傑という一つ下の男と、ユース昇格を蹴ってでも同じチームでサッカーをしてみたい。こいつが同じチームならば、どれだけ楽しいサッカーが出来るだろう。
でも。
こんな経験は初めてだ。
同じポジションで、だが決して体格に恵まれているとは言えない小柄なCF。天才の弟で、少し前まではマネージャーを希望していたっていう───厳しい言い方になるが、天才の兄に潰された臆病な腰抜けと認識して、眼中にも無かった存在。
そんな奴が試合に出ているのを見て、それだけ天才が求めるCFが今の鎌学に居ないのだと思い、やはり来て正解だったと確信して。
その自尊心を、粉々に砕かれた。
トップはJ1の上位クラブ横浜エルマーレスのユース世代。15歳までそこで培った経験や知識が全く通用しない。今の自分でもJ2のスタメンを張れるくらいの能力があると自負している。でもアレはそんなレベルじゃない。初めて横浜のトップを間近で見た時以上の衝撃が、この胸を貫いていた。
そして思う。
ああ、アイツが。王が求めていた騎士とは、
なるほど。確かに───アレにはなれない。
中学校が夏休みの間に行われる全国中学校サッカー大会。言わゆる全中の予選レギュラーを決める紅白戦が行われた一週間後。
スタメン、ベンチ含めてレギュラーが決定し、調整の為の練習試合が組まれた。
相手は鎌倉学館高等部。つまり中等部の完全上位互換と呼んでも良いチームとの対戦だ。
OBが偶に混ざりに来る程度ならばそれほど不思議な光景ではないだろう。中高一貫の学校での部活とはそういった事態は決して珍しくない。
だが、試合ともなれば話は別だ。個人競技、チーム競技に関わらず、能力・経験・精神全てが全くの別物だからだ。
例えば経験を積ませる為に高等部は控え、中等部はレギュラー。そんな構成ならばまだあり得る。だが今回の試合に至っては高等部もレギュラー、中等部もレギュラー。お互いに選抜されたメンバー同士で行う事になっていた。
部活動に於いて抜擢される監督が中・高で同一だからこそ、たった一週間でスムーズに組めたと言っても良い。だが高等部は高等部で
その点を言えば傑がいる以上は問題ない筈だ。年齢差はあっても中心人物となるのは間違いなくこの少年。ある程度は試合になっている“結果”は残す。
そう、残す。筈だったのだ。
だからこそ監督は一人一人の実力差がある高等部対中等部の練習試合を認めていたのに。
前半 後半 合計
高 2 - 0 - 2
中 0 - 0 - 0
前後半35分ハーフ───高等部は40分ハーフ、中等部は30分ハーフが基本なので間をとって───の試合の前半10分地点で、既に高等部が二得点。試合にもならない、とまでは言わないが、中等部の勢いが無さすぎる。
ボールがラインを割る度に話をしているので試合に集中できていない訳ではないだろう。となるとやはり集中力と身体能力の差が出ているのか。
戦術自体は決して劣っている訳じゃない。その辺りは傑の仕込みもあるのだろう。ハーフライン辺りでのボールキープは中々厳しく、出しどころは意外と塞がれていて雪崩れ込むような攻撃とまではならない。
だが一度中等部組のMFの密集地帯を抜けてしまえばあっさりとボールは入ってしまい、シュートまで持っていける。既に高等部クラスの実力はあるだろう国松でさえこの始末だ。
ピクピクとこめかみに青筋を浮かばせる熊谷監督。中立という立場上変に指示するつもりはないだろうが、『良い試合』になるならば兎も角ここまで『あっさり決められる展開』となると中等部に叱咤する気持ちも出てくるだろう。今は何とか堪えているが。
中等部のDF陣は深呼吸で息を整える。集中力だけはあるのだ。だが行動が一歩遅れているのは何故か。
そんな彼らの中に混じって同じく呼吸を繰り返す佐伯に、傑は話し掛けていた。
(……そーいや今日の傑はDFへの指示がねぇな。普段ならもっと声掛けしそうだが)
声の張りが攻撃の時にしかない傑。そんな事を思い出しながら地面をトントンと爪先で軽く蹴って彼らの会話が終わりリスタートするのを待っていると。
「───はい、守備に集中すれば……攻撃は任せます」
「分かった。駆はどうだ?」
「……うん、合わせられる。ただいつもより空くスペースが多いから」
「ああ、その辺りは俺がカバーに入る。取り敢えず一点だ。そこから話した通りの陣形で」
「うん」
何とか一点、とか。一点取れたら作戦通りに、とか。そんな風に話すならまぐれでも何でも一点は取りたいという気持ちの表れにも思える。
だが当然のように一点を取るつもりで話している様子を見て、最前線でリスタートを待つ高等部の一年ながらにレギュラーの座を奪ったCF───鷹匠は訝しげに傑を見つめる。
こう言ってはなんだが、ユースに比べると間違いなく劣っている。だが県内の高校部活チームでは間違いなく強い部類に入る鎌学だ。幾ら現段階でフル代表級だなんて言われている傑でも、周りが中等部レベルでは難しいだろう。
そんな視線を感じ取ったのだろう。傑はそれに気付いたように鷹匠に視線を向けて、そして笑みを浮かべる。普段見るようなサッカーを心底楽しんでいる笑顔ではなく、少し嘲笑気味な笑顔。「よく見ておけ」とでも言いたげな笑みを鷹匠に向けていた。
やがて試合はリスタートし、ボールは傑へと渡る。と同時に駆はダッシュ。鷹匠の裏で即座にボールを貰ってドリブルを開始した。
フリーの中盤であそこまであっさりとパスをする傑は珍しい。そう思いつつ鷹匠がカウンターに備えて前線を張っている間に、駆はドリブルで一人を躱していた。
別に何も難しいテクニックは使っていない。気質的には傑に似ているだろう。かつて受けたレッスンを反芻しているだけだ。
人間の目は一点を見ているようで実際は広い範囲を同時に見ている。DFはボールを狙いつつも、体の動きや視線でフェイントに備えている。近づけば視野は狭くなり、そこにスキが出来るから、ボール・目の動き・重心移動。そのどれかしか見えない距離まで引きつけたのなら、それを利用して相手の考えを突けば良いだけ。
傑と違う点と言えば、脚に吸い付く様な無数のボールタッチが無い事だろうか。圧倒的なまでのテクニックとは言わないが、ボールではなく相手の動きを見るルックアップの意識と、相手が何処を見ているのかがよく分かる目の良さがあるから、駆のテクニックでも抜き去る事が出来る。
中等部レベルで高等部の生徒を躱すのは流石傑の弟か。そんな事をボンヤリと考えながら鷹匠は前線で彼の動きを見つめていた。
駆のドリブル突破に対して高等部組はカバーを入れる。躱されたMFは後ろから追いかけて挟み込む様な形でボールを奪いに掛かる。
駆は視線を右に向けながらアウトステップでボールを右に移動。やはり中等部か。焦ってる証拠の現れの様だ。先程は出来ていた筈の引き付けて躱す事をしておらず、まだ距離のある状態からドリブル突破を図ってる。
これは奪ってカウンター───そんな思考を両断する様に、駆はエラシコで切り返し、そのままパスをした。
右へと意識を持っていく事で、距離のある状態でも意識が薄い方を突いたのだ。これならばリスクが小さい上に味方に渡ればリターンが大きい。そしてあそこまで出来る奴が何も見ずパスをしている筈が無い。
ボールは傑へと向かう。それと同時に素早いチェック。傑には常にマンマークが付いている。簡単にボールキープはさせない。傑はそのままボールに向かい、自陣が整うまで突破を遅らせる為に少し距離を置きながら簡単に躱されない様にしている相手DFをトラップと同時に抜き去る───なんて事はなかった。
だがトラップの際に前に出した左脚を
とは言えある程度距離を保っているからそう簡単には抜きされない。だが幅広く確保されたスペースからはパスコースが生まれ、それを理解したDFは思考する。
このタイミングで受け取れるストライカーが中等部にいる筈がない。ともすればパスを囮にドリブルで抜こうとしているだけだ。つまりパスをしようとするこの動作はあくまでフェイント。
流れる様にパス体勢に入っている傑を見て反射的にそう考えたDFはパスコースを塞ぎに掛かるのをやめて、ドリブルできた時に対応できる様に再び距離を保つ。
だが。
「ふ……っ!」
一息。口から空気が漏れ出た様な呼吸一つと共に、傑の左脚からパスが繰り出される。
インフロントキックでカーブ気味に出されたボールはいつの間にかDFラインの裏を抜け出していた駆に渡り。軽く押し出されたボールはキーパーの股を抜けていき、静かにゴールネットを揺らした。
抜け出されていた事実に脚が止まるDFと、あっさりと決められた事実に呆然とするGK。軽くガッツポーズをする駆は直ぐにボールを持ってセンターサークルへと戻り、相手が早くリスタートできる様に置く。
……まあ、DFが油断していたというのもあるだろう。自分でもあの場面なら絶対に決められる。とは言えあそこまで綺麗に決められるなんてな、と。そんな思考を浮かべながら駆を見つめる鷹匠は、センターサークル内に入ってボールの近くに立つと同時に味方の方を見渡した。
今の一点で気が引き締まったか。全員が真剣な顔をしており、もう一点もやるつもりはなさそうだ。
軽い調整のつもりだったがやはり傑が居る以上はそんな油断もしていられない。そうして強く集中し始める見方を見て、鷹匠はこれなら自分も攻撃に専念して大丈夫そうだと、寄ってきたもう一人にパスをして試合を再開する。
と、同時に。
「……!」
先程点を決めた駆が即座にチェックに行く。前衛守備にしても、味方も相手もどっちも陣形が完璧に整ってるリスタート直後だ。今のタイミングで厳しく行っても軽く躱されるだけだろう。
それはフィールド内での共通認識。だが鷹匠からパスを貰った選手は少しの躊躇いの後、後ろを向いてバックパスをする。
普通ならばサイドに開いてそこから攻撃を組み立てていくべきだ。今の選択では一度無駄な“逃げ”を挟むから、攻撃に移行するまでに相手にマークの余裕を与えてしまう。要するにボールが取られやすくなる可能性が高まるのだ。
それは当人も理解してるだろう。ならば何故あの選択を取ったのか。
先程駆がプレスに向かった相手は、駆がドリブルで躱したMFの選手だ。
傑にやられるならばまだしも、まだ未熟な年代である中等部二年の無名のCFにあっさりと躱された事により、もしかしたらDFも上手くて取られるのでは無いか。鎌学でレギュラーを張っているという自信があるからこそ、あそこまで簡単に躱されては思考がネガティブになる。
かつて、遥か未来の記憶。最後のレッスンで兄から学んだものを実体験して、その影響を強く感じ取った。
駆は決して深追いはせず、マンマークに付くかの様に先程バックパスをしたMFの近くで待機する。高等部的にはボールを渡せないほどの距離という訳ではなく、寧ろ渡ればすぐに前線へと放り込める状態だ。だが駆が近くにいるという事実そのものが選択肢を狭めて、この場面でパスを要求することが出来ない。
しかも、サイドの選手が完全に塞がれている。今のバックパスの瞬間に即座にマンマークがついた。
鎌学が得意とするトマホーク戦術。言わば直線加速カウンターは、必ずしも直線攻撃だけで成り立っている訳じゃ無い。真ん中に有能な選手を集めてはいても、まずはサイドが機能しないと真ん中を手薄に出来ないから、3-6-1という変則的なフォーメーションをしていても普段の流れは単純にサッカーをしているだけだと考えて良い。
だが早めの段階から真ん中を切り捨てる様にサイドにマンマークをつかせている。と言っても真ん中も切り捨てるわけではなく、得点を決めた駆という能力が未知数の少年がいる為、迂闊に出せない。
それならばそれで良い。
鎌学が鍛えたトマホークのルートは一つでは無い。ボールホルダーは駆がマンマーク気味に寄せているMFから視線を外して最前線へと目を向ける。
まだリスタートしてそれほど経っていないからエリア付近までは届いていないが、パスを受けられる様にポストプレーの準備をしている鷹匠が目に入り、一気にパスを放り込もうとロングパスの体勢。それを察知した様に駆が近寄るが、ボールを身体に当てるには遅い飛び出しだ。ボールは蹴られ、鷹匠に向かう。
「今!」
それと同時に佐伯が声を上げる。声に反応して寄ったのは国松。体格の優れた鷹匠に対して中等部の中では能力が高い国松を当てるのは確かに正解だ。
だがそれだけではなくもう一人DFが寄っており、競り合いに人数を掛けている。そう判断した鷹匠は手で間合いを図りつつ、跳躍してボールを受け取ろうとする。が。
(飛んでねぇ、な)
競り合いに来たのは国松一人。もう一人のDFはトラップしたボールを狙おうとあくまで近くで待っている。とは言え鷹匠はユース出身。状況判断能力は非常に高く、その際に慌てる事はない。
(届きにくい場所で直ぐにシュートを打てる───)
自身の柔軟性とフィジカルの高さを理解しているから、例え国松が競り合おうともある程度は自分の自由にできる事が分かっている。故に慌てない。胸トラップで前を向いて即座に打てる位置にボールを置く為、身体を捻り。
「なっ……」
「よし!」
落としたボールは、地面に着く前に佐伯に回収された。距離が離れていたから様子を見ながら奪取なんて真似は出来ない。つまり鷹匠にボールが向かった瞬間に一直線にこの場所に向かったという事か。
いや、DFの位置も妙だったと、鷹匠は今になって気付く。つまりこれは。
(誘導されたか、クソっ! 傑以外にここまで予測能力が高い奴が居たのか……)
鷹匠は直ぐにチェックへ向かうが、佐伯はノールックで傑にボールを渡す。ボランチからトップ下への直線パス。
前線から味方陣内を見渡せるから、鷹匠は味方DFの光景を見て思わず声を張り上げた。
「っ、DF! マーク外れてるぞ!!」
その声に反応したDFがハッとして辺りを見渡すと、傑がパスを出すと同時にオフサイドラインから出ずにDFの視界から外れていた駆が抜け出し、あっという間にペナルティエリア内に侵入した。
トマホーク戦術は本来カウンターだ。先程のはあくまでポストプレーを介した組み立てに過ぎない。だがたった今、中等部の行った戦術は紛れもなくトマホークでのカウンター。佐伯が奪い、縦にいる傑に即座に渡し、そこから前線へと一気に渡る。
熊谷監督は中等部にそこまでの戦術を教えていない。というのも、これは前線で決定的な仕事を出来るFWが居てこそ成り立つカウンター攻撃だからだ。圧倒的な個。それがトマホーク戦術に求められる最低条件。
故に教えられていない。教えられる選手が居なかった。でも縦突破という単純な攻撃だからこそ、見様見真似で再現できて、最速にダメージを与えられる。
先程は油断もあった。だが今は油断していない。キーパーが飛び出てコースを塞ぎに掛かる。鷹匠ならばパスを受け取ったと同時に打ってコースが塞がれる前に決めに掛かるだろう。これならば優位にあるのはキーパーだ。
決定的なチャンスだが、これでは決められない可能性が高い。鷹匠は己に重ね合わせてそう考えたが───。
「……っ!」
一度、右斜めに切り込んだ。これでは更にシュートコースを狭めるだけだ。躱せたのならばまだ可能性はあったが、シュートモーションに入っていないのを理解してキーパーは追い込みを掛けている。味方が来るまで粘るか、或いは強引に躱しに掛かるか。
そんな考えを過ぎらせ。
いつの間にか駆の足下から離れ、ゴールに吸い込まれていくボールを見て、思わず口を小さく開いて愕然とした。
あまりに自然なボールタッチ。真正面にいるキーパーから見えない角度で、完璧なタイミングで押し出されたボールは、キーパーの横を通り抜けてゴールラインを超えた。
僅か5分で二得点。あっという間の同点だ。
そこからまたリスタートして、前半残り20分。今の中等部に決定的なカウンター攻撃がある以上は迂闊に攻め入る事も出来ず、高等部ならではの技術でポゼッションサッカーを行っていたが、いざという場面で現れる佐伯に幾度となく奪われ、意地で鷹匠が一得点を奪ったものの、その後駆と傑に一点ずつ決められて高等部3点、中等部4点の中等部がリードする形で前半を終えた。
ハーフタイム。レギュラーの先輩組が試合を外から眺めていた控えの人達も混ぜて話し合いをしている中で、鷹匠はスポーツドリンクの入ったランニングボトルを片手に地面を見つめている。
話は耳を通り頭に入っているが、積極的に話し合いに参加しない。先輩たちだから気が引けるとかユース蹴って入ったから気不味いとかでは無く、純粋に他に気を取られていると言ったところだろう。
後半からのフォーメーションについて話し合っている選手達の耳に、足音が届く。数名ビクリと肩を震わせ恐る恐る振り向くと、其処には熊谷監督の姿があった。
中等部にリードされている現状。中等部1点目の気の緩み。個人で言えばもっとあるだろうが、チーム全体で見てこの二つを主な理由として怒られる理由として成立するのだ。
不甲斐ない現状では怒られても仕方がない。そう思いながらも顔を上げて熊谷監督に視線が集まる。
熊谷監督の表情は非常に静かだった。
「……中等部の動きを見て、どう思った?」
「───中央二人の二年が突出してますね」
「ほう。具体的にどの辺りだ? 詳しく振り返ってみろ」
「傑もヤバいですが、アイツの全力パスに追いつけるFWって点で既に抜け出しの質が違います。マークに付いてて思いましたが、こう、なんつーか……目が良いんですかね? 意識の隙を突かれるというか、少し目を離した瞬間に
「なるほど。ではもう一人……佐伯については?」
インターセプト、ボール奪取、ボール保持のテクニック。シュートを打てるという瞬間にボールを奪われてしまう。未来でも見ているかの様な動きが厄介。
身体能力の差をものともせずに攻撃を悉く塞いでいる。挙げればキリがないだろう。それだけ重要な役割を担っているのは間違いないが、それ以上に一つ。
佐伯と特にマッチアップする機会の多いトップ下の選手がその答えを出す。
「守備の統率です。例えばある程度範囲を絞ってこの位置に来たらボールを奪う……そんな“嵌め”ならばまだ理解は出来るんですが……佐伯でしたっけ? 彼の場合、誰がボールホルダーだったとしても、必ずボールカットを可能にする位置を取っています。で、それを可能にしているのが」
「駆の前衛守備。前半残り20分からのポゼッションサッカーはそれを観察する為のモノだったな? それならば良い。無意味に回しているならば私はお前たちを絞めていた」
「……」
高等部のレギュラー組が中等部相手にリードされているという情けない展開だろうにあまりキレていない様子だ。かなり頑固な性格をしているこの監督がそこまで言うという事は、少なくとも拮抗するのは想定していたという事だろう。
「あの二年のFWのこと、知ってたんですか?」
「ああ。以前傑に二日連続で紅白戦をしたという報告を受けた時に、一日目は兎も角、二日目の結果が飛び抜けていてな。で、この練習試合をしたいという申し出を受けた後に一度中等部の練習に赴いた。1日だけならマグレかとも思ったが……正直腰を抜かす様な思いだったとも」
石川や西島でも傑が完璧なタイミングで出せば決められる可能性はあるだろう。だが間違いなく現状の様な大量得点なんて展開にはならない。チーム全体の能力的にも、試合になるかさえ怪しい。
だから最初に聞いた時は練習試合など組むつもりはなかったが、紅白戦のデータもあって練習を見てから判断しようとした。
結果視界に映ったのは、3対5のオフェンスが数的不利の練習の中で傑の全力のパスにあっさりと追いつき、“左脚”で決め切る駆の姿だった。
まして一回なんてモノじゃない。オフェンスに限らず、ディフェンスの時にさえ良い動きをするのだ。そんなFW……傑のレベルに着いていける選手がもう一人いるのなら、必ず試合にはなるだろうと。そう判断した。
だからこそ情けなかった前半10分の動きに怒鳴りそうになっていたのだが。
「さて、ハーフタイムは10分もある。しっかりと話し合って対策を立てろ」
「「はい!!」」
ホワイトボードにマグネットを貼り動きの流れを振り返る。そんな選手たちのやり取りを、鷹匠は少し離れた位置から見ている。
そんな鷹匠を見て熊谷監督は近付き、話しかけていた。
「鷹匠」
「監督……」
「今の駆は、傑が求めていたストライカーの完成形と言っても良い。FWとしての能力が非常に高い。傑のパスを受けようと鎌学に来たお前にとってはこの上ない衝撃だろう」
中等部のベンチに視線を向ける。
莫大な集中力と位置を常々佐伯に合わせて変えていくという運動能力の要求で、DF陣を主にして呼吸を繰り返し、大量の汗をタオルで拭いている。
今回の試合は一度交代した選手は戻れないという縛りがあるだけで無限交代制だ。国松にはまだ余裕が見えるが、他の選手は交代するだろう。
恐らく彼らと変わらないくらいか、寧ろ前線から追いかけ回し、ポジショニングも考えて行ってる以上もっと多くの集中力と運動量を要求される駆は、前半終了した辺りでは呼吸を繰り返していたが、今はもう整えて汗もそれほど出ていない。
体力も並外れている。
「……そうっすね」
そんな事実を見つめながら、鷹匠は熊谷監督の言葉に返事をする。
「ユースから来たという自負も、自分ならば傑のパスを受けれるという自信も、自分以上のFWは同世代に居ないという
鷹匠は自嘲する笑みで続きを紡いだ。
「───俺は、アレになれる気はしないっすね」
「そうか」
熊谷監督は頷き一つ。
「だが」
そして、そんな風に自嘲する彼を真剣な目で捉える。
「お前がそれで心折れる選手ではないと、私は知っている」
「……ふっ。珍しいっすね、監督。いつもは怒鳴るくらいなのに、今日はやけに饒舌だ」
「柄にもなくテンションが高いのは自覚している」
「あー、なんて言えば良いか……アイツの求めていたエリアの騎士ってのが、自分には到底なり得ない存在だって知って、吹っ切れた部分があるんすよね。求めてたって事は、存在を既知してた。元々駆がなるのを期待してたって感じだ」
鷹匠は自嘲的な笑みから好戦的な笑みへと切り替わる。
同じ体勢で居たから固まった身体を解すように、ランニングボトルを地面に置いてストレッチをしながら続きを紡いだ。
「じゃあ、なるしかないっすよね。傑が求め
心は折れない。
騎士の本懐を知り、本命を見て、吹っ切れたから。
これには敵わないと理解して、でも決して全てが劣っている訳ではないと理解して。ならば求めていなかった騎士の在り方で傑に求めさせようと決意できたから。
何せ。
「エリアの騎士が一人だなんて、誰が決めた話だ。それを傑に突きつけてやります」
ご報告です。
というか出来たら良いなぁという呟きみたいなモノです。
今回からこの作品の投稿を土曜日朝6時の定期更新にしていきたいと思っています。ぶっちゃけ出来るかどうかは怪しいですが、可能な限り頑張ります。
エリアの騎士のアニメが土曜朝6時からだったというのもありますが、不定期更新だとダラダラ長引かせて投稿しなくなる可能性が高いので、ある程度自分に縛りというか制約があれば執筆できるかなぁという甘めの考えです。
一週間という長めの空きになりますが、大体一話8,000〜10,000文字辺りを目安に投稿していくつもりですので、ご了承の方をお願いします。
文字数に関しては話ごとにまばらになると思いますのでかなり適当な目安ですが。