ピッチの王様とエリアの騎士   作:現魅 永純

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>>江ノ島のループのやつはドルトムント時代の香川選手のやつですよね?
→ですです。香川やメッシがやっていたような斜めから対角線のネットを揺らす様なビューティフルゴール。初めて観た時の衝撃が凄まじくて、「美しいゴールを表現するならばコレ!」ってなっちゃうんですよね。


 1ヶ月お待たせしました!
 予定通り今回から鎌学 対 蹴学の試合となります。予定だと今話を合わせて3話になると思いますが……ちょっと伸びる可能性はあります。構成は出来てるけど執筆が出来てないので断言は出来ません。



44話『エンターテインメント』

 

 

 

 

 

 

 

 ガヤガヤと騒がしい会場。

 席が埋め尽くされていると言ってもいい鎌倉学館応援席の、その一部。近くに座る人達はまだ選手のいないピッチ上ではなく、そこに注目を集めていた。

 既にプロ契約が発表されている鎌倉学館高等部3年の鷹匠 瑛と、同じく2年の逢沢 傑。低い年代から代表に選ばれてきた2人の存在は非常に目立ち、やはり選手権に出たかったのではないかと噂される。

 

 そんな周りの状況を気にする素ぶりは見せず、2人は話し合っていた。

 

 

「お前はどう見る、傑?」

「……忖度無しで言えば、8割くらいは蹴学が優勢でしょうね」

「はは、遠慮ねぇな」

「普通に進めばトップ昇格が望めたユース生に、海外の代表級。そして欧州の監督……今までにないレベルでタレント揃いですから。高校というよりはクラブユースに近いチームですし、高校年代の世代別ならそのまま全員が代表に選ばれてもおかしくない。まあ普通に考えれば蹴学有利は揺るぎないでしょう」

総体(インハイ)の時は向こうの攻撃レーンが左に集中してたから、まだやりやすかったがなぁ。……今どんな気分だ?」

「こんな事ならエルマーレスに拘らずに契約を伸ばせばよかった。まさかレオが高校の大会に参加するとは思ってなかったんで……」

「正直だなオイ」

「今日は完全プライベートですから」

 

 

 プロを目指し、散っていく選手も多い。そんな中で代表を約束された天才であり、高校在籍中に国内トップリーグ上位チームとのプロ契約さえ結んだ人間が「高校サッカー残りたかったな」は、聞く人が聞けばブチギレてもおかしく無い。

 流石に公の場では言いませんよと身振りして伝えてはいるが、一応他人の視線もある。あまり大胆な発言は拾われかねない。

 

 傑も自分の立場はよく理解しているから、それだけ今の『鎌学 対 蹴学』という試合に価値がある認識なのだろうが。鷹匠はそう苦笑する。

 

 

「鎌学が勝つにはどうする?」

「……鷹匠(タカ)さんはどう思いますか?」

「そうだな……蹴学のレベルを考えれば、()()()ってのは完璧にやってくるだろ。そうなると重要なのは祐介。良い形でエリア外からのミドルレンジを狙い続けるってところか」

「それも悪くはないっすね」

「お前は違う考えか?」

「駆がレアルで何を学んできたか。それ次第では実力が五分五分になると思います」

「……ファイナル*1でのプレーは万全じゃなかったって事か?」

「いや、あの時に出来る万全は出していましたよ。怪我のリスクがない限り公式戦で駆が手を抜く事はありませんから」

「お前じゃなく祐介となら出来ること……」

「……祐介ってよりも───」

 

 

 そこまで口に出すと、会場が一気に盛り上がりを見せる。選手が入場してきたからだ。

 解説をしている人物の選手紹介が流れ始めると、傑は笑みを一つ溢して鷹匠に言う。

 

 

「ま、あくまでも俺の推測です。どうせこの90分で結果は出ますから、楽しんで観戦しましょう」

「……だな」

 

 

 鎌学の選手紹介を終え、続いて蹴学。フォーメーションは4-2-1-3。基本に則りGKからの情報開示。CB、SB、ボランチと続くが、トップ下を跨いで3トップを先に。左ウィングの四季、右ウィングの風巻、CFのジェンパ。

 そして───

 

 

『トップ下はこの人、この冬の大会に限り参戦する特例選手! 高校という舞台に世界を見せつけるブラジルの至宝! レオナルド・シルバ!!

 

 

 総体には参加出来なかった逢沢 駆の紹介の瞬間を超える大歓声。ブラジルというサッカー大国の至宝とまで言われた若き天才の、その存在感。

 片手を挙げて歓声に応えるレオに、更に歓声は大きくなる。ビリビリと会場が揺れる様な錯覚さえ覚える中で、傑はレオを見つめながら鷹匠に話し掛けた。

 

 

鷹匠(タカ)さん、俺はさっき駆次第で実力は五分五分って言いましたけど、()()()()()()()()()()鎌学の勝率が大きく変わると思います」

「最初の結果?」

「蹴学はシチュエーションを限定した上で駆にワザと打たせてきます。これは推測ではなく確信だ。レオなら必ずそうする。これが決まれば鎌学の勝率は高くなるでしょう」

 

 

 

♢♦︎♢

 

 

 

 大きく笛が鳴る。キックオフの合図だ。

 蹴学ボールでスタートすると、即座にレオへとボールが渡る。駆は外に開き、フォアチェックは2トップの片翼である西島がいく。

 簡単に躱し、続いてトップ下の生島も簡単に剥がしてボールは風巻へ。

 

 試合開始直後の()()()プレーに、観客は湧き上がる。準決勝までの蹴学は鎌学同様、淀みないパスワークを主体にプレーしていた。恐らくチームとしての課題だったから。レオナルド・シルバを象徴する突破能力を初めて現地観戦してが故の高揚が会場に広がる。

 とはいえ、予想外はあくまでも観戦者。事前情報でレオのやり方をある程度把握していた佐伯の“予知”の範疇を超える事はなく、動揺を見せずにDF陣は対応していた。

 

 前後から風巻を挟み撃ちする形。且つジェンパへのパスルートは消しており、単独突破と前線へのパスを封じた前への推進が厳しい状態。

 

 

「マッキー、一度戻せ!」

 

 

 レオの指示に従い、即座に後方へ。スペースに出されスピードに乗りやすいパスだが───

 

 

「……っ!」

(直接の対決は初めてだが、流石傑の後輩クン。彼と傑の揃った鎌学に夏の大会(インターハイ)では負けたのも頷ける)

 

 

 スピードに乗せない様に身体の向いている方向を佐伯が的確に塞ぐ。ボール奪取出来るのが理想だが、パススピードからしてインターセプトは不可能。下手にトラップのタイミングを狙えば躱される事を察知。

 予知、把握、迷いのなさ。代表経験がアジア内だけとは思えない程に優れた思考能力。自由には動けないと判断させる動きに、レオは思わず舌を巻いた。

 

 

(リターンは論外、パティは塞がれていル。ショータ*2に預けて組み立てるのも一つ───と、()()()()()()()()()()()()()

 

 

 状況から導き出される選択肢を浮かべながら、佐伯に向かってボールを蹴り出す。

 足下に吸い付かせ、ルーレットで位置を入れ替えた。

 

 

(ここは攻撃的に行かせて貰おう)

 

 

 佐伯を躱し、視界を広げる。即座に鎌学右WBの選手がカバーに来ているのを把握し、それ故に空いている選手───蹴学左ウィングの四季へとサイドチェンジのパスを出した。

 

 

(今までならパスコースを塞げば遅らせられたのだろう。でもボクからしたら剥がしてコースを作り出せば良いだけだ。慌ててカバーに行くならばボクは彼の視界から外れる。その瞬間にボクはフリーに───)

 

 

 ()()()()()()()なるであろうこの後の佐伯の行動を一瞬で予測してエリア内でパスを受けるために移動を開始する。それと同時に佐伯の視野の方向を把握しようと視線を動かし。

 一瞥も自陣ゴールへと視線を向けず、彼は前線へと走り始めていた。

 

 

(な……っ)

 

 

 血迷ったのか。

 或いは、攻撃に移る事が出来る確信を持ったが故の行動か。

 

 ともすれば、と。そうパスの行き先に視線を再度動かし。サイドライン際の外側から四季に近づく存在を目に剥いた。

 

 

(駆、いつの間にあんな位置に!?)

 

 

 通常、FWの守備は前線───つまり相手DFへのプレッシャーが主となる。カウンターで守備人数が足りない時などやむを得ず自陣エリア付近まで戻る事はあるが、だとしても普通は中央を固めにいく。

 今のシチュエーションで言えばWBが釣られたとは言えCBが残っている。守備に戻るにしても中央一直線で中への切り込みを警戒すべきなのだ。

 

 そこを敢えて外から。

 まして前線守備に留めるべきのCFを寄せに行かせたということは。

 

 

(……ここまで込みの予知ということか!)

 

 

 一瞬前に流れた身体にブレーキをかけて守備に戻り始める。四季がボールキープ出来ることを考えて行動するべきなのだろうが、佐伯に先手を打たれれば予定していたプランが機能しない可能性が高い。

 何より四季は、左側が弱点。

 

 

「真剣勝負なので遠慮はしません!」

「……!」

 

 

 予め外から来ていることが分かっていれば感覚で躱せただろうが、中をがら空きにするDFはそういない。駆が意図的にレオの視界から外れて動いていたこともあり、指示を出せる選手はいなかった。

 トラップと同時に駆は詰め寄り、その並外れた集中力でボールを奪い取った。

 

 即座に身体を前に向ける。四季は佐伯へのパスコースを遮断しようと即座にプレッシャーを掛けるが、駆はヒールパスでCBに預け右サイドを上がっていく。

 

 

(流石に四季さんの間合いで急いたパスは出せない)

(こいつ……)

 

 

 四季の死角である左側を突いてきた。それはまだいい。自らの口から公言していないだけで、気付いているチームは多いだろう。油断を突くのと同じだ。それだけのハンデを背負うことを納得した上でプレーしているから文句はない。

 問題はそこではなく。

 

 

(俺のプレーを『感覚で知っている』ようなディフェンスを?)

 

 

 左目が見えないという情報を得たチームはこぞって四季の左側に執着する。こうして奪われることも決して初めてという訳ではない。しかし弱点を補うほどの超人的な感覚を有している四季は、獲られた直後ならば即座に奪い返すか、もしくは時間を稼ぐ身体の寄せ方が出来る。

 それをあっさりと回避した。それは上手さ故というよりも、既知であるが故の反射的行動に見えた。

 

 

(こっちのキックオフで始まった以上は蹴学のファーストシュートで終わりたかったが……仕方ない。守備の陣形は出来てるし、この後は一先ずレオのプランを遂行しよう)

 

 

 四季は前線に揃う風巻とジェンパに指示を出し、鎌学のCB付近で待機。

 佐伯は後方の状態を把握して蹴学の仕掛けに気付いたが、寧ろ好都合だと判断しプレーを続行。CBから受けたボールを西島に預け自分は左斜めに。西島からのリターンを受けると、前のスペースをレオが封じてくる。

 

 

(……詰めてこないってことは予知は間違いないな。さっきのでシルバがもうちょい遅れてくれれば俺の動き次第でカウンターが刺さってただろうけど、ここまで整えられたら乗るしかない)

 

 

 周りの選手には殆どマークが付いている。ここからポゼッションも可能だろうが、CB陣が張り付かれている現状。オールコートでマンツーマンを仕掛けられている以上は、中盤で刈り取られるのは命取りになる。

 じわじわと左側に運びつつ、右サイドを駆け上がった存在を目に映してアウトサイドキックで西島に再びパス。

 

 

(落としでリターンだ西島)

 

 

 それと同時にハンドサインで落としを要求。身体でマークに来ている選手を抑えつつ、要求通りに自陣に向かって弱くダイレクトパス。そこに佐伯が走り込み、ダイレクトパスで最前線にボールを送った。

 

 

(蹴学の思惑に乗るのは癪だが、チャンスはチャンスだ。頼むぞ駆───ッ)

 

 

 エリア付近で待ち構える駆にボールが向かう。

 駆は後ろの状況を把握して素早く身体を反転。ボールの直線上に右脚を起きながら真正面を見据えた。

 目の前にはリカルド・ベルナルディ。詰めてはこないが、絶妙な間合いで重心がブレずに構えている。これではラン・ウィズ・ザ・ボールを仕掛けた瞬間に反応してくるだろう。

 

 

(これは……)

 

 

 また、ボールが来る前にルックアップで確認していた周囲の状況からしてパスを出せる相手もいない。正真正銘のDFとの1対1を作り上げられている。

 駆は現状を理解し、足下にボールを収めた。じわじわと足から決してボールを離さないようにドリブルを進め、エリア内へと入り込んだ。

 

 瞬間、歓声が湧き上がる。

 ワールドクラスの1対1。盛り上がらない筈が無い。だがその声が耳に入らないほどに向かい合う二人の集中力は高まっていた。

 

 

 

 

 

 

「敢えて(カレ)に渡して1対1の状況を作り出す?」

「ああ。もちろんそれ以降は“対策”に徹してもらうけどネ」

 

 

 試合前日。鎌学相手のミーティングを終えた一室にて、レオとベルナルディが話し合う。

 怪訝そうな表情を向けるベルナルディに微笑みながらレオは言葉を続けた。

 

 

「1対1で絶対的な決定力を誇る駆が絶好のシチュエーションでさえも決めれなかったと思わせるメリットは大きイ。それはキミも分かっているだろ?」

「……まあ、違いないな」

「他のチーム相手ならまだしも、我々を相手にするとなれば駆の存在は精神的支柱だからナ。駆にさえ渡せば、という勢いも竦む」

 

 

 モチロン監督の許可は取ってあるヨ、と。表情崩れないままそう告げるレオに、ベルナルディは険しい顔で脳内のシミュレーションを繰り返す。

 

 

「……レオ、本当の目的は?」

「何の事だイ?」

「お前も分かっている筈だ。恐らく今回の試合は硬い展開が続く。点の取り合いではなく、1点をどちらが先に取るかが重要になる。いつも以上にな」

「まあ、否定は出来ないかナ。今の蹴学の攻撃力でも鎌学の壁を超えるのは簡単にはいかないだろう」

「そして、カケル・アイザワとマトモに向き合えば……止めれるかどうかは五分五分だろう。仕掛けるならば確かに試合序盤だが、それだけのリスクを冒すには先述の理由だけだと物足りない」

 

 

 蹴学の監督は駆の能力を過小評価しており、リカルド・ベルナルディという選手の能力を過大評価している。予め決めていた“対策”に関しては実行に問題ないと断言出来るが、純粋な1対1では決められる可能性は極めて高いと言えるだろう。

 ネガティブな思考ではなく、客観的に考えた上での結論。睨み付けるように問い掛けたベルナルディに対して、レオは笑みを深めて答えた。

 

 

「良かったヨ、二つ返事で了承したら取り下げるつもりだっタ。その返事が出たという事は、正しくイメージが出来たのだろう」

「……」

「簡単に言えば……キミに“世界”を経験させたい」

「なに?」

「キミは同年代の中では世界の中でもトップクラスのDFダ。それは決して揺るぎなイ。だがプロという観点から見れば経験不足の若手の域を出ないだろう。モチロン、これはボクや駆も例外ではないけどネ」

 

 

 だが、と。深めた笑みを消して真剣な眼差しをベルナルディに向けながら言葉を紡ぐ。

 

 

「キミと違う点として、ボクらは練習とはいえ既に最高峰のクラブを経験していル。そして駆はマドリーのレギュラーCBを相手にして、真正面から決めているんだ」

「……!」

「今の時点で最高峰のトッププロを相手に決めれる実力を体感出来る絶好の機会。キミにとっては大きな経験となる」

 

 

 

 

 

 

(φトリック───は、位置的に無理だ。パスコースもない。完全に1対1に持ち込まれている)

 

 

 自分の取れる選択肢を厳選しつつ、隙を伺う。

 しかし時間を掛けて集中力を深め過ぎれば流石に他DFが詰め寄ってくるだろう。ベルナルディに向かい合っている今、それを躱す事は出来ない。

 相手が後手を選択したと判断し、駆が動く。

 

 左脚のアウトフロントでボールを撫でるように左側に動かす。

 

 

(右脚が浮かび始めている、フェイクの可能性はない!)

 

 

 左脚が地面に着くと同時に素早く右脚が移動し、ボール横に軸が作り上げられる。

 それを見抜いたベルナルディが『左脚のシュートである』と確信して巨躯に似合わぬ俊敏さでコースを塞いだ。

 

 駆の左脚で最も警戒すべきは反射的なブロックでは追い付けない『超速の振り』によるシュート。コース変動が可能なホイップキックとの併用で、駆は数多のDFを相手にしながらもゴールを沈めてきた。

 だがこれを暴く術がある。自分になら出来る、と。ベルナルディは確信していた。

 

 まず前提として、『超速の振り』は極限まで予備動作を縮めた基礎的なシュートである。軸足の踏み込みと同時にスイングを完成させ、振るう力を込めるのは膝から上。力の伝わりが短い分振るう早さも増し、膝下はインパクトの瞬間まで力を入れずに流れに任せる。

 軸を整えてインパクトの瞬間に力を込める。そんな基礎的なキックを発展させたのが『超速の振り』のカラクリ*3

 

 つまり、あらゆる動作が極端に早いのだ。故にシュートコースはストレートに限定され、このモーションが完成されたと同時にホイップキックの可能性は消滅する為、軸足とスイングの状態を瞬時に見抜ければ止める事が可能。と、ベルナルディは判断。

 ───決して、間違ってはいないが。

 

 

(……決めれるっ)

 

 

 一つ注意しなくてはいけない点として、踏み込みと同時にスイングが完成されている=超速の振り、とは限らない事が挙げられる。

 踏み込みと同時にスイングを完成させるのは、あくまでキックモーションに至るまでの過程を省略しているだけ。予備動作が少ないからといって超速の振りである事が確定された訳ではない。

 極限まで高まった集中力が鋭敏に予備動作の少なさを見抜いてしまったが故に、ベルナルディは駆との駆け引きに負けた。

 

 基礎的なシュート体勢から僅かに横倒し。脚に込められた力を流し、キックの支点は膝ではなく全体へ。

 タイミングをズラし、軌道変更した上でホイップキックのモーションが完成する。

 

 放たれたボールはベルナルディの脚の間をすり抜けてニアへと向かい。

 轟音を響かせながらポストに弾かれ、()()()()流れた。

 

 

『きょ、強烈ぅ! この試合のファーストシュートは鎌学! 日本の怪物とまで言われる逢沢 駆のロケット弾! ヒヤリとしたが運良く外れてくれ───っとぉ?』

 

 

 蹴学の応援席からの実況は途切れ、その視線は副審へと向けられている。

 そんな彼が手に持つフラッグはゴールエリアではなくコーナーに向けられている。

 

 

『どうやらリッキー、ギリギリでシュートコースに割り込んだ様だ! 手に汗握る駆け引きを演じてくれるぜ!』

 

 

 ディフレクションした上でラインを割った為、コーナーキックの判定。

 歓声、落胆、慰め。多くの声が上がる中、ゴール裏に流れたボールを見つめながら、駆は口をへの字に曲げた。

 

 

(……釣られた、筈だけど。寸前で締められた)

 

 

 ベルナルディは確かにファーを狙う『超速の振り』を前提に対応していた。故にホイップキックでニアのコースに切り替えた訳だが、ボールがすり抜けられるギリギリの間で脚の開きを抑え、僅かに閉じた事でディフレクションしてしまった。

 太腿が攣っても可笑しくない動作だが、柔軟な筋肉が鍛えられているのだろう。脚を抑える様子はない。

 

 

(駆け引きには勝ったけど、後追いの反射で止められた。得点にならなかった以上は勝負に負けたと言うしか無い。なんか上手く利用された感じがするけど……まあ、文句を言う筋合いはないか)

 

 

 佐伯がコーナーキックで準備しているのを視界に映し、ポジショニングを始めた。

 

 

(───これが、レオの体験させたかった事か)

 

 

 短く息を吐く動作を繰り返し、過度な緊張により加速する鼓動を鎮めようとベルナルディは胸を押さえる。

 

 

(濃密な駆け引き。ボールを放つ瞬間の重圧(プレッシャー)。どれをとっても今までにない経験だ。正直、自分にはまだ早い感覚に踏み込んだとさえ錯覚する。……だが同時に思う。確かに、これを体感出来て良かった)

 

 

 地面に顔を向けつつ、獰猛に笑う。

 この試合中の勝敗を考えれば二度も経験したくはないし、次こそ決められてしまう様な恐怖───ゴールへの圧倒的な“引力”を感じた。

 だが自分自身の為を思うなら、この感覚に自らを慣らしたいとも思う。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と、そう主張する様な感覚を。

 

 喉を慣らし、一瞬だけ間を置いて深く深呼吸。全身がリラックスし動きに問題が無い事を確認すると、ベルナルディもコーナーキックに備え移動した。

 昂る気持ちを抑えつけ、『対策』に徹する為に。

 

 

 

 

 

*1
高円宮プレミアリーグWEST・EAST1位同士の対決

*2
板東 翔太

*3
左脚の柔らかさが必要なのはバネの様に力を溜めて放つ為。膝下の振りの早さ向上と、短めのスイングでもシュート威力を維持する為であり、打つだけならば右脚でも同じ事が出来るが実用的ではない





 短編の別作品を執筆していますが、此方の1ヶ月1回以上投稿には支障を来たさない様にします。


 現実の代表戦はホーム戦とはいえ大事な初戦で中国相手に七発快勝は見事でした!
 残念ながら仕事時間と重なったのでフルタイムで観ることは叶いませんでしたが、タキのドブレーテや伊東純也の復帰弾、試合を締め括るタケの豪快なシュートなど、大変喜ばしいスタッツに満足しています。アウェーになりますがバーレーン戦も乞うご期待!
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