ピッチの王様とエリアの騎士   作:現魅 永純

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 感想返信

>>やはり読み直しても面白いです
→そこそこボリュームあると思いますが読み返して頂けてるんですか!? 更新遅くてすみません……もう少し早く執筆しようとは思っているんですが……




48話『更に向こうへ』

 

 

 

 

 

「マジ? あの時の俺の動きって見えてたのか?」

「はい」

 

 

 ───五輪代表候補合宿4日目の朝。

 ビュッフェ形式の朝食を終え、テーブルの一席で昨日に行われた合宿中二度目の紅白戦の一部シーンを二人が話し合う。

 片方は高校年代からプロとして活躍し、近年のプレーを評価され新人王の肩書きを手にした若森 龍樹。もう1人は高校サッカーを賑わせ世界有数のトップアスリートを集わせるレアル・マドリードに見初められた若き才能、逢沢 駆。

 

 同じ席には彼の兄である傑もいるが、昨日の紅白戦では相手チームとして試合に臨んでいたので、2人の会話を静観していた。

 紅白戦、前半の22分。試合に於いて二度目のシュートタイミング。その時の動きを振り返りながら、駆は若森へと告げた。

 

 

「僕のシュートタイミングで外に開く動きをしてましたよね?」

「ああ、位置的に邪魔だと思ってな」

「僕のシュートを前提にするなら悪くない動きなんですけど……あの時はそもそもハロルドさんにコースを制限されていたんで、眞弓さんに読まれやすい状況でした。ならいっそ中で直進しても良かったかなって思って」

「……けどお前が撃ちにくくないか?」

「無回転なら多少は塞がれても大丈夫───というか、むしろブラインドが出来れば眞弓さんも読み難いと思いますし。ガッツリ塞がれたらパスに切り替えられたんで、僕としては中に入る動きの方が有難いですかね」

「ほー」

 

 

 無回転であれば多少コースが甘くなってもキャッチングは難しい。コース制限されてキャッチング、或いはパンチングで大きく弾かれるよりは、セカンドボールのチャンスになっただろう。

 無回転シュートが確実に決まる保証はないが、賭ける価値は充分にある。相手の想定通りに事が進むよりも良いのではないかと、駆はそう意見した。

 

 よく見えてんなーコイツ、と。感嘆するような声を溢し、駆の意見を取り入れようと頭の中で動きをイメージしてフィードバックする。

 

 

「朝から真面目に話し合いとか熱心だなぁ、お前ら」

「あ、倉知さん」

「もうちょい世間の評価も気にして良いんだぜ? ほら、2人とも載ってるぞ」

 

 

 寄ってきた倉知がスポーツ新聞を見せる。

 先日行われた紅白戦の結果は2-2。戦力バランスが上手く振り分けられている証明と言うように、再び引き分けで試合を終えていた。

 やはり若手を多く集めた五輪代表は良くも悪くも注目を集めており、また公開された試合内容が良かった事もあってか、サッカー五輪代表についての記事は大きく載っている。

 

 その中でも得点を決めている駆と若森、鷹匠と近藤といったFW組の面子は『日本の長年の課題である得点力不足を埋めてくれるか!?』というアオリを付随した上で単身の写真が載せられている。

 

 

「……不安そうな声も多いみたいですね?」

「おっと、ホント眼がいいなお前。この距離で小さい文字でも見えんのか」

「まあここまで高校世代を多く集めてるんだ。多少の厳しい眼は仕方ないさ」

「僕はFWだから得点という結果で見返せるけど、祐介みたいなボックス トゥ ボックス*1タイプの選手は評価を受け難いだろうなって思ってさ」

「自分のことはサラっと言いよる」

「ああいや、別に簡単に点を取れると過信をしてる訳ではないんですけど」

 

 

 気弱そうな見た目して存外に自信満々だよな、と。苦笑気味の若森に、駆は身振りをしつつ慌てて訂正する。

 

 

「今の高校組は大丈夫だろ。あのクオリティが安定するなら世間の評価も良くなるさ。寧ろ最年長組の方が足を引っ張ってるんじゃないかと不安になるくらいだぜ? 是非とも傑の意見を聞いてみたいところだが」

「俺に振らないでくださいよ。その流れだとどう意見しても生意気な小僧になりません?」

「安心しろ。お前は既に生意気な小僧だ」

「えぇ……。いやまあ勉強になる部分はありますよ。対人の時の向き合い方とか、身体のぶつけ方とか、この辺りは代表戦だけだと経験出来ない事も多いんで。少なくとも足を引っ張ってるってのは無いと思います」

「ほう? やっぱドイツだと強度の高いプレーってのは求められるからな。傑はやっぱ欧州に来るつもりか?」

「18歳になってからのオファーと、後はまあ……駆次第ですかね」

 

 

 隣に座る駆の頭に手を置きながら、傑は言葉を続ける。

 

 

「日本のJリーグは欧州からも目を向けられるようになりましたけど、現状は『安いから買う』の域を出ない選手も多いですし。こいつが日本の若手への期待値ってのを高めてくれれば、それだけ選手への吟味は精密に行ってくれる」

「あー、しっかりと実力やチームへの相性を考えて役割の担い方を確立させてくれるって事か。確かにネームバリューを高めてビッグクラブに拾われてもチームに合わないって事例は珍しく無いからな」

「……さり気なくプレッシャー掛けんね。コイツの弟って大変だろ、駆」

「いやー、はは……」

 

 

 実際に兄の偉大さの影響で自分自身は好きなサッカーから逃げていた事実があるので、駆は若森に対して不恰好な空笑いを見せていた。

 そんな流れで倉知も席に座り、4人で記事を見ながら会話を進めていると。

 

 

「お、奈々ちゃんだ。……マジで? キューティーズ来るの!?」

「ああ、なでしこの。テクが鮮やかだよなーあの子。現役女子高生だっけ」

 

 

 サッカー繋がりだからか、オリンピック代表についての記事の次にその情報は載せられていた。

 東京ジュニアーズの所属であり、セブンのファンでもある若森は、クラブが連結しているキューティーズへの入団というニュースに驚きを見せる。

 倉知は代表選手というのもあって知ってはいるものの、熱烈なファンという訳では無いので若森ほど大きな反応は見せない。

 

 

「練習場近くなったら会いに行けっかな〜、握手とか頼みてぇ」

 

 

 ポワポワとしただらしない笑みを浮かべながら若森は呟いていた。

 そんな中、駆の携帯から着信音が流れる。

 

 

「……! すみません、ちょっと出ますね」

「おー、着替える時間までには終わらせろよ?」

「はい。もしもし……、……うん、僕も記事見たよ───」

 

 

 倉知の言葉に返事をしつつ、席を立って外へと出ていく。

 駆の様子を見た若森がふと疑問を覚えた様にポツリと溢す。

 

 

「朝から電話って、母親か?」

「幼馴染っすね」

「ほーん」

 

 

 相手には察しがついていた傑が、先ほどの若森の様子を考えて変に探りを入れられない様にと事実を伝える。

 だが何かが頭の中で引っ掛かっているのか、若森は外に出た駆を窓ガラス越しにジッと見ていた。

 

 

「……幼馴染相手にする顔か? あれ」

「………」

 

 

 表情を軟くし、深く愛情を抱いている様に話す駆を眺めながら、若森は疑問の言葉を続ける。

 

 

「いや待て、幼馴染? お前らって確か奈々ちゃんの幼馴染だったよな?」

 

 

 傑は話を逸らすべきかと思考を過らせたが、勘付いた様子の若森を見て、視線の方を逸らす。

 その露骨な態度は答えと同義だ。若森は長い沈黙の後、問い掛ける。

 

 

「……………なぁ傑、兄弟で幼馴染なら知ってるだろ。アレは……一方通行か……?」

 

 

 沈黙を選ぶべきか、だが返答をしなければ本人に突撃する可能性が高いだろう。どう返したところで駆本人があの表情を晒し、幼馴染という関係が公になっている時点で答えは出ているようなもの。

 ほぼほぼ察しているのに希望的観測を抱くように「片思いか?」と問い掛けている哀れな姿に同情はあるが、出来るだけ穏便に済ましたいのであれば正直に答えるべきだろう。

 そんな数巡の思考の後、傑はトドメを刺す事にした。

 

 

「………相思相愛ですね」

「そ───……っかぁ」

「あの……2人が充分に身を守れるようになるまでは」

「……ああ、わーってるよ」

 

 

 関係性を明言した事で、若森は机の上に突っ伏す。駆の今後のキャリアを考えると、『なでしこのアイドル』に見合う器である事を理解しているのだろう。“記憶”の時とは違い、本人に突っかかるような真似はしない。

 現代はネット社会だ。何処から情報が漏れるかは分からない。今の若森の状態を考えると何処かで暴露するのではないかと危惧を覚えた傑は釘を刺そうとするが、曲がりなりにも彼はプロ。傑の言わんとしている事を把握し、突っ伏したまま手を振る。

 

 今の駆とセブンの恋人関係は公然的には秘密だ。何故なら2人にはまだプロ実績がない。代表関連からのスポンサーによる恩恵はあっても、個人の年俸がまだ発生してない状態である。

 アイドルでもないアスリートの熱愛報道は本来問題ではないのだが、いかんせんセブンのルックスの高さが相まって過激なファンは存在する。本人に突撃する者も現れないとは限らない。

 身の安全を考えれば現状で交際発表は避けるべきだろう。それ故の判断。若森はそれを理解した上で「公式で発表されるまでは何も言わない」と傑へ告げた。

 

 

「倉知さんも……」

「ああ、俺も何も言わねぇよ。……ただ傑、お前も他人事じゃないからな?」

「……?」

()()()は別にシスコンって訳じゃないけど、色々と複雑な心境だろうなぁ。まあドイツに来たら頑張れ」

「…………??」

 

 

 主語が無い倉知の発言に、傑は理解が及ばないとただただ首を傾げる。

 

 

「戻りました───って、何この空気」

 

 

 若森は突っ伏し、傑は首を捻り、倉知は静かに笑う。

 戻ってきた駆が異様な空気感に思わず呟くと。

 

 

「駆!!」

「は、はい!?」

「お前───」

 

 

 貸し切られたロビーの中で若森の声が大きく響く。着替えの準備を始めようと立ち上がっていた他選手の視線を集める。

 目を点にする駆の肩を強く掴み、涙を流しながら若森は告げた。

 

 

「幸せに、しろよ……!!」

「…………え?」

 

 

 ナニコレ、と。

 主語のない唐突な発言に、駆は倉知へと視線を向けながら若森を指差す。

 

 

「まあアレだ。みんな若いって事だよ。ハハ」

「えー……?」

 

 

 

 

♢♦︎♢

 

 

 

 

 

 メダルを取る気があるのかという疑惑が浮かんでいた五輪代表候補から正式に21名を決める一週間の合宿。初日を除いて公開練習の時間が多かった影響もあり、日を追う事に記者からの評価は高まっていく。

 サッカーを追い掛けてきた者達が、今回の五輪代表候補メンバーによる練習というのはそれだけレベルが高いと判断できたからだ。

 

 とはいえ、練習は練習。記者からの評価は高まろうとも、世間からの視線は未だ厳しい。

 その認識がどうなるかは、正式登録メンバーが決められた後の親善試合の結果次第となる。

 

 そうして迎えた正式登録メンバーの発表。

 GKとCBは駆の“記憶”に違わない選手が選ばれ、SBには右サイドに幕張と島、左サイドには沖名と中塚が呼ばれる。

 MFは倉知・石渡・佐伯・荒木・世良・傑というメンバー。FWには近藤・若森・鷹匠・駆・四季。

 

 喜ぶ選手と、気落ちする選手。それぞれのリアクションを見ながら監督の若菜は言葉を紡ぐ。

 

 

「今回呼ばれた代表候補の選手はみな、素晴らしいパフォーマンスでアピールしてくれました。誰を選んでもメダルを狙いに行けると確信し、非常に頭を悩ませました。今回はポリバレント*2重視でこういったメンバーになりましたが、他の皆さんも絶えず精進を続ければ再び代表で相見える事が出来るだろうと、そう思います」

 

 

 若菜の言葉に嘘はない。それだけの能力を見せてくれたと、そう確信させる表情で告げていた。

 もちろんオーバーエイジ枠や他にトップレベルへと帯同してくる選手も現れるだろう。今の五輪代表世代はそれだけの激戦区になる事が必須。今Aチームに選ばれたメンバーも停滞を見せれば呼ばれなくなる可能性は高い。

 気落ちせず、選ばなかった事をバネに是非とも見返してほしい。若菜は笑顔でそう告げた。

 

 ───そこからは戦術確認。親善試合の一つ、韓国戦でのスターティングメンバーと全体的な流れ。また相手の出方によって変えるべき部分の共有を行なっていく。

 フォーメーションは4-3-3。スリートップの王道とも言うべき配置だが、重要なポジションは中盤。

 本来なら2ボランチにトップ下1人、或いはアンカー1人とCMF(セントラルミッドフィルダー)2人という役割の与え方になるのが基本だが、今回は3人全員がCMFという並び方になっていた。

 

 この3人の中盤に選ばれたスタメンは、倉知&傑&佐伯。全員が“予知”に優れ、かつ運動量の豊富な選手だ。

 

 

「明確な役割は選手達にとってやりやすいかもしれませんが、同時に相手にも見抜かれやすい。判断能力に長けたこの3人であれば、相手の意表を突き続ける事が可能でしょう。選手任せというと聴こえは悪いかもしれませんが、フィールド上でしか判断できない事もありますからね」

 

 

 このフォーメーションで挑む上で最も重要な3人を最初に挙げ、他のポジションを発表する。

 GKには眞弓。CBにはハロルドと飛鳥。SBには右に幕張、左に沖名。そして3トップには左に若森、右に駆、中央に鷹匠という面子が選ばれた。

 

 意外だったのは充分にパフォーマンスを発揮していた四季が先発から外れた事だが───若菜の練っている戦術の中だと、彼は現状スーパーサブ(切り札)という扱いだ。スタメンでも問題ない能力は有しているが、『左眼が見えない』といのは味方にとっても連携が難しい要素になる。

 紅白戦と国際親善試合では雰囲気が全く違う。どれだけ練習で問題なかろうと、本番になれば連動がズレてしまう可能性は高い。

 スタートから迷いを生んでしまうのは避けたいのでここは堅実に、というのが若菜の考えだ。

 

 

 そうして迎えた韓国との親善試合。

 結果から告げれば───采配ズバリ。3-0の日本勝利で試合を終える事になった。

 前半は暫く停滞していた時間が続いていたが、29分。ペナルティ・エリアの外、ペナルティアークの右寄りの位置で若森が傑からのパスを受け取る。ポストプレーで相手に触らせずキープし、2タッチ目で左側へと流した。

 そこに駆が恐ろしい程の瞬発で走り込みラン・ウィズ・ザ・ボールでエリア内へと侵入。DFはブロックに追いつけず、その決定力を遺憾なく発揮して先制点を奪い取った。*3

 

 前半は幾度かチャンスを迎えつつも1-0のまま終え、後半に突入。

 後半頭から若森との交代で投入された四季は、スーパーサブ(切り札)の名に恥じぬ活躍を見せる。

 フォーメーションが弄られ4-1-3-2となり、2トップの左側に駆。左MFに四季、トップ下に傑。左サイドのトライアングルがボールを支配し、韓国DF陣にボールを触れさせる事を許さず、後半2分。エリア内でフリーで四季からのパスを受けた鷹匠がゴールを沈め、リードを2点に広げた。

 

 そこからは日本がボール保持率を高めながらも、決定的なシーンには至らず試合が進む。

 四季の裏を狙うロングカウンターを始めた韓国にもチャンスが幾度か訪れた。そのケアにより守備に走る時間が増えた駆と、両SBを後半23分に交代。代わりに入ったのは世良と荒木と島。攻撃的な面子が増え、フォーメーションは3-4-3に。

 3トップは左に四季、センターに鷹匠、右に荒木。中盤は左に世良、右に傑、センターに倉知と佐伯。元の2CBに加え、左寄りの位置に島が入る事になった。

 

 守備の厚みを増やすのではなく、攻撃での支配力を上げろ。事前に伝えていたロングカウンターを狙われた際の手段の一つを実行し、日本は果敢に攻め入った。

 そうして後半38分、四季の得点によりリードは3点。韓国陣地でのボール支配率を高めながら試合は進み、終了のホイッスル。

 

 今世代の韓国はタレントを揃えている。ミーハーなファンはニュースでそれを知っていたため、クリーンシートでの完勝は互いの国へ衝撃を与えていた。

 特に今回決めた3人は全員が高校世代。不安視されていた“若さ”は問題にならず、確かな実力だと世間に知らしめる結果となった。

 

 成長の為ではなく、メダルを獲得する為の代表。その期待感を観客に植え付け、続いて迎えたブラジルとの親善試合。

 オリンピック開催地でありつつ、レオナルド・シルバ含め優秀なタレントを揃えた優勝候補筆頭が相手。レギュラー陣を揃えたスターティングメンバーで日本へと訪れたブラジルとの対戦は───

 

 

 

 

 

♢♦︎♢

 

 

 

 

 

「───さて、実況は古岡。解説は元日本代表MF当真 俊介さん。ゲストはなでしこジャパンの美島 奈々さん、群咲 舞衣さんでお送りしました。いやぁ、非常に見応えのある試合でしたねー」

「ええ。前回の韓国戦に引き続き、半数以上が高校世代というスターティングメンバー。しかし「メダルを本気で獲りに行く」という意思が確かであると示すように、あのブラジルを相手に2-2という結果! 私の現役時代からは到底考えられない強さを見せてくれました」

「そうですねぇ。現役のなでしこジャパンでプレーするお二人としては、今回の試合はどの様な感想でしょうか?」

「駆っちカッコいい〜♡」

「えー……、はい。今出された逢沢 駆選手は、前回の韓国戦とは違いベンチスタートでした。しかし後半からの途中出場で、この2試合唯一の連続得点を挙げた選手となります。ゴールシーンを振り返っていきましょう」

 

 

「駆選手は後半の17分から四季選手との交代で投入。そして投入直後のファーストプレーで推定35M(メートル)の距離から大胆なロングシュート!」

「いやぁ、ブレてますね。彼の裏抜けを警戒していたブラジルにとっては想定外の距離から放たれたと思います」

「しかしこの無回転シュートはキーパーに弾かれます。セカンドボールを拾ったのは鷹匠。少々角度のない所から狙いに行きましたがこれはポストに直撃。ペナルティ・エリアの右横、僅かに外でボールは再び日本に。幕張が走り込んでおり、マイナスのボールを出しました」

「そこに構えていたのは逢沢 傑選手。鋭いグラウンダーのパスをゴール前へと放ちました。このボール、私はてっきりミドルシュートが枠外に逸れてしまったのかと思いましたが……」

「ここで受け取ったのが弟である駆選手! 先程の大胆なロングシュートとは一転、完璧なトラップとキーパーの股を抜く繊細なコントロールショット! 前半先制点を奪われリードされていた日本ですが、このゴールにより追いついた形になります」

「多分駆っちの中には4つくらい選択肢が浮かんでたと思うんだよねー。でもロベルトのカバーリングを見て、一番ゴールの確率が高そうだったのが股抜きだったんじゃないかな?」

「最初から股抜きと決めていた訳ではなく、他選手の動きを見ての判断だったと?」

「そうだと思う! こういうエリア内での決定的なシーンで外したところ見た事ないし、事前の決め事だけでその確率は無理だもん。女子代表でもそうだから男子のスピード感じゃ尚更だよ」

「なるほど。バルセロナに所属していたCBのジェラール・ピケが、【神の子】と呼ばれる同僚のリオネル・メッシへの評価として「彼ほど思考が早い選手はもう二度と現れない」と告げていましたが……ゴール前に限れば、ひょっとすると近い能力を有しているのかもしれませんね」

 

 

「さて、美島さんはこの試合について何か感想などはありますか?」

「素晴らしい試合だったと思います。海外へと呼ばれる選手が増えた事もあり、日本人選手の個々の能力が非常にレベルアップしていますし、今回で世界と渡り合える世代であると国に魅せることが出来たことは非常にプラスになるかと」

「美島さんもアメリカに在籍していた過去がありましたね」

「ただ、まだ荒削りの部分は多いので改善は必須ですね。今回は勝てる試合だったと思いますから」

「……これは手厳しい。素晴らしい試合と先程仰っていましたが……?」

「親善試合としては、そうですね。課題が明確になった点や世間への評価を考えれば良かったんですが……これをK.O(ノックアウト)ステージの本番と想定した場合、作るべき決定機を逃して延長に尾を引く展開になったでしょうから」

「作るべき決定機、というのは?」

「特に顕著なのは後半37分。傑選手が左斜め方向にいた世良選手へと渡しました」

「ここは素晴らしいトラップ&ターンでボールを散らしましたね。駆選手がオフサイドポジションに居ましたので───」

()()()()()()()()()()()()()()()。彼がオフサイドラインを超えるポジションに居たのは、自身のマークについていたSBが世良選手に釣られたため、逸早く駆け出したからです。トラップの間でブラジル全体のオフサイドラインが上げられたので、ラインを超えた状態になり、ポジショニングの修正を余儀なくされました」

「それは、要求もなかなか厳しい様に思えますが……」

「厳しいくらいで良いんです。このワンプレーによる影響はそこ単体で収まる話ではありませんから。試合終盤というのもあって以降はブラジルがハイラインを敷き、元々の流れの速さを更に加速させ、結果後半42分で同点をブラジルに献上する事になりました」

「なるほど。試合終盤にハイラインを敷いてきたのは、それだけの根拠があったからこそなんですね」

「私が現役だった頃に海外と如実に差が出ていた理由がよく分かった気がします……」

 

 

「ではここからは、試合全体のハイライトを観ていきましょう───」

 

 

 先制点となった前半22分。日本・ブラジル両国の中でも最年少のマルコによる押し込みのゴール。

 暫くは両チームのビッグチャンス、キーパーによるビッグセーブが流され、群咲の感想の時にも流れた駆のファーストプレーと同点弾。

 続いて後半24分。左サイド深くへ侵入した傑からの鋭いクロスに反応して飛び込んだ若森によるダイビングヘッドでの得点。

 そして42分。単独2点目となるマルコのループシュートが流され、ハイライトでの振り返りを終えた。

 

 

「おっと、どうやら駆選手とマルコ選手が話し合っていますね。年少組のFWというのもあって通じるものがあるんでしょうか?」

「マルキーニョは駆っちのファンだよ? 本人と話したいから日本語を学んだってリーグ戦のインタビューの時に言ってたし」

「そうなんですか?」

「うん、ライバル視もしてるらしいけど。プレースタイルが似てる所もあるからか、参考にしてるみたい」

「なるほど。彼の2得点目は駆選手の持ち技の一つである【φトリックR】からの流れでしたが、リスペクトがあったんですね」

 

 

「どうやら今回のMOMは逢沢 傑選手の様です」

「本日2A、またフル出場での攻守貢献度を考えると納得の選抜かと」

「彼は現時点で高校2年生ではありますが、横浜エルマーレスとの契約が確約された選手でもあります。Jリーグ開幕での活躍が期待されますね」

「さて、そんな彼が今インタビューへと───」

 

 

 ───これまでの駆の評価は、あくまでも『世代別内で優れたFW』の領域を出ることはなかった。なぜなら高校世代の世代別というのは注目度が高い訳ではなく、活躍を残しても少し記憶に残る程度。

 もちろん詳しいサッカーファンであればその実力が折り紙つきである事は理解しているが、世間的な評価というのはそういうものだ。兄とは違い、幼い頃から『天才』を背負ってきた訳でないというのも理由の一つ。

 

 しかし、今この舞台は五輪代表。ミーハーなサッカーファンの多くを惹きつける大会であり、注目度が相応に高い。

 そんな中でU-17世界大会得点王、高校選手権得点王の冠を掲げ、レアルとの契約が噂される、立て続けに注目を集める状況の最中、唯一の2試合連続得点選手となれば、その存在は色濃く映る。

 有望な若手の域を出なかった選手は、この親善試合を以て日本から注目される確かな実力者という認識へと変化する。

 

 そして、数ヶ月後───五輪代表最終予選進出の為の二次予選最後の2節。クウェートとの対戦を終えると同時に、日本にビックニュースが流れる。

 それは、今まで噂でしかなかった逢沢 駆のレアル・マドリードとの契約。

 欧州の多くのリーグがシーズン終盤に入り、移籍情報が入り乱れる中で、レアル・マドリードの公式アカウントが日本人選手の獲得を発表する。

 

 背番号18の白いユニフォームを着る逢沢 駆の姿が、世界へと発信された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
ピッチ全体を走り続け、攻守を繋ぐオールラウンドプレイヤー

*2
複数のポジションを高いレベルでこなせる選手を指す言葉

*3
2024年9月5日に行われた日本代表の中国戦。日本の4点目、及び南野個人で2点目となる後半13分のシーンを位置反転させた様なイメージ





 イーフト最新版のタケのアクセルバーストめっちゃ楽しい
 今シーズンもdivision1を目指そうかなぁ

 27日のコパデルレイでのマドリー戦、3月2日のバルセロナ戦を楽しみにしてます
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