スポーツには二種の国代表が存在する。フル代表と世代別代表の事だ。
フル代表は放送権を得てテレビに良く映るので知っている人も多いだろう。その国の国籍を得ていれば、在住期間。或いは血の繋がりという規定を満たす事によって選ばれる、年齢規制の無い代表選手達を指し示す。
そして次に世代別代表。此方は聞き覚えはあっても積極的に見る人というのは少なくなる。例えば五輪代表によるオリンピックの試合を観る場合はあるだろう。しかしそれが年齢規制によって成り立つ試合である事実を頭に入れているという人は存外に少ない。
それは偏に注目度の差だ。
オリンピック、ワールドカップ。そういう名の高い数年に一度の世界への挑戦というのは、非常に注目度を集めやすい。少し悪い形で言ってしまえば、そのスポーツにさほど興味のない人達をも観戦させる。
そしてもちろん、大会ネームドにも限らず、選手そのものにも注目度というのは存在している。有名な選手というのはフル代表に集まりやすいからだ。
では、世代別代表とは何か。一括りに世代別代表と言っても西暦によって何処に年齢規制が掛かるという訳ではない。勿論西暦によっては予定のない世代というのも存在はするが、基本的にU-15〜U-23までの全ての世代が一年間の中で予定が組まれている。
だがここで勘違いしてはならないのは、必ずしもその世代の選手だけが選ばれる訳ではない事だ。
世代別代表とは、
例えばU-15であっても14歳、13歳の選手なんかが選ばれる事もあるし、U-23で16歳という7歳差であっても選ばれる事例だって存在する。
ただしこれはあくまで規定。大学年代に相当するU21〜23は18、19歳の選手を呼ぶ事もあるが、U-18で16歳以下の選手を呼ぶという事はそれほど多くない。
理由は単純明快。能力の差である。
中学生から高校生というのは、色々な能力が大きく成長する期間だ。身体能力という面でこそ小学生の第一次性徴、第二次性徴の方が大きく上り坂となるが、思考能力や気持ちの強さなど、そういった精神面での成長も合わさると、やはり中学年代と高校年代には格差というものがある。
高校年代と括りはしたが、この15〜18歳という中だけでも違いというのはハッキリと出るものだ。体格差、思考能力。なによりも経験差。才能の有無に関わらず、人間である以上は必ずこの項目に違いは出る。
なので年齢規定ギリギリの選手が選ばれるのが、世代別代表の普通とも言えるだろう。
ただし、圧倒的な才能というのはそれをひっくり返す。常識とは非常識があるからこそ常識なのだ。
さて、日本の至宝とも呼ばれる逢沢 傑───此方はU-18にすら呼ばれる逸材だ。その一つ下の世代に呼ばれる事にはなんら不思議はなく、練習内容について来れる事になんら不思議はない。
問題は此方。一ヶ月以上前に行われた全国中学サッカー大会にて、県予選・ブロック予選・本戦の全てでハットトリックを達成した事で一躍有名になった天才の弟だ。
確かに世代最高峰、唯一抜きん出てる絶対的ストライカー。決定力は桁外れで、テクニックもある。だがそれでも高校二年生代、及び早生まれの三年生代と比較すれば間違いなく能力に差が出てくる筈の、まだ中学二年生の少年だ。
幾ら同世代で飛び抜けてようが、通常は体力もフィジカルも何もかもが足りない世代が上のこの代表という場にて、駆は“普通”に練習をこなしている。
緊張による精神的体力消費はなく、またフィジカルの差による押し倒されなんて事もない。逆に吹っ飛ばすなんて事象こそ無かったが、明らかに華奢な体格ながらも格上の年代と対等に渡り合っている。
技術でどうにかしている部分もあるのだろうが、それにしては力押しで行く部分も多々見られる為、周りは練習中不思議そうに駆に注目を集めていた。
先ずは数日のトレーニングキャンプ、いわゆる合宿練習をこなし、数日後に他国の同世代メンバー及び自国のユースクラブを集い、交流会カップを行う。それがこれからの日程だ。
今はトレーニングキャンプの二日目。元々夏休みの期間中に親善試合の為メンバーの厳選は行われていたが、駆と傑はそれが始まる前に既にメンバーリストには登録されている。親善試合こそ全中本戦と予定が被ったために出れなかったが、その全中で突出した結果を残したからこそ、初日から既に二人を受け入れる体制はU-17の選手達には出来ていた。
それでも不満を抱くものはいる。必死こいて代表選抜されたのに、こいつらは特別待遇かと。
だが初日の練習から既に付いていき、こと二日目の三対三のメニューであらかじめチームにいたかの様な適応の仕方に、文句の一つも出なかった。出るはずが無かった。親善試合にいなかったにも関わらずそれ程までに馴染んでいるのだ。そこに加えて二人の“得意”はまだ発揮されていない練習メニュー。認めざるを得ない。
そして、二日目の三対三が終わり、昼を過ぎた頃。昼食を終えて向かった練習場では、試合の準備がされていた。
ベンチ入り可能な人数こそ厳選されるものの、ベンチ外を含めたメンバーリストというのが存在する。怪我等の不調による代用の為だ。それも含めてのベンチだとは言うが、次の試合にも影響が出る様であれば追加でメンバーを招集しなければならない。
まあつまるところ、紅白戦が可能なメンバー人数は揃っているという訳で。
元々の予定していた練習メニューを破り、監督は紅白戦のメンバー発表を行なっていた。
(……練習メニューだと、この後はワンタッチ以内のシュート練習。キーパーはそのセービング。次にDFを一人置いての二対一で、最後にクールダウンの鳥籠をして終わりの筈だったけど……急遽紅白戦を入れるって事は、練習中に何か思うところでもあったのかな? 周りが動じてる様子はないし、親善試合前のトレーニングキャンプでも似たような事があったのか……)
返事して準備を始める周りの様子を見ながら、駆も発表されたメンバーに従い渡されたビブスを装着する。今回は傑と別のチームの様だ。
あの夏休み前の紅白戦以降、初めての11人試合での相手同士だ。あの頃よりも成長している兄を前に、駆はワクワクを募らせる。
と同時に閃きを覚え、視線を監督に向けた。
ひょっとしてこの紅白戦は、と。
そんな思考を浮かべて数瞬。笛の合図と共に余計な思考は消えてなくなり、相手が動かしたボールに即座に反応して前衛守備を仕掛ける。サイドに渡されたボールを見送り、パスコースを消しながらジリジリと迫りゆく。
余計な走りを極限まで減らし、かつ最大限に相手にプレッシャーを与える前衛守備。中学県予選レベルならばここでボールを溢す相手もいるが、流石に高校代表年代。そうミスる様な雰囲気は見せない。
やがて、傑にパスが渡ると同時に駆は一気に詰め寄る。だが接触はしない。決して躱されない距離感を保ち、パスコースを確実に消していく。
試合全体の流れでこそ傑と駆は対峙する機会があの紅白戦以降は無かったが、プライベートでの一対一なんかはセブンも交えてあの公園で何度か行なっている。だからお互いの動作の癖は既に理解しており、後は発想力と紙一重の駆け引きが勝敗を分ける事になる。
───というのが、今までの一対一。
「……ッ、く、ぅ!?」
何とか食らい付いてはいるものの、今の駆は傑に翻弄されていた。今までにないドリブル感覚に、対応が追いつかない。
いつパスが出されても不思議ではないほどにパスコースが空いてしまってる。出さないのはそれに反応できる味方じゃない事を理解しているからだろう。プレースタイルを変えて来た傑を見て、心臓だけになって尚成長し続けたあの時とまた別の在り方になってさえこれだけ優れているのかと、驚愕せざるを得ない。
チェンジオブペース。分かりやすく言い換えれば『緩急』を示すその技術は、相手を揺さぶるのに最も単純で効果的なモノと言える。
だが単純と言えど、決して簡単な技術ではない。例えば100がMAXの脚の速さだとして、通常のドリブルはこれを80に抑えて行われる。それはボールコントロールの難しさ故だ。100の意識を速さに向けてしまうとボールを取りこぼすリスクが高まる。稀にトップスピードのままドリブルを行える選手もいるが、それでもテクニックを扱おうとすれば相応に減速するというモノ。
傑はその“稀”に当てはまる例であり、他に漏れずフェイントを掛ける場合は減速が必須となる。だが今の傑は。
(止ま───いや高速でエラシコ────急停、ダッシュ……ッ!?)
その緩急を自在に操る様に、上手くフェイントを扱っている。とは言えある程度のルールは存在していた。チェンジオブペースは最少の速度から最大速度までのスイッチを無数に切り替える事で相手のペースを乱す技術だ。だが同時にボールがこぼれるリスクが高くなる。
だから一定のルールとして、傑がフェイントを行う時は決まって『緩』の時のみ。故にこそ駆は何とかついて行けていると思って良い。
だがその『緩』の時のフェイントを利用して『急』へと持っていくタイミングが非常に上手い為、思考のペースが一気に乱されてしまう。
「こん、のっ!」
「───ふっ」
時間にしてたった数秒程度の攻守。だが今までにない傑のスタイルを見た駆は焦り、範囲を刈り取る為に脚で前を塞ぐ。究極的に言えば前衛守備なんてボールが取れずとも良いのだ。奪取出来れば理想だが、目的は自陣の守備を完成させる事と誘導させる事。
だから駆は敢えて抜かされるリスクを承知の上で寝転ぶ動作でブロックする。
だが、想定外のことが一つ。
「しまっ」
傑が笑みを溢したのを見てそれを理解したか、駆は顔をこわばらせた。
鎌学ならば、駆が動きを誘導する事を予知した佐伯自身、或いは指示を受けたMFの選手がカバーに来てボールに触れ難くなる空中でボールをカットする。仲間のフォローがあった。
でもここは代表で、幾ら一人一人が鎌学の選手より優れた能力をしていても、意思疎通までは出来ていない。何より此処には“予知”を扱える選手というのは居ないのだ。予め伝えていなければ対応出来ないのは当たり前。
飛んで躱した傑はそのまま直進。周りを見ながらも遠慮なく広大なスペースを駆けていく。引いていたMFが漸くフォローに来たが、傑は一瞬の緩急のみで振り切った。
MFの驚愕を他所にあっという間にエリア付近まで侵入した傑に、DFが一人。やはり本職、一瞬の緩急だけでは振り切れない。が、その気持ちの余裕が表れたのか。油断した隙を突かれ、傑はフワリとボールを浮かせる。
ループシュートか。そんな思考を一瞬浮かべるが、キーパーの位置は乱れてない。ボールの飛んでいく先は、いつの間にか抜け出していた相手のFW。
U-18の代表にも呼ばれていた人だ。そこでコンビを組んだ事があるから、一見見えない位置に居てもパスを出せる事を理解して飛び出したのだろう。結果ボールは渡った。
慌てて飛び出すキーパーだが、相手FWは軸足先をファーサイド*1に向けながら、インサイドキックでニアサイド*2に流し込み、ネットを揺らす。
序盤に前衛守備に押されてパス回しかと思いきや、傑のドリブル一つで試合の流れを壊し、得点が決まる。試合の流れの緩急すら操る様な運びに、思わず駆は苦笑した。
(一瞬の緩急だけなら“記憶”にもあるけど……チェンジオブペースまで使ってくるなんて思わなかった。フェイントを上手く織り交ぜるから分かっても対処が難しいな、これ)
ストップ&ダッシュの繰り返し。簡単に言えばその程度の技術なのだが、トップスピードに乗るまでの加速時間が短いと視覚情報が狂わされて、一瞬消えるかの様な錯覚にさえ陥ってしまう。
FWとしてのディフェンス技術で遅らせる事は可能だろう。だがマトモに対峙しようと思ったら、二手目、三手目で即座に躱される確信がある。
「逢沢」
「……すみません、対応しながら指示が出せれば良かったんですが……あのドリブルは初見なので対処が」
「いや、こっちもフォローが出来てなくて悪い」
「誰かが僕にドリブルで仕掛けて来た場合は、直ぐにカバーに入れる位置にお願いします。遅らせるディフェンスは出来ても奪うのは得意ではないので。誘導しますから、そこを狙う様にお願いします」
「あ、ああ」
「それと、僕は駆で良いですよ。兄ちゃんと紛らわしくなると思いますし」
ほんわかした童顔と思っていたら、真剣な目つきで指示をする駆に思わず動揺するも、最後にパッと明るい笑顔でそう告げられ、釣られて笑顔になって了承する。
ボールがセンターサークルに設置され、駆はそこへと戻りボールに触れながら思考する。
(フォーメーションはお互いに4-2-3-1。代表のポピュラーな陣形だけど、カウンター主体の鎌学に居た僕と兄ちゃんからしたらやり易い形ではある。ただ鎌学と違う点は……)
駆は隣にいるトップ下の選手に視線を向け、目と口を閉じる。
(この人、凄い飛び出す選手なんだ。それが刺さって得点を重ねてるけど、兄ちゃんの物凄く考えるスタイルに慣れてるとどうしてもタイミングがズレる)
さっきの駆の前衛守備も、元々遅らせる目的でしかない。だがトップ下の彼は奪う事を想定して直後にパスを受け取れる位置に身を置いていた。
合う合わないは仕方ないにしても、もう少し考えを巡らせてほしいというのが正直なところ。とは言え、四歳の差*3もある駆に告げられても受け入れ難いのは間違いないだろう。先程のMFは人柄も良く、戦術を受け入れてくれる人格なので遠慮なく話せたが。
(……なら、全面的に僕の能力を押し出すんじゃなくて……こう……うん、大丈夫。出来る。FWは何時までも目立ってちゃダメ。ちゃんと、覚えてる)
駆はふと力を抜いて、一息。ボールを預けると同時に駆け上がる。
鎌学ならば何時迄も目立って、信頼を得て、絶対的ストライカーである事を誇示して来た。それでも止められる相手というのは殆ど居なかった。
でも此処はU-17日本代表。駆を全面的に信頼している選手なんて恐らく居ない。でもそれは決して悪い事ではなく、自らの経験を活かせる最大のチャンスだ。消えろ、自分を消せと。静かに呼吸を繰り返して自らの存在を薄めていく。
そうだ、ここはU-17日本代表。夏場に親善試合があり、駆と傑を抜きに既に完成されていると言っても良いチームメンバーだ。
そこに適応することは出来るが、逆に言えば、自分がいなくても試合は運べる。対応しにくいトップ下ならば他に対応させてしまえばいい。
事実、駆がボールに関与せずとも、中盤で上手くパスを回している。
「……練習でいい線いってると思いましたが、やはり13歳の彼に高校世代の代表は厳しかったのでは? 監督」
「君はそう考えるかな?」
「考えるというか、事実そうなってるかと。チームのサッカーについて行けてないですよ」
「僕はついて行けてないのではなく、敢えてついて行ってないのだと思うよ。傑君……あと、佐伯君。彼らはシンキング・サッカーの次元が一段階違う。それに慣れてしまうと、常に飛び出すチャンスを窺うトップ下の選手には戸惑ってしまうからね。周りに組み立てさせようとしてると、僕はそう考えてる」
なるほど、と。
あの全中県予選で彼らを見ていたU-17日本代表監督と、その付き添いに居たアシスタントコーチ。監督の言葉にコーチは頷く。
それならば3対3でついて行けていたにも関わらず、この試合の中で関与しないスタイルになったことにも納得がいく。
「しかしそれでは彼の能力が発揮されないのでは?」
「逆に聞くけど、彼の能力は何だと思う?」
「……
「残念。それは全部彼がストライカーである為の
「え?」
「フィジカルの異常性は気にかかる所だけど、それはまた確認するとして。駆君の最大の武器は“決定力”だよ。君はあの県予選二試合目以降は観たかな?」
「本戦の準決勝と決勝はフルで、他はハイライト位ですが……」
「なら知らなくても仕方ないかな。世間は恐らく彼の得点数に驚きを示してる。でも鎌学を相手したチームからしたら、彼は怪物としか称する他ないんだ。何せ、
は、と。思わず口元を引き攣らせて息を溢すコーチは、ゴクリと一度唾を飲み込みその言葉を頭の中で反芻する。
「少なくとも公式戦に於いて、彼は全てのシュートを得点としている」
その言葉が放たれると共に、駆のいるチームはエリア付近まで進んでいた。
右サイドでパス回しが展開され、トップ下の選手が飛び出すとそこに合わせてパスが出され雪崩れ込んでいく。
だが超攻撃型には慣れているのか、一人一人に上手くマークが付かれてパスの出しどころが無い。自分で打った方が確率は高いか。トップ下の選手がそう考えながらマイナスの位置に視線を向けると、駆がそこに立っていた。
先程までの気怠げに力が抜けてる様子はなく、寄越せと。不思議と引き寄せられるほどの圧で、表情で。引力に導かれる様にボールは駆へと渡された。
足を振りかぶり、ボールはダイレクトに蹴られようとするが。
「塞げ!」
傑の一声と共に、他の選手のマークについていた筈の三人が一気に駆に詰め寄る。打てていた筈のファーサイドは塞がれ、シュートコースは無くなる。
「これでは……」
「いや、このパターンは本戦でもあった」
駆はふと脚の力を抜き、振るタイミングを微かに遅らせる。それと同時に視界に移る、空白の領域。真っ直ぐ、目の前のDFの脚の間を抜け、ニアサイドに突き刺さる真っ白な空間。
トンっ、と。特別強くもないコントロールシュートが脚の間を抜けながらゴールに向かう。ファーサイドを意識していたキーパーは、その突如現れたゴールに向かってくるボールに驚き固まって、一歩も動けないままネットを揺らすボールを見送ってしまった。
「魅力的なのはキック力やスペースを作り出す動き出しじゃない。100%入るコースがわかっているかの様な、あの異様な決定力だよ」
「100%の決定力……」
これが、ほんの1点2点が県予選全ての通算ならばまだ理解は出来る。だが彼は県予選・ブロック予選・本戦の全てにおいてハットトリック以上の得点を重ねているのだ。その全てを一つも外さずに決め切っている事実。
世代別とは言え仮にもS級ライセンスを獲得してる日本代表監督の事だ。贔屓目なんて無しにただ目で見た事実を伝えているのだろう。それがより一層に駆の怪物っぷりを増長させる。
だがその監督が、難しい顔で駆を見つめながら数秒の沈黙。アシスタントコーチが話し掛けようとするが、試合をリスタートする前にと監督は駆を自分の位置に呼ぶ。
駆け足で寄ってきた駆は見上げて疑問の表情を曝け出すと、監督はジッと駆の身体を観察しながら問い掛ける。
「身体に違和感は?」
「へ? えと、接触とかは特になかったし、踏み込みもズレてないので、無いですけど……」
「ちょっと失礼」
「は、はい」
足首、
続けて良いよと戻る様に指示を出すと、駆は首を傾げながらもコート内へと戻って行った。
「監督?」
「……あの華奢な身体でフィジカルの張り合いが可能なのは変なんだよ。場合によっては筋肉密度の高い人も居て、筋肉が膨張しないケースもある。けど、彼はそうじゃない。脹脛と太腿は鍛えられているけど、それ以外は平凡な中学レベルだ。だから酷使して故障しやすくなっているんじゃないかと思ったけど」
監督は息を吐き、こめかみを摘みながら言葉を紡いだ。
「どうも考えすぎだったかな。何処か傷んでる様子もない。……テクニックも多少はあるからね。上手く使ってダメージを与える衝撃を逃しているのかもしれない」
「……色々と不思議な少年ですね」
「取り敢えず、今のシーンを振り返ろうか。僕は今の点で色々と思うところがあるけど、君はどうかな?」
「傑君と駆君は、やはりプレースタイルこそ違いますが似通っていると思います」
「そうだね。二人とも一つのプレーで皆んなに認めさせている。流れに混ざって認めさせていくのがよく見る光景だけど、一度の動きがそれだけ衝撃的な選手という意味では、確かに似通っている」
今のシーンで分かったのは、傑がチームに自分を認めさせて指示に従いやすくしたこと。逆に駆は、得点力が上の世代だろうと通じる能力であると周りに理解させたこと。
これにより二人の“得意”が如何に有用であるかが味方に分かった。
例えば傑は先ほどのドリブルにより周りを認めさせたが、その後の駆の対応への指示は、周りにとっては疑うものでしかなかったからだ。
何せ先程までの駆は消えていた。圧がなかった。だから気にする事もなかったが、傑の指示に従わなければ───というか実際は躊躇ったからこそ塞ぎが甘くなり抜けたのだが───もっと簡単に決められていたパターンだ。付き添いが長い事もあるのだろうが、傑の“予知”が如何に有用であるかも、このシーンによって味方に伝えられる。
次に駆。これは言うまでもなく、あの囲まれたシーンで決め切る異常なまでの決定力。そしてパスを引き寄せるストライカーとしての能力だ。
これにより、二つのチームはお互いの方針が決まる。方や傑の“予知”を信頼して動き、方や駆の絶対的な決定力を信頼し預ける為の動きをする。U-17日本代表の選手も大抵は基礎能力が高い上でそれぞれの“得意”を持っているが、二人は“得意”が突出している。ならばそれ主体に試合を組み立てるのがベストだ。
───が、やはり。試合を組み立てる動きに直接関与する傑の方がやや有利か。一度組んだことのあるFWが居るという利点もある。
結局この20分ハーフの紅白戦では、3-2で傑の居るチームが勝ち越して試合を終えた。
前半 後半 合計
赤 2 - 0 - 2
白 2 - 1 - 3
因みに今回の描写を詳しく読んだ方は気付き始めてるかもしれませんが、駆君は徐々に
とは言えもちろん必ず
それと、一点。そこそこ前の感想になりますが、
>> 傑の心臓じゃない分スタミナ面は勿論、その他の運動能力もその当時のだから、体を壊さない程度にとっとと全盛期まで上げていきたいよねぇ
という感想を頂きました。この事について今話に合わせて回答させていただきます。
スタミナ面は効率良く使える様になってるだけで当時のものであると言う点は間違いありませんが、運動能力───つまりフィジカルや細かいテクニックに至るまでの能力は逆行前、国内リーグ一部優勝時の時と遜色ないレベルです。
こちらは後に理由が明かされますのでお待ち下さい。恐らく2話3話後くらいになるかと思います。