色々お試し系   作:針鼠

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落第騎士の英雄譚②

 落第騎士(ワーストワン)

 

 この呼び名ほど、黒鉄(くろがね) 一輝(いっき)の今日までの人生を表すのに的確なものは無い。

 

 黒鉄家といえば、第二次世界大戦の大英雄、黒鉄 龍馬が一族にして代々伐刀者として優秀な騎士を輩出してきた名家である。

 一輝はそんな家に伐刀者として生まれた。しかし、その魔力量は伐刀者達の平均量の十分の一にしか満たなかった。

 

 伐刀者としての価値が魔力量で全て決まるとは言えない。――――が、優劣をつける上で間違いなく該当する要素であるのは明白だ。事実伐刀者のランクはその魔力量が要因になっている。

 

 落ちこぼれの烙印を押された一輝に対する周囲の態度はそれは冷たいものであった。

 名家たる黒鉄家に一輝のような落ちこぼれが生まれたことそのものを恥と考えた一族は、一輝を存在しないものとして扱った。愛すことはおろか、決して表には出さなかった。

 

 そんな彼の心を救った者が二人いる。

 

 一人は大戦の英雄、そして一輝の曽祖父である黒鉄 龍馬。そしてもう一人が、

 

 

「……鋼兄?」

 

 

 とある一件から理事長室に呼び出された一輝は、気を重くして理事長室の扉を開けた。ノックはしたがやけに中が騒がしかったので聞こえなかったかもしれない……そう思いながら扉を押し開けて、まず最初に部屋の奥にある執務机に座る女性、神宮寺 黒乃と目があった。ここは理事長室で、彼女こそこの学園の理事長なのだからいて当然である。

 

 ならばと、彼女より手前にいる人物を見て、一輝の思考は一瞬真っ白になった。

 

 短く刈り込んだ黒髪。袖を捲って着ている一輝と同じこの学園の制服は、小柄な彼の体格に合っていないのかややダボついているように見える。

 そんな少年の背中に、一輝は既視感を覚えた。いや、過去の映像がフラッシュバックしたのだ。

 

 

「そうそう鋼兄……って、あん?」

 

 

 どこか不機嫌そうな声をあげてその人物が振り返る。

 

 精悍な顔立ちにある吊り目がちな目元。そんな彼は、こちらを振り返るなり目を丸くした。

 同時に、一輝は確信した。

 

 

「鋼兄!」

 

「……一輝?」

 

 

 何も出来ない。何もさせてもらえない。

 

 無念に涙を流した一輝を救ったのは彼の曽祖父である龍馬だった。

 

 ならば今目の前にいる人物、(あかつき) 鋼志郎(こうしろう)は、一輝を孤独から救い、また初めて自分の存在を認めてくれた兄だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 正味な話、不覚にも俺は呆気に取られて数秒無防備を晒した。それほどまでに驚いていた。

 

 黒鉄の家に生まれ、また伐刀者として生まれながらその魔力量は世界でも類を見ない最低ランク。そんな一輝とこの騎士学校で数年ぶりの再会を果たすとは夢にも思っていなかったのだ。

 そして、

 

 

「ああ……信じらんねえ……。あの可愛かった弟が、まさかこんな変態になってたなんて」

 

「違うってば! 誤解だよ!」

 

 

 シクシク泣く俺。必死に訴える一輝。

 

 

「――――なにが誤解よ、この変態!!」

 

 

 俺、黒乃さん、一輝。それとあれからもう一人、この理事長室には人が増えている。

 

 ステラ・ヴァーミリオン。

 

 欧州にある小国、ヴァーミリオン皇国の第二皇女。緋色の髪を二房に分けたツインテール。加えて言うなら16歳とは思えない体つきをしている。色々なところが。

 

 そんな皇女様は歯を剥き出しにして一輝に食って掛かる。

 

 

「人の着替えをの、のの覗いて! し、しかも……」

 

 

 当時の映像を思い出したのか、顔を真っ赤にして俯いた皇女は一気呵成に言い放つ。

 

 

「突然服を脱いだじゃないッッ!!」

 

「よし、有罪」

 

「鋼兄!?」

 

「阿呆だな。有罪」

 

「り、理事長まで……」

 

 

 経緯は兎も角、年頃の女の子の着替えを覗いて、あまつさえその代償に自分も脱ぎますだなんて解決策に至るとは。

 

 

「はぁ……。あの頃の真っ直ぐで純粋な心を持った一輝はどこにいったんだ」

 

「ぐっ……」

 

 

 最早観念したのか、心の整理の為に押し黙っていた一輝は大きく深呼吸をしてから皇女様に向き直る。

 まだ警戒心があるのか、真っ直ぐ見つめられたことにやや引き気味の皇女様。

 直後、一輝は腰を折って深々と頭を下げた。

 

 

「ごめん。さっきのは断じてわざとじゃない。でも、着替えを覗いたのは事実だ。煮るなり焼くなり好きにしてくれ」

 

「…………ふーん、潔いのね。貴方、名前は?」

 

「え? 黒鉄 一輝、だけど」

 

「イッキ、ね。いいわ。その心意気に免じてアタシも寛大な心で応じるわ」

 

 

 少しずつ調子を取り戻してきた彼女は大きな胸を張って頷く。一輝は一瞬ほっ、とした顔をするものの、次なる彼女に下された判決に再び顔を凍りつかせることとなる。

 

 

「ハラキリ、で許してあげる」

 

 

 ハラキリ。切腹。死んじゃう。

 

 

「日本男児にとってハラキリは名誉なんでしょう? 皇女であるアタシの裸を見て本当は石打の刑のところを、特別なんだからね?」

 

「しないよ! ていうか、おおまけにまけて腹切なの!? たかが下着見たくらいで!!?」

 

 

 全力で反論する一輝。

 

 まあたしかに、いくら美人とはいえ下着見て死ねというのはキツイ。いくら美人でも。

 

 

「ねえ、鋼兄からも何か言ってくれよ」

 

「お前への人生最期のアドバイスになるかもしれないけどいいか?」

 

 

 え? と状況を理解していない弟にちょいちょいと背後を指さしてやる。

 呑気に一輝が振り返るのと、

 

 

「傅きなさい! ――――妃竜の罪剣(レーヴァテイン)!!」

 

 

 炎を纏った紅剣が振り下ろされるのは同時だった。

 

 

「ッ!? 来てくれ、――――陰鉄!」

 

 

 咄嗟に一輝も固有霊装(デバイス)を取り出してなんとか受ける。

 

 

「たかがですって……? 嫁入り前の姫の肌を汚しておいて……。イヤラシイ目で、舐めるように、ねぶるように見ていたくせに!!」

 

「やっぱ有罪か」

 

「鋼兄はちょっと黙ってて!」

 

 

 怒られたので黒乃さんのところまで俺も避難する。

 

 

「わざとだろ?」

 

「なんの事だ?」

 

 

 ニヤニヤと事の成り行きを見ている黒乃さん。悪い顔だ。

 

 どこまで計算かはわからないが、こじれたきっかけは多分この人にあるのだろう。。

 傍観者として楽しいのは認めるけど。

 

 

「それにしても凄いもんだ、あのお姫様」

 

 

 じゃれ合う二人を見ながら呟く。

 

 炎熱を振りまく皇女様の固有霊装、見るからに炎の属性を備えているのは明白なのだが、俺が凄いと言ったのはそこじゃない。まるで彼女の感情の昂ぶりを表すように、彼女自身からも炎が立ち昇っている。

 

 あれは魔力だ。

 あまり知られていないが、通常、固有霊装がそうであるように伐刀者の魔力にも属性が混じっているという。固有霊装が術士の魂からなるのだから、精神エネルギーたる魔力にも同様の属性があってなんらおかしい話ではない。

 ならば何故それがあまり知られていないのか。

 

 それは、属性が混じっていたところで本来ならばなんら意味が無いからだ。

 

 魔力は謂わばガソリン。身体能力の強化は初歩の初歩。

 斬撃に破壊力を上乗せる。移動に爆発力を上乗せる。

 そして固有霊装――――否、伐刀者にとっての切り札……伐刀絶技(ノーブルアーツ)を放つ為にその魔力を燃焼させる。

 

 しかしあの皇女様は違う。あり余る魔力がその身から溢れ、可視化し周囲に影響を及ぼすほどなのだ。

 その潜在的な魔力量は並の伐刀者の10倍……いや、30倍はあると思われる。

 

 生まれた頃から平均の十分の一しか魔力が無かった一輝とはまさに対照的な存在である。

 

 

「いいねえ。Aクラスってんならそれぐらいじゃなきゃだよなぁ」

 

「お前も悪い顔になってるぞ?」

 

 

 ほっとけ。




閲覧どもでしたー。

>次で最期ですね。そしてヒロインたる珠雫ちゃん出ないですね(え

>ストレス発散張りの殴り書きの投稿で申し訳ありません。しかも短い。けど私的にはうまい具合に発散出来てて満足してます。

>次回一輝君VSステラちゃんで、ついでに主人公の固有霊装やらお披露目して終了な感じでしょうか。珠雫ちゃんとかアリスさん出したかったけども、そこまで書くなら新作連載してるのと変わらなくなっちゃいますし、ここらがちょうど良いかと思ってます。

>主人公が意外と背が低いのはヒロインの珠雫ちゃんに合わせてです。でもちびってほどじゃないですよー。160センチくらい。本人は160あると自称してます。真実はわかりません(こんな裏話設定いるのか……)

>ではー
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