【短編集】未熟姫とトレーナー   作:ほいさ

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カワカミプリンセスとウオッカを中心としたお話です。

登場人物
カワカミプリンセス
ウオッカ
ダイワスカーレット


姫、後輩をカッコよくする

とある休日、中古衣服販売店に黒い革ジャンと黒ズボンをビシッと決めた1人のウマ娘の姿があった。

 

「これもカッケー!掘り出し物だぜ!」

 

女性ではなくバイク乗りの兄ちゃんが好みそうな服を物色するウマ娘の名はウオッカ。彼女好みの婦人服は普通の店にはなく、さりとて特注品となると費用がかかるためこうして中古服店を訪れていたのだ。

 

「これもカッケー!これもこれもこれも!!」

 

次々と彼女好みの服を見つけていたが、

 

「これ……も?」

 

1着の服を手にしたウオッカは動きを止めてしまった。その服はピンクの布地に真っ白なフリルがたっぷりとあしらわれた可愛らしいワンピースであった。

ウオッカが今いるコーナーとはまるで正反対の服であった。店員が間違ったのか、客が戻すのを面倒くさがって戻さなかったのかは不明であったが、今のウオッカにはそんなことを考える余裕はなかった。

 

(な、何だこの小恥ずかしい服は!?)

 

恥ずかしさのあまりすぐに戻そうとしたが、その手はピタッと止まった。

 

(こんな可愛い服!オレみたいな女らしさゼロな奴に似合うわけないだろ!?)

 

そう思いつつも彼女は無意識のうちに手に取ったワンピースを見つめていた。

 

(で、でももしかしたら……似合―――)

 

「あら!ウオッカさんにお似合いの服ですわね!!」

 

「そ、そうっすかね?カワカミせんぱ……カワカミ先輩!?」

 

いつの間にかウオッカの隣にいたのは溢れんばかりのパワーを醸し出す茶髪長髪小柄なウマ娘、カワカミプリンセスであった。

 

「奇遇ですわね!ウオッカさん!!」

 

「ど、どうしてカワカミ先輩がこんなところに!?」

 

「古着ショップは庶民の味方!姫たる者!!ここにいるのは当然ですわ!!!」

 

庶民と姫は矛盾してないっすか!?とツッコもうとしたウオッカであったが、その言葉は喉元まで出かかったところで引っ込んだ。そんな場合ではない。今はこの状況をどう打開するかが重要なのだ。

 

「試着してみてはどうですか!?きっとお似合いになりますわよ!!」

 

「い、いやこれはですね……カワカミ先輩に似合うんじゃないかな~って思ってただけっすよ」

 

まるっきりの嘘ではない。こんな服を似合うのはあいつとカワカミ先輩ぐらいの女の子らしい女の子だと思っているのだ。自分とは違う。だからウオッカはこの服を着るつもりなどなかったはずなのだが……。

 

「あらあらご謙遜なさらずに~思い立ったらGO!ですわよ!!」

 

とカワカミプリンセスはウオッカの腕をガッシと掴む。

 

「試着室に突撃しますわよ!!」

 

「うおっ!?ちょっ!?ちょっと待ってくださいいい!!!」

 

ウオッカはカワカミプリンセスに試着室へと引きずられていく。似合わないはずの服を胸に抱きしめながら。

 

 

試着室前に着くや否やカワカミプリンセスはカーテンをガザっと開き、

 

「ささっ!どうぞお入りになってくださいな!!」

 

とウオッカに中に入るよう促す。

 

「い、いやだから誤解ですって……」

 

と説明しようとしたが、

 

「さあ!さあ!!さあ!!!」

 

と目をキラキラさせて迫ってくるカワカミプリンセスを前にしては何も言えなくなってしまった。

 

「……わかりましたよ。じゃあ一回だけっすよ」

 

観念したウオッカは一度大きく息を吐き、意を決してワンピースを持って試着室の鏡の前に立つ。

 

(いや似合うわけないって!!)

 

頭をブンブンと振り回しどうにか避けられないかと思考するが、

 

「わくわく、わくわく!」

 

ダダ洩れの期待をする先輩を裏切ることはできず、

 

(ああもう!どうにでもなりやがれ!!)

 

半ばヤケクソになった彼女は勢いよく服を脱ぎ捨て、下着姿になるとワンピースを頭から被った。

 

(うぉおおお!!)

 

心の中で絶叫しながらワンピースから腕と顔を勢いよく抜きだした。そして鏡を見ることなくカーテンの方へと向き直る。

不格好な自分の姿を目に焼き付けたくなかったからだ。

 

「い、いいっすよ!」

 

自らの手でカーテンを開ける。

 

 

「まぁ素敵!とっても似合っていますわよ!!」

 

とカワカミプリンセスの目にはウオッカの姿がバッチリと映っていた。ピンクの布地に白のフリルがふんだんにあしらわれたワンピース。ウオッカの無駄のない引き締まった体をふんわりと包み込むゆったりとしたボリュームたっぷりのスカート。肩口が大きく開いたノースリーブからはスラリとのびた細い両腕。その姿はまるで

 

「まさに『姫』ですわ!!」

 

大声で叫ぶカワカミプリンセスにウオッカは恥ずかしそうに身を縮めた後、彼女に背を向けて座り込んでしまった。

 

「?どうしたんですのウオッカさん。そんな物陰のゴキブリみたいにジメジメして」

 

「お、俺が目指してるのはかっこいい俺なんすよ。こんなフリフリ衣装なんてちっともかっこよくないっすよ……」

 

「あら、かわいいとカッコイイは矛盾しませんわよ」

 

「え?」

 

意外な返事にウオッカは顔を上げ、カワカミプリンセスの方へ顔を向けた。

 

「どちらも魅力的ということに変わりません。ただの言葉の違いにすぎませんわ」

 

カワカミプリンセスはゆったりとした足取りでウオッカの元へ近づく。

 

「私がウオッカさんを引きずっている間、決してその服を離そうとはしませんでしたわよね」

 

「それは……そうっすけど」

 

「それが答えですわ」

 

カワカミプリンセスはウオッカの横にしゃがみ、優しい微笑みをウオッカに向けた。

 

「あなたは無意識にこの服を着てみたいと思っているのです。だったらそれに従ってしまえばいいのです。そしてそれをカッコいいと思い込めばいいのですわ」

 

「いや、この服をカッコいいと言うのは無理がありますって……」

 

「関係ありませんわ。ウオッカさんは自分の心に従ってあなたらしく行動したにすぎません。それは誇るべきことです」

 

そう言うとカワカミプリンセスはすくっと立ちあがり両手を腰に当て、胸を張る。

 

「かわいいもカッコいいも全部ひっくるめてしまえばいいのですわ!そしてそれに自分の一番好きな言葉を当てはめてしまえばいいのです」

 

そしてカワカミプリンセスはにこりと笑みを浮かべ、

 

「今のウオッカさんはすっごく『カッコいい』ですわよ!!!」

 

ウオッカの胸にその言葉がストンと落ちた。そして立ち上がり鏡に今の自分を映した。フリフリの衣装を身に着ける『カッコいい』自分の姿を。

 

「今の俺はすんごくカッコいい!」

 

「そうですわ!めちゃくそカッコいいですわ!」

 

するとカワカミプリンセスはどこからか鍔が大きく真っ白なまるでお嬢様が被るような帽子を持ってきてウオッカの頭に乗せた。

 

「これでカッコよさ120%増しですわ!」

 

「そうっすね!」

 

さらにカワカミプリンセスは巨大なリボンを持ち出しウオッカの腰に巻き付けた。

 

「これでカッコよさが200%増しましたわ!」

 

「うおおお!」

 

「さらにさらに―――」

 

こうしてウオッカは『カッコいい』ウマ娘となった。

 

 

 

日が暮れた時刻、ダイワスカーレットは栗東寮へと向かっていた。

 

彼女は次の日まで実家に帰って休む予定であったが、体が鈍るという理由で早めにトレセン学園に戻ることにしたのだ。

 

「ウオッカには『帰るのは明日』って伝えてたからびっくりしちゃうかもね」

 

などとつぶやきながら部屋へと向かって行き、扉の前に立ったところで鍵を取り出す。

 

「ま、あいつに気遣いなんていらないか」

 

鍵を挿しノックをせずにドアを開ける。

 

「帰ったわよウオッカ」

 

そして彼女の目に飛び込んできたのは、真っ白なフリルたっぷりのフッワフワ衣装と帽子を身に着けたお嬢様スタイルのウオッカの姿であった。

 

ダイワスカーレットには背を向け、大鏡の前で服装同様に白い大きなレースがたっぷりとあしらわれた傘を肩に担ぎ手を顎に当て決めポーズを取っていた。

 

「っか~俺ってかっこいい!!」

 

ダイワスカーレットから見える鏡に映るウオッカの姿は

 

(え?は?カッコいい?いやいやかわいいでしょうが……)

 

と心でツッコミを入れた瞬間、彼女の心臓が突如バクバクと高鳴り始めた。

 

(え!?何でアタシこんなにドキドキしてるの!?)

 

鏡の前で無邪気な顔を晒す可憐なウオッカの姿に目が離せず顔が熱くなったよう感じ、それを確かめるため手を顔に近づけようとすると

 

ドスン

 

手に持っていたバッグを落としてしまった。

 

「なんだ?」

 

物音に気付いたウオッカが振り向くと顔を真っ赤にしたダイワスカーレットの姿があった。

 

(はあ!?こ、今夜は俺一人のはずだっただろ!?)

 

予想外の来訪者に動揺し固まったウオッカであったが、

 

(いや、大丈夫だ。今の俺は最高にカッコいい!自信を持て!)

 

スカートをふわりと浮かせて振り返りシャナリシャナリと近づいていき、

 

「どうだ、カッコいいだろ!」

 

ニカリと歯を見せて笑いかけた。するとダイワスカーレットの顔はますます赤くなっていった。これは面白いと思ったウオッカはさらに攻める。

 

「お?どうしたあまりのカッコよさに惚れたか?」

 

そう言うとダイワスカーレットはキッと顔を上げ、

 

「……は、はあ!?ぜ、全っ全カッコよくないわよ!バッカじゃないの!?」

 

「へ?」

 

「カッコよくなんてないわよ!バーカ!バーカ!!」

 

そう言い残してダイワスカーレットは部屋を飛び出していった。

 

 

 

次の日、食堂でウオッカはカワカミプリンセスとばったり出くわした。

 

「カワカミ先輩、昨日はありがとうございました」

 

「いえいえいえ、姫の務めを果たしたまでですの。それであれから服の方はどうしましたの?」

 

「あの服はしばらく保管しておくことに決めたっす」

 

「それまたどうして?」

 

小首をかしげながらカワカミプリンセスはウオッカの返事を待つ。

 

「昨日スカーレットに言われたんすよ『カッコよくない!』って」

 

「あれまあ」

 

「あの服は間違いなく『カッコいい』ものっす」

 

「そうですわね」

 

「でも『カッコよくない』と言われた、それは服ではなく俺の方がまだカッコよくないからだと思いました」

 

「ほうほう」

 

「だから俺自身がカッコよくなるまであの服は封印しておくことにしました。あの服に似合う自分になるまで……」

 

ウオッカは遠い目をして窓の外を眺めた。

 

「そうですわね!理想の自分になるためジャンジャンバリバリぶっ飛ばしていきましょう!!!」

 

「はい!」

 

 

ガッシと腕を絡めた2人を遠くから見ていたダイワスカーレットは小さく口を開いてため息を漏らしながら小声で一言、

 

「ハァ~バッカじゃないの」




書き終わったって気づきました。


今回トレーナー要素ない……
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