【短編集】未熟姫とトレーナー   作:ほいさ

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2022年カワカミプリンセスの誕生日記念

待ちに待った誕生日を迎えたカワカミプリンセスであったが天気はあいにくの大雨であった。姫の誕生日はいったいどうなるのか…?


姫、涙の誕生日を過ごす

6月5日。普通の人たちにとっては何の変哲もない普通の日である。

 

ただ、このウマ娘にとっては特別な日なのだ。

 

「今日は私の誕生日!私が主役の日ですわ!!」

 

珍しく早くベットから起き上がりカーテンを開けてガッツポーズを決める茶色長髪のパワーあふれるウマ娘、カワカミプリンセス。

 

本日は彼女の誕生日なのだ。朝早くからこんな大声を上げていれば同室のウマ娘に迷惑がかかるが、同室のシーキングザパールは遠征中であるため問題ない。そのことに気づき少し寂しさを得たカワカミプリンセスであったが、テーブルの上に手紙があるのに気付いた。

 

『Dear カワカミプリンセス』と書かれており英語の意味は分からなかったがとりあえず自分あての手紙だろうと確信し、躊躇なくバリィ!と封を切る。

 

『Good morning ! 今日はカワカミのことをめいっぱい祝福したかったのだけど、あいにく世界が私を呼んでいるの!!ごめんなさいね♡長々とした祝辞を読むのは面倒でしょうから、ただ一言。Happy Birthday !! Princess Kawakami !!!』

 

手紙を読み終えたカワカミプリンセスは手紙を胸にグシャリと音をたてながら抱きしめる。

 

「ありがとうございますパールさん!この手紙一生の宝物にします!!」

 

グシャグシャになった宝物を気にも留めず鞄に突っ込み、サササっと制服に着替え最後に鏡をいつもより数分長く見て、よしっ!と声を上げる。

 

「行ってまいりますわ!!!」

 

こんなにも心躍る朝ですもの、今日一日晴れやかな気持ちでいられるに違えありませんわ!!

とウキウキしながらドアを勢いよく開けると、

ザッザザザザーゴロゴロピシャーン!!!と雷鳴と共に雨が降り注いだ。

 

「……」

 

無言で空を見るとそこには真っ黒な雲が広がっている。

そして、次の瞬間、ドッカーーン!!!!と空から轟音が鳴り響き、カワカミプリンセスの体に大量の雨粒が襲ってきた。

 

「…………」

 

顔色を真っ青にして部屋に入りドアを閉じ、ふらふらとした足取りでテレビの電源を入れると、

 

『緊急洪水警報が発令されました。河川や海の近くにお住まいの方は避難の準備をしましょう。また、大雨の影響により電車の運行が遅れており……』

 

といった内容が繰り返し流れている。チャンネルを変えても同じような内容ばかりだ。

 

「………」

 

無言でスマホを確認すると『本日トレセン学園は臨時休校となります。各自安全の確保をよろしくお願いいたします』との通知が来ていた。

 

「…………」

 

スマホを投げ捨てて放心状態でベッドに仰向けでダイブすると

 

「ああぁぁーー!!!私のバースデーがでぇなしですわーーー!!!!」

 

近くにあった枕を抱きしめながらゴロゴロと転げまわり続けた。

 

 

[newpage]

~1時間後~

 

「さすがに落ち着きましたわ」

 

ベッドの上で正座をして呟くカワカミプリンセス。

 

「でも希望は捨てません!時間が経てば晴れるに違いありませんわ!!シャワー浴びてる間に晴れますわよ!!」

 

 

~さらに1時間後~

 

「まーだ降ってますわね……はっ!いけませんわ!どんよりした姫の気持ちにお天道様は応えてくれませんわ!」

 

 

~それから2時間後~

 

ギュルルル~

 

「も、もうお昼時ですの!?全っぜん晴れる気配がありませんわよ!?……大丈夫ですわ落ち着いてカップ麺でも作りましょう」

 

 

~追加で3時間後~

 

「ま、まだ雨が止みませんわ!!お椀をひっくり返す量どころか浴槽ひっくり返したくらいざんざか土砂降りですわよ!?…いけませんいけません、落ち着きましょう。スイーツバクついている間に晴れますわ…たぶん」

 

 

~それから―――

 

「って!もう放課後の時間ですわよ!?いつになったら晴れるんですの!?」

 

情報を求めてテレビをつけるとちょうど天気予報が流れていた。

 

『本日は近年稀の大雨でしたが、”明日”は快晴の天気となるでしょう。絶好の洗濯日和です。続いてのニュースは―――』

 

「明日じゃ遅いんですのよーーーー!!!!!」

髪をクシャクシャにしながら首をブンブン振りまわすカワカミプリンセス。これは夢だ。きっと悪い夢なんだ。そう信じたかった。

 

だが、現実は非情である。窓の外を見てみれば最盛期程ではないが相変わらずの大雨である。

 

「………ぐずっ」

 

カワカミプリンセスの瞳から大粒の涙が零れ落ちた。

 

「せっかくの誕生日なのに……こんなのあんまりですわ……」

 

多くのウマ娘の誕生日は3月から5月。カワカミプリンセスのように6月生まれのウマ娘は稀だ。

カワカミプリンセスは数多くのウマ娘が誕生日を祝ってもらうのを見てきた。そしてカワカミプリンセスも誕生日を祝ってきた。

 

同室のシーキングザパール、厳しくも優しいエアグルーヴ、後輩のウオッカとダイワスカーレット、先輩でライバルでもあるスイープトウショウ、そして憧れの存在であるキングヘイロー。他にも多くの親しい友人たちに「お誕生日おめでとうございます!」と力強く祝福の言葉を述べてきた。

 

それを述べるたびワクワクしたのだ。自分の誕生日にはどれほどの方々からこの言葉をもらえるのだろうかとどのように自分を祝ってくれるのだろうかと。

 

だが現実は祝ってもらうどころか顔を見ることができなかった。

 

(会いたいですわ…パールさん、エアグルーヴさん、ウオッカさん、スカーレットさん、スイープさん、キングさん、そして)

 

「トレーナーさん……」

 

『♪~♪~~♪♪』

 

どんよりした雰囲気を薙ぎ払うパワーあふれる軽快な聞きなれた音楽が流れ始めた。これはプリファイのOPであり、

 

(私のスマホですわ!この音は!!)

 

急いでスマホを探すが手元にはない。

 

慌てて音源を耳でたどるとベッドの下から聞こえてくる。急いでベッドの下に潜り込み、手を伸ばす。

 

「ふぬぬぬぬ!ふぬぅうう!!!」

 

カワカミプリンセスは電話が切れないことを祈りながら手を伸ばす。せめて声だけでも聴きたいと。

どうにか指先が届きそのまま慎重に引き寄せ間髪入れずに耳にスマホを当てると

 

『もしもし、大丈夫か?カワカミ』

 

トレーナーの声が飛び込んできた。

 

「ド、ドレ゛ーナ゛ーざーん゛!!!」

 

カワカミプリンセスの瞳から再び涙が流れた。しかし先ほどの涙のように冷たくはなく、暖かい。

 

「私!今日が誕生日なのに!朝起きたら大雨で!トレセン学園も休校になって!友達にも会えなくて!雨ばっかりで!そして誰にも『誕生日おめでとう』って言ってもらえなくって!」

 

『……』

 

トレーナーは黙ってカワカミプリンセスの話を聞き続けた。

思いを全て吐き出したカワカミプリンセスは少し落ち着きを取りた。

 

「す、すみませんトレーナーさん。こんなこと急に言われても困りますわよね?」

 

『いや、気にすることはないさ。そうだな、気晴らしにこれでも見たらどうだ?』

 

ピロンとSNSのウマineの通知が鳴り画面を確認するとURLが表示されていた。有名な有料の動画配信サービスサイトであり、料金を払えばネット上に部屋を作り、親しい者たちと同時視聴ができるというものだ。

 

『プリファイの最新映画だ。映画館で見たが、配信ではまだだろう?もう一度見直したいと言ってたしな』

 

「…いいんですの?」

 

『おう、今日は俺のおごりだ。あとで合流するから先に入ってろ』

 

そう言い残してトレーナーは電話を切ってしまった。

 

(結局『誕生日おめでとう』とは言ってもらえませんでしたわ……)

 

ともあれせっかくのお誘いなのだ。断る理由はない。

 

 

カワカミプリンセスは早速アプリを立ち上げ指定された部屋に入る。まだトレーナーは来ていないらしい。

 

数分後、

 

『トレーナーが入室しました』

 

(あ、トレーナーさんがやっときましたわ。それではさっそくプリファイ映画を堪能しましょうか)

 

そして再生ボタンを押そうとすると

 

『スイープトウショウが入室しました』

 

(え?)

 

『ウオッカが入室しました』

 

『ダイワスカーレットが入室しました』

 

(え?え?)

 

『シーキングザパールが入室しました』

 

『エアグルーヴが入室しました』

 

『キングヘイローが入室しました』

 

他にも次々と見知った名前が入室してくる。

 

「え?え?これは何が起こってるんですの?」

 

困惑するカワカミプリンセスをよそにトレーナーが部屋にいる全員へ向けて通話を開始した。

 

『みなさん、こんにちは。本日はお忙しい中”カワカミプリンセス誕生日パーティー”へお越しいただきありがとうございます』

 

「え!?」

 

『本来はトレセン学園にてサプライズパーティーを催す予定でしたが皆さんご存知の通り大雨で中止せざるを得ず、急遽このような形になりました。申し訳ありません』

 

「ちょ!ちょっと待ってくださいまし!」

 

カワカミプリンセスの制止を無視してトレーナーは話を続ける。

 

『パーティーに参加する予定だった方以外にも呼び掛けたところ、これほど多くの方に来ていただきました。多少時間がかかってしまいましたが』

 

シーキングザパール:『おかげで遠征してる私もパーティーに参加できたし、いい仕事したわね』

 

トレーナーはさらに続ける。

 

『これもうちのカワカミプリンセスが皆さまに愛されてる証拠です。これからもカワカミプリンセスのことをよろしくお願いします』

 

カワカミプリンセスは驚きのあまり言葉を失っていた。

 

「と、トレーナーさん……」

 

『それでは皆様、僭越ながら私からカワカミプリンセスへ最初の一言を贈らせて頂きます』

 

一呼吸。

 

 

『誕生日おめでとうカワカミ』

 

 

「っ!」

 

一番欲しかった言葉がやっともらえた。その間違いない事実に胸からじわりと暖かさが広がり、先ほどまでとはまた違った涙があふれ出てくる。

 

すぐに返信をした方が良いが体が震えて指が思うように動かない。その間も、

 

スイープトウショウ:『ふん、祝ってあげるわ。感謝しなさい』

 

ウオッカ・ダイワスカーレット:『『おめでとうございます!カワカミ先輩!』』

 

エアグルーヴ:『おめでとう、カワカミ』

 

シーキングザパール:『HappyBirthday!』

 

などと次々と祝福の言葉が打ち込まれていく。トレセンの友人や親しいファンや番組のプロデューサー、自分に憧れてくれている男の子やそのおば様などなど数えきれないほど多くの人が祝ってくれた。

 

「あ……ああ……うううううう!!!」

 

そして落ち着いたころに憧れの人からの言葉が届いた。

 

キングヘイロー:『おめでとう。良かったわねカワカミさん、こんなにもたくさん”おめでとう”って言ってもらえて。あなたは幸せ者よ』

 

「キングさん!そうですわね……私は幸せ者ですわ」

 

だからこそ皆さんに言うべきことがある。通話ボタンを押し、大きく息を吸い込み、そして

 

「皆さん!私のためにありがとうございます!!!本当に嬉しいですわ!最っ高の誕生日プレゼントですわ!」

 

カワカミプリンセスは心の底から叫んだ。

 

ウマいね!ボタンが次々と押されていく。

 

そして一通り済んだ後

 

トレーナー:『えーでは第二部”劇場版プリファイ”最新作の上映を開始いたしたいと思います』

 

エアグルーヴ:『私はプリファイを見たことかがないのだが大丈夫だろうか?』

 

キングヘイロー:『安心してくださいませ。初めにプリファイのわかりやすい説明が入りますし、アクションメインだから誰でも楽しめるようになっているのよ』

 

エアグルーヴ:『?やけに詳しいな』

 

キングヘイロー:『キ、キングとして当然の嗜みなのよ!』

 

どやどやとプリファイの説明文が書き込まれていく。カワカミプリンセスも説明したかったが軽く1時間は超えてしまいそうなので堪えた。

 

トレーナー:『じゃあカワカミ、再生ボタンを押してくれ』

 

カワカミプリンセスは大きく深呼吸し、頭の中で今回参加してくれた人たちの顔を思い浮かべながらボタンを押し込んだ。

 

 

その顔からはもう涙はあふれてこない。あふれたのはカワカミプリンセスの笑顔であった。




出来上がった後に気づきましたが2022年6月5日は日曜日で登校日ではありませんでした。ウマ娘次元では平日ということでご勘弁お願いいたします。
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