登場キャラクター
カワカミプリンセス
スイープトウショウ
ニシノフラワー
「ニンジンさんとトマトさん、そしてピーマンさん…これでそろいました♪」
とあるスーパーで木製のバスケットを片手に持ち買い物を楽しむ1人の小さなウマ娘。
彼女の名前はニシノフラワー。一見幼くはかなげな雰囲気を醸し出すがレースにおいては数多の強敵を打ち破ってきた猛者だ。
そんな彼女は最近体を壊しがちなトレーナーのために栄養たっぷりの弁当を作ることを決め、その買い出しとしてスーパーに訪れていた。
(必要なものはそろいましたしレジに向かいましょう)
そう思いながらニシノフラワーがレジへ足を向けると視界にお菓子コーナーが目に入った。色とりどりの駄菓子やチョコレート、クッキーなどの甘いものが並び、何を買おうかなと小銭を握りしめて必死に悩む子供たち、親におもちゃ付きのお菓子を泣きながらせがむ子供などを見るだけで自然と笑みを浮かべるニシノフラワー。
(少し覗いてみましょうか)
その雰囲気に魅かれたせいもあるが彼女には興味のある製品があった。
それはプリファイチョコ。小さな袋にウエハースのチョコが入っているのだがニシノフラワーのお目当てはそれではなく、同封されている長寿アニメシリーズ「プリファイ」のシールであった。
プリファイチョコのシールは子供向けながらもクオリティが高く、中には高額で取引されることもある。
ニシノフラワーにとっては高価であろうがなかろうがどんなプリファイのシールであっても宝物であった。
のだが、
(だ、誰もいませんよね…?)
ニシノフラワーは周囲を警戒しながらプリファイチョコの場所へと向かう。彼女はプリファイのことが好きなのであるが、その一方で恥ずかしさも感じている。それは自分が小学生くらいの子供と同じ感性を持っているように思えたからだ。
ニシノフラワーは中学生という身分ではあるが飛び級であるため実際は小学生と変わらない年齢でありプリファイが好きであるのは自然なことである。だが恥ずかしいものは恥ずかしいのである。
周囲に誰もいないことを確認しプリファイチョコに手を伸ばそうとしたその瞬間、
「あっりやがりましたわーーー!!!!プリファイチョコがあああ!!!!」
大地を震わせるような大声を出しながら1人のウマ娘がニシノフラワーの元へダッシュで近づいてくる。
「!?」
その溢れんばかりの気迫と鬼気迫った勢いに驚いたニシノフラワーは反射的に近くで積んであった段ボールの物陰に隠れてしまった。
ギギギギキキキィィィ!!!!と急ブレーキをかけて制止したウマ娘。長髪栗色の髪から汗を流すその姿にはどこか見覚えがある。
(あの人は確か―――)
名前を思い出そうとしたニシノフラワーの耳に今度はなじみのある声が入って来た。
「レースみたいに走るんじゃないわよカワカミ!!!」
(スイちゃん!?)
スイちゃんことスイープトウショウ。ニシノフラワーと同様飛び級でトレセン学園に入学したウマ娘である。年齢が近いせいもありよく一緒に行動している仲だ。
(もしかしてあの人がカワカミプリンセスさん?)
スイープトウショウに怒られて必死に弁解するウマ娘の姿を見てニシノフラワーは確信を持った。
(なるほど、確かに元気いっぱいな方ですね)
たまにスイープトウショウの口から出る名前であった。大抵は「バ鹿だ」「雑だ」「非常識だ」などの悪口であったが、カワカミプリンセスとのレースを語る際は生き生きとしておりスイープトウショウと仲が良いウマ娘であることは容易に想像できた。
(でもどうしてここに?)
「全くあんたのプリファイ好きも度が過ぎるわね。そこまで息巻いちゃって。おこちゃまね~」
「そりゃあ興奮してしまいますわよ!!プリファイ第13シリーズ『マジカルプリファイ!』の限定復刻盤ですのよ?」
「え!?本当!?あの魔法の魅力がたっぷり詰まった作品でしょ!?」
「あ~スイープさん特にこのシリーズ好きでしたわね」
「あったりまえじゃない!!プリファイに魔法がついてんのよ?最高以外ありえないわよ!!」
プリファイチョコの前でギャーギャーとプリファイ愛を叫ぶ2人に数多くの視線が集まるが、2人とも意に介することはない。
彼女らの知り合いであるニシノフラワーの方がむしろ恥ずかしくなってくるほどであったが、
(いいなあ…)
周囲のことを気にすることなく自分の好きなものを堂々と語れるこの2人の姿にニシノフラワーは羨望を感じていた。
自分もあんな風に正々堂々プリファイを好きだと胸を張って言ってみたい。でも…
「さあこの一箱を買っちゃいますわよ!!大人買いの爆買いですわ!!」
「あらそう。じゃあ残りの箱ぜーんぶ買っちゃおっと」
「ぜ、全部ですの!?そ、そんな魔法みたいなことができるはずが…」
「ふっふーん。アタシにはグランマから渡された魔法のカードがあるのよ!!」
スイープトウショウは懐から黒色のクレジットカードを取り出す。
「この魔法さえあればプリファイチョコなんていくらでも買えるのよ!」
「そんなのズッコイですわよ!!」
「魔法少女スイーピーの弟子なのにこんな魔法も使えないわけ?」
「ぐぬぬぬぬぬぅぅぅうう!!!だいたいそんなに買ってチョコは食べきれるんですの!?」
「フン、使い魔のエサにすれば問題ないわよ」
悔しがるカワカミプリンセスを無視してスイープトウショウは買い物かごにプリファイチョコの箱を詰め込んでいく。
「さあて箱はこれで全部ね?あとはばら売りの分も買っちゃおっと」
スイープトウショウが残りのプリファイチョコに手を掛けようとする。
(っ!?)
このままだと今日はプリファイチョコが買えなくなるかもしれない。そう思ったニシノフラワーは
「ま、待ってください!」
そう言いながら物陰から飛び出した。
「「?」」
2人が状況を把握するためにニシノフラワーを見ること数秒、
「フラワーじゃない。アンタこんなとこで何してんの?」
「え…あの、その…わ、私!」
ニシノフラワーは拳をキュッと握りしめ、
「私!プリファイチョコが欲しいんです!!」
普段の彼女からは想像できないほど大きな声で叫んだ。自分でもわかるほど顔が真っ赤になり目をつぶって必死に恥ずかしさに抗っていた。
「ふーん」
そんな彼女の元へスイープトウショウは近づき、
「いくつ欲しいわけ?」
何の抵抗もなく問うてきた。
「え!?」
予想外の質問にニシノフラワーは素頓狂な声を上げる。
「だから、アンタはいくつプリファイチョコが欲しいのかって聞いてんのよ」
「あ、その、えっと……ひ、1つです」
「あっそ、はいこれ」
スイープトウショウはかごからプリファイチョコを取り出しニシノフラワーへと手渡した。
「え…い…いいの?」
「?いいに決まってるじゃない。フラワーも好きでしょプリファイ」
「〜~~~~!!」
プリファイ好きであることがバレていた事実に耐えきれず顔を隠してしゃがみ込むニシノフラワー。
「ス、スイちゃん知ってたの?」
「当たり前じゃない。アンタと話してるとプリファイのセリフがたまに出てくるし、たまにプリファイの漫画読んでたでしょ?ブックカバーはしてたけど」
ますます恥ずかしくなり頭を抱え込んでうずくまるニシノフラワー。
「どなたとお話してるんですの?スイープさん」
カワカミプリンセスが不思議そうに2人の会話に加わる。
「あーうん、アタシの友達でプリファイオタク」
「ス、スイちゃん!?ちゃんと説明してください!」
「えー面倒くさい」
抗議の声をあげようとしたニシノフラワーの肩にポンと手が乗せられた。
「事情はわかりましたわ」
その手の主カワカミプリンセスはウンウンと首を振り、
「同志よ、これから仲良くいたしましょう」
悪化した。
「ち、違います!」
「プリファイお嫌いですの?」
「い、いえ。好きです……」
そう聞くや否やカワカミプリンセスはニシノフラワーの細い腕をガッシと掴み、
「ではさっさと帰ってプリファイチョコ開封としゃれこみましょう!」
ズルズルとニシノフラワーの身体を引きずり始めた。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「そうよ、待ちなさいカワカミ」
まさかのスイープトウショウからの助け舟にホッとするニシノフラワーだったが、
「マジカルプリファイを流しながら開封しなさい」
「モチのロンですわ!!!」
「ノッた」
空いていたニシノフラワーの手を握ったスイープトウショウはカワカミプリンセスとともにニシノフラワーを引きずっていく。
「わ、私にはまだやらないといけないことが〜!」
などと拒否していたニシノフラワーであったが、
「こ、これ!14話の名シーンですね!」
「う、グスっ。な、涙が出ちゃいます…」
「「「プリファイ!!エクスタシーストリーム!!!」」」
などとニシノフラワーはスイープトウショウとカワカミプリンセスと共にプリファイを一晩中楽しむのであった。
翌日、トレーナー休憩室にて
「これは珍しいですね。お2人ともお弁当ですか?」
ニシノフラワーのトレーナーがカワカミプリンセスのトレーナーとスイープトウショウのトレーナーに話しかけた。2人はいつもなら食堂で食べるかカップラーメンで済ませている。
「うちのカワカミが珍しく弁当を作ってくれまして」
「スイープもです。というか初めてです。…夢じゃないですよね?」
2人の手には真新しい弁当箱がある。
「でもあのカワカミが作った料理となるとだいぶ不安です。それに引き換えニシノフラワーさんのところは羨ましい限りです」
「いやー割と久しぶりに作ってもらいまして。最近出張が多かったものですから」
などと会話をしていると3人のお腹から大きな音が鳴り響いた。
「それではいただくとしましょう」
「「はい」」
3人は一斉に弁当箱の蓋を開ける。弁当の中身はニシノフラワー、スイープトウショウ、カワカミプリンセスの順に
丁寧に並べられたウエハースチョコ
雑に並べられたウエハースチョコ
粉々に砕かれたウエハースチョコの亡骸
であった。
「「「……え?」」」