シーキングザパールも少し出てきます。
「はぁ~♡やっぱりクリスマス前にはこの話ですわね~♡」
栗東寮の一室にてカワカミプリンセスは彼女が敬愛するアニメ、プリンセスファイター通称プリファイのクリスマス回をうっとりとした目で堪能していた。
「クリスマスをめっちゃくちゃにしようとするダークプリンセス!それを防ぐために人知れず立ち向かう1人のプリファイ!!孤軍奮闘して何とか追っ払いましたが自分だけクリスマスを過ごせなかったことに悲しみますの…そ・こ・に!!颯爽と王子様が現れ『僕たちのクリスマスはこれからさ』とプリファイをそのたくましい腕で優しくと抱きしめてくれますのよ!!!んもう~たまりませんわ!!!!」
テレビの前で興奮しながらシャドーボクシングを繰り返すカワカミプリンセス。その後姿を眺めていた彼女と同室のウマ娘であるシーキングザパールはカワカミプリンセスに問いかけてきた。
「なるほど。これがカワカミが考える最高なクリスマスのシチュエーションというわけね?」
「その通りですわ!はぁ~王子様と一緒にクリスマスを過ごしたいですわ~!!」
「つまり、あなたのトレーナーとクリスマスを過ごしたいというわけね」
「はい!!――え!?あ、あの…その…トレーナーさんとはそういう仲ではなく…その…」
「いつも『私のトレーナーさんは王子様ですわ!!』って言ってるじゃない?」
「ええと、その…それに間違いはないんですけれども…」
カワカミプリンセスは肩を下げて自信なさげに指をいじりながら答えを振り絞る。
「トレーナーさんが私と一緒のクリスマスと過ごして楽しんでくれるか不安でして…」
カワカミプリンセスは日頃から息をするように物を破壊しており、そのたびにトレーナーに迷惑をかけている。そんなやっかいな自分とクリスマスを一緒に過ごすことを嫌だと思わないだろうか?それが彼女にとって気がかりであるのだ。
そんな彼女に対してシーキングザパールは軽くため息をつき、
「大丈夫に決まってるじゃない。私から見てもお似合いのカップルよ?」
「で、でも…それとクリスマスイヴ当日は夜の出歩きが厳しく禁じられていることはご存知ですわよね?加えてトレーナーと言えどもウマ娘の寮に入るためには面倒な手続きが必要ですもの。とても会えそうにはありませんわ…」
「それができるとしたらどうかしら?」
「ふえ?」
シーキングザパールは机の引き出しから1枚の紙を取り出した。
「今年はそれが可能なのよ」
カワカミプリンセスに差し出された紙に書かれていたのはリストであった。そのリスト名は、
「今年のサンタ役?」
トレセン学園に通うウマ娘の中にはいまだにサンタを信じている娘たちが多くいる。彼女たちの夢を壊さないよう毎年トレーナーがサンタに扮してプレゼントを配り歩くのだ。そのサンタ役は交代制で1つの寮につき1人のトレーナーが押し付けられる。今年の栗東寮担当として書かれていた名前はカワカミプリンセスのトレーナーであった。
「この状況ならカワカミにプレゼントを渡すついでに2人の時間を過ごせるでしょう?」
一瞬ぱあっと笑顔になったカワカミプリンセスであったが、サアッと冷や汗を流しながら顔を青ざめさせた。
「じ、実はですね…小さい頃にサンタに扮したお父様をとっ捕まえたことがありまして、その弾みでお父様の腰をボッキボキにいわしてしまいましたの…。それをトレーナーさんに話したら『お、おうそれは大変だな…』と顔を引きつらせながら言われまして…」
「んー。それなら来ない可能性が高いわね」
まじめなカワカミプリンセスのトレーナーのことだ。サンタの仕事外で必要でない部屋にはまず入らないだろう。また、大切な愛バの眠りを妨げることも避けるはず、とシーキングザパールは予想を立てた。
「なら部屋の近くに来た時ドアを開けてダイレクトに会っちゃいましょ」
「な、なるほどですわ!で、でもトレーナーさんが私と楽しくクリスマスを過ごしたいかどうかはまだわかりませんわ…」
「そこは直接聞くしかないわね。考えるより行動するのがあなたらしく、姫らしい行動だと思うわ。それに可能性を捨てるなんてもったいないわよ」
そう言い聞かされたカワカミプリンセスは数秒沈黙した後、
「っしゃあ!!いっちょやったりますわ!!!」
両こぶしを握り締め、脇をキュッとしめて気合を入れ、決意を固めたのだ。
そうして迎えたクリスマスイヴの夜。
カワカミプリンセスとシーキングザパールは明かりを消した部屋のドアに耳を押し付け廊下の様子をうかがっていた。
まだ足音はしていない。
「そろそろ時間のはずだけど…」
シーキングザパールがスマホで時間を確認すると予想していた時間より遅れていた。まだ許容範囲ではあったが。
スマホから目を離してうっすらと見えるカワカミプリンセスの方へ目を向けると耳をドアへグイグイと押し付けわずかな音でも聞き逃さないよう必死な形相をしていた。
その姿にシーキングザパールが思わずほほ笑んだその時、
「っ!来ましたわ!」
小声ではあるが明らかに興奮しながらカワカミプリンセスが告げてきた。
ウマ娘の特徴上、人間には聞き取れないかすかな音を聞き取ることはできるが誰から発せられた音なのかを聞き分けるには個人差がある。
「聞き間違いの可能性はないわね?」
「あり得ませんわ。いつも聞いている足音ですもの」
熱くなった頬を扇ぐシーキングザパールには気づくことなく、カワカミプリンセスは足音に集中する。
打ち合わせでは寝ぼけてドアを開けるとなんとビックリ!トレーナーさん!!ということになっている。
あと数歩で2人の部屋にたどり着く。
(さあ!いつでもバッチ来い!!ですわ!!!)
と決意を固めたが、
「!?足音が遠ざかっていきますわ!!」
まだプレゼントを配るウマ娘はおり2人の部屋を通るのは間違いなかったはずであった。
だがトレーナーの足音は遠ざかっていく。
冷静に考えれば何らかのアクシデントがあったと考えられたであろう。
だが、姫にそのような余裕はなかった。
バーン!と大きな音を出しながらドアを開け、トレーナーがいる方へと飛び出して行ってしまった。
トイレに行くためいったん引き返そうとしたトレーナー。そんな彼の元へタタタタタタ……と足音が近づいていく。
「こんな時間に起きている奴がいるのか?」
注意した方が良いのか?でも今の自分はサンタ姿だしなあ、と悩むトレーナーの元へと足音の主が近づき、
「ご、ゴヴァアアア!!!」
タックルをかまされ、
メキメキィゴギリ!!
と万力で絞められたかのようにトレーナーの腰が異音を鳴らしながら砕かれていく。
「うぐううう!!!」
脂汗を出しながら痛みに耐えるトレーナー。
せめてプレゼントは死守せねばと、両手でプレゼントが入った袋を掲げる。すると、
「ひっぐ…えっぐ…ドレーナーざーん!!」
聞きなれた声が下から聞こえてくるではないか。
「か、カワカミ!?」
涙と鼻水で顔がグシャグシャになっているカワカミプリンセスはトレーナーに抱き着きながら泣きじゃくっている。
「ど、どうじでどっがにいっぢゃいまずのぉぉ!!!」
何がどうなっているのかが全く分からないトレーナーであったが、
「よくわからんが、まあ落ち着け」
カワカミプリンセスの頭にポンと手を置き頭を撫でて落ち着かせる。
しばらくした後、トレーナーはカワカミプリンセスから事情を聞き事態を把握した。
「トレーナーさんはその…やっぱり嫌ですわよね。サンタにタックルかまして入院させるウマ娘とクリスマスを過ごすなんて…」
トレーナーの腰はその驚異的な再生力により既に感知していた。が、そういう問題ではないなとトレーナーは考え、
「そんなことはないさ。クリスマスはカワカミと過ごそうかなと思ってたんだぞ?」
「で、でしたら!証拠を見せてくださいませ!!」
無理な要望であると気づき、言ってしまったことを後悔したカワカミプリンセスであったが、
「いいぞ。少し待っててくれ」
トレーナーは袋から何かを取り出しそのままトイレへと入っていった。
「え?あの…トレーナーさん?」
わけもわからないまま待つこと数分。
「お待たせ」
トイレから出てきたトレーナーの姿はサンタ服ではなかった。中世時代のヨーロッパ貴族が着ていたような青を基調とした衣装を身にまとい、頭の上には小さな王冠を乗せている。
「あの、その格好はもしかして……」
「あーやっぱ似合わないか?一応王子様のつもりなんだが…」
なぜトレーナーさんが王子様の姿に?と混乱するカワカミプリンセス。
「前に言ってただろ?小さい頃のクリスマスの話」
「は、はい。お父様の腰をバッキバキにした話ですわよね?」
「ん?ああ、そういう話もあったな」
「え?他に何か話しました?」
「欲しかったプレゼントは『王子様』だったってさ」
「……あ!」
確かにおぼろげながらそんなことも話したとカワカミプリンセスは思い出した。いつも王子様をとっ捕まえたいと公言しているため記憶に残っていなかったのだ。
「その時『大変だな』と思ったんだよ。いい年したおっさんが王子様になりきるのはさすがに抵抗があってなあ」
トレーナーは顔を赤くしながらも背筋を伸ばして立ち上がり、
「テイエムオペラオーからアドバイスをもらったおかげでギリギリ王子様っぽくなったよ」
「そ、そんな!どっからどう見ても私の理想の王子様ですわ!!」
「お、おう。ありがとうな」
「で、でもどうしてそこまでして?」
「それはまあ」
トレーナーは膝をついてカワカミプリンセスの手を取り、
「姫の願いを叶えるのが私の使命でございますので」
そのままカワカミプリンセスの目を見つめ、
「いかがだったでしょうか。わが愛しのプリンセス」
「っ~!!最高すぎますわぁ!!!」
あまりの出来事にカワカミプリンセスの顔が真っ赤に染まり、腰が抜けたせいかしゃがみ込んでしまった。
「ははっ!こんな格好をした甲斐があったな!」
トレーナーはいつもの雰囲気に戻り笑いながら立ち上がる。
「も、もう!トレーナーさん!!」
「スマンスマン」
カワカミプリンセスを立ち上がらせるためトレーナーが手を伸ばすと、その手をカワカミプリンセスが両手で掴みつつ立ち上がる。そのまま彼女は胸元まで手を持っていき、
「でしたらもう1つお願いを聞いてもらってもよろしいですの?」
頬を赤くし、瞳を潤ませたカワカミプリンセスに見とれそうになったトレーナーは慌てて視線を逸らした。
「お、おう!何でも言ってみろ!」
赤くなった顔を見られぬよう必死で首を曲げながら答えるトレーナー。
「でしたら、私とクリスマスを過ごしてくださいませんこと?私の愛しい王子様♡」
そんなふうに言われたらトレーナーとして王子様として断ることはできず、
「かしこまりました。お姫様」
その後2人で手分けしてプレゼントを配り終え、クリスマス当日の朝から2人だけの時間を過ごした姫と王子様であった。
前回から5ヶ月以上もの間、更新を滞らせてしまい大変申し訳ありませんでした。
最近になって私生活が落ち着いてきたので少しずつ小説を書いていこうと思います。