お暇なときにお読みいただければ幸いです。
2月3日節分。
トレセン学園恒例の豆まき会が、今年も開催される運びとなった。
鬼役はトレーナーたちが担うこととなっており、カワカミプリンセスのトレーナーである彼も鬼の角をつけてトレセン学園を駆け回っている。
「お疲れ様っす先輩!」
まだ初々しさを感じる声で就任1年目の後輩の女性トレーナーが彼に声をかけてきた。
まだ担当ウマ娘はいないが将来有望と期待されている。
男っぽい口調であるためか、女性としてではなくただのかわいい後輩としてカワカミトレーナーは接していた。
「おーう、そちらもお疲れさん」
節分経験があるカワカミトレーナーは余裕のある表情で応えると、
「…大丈夫っすか先輩」
「ん?何がだ?」
「だって先輩の担当ウマ娘はあのカワカミプリンセスっすよね?」
担当トレーナーがついてるウマ娘の豆を受ける鬼役は、そのトレーナーが行うのが通年のしきたりであった。
「あのバ鹿力で豆をぶつけられたら先輩の体に穴が開いちゃったりするんじゃ…?」
一瞬何を言っているかわからないカワカミトレーナーであったが、
「ああ、なるほどな。心配しなくても大丈夫だぞ。ほれ」
カワカミトレーナーはスマホを操作し、1枚の写真を彼女に見せた。
「…?何すかこの粉?」
その写真に映し出されていたのはカワカミプリンセスとカワカミトレーナー、そして大量の薄い黄色粉であった。
「大豆だ」
「大豆?豆なんてどこにもないっすよ?」
「あるだろ、大豆『だった』ものが」
「……あ!これ大豆!いや、きな粉っすか!!」
その通り。写真に写っていたのは大豆が文字通り粉々になり、きな粉になったものであった。
「カワカミがフルパワーで投げたせいか空中で爆散してなあ。豆がぶつかる大惨事は避けられたっていうわけさ。いやーあの時は大変だった。エアグルーヴに鬼のような目で監視されながらの掃除だったからなぁ。カワカミは半泣きしながら掃除してたし」
「そ、そうなんすか。想像以上っすね…」
「まったくだ。カワカミにはいつも驚かされる」
そんなカワカミとの日々ではあるが、カワカミトレーナーは嫌に思ってはいない。何事にも全力疾走な彼女との毎日は刺激に満ち、退屈などとは無縁だからだ。
その後も話をしながら歩いていると、
「あ!トレーナーさん!!見つけましたわよ!!!」
性格を表したかのようなストレートな長髪をなびかせ、腕を大きく振り被りながら彼らに突撃してくるカワカミプリンセス。
今日も元気いっぱい絶好調であった。
それを見たカワカミトレーナーは後輩トレーナーの横で豆を受けるポーズをとる。
(まあ、今回もきな粉になるだけだ。構えるだけ無駄なんだがな)
カワカミプリンセスの手元から高速で発射されていく豆。何気なしにそれを視界に入れると、違和感に気づく。
大豆にしては大きい。それでいて長くゴツゴツとしている薄黄色の物体。その正体は、
(ピ、ピーナッツだとぉぉぉおおお!?)
瞬間カワカミトレーナーは昨日の打ち合わせを思い出した。
今年からは掃除の手間を減らすため、試験的にピーナッツも混ぜることにしたと。
その時は疲れもあり適当に聞き流していたが、
(これはマズい!!)
カワカミトレーナーの予想した光景が目の前で発生していた。
カワカミプリンセスのパワーに耐え切れなくなったピーナッツの皮は割れ爆ぜ粉々になった。
が、中身の豆部分は直接パワーを受けていなかったせいか形を保ち、皮の爆風にあおられながら多方向へと広がっていく。
それが約10個。豆数にして20個程度。
さながらクラスター弾のように破壊力を保ちながらばらまかれていく。
カワカミトレーナーのみであったならばいつも通り致命傷で済む。
だが、今はすぐ横に後輩トレーナーがいる。
もし彼女に怪我を負わせることとなれば暴力ウマ娘との悪評が広がり、最悪の場合引退へと追い込まれる可能性がある。
(くっ、間に合え!!)
「え?先輩?きゃあああ!?」
カワカミトレーナーは後輩トレーナーへの被弾を防ぐため、女性らしい悲鳴を上げる彼女に覆いかぶさった。
突然の出来事に思わず目を閉じてしまった後輩トレーナー。
数秒の時を経て恐る恐る目を開けると、
「だ、大丈夫か?」
カワカミトレーナーの顔がすぐ近くにあった。
初めて感じる異性からの強い眼差しに目を反らすこともできずにいる彼女。
そんな彼女にカワカミトレーナーは、
「ウゴ!ゴボボボボオオオ!!」
大量の血液をぶちまけた。
赤く染まっていた後輩トレーナーの頬のみならず顔全体を深紅に染め上げていく。
「ひ、ひいいいいいぃぃぃいやあああああああ!!」
後輩トレーナーは恐怖から逃れるため、その場を走り去ってしまった。
即断即決即行動した後輩の姿に感心するカワカミトレーナー。
いつも通り問題なく傷が塞がり始めたことを確認した後、
「ふう…何とか無事に収まったな」
カワカミプリンセスの手を汚さなかったことに安堵し、カワカミプリンセスの方へ振り替えると、何故か顔を大きく膨らませていた。
「ん?どうした?」
「ト、トレーナーさんの……」
「?」
「お破廉恥ぃぃぃいいいいい!!!!」
ピーナッツクラスター弾がトレーナーの体にぶちまけられた。
「なんでだあああ!?ゴバァァ!?」
こうして今年の節分はカワカミトレーナーが後輩トレーナーに避けられるという些細な変化のみで幕を閉じた。
これが後に語られる鮮血の節分である。
1年以上投稿に空きができてしまい大変申し訳ありませんでした。