主な登場人物:カワカミプリンセス、スイープトウショウ
トレセン学園、屋上。1人のウマ娘の姿があった。背丈は低く、茶色のツインテールを風に靡かせている。頭には彼女の頭上をすっぽりと隠す黒いとんがり帽子、魔女の帽子を被っている。
「今日こそ飛んで見せるわ!」
背丈以上の長さがある箒に跨るウマ娘。名はスイープトウショウ。小柄な身体に見合わない力強い走りをするウマ娘だが、他人の言うことを全く聞かないワガママさの方が有名となっている。そんなスイープには幼いころからの夢がある。グランマのような魔女になる夢だ。
今日は魔法で空を飛ぶ訓練をするため、屋上に来ている。
「ええ~と、たしか呪文は…」
ゼンノロブロイから教えてもらった呪文だ。有名な魔法使いたちが使う呪文らしい。分厚い小説を持ちながら力説されたことをよく覚えている。
…あ、思い出した!
呪文詠唱のため空気を大きく吸う。そして唱えた。
「ウィンガーンダム・レビオーサ!」
飛ばない。
「ウィンガーディアン・レビオーサ!」
飛べない。
「ウィンガーディアム・レディオッサン!」
飛べぬ。
「ああああ!!!!飛べないじゃない!」
地団駄を踏むスイープ。
「ドッタンバッタンうるせーですわよ〜」
そこに現れたのは栗毛で長髪の少女、カワカミプリンセスだ。スイープトウショウの後輩であるが何度もレースで競った縁もあり今では遠慮なく話せる仲である。
「あんた言われたくないわよ!このじゃじゃウマ娘!」
「姫の華麗なるステップを理解できないとはとんだおこちゃまですわね~」
「おこちゃまアニメを見てるあんたの方がおこちゃまでしょうが!」
「プリファイのことですの?老若男女お涙ドバドバの名作ですわよ。プリファイのすばらしさを知らないなんて損な生き方をしていらっしゃいますのね?」
「っはぁ~!?プリファイなんかより魔法の方が価値があるわよ!」
「魔法…魔法!?」
先ほどまでのトゲトゲした空気はどこへやら、カワカミプリンセスが目をキラキラさせてスイープトウショウを見つめてきた。まるでヒーローショーに興奮する子供のようである。
「魔法が使えるんですの!?本当ですの!?」
「え、ええ使える…わよ…」
スイープトウショウは嘘をついた。本当はまだ使えないのだ。しかし後輩の前で見栄を張ってしまった。
カワカミプリンセスは箒をジィーっと見つめ、手を打った。
「なるほどのガッテンですわ!その箒で空をスイスイスイーっと飛ぶのですわよね!」
「そ、そうだけど……」
「プリファイ3期でそんな風に飛ぶキャラクターがいらっしゃいまして、私ひそかに憧れていましたの!今!その夢が叶う時が来ましたのね!ッシャァですわ!!」
カワカミプリンセスはスイープトウショウから箒を掻っ攫い、跨った。位置は後方。前方には1人分のスペースがある。
「ぜひ!私も空の旅をご一緒したいですわ!」
箒の柄をバッシバシと叩きながら催促してくる。…逃げたい。スイープトウショウは生まれて初めて逃げ適正がないことを悔やんだ。だが、
ここで逃げたら魔法はないという証明になってしまうのではないか?魔法がないから飛べないのだ、と。
…違う!魔法はあるの!それを証明してやるわ!
決意を胸に、スイープトウショウは箒の前方に跨った。
「しっかり掴まってなさい!」
「はいですわ!」
「いくわよ!ウィンガーディアム・レビオーサ!」
意を決してスイープトウショウは地面を蹴った。魔法が発動していれば箒は浮いており、蹴りの加速でそのまま飛翔する、はずだった。
ストン。着地した。飛翔時間はコンマ数秒。とても飛べたとは言えない。
「あら?おかしいですわね……」
「おかしくない!」
「え?」
「魔法はちゃんとあるの!私が…私が未熟なだけなの!魔法はあるんだから!」
己の未熟さを見せるのは死ぬほど嫌だったが、それ以上に魔法が否定されるのが嫌だった。
何で?何で飛べないの?
「……もしかして飛べないのですの?」
「…そ、そうよ飛べないのよ!…今は」
疑問を投げかけるカワカミプリンセスへ振り向きスイープトウショウはそう答えた。決して言い訳ではない。
すると、
「では特訓しましょう!手伝いますわ!」
腰に両手を当て、でかい胸を逸らしながらカワカミプリンセスは叫んできた。
「え、ちょっと、何でよ!?」
「姫たるもの!困っている方を助けるのは当然の行為ですわ!」
…はぁこいつは本当に、
「おバ鹿ねぇ…」
「おバ鹿!?」
だから
「仕方がないわね!付き合ってあげる!」
カワカミプリンセスを加えての飛行訓練が始まったのだが、
「ところでカワカミ」
「何ですの~?」
「あんた何でこんなところに来たわけ?」
「ああ、それですか~。トレーナーさんを探しに来たのですが……」
「あんたのトレーナー?」
「そうですわ。今日は休日なのですが来週のレースが気になりまして。トレーナーさんに自主練やっちゃっていいか、と尋ねに来たのですがトレーナー室にはいませんでしたの。そこでたまにトレーナーさんがたまに屋上でグースカピーしていることを思い出し、屋上までダッシュしてきましたの」
「ふーん。電話しないわけ?」
「どうやら電源切ってるらしく繋がりませんでしたわ。どうやら本格的なグースカタイムに勤しんでいるようです」
すごくどうでもいい理由だった。平日のトレーニングですらサボる自分としては休日にトレーニングしようとする神経が理解できない。
「そんなことより、ロブロイに確認したんだけど呪文は『ウィンガーディアム・レビオーサ』であってるみたいよ」
Umaineというメッセージアプリでゼンノロブロイに確認してもらった。十行以上にもわたって詳しく解説していたが、わけがわからないので既読だけつけておく。
「呪文は間違っていないようですわね。だとしたら別の理由、例えばイメージ不足などでしょうか?」
「イメージ?そんなの意味あんの?」
「『私は最っ高の姫!』とイメージしたら瓦50枚を割れるようになりましたわ!」
「へー、ちなみにその前の記録は?」
「49枚ですわ!」
「ほとんど変わらないじゃない!」
「でも、確かに効果はありましたわ!トレーナーさんからも効果があることは確認済み!理屈の説明を受けてもチンプンカンプンでしたが」
「…本当に効果あるの?」
「思い立ちゃあ吉日!敵が出たら速変身ですわ!とりあえずやってみましょう!」
まあ、他にアイディアないしやってみようか。楽そうだし。
スイープトウショウは再度箒に跨る。
(私は魔女のスイーピー私は魔女のスイーピー私は魔女のスイーピー私は魔女のスイーピー…)
イメージする。自分は魔法が使える、箒で空を飛べると。
よし!
「行くわ!」
「ぶうっ飛ばしてあそばせ!」
「ウィンガーディアム、レヴィオーサ!」
スイープトウショウは思いっきり地面を蹴り、着地した。
「飛べないじゃない!」
「飛べましたわよ?先程よりもほんのりちょっぴり長く」
「ほっとんど変わりないわよ!」
先程よりも強く蹴っただけだ。気合が入って強く蹴れたという意味では効果があったと言えなくはないが…。
「おっかしいですわね〜イメージが足りないのでしょうか?ちなみに今まで生身で飛んだことあります?」
「あるわけないじゃない!」
「…え?ありませんの?」
信じられないという顔でカワカミプリンセスは見てくる。
え?普通のウマ娘って飛べるの?魔法なくても?
「仕方がありませんわね~。飛ぶ感覚、とくと味わいやがりなさいませ!」
カワカミプリンセスはスイープトウショウの上半身と下半身に手を回し、横向きに持ち上げた。いわゆるお姫様抱っこだ。
え?何?
そしてカワカミプリンセスは走り出した。フェンスに向かって。
何?何?
フェンスまでわずかな距離であったが、カワカミプリンセスの圧倒的なパワーのおかげですぐに最高速まで到達した。
何?何?何?
フェンス前で一度ジャンプ。
何?何?何?何?
フェンスに足を掛け大跳躍。
カワカミプリンセスたちは飛んだ。フェンス越しの空へ。
二人は宙を舞っていた。
「なにぃぃぃいいいい!?」
初めての経験に頭がついていかない。
風を感じる。太陽が見える。雲が近い。
そうか、これが飛ぶという感覚…!
「ってぇぇぇええ!跳んでるだけじゃないぃぃぃいい!」
下を見るのが怖いので、カワカミプリンセスの顔を見る。そこには申し訳ない表情があった。
「ごめんなさい、スイープさん。私、箒を忘れてしまいましたわ…」
「今はそれどころじゃないでしょぉぉぉお!」
「落ち着け、ですわ。こういう時はまずは冷静に」
「あんたは落ち着きすぎよ!」
「大丈夫、心配いらないですわ。御覧なさいませ」
カワカミプリンセスが顔を向ける方へ目を向けると、屋上があった。先ほどの校舎と反対側にあり、高さはやや低い。
「あそこに着地しますわ」
「で、できるの?そんなこと」
「できますわ、安心して下さいまし。一度やったことがありますのよ。おちゃのこさいさいですわ~」
「な、なら大丈夫…よね?」
見る見るうちに屋上が近づく。残り数メートル。カワカミプリンセスは膝を曲げ、衝撃に備える姿勢をとる。
あと少し! 距離は足りている。途中で落ちたり壁にぶつかったりすることはない。
「「届けえぇぇえ!」」
届いた。そして通りすぎた。
「「…………へ?」」
勢い余って校舎の上空を通りすぎていく二人。
「通りすぎちゃったじゃなぁぁあい!」
「あー、ぶっ飛ばしすぎたようですわね~トレーニング成果、出しすぎちゃいました♡」
「トレーニングのバ鹿ぁぁぁああ!」
徐々に視界が狭まり、見る見るうちに地面が近づいていく。
「カワカミィィイ!落下の経験は?着地の経験は?あるわよね、あるって言ってよ!」
「この高さからならありませんわね~…どうしましょ?」
ちなみにこの先に校舎はない。壁にぶつかる危険はないが、地面にはぶつかる。
「…スイープさん、責任は取りますわ」
「ど、どうやって?」
「この足で、ですわ…」
「あ、足?」
「地面に付く直前、足を思いっきりたたきつければ衝撃を打ち消せます…うまくいけば」
「…うまくいかなかったら?」
「私の足がぐしゃぐしゃになっちゃいますわね」
「嫌よ!」
嫌だ!カワカミともう走れなくなるかもしれないなんて!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だぁ!
「でも他に方法はありませんわ」
「あるわ!魔法よ!」
グランマは言ってた。魔法は他の人を思う気持ちがあれば強くなるって。だから、お願い!カワカミを助けて!
「ウィンガァァーディアム、レヴィオォォーサァァァ!」
スイープトウショウは空を飛ぶ呪文を唱えた。しかし、落下スピードは落ちない。この呪文では飛べなかった。
が、
「カワカミィィィイイイイ!!!!!!」
カワカミプリンセスのトレーナーが召喚された。いや正しくは校舎からカワカミプリンセスたちを追って走って出て来たのだ。
そのスピードはウマ娘には及ばない。しかし、人間としては驚異的な速さだ。
トレーナーはカワカミプリンセスの落下ポイントにたどり着き、手を広げた。
「来い!カワカミ!!」
「トレェーナアァァアーさああああんん!!!」
カワカミプリンセスはその腕の中へ飛び込んだ。
ボスッ、グチャッ、ズドォォン!!
瞬間、トレーナー周囲の地面は陥没し、直径約10メートルのクレーターができた。
砂埃が舞う中、二人のウマ娘の姿が浮かび上がる。スイープトウショウとカワカミプリンセスだ。スイープトウショウは無事。カワカミプリンセスの足も無事であった。
一方トレーナーは、
「カ、カワカミ!あ、あんたのトレーナーの足が!」
ぐちゃぐちゃに潰れていた。
「いやあ、二人とも無事でよかった」
足が潰れ、とてつもない痛みがあるはずだ。だがこのトレーナーは平然と笑顔を振りまいていた。
「スイープトウショウ、心配しなくていい、大丈夫だから」
トレーナーは手を上げ、スイープトウショウの頭をなでた。スイープトウショウの罪悪感は消えなかったが、涙は止まった。
「カワカミ、いつものやってくれ」
「は、はい!了解いたしましたわ!」
カワカミプリンセスはトレーナーの砕けた足を思い切り引っ張った。
「な、何してんの!?保健室に連れて行かないと!」
「「大丈夫(ですわ)」」
「へ?」
カワカミプリンセスは引っ張った足を思いっきり押し込んだ。引っ張る、押し込むの動作を何度も繰り返す。するとどうだろう。トレーナーの足の骨は元通りになり、肉は盛り上がり、皮膚は再生していった。
「はい、終わりましたわ」
「な、何よそれぇぇえ!?」
「あら、ご存知ありませんでした?私のトレーナーさん、すっごく頑丈で、怪我もササッと治りますのよ?」
「……知らなかった」
「トレセン学園の皆さんなら誰でも知っていますわよ?」
「……知らないわよぉ!」
「魔法以外にも興味を持った方がいいですわよ。それよりスイープさん、それより、ほら、見て下さいまし!」
カワカミプリンセスはスイープトウショウに己の足を見せた。
「私の足、無事でしたわ!」
「…うん」
「スイープさんのおかげです」
「ち、違う!アタシは何もできなかった!」
「でも、魔法を使ってくださいました」
「で、でも飛べなかった…何の意味もなかったのよ!私の魔法なんて!」
「いや、そうでもないぞ」
下から声がした。まだ体の再生が完了していないせいか、横になっているトレーナーだ。
「俺が校舎を歩いていた時、空から『ウィンガ~ナンチャラ~』って叫び声が聞こえてな、気になって上を見たらお前たちが落ちて来るじゃないか。それに気づけたからこうして全員無傷で助かったってわけだ。スイープトウショウのおかげだよ、ありがとう」
「…………」
「スイープさん、ありがとうございます」
「カワカミ!アンタまで!」
スイープトウショウは顔を真っ赤にして、うつむいてしまった。泣きじゃくり、その顔と涙を隠すために腕で覆ってしまった。
そして数分後、スイープトウショウは泣き止み、顔を上げた。
「フ、フン、ありがたいと思いなさい!でも次はもっとすごい呪文を唱えるんだからね!覚悟なさい!覚えておきなさい!あとその……あ、ありがとう…」
カワカミプリンセスたちに背を向け、スイープトウショウは走っていった。
後日、スイープトウショウはグランマに報告した。初めて魔法で救えた、と。
~後日談~
トレセン学園の庭にクレーターを作ってしまったことを生徒会に報告したところ、副会長のエアグルーヴはキレた。
「カワカミ!またお前か!」
「ご、ごめんなさーい!!」
報告内容は俺ことトレーナーとカワカミプリンセス二人だけでクレーターを作ってしまった、という内容にしておいた。クレーターを作ってしまった理由はカワカミプリンセスに地面を割るトレーニングをさせていたからだ、とした。一応納得してくれたようだが、
「まあ、いいだろう。今度は気を付けるんだぞ『三人共』」
…どうやらバレていたらしい。
罰としてカワカミと俺だけでクレーターを埋めさせられることとなった。
「うぅ……ご迷惑をおかけして申し訳ありませんわぁ~」
「気にするな。これもトレーナーの仕事さ。…ひらめいたけど、これは足腰を鍛えるいいトレーニングになるな!」
「トレーナーさんは鬼ですわ!」
「はっはっは!カワカミを勝たせるためなら鬼にでも悪魔にでもなるさ」
「……もう!トレーナーさんのバ鹿!」
カワカミプリンセスは頬を膨らませながら、クレーターを埋めていく。
「……鬼として一つ言っておく。今回の騒動はお前が悪い」
「……はい」
「暴走しすぎだ」
「……はい」
「でも、今回はスイープトウショウを思っての行動だったんだろ?」
「……はい。空を飛べずに落ち込んでいたので、空をわずかな間でも飛べたら元気が出してくれるかなぁと思って……」
「なら、その思いは間違っていないさ。よくやった、カワカミプリンセス」
「えへへ……トレーナーさん、私、褒められましたわ!」
「調子に乗らない」
「はぁーい」
ふぅ、とため息一つ。俺は甘いなと少しだけ反省するトレーナーであった。
当初はただのコメディの予定でしたが結果こうなりました。割と満足です。
少しだけAIのべりすとと相談しながら作成しました。