【短編集】未熟姫とトレーナー   作:ほいさ

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カワカミプリンセス物語クリスマス編。シリーズ名に反してトレーナー要素が薄くなりましたが、特別編ということで。
AIのべりすとに手伝ってもらいながら作成。
主な登場キャラ:カワカミプリンセス、スイープトウショウ、キングヘイロー


姫、クリスマスケーキを作る

「ふっふっふ~あとはこれを煮詰め続ければ…」

 

トレセン学園栗東寮調理室、昼過ぎ。電気を消し、カーテンで光を遮り、コンロ火の灯りのみを光源とする薄暗い部屋の中で、一人のウマ娘が黙々巨大な鍋をかき回していた。暗いので見えづらいが、鍋の中にはヤモリやカタツムリ、カエル、バッタが放り込まれ紫色の液体で煮詰められている。

 

「秘薬の完せ―――」

 

「くっさいですわね~何作ってやがりますの?」

 

パチッと灯りのスイッチが入れられると、調理室に一人のウマ娘が闇から現れ出でた。黒服に身を包み、黒いとんがり帽子を身に着けている。

 

「あら、スイープさんではありませんか」

 

灯りを付けたウマ娘、カワカミプリンセスは魔女服に身を包むスイープトウショウに声を投げかけた。

 

「カ、カワカミ!いきなり明るくするんじゃないわよ!びっくりするじゃ…あ、しまった!」

 

スイープトウショウが慌てて鍋の中を確認すると、紫色の液体が見る見るうちにどす暗い黒色に変化していっている。

 

「何すんのよ!光当てたから失敗しちゃったじゃない!」

 

「失敗って何ですの?」

 

鼻をつまみながらカワカミプリンセスは鍋に近づき中身を覗き込んだ。

 

「何ですのこのゲロのごった煮は?」

 

「ゲロじゃないわよ!秘薬…になるはずだった物よ!」

 

「はあ、そうなんですの。どうしてこんなゲr…秘薬をお作りに?」

 

「そ、それは…」

 

スイープトウショウは下を向き、もじもじしながら頬を赤らめた。

 

「その、疲労効果のある秘薬を作って使い魔にプレゼントしようと思って…」

 

「ああ!今日はクリスマスイヴですものね!愛のこもったプレゼント!素敵ですわぁ!」

 

「は、はあ!?あ、愛なんてこれっぽっちも込めてないわ!魔法修行のついでよ!ついで!」

 

「そうなんですの?私はてっきり、お疲れ様の意味を込めてのプレゼントかと」

 

「ななな、なわけないでしょうが!そんなことあるはずがないでしょ!バカなこと言わないでよね!」

 

顔を真っ赤にして否定するスイープトウショウを不思議な目で見るカワカミプリンセス。

 

「よく事情は呑み込めませんが、私のせいで失敗してしまったようですね……。申し訳ありません」

 

「ふんっ、別にいいわよ。…すでに10回以上失敗してるし…」

 

「え?何か言いました?」

 

「何でもないわよ!」

 

はぁとスイープトウショウはため息をついた。疲労困憊のトレーナーを元気づけるために秘薬を作ろうとしたがうまくいかず落ち込んでいる。

 

「使い魔…スイープさんのトレーナーさんを元気づけたいのですよね?」

 

「…そうよ」

 

「でしたら―――私と一緒にケーキを作りましょう!」

 

「ケーキ?」

 

「そう!ケーキ!クリスマスケーキですわ!」

 

カワカミプリンセスは棚から紙袋に入った小麦粉を持ち上げ、ドンッとスイープトウショウの目の前に置いた。

 

「材料ならたっぷりとありますわ!」

 

「何でケーキ?」

 

「ケーキを食べれば疲れなんてぶっ飛びますわ!クリスマス効果でさらに倍ですの!秘薬なんかよりよっぽど効果がありますわ!」

 

「…もしかして、あんたのトレーナーに作ってあげるつもり?」

 

「はい!いつも迷惑かけてますから、感謝の気持ちを込めて作りますわ!」

 

満面の笑みを浮かべるカワカミプリンセスを見て、スイープトウショウは少し考えた後、

 

「まあ、やってやるわ」

 

とつぶやいた。カワカミプリンセスはニコッと笑い、スイープトウショウの手を握った。

 

「ありがとうございます!では、早速始めましょう!」

 

こうして二人は厨房に立ちケーキ作りを開始した。

 

 

カワカミプリンセスとスイープトウショウはエプロンを身に着け、厨房に立っている。

 

「ところであんた、ケーキ作ったことあるわけ?」

 

「いえ!これっぽっちもありませんわ!」

 

胸を張り、両手を腰に当てながら堂々と述べた。

 

「威張ることじゃないわよ!」

 

「誰もが皆初心者!レースも料理も最初の一歩が肝心ですわ!」

 

「…確かにそうかもね」

 

トレセン学園栗東寮調理室には冷蔵庫やオーブンレンジなど、基本的な設備が一通りそろっている。2人が立っている場所のすぐ隣にも電子レンジが置かれていた。

調理台には材料の小麦粉、卵、バター、砂糖、生クリーム、そしてイチゴが置かれている。環境並びに材料ともにバッチリとそろっている。

 

「さて、まず最初は~」

 

カワカミプリンセスはスマホを操作し、レシピサイトを開いた。

 

「まずはふるいで小麦粉をふるう…」

 

カワカミプリンセスは下の棚にから2つのふるいを取り出し、そのうちの1つをスイープトウショウに手渡した。

 

「?これで何すんの?」

 

「これで小麦粉をふるんですの」

 

カワカミプリンセスは粉ふるいの動画をスイープトウショウに見せる。

 

「えーめんどくさい…」

 

スイープトウショウは嫌そうな顔をしたが、しぶしぶと小麦粉の入ったボウルを手に取り、ふるいの中に入れて粉ふるいを始めた。面倒くさがっているためペースは遅い。一方カワカミプリンセスは

 

「プリンセスパワー全開ですわ!」

 

ふるいいっぱいになるまで小麦粉を入れ、ガンガンガンガンとふるいの側面を叩いていた。めいっぱいに小麦を入れてしまったため、ふるいの網目からは小麦粉がなかなか落ちてこない。

 

「あら?なかなか落ちませんわね!」

 

カワカミプリンセスはさらにパワーとスピードを上げ、ふるいを叩きつける。少しずつ粉が出てくるようになったが、ふるいからこぼれた小麦粉が宙を舞い周囲を白く染め上げていく。

 

「ゴホッ!ゴホッ!カ、カワ、カワカミ!力をゴホッ!力を落としなさい!」

 

「え?何ですの?」

 

打撃音で聞こえづらくなっていたカワカミプリンセスはスイープトウショウの話を聞くため、ふるいから気をそらしてしまい、手が滑ってしまった。カワカミプリンセスの手から離れたふるいはもう片方の手によって打撃を受け、吹っ飛んでいく。スイープトウショウの顔めがけて。

 

「だ・か・ら!力を――――ムグウッ!」

 

スイープトウショウの顔に小麦粉がたっぷり入った古いがクリーンヒットした。重力に従い、ふるいは下へと落ち、ふるいに隠されていたところから真っ白なスイープトウショウの顔が出現した。

 

「あら、すみません…プッ!フハハッ!ス、スイープさん!顔がまっ白ですわ!」

 

「あんたのせいでしょうが!」

 

怒り心頭でスイープトウショウはカワカミプリンセスへと襲い掛かった。カワカミプリンセスは逃げ、スイープトウショウは追い続けた。

 

 

約5分後。落ち着きを取り戻した2人は粉ふるいを再開した。今度はカワカミプリンセスは少しずつふるいに小麦粉をかけていく。すこしずつ確実にコツコツと。そして、

 

「やっと終わりましたわー」

 

全ての粉をふるい終わった。

 

「お疲れー。こっちの分も終わったわよ」

 

スイープトウショウはふるい終わった小麦粉が入ったボウルをカワカミプリンセスに渡した。

 

「はい、ありがとうございます!」

 

カワカミプリンセスは自分の分とスイープトウショウの分を大きなボウルに入れ、ひとつにまとめていく。

その後、カワカミプリンセスは次の指示を出した。

 

「分担作業にしましょう。私は卵を泡立てますから、スイープさんは生クリームを泡立ててホイップクリームを作ってください。氷水を入れたボウルにつけながらでお願いしますわ」

 

カワカミプリンセスはハンドミキサーを棚から取り出し、スイープトウショウに渡した。

 

「何これ?」

 

「ハンドミキサーですわ。電動で動く泡だて器ですの。魔法みたいに素早くホイップクリームが作れますわ」

 

「魔法!?こんなもので魔法が使えるの!?すごいじゃない!やってみせて!」

 

キラキラとした目でスイープトウショウはカワカミプリンセスを見つめた。

 

「いいですとも!ではまずこのスイッチを入れて…」

 

調子に乗ったカワカミプリンセスはスイッチを思いっきり押し込んだ。メキィッと音をたてながらスイッチ部分からひびが入りそのまま広がっていく。そしてバキッ!!! 粉々の破片になったハンドミキサーは飛び散り、床に落ちた。

 

「魔法に頼ってはいけませんわね。信じられるのは己の力ですわ」

 

そう言ってカワカミプリンセスは普通の泡だて器をスイープトウショウに手渡した。

 

「サラッと流すんじゃないわよ!」

 

「まあまあ、ウマ娘パワーならハンドミキサーに劣りませんわ~」

 

そう言ってカワカミプリンセスは卵を泡立て始めた。スイープトウショウはまだ不満があったが渋々生クリームの泡立て作業を始めた。

 

 

数分後。

 

「どりゃああああああ!!!」

 

湯煎をしながらカワカミプリンセスは卵を泡立てている。

 

一方スイープトウショウは

 

(なによ、ちっともクリームにならないじゃない)

 

いまだに生クリームは液体のままであった。彼女なりに素早くかき混ぜていたのだが、いまだに変化はない。

 

(しかも冷たいし。何かパパっとできる魔法はないの?)

 

スイープトウショウはスマホを起動し、検索欄に「ホイップクリーム 作り方 魔法」と打ち込むと検索結果に一本の動画が出てきた。

 

『魔法の時間だよ!レッツ・クッキング!』

 

「魔法」という言葉に惹かれ、スイープトウショウは興味本位で再生ボタンを押した。すると1人の男性が登場し、

 

『ハーイ皆さん!私は魔法使いのミスターKです!今日は私の魔法を使って一瞬でホイップクリームを作っちゃうよぉ!』

 

そう言ってミスターKはボウルに生クリームと砂糖を入れ、軽くかき混ぜた。そして懐からハンカチを取り出しボウルの上に被せた。

 

『これで準備完了だ!あとは魔法の呪文を唱えるだけ!"ホイホイホイップー!"』

 

そう唱えた後、ミスターKはハンカチを掴み引き上げた。そこにはふっわふわの真っ白なホイップクリームが出来上がっていた。

 

「すっご~い!」

 

スイープトウショウは目をキラキラさせながら動画を食い入るように見ている。

 

『それでは皆さん!また会いましょう!』そこで動画は終了した。

 

「こんな魔法があったのね!」

 

スイープトウショウはポケットからハンカチを取り出し、ボウルの上に被せた。

 

「じゃあ、行くわよ…"ホイホイホイップ!"」

 

当然のことながら変化はない。

 

「おっかしいわね…発音が悪いのかしら?"ホイホイ~ホイップゥ~!"」

 

もちろんホイップクリームにはなっていない。

 

「ハンカチを上げるタイミングが悪いのかも…"ホイホイ!ホイップ~ッ!」

 

生クリームのままだ。

「まだ駄目ね。それじゃあ次は―――」

 

無意味な試行錯誤をスイープトウショウは続けた。

 

 

一方カワカミプリンセスは

 

「ぬおりゃああああ!!!」

 

スイープトウショウのことは気にもせず、卵の泡立てに集中していた。大きな声を出し、ガシャガシャガシャと音を立てているためスイープトウショウの呪文は耳に入らない。

 

「ぬうううううええええあああああ!!!!」

 

大パワーによる高速泡立てのおかげであっという間に卵は泡立ち、クリーム状に変わっていく。

だがしかし、大部分のクリームは飛び散り、調理台や床に散乱していた。結果、わずかな量しかボウルには残っていなかった。

 

「ふう、できましたわ。なんだか量が少ないような…。ま、大丈夫でしょう。材料はたっぷりありますもの♪」

 

そして卵を割り、ボウルに入れていく。殻がわずかに入っていったがカワカミプリンセスは気にしない。ハイスピードパワフル泡立てにより殻は粉々に砕け、殻などなかったかのように生地になっていくのだ。だが代償として、

 

「あれまぁ~まーたひん曲がってしまいましたわ」

 

カワカミプリンセスが持ち上げた泡だて器は直角に折り曲がっており、手持ちの部分はぐしゃぐしゃに圧縮されていた。

 

「ふぅこの世のものはなんて儚いのでしょう…」

 

そう嘆きながら壊れた泡だて器をポイポイし、次の泡だて器を取り出した。

 

「スイープさんはどうでしょうか?」

 

スイープトウショウを見るとウンウンとうなりながら思考を巡らせている。

 

(なにやらスゴイ工夫をしているのでしょうか?邪魔したら悪いので、そっとしておくとしましょう)

 

そして再び大声を上げながら、飛び散らせながら泡立て作業を再開した。

 

「うううおおおおおああああいいいいええええ!!!」

 

 

コツコツコツと静かに足音をたてながら、栗東寮のキッチンへ向かうウマ娘がいた。

 

(ふふっ、『キングちゃんの卵焼きが食べたい!』だなんて。うららさんも困った子ね)

 

そう思いながら微笑むのはキングヘイロー。今日地方ダートから帰ってくるハルウララからの要望を受け、今まさに彼女のために卵を焼こうとしているところであった。

 

キッチンに近づくにつれ、物音が大きくなっていく。

 

(あら、先客?)

 

キッチンのドアを開けると、

 

「ホイホイホイップ!ホイホイホイップ!!ホイホイホイップ!!!ホイホイホイップ!!!!」

「でりゃあああ!!!!きええええあああああ!!!!ちょりゃあああああいいいいいええええええ!!!!」

 

地獄がそこにあった。

 

「…何してるの?あなた達」

 

ぼそっと呟いたが、作業に集中している2人は気づかない。

 

「……」

 

黙りながら2人の元へキングヘイローは近づいていく。そして2人の間に入り、

 

「おやめなさい!!!」

 

といつもの気品はどこへやら、鬼のような声で叫んだ。

その声でようやくカワカミプリンセスとスイープトウショウは我に返る。

 

「キ、キキキキ、キングさん!?どうしたのです!?」

 

「げ、キング」

 

「あなたたち!よく周りを御覧なさい!」

 

2人がキョロキョロと見渡す。するとそこには、粉で真っ白になった調理台、粉々になった調理器具、飛び散っている材料の数々など悲惨な光景が広がっていた。

 

「ほとんどカワカミのせいじゃない!」

 

「…そういうスイープさんはなぜハンカチ遊びを?」

 

「ふふん!魔法でホイップクリームを作ってるのよ!この動画の通りに!」

 

どや顔をしながらスイープトウショウはキングヘイローに例の動画を見せた。

 

「いや、これはただのマジックでしょ」

 

「違うもん!絶対魔法だわ!」

 

キングヘイローは己のスマホを操作し、画面をスイープトウショウに見せた。そこにはミスターKのプロフィールが記載されており、職業欄には『手品師』と書かれている。スイープトウショウは目を細めてじっくりと見ると、次第に顔が青くなっていき、ガクッと膝をつき、四つん這いになりながら絶望的な表情を浮かべた。

 

「うそよぉぉぉお!」

 

「嘆いてる暇があったら片づける!早くなさい!」

 

「「はいいいい!」」

 

 

約10分後、調理台は元の色を取り戻し、ハンドミキサーの残骸はすべてごみ箱に捨てられ、残ったのは材料と作りかけの物となっていた。片付けの際中、キングヘイローは2人から事情を聞いていた。

 

「あなたたちだけでは不安でたまらないわ。キングが手伝ってあげるわ!感謝なさい!!」

 

「「ありがとうございます。キング様」」

 

ふんと鼻を鳴らしながら、キングヘイローはボウルにある作りかけの生クリームを泡立て始めた。手早く素早くリズミカルに一定のスピードでシャカシャカと時間をかけてかき混ぜていくと少しずつ泡立ち、塊が出てきた。さらに時間をかけて混ぜていくと、だんだん一塊となっていく。

 

「…やるじゃない」

 

ふてくされながらスイープトウショウが呟いた。

キングヘイローが唯一満足に作れる料理は卵焼きである。調理の過程で卵を必死にかき混ぜていた経験から、かき混ぜて泡立てることは得意であった。

 

最近卵は混ぜすぎない方がおいしいという事実を知り絶望していたキングヘイローであったが、意外な形でその技術を発揮することとなった。

 

「ふう、見たかしらキングの手さばきを!」

 

片手を腰に当てながら、もう片方の手で天高くボウルを掲げた。

 

「「おおおおお」」

 

パチパチパチと2人は拍手をしながらキングヘイローを称えた。

 

「混ぜ方だけではなく、最初に砂糖を入れておくのもコツよ」

 

そう言ってキングヘイローは白い粉入りの容器を2人の目の前に置いた。2人はお互いの顔を向き合い、しばらくした後カワカミプリンセスはキングヘイローへと困惑した眼差しを向けた

 

「…キングさん、これ砂糖ではなく塩ですわ」

 

「オ、オホホ。場を和ませるためのキングジョークよ」

 

「…キングってたまにバカよね」

 

 

その後はキングヘイローの手助けもあり、材料を混ぜ合わせ、無事に生地が完成した。生地を型に流し込み、いよいよ次は焼く作業に入る。

 

「2人ともオーブンを使ったことはあるかしら?」

 

キングヘイローはカワカミプリンセスとスイープトウショウに尋ねた。

 

「ありませんわ」「あるわけないじゃない」

 

ちなみにキングヘイローも使ったことがない。電子レンジは使ったことがあるものの、数度爆発させている。

 

「あんたはどうなのよ?」

 

訝しりながらスイープトウショウはキングヘイローに尋ねた。

 

「ええ、実は―――」

 

「当たり前でしょう!キングさんは何でもできますわ!ですよね!」

 

カワカミプリンセスが食い気味でスイープトウショウの言葉を遮った。期待に満ちた眼差しでキングヘイローを見つめる。その期待に背を向けることはできず、

 

「実は何度もあるのよ!」

 

と胸を張って答えてしまった。

 

(だ、大丈夫よ。レシピ通りにすれば!)

 

不安を胸に抱きながら、キングヘイローはオーブンに容器を入れ、レシピを何度も見ながら温度とタイマーをセット。最後に指さし確認をした後電源を入れた。

 

「これで30分待てば焼き上がるわ」

 

額に汗を流しながら清々しい、やり切ったぞという気持ちで2人に伝えた。

 

「30分も待つの?暇~」

 

椅子に座り、足をバタつかせながらスイープトウショウは愚痴を吐いた。

 

「ふっふふっふふ~こんなこともあろうかと」

 

カワカミプリンセスはバッグからDVDケースを取り出した。

 

「プリファイ1話分見れば暇な時間なんてあっと言う間に終わりますわ!」

 

カワカミプリンセスの手には『プリファイvol.8』と書かれたパッケージがあった。

 

「「……」」

 

2人は呆れた顔でカワカミプリンセスを見る。そんなことは気にせずカワカミプリンセスは厨房のテレビの電源を入れ、ディスクを押し込み再生ボタンを押した。

 

「はあ、暇だから付き合ってあげるわ」

 

と言ってスイープトウショウは頬杖をつきながら、観賞を始めた。

キングヘイローはカワカミプリンセスに無理矢理見せられて以来、何となくプリファイのことが気になっていたため、仕方がないという振りをしながらも、内心楽しみであった。

 

 

カワカミプリンセスが選んだ話はプリファイがお菓子作りに挑戦するというものであった。プリファイたちは全員お菓子作りが初めて出会ったため、悪戦苦闘しながらお菓子作りに励んでいた。プリファイの1人が盛大にコケて小麦粉を床にぶちまけてしまうと

 

「あっはっは!カワカミそっくり!」

 

と腹をかかえ机をバンバン叩きながらスイープトウショウが大爆笑をしていた。

塩と砂糖を間違えてしまったシーンが流れると、先ほどの失敗がフラッシュバックしたキングヘイローは恥ずかしくなり画面から目を背けた。

最後にはお菓子が出来上がり、各々の大切な人へ送るというシーンでEDが流れ始めた。

 

「ふぅ~堪能致しましたわ~」

 

EDと次回予告が流れ終わるとカワカミプリンセスは停止ボタンを押した。

 

「さあ!そろそろケーキが焼き上がる頃合いですわ!」

 

そう言って3人はオーブンへ向かった。

 

 

「じゃ、じゃあ開けるわよ…」

 

スイープトウショウは恐る恐るという感じでオーブンを開け、容器を取り出した。甘い香りが立ち込め、3人の期待は高まっていく。

 

状態を確認すると、きつね色ではなく少し濃いめの黄色であった。レシピの見本写真とは色が違う。

 

「…これでいいんですの?キングさん?」

 

(私に聞かれても…ケーキなんて作ったことないのよ!)

 

「そ、そうね大丈―――」

 

夫と言おうとしたキングヘイローであったが、

 

「ん~と~ってもボーノな香り♪」

 

優しさと包容力に満ち溢れたような声が3人の後ろから聞こえてきた。

 

「「「!?」」」

 

3人が一斉に振り返ると、そこにはでかい胸があった。

 

(((でかい))))

 

いきなりの出来事に3人が固まっていると、

 

「こんにちは~ヒシアケボノだよ~」

 

腰をかがめたヒシアケボノが3人に目線の高さを合わせ、のんびりとあいさつをしてきた。

 

「アケボノさん!?どうしてここに!?」

 

「とってもボーノな香りがして釣られてきちゃったんだ~」

 

ヒシアケボノ。身長はトレセン学園で最も高く料理が得意なウマ娘である。

 

「あ、あの、アケボノさん。このケーキはうまく焼けているのでしょうか?」

 

料理が得意なヒシアケボノならわかるかもしれないと思い、カワカミプリンセスは尋ねた。

 

「う~ん、ちょっと待っててね」

 

ヒシアケボノは引き戸から竹串を取り出し、その竹串をケーキに突き刺す。そして竹串を抜き、先端部分を確認した。そこにはぬるっとした液体がこびりついている。

 

「生焼けみたいだね~」

 

「えぇー!」

 

と落胆するカワカミプリンセスの声が厨房中に響いた。スイープトウショウとキングヘイローは顔を下に俯かせ、肩を落とした。

 

3人は気づいていなかったが、このオーブンは予熱しなければ満足な状態で焼くことができないタイプのものであった。

 

そんな気を落とす3人に向かってヒシアケボノは笑顔を振りまいた。

 

「大丈夫♪リメイクすればいいんだよ♪」

 

 

ヒシアケボノは容器をひっくり返し、ケーキをまな板の上に取り出した。ケーキの外側は焼けており形を保っている。

 

「ではまず、ケーキをスライスしちゃおう」

 

そう言って包丁を手に取ると、スッスッスッとよどみなく薄い長方形状に切り分けていく。ケーキの内部は生焼け状態で気泡がない。

 

3人はヒシアケボノの手さばきを見て、感嘆のため息を漏らした。

 

ヒシアケボノは天板にキッチンペーパーを敷き、その上に先ほど切り分けたケーキを並べていく。そして天板をオーブンに入れ、

 

「うーん、温度はこのくらいで…タイマーは…このくらいかな」

 

と呟き、オーブンのスイッチを入れた。

 

 

数分後、ピピ―と音が鳴り、ヒシアケボノがオーブンの扉を開けると甘い香りが厨房内に充満した。ヒシアケボノがオーブンから天板を取り出し、3人の前に置いた。先ほどのケーキだったものはこんがりと焼け、クッキー状になっていた。

 

「お、おいしそうね…」

 

スイープトウショウがゴクリと唾を飲み込みながら言った。

 

「こ、これで完成なの!?」

 

キングヘイローはヒシアケボノに尋ねた。

 

「あと少しだけ、仕上げをしま~す」

 

少し冷ました後、ヒシアケボノはボウルにあるホイップクリームをパレットナイフですくい出し、クッキーの上に乗せた。パレットナイフを器用に使って薄くホイップクリームを広げ、その上にクッキーを乗せる。さらにホイップクリームを塗り、クッキーを乗せ、その上に小さく切ったイチゴを乗せた。

 

「はーい、サクサクミルフィーユ風ケーキの完成だよ~。試しに食べてみて♪」

 

そう言われ、3人はフォークで一口サイズに切って口に運んだ。

 

「「「おいしい!!」」」

 

3人の顔に笑みがこぼれた。

 

「さすがですわ、アケボノさん」

 

「ありがと~う。でもあたしは少し手を加えただけだよ。このケーキを作ったのは皆だからね~」

 

とヒシアケボノは優しく微笑んだ。

 

「じゃあ、皆で残りも作っちゃおっか?」

 

「はい!」「えぇ」「やってやるわ!」

 

3人はクッキーの上にホイップクリームを塗り、重ねていく。不器用な3人であるため形は歪んでしまったが、一生懸命さが滲み出ているケーキとなった。

 

「3人ともお疲れ様~」

 

ケーキが作り終わると、もう日が暮れ始めていた。

 

「もうこんな時間!トレーナーさんが帰ってしまいますわ!」

 

「アタシの使い魔も帰っちゃうかも…急がないと」

 

「卵焼きではないけれど、うららさんなら喜んでくれるでしょう。残りは…トレーナーに持っていこうかしら」

 

3人は皿にケーキを乗せラップに包み、それを持ってキッチンから出て行った。

 

 

カワカミプリンセスのトレーナーとスイープトウショウのトレーナー、そしてキングヘイローのトレーナーはそれそれのトレーナー室に籠り仕事をしていた。クリスマスらしいことを何一つできないことを嘆きながら。

すると、ガチャリとドアが開き担当ウマ娘、愛バが入って来た。トレーナーの元へ近づき、ケーキが乗った皿を差し出す。

 

 

「「「メリークリスマス!トレーナー(さん)!」」」

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