「くっだらねぇ……」
今時珍しい旧世紀に建てられた、迎賓館のバルコニーの
手摺にもたれかかりながら独りごちる。
──君宛にGAから六大企業主催のパーティーへの招待状が届いているぞ? 私、というよりアナトリアとしては参加がありがたいのだが……
ある休日の日、休みだってのにエミールから自分の執務室に来るまで言われ、嫌々ながら行くと予感は的中。
──そう言ったって俺にゃあ大した教養、しかもダンスなんて高尚な趣味はした事ねぇぞ?
気がついた頃には周りにはACが居て、勉強する暇あったら出撃だった。 価値はゴミ以下、仲間の奴らはバタバタと
──別に構わんさ。 とりあえず君の顔が売れればいい訳だからな、顔を見せたらさっさと帰ってくるのも手だろう。
「……と言ってもなぁ。 はぁ……」
盛大に溜め息を吐き出して先程のことを思い出す。
厳重なチェックのエントランスを抜け、とりあえずメインの大広間へ行ってみると、一緒に来たフィオナからははぐれるわ、
なお、宣伝はついてきたフィオナに任せた。
「なーにーが、『リンクスを名乗るなよ雑種、リンクスの名が汚れる』だよ……。 大量殺人の異名がそんな高尚なものかよ……」
右手に取ってきたお高そうなシャンパンを手すりに乗せ、ちびちび飲みつつレイヴン時代から好んで吸っている安タバコにその相棒のオイルライターで火をつけ、ため息混じりに紫煙を吐き出す。
「ふむ、君があの”レイヴン”か」
ちょうど暗がりの方から、聴いたことのあるような低い声が耳を打つ。 それを認識するのと同時にスーツに隠した拳銃に手を掛け、身体を声の主の方へと向ける。
「……誰ですかね? 顔を見せてくれない分にはコレを抜かせていただきますが」
「ああ、ちょうどここは影だものな。 すまない。 ……さて、初めてお会いする。 私の名はベルリオーズという。 写真でならば見たことがあると思うのだがね?」
その瞬間、疑問詞が浮かび直ぐに驚愕へと変わった。
「はあ!? リンクスナンバー1の? なんでこんな所に……」
その暗がりに沈んだ顔に光が刺し、以前に写真で見たあの元軍属の鋭い目をした壮年の男が目の前に立つ。
「私だって嫌になるさ、No.1と言えど名目上だ。
中身は生粋の一兵卒と言うことだ。 華美な場所は好かん」
苦笑しつつ、さらりと言うが正直こんなバルコニーの端ではなくホールの中心に居るべき人間と言える。
「ふぅむ……ところで粗製の私と違ってあんたはこんな所に居ていいのか? 特にこんな吹っ晒しの中狙撃なんかされたら企業間戦闘が起きかねないのでは?」
「そこら辺は抜かりは無いさ、その道のプロ、BFFの誇る特殊狙撃部隊が展開して半径数kmは安全圏だからな。 なにより──」
言葉を区切るとベルリオーズの目が細められ
「歴戦である伝説のレイヴンを、そこらの粗製と同等に見るのは失礼だろう。 だからわざわざ危険を冒しても君と、君のことを君の口からを聞いてみたくなったのさ」
そう一息に言い切った
「そう言いますがね、たかがそこらのレイヴンより殺したってだけで大したものでもないし誇れたもんじゃないんですが」
厳しさを纏う目元が緩み、ベルリオーズは言葉を紡ぐ。
「それが聞きたいんだ、ついでだ、1本貰っても?」
潰れたソフトパックを差し出し、ベルリオーズはマッチで火をつける。
「んで?何が聞きたいので?あのクソ以下の国家解体戦争の時に俺のことは包み隠さず情報は貰ってでしょうに」
彼は夜の帳の中に紫煙を広げ
「……そうだな、君があの戦争の時金で我々の足止めを買って出たことも。それ故に気になるのが何故君は命を削り、汚染に苦しみ、蔑まれながら憎むべきネクストに乗っているのか……それが知りたい、何者でもない伝説のレイヴンの口から、直接」
そう言う彼の目は真剣そのもので、この男なりに本気で聞こうとしていることが伝わる。
だがしかし、どう答えるべきか迷ってしまう。
「……別に面白い話じゃありませんよ? レイヴンは所詮雇われの兵隊ですから、依頼主のために戦うのが当たり前だし報酬もそこそこ良い。ただそれだけですよ」
「そうか……」
短く呟くように返事をする。
再び夜闇に沈黙が流れる。
「……まぁ、あれです。俺は英雄なんて言われるほど立派な奴じゃない、ただのレイヴンでしかないんですよ。
だからこそ、自分が生きるために、そして仲間を守るために戦った。
その結果があのザマだったわけですがね。その後命を救われたところに自分ができることで奉公ってところです」
「……」
ベルリオーズは何も言わず静かに聞いてくれている。
「……あんた達みたいな企業子飼いのリンクスには分からないかもしれないが、戦争っていうのは綺麗ごとばかりじゃない。
殺し合いなんだから当然汚い部分もあるし、どんなに善人ぶっていても結局やることは変わらないんですよ。
それはレイヴンでも、リンクスでも同じことなのかもしれませんけどね」
紫煙と共に吐き出す言葉に、ベルリオーズは小さく縦に首を振る。
「確かに、我々は常に理想を追い求めてきた。人類の恒久的な平和のため、人類種として進化するため、企業という枠組みの中で。そのためならば『国家を潰す』という有史以来稀に見る汚れ仕事すら厭わなかった」
ベルリオーズの言葉を聞きつつ、月を見上げる。
「……そうですか。
そんな貴方達にひとつだけ言えることがあるとすれば、どうか忘れないで欲しい。
例え世界中全てが敵になっても、たった一人だけでも味方になってくれる人間が居るということを。
……その人が自分の背中を守ってくれることを」
その瞬間、背後の建物の中から銃声が鳴る。
咄嵯に身を伏せるとベルリオーズもまた同じ様に地面に伏している。
「今のは!?」「襲撃だ!身を隠していろ!」
怒鳴りつけるような口調で叫ぶとベルリオーズはバルコニーの手すりに体を預ける。
「襲撃だと?どこからだ?」
「知るか!とにかく身を低くしておけ!」
胸のホルスターから愛銃を抜き、反撃の準備を整えたその時、再び銃声が鳴り響く。今度は一発だけではない二発三発と立て続けになる。
「クソッ!連中撃ってきてるぞ!!」
ベルリオーズはバルコニーの出口へ走り出すとそのまま飛び降りる。
「おい!!待てって!!」
慌てて後を追うと非常階段が続いており、その先は建物の地下駐車場らしく辺り一面に車が散らばっているエリアに着いた。
「大丈夫だ、ここならそうそう追ってはこれまい、時間は稼げるだろう」
「どういうことだ?」