METALWOLF_ICHIKA(旧版)   作:レクス

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キリのいいところまで進んだのでチラ裏を出て通常連載開始。

メタルウルフカオスの知識がないと最初から置いてけぼりになります。
白騎士事件の部分は「白騎士と鋼鉄の狼」(非チラ裏)をどうぞ。

10/6 サブタイトル変更


#0 プロローグ

宇宙(ソラ)は広いーな、大きいなーっと」

 

 星空の下、2人の少女が空を仰いでいる。

 1人はうさ耳のカチューシャを付け、お手製の天体望遠鏡まで持ち出して月を見ていた。

 

「ねーねー、ちーちゃん」

「なんだ?」

 

 名前を呼ばれた、篠ノ之神社の境内に寝転がっていた少女。半袖にジーンズ、ショートカットの髪型、僅かに女らしさを感じさせ始めた体つきの織斑千冬がその身体を起こす。

 

「私ね、大人になったら、いつかこの空を超えて広い宇宙に行きたいんだ」

「お前は本当に宇宙大好きだな」

 

 もう何度聞いただろうか、といった表情の千冬。

 彼女が束の趣味である天体観測に付き合えば、ほぼ毎回聞かされる言葉だった。

 だが、千冬は同時にこれを楽しんでいた。

 普段は部屋に閉じこもってPCで何かをしてばかりいる親友が唯一自分の意思で外出する機会。

 それがこの天体観測だったからだ。

 

「宇宙、それは最後のフロンティア……なんて言うでしょ。 宇宙は、この束さんの理解も及ばない領域なんだ」

「……いつのネタだ。それで?」

 

 遥か昔に放送され、その後何度もリメイクされたSFドラマの冒頭に流れてくるテロップを、束は無意識に呟き始める。

 かつて世界中の宇宙関連事業関係者に親しまれたと言われる作品だが、今束が呟いているのは英語だったので千冬にはさっぱり分からなかった。

 

「ううん。ただね。 いつか、皆で宇宙に行ってみたいね。 ほら、見て!これが月面採掘基地“フリーダム”で、そこからちょっと右に動かしたところにあるのが“ジャスティス”だよ!」

「なんだその名前は……」

 

――やれやれ、と肩をすくめながら望遠鏡を覗こうとしたその時。 星空を眺めていた少女の目に偶然飛び込んだのは高速で移動する光。 それが、どういう訳か火花でも散らしているかのようにふらついている。

 千冬は望遠鏡を覗くことなく、直接それを指差す。実は望遠鏡の使い方をよく知らない。

 

「……なぁ、束。 あれはなんだ?」

「ほぇ? どれどれ――って、なんだこれーっ!?」

 

 千冬が指差す先へ望遠鏡を向けた束は素っ頓狂な声を上げると、望遠鏡のレンズに目を凝らしたまま動かなくなった。

 指差す先。 その光は、段々大きくなってくる。 まるでこちらへと近づいてきているかのように。

 発光体がなんであるかは、望遠鏡を見ていない千冬には分からない。 蛍だろうかとも考えたが、近年蛍は山奥以外では見かけなくなって久しい。

 発光ギミックを組み込んだラジコン飛行機にしてはカクカクとあり得ないような動きをするし、何より空中でその場に留まったりできない。

 

「お、おい、束。 何かおかしい。逃げるぞ!」

「駄目だよちーちゃん! こんなの、きっと二度と見れない!」

 

 自身より遥かに華奢なはずの束を引きずってでも動かそうとする千冬だが、束の身体はどういう訳か地面に張り付いたかのように動かない。

 

――そんな少女たちの頭上で、何かが小爆発を起こした。

 

「あっ、落ちてきた! 初めて見たよ、本物の……!」

「これは、何だ……? いや、待てこれは……!」

 

 そして、二人の声が重なる。

 

「――UFO……!」

 

 果たして円盤状のその物体は、アメリカでは数年前の副大統領によるアメリカ内戦以来比較的よく観測される、マゼラン星雲からやってきたらしいアダムスキー型UFOだった。 そして、更に彼女達を驚愕させたのが――

 

「---- ---- -・・・!?」

 

 銀色の、どう見てもグレイ型宇宙人。

 未知との遭遇。 それは、彼女達が小学5年生だった頃の出来事だった。

 

 

 

 

――数年後。

 

 篠ノ之束は夏休みの自由研究として意気揚々と新世代パワードスーツの論文を学校に提出した。

 当然ながらその内容をよく理解しきれなかった学校側は篠ノ之束からの幾度に渡る要請もあって、これをパワードスーツを扱う国連の“世界機動装甲連盟”と日本政府へと提出したが、これは国連の学会においても机上の空論としか思えない内容だった。

 ずば抜けた知能を持つ天才とはいえ、彼女はまだ中学生である。論文の書き方も滅茶苦茶であり、インフィニットストラトスの魅力が伝わるとは言い難いものであった。

 

「宇宙活動用のパワードスーツ?こんな、肌を露出させたパワードスーツで、かね。君は宇宙を舐めているのではないか?」

「女性しか乗れない、というのは論外だ。 くだらん。 いいか、私は面倒が嫌いなんだ……次はないぞ」

「く、くだらなくなんかないもん! ISには宇宙の神秘が詰まってるんだよ!」

「そもそも、我が国(アメリカ)には水中さえ除けば宇宙でも活動できる特殊機動重装甲があってだな……」

 

 このような具合で学会には相手にもされず、篠ノ之束は後日、自由研究に“私の考えたさいきょうのパワードスーツ”を提出したものとして中学校の教員に怒られた。 また、中学生の小娘によるものということもあり、当たり前のように世界から一顧だにされずに終わった。

 

「あーもう! そう言うんだったら、こっちにも考えがあるよ!」

 

 それからしばらく経った頃、世界に激震が走った。

 日本に飛来する、2000を超えるミサイルの雨。後に“白騎士事件”と称され、世界の軍事バランスを一変させることになる世界終末の危機が発生したのだ。

 

 

 

 

――そして、白騎士事件により世界の平和は失われた。

 

 21世紀初頭のアリゾナ紛争における特殊機動重装甲の登場で、戦場の主役は再び歩兵の手に戻った。

 更に2020年代に発生したアメリカのクーデターにおけるアメリカ大統領“マイケル・ウィルソンJr”の活躍が知れ渡り、これに対抗すべく各国が独自にパワードスーツを開発した結果、5年に一度国の威信をかけた機体と操縦者による戦いによって新たに誕生した世界政府のリーダーシップを決定する、表面上は戦争のない世界が訪れていた。

 その名を、大統領戦争(プレジデントファイト)。 それまでの国境線や国家はそのままに、国連の上位組織として誕生した世界政府は、当初混乱を巻き起こしながらも世界政府の大統領を選出して安定した運営を迎えつつあった。 そう、ISの登場までは。

 ISの理論が初めて国連に提出された際、各国は自国パワードスーツの性能向上に鎬を削っており、当然ながらISにも何かの足しになれば、と一抹の期待が寄せられた。 そうでなければ国連まで論文が提出されなどしない。

 ところが、ISはそれこそ慣性無視やら量子化やら、更に機能の中核であるコアの情報はさっぱり書かれておらず、まさに荒唐無稽のオンパレードというべき代物であったが為に各国は所詮小娘の落書きであったと落胆したものだ。

 

 閑話休題。

 

 世界政府の決定的な決裂となったのが、白騎士事件の翌年にISコアの各国への分配数を決めるべく開催されたアラスカ会議である。

 IS白騎士は、世界最強の世界政府大統領であるマイケル・ウィルソンJrを東京湾に突き落としたことで寸での所で打ち勝った。 水没がなければ白騎士は打倒されていた可能性が極めて高いが、白騎士が勝利したのは一応事実である。

 それはつまり、これまで“大統領は大統領でしか倒せない”と言われていた世界で、“大統領にたった1機のISに乗る凡人で対抗できる”という証明が成されたこととなる。

 アメリカ大統領、マイケル・ウィルソンJr。彼は、1年前の白騎士事件において日本の救援に駆け付け、そして後一歩のところで東京湾に突き落とされるという屈辱を味わった。

 とっておきのスーツ(メタルウルフ)で会議に出席した大統領は開始早々、日本と世界に対しいくつもの要求を行った。

 

「――よって、私は次の要求を日本に対し行う。

1.ISの出現で世界(アメリカ)が混乱した為、日本は責任を取って人材管理と育成を行う機関を設立する。

2.その機関のあらゆる費用と責任は全て日本持ちである。

3.篠ノ之束はIS技術の公開を行う。

4.ISコアは世界の警察であるアメリカと世界政府が管理する。以上だ」

 

 パーティクラッカー(ショットガン)を突きつけられるも、涼しい顔でメタルウルフの紅い単眼を見つめる日本首相。彼は近年珍しく首相として2期目の任期を終え、3期目に入ることができた人物である。

 

「マイケルJr氏。 我が国は2015年のアルファ・ワーム危機と先日の白騎士事件の2回に渡り、アメリカに恩がある。 だが、その一方的な要求には従えない。遺憾の意を表明する」

 

 日本首相が指をパチンと鳴らすと、会議場の外に控えていた天地創世(ビギニングオブザコスモス)が扉を蹴破り、白装束の侍を模したその機体が神風を纏った日本刀を抜刀した。

 

「遺憾の意を表明した。 大和魂を見せてやれ」

「承知しました。 機械の身体に込められた熱い大和魂をご覧いただきましょう」

 

 技術立国日本の作り上げたパワードスーツ天地創世(ビギニングオブザコスモス)。 その中には最新技術で極限まで人間に近い動作を可能とし、性能的にもアメリカのサイボーグを上回るとされるアシモ2030がいた。

 日本はその政権交代の早さが懸念された為、首相ではなくFONDA社のアシモを大統領戦争(プレジデントファイト)の為に開発、使用している。

 アラスカの会議場に科学と精神論の融合を果たした一陣の風が吹き荒れる。次に行動を起こしたのは、東の大国ロシア。

 

「よい機会だ。誰が真に世界のリーダーとして相応しいか教育しよう」

『Ураaa!』

 

 既に80近い年齢にも拘わらず杖もつかない元KGBのロシア元大統領。 自身のクローンを生体部品として組み込んだ深紅の“ウラディーミル・プッチーン”が会議場の床を破壊し地中から飛び出す。

 ちなみにこの名前はロシア製のパワードスーツの名前ではなく、搭乗者本人の名前である。

 

「ドイツの技術はァァァ! 世界一ィィィ!」

 

 数々の先進技術を組み込んだドイツのパワードスーツに至っては、パワーアシストに全力を尽くした結果88 cm砲、所謂アハトアハトを軽々と振り回し砲撃するロマン溢れる機体となっていた。 8.8cmの間違いではない。

 パワーアシストと88cm砲、重装甲と機動性の両立に労力を割いた結果として武装が88cm砲1門とナイフのみ、というのもまたロマンである。

 

「神の御前である。世に平穏のあらんことを」

 

 イタリア――もとい、バチカンはローマ法王自らがこの会議へと出陣していた。そのパワードスーツも法王のみが持つという“フォース”の力を増幅させて雷を落としたり超重力を発生させる殲滅型である。

 ただしパワードスーツというよりは最早法王の力を最大限に増幅させる強化服というべき装甲の薄さであり、またフォース発動には聖書を読み上げる必要がある為、時間がかかるのが難点だ。

 

「静粛に! ケン・オガワ殿! 後は頼みましたぞ!」

「承知した」

 

 そして国連及び世界政府からは“NINJA”であるケン・オガワ。

 調停役である彼はこの睨みあいの中で唯一パワードスーツを装着しない生身のNINJAであり、激闘の末に地球上のアルファ・ワームを完全に駆逐した、民衆の誰にもその活躍を知られることのない英雄である。

 第2次東京大震災から時を経て貫禄と“TODOME”の技術に磨きをかけた彼は、愛用のニンジャブレイドと手裏剣を駆使して戦う“SHINOBI”だ。

 この他にも殆どの国々が自前のパワードスーツを着込んでアラスカ会議に臨んでいた。誰も平和的な解決など望んでいなかったという衝撃の事実がここに発覚したのだ。

 

「オーケェィ! 誰から“全面降伏”にしてやろうかぁ!?」

「マイケルJr、落ち付け。世界政府大統領がそれでは会議にならない」

「さぁ、大変なことになりました。今まさにこのアラスカで世界大戦の火蓋が切って落とされようとしています! 果たしてこれが地球最後の大統領戦争(プレジデントファイト)となってしまうのでしょうか! 記者席よりDNNリポーター、ピーター・マクドナルドがお送りします」

「中国の機体が突然爆発したぞっ!?」

「また中国か! モンゴルが巻き込まれた、狙ったか中国!」

 

 このように467のコアを巡り、世界政府大統領であるマイケルが全てのコアを世界の警察であるアメリカと世界政府が掌握すべきと主張するも、各国と篠ノ之束が反発。

 アメリカ大統領の要求については圧倒的賛成多数により4以外の実行が決定され、白騎士を連れていないが為に状況についていけず涙目になりつつあった篠ノ之束が必死に3を拒否し、最後の抵抗としてコアはブラックボックス化された。

 

「うわーん! 皆怖いよ、ちーちゃん助けてー!」

 

 全世界の首脳が結集した結果、比喩でもなんでもなく、会議場が揺れている。そんな濃密な圧力(プレッシャー)の中に1人放りこまれる形となった学生、篠ノ之束。

 彼女には日本政府も味方してくれなかった。むしろ白騎士事件における損害の全額賠償とISコアを優先して譲渡するよう要求された。

 ISコア467個、その1つ1つに白騎士と同じ大統領(プレジデント)級の戦闘力が期待されたのが、単に白騎士が特別だったということは彼女以外誰も知らない。

 後日、篠ノ之束は各国のトップに詰め寄られることを避けるべくさっさと宇宙へと脱出。それでも妹に迷惑がかからないようきちんと賠償したあたり、彼女が妹思いであることが窺える。

 そんな訳で、世界政府は10年もしないうちに倒れ、大統領戦争(プレジデントファイト)も白騎士事件の2年前に開催された第1回のみで終了。

 結局それまでの元の世界に戻ってしまうばかりか、ISコアを巡り全世界規模の冷戦状態に陥るのであった。

 

 

 

 

 そして波乱のアラスカ会議が終わる。 会議場を出た途端、アメリカ大統領は集まっていた記者に囲まれた。

 国連本部がニューヨークにある関係上、すぐそばにはケン・オガワと国連スタッフもいるが、まるで相手にされていなかった為、先に抜けていった。

 

「大統領! 今のお気持ちをお聞かせください!」

「残念だ、と言う他ない。 そう遠くない未来、1つになろうとしていた世界は再び分裂してしまった」

 

 メタルウルフの中で沈痛な表情を浮かべる大統領。 残念ながら記者にその表情は見えないが。

 

「大統領、昨年ISが発表されて以来、各国でISを操縦できる女性を優遇すべきとの風潮が強まっていますが、どうお考えですか!」

 

 その時、各国の記者を押し退けてマイクを突き出したのは欧州のとある新聞社の記者だった。 女性にしか扱えないISの登場以後、盛んに女性優遇運動を推し進めていることで有名な彼女は、決まり切った答えを待つかのように笑みを浮かべている。

 だから――という訳でもないが、マイケル・ウィルソンJrはこう答えた。

 

「アメリカは、自由の国だ」

「は?」

「自由とは、当たり前に存在するものではない」

 

 パチクリと大きな瞳を瞬かせ、思わず戸惑いを漏らした記者をメタルウルフの単眼越しに大統領が見つめる。

 

「アメリカでは肌の色で差別をしないように、性別で差別をすることはない。 何故なら、それがアメリカ合衆国だからだ」

大統領(ミスタープレジデント)。 そんなの放っといて、早く帰りましょう」

 

 会議場の前に、1台の装甲車が停止する。 その中からは車を手配していた大統領の秘書ジョディの声。

 

「もし、世界に差別社会が蔓延ろうと、私は自らの“正義”を信じ、“自由”の為に戦う」

 

 装甲車の運転席から、ケン・オガワが早く乗れとサインしている。 NINJAである彼は、装甲車の運転も一流である。

 その装甲車のドアに手をかけ、最後にもう一度女性記者へと振り返った。

 

「何故なら、私はアメリカ合衆国大統領だからだ」

 

 装甲車のドアが閉まり、電気エンジンの甲高い音と共に走りだす。 その上空を、DNNのヘリがエアフォース・ワンへ先回りしようと飛翔していった。

 

――世界は変わる。 国家の最高戦力は代替の利かない個人(プレジデント)から、操縦者の代替が効く467の(IS)へと今まさに移り変わろうとしている。

 

――これは、そんな世界の警察、アメリカ合衆国の大統領直属部隊プレジデントフォース隊長をかつて父としていた少年、織斑イチカの物語である。

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