METALWOLF_ICHIKA(旧版)   作:レクス

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#1

 今年で小学4年生の織斑イチカの姉、織斑千冬は白騎士事件以降、家をしょっちゅう留守にしていた。

 そんな時イチカは友人の篠ノ之箒、中学生になってからは五反田弾、鳳鈴音と遊んだりするのだが、特に姉が帰って来なくなるのが夏休みや冬休みといった長期休暇である。

 だから、イチカは長期休暇になるとこっそりアメリカへと渡米していた。

 アメリカには、父と仲の良かった人が大勢いる。その代表例が、今目の前にいるプレジデントフォースの現隊長、ロバート・ファイルス少佐とアメリカ大統領である。

 大統領執務室でマイケルJrは紅茶を飲みながら愉快そうな眼差しでイチカを見つめ、ロバート・ファイルスはイチカの向かい側で頭を抱えていた。

 ちなみに、本来ここにいるべき秘書のジョディ・クロフォードは最近オープンした話題の喫茶店のケーキ食べ歩きの為に本日は休暇となっている。

 

「イチカ、君は何度言えば分かるんだ。軍事基地に勝手に入ってはいけない。もっと言えば、ホワイトハウスにも勝手に入ってはいけない。君のせいでプレジデントフォースはスクランブルだ。“ホワイトハウス地下にニンジャが忍び込んだ”とな」

「えー、でもファイルスおじさんの家にいてもナターシャさんは相手してくれないし……」

「む……確かに、ナターシャにはIS操縦者としての訓練もあるが、それとこれとは話は別だ」

 

 織斑イチカは、姉に構ってもらえない寂しさから人一倍やんちゃな子供に成長していた。

 彼が5歳の頃まで文字通り世界のトップであった第47代アメリカ大統領にして元世界政府大統領マイケル・ウィルソンJrを目の前にしても、そのやんちゃぶりは変わらない。

 

Hum(フム)……イチカ、君は何故勝手に基地に入ろうとするんだ?」

「マイケルおじさん。僕も、父さんの乗ってた特殊機動重装甲に乗りたいんだ。ISは男には動かせないし」

「それは無理だ。君は、まだ子供だ」

 

 特殊機動重装甲の特徴として、常人にもある程度動かすことはできるが、全体から見てほんの一握りの愛国心溢れる適性者でなければ完全に扱いきれないという点がある。

 ISの適正で例えるなら、Sが大統領。Aに特殊機動重装甲を使いこなすプレジデントフォースや陸軍の精鋭たち。それ以下のとりあえず扱えるBCレベル。ちなみにAとBの間には天と地のような差の壁がある。

 その適性の基準が全く不明であった為に各国がパワードスーツの自国生産に踏み切らざるを得なかったのだが、基準については細かいことを気にしないアメリカの国民性もあってか未だ解明されていない。動かせば分かる、たったそれだけだ。

 そして、一般的な適性の物は陸軍へ、性能を引き出せる一握りの存在にはプレジデントフォースへの道が開かれるのだ。

 尚、この適性についてはメタルウルフとその正式量産型であるメタルレイヴンに限った話であり、逆関節型などは適性に関わりなく使える。性能もそれなりであるが。

 

「とにかく、駄目なものはダメだ。軍機でもある。アメリカ陸軍ならともかく――」

「アメリカ陸軍ならいいの!? じゃあ僕、アメリカ陸軍の兵隊さんになるよ!」

「HAHAHA、これは一本取られたな。うまいスカウトじゃないか、ファイルス少佐」

「しかし大統領。メタルレイヴンは陸軍でも適性者しか動かせないのですよ?」

「何、彼もその内諦めるさ。現実はミルクシェイクのように甘くはない」

 

――そして、織斑イチカはアメリカ陸軍を目指すようになる。その胸に、人一倍のフロンティアスピリッツを抱えて。

 

 

 

 

 イチカが中学2年へと進級した夏。彼は夏休みをさも当然のようにアメリカで過ごしていた。

 アメリカ陸軍に入隊することを決意して5年。彼はファイルスや大統領の予想を裏切り、定めた目標へと邁進していた。

 ここはフォート・ウィルソン。エアフォース・ワンがホワイトハウス地下へと移動した関係でアンドルーズ空軍基地からエアフォース・ワン関連の機能をワシントンD.Cのすぐそばに移転させる際に作られた基地である。18年前のクーデター時には副大統領に制圧され、フォート・リチャードと一時期改名された。

 

「後10周! イチカ、お前は15周だ!」

「Yes,Ma'am!」

 

 そのイチカは今、大統領やアメリカIS代表候補生達に頼み込む形でIS訓練生の中に混じりランニングをしている。

 一般兵士と違い、IS訓練生はアメリカ軍の兵士以外からも募集されている。

 その年齢も成人のみ募集の一般兵士と違い、日本でいう中学生の13~15。そこから上位成績者が日本のIS学園への推薦を受けるのだ。それ以外はアメリカ国内で諦めずにIS教練過程を続けるか、女性兵士として一般兵士になるか適性に一縷の望みをかけ特殊機動重装甲(SMA)パイロットを目指すか、軍を辞めるかのどれかを選ぶことになる。

 男であるイチカは当然、最初から特殊機動重装甲コースである。

 

「おいおい、ありゃどこのガキだ?なんであんなガキがIS訓練生に混じってるんだ。男一人混ざりやがって、羨ましいなオイ」

「ああ……、そういやお前は今年ここに来たから知らないのか。あれはだいぶ前に亡くなったアレックス・オリムラ少佐の息子だ」

「げ、プレジデントフォース前隊長の子供かよ。あの大統領と殴り合った破天荒野郎の息子なら何しでかしても驚かんぞ」

 

 1人だけ周回数が異なったにも関わらず、少女達のトップ集団とそう変わらない時間で走りこみを終えたイチカが、金髪碧眼の少女から投げ渡されたドリンクのボトルを開け、乾ききった喉へと流し込んだ。

 ISの登場で、世界は変わった。ISを扱えるのは女性だけ。その結果女性の発言権が高まり、世界的に女尊男卑の傾向が強くなった。

 しかし、以前と変わらない国もある。

 多くの国々がISと比較して性能の低い自国製パワードスーツからISへと乗り換え、あのロシアすら前大統領(プッチーン)の死去で女尊男卑に染まっていった中、操縦者次第ではISとまともに対抗できてしまう特殊機動重装甲を有するアメリカ。

 アメリカでは未だ“最強”の名を恣にする大統領(メタルウルフ)の存在が、アメリカを今現在も“男女平等”の精神の下、実力主義の社会と戦力をISに依存しきらない軍隊を築いていた。

 特殊機動重装甲によって戦場の主役が歩兵に移り代わり、ISが運用される現在でも、航空機やヘリ、戦車といった兵器は運用され続けている。

 たった今ドリンクのボトルを投げ渡してきた、ティナ・ハミルトンの父親もアメリカ西部で空軍基地に勤めているそうだし、ISの影響によって各国の軍縮が進んだ結果、軍を辞めざるを得なくなった男性軍人達をアメリカは数多く掬いあげていた。

 とはいえ、当初アメリカのIS開発が遅れていたこともあって、国外ではアメリカの社会を“時代遅れの大国”と言う声も少なくないのが、このご時世だった。

 

「サンキュー、ティナ。生き返ったぜ」

「イチカ、あと2時間でモンドグロッソ決勝だよー。早くモニターのところに行こうよー」

「ハハ、気が早いな」

 

――そして、今日はISの世界大会、モンドグロッソの決勝である。

 世界政府構想が白紙に戻った今、モンドグロッソは世界のリーダーを決める戦いではなく、純粋なISの技量を競う競技として行われている。

 

うち(アメリカ)のIS、“カスパライティス”は2回戦で日本に負けちゃったから、決勝はドイツと日本なんだっけ」

「そうそう。そういえば、日本代表ってイチカのお姉さんなんだってね」

「ん? ああ。そうらしいね」

 

 イチカとしてはISにも興味はあるものの、それより特殊機動重装甲を優先していた。

 ISに自分が乗れないから、というのもあるし、特殊機動重装甲は実際に戦争で使われている兵器である。いつの世も、男の子が格好いい兵士や銃、大統領に憧れるのは変わらない。

 それにもう一つ、姉がIS操縦者だと初めて知ったのは第1回モンドグロッソ決勝の日、偶然付けたテレビに映っていた優勝者インタビューであった。

 

『イチカー、お姉ちゃんはやったぞー!』

 

その画面の中でこう叫ぶ姉の姿を目の当たりにし、生温かい世間の目とそれまでIS操縦者であることに関して一言も教えてもらえなかったことでイチカが拗ね、姉は酷く落ち込んでいたのを覚えている。

 だから今回、渡米していたせいで直接誘えなかったイチカが、モンドグロッソを見に来ないと連絡したせいで日本代表織斑千冬の士気がどん底まで落ち込み、危うく一回戦敗退しそうになっていた。

 ちなみにカスパライティスというISは、18年前のアメリカ内戦に登場した自立歩行兵器を5メートルの大型ISサイズに凝縮した重火力第1世代ISである。超エネルギー波動砲ユニットを装備したそのISは、一撃でエネルギーの80%を放出し絶対防御ごと30000℃の熱線で粉砕するはずだったが、今大会においてはレギュレーションに抵触した為ユニットを封印され、ただのミサイル搭載ISとなってしまった悲劇の機体である。

 後に懲りない開発陣の手により後継機として“アラクネ”が誕生し、元々モンドクロッソにはこちらが出場予定だったのだが――それはまた別の話。

 

――その時。イチカのいたフォート・ウィルソンに、警報が鳴り響いた。

 

「クソ! また亡国機業(ファントムタスク)の連中か!?」

 

 亡国機業(ファントムタスク)。アメリカを中心にして現大統領の就任以前からテロ活動を行うテロリストグループであり、最近はISを運用するようになったことで各国から危険視されている武装集団である。

 その歴史は古く、第二次世界大戦の頃から活動しているのだが、今は置いておく。

 

『所属不明IS2機とアラクネの攻撃を受けた! アラクネは敵機だ! 攻撃を許可する!』

「訓練生は退避! 戦える者は武器を取れ! ナイトリーフ第3小隊、全員ステルス展開! トンズラするぞ!」

「Yes,sir!」

「チッ! ティナ!」

 

 イチカが一緒にいた少女、ティナ・ハミルトンの手を引き駆けだす。その足は基地から離れていく方向へと向いている。

 その向こうでは、特殊部隊ナイトリーフのステルス歩兵達がレーダーから消失し、その姿も霧のように消えていった。

 

「えっ!? どこに行くの、イチカ!?」

「ホワイトハウス! あっちの方が安全だ!」

 

 

 

 

「ここまでくれば、安全だ……!」

「ここは……」

 

――また君か。あまりマイケルを困らせるんじゃないぞ――

 

 どこからともなく、そんな声が聞こえる。

 

「……善処するよ」

 

――最近、マイケルが少し嬉しそうでね。“子供ができたようだ”と言っている。マイケルには内緒だぞ――

 

 目の前にあるのは先代大統領の銅像が立つ台座。ごく一部の関係者以外、その存在を知られていない通路が眠る場所。

 しかし、今その通路は閉じられている。イチカとティナはその台座に背を預け、荒い息をついていた。

 

「あ、あのね、イチカ……」

「……どう、した?」

 

 紅潮した顔をイチカに向け、乱れた着衣を直すティナ。

 

「今は、さ……Mr.マイケルはいないよ……」

「……Oh,my god」

 

 今の今まで失念していたその言葉に、がっくりと地面に手をつくイチカ。

 観念してくれとばかりに仰向けに倒れ込み、空を見上げる。目に映るのは、暑そうにタンクトップをパタパタと煽っているティナ・ハミルトンの顔と銅像、そして空からこっちに向かってくるアメリカの第2世代機にしてラファール・リヴァイヴのアメリカ仕様版、ストライクイーグル。あとUFO。

 特殊機動重装甲の存在故にISの開発が軽視され、事実ISで大幅に遅れを取った為に国産第1世代ISがカスパライティス以外存在しないアメリカは、クラウス社がフランスのデュノア社からラファール・リヴァイヴのライセンス生産許可を得て、ようやくISに参入するに至った。

 そこからは持ち前の工業力と特殊機動重装甲の技術の応用で第2世代IS“ストライクイーグル”を量産し、クラウス社のレッドパレットが各国に高く評価され、カスパライティスの製造メーカーであるフロントムーディ社がIS用パイルバンカー、所謂盾殺し(シールド・ピアーズ)の"灰色の鱗殻(グレースケール)"を作り上げたことでようやく世界各国と肩を並べたのだ。 

――そのストライクイーグルが、何故かこちらへアサルトライフル“レッドパレット”の銃口を向けている。イチカの背筋に、冷たい直感が走った。

 

クソッ(Shit)……!」

「……データ照合。見つけた」

 

 イチカは飛び起き、ティナの手を引き寄せながら銅像の影に転がり込む。

 直後、すぐそばの地面が爆ぜ、銅像の頭部に銃弾が命中した。だが、たった1発流れ弾が当たったくらいでこの銅像は砕けやしない。何故ならこれは先代アメリカ大統領、マイケル・ウィルソンの銅像だからだ。

 

「イ、イチカ……!」

大丈夫(No problem)、ここの迎撃システムが起動した」

 

 ホワイトハウス(ファイトハウス)の両脇に白い塔が生えてくる。そこから波動砲“ファイト一発”が発射され、敵性と判断されたストライクイーグルへミサイルが雨のように降り注ぐ。

 巻き込まれた形となったUFOはそのミサイルの標的とされ、殺到したミサイルによって爆散した。グレイ型宇宙人が脱出してその辺に隠れたが、誰も見向きもしない。

 

「何をしている! 早くこちらに退避しろ!」

 

 同時にホワイトハウスの中から3機の特殊機動重装甲“メタルレイヴン”が現れ、M134ガトリング砲で弾幕を張る。

 背部コンテナにはプレジデントフォースを現す鷲ではなく陸軍の空挺師団を現す鴉のマーキングが施されている。

 

「アメリカに歯向かう者には死を!」

 

 更には第7特殊狙撃部隊所属の最新型狙撃モデルの自律装甲歩兵(サイボーグ)であるC37Sモデルがわらわらと地下カタパルトから射出され、芝生を突き破って沸いて出た。

 新たに呼び出したバズーカを構え、ストライクイーグルが弾幕と精密射撃の真っただ中を躍る。

 数で勝るはずのアメリカ側が逆に翻弄され、メタルレイヴンが弾幕で弾頭を破壊した次の瞬間、C37が直撃を受けて四散する。

 生身の人間など一瞬で粉砕してしまう砲弾がイチカのすぐそばに落ち、土煙と直撃を受けたC37の残骸の破片を被りながらもホワイトハウスの玄関に飛び込もうとして――イチカはそれができなかった。

 

「う、わっ!?」

 

 ファイト一発の流れ弾が先程のバズーカでめくれ上がった場所に落ち、周囲約1メートルが崩落。玄関の前に空いた大穴へイチカが足を滑らせ、落ちていった。

 

「イチカ? イチカ!?」

 

 深さにして約5メートル。ティナの視線の先で、イチカは真下にあった坂道を転がっていき、見えなくなっていた。

 

 

 

 

「Ouch!」

 

 頭をぶつけなかったのは運が良かったと言えるだろう。背中から落ち、その上坂道を転がる羽目になったイチカだが、特に怪我はしていなかった。

 一緒に転がり落ちる羽目になった、陸上迷彩を施されていたC37の千切れた上半身と何だかよく分からない銀色の腕のような物を見つめ、自分やティナが直撃を受けていたら、と考え身を震わせる。

 しかし、“if”を想像したところで何の意味もないと考えたイチカはその上半身を押し退け、C37用の狙撃砲に手をかけた。

 自分には到底扱えない重さだと分かると蹴飛ばしそうとして蹴飛ばせず、爪先を抑える羽目になった。代わりに腕のような物が掴んでいた白い銃をベルトに挟んだが。

 

「Oh……。ホワイトハウスの、地下施設か」

 

 地下施設のどこかだということは分かったものの、ここがどこであるかはイチカには分からなかった。全く見覚えのない場所だったからだ。

――だが、正面の扉を開けてすぐに分かった。立ち入り禁止と書かれた扉の先に、1機の特殊機動重装甲が安置されている。そう、ここは本来入れるはずもない場所。

 

「メタルウルフ……」

 

 ピンストライプのカラーリングが施されたそれは、大統領が所有するスーツのうちの一着だ。

 しかし、だ。メタルレイヴンどころか旧式の逆関節型にすら触れたことのないイチカである。

 ましてや、大統領以外にはほぼ動かせないと言われるメタルウルフ。イチカに動かせるはずがない。

 だが、現実は非情だった。イチカがメタルウルフのすぐそばまで歩いて行った時、後方の扉が突然爆発した。

 

「見つけた……兄さん、いや、織斑イチカ……!」

「その声……! まさか、千冬姉!? いくらなんでもやっていいことと悪いことがあるだろ!」

 

 爆発の向こうから現れたのは、先程襲ってきたストライクイーグル。その機体から放たれた声はやや幼さを感じさせ、光学兵器を得意とするアメリカの技術力が反映されたストライクイーグルの初期装備(プリセット)、ENガトリングポッドの付いたヘッドセットで顔も少し隠れてはいるが、声も顔も少しばかり幼くなった織斑千冬そのものだ。

 故に、イチカはこう怒る。

 

「何やってんだよ、今日はモンドグロッソ決勝だろ! それを放り出して何やってんだよ千冬姉!」

「違う。私は織斑千冬ではない」

 

 侵入者はそう言いながら背後にレッドパレットを向けると、3点バースト射撃を放つ。

 振り向きもせずに放たれた一射は追いかけてきたC37の狙撃砲を貫き、次いで右膝を撃ち抜いて転倒させた。

 

「織斑イチカ。私と共に来い」

「急に訳わかんねぇこと――」

 

 イチカは、ISから視線を逸らさないまま後ずさる。背後にはメタルウルフ。動かせるかは分からないが訳の分からないまま死ぬよりはマシだ。

 

「言われてもなぁ!」

 

 イチカは腰のベルトに挟んでいた白い銃を抜き、それを撃つ。

 先程地面が崩落した時、偶然手に入れた白い銃は、銃弾の代わりに緑色のリングを発射した。眩い光が直撃し、目晦ましにはなったが、ISのシールドバリアーに阻まれダメージはほとんどないようだ。

 しかし、イチカに分からないだけでストライクイーグルのシールドエネルギーは少し削れていた。

 マゼラン星雲からやってきた光線銃なだけあって、その性能はその辺のハンドガンと比べ物にならない。

 

「アメリカに歯向かう者には死を!」

「邪魔だ!」

 

 片足を潰されて尚這い寄ってきたC37がストライクイーグルに手をかけ、引き倒そうとする。

 が、倒れるより早くストライクイーグルの近接ナイフ、ケーバーがC37の首を刎ね、人工知能を搭載された頭部が床に転がった。

 

「チッ、高エネルギー反応――」

 

 侵入者が言い終わるより速く、C37は自爆した。ISが爆発に包まれた隙をついて、白い銃を放り出してメタルウルフの中に逃げ込み、ハッチを閉じる。

 

「ど、どうやって動かすんだ……動け、動けよ!」

 

 暗闇の中、メタルウルフを動かそうとイチカはもがく。しかし、メタルウルフの起動スイッチが見当たらない。

 代わりに、どこからともなく声が聞こえてくる。

 

「くそ! こんな、訳も分からず死ねるか!」

 

――メタルウルフの起動に必要なのは大統領魂か、それに匹敵する精神力だ――

 

「んなこと言われたって!」

「出てこい、織斑イチカ。出てこないならメタルウルフごと連れていく」

 

――Hum、マイケルと仲良くしてくれている君のピンチだ。手を貸してあげよう――

 

 メタルウルフを固定していたハンガー、ちょうどメタルウルフの背後に当たる部分に彫られていた先代大統領の顔から、白いエネルギーがハンガーを伝って流れ込む。メタルウルフの赤眼が、力強く輝く。真っ暗だったモニターに一列の文章が表示された。

 

『“大統力(プレジデントポイント)”規定値を確認』

 

 白い光はメタルウルフを通じ、イチカにも流れ込む。熱い魂を感じさせるエネルギーの奔流がイチカを直撃した時、メタルウルフとイチカがついに咆哮を上げた!

 ハンガーが役目を終えたとばかりに先代大統領の顔を中心に爆発し、メタルウルフが跳躍。

 紅い単眼の光が尾を引き、ストライクイーグルの目の前へ火花を散らせながら着地。

 鋼鉄の狼が、新たな操縦者の下で今まさに産声を上げる。

 

――ふむ、悪くない。実は私も乗ってみたかったのだ――

 

「オォォォォケェェィ! これが、メタルウルフ……!」

「何……メタルウルフが、動いている……?」

 

 極一部を除けばメタルウルフは常人には動かせない代物ではなかったのか、と驚愕に顔を引き攣らせた侵入者を前にして、イチカは、メタルウルフはただ一言声を上げた。

 

ダンスパーティと洒落こもうぜ(Shall We Dance)?」

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