お詫びとして8巻要素も突っ込んだ結果、いつもより長くなっています。
一部改訂済み
2011年、突如として北アフリカに出現した寄生虫、アルファワーム。
生物の体内に多数の卵を産み付け、遺伝子変異を誘発することで未知の異形の生物へと変貌させる、最悪の生物災害の幕開けであった。
これに対し、収集の付けられなくなった北アフリカには国連により核攻撃が行われ、付近一帯は完全に消滅した。
更には国連国際対策本部のマイケル・ウィルソン、友人のNINJAカンベエ・オガワ他数名の主導により国連国際災害対応機関GUIDEを設立し、激闘の末にアルファワームは完全に駆逐された。
しかし、アルファワームが集中的に発生した北アフリカの4ヶ国、エジプト、スーダン、チャド、リビアの4ヶ国はアルファワームによって甚大な被害を被り、また最初に行われた核攻撃に用いられたアメリカ開発の“通常の50倍の威力を持つ核爆弾”による深刻な放射能汚染を理由に国土の放棄を発表。
北アフリカ4ヶ国より退去を余儀なくされた人類だが、同様に当初アルファワームの発生が多発したアラビア半島が化石燃料の枯渇を発表した。
以後エネルギー資源を巡って世界各地で紛争が激化し、経済摩擦も合わさり各国の経済事情は次第に悪化していくこととなる。
そんな中、アリゾナで発生したアリゾナ紛争においてアメリカ陸軍はパワードスーツである特殊機動重装甲を投入。
その活躍は目覚ましく、ついには“戦場の主役は再び歩兵の手に奪還された”と言われるほどとなった。
このアリゾナ紛争において英雄とされメダルオブオナーを受賞したマイケル・ウィルソンJrは当時の大統領である父、マイケル・ウィルソンの後任として大統領に就任するも、彼と同じくアリゾナ戦争にて戦果を挙げ英雄とされたリチャード・ホークとの確執と彼の星をも砕きかねないほどの恨みによりクーデターが勃発。
リチャード・ホークはアメリカの全機能を掌握し、自身の特殊機動重装甲と宇宙ステーションに配備した“地球上の全核爆弾の3万倍の威力を持つミサイル”搭載の地球制圧用究極兵器アルティメットウェポンを引っ提げマイケル・ウィルソンとの対決に挑んだ。
これを退け、人知れず地球崩壊の危機から地球を救ったマイケル・ウィルソンJrは世界政府理論と各国のトップ同士による物理的な政治決着、
これにより、世界各地の紛争がある程度沈静化した頃、世界に新たな火種が燃え上がった。
インフィニット・ストラトス。 宇宙開発用のマルチフォームスーツとして発表されたが、白騎士事件で見せつけたその性能により表向きはアラスカ条約に従い競技用として、裏では特殊機動重装甲を上回る軍事用パワードスーツとして開発が始まることとなる。
だが、白騎士事件の際の日米への賠償金を支払う為、全てのコアを有償で分配することとなった時、再び世界経済は悲鳴を上げた。
大国の面子として大国ほどISコアを入手し経済が傾いていく中、唯一ISの登場以前から積極的に宇宙へと進出し、2010年代には宇宙資源によってエネルギー問題から脱却していたアメリカを除き、経済事情と予算、既に地球上で代替エネルギーの開発が進んでいることを理由に宇宙への道は閉ざされた。
ISにより女尊男卑が広まった地球を月から見下ろす天才篠ノ之束。
ISコアを巡り、世界恐慌と全世界規模の冷戦状態に陥った世界。
各国はISに対抗できる兵器や男性にも操縦できるISの開発を急務とするも、後者はそもそも糸口すら掴めず、前者は大統領魂やフォースといった万人には扱えない物ばかりでかろうじて火力面での対抗馬としてアメリカの特殊機動重装甲が存在する程度。
かつての大統領や首相達も引退、失脚していき、最早世界の男性は虐げられるだけか、そう思われた時だ。 突如全男性の希望、アメリカ合衆国大統領しか操れないはずの
――イチカ・オリムラ。
*
「欧州国際IS演習?」
「そうだ。 毎年冬に欧州各国の技術試験用ISが1ヶ所に集まり、イグニッションプランの選定も兼ねて大規模演習を行っている。我々、プレジデントフォースも特殊機動重装甲で参加することになっている」
「特殊機動重装甲で? ISの演習に?」
フライパンに週末スモークしたばかりの大きめにスライスした自家製肉厚ベーコンを放りこみ、加熱する。
健康に割と気を使うイチカだけあって、塩味は薄め。
焦げ目がついた辺りで卵を投入し、半熟になるくらいで手早くフライパンから皿へと移す。
市販のハーブサラダミックスにドレッシングをかけ、充分にかきまぜて馴染ませた。
「欧州はIS至上主義だからな。 連中にとって、ISの力を思い知らせる絶好の機会なのさ」
ファイルス家の食卓を当たり前のようにイチカが用意し、ファイルスはテーブルについたまま空中投影ディスプレイで今朝配信された電子新聞の朝刊を読んでいる。
彼の父が住んでいた家もあるにはあるが、父の部下であり友人だったロバート・ファイルスの厚意により、父の死後――実際には生存しているそうだが――からは滅多に使用されておらず、こちらのファイルス家に居候している。
ファイルスの妻は宇宙コロニー“グレート・リチャード”の技術者としてコロニー在住であり、また娘もモンドグロッソ終了後は新型IS計画によって同コロニーに出向していた。
“今年のキャノンボール・ファストの成績を大胆予想!-1面”、“
「ニュースにもあるが、今年はイギリスの試作ISが出てくる。 イギリス首相が期待の新人パイロット同士で優劣をつけてはどうか、とな」
「へぇ……で、誰が相手するんだろ?」
「アメリカで期待の新人と言ったら、君だぞイチカ」
「俺かよ! ……強いの? それ」
テーブルの上から響いたベルの音と共にファイルスは電子新聞の画面を閉じ、やや年季の入ったポップアップトースターからほどよく焼けたトースト2枚を取り出し、マーガリンを塗る。
このトースター、彼がプレジデントフォース技術部にいた頃無駄な技術力を使って作られたもので、トーストの焦げ目でプレジデントフォースの部隊章である大統領章をバックにメタルウルフの機影をくっきりと描く代物だ。
アメリカ内戦終結後、ハリウッド製作の映画“メタルウルフ”が公開された際にはプレジデントフォース技術部が便乗し、メタルウルフトースターを発売している。
大統領章が入ったものは、プレジデントフォース内のみで造られた非売品である。
「それが、完成次第IS学園に操縦者ごと送ると言って、一切の情報を公開していない。 ぶっつけ本番になるな。 プレジデントフォースの情報部も調査する予定だが、今のところ分かっているのは光学兵器を使う蒼いIS、だ」
――何、イチカ。 側に君の生まれる前から戦場にいる私もファイルス君もいるのだ。 いざとなれば“ジュージツ”もある――
アラスカ条約締結から7年程経過した今、条約のいくつかは既に有名無実化している。
特に条約の目玉であった“ISの軍事利用を禁ずる”がISを使ったテロリストの出現により、殆どの国がISテロに対応すべく軍でISを使わざるを得なくなったことで破錠していた。
「だが、だ。 今の我々にはその前にやることがある。 ……詳細は14時にフォート・ウィルソンAブロック作戦室で説明する」
ベーコンエッグをそれぞれトーストの上に乗せ、2人同時にかじりつく。
*
約1ヶ月後。 フォート・ウィルソン。
その日、フォート・ウィルソンの広い作戦室はほぼ満員となっていた。
「では、改めて作戦を説明する。
8月のホワイトハウス襲撃を受け、アメリカは
以前から亡国機業内部に潜入していた人員からの報告を受け、大規模拠点3ヵ所への同時攻撃を実施し、これを全て撃滅する。
この目標3ヵ所を規模の順にアルファ、ベータ、チャーリーと呼称する。
アルファ攻略チームに所属するのは、イチカを含めた大統領直属部隊、プレジデントフォース。 そしてアメリカ海軍及び空軍のIS部隊。 本来ならそれだけのはずであったが、ドイツからの要請でドイツ特殊部隊“シュヴァルツェ・ハーゼ”からIS3機、ドイツの大統領機シュベーレ・グスタフを改良した量産型支援機の特殊機動重装甲“ドーラ”9機が参加することとなっている。
デンマークは国外に動かせるISがないことを理由に出撃を拒否した。
尚、アメリカのIS部隊にはまだ佐官がおらず、事実上ファイルスが実働部隊の最高階級者となっている。
ナターシャ・ファイルス等といったIS国家代表は便宜上佐官相当官となるが、実戦経験がなかった。
「少佐、質問があります」
その時、手を挙げたのは彼の娘、ナターシャ。
「ベータ、チャーリーにはどこが?」
「チャーリーには、今までのツケを支払うべく欧州主導で攻撃が行われる。 場所はアフリカ北部の無人地帯、通称グラウンド・アルファ」
グラウンド・アルファ。
現在はエジプト、スーダン、チャド、リビアの4ヶ国を指す言葉であり、アルファワームが最初に発見された場所でもある。
この4ヶ国はアルファワームに対処できなくなった国連による核攻撃により――表向きには核実験施設の事故として――今尚、放射能汚染地帯として立ち入りが制限され、国土放棄宣言もあり無人地帯と化している。
アフリカには、今も宇宙から確認できる巨大クレーターがそのまま残されているのだ。
「そしてベータだが……
質問の手は、今度こそ挙がらない。
かつて、合衆国軍150万人を相手にたった1人敢然と立ち向かった大統領。 誰よりもテロを憎む漢。
それが立ち上がるというのに、何を心配する必要があろうか。
それに――付け加えて言うなら、ここにいる殆どの者は何故そうなったのか知らないが、その大統領の父であるマイケル・ウィルソンもこの場にいるのである。
「ないようだな。 では、出撃する」
ちょうどその時、エアフォース・ワンのエンジンが発する轟音が響き始めた。
また、いつものようにホワイトハウス地下からエアフォース・ワンが飛び立とうとしている。
*
澄み切った空に見える幻想的なオーロラ、氷に閉ざされた白い大地。
ここは凍土の地、グリーンランド。
季節は秋真っただ中の10月。 10月だが、平均気温は氷点下。 極寒の大地であるそこに世界の敵、亡国機業の一大拠点は存在した。
『――敵軍は、チューレ空軍基地からやや南東、北東グリーンランド国立公園の内陸部に拠点を築き、アメリカと欧州への攻撃拠点としていたようです。 ターゲットの半数は地下にあるようですが、この程度軽く捻れるはずです。 幸い今はブリザードは起きていないようですが、雪が降っていて視界が悪いのでホッキョクグマを撃たないようにしてくださいね。 今まで散々世界の手を焼かせてきた悪戯っ子に、火薬のお灸を据えてあげましょう! さて、それでは今回の作戦名は……“白熱のアイスバトル大作戦!”です。ご幸運を、大統領! プレジデントフォース!』
別ルートを進むエアフォース・ワンからの通信がそこで一旦途切れる。
「
「いや、ポール。 彼女はアメリカ内戦の頃からずっとああだ」
アメリカのヒューストンから発進後、フォートウィルソンでアルファ攻略チームを乗せて飛ぶヘリ型IS“オラジワンⅢ”が高高度を飛行する。
白騎士事件当時、アメリカ内戦時に“悪辣の副大統領に逆らえずやむなく大統領と敵対し、撃墜された”ことになっている超大型強襲重攻撃ヘリ“XH-34 オラジワン”の艦載型として二回りほど小型化した大型強襲攻撃ヘリ“XH-34-2 オラジワンⅡ”が白騎士迎撃に当たった。
戦闘機の機関銃や対空機関砲をものともしない、A-10すら凌ぐ重装甲を誇り、対空装備として気化弾頭を搭載した超大型対空ミサイルを放つ、DNNのピーター・マクドナルド曰く“空の要塞”だったが、これまた規格外である白騎士の荷電粒子砲の前に装甲表面を覆う電磁バリアは一撃で貫通され、肉厚の装甲は役に立たず、虎の子の超大型対空ミサイルも命中しなかった。
そんなオラジワンⅡを呆気なく無力化したISが各国で広まり、最早従来のその鈍重な巨体では対抗できないと判断されたオラジワンⅡの次策として誕生したのが、小型化ではなく敢えて原点回帰で大型化させ、ついでに特殊機動重装甲とISの技術の融合を果たした超弩級強襲重攻撃ヘリ型IS“XH34-3 オラジワンⅢ”である。
操縦席に2つのISを用意し、操縦士と副操縦士がそれを通じて巨体を操作することでPICで自在に空を舞うことができる。
あくまで人が操縦するISとして人型に拘った各国に対し、ISを操縦席として巨大兵器を運用するというぶっ飛んだ発想に世界は度肝を抜かれた。
だが、真に驚くべきはそこではなく、このオラジワンⅢはオラジワンと同じく内部に軽く3桁を超える人員を乗せられる搭載量を誇る。
そこにIS整備用のISと整備・補給ユニットを積みこみ、核融合エンジンで理論上はISエネルギーを消耗したそばから補充できるという、“ISを運用する空中母艦IS”である。
無論、理論上の話であって実際には無限に飛び続けることなどできないが、それなりの速度で飛行する巨大ISが内部からISを発進させながら砲撃してくる姿は、最早悪夢である。
そのサイズ故にIS学園に受け入れを拒否され、ヘリ部分は量子化できない為非常にスペースを取るという欠点があるが、運用を考えなければ問題はない。
「ハァイ、イチカ、久しぶりね」
「うわっ! ……ナターシャさん。 お久しぶりです。 向こうはどうでした?」
「んー、宇宙コロニーでの生活もなかなか良かったわ。 母さんにも会えたしね。 父さんも久しぶり」
「ああ」
少年、織斑イチカは広い格納庫の中で悶々としていた。
巨大ヘリの格納庫で出撃を待つのは67人のアメリカンな若い美女、美少女。
そして5mほどのダークブルーの特殊機動重装甲に収まった男が13人。
イチカのメタルウルフが1機、メタルレイヴンが4機、逆関節型の量産タイプが2小隊8機なのだが、イチカを除けば既婚者か、もしくは30オーバーと10代後半~20代前半で構成されたIS部隊より年齢層が上なのである。
ファイルスは「もう慣れた」と言うし、娘も一緒にいるので問題はないが、問題はイチカである。
彼は健全な14歳なのだ。
そんな中、突如メタルウルフに抱きついてきたナターシャ・ファイルス。
それまで少し距離を取っている感じだったIS部隊員が、一斉に近寄ってくる。
「えと、あの、よろしくお願いします、イチカさん」
「イチカ君、この任務が終わったら一緒にお茶しない?」
「ダメだよウィンディ。 イチカ君は私とデートするの。 ってかしようよ」
「ううん、イチカ君は私と一緒に遊ぶの」
「ひいっ! は、は、背後に人が浮かんで!」
イチカ自身に自覚はないが、彼は所謂イケメンである。 大統領を目指す為に勉強をしている為、それなりに頭もいいが、考えるより先に身体が動くタイプである。 目標はハーバード。
更にメタルウルフを動かし、ファイルスや大統領とも顔見知り。
ホワイトハウス襲撃の際には機転を利かせて逃げ込んだホワイトハウスで運悪くISに襲われるも、逆に友人の少女ティナ・ハミルトンを守る為勇敢に立ち向かい、これを撃破した。
そんな少年が女性だらけの部屋に放りこまれればこの様に引っ張りだこになるのは当然。
彼が無事でいるのは単に特殊機動重装甲の中に収まっているからでしかない。
それでも、彼女達がその気になってISを展開すればどうとでもなるだろう。
そして、彼女達が纏うのは肌の露出が多いISスーツ。 若い男であればその惜しげもなく晒される肢体に視線が釘付けになるのは当然であり、既婚者の特殊機動重装甲パイロット達がイチカに装甲越しに生温かい視線を送ってくる。
ISスーツはボディラインがくっきりと出る。 流石に双丘の頂やむちむちとした太股の間に存在するクレバスまでくっきりと出ることはないが、イチカの視界にはなだらかな丘陵から存在を主張する豊満な膨らみまで揃っている。
口に出すことはないが、イチカは内心思っている。 このISスーツの開発者、天才だね、と。
もう一度言うが彼は健全な14歳だ。
……そんな心境も背後にいる先代大統領に筒抜けで、微笑ましく思われていることには気付いていなかった。
*
「へくしょんっ!」
「……やっぱり美味しくなかったですか、束さま」
束がくしゃみと共に飛ばしてしまった黒焦げハンバーグの欠片をふき取りながら、銀髪少女くーちゃんが言う。
「ううん、このハンバーグは上手く焼けてるよ! いやぁ、また誰かがこの束さんの噂をしているみたいだね!」
「……そうですか」
表情は変わらないが、眉が僅かに下がったように見える。
彼女は元々感情表現が苦手で、
デスクの上に鎮座していた“モッピーちゃん”が掃除しようとして、既にその必要がなくなっていることが分かると、しょんぼりとくーちゃん以上に落ち込んでしまうのであった。
*
その頃、アメリカ西部。 アルカトラズ島。
昨日、亡国機業によるアメリカへの次なる攻撃として、アルカトラズ島及び巨大レールガン“アルカトラズ砲”の奪取作戦が行われた。
ISによる襲撃を受けたとの連絡を最期に連絡が途絶えたアルカトラズ駐留隊の救出と島の奪還の為、“北極の狼作戦”直前に目標デルタとして設定されたこの島へ、海中から特殊潜水艇に乗る2つの特殊部隊が接近していた。
「もうすぐ到着する」
船室内からISの端末接続用ケーブルを介してこの潜水艇の操縦を行う女性が、静かに述べる。
片方の隊員たちが、緊張の為僅かに身じろぎする。 もう一方は物音一つ立てない。
「今回は珍しく共同で作戦を行う。 あちらさんが静かに敵を始末する間に、我々は上層部に潜入。アルカトラズ砲のエネルギー施設を破壊する」
低い声でこの潜航艇で唯一の女性と大きめの防水スーツを纏った側を指差すのは、先程身じろぎした側の小隊長。
片やアリゾナ紛争時に結成され、先日のホワイトハウス襲撃時にも防衛に参加した、主に潜入任務を主とする陸軍特殊機動部隊ナイトリーフ。
しかし、近年は厳しい訓練の一環として国際災害対応機関GUIDEに出向し、ヘリからパラシュートなしでの降下やジュージツ、ヘリや装甲車の操縦といったNINJA技能を習得させている為、段々ステルスNINJA部隊化しつつあるのでそういった“潜入”も不可能ではない。
「敵ISが存在する可能性が高い。 戦闘は我々に任せろ」
もう一方は数年前に新設され対IS作戦を主任務とする最新鋭
運用目的は真逆だが、双方共に目視、レーダー、赤外線といったあらゆるセンサーでの探知を不可能にするステルス迷彩を保有している。
アンネイムドの隊長には同様のステルス仕様を有するストライクイーグルが配備され、黒と緑、所謂“マイケルブラック”に塗装されている。
両者とも表向き存在しない部隊であるが、ナイトリーフはアメリカ内戦時に参戦していたこともあって、アメリカ軍内部では一部に存在が知られている。
今回、両者とも相手がどこの部隊か知らされていない。 知る必要もない。
「任せた。 そちらのコールサインは――」
「存在しない。 彼らからも隊長としか呼ばれていない」
「……了解した。 こちらはSHINOBI1、S1だ。 では
「忍……、いや、なんでもない。 地下ドッグに着底した。 ハッチを開ける。 S1、いいな」
「いつでも」
潜水艇のハッチを勢いよく開き、一気に海水が流入する。
かなり前に閉鎖され使われなくなった地下ドッグから上陸すると、双方ともに防水スーツを脱ぎ棄てる。
どこかそわそわした様子で、ナイトリーフ隊員の1人が小隊長の前に立った。
「小隊長、ここに装甲車とかないでしょうか。 アレに乗って真正面から突っ込みたいのですが」
「S8、ブリーフィングでもダメだと言っただろう」
「……お前らは忍者じゃないのか。 目立ってどうする」
「いや、当然、我々はNINJAさ。 だが、今回は残念ながら普通に大人しく潜入することになっている」
「意味が分からん……」
忍者を自称するにしてはおかしな発言に呆れるアンネイムドの隊長。 しかし、双方で微妙に認識が異なることにはどちらも気付けなかった。
「全員上陸しました」
ナイトリーフの最後尾にいた隊員が呟く。 小隊長は背中の高周波忍刀をチンと鳴らすと、何も語らずただ防弾ヘルメットの防弾バイザーを下げる。
その澄みきった音を合図に部下もバイザーを下げ、ナイトリーフの青い制服が空気中にかき消えた。
同じくストライクイーグルとC43Mの姿も完全に消失する。 アンネイムドの隊長は妙な合図だとは思ったものの、もう声に出すことはしなかった。
「以後、ナノマシン通信。 作戦、開始」
小隊長はそう宣言すると、手始めに内側から固く封印された耐圧扉に爆薬を仕掛け始めた。
2013年頃にアメリカが宇宙資源を元に開発した、TNTの10倍の破壊力を持つ液体燃料TROTを少量染み込ませた工作用爆薬である。
アメリカ内戦時には副大統領がこれをタンク数個に満載して一纏めにし、ビバリーヒルズ各地に設置していた。
「待て、何のつもりだ」
「何って、扉を爆破するつもりだが」
「そのTROT爆弾でか? やめろ、私が開ける」
「そうか? なら、頼む」
ナイトリーフ小隊長の言葉と同時に、固く封印されていた耐圧扉をストライクイーグルの力がこじ開けた。
開いた扉から、ナイトリーフとC43Mが足音もなく突入していく。
*
『こちらドイツ軍、シュヴァルツェア・ハーゼ。 クラリッサ・ハルフォーフ大尉。 貴隊に合流する』
「認識コードを確認しました。 歓迎します」
ドイツ特殊部隊、シュヴァルツェア・ハーゼ。 IS3機とドーラ9機を搭載した大型輸送機――なのだが、オラジワンⅢがあまりの大きさである為、非常にちっぽけに見える。
『そちらのコードを確認した。 ……しかし、存在は聞かされていたが……大きい。 これで、IS……』
2重のPICと非常用の6つのヘリローターが生み出す速力は、この巨体にある程度のスピードを保持させている。
クラリッサは脳内で仮想敵としてこのISの撃墜プランを練るも、情報があまりにも少なすぎた。
「しかし、雪原に黒いウサギだなんて、生きていけるんでしょうか?」
『さぁ、ね。 自然界の兎なら無理でしょうが、我々は生き延びます』
オラジワンⅢの操縦手の通信ディスプレイの向こう、クラリッサは自信に満ちた笑みを浮かべる。
『ところで、イチカ・オリムラはそこに?』
「ええ。 出撃待機中なので、話はできませんが」
『イチカ・オリムラ? ハルフォーフ隊長、それは誰だ?』
『ラウラ・ボーデヴィッヒ。 今、発言を許可した覚えはないが……イチカ・オリムラは織斑教官の弟だ』
『教官に、弟が――』
『隊長から離れなさい、
『最近急に成績がよくなったからと言って、お姉様に擦り寄らないでください』
『貴様達、やめろ! 他国が見ている前で!』
クラリッサが背後に振りかえり、一喝。
ドーラに掴みかかっていた第2世代IS“シュヴァルツェア・パンター”2機が、静かに手を離す。
『この件は帰還後、教官に報告する! ……失礼した。 今の……ドーラの操縦者だが、織斑教官が赴任してからめきめきと頭角を現してきたのだが、それまでいろいろあったせいで……』
「え、ええ」
『いや、すまない。 他国にする話ではなかったな。 忘れてほしい。 それで教官からの伝言なのだが、たまには連絡をしてくれ、以上だ』
*
「はいはい、そろそろ静かにしてね」
「なんだよナタル、せっかく面白そうなところだったんだぜ」
そこに現れた救世主。 その名はナターシャ・ファイルス。
もう一人はナターシャ同様アメリカ国家代表であるイーリス・コーリング。
2人ともアメリカIS操縦者でトップレベルの操縦者であり、周囲のIS操縦者の憧れでもある。
そもそもナターシャが火付け役であったことには誰も触れない。
「あと10分だ。 お前ら、そろそろ気合い入れるぜ! コクピット、聞こえてるか!?」
『はい! 降下実施点に接近! メンテ要員、交代要員は奥の方に退避し、身体をシートに固定してください』
先ほどまでのあどけない笑顔を振りまいていた少女たちは冷徹な瞳を宿す戦士の顔へと変わる。
ISの絶対防御とて絶対ではない。
生と死の狭間を駆け抜ける戦場へ、これから彼女達は飛び立つのだ。
ISスーツの代わりに防寒スーツを着ていた約半数が整然とシートに身体を固定し、その時を待つ。
『退避要員、酸素マスクを装着してください』
「出撃チーム、ISの操縦者保護機能を作動させろ! 退避チーム、酸素マスク装着!」
IS操縦者それぞれの身体が僅かに光る。 まだIS自体は展開しない。
『通信を受信。 作戦開始です。 各員、ISの高度センサーに従い、一定速度で降下願います』
作戦開始と聞き、前に出ようとしたメタルウルフをメタルレイヴンが止める。
「焦るな、落ち付け。 まだ我々の番ではない」
「……わかった」
『退避要員、酸素マスク作動。 減圧、開始!』
「酸素マスク作動! 減圧開始するぞ、ちゃんとベルトは締めてるな!?」
返事はない。 それを確認すると、イーリスはハッチの方向を向く。
「予定通り30秒後にハッチ解放!」
『30秒後にハッチ解放!』
「コーリング、ハイパーセンサーに遮光フィルターをかけろ。 眩しいぞ」
「ご心配なく、降下の先輩!」
『ハッチ、開きます!』
「以後、通信はオープン・チャネルと無線に切り替え!」
オラジワンⅢの後部ハッチが開く。 予想通り、ハッチが開いた瞬間眩い光が差し込んだ。
空気が外に吸い出されていき、その音以外何も聞こえない。
「うおっ! 確かに本当だぜ、自動設定から変えといて良かった」
『コンディション、オールグリーン!』
強い光が差し込む中、イーリスは振り返る。
「さぁて。 お前ら、出撃だ! 私以降、3人ずつ降下!」
「Yes,Ma'am!」
「私達が胸に秘めるモノはなんだ!?」
「アメリカ魂です!」
「私達が守るべきものは何だ!?」
「世界の自由と平和です!」
「私達が忠誠を誓うのは!?」
「合衆国です!」
「オーケィ、テイクオフ!」
イーリスが静かに身体を傾けていき、そして外に消えた。
すかさず降下作戦経験者、ロバート・ファイルスが叫ぶ。
「
勇将の下に弱卒無し、とはよく言ったものでほとんどが初陣の少女たちはイーリスに力づけられ、続々と降下していく。
そもそも大統領、つまり最高司令官が真っ先に戦うのだ。 アメリカ軍の士気は元々高い。
お手本のように綺麗な姿勢で降下していくイーリスを追いかけ、降下していく。
『こちらイーリス、視界良好。 ISとはまた違った感覚で降下中。 いつのゲームだっけ、鳥になって来い! ってのは』
「こちらレイヴン1。 ファイルスだ。 それは21世紀初めに出た、アメリカの特殊工作員がロシアに潜入するゲームだな。 ……余裕そうで安心したよ」
――以前、DARPAがそのシリーズに出てくる核搭載2足歩行戦車を作った事があったな――
最終降下組のナターシャと、護衛2名がオラジワンⅢから降下した。
時間は予定通り。 ハッチが閉まっていく。
『いや、実は怖い。 予定高度までの気を紛らわすことができて、助かった』
『安全高度に到達すると同時に、信号を送ります。 同時に展開を』
『オーケェィ! ……安全高度、確保! 展開!』
アメリカ代表、イーリス・コーリングを筆頭として33人の女性が整然と水着――もとい、ISスーツ姿で凍てついた地上へ落ちていく。
それらが降下した順にISを展開し、太陽光をメタルウルフを意識したダークブルーの全身装甲に反射させながら舞い上がる。
安定した性能と高い汎用性が特徴のラファールリヴァイヴのライセンス生産機、最高速度と機動性を犠牲に拡張領域と装甲を増やしたアメリカ軍仕様の主力IS“ストライクイーグル”。
その先頭には専用機であるイーリスの“ストライクイーグルカスタム”。 量産型と同じく限定装甲モードと全身装甲モードがあるのは変わらないが、代わりに全体的に装甲が薄くなったほか、操縦者を絶叫させる高機動を叩き出す“ファング・クエイク”のスラスターに換装されている。
ただし、ファング・クエイクはスラスターにかかる負荷の影響で全力稼働するとスラスターが短時間で爆散するという、当初の安定性を目的としたコンセプトからかけ離れた致命的な欠陥を抱えてしまい、試作段階から進んでいない。
一応ストライクイーグルならそこまでの機動はできないし、保険として今回はリミッターが存在するが、イーリスは大いに不安である。
先月のキャノンボールファスト、アメリカはゴール目前でストライクイーグルカスタムのスラスターが爆散し、独走状態から3位へ転落。
危険を感じたイーリスが急減速しながらスラスターを切り離さなければ、先にスタート位置で爆散した中国機と同じ運命を辿っていただろう。
元々別の要因から全身装甲であるナターシャの“カスパライティス”と護衛2機はそのまま地表まで降下した。
「カスパライティス、着陸しました。 周辺に異常なし。作戦、第1段階最終フェイズ開始します」
カスパライティスの背中、6本の装甲脚が動き出す。
モンドグロッソでは装甲脚で格闘戦を行わざるを得なかった本機だが、実はこの装甲脚、格闘用の装備ではない。
「波動砲ユニット、起動」
通常はオフラインになっている波動砲ユニットが起動。 背中の6本足の中心に、赤い球体が出現する。
装甲脚が全て下を向き、機体を固定するアンカーとして永久凍土を抉り、突き刺さる。
同時に背中の赤い球体が光を放ち始めた。
「エネルギー、充填開始」
甲高い音と共に、超エネルギー波動砲の出力が上がっていく。 明滅を繰り返す赤い球体の内部で、莫大なエネルギーが生成、収束していく。
「エネルギー、ユニットへ正常に伝達。 衛星データリンク完了」
球体の下から右脇へと折りたたまれていた長い砲身が突き出てくる。 それを掴むと、赤い球体から高温で蒸気を吹き出し始めた。
球体を中心に、超高温の熱気が周囲を包む。 護衛機も距離を取り、その熱気は瞬く間に足元の永久凍土を溶かしつくす。
「出力、90···100···120%···!」
100%に到達すると同時、耐熱装甲から冷却ジェルが吹き出す。
だが、背中の赤い球体はそのまま。 間を置かず、視界の隅に警告音と共にメッセージが表示される。
――WARNING! Back unit overheat!――
「ごめんなさい。 それでも、撃たなきゃいけないの」
波動砲の強制停止を拒否し、超高感度センサーを
カスパライティスの額部分にあった精密射撃用の超高感度センサーが下りてきて、赤い単眼の上に蒼い単眼が被さった。
基本的にISが発するメッセージは篠ノ之束が日本語に設定しており変更できなくなっているが、このカスパライティスはコアの自我が学習したのか、たどたどしいながらも英語を表示してくる。
ナターシャはクリアになった視界で照準を合わせた。
周囲に広がるのは最早永久凍土ではなく、乾燥しきったひび割れた大地。 モンドグロッソで使用を制限されるのも当然と言える。
降り続ける雪など、雨を通り越してそのまま蒸発していく。
「波動砲、発射!」
放たれた圧倒的なエネルギーは、射線上の凍土を一瞬で蒸発させ、全てを薙ぎ払う。
恐らく管制塔であろうタワーの根元にまず突き刺さり、構造物を蒸発させる。
そのまま掃射され、管制塔は1階か2階をごっそりと失い倒壊が始まった。
更に航空機とISが待機するであろうハンガーへと突き刺さり、超長距離からの攻撃でハンガーは1機の戦力も出せぬまま崩落していった。 既にISを装着済みであれば運が良ければ生きているはずだが、そうでなければ生きてはいまい。
――と、その辺りで元々管制塔があった辺りの瓦礫から8本の装甲脚を背負ったISが這い出し、何か怒鳴り散らしている。
データ照合するまでもなく、あの8本脚には見覚えが――。
ふと、そこでカスパライティスの視界にノイズが走った。
元々、3000℃の熱線で大統領のメタルウルフをも撃墜しかねない波動砲だが、今回ISへの搭載にあたり、何を考えたのか出力10倍、フルパワーなら30000℃の熱線を発射して直撃させれば絶対防御ごとIS搭乗者を破壊できるように改造されている。
だが、冷却機能が追い付いていない。 氷点下だった気温をこの周辺だけ3桁以上の数値と化して、尚。
「……あら?」
ナターシャが波動砲ユニットを強制排除しようとして、操作しようとした手が止まった。
いくつものウィンドウが、高速で現れては消えていく。
既に砲身は溶けかけ、波動砲ユニットにも深刻なダメージが発生したとの表示があるので、恐らく再使用は無理だろう。
だが、カスパライティスはそれにも拘わらずFCSやミサイルユニットといった不要なエネルギーをカットし、未だ蒸気を纏っている波動砲ユニットの冷却機能を再構築、最適化しユニットの温度を下げて行く。
やがて温度が安全圏へと低下すると同時に停止していた機能が復活し、ウィンドウに“
「ありがとう、カスパライティス。 ……戻りましょう。 エスコート、よろしくね」
ナターシャが見上げる先で、オラジワンⅢが高度を上げ、前傾姿勢を取ることで加速している。
空を飛べない特殊機動装甲を投下するのは、もう少し先の地点だ。
以下、簡単な解説
・忍者
所謂昔の日本にいた忍者。伊賀とか甲賀とか。
更識家はこの忍者の家系。
・NINJA
ケン・オガワを現頭領とする日本古来の超人集団で、日本の伝統芸能とかを今に伝えている。 アルファワーム駆逐後は大規模災害時の派遣や国際イベントで国連の戦力、もしくは審判として出席している。
ジュージツは柔術……ではなく、なんかよく分からない格闘技。 マイケル・ウィルソンはこれを使って生身でNINJAをタコ殴りにした。
メタルウルフカオス(一説では2020年代後半とのこと)の過去に当たる2015年8月、東京で発生したアルファ・ワームへの対応として国際災害対応機関GUIDEのNINJAが真夏の東京にヘリから舞い降りる――というのがゲーム「ニンジャブレイド」。
ちなみにこの時東京へ照射しそうになったマイクロウェーブ衛星砲は白騎士事件の際、既に耐用年数切れで衛星軌道を漂っていたところを偵察衛星と誤認され撃墜された。
・ナイトリーフとアンネイムド
メタルウルフカオスでステルス機能を備えた青っぽい制服に突撃銃の上級歩兵“米陸軍特殊機動部隊ナイトリーフ”がいた為、アンネイムドはステルスサイボーグ強襲部隊に。