スーパーロボット大戦ORIGINAL GENERATION Cross G   作:⌒*(゚∑゚#)*⌒

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帰還

 極東方面の要所、Gフォースの本拠地でもある伊豆基地では一つの噂が駆け巡っていた。

 修理・改修の完了した陸式機龍が凍結されるという話だ。

 6年前の新西暦180年に記録的な台風の中、東京湾でゴジラを撃退した陸式機龍は長らく深刻な損傷を癒すためにドッグで眠り続けてきた。

 そして、今年再びその力を奮えるようになったというのに、だ。

 

「幾ら何でも機龍を凍結するなど! Gを休眠させたとは言え、いつまた目覚めるか……その時戦う我々の訓練はどうなさるおつもりか!?」

 

 伊豆基地のブリーフィングルームに怒声が響く。

 Gフォースの隊長ゲンマ・ゴウトクと伊豆基地戦闘指揮官ハンス・ヴィーパーが真っ向から睨み合い、2人をゲンマの部下が殺意すら露に囲んでいた。

 現存する軍隊の中で最も苛烈な実戦を経験している隊の1つと有名なGフォースは、一種独特な空気がある。

 ゴジラを打倒できるならば何でもする戦闘集団であり、その為には規律や軍法すら破ることで、規律を重視する軍人とは非常に折が悪い。

 何でもないような顔をして拳銃に触り始めた女性隊員を見て心中で悪態を吐いたハンスは冷や汗を流しながら嘲りを顔に出した。

 

「シミュレーターを使えばいいだろう。そんなことも思いつかんのか? あ?」

 

「実戦とゲームは違うのですよ、エリート殿。ともかく、機龍の凍結など断じて! 認められません! やるというならばGフォースは実力で阻止させて頂く!」

 

 機龍の頭をモチーフにしたエンブレムが描かれた帽子を被り直したゲンマは席を立って敬礼をすると、素早い挙動で部屋を出ていった。

 一見東洋人とは思い難い巨躯の背中を歳月を経て草臥れたエンブレムが誇らしげに守っている。

 命を賭けて国民の盾とならんとする彼の在り方に、いつの日にか感じた思いが掘り返されたせいか、ハンスは腹の底に暗澹な感情を溜めた。

 

「……MFSー6の凍結を取りやめたいのならGの現れない時でも稼働させているだけの価値があることを証明するのだな。訓練だけでも巨万の費用があれには掛かっていることを知っているだろう。あ?」

 

 肌を叩くような重低音に身をすくませたハンスは軍靴の踵を返してブリーフィングルームから出ていこうとする彼らにそう言いつける。

 床を踏む響きで威容を醸すGフォースの隊員がそれに答えることはなかった。

 そういう軍に馴染み切らない我の強さは少し前に欠陥機のテストにこじ付けて追い出した―――本当は事故死を狙っていたが――部下によく似ている。

 

「キョウスケ・ナンブを追い出してやったまでは良かったものを……。目障りな連中め。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこまでも性根が腐った奴! 金で国民を守れるなら安いものだろうに!」

 

「よせ、シマ少尉。言っても無駄だ。」

 

「くっ! ……しかし、機龍の凍結など彼が聞けば血の雨が降るでしょうね、少佐?」

 

 怜悧、という言葉が似合う黒い短髪の女性が怒りと愉悦に満ちた笑みでブリーフィングルームを振り返った。

 爛々と暗い炎を秘めた双眸は予想される惨劇を幻視して細くなる。

 それを横から一瞥したゲンマは苦々しい顔で溜め息を吐いたが、すぐさま切り替えていつもの表情を浮かべた。

 

「そうさせんためにも凍結は阻止する。あの男も織り込み済みだったのかも知れんが、あいつが出向中に話を伝えたのは幸運だった。」

 

「彼がいればあの場で喉笛を裂いてたのに……。私がやっていれば良かった。丸くなってしまいました。」

 

「あいつも少尉も失う訳にはいかん。馬鹿な真似はしてくれるなよ。」

 

 生返事で誤魔化したアリス・シマ少尉は対G戦術支援航空機ACー9《くろわし》の一号機パイロットを任じられている。

 つまりはGフォースの最高の翼であると認められたトップガンだ。

 しかし、些か以上に性格難ありで問題行動が目立つ1人であり、長らくもう1人と共にゲンマの教育を受けている。

 お陰であちこち出向く度に除隊処分を受けそうになることはなくなったものの、灰色だったゲンマの山には随分と白が増えてしまった。

 

「幸い考えがある。不安要素はあるが、凍結処理されるよりは遥かにマシだろう。機龍は私が守る。」

 

「信じてますよ、少佐。」

 

 もう一人の親と言っても過言ではないゲンマの決意の言葉で落ち着いたアリスは表情を涼やかなものへと変える。

 ふと、窓の外に目をやった彼女は滑走路に音速輸送機を発見した。

 はて今日は賓客の話を聞いてないが、誰がこんな世界の果てに来たのだろうか。

 そんなことを考えていた彼女たちの前から整備班の隊員がバタバタと走ってきた。

 随分と慌てた様子にゲンマは胸騒ぎを覚えた。

 

「少佐! 中尉が帰還されました!」

 

「何!?」

 

 泡を食った様子で報告に来た隊員の言葉で飛び上がったゲンマが舌打ちを一つして走り出すと、Gフォースの隊員も後に続いた。

 帰った直後ならば隊舎に向かうと推測したゲンマと続く隊員たちはスクランブルの時のように慌ただしく走っていく。

 途中、彼らを見た他隊の人間の中には非常事態と勘違いしてスピーカーを見上げる者もいたくらいだ。

 

 叩き上げ軍人の彼らも流石に息が乱れる頃、見慣れたシルエットがスーツケースを引いて角に消える瞬間を確認できた。

 

「あ、あの大馬鹿者……!」

 

 一段とスピードを上げたゲンマは角を曲がると、正面に見える男がやはり部下だと確信して頬を引き攣らせた。

 隊舎が揺れるのではないか、それほど強く一歩を踏んで駆け寄った彼は握った拳骨を振り上げる。

 

「こんの悪タレが! 鉄拳制裁ッ!!」

 

 ちょうど角を曲がった隊員は鈍い打撃音を聞いて反射的に首を引っ込める。

 ゲンマの拳骨の威力を身を以て知っている隊員が多い。

 同情の視線を浴びながら屈み込んだ男も例外ではなく、良く知る痛みに頭を抱えて呻き声を漏らした。

 

「帰るのは明日のはずだろう!? 今日の食事会はどうした!」

 

「ぐおぉおぉぉぉ……!?」

 

「面倒になって逃げてきたな? そうだな!?」

 

 伊豆基地での問題もあり、ゲンマも悩んで悩んで仕方なく単独で送り出したが、案の定問題を起こして帰ってきてしまった訳だ。

 妙に真面目な態度をおかしいと疑っていたものの、まさかメインの式典を出た後直ぐ帰ってくるとはゲンマにも予想外だった。

 仁王立ちの彼に見下げられる男はたんこぶができた頭を摩りながら立ち上がり、姿勢を正して敬礼する。

 

「第1機龍隊隊長オキト・サエグサ。昨日付で大尉に昇進し、帰投しました。」

 

「……昇進おめでとう。後程、そうだな。一八〇〇に私のところへ来るように。」

 

「了解しました。」

 

 オキト・サエグサ中尉改め大尉。

 参式機龍以来の戦闘結果から、直接搭乗の有用性が認められて改修された機龍のパイロットを務めるGフォースの要。

 本人の治療が長引いたこともあり、機龍の修理・改修終了に合わせて、ゴジラ撃退の功についての叙勲式典で数日前から東京に出向していたのだ。

 日本では今最も新しい英雄といって差し支えないだろうか。

 適当に短くした癖毛が荒ぶって粗野な印象を受けるが、実際は至って温厚な好青年である。何もなければ。

 

 疲れた様子で立ち去ったゲンマを見送った隊員たちはわらわらとオキトの周りに集まった。

 勲章や階級のことを一通り祝われ、私室でGフォース特有の動き易いユニフォームに着替えた彼は食事を希望した。

 軍の上層部や政治家の前では体面を意識しなければならず、ここ数日の食事量は彼の基準を大きく下回っている。実は今朝もまだだ。

 

「あー、腹減った。ところでシマ、いない間に何か変わったことあった?」

 

 僅かにアリスを含めた隊員の空気が硬くなった。

 ここで機龍凍結の件を話せばさぞ爽快なことになるだろうにと暗い笑みを浮かべたが、アリスはゲンマの顔を思い浮かべて留まる。

 

「うーん、そうね……。今のところは特にないかな。」

 

 本来、階級に差があるアリスがオキトに敬語を使わないことは咎められるが、士官学校で同期だった2人は普段そういったことを省いていた。

 特に実力主義の隊では、優れたものを示した者はそれだけ自由が許される空気もある。

 隊内で機龍とくろわし1番機のパイロットに何か言えるのはゲンマの他に2人だけだ

 

「ちなみに僕の方は面白い話を聞いてきたよ。」

 

「何?」

 

「宇宙人の話。ヒリュウが消息を絶った件はどうもそれらしい。EOTIや好戦的な連中は本気で侵略に対抗する準備をしてるんだってさ。口の軽い馬鹿がワインでべらべら話してくれたよ。」

 

「あら、PTーX構想とか突然何をと思ったけど、ホントだったのね。」

 

 柔和な笑みのまま手に入れてきた機密情報をバラしてしまったオキトは他にも繊細な内部情報を幾らか持ち帰っていた。

 特にEOTIとEOT特別審議会の対立による緊張や降伏を臭わせる動きは重要な情報である。自然と隊員たちは話に聞き入った。

 

 以前、機龍を完全なワン・マン・コントロールにシステムチェンジする改修計画の際、元々EOTに属していた脳波制御装置をテスラ・ライヒ研究所の技術協力で導入した。

 進化を続けるゴジラに対抗するためには使えるものは全て利用していかなければならないため、GフォースはEOT関連の情報を重視している。

 特別審議会にEOTを封印されるのは面白くなかった。

 

「戦う意志のない腰抜けが上に立つと碌なことしない。Gに襲われても奴らだけは守らなくていいかな。」

 

「相変わらず君は狂暴だな。」

 

「あんたに言われたくない。」

 

 どっと笑いが生まれ、堪らず苦笑させられたオキトが食堂に入ると、先客の視線が彼を貫く。

 一分の緩みもない鋭い眼光の主に視線を返したオキトは直ぐに笑顔を浮かべて敬礼をしてみせた。

 

「こんにちは、イングラム少佐。アヤ大尉は本日もお美しいですね。」

 

「戻っていたのか、オキト中尉。」

 

「つい先程。なお、昇進して大尉になりました。アヤ大尉とお揃いですね。今度大尉同士食事でもいかがですか?」

 

「あ、あはは……。」

 

 いつも通りの露骨な態度に愛想笑いで返礼したアヤは食事を終えていたらしく、そそくさと食堂から退散していく。

 残ったイングラムも二言三言挨拶を交わして席を立ち、最後に近々増員してイングラムの隊はSRXチームになるのだと、そう言って不敵に笑った。

 彼が扉の向こうへ姿を消し、話し相手がいなくなったオキトは大人しく券売機の列に並びにいく。

 

「いやぁ、ふられちゃったよ。」

 

「その誰彼構わず取り敢えずナンパするのやめたら?」

 

「人脈作りは大事じゃないか。僕はそれを相手と楽しみながら実行してるだけ。」

 

 得意げな様子の同期に胡散臭いと言わんばかりの目を向けていたアリスは出会った時から変わらないことにいっそ感心すらしそうだった。

 昔は自分も毎日のようにあれをやられた彼女は呆れて溜め息を吐く。

 尤も明け透けに遊びだと分かるから女性側も日々の潤い程度にしか相手をしてくれないのだが。

 本人は楽しければいいらしい。

 

「にしても、2日も訓練休まされちゃったなぁ。早く取り返さないと。」

 

「付き合ってあげる。どうせ今日から3倍にするつもりでしょ。」

 

「うん。ありがとう。」

 

 にこやかにそんな話をしている2人に、聞いていた隊員たちは驚愕していた。

 ただでさえ体を追い詰めて鍛えるための訓練を3倍。

 1に訓練、2に訓練、3から後も残らず訓練と、そんな生活を送る2人でも寝る時間すらなくなってしまう。

 

「3倍だってよ。俺らも付き合うか?」

 

「いや、殺されちまうよ。」

 

「まぁ、言いたかないけど、あの2人は頭のネジ全部ぶっ飛んじまってるからな。」

 

 そう笑った彼らの声音からは明らかに面白がっている雰囲気が感じ取れた。

 それがいつものこと故か。それとも笑い話になる程度のことでしかない故か。

 

「スペシャル定食と親子丼。両方とも大盛りで。」

 

「チャーシュー麺チャーシュー抜き。代わりに卵追加で。あと酢豚ね。」

 

「はいよ。」

 

「相変わらず食べますね、お二人とも。この後訓練3倍でしょう?」

 

「我々も吐かない訓練は受けましたが、適量で一杯一杯ですよ。」

 

「これが僕らの適量なのさ。訓練で追い詰めても回復するエネルギーがなきゃ意味が無い。」

 

「少佐の教えですね。」

 

「そうだよ。」

 

 隊員の見慣れた笑みをそれぞれ浮かべた2人は凄まじい量を積んだトレーを持ち上げて机に向かった。

 日当たりの良い席に陣取った機龍隊が箸を取った瞬間、食前の挨拶をきりに隊員の言葉が途絶える。

 食事中騒がしいことを嫌うゲンマの下にいることで身についた習慣だ。

 もう少しで失われることとなる、概ね普段通りの生活がオキトに帰ってきた。

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