ACEを目指す未熟者   作:自由の魔弾

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何となくこの話が今後の基軸になるような気がします。ストーリーの話ではなくて、個人的な描写の話です。


ACE 10 学園の妖精(を騙る者)

「はぁ〜、流石に今日のはくたびれたぜ。昼飯までに何度ぶっ倒れそうになったか…」

 

校舎の屋上にて疲労に耐えきれず寝転ぶ一夏。そんな彼の傍らにはそれぞれ昼食を持ち寄った箒・セシリア・鈴・シャルル・そして心なしか少しだけそわそわとした様子の本音がいた。どういうわけか真名人は不在のようだが、一体何故こんなことになっているのか…?

 

「い、一夏!これはどういうことだ!?私が誘ったのはお前だけのはずなのに、何故こんなにも人がいる!?」

 

この状況に納得していないのか、箒が堪らず原因であろう一夏に食ってかかる。見るからに不満顔の箒に詰め寄られ、一夏は冷や汗をかきながらも彼なりの持論を展開した。

 

「えっ?だ、だって昨日箒が言ったんじゃないか。偶には誰かと食卓を囲みたいって。だから色々声かけて回ったんだぜ?お陰でクタクタだよ…」

 

「うっ…!?た、確かにそう言ったが……それは一夏だけを誘うという意味であって、暗に二人きりの時間を過ごす方便であろうに…」

 

「…何か言ったか?後半聞き取れなかったけど」

 

「な、何でもないっ!!フンッ」

 

箒としてはかなり頑張って一夏を誘ったのだろうが、その意図を汲み取ってくれなかった一夏の鈍感さに呆れて不貞腐れた様子で持ってきた弁当をかっ食らう。そのやりとりを見ていて箒の思惑をなんとなく感じとったのか、シャルルが少し申し訳なさそうに切り出す。

 

「でも、僕までお邪魔しても大丈夫だったのかな?まだみんなのこと、ほとんど知らないし…」

 

「何言ってんだよ、シャルル。俺たちもう友達なんだから遠慮しなくていいよ。同じ男として色々苦労すると思うけどさ、助け合っていかなきゃだぜ!それにみんなで食った方が賑やかで楽しいしさ」

 

「…そういうことじゃないと思うけど」

 

屈託のない笑みを浮かべて笑いかける一夏。それに対してぎこちない笑みで返すシャルル。一夏の鈍感さを目の当たりにして内心箒に同情すらする始末だ。

その傍で、セシリアと鈴が何やら良からぬやりとりを繰り広げていた。

 

「ちょっと鈴さん!一体どうなっていますの!?約束が違うじゃありませんか!」

 

「あ、あたしに言わないでよ!さっきだってちゃんと誘ったわよ?でも真名人の奴“すみません、今はそういう気分になれなくて…鈴さんから伝えてもらっても良いですか?”って、やつれた顔で言ってくんのよ!?あんな状態の真名人引きずりまわせっての!?」

 

「で、ですが折角私が真名人さんの為に作ったこのサンドイッチはどうなりますの!?」

 

「知らないわよっ!そんなの自分で食べればいいでしょ!!」

 

その喧騒の様子はキャットファイトそのもの。お互いにやいやい言い合ってポカポカ叩き合っているものの、何故か二頭身ほどにデフォルメされていて何処か可愛らしい…。

そんな二人を放っておいて、再び一夏とシャルルの会話に戻ってみることにしよう。

 

「そうだっ、上月君は来ないのかな?」

 

「真名人?あぁ、さっきも誘ったんだけどスゲー落ち込んでるからやめとくって。相当堪えたんだろうな……あっ、のほほんさんのこと悪く言ってるんじゃないんだ!す、済まん…!」

 

「…ふぇ?あぁ、そんなの全然気にしてないから謝らなくても良いよ〜。おりむーが悪いんじゃないもん。それに普段は中々お近づきになれないおりむーから誘ってもらって嬉しかったし〜♪」

 

突然話を振られて一瞬ぽけ〜っとしていた本音だったが、すぐにいつも通りのほほんとした口調で喜んで見せる。普段の彼女を知らなければ自然な姿にも思えるが、一組メンバーにとっては違和感だらけでしかなかった。すぐに本音・シャルル・鈴以外のメンバーが集まって井戸端会議を開始する。

 

「い、一体どうしましたの!?彼女、今朝からずっとあの調子ですわよ!?」

 

「わ、私に聞くな!?だが布仏のことだ、十中八九…上月が原因なのだろう」

 

「う〜ん、なんとか仲直りできないもんかな…それにしても温厚なのほほんさんを怒らせるなんて、真名人も結構鈍感だよな」

 

『貴様(貴方)がそれを言うか(言いますの)!?』

 

「うおっ!?な、何だよいきなり…!?」

 

一夏の無自覚発言によって、途端に箒・セシリア両名から詰め寄られる展開に発展してしまう。その一方で、あまり馴染みの無い三人はそれぞれの自己紹介的なたわいもない話を繰り広げていた。

 

「僕はシャルル・デュノア、フランスの代表候補生だよ。宜しくね」

 

「んっ、こちらこそ宜しく。この転校生は仕方ないとして、そういえばそっちの子のことはちゃんと知らないわね。あたしは凰 鈴音、気軽に鈴って呼んで良いからね」

 

「りょ〜か〜い!私は布仏 本音だよ〜、でもみんなからは“のほほんさん”って呼ばれてるの〜。改めて考えてみると、何でなんだろう〜?まぁ、いっか!じゃあ、これから仲良くしようね〜!デュッチー、リンリン」

 

『えっ!?何それ…?』

 

本音特有の独特な渾名による洗礼を浴びて、早くも人付き合いに暗雲立ち込めるシャルルと鈴。特に鈴の方は拒否反応を示していた。

 

「う〜ん、デュッチーかぁ。その渾名は初めてかな…」

 

「ちょっとリンリンはやめてよぉ…小学生の時にパンダみたいって揶揄われた嫌な記憶が蘇るからぁ…!?」

 

「そうかな〜?私は可愛いと思うんだけどなぁ…。じゃあ鈴ちゃんって呼ぶ〜♪」

 

幼い子どものような雰囲気で接してくる本音に対して、どうしても強く出れない鈴。本音に悪気が無いことが分かっているだけに、この行き場のない感情は何処に向けて発散すればいいのだろう?

 

「…ウラァ!!」

 

「グベッ!?」

 

結論。全て一夏に向けてぶつければなんとかなる。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……何でこんなことになっちゃってるのかなぁ…?」

 

一夏達が屋上で集まっている一方で、真名人は珍しく食堂で昼食を取っていた。特に理由があるわけではないのだが、なんとなく普段と違う行動を取らないと落ち着いていられなかったのだろう。決して隣の席の本音から離れたかったわけでなく。

そんないつにも増して弱っている真名人のもとに、突然誰かが話しかけてきた。

 

「あの…ここの席、座ってもいい?」

 

「…へっ?あー、僕に断らなくても勝手に座って大丈夫ですよ。誰の席とか決まってないんで…って、君は…!」

 

生返事する真名人だったが妙に聞き覚えのある声であることに気づき、ふと顔を上げる。すると、そこに立っていたのは時々整備室で会う女生徒だった。それが分かった真名人は沈んで無気力な態度を改め、すぐにピシャリとした姿勢に切り替える。

 

「あぁ!?い、いや今のはその…本当何でもなくてですね!席ですよね?どうぞどうぞ!もう是非座っちゃって下さいよ!」

 

「どうしたの、いきなり?変なの…」

 

突然態度を変え女生徒を座らせるために対面の席の椅子を引きエスコートし出す真名人に困惑する女生徒。しかし、その表情は何処か楽しげですんなりとそれを受け入れる。席に戻った真名人は何故女生徒がわざわざ目の前にという疑問を抱きつつ、とにかく話題を切り出した。

 

「いやぁ、それにしても整備室以外で会うのって、何か新鮮ですね!それに僕の座っているテーブルに来るなんて、何か運命的なものを感じちゃうな〜なんて…もしかして、僕と一緒の席が良かったとかですか?」

 

「偶々空いてたのが、ここだっただけ…座れれば何処でも良かった」

 

「ゴフッ!?そ、そうですよねぇ…」

 

場を和ませるべく戯けて見せる真名人だったが、女生徒によって即座に切り捨てられる。分かってたさ、こんなキザな格好が自分に似合うはずが無いってことくらい。こういうのは一夏やシャルルのようなイケメンが言って初めて成立するのだ、自分のような極々平均的な男子には一生縁のないものなのだと痛感させられ、精神的にダメージを受ける真名人だった。

 

「それより…どうかしたの?上月君、元気ないように見えるけど…」

 

そんな真名人を気にも留めず、何か違うことを心配するかのように小首を傾げる女生徒。真名人は咄嗟に今朝のことを思い出して、本来関係のない彼女を巻き込むわけにはいかないと判断し、敢えてそれを伏せることにした。

 

「そ、そんなことありませんよ?僕は元気ですし、食欲だって…ほらこの通り!」

 

真名人は定食をかっ食らう様を見せてなんとかやり過ごそうと試みる。が、そんな子供騙しが通用する相手ではなかった。

 

「…もしかして、それで誤魔化してるつもりなの?だとしたら……ちょっと可愛い」

 

「ハゥ!?お、女の子に可愛いって言われるなんて……男としてもう終わりだぁ!?」

 

「…ふふふ、何それ」

 

明らかにショックを受けてオーバーにテーブルへ倒れ込む真名人とそれを笑って眺めながら昼食のかき揚げうどんをズルズルと啜る女生徒。そんな二人の様子は側から見ればとても良い感じ?うん、側から見ればだが。本人達にはそんな気毛頭無いのだから。

 

「そういえば…上月君は今度のトーナメント、どうするの?」

 

「トーナメント?何ですか、それ?」

 

急に話題を変えられ、ぽけ〜っとしてしまう真名人。それを受けて思わずガクッと落胆する女生徒だった。

 

「…本当に知らないの?今月末の学年別トーナメント、二人一組で参加することになったんだよ。この前の襲撃があったからそれの対策で……それより一つ気になってること、聞いてもいい?」

 

「へっ?はい、何ですか?」

 

何の気なしに女生徒の申し出を快諾する真名人。すると、女生徒は急にもじもじし出して辺りを見回して、そっと真名人に耳打ちをしてきた。その内容を聞いた真名人は堪らず吹き出してしまった。

 

「な、何で笑うの…!?上月君にとっても、全く関係無い話じゃないでしょ…?」

 

「ふふっ、くふふ…!だ、だって…そんなの絶対あり得ないですもんっ。“トーナメントで優勝したら男性操縦者と付き合える”なんて噂…あははは、ふははははっ!それに一夏君やデュノア君相手ならまだしも、僕と付き合いたいなんていう奇特な人が居るわけないじゃありませんかっ…あー、可笑しい…」

 

そんなことはあり得ないと笑い飛ばす真名人。確かにその噂自体出どころが曖昧で真実味は一切無いが、少なくともこの状況に乗っかろうとする生徒はいるはずだ。どうしても色恋の話をしたいわけではないが、この圧倒的に女子に囲まれた環境でそういった類の話の一切を否定する真名人の姿が女生徒には不思議でならなかった。それに加えて自分だけをその可能性から除外していること…更には明確に自分を卑下し過ぎている価値観は明らかに別の意図を感じざるを得ない。まるで周りの人間全てに壁を作って近寄らせないようにしているかのように…。

そう思った女生徒が気づいた時には、既に口が勝手に開いていた。

 

「わ、私は…そうは、思わない。上月君は…誰かの為に頑張れる人、だと思う…から。だから…あまり自分を卑下しないで、もっと自信を持「簡単に言うなよ」っ…!?こ、上月…君?」

 

女生徒の言葉を遮って真名人が口にしたのは今までよりも遥かに意思のこもった否定、そしてそれを体現するかのように鋭くドス黒い負の感情を宿した瞳が女生徒を見据える。あまりの豹変ぶりに虚をつかれる女生徒だったが、それをすぐに他でもない真名人自身がフォローする。

 

「大丈夫ですか?随分と顔が真っ青ですけど…医務室で休まれては?もし辛ければ付き添いますよ?」

 

「…へっ?う、ううん…少し休めば、大丈夫…だと思う」

 

いつものかしこまった調子で女生徒を気遣う言葉を投げ掛ける真名人。明らかな態度の違いに困惑を隠せない女生徒だったが、なんとか必死に言葉を紡いで受け答えを成立させる。それを受けた真名人は安心したのか、優しい笑みを浮かべながら一息吐いて胸を撫で下ろす。

 

「…そうですか、それなら良かったです。昼食を食べ終えたので、そろそろ行きますね。ご一緒出来て楽しかったですよ♪ではまた」

 

「う、うん…また、ね…」

 

すっかり元の調子に戻った真名人は女生徒に別れの挨拶をして、空いた皿の載せたトレーを持って立ち去って行く。暫くその場で硬直したままだった女生徒は少しして漸く極度の緊張状態から解放されるも、目の前で起こった出来事に対してどう受け止めるか判断することすらままならなかった。

 

「上月君の目…すごく怖かった。でも、何でだろう……あんなに怖かったはずなのに、それよりも悲しそう…気のせい、だったのかな?」

 

女生徒の中で謎は深まるばかりだった。ただ一つ言えることがあるとすれば……彼女の知る真名人とついさっきまでの豹変した真名人は、根は同じだったということを本能的に感じ取ったくらいだろうか。理由は分からないがこのことだけは彼女の心の中で深く納得がいったのだった。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ?すみません、もう一度仰ってもらってもよろしいですか?」

 

千冬は困惑していた。いきなりこんなことを言われても戸惑うだけだろうが、実際問題そうなのである。もっと詳しく状況を説明すると実習が終わった後、妙に興奮気味の真耶に「織斑先生…私、教師としてあるまじき行為をしてしまったかもしれません!?」と泣きつかれた為、放課後に時間を割いて寮長である千冬の部屋に真耶を招いて話を聞いていた。聞いていたのだが…。

 

「ですから!私、上月君に…デートに誘われてしまいました!!それでその……彼の申し出を、勢いで了承してしまったんです!ど、どうしましょう…!?」

 

「山田先生、一旦落ち着いて下さい…あぁ、もう勤務時間外だし面倒だから楽に呼ばせてもらいますよ。山田君、落ち着いてくれ。とりあえずビールでも飲ませてほしい。君も飲むか?」

 

「先輩…はい、頂きますぅ…」

 

千冬は部屋に備えてある冷蔵庫から缶ビールを取り出し、自分と真耶の分を持って座り直す。そして真耶の分のビール缶を手渡すと、プルタブを開け豪快に一気飲みする。それを見て真耶もプシュッと開けて小さくコクコクと飲み始める。日々社会の荒波に揉まれている大人達の小さな楽しみだ。

一気に煽って体全体に染み渡らせた千冬は先程の話を詰めるべく、酒の入った真耶に追及を始める。

 

「それで…山田君が上月に誘われたという話でしたっけ?良いじゃないですか、別にやましいことがあるわけでもなし……まさか、やましいことがあるのか?」

 

「あ、ありませんよぉ!?ただ、私は上月君の先生ですし…それより何より男の人とそういった経験が無いので、どうしたらいいか分からないんですよ…」

 

「あー、そういえば山田君はまだ処女だったなぁ。学生時代にISにのめり込んで乳繰り合う経験を積んでこなかったから困ったことになっているんですよ」

 

「そんなにハッキリ言わないで下さいよっ!?まぁ、その通りですけど……うわぁ〜ん!?こうなったらやけ酒ですぅ!!んくっ、んくっ…」

 

千冬に厳しい現実を突きつけられ、一気に涙腺崩壊&やけ酒コースに突入する真耶。手に持っていたビール缶を一気飲みし、そのまま冷蔵庫から二本目を取り出す始末。明日も仕事があるのにと一瞬止めに入ろうとした千冬だったが、すぐにそれを止める。それは真耶の中に溜まっている鬱憤を晴らしてあげようという先輩としての優しさ、そして放っておいたら何か面白そうだなぁという悪戯心だ。

 

「それで具体的には何と誘われたんですか?上月のことだから、派手に女遊びするようには思えないのですけれども、ましてや自分の副担任を誘うなど…」

 

「んくっ、んくっ…ぷはぁ〜!んぇ?えっとですねぇ…今週のぉ、土曜日に〜…行きたいところがあるからついて来てくれ〜って!外行き用のお洒落な格好でぇ、来たくださいって言われました!隊長っ」

 

「うん、酔っ払ったな。これ完全に酔っ払ってるな、山田君。普段敬礼とかしないもんな……あっ」

 

酔った勢いでビシッと敬礼の真似事をする真耶と弄ってる最中に何かを思い出した千冬。その脳内にはほんの数時間前の授業中に交わした真名人との会話の中に確実に忘れてはいけない何かがあった。

 

〜回想開始〜

(回想なので会話のみとさせて頂きます)

 

「上月、そろそろ授業に参加したくない理由を話せ。でないといつまで経っても柔軟とランニングだけで成績がつけられん」

 

「…へっ?いや、まぁ…ねっ?ヘブッ!?」

 

「ねっ?ではない馬鹿者が。それが貴様の為を思って真面目に心配してくれている担任に向けての態度か?」

 

「だったら無言で手刀をぶつけてくるのもやめてくれませんかねぇ!?」

 

「ほぉ…まだ口を割らんか。もう怒った。私は怒ったぞ、ぷんぷん」

 

「巫山戯てますよねぇ!?貴女絶対巫山戯てますよねぇ!?何なのその変なテンション!貴女を崇拝している生徒が知ったらさぞ幻滅するでしょうねっ!」

 

「安心しろ、これが私の地だと説き伏せてみせるさ。だがそれよりも情報を漏洩させた貴様の息の根を止めることの方が先だがな」

 

「怖っ!この教師怖すぎるんですけどっ!?何当たり前のように生徒の息の根を止めるとか言っちゃってるんですか!?ってか、その異常に高いテンション何なんですか?普段と違い過ぎるでしょう?」

 

「上月、如何に普段の私がクールで美人過ぎるからといって、生徒によって態度を変えるような教師だと言うつもりか?心外だぞ。私も人間、貴様も人間。そこに差などあるわけないだろう?」

 

「勝手に僕の言葉を良いように変換しないでくれませんかねぇ!?美人の美の字も言ってないんですけど!そして今まさにその現実に直面していますが!?」

 

「なら貴様に問うが、私は世間一般で言うところの“美人”ではないのか?」

 

「そ、それは……美人、だと思います…けれど…って、何ニヤニヤしてるんですか!?てか、その手に持っているボイスレコーダーは何だ!?ま、まさかそれで僕を脅迫するつもりじゃ…!?」

 

「おいおい、私がそんな姑息な手を使うと思うのか?仮にも教師だぞ。生徒の嫌がることなどするはずが無いだろう?」

 

「お、織斑先生…!す、すみません…何か色々言ったりして、そうですよね!織斑先生はそんなことするわけ」

 

「まぁ、実際するんだけどな…脅迫」

 

「織斑千冬ゥウウッ!!貴様ァアアア!?」

 

《そ、それは……美人、だと思います…けれど…(キュルルッ) 美人、だと思います…(キュルルッ) 美人(キュルルッ) 美人(キュルルッ) 美人(キュルルッ)美人美人美人美人美人…》

 

「何回も巻き戻すなぁアアアア!!」

 

「おいおい上月、随分と熱烈なアプローチじゃないか。こんなものが世に出回ったら貴様はどうなるだろうなぁ?もしかしたら二度と日の目に当たることは出来なくなるかもしれないなぁ?」

 

「くっ…な、何が望みだ!」

 

「だから最初から言っているだろう?貴様が授業に参加したがらない…もといISに乗りたがらない理由を話せ。事情が分かれば協力出来ることがあるかもしれん。でなければ上月の実習の成績は“体育頑張った”しか書くことがない。だから話せ」

 

「……分かりましたよ。じゃあ話しますけど…って、あれ?なんかあそこの二組の生徒さん、織斑先生のこと呼んでません?」

 

「気のせいだろう」

 

「へっ?いやほら、こっちに手振ってますし」

 

「…呼んでいない」

 

「いやいやいや!何シカトしてるんですか!?あぁ、無視されてすっかり涙目になってますよ!」

 

「…ちっ、仕方ない。すぐに済ませてくるから逃げるなよ。もし逃げたらこのボイスレコーダーに録音した音声データを焼き増ししたCDを学園中にばら撒いてやるからな」

 

「やり口が一昔前!しかも陰湿だっ!?もぉ…何なんだよ、あの人は…」

 

〜回想終了〜

 

「あー、そういえば上月が言っていたな。専用機を所持しているにも関わらず、積極的に乗りたがらない理由」

 

「理由〜?なんのことれすか〜?」

 

千冬が回想している僅かな時間ですっかり酔っ払ってしまう真耶。表情も蕩けていて呂律も回っていない。

 

「山田君、私が回想している間に出来上がっているんじゃない。こらっ、服を脱ぎだすんじゃない」

 

「なんれれすか〜?身体が火照っちゃって暑くなってきました〜。だから脱いじゃいますぅ。脱ぎ脱ぎ〜♪」

 

「山田君、はしたないぞ……デカいな、相変わらず。ブラもそうだがISスーツも苦しいのでは?」

 

千冬は目の前にある溢れそうな真耶の胸を凝視しながらそう口にする。すると、火照った顔で悩みを吐露する。

 

「んー、そうですねぇ。最近また胸元がキツくなってきちゃってぇ…ISスーツも学生時代のをずっと使ってるんですけどぉ…そろそろ大きいサイズに新調した方が良いんですかね〜?でもお気に入りなんですぅ」

 

「分かったから胸を揉みながら言うんじゃない。こんな凶暴な胸を晒したら、血気盛んな男子共が授業に集中出来なくなるだろう。特に上月辺りは」

 

千冬がそう口にしたところで、急にカッ!と目を見開いて千冬に迫る真耶。突然のことに呆気にとられている千冬を他所に熱弁を振るい始めた。

 

「そんなことありませんよっ!上月君はすっごく真面目でISについて熱心に学ぼうと放課後や休みの日もずっと勉強している頑張り屋さんです!ちょっとした疑問でも聞きに来て理解した時の一瞬綻ぶ時の笑顔やアリーナの整備室の許可を得るために職員室に来たものの誰に声を掛けて良いか分からずにオロオロしている時の子犬みたいな表情!作業終わりに廊下で見かけた際にも苦悩や疲れを見せずちゃんと挨拶してくれて、更に労いの言葉を掛けてくれる礼儀正しさ!あの年齢であそこまで気配りが出来るなんて感心以外ありませんよぉ!あぁいう健気な姿を見ると私も頑張ろうって思えるというか…負けないように、しなきゃって……」

 

「お、落ち着け。どこでスイッチ入ってるんだか。まぁ、その異常なまでの周りへの配慮も原因の一つなのだが……山田君?」

 

ほんのついさっきまで熱弁を振るっていた真耶だったが、いつの間にか眠ってしまっていた。きっと酒が回って意識がプツリと途切れてしまったのだろう。こうなってはテコでも動かないと知っている千冬は真耶をベッドまで運んで寝かせて、自身もシャワーを浴びるために着替えを持ってシャワールームへ向かった。結局、千冬が知り得た真名人の情報は伝えずじまいだったが…。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「この前のクラス対抗戦の後くらいから知らないうちに変な武装が追加されてるんだよなぁ。師匠に聞いても普通はそんなことあり得ないって言われたけど、実際に増えてるんだもんな。拡張領域(バススロット)に結構な数の解析不能のデータがあるってところまでは調べてくれたけど、これ以上はどうしようも……んっ?あそこに居るのって…」

 

最早恒例となった放課後の修行を終えて部屋に帰って来た真名人だったが、扉の前の廊下に見知った人物が立っていることに気がついた。その人物もまた真名人の存在に気がつくと、パタパタと小走りで駆け寄ってきた。

 

「もう、遅いよぉ!君が帰って来るまでずっと待ってたんだからねっ!」

 

「あれ、これなんかデジャヴ…」

 

真名人はこの展開に違和感を覚えて思わず身構えてしまう。それは確か鈴が初めてこの学園を訪れた時のことだった…唯一違うことといえば、その人物がシャルルだという点である。

 

「こんな遅い時間まで何処に行ってたのさ?折角シャワー浴びたのにすっかり冷えちゃったよぉ……っくしゅ!」

 

「あー、何かすみませんねぇ。とりあえず部屋に入って下さいよ。何か温かい飲み物でも用意するので」

 

完全に予定外のこととはいえ長時間部屋の前で待たせてしまったことに多少なりとも責任を感じた真名人は、すぐに部屋の鍵を開けてシャルルを招き入れる。

 

「やった!ふふっ、お邪魔しま「おっかえり〜!からのぉ〜…ハグハグ〜♪」むぐっ!?んんーっ!んふ〜っ!?」

 

上機嫌で真名人より先に部屋に入るシャルルだったが、扉が開いた瞬間既に室内に居た誰かから強引な抱擁を受ける羽目に。

 

「いやんっ♡こらこら、そんなに暴れないのっ。もぉ〜、真名人君ったら大胆なんだからぁ♪「あの、僕こっちなんですけど…」へっ?あっ…あるぇ?おっかしいなぁ〜?」

 

その人物はどうやら部屋に入ってきたのが真名人だと思っていたようだが、実際にはシャルルが先行していて全く知らない者同士が何故か抱き合う奇妙な状況が形成されてしまったのだ。真名人とその人物が妙に落ち着いたやりとりを交わしていると、その謎の女性の胸元で顔を埋めていたシャルルが漸く拘束から解放される。

 

「ぷはぁ!?ち、窒息死するかと思ったよぉ!?ていうか、貴女誰ですか!?上月君の知り合いなの!?」

 

「あら、可愛い子ねっ♪体の線も細いし、声変わりもまだしてないみたいだし…まるで“女の子”みたいね〜?」

 

「っ!?」

 

女性の含みのある物言いに一瞬身体を硬直させるシャルル。しかし、それに意を唱えたのは真名人だった。

 

「あー、なんかそれ僕も思ったんですけど違うらしいですよ。ですよね、デュノア君?」

 

「えっ?う、うん!そうだよっ!僕はれっきとした男の子で、女の子と間違えられるなんて心外だなぁ!」

 

「…そう、なのかなぁ?でも真名人君がそう言うなら信じちゃうかな〜♪ってことで、改めて真名人君にも…ぎゅ〜♡」

 

真名人に説き伏せられた女性は面白くなかったようで、仕返しとばかりに真名人に抱きついてその豊満な胸を押し当てる。それを受けて真名人は狼狽…することもなく至って冷静、何故か落ち着き払っていた。

 

「はいはい。それよりデュノア君、今ココアしか置いてないんですけどそれでも良いですか?」

 

「あっ、うん。ありがとう……って、えぇ!?これほっとけないよぉ!だからこの人誰なのさ!?」

 

何故か当人達よりも過剰に反応するシャルルに対して、真名人は少し考え込んだ後ココアを淹れる片手間であっさりと女性の正体を暴露した。

 

「…この女の人は学園生活を送る中で極度のストレスを抱えた者だけに見える“学園の妖精”だそうです。だから僕もですけど…デュノア君もしっかり養生して下さいね?」

 

「…へっ?」

 

シャルルは真面目な顔をしてそう口にする真名人の顔を見る。そこに巫山戯た様子や揶揄っている様子は無い。次に真名人に紹介された女性を見やる。彼女はシャルルに笑いかけながらヒラヒラと手を振っていた。

 

「妖精で〜す♡よろしくね♪」

 

この時、シャルルは直感した。真名人は本気で信じているけど、この女の人は絶対巫山戯てる!大体妖精って何だよっ!そんなのファンタジー過ぎるよ!と。しかし、シャルルにもそう言ってられない事情があるのだが…。

 

「…こ、こんなのって無いよぉ〜!?」

 

シャルルが絶賛錯乱中のため、その説明はまた別の機会に。

 

 




本日の一言

「真名人君がすっかり信じ込んでくれたから忘れたけど……妖精ってセンスはどうなのかしら?自分で言った手前、ちょっと情けなくなるけど…お巫山戯が過ぎちゃったかしら♡」

by学園の妖精を騙る女性

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