そして先に謝っておきます。巫山戯過ぎてごみんなさい。
「はい、ホットココアです。冷めないうちにどうぞ」
「あっ、ありがとう…フ〜ッ、フ〜ッ……ちらり」
シャルルは真名人が淹れたホットココアを受け取ると、横目で猫なで声で真名人に絡む学園の妖精こと謎の女性を見やる。因みに位置関係的にいうとシャルルが真名人のベッドの上に腰掛けて座り、真名人が扉付近のキッチンからシャルルの前に歩いてきて、謎の女性は普段使用していないベッド(過去に鈴が使っていた)の上に寝転んで足をバタバタさせて遊んでいた。しかも、下着の上にワイシャツのみといういささか過激な格好のまま。
「ねぇ〜、真名人君?私もずぅ〜っと待ってて身体冷えちゃったから、私にもココアちょ〜だいっ」
「えぇ…そんな風変わりな格好してるからでしょう?ていうか、妖精もココアとか飲むんですか?」
「飲む飲む!なんならコップごとバリッボリッとイケるわ!」
「いや、コップ壊れるんでやめて下さい。それより早く服着て下さいよ。でないと風邪ひきますよ?」
「ん〜、どうしよっかなぁ?このまま脱いじゃっても良いんだけどなぁ……ねぇねぇ、君はどうしてほしい?やっぱり見たいわよね?“男の子”だもんねっ!」
シャルルに見つめられていることに気がついた謎の女性は、途端にその話題をシャルルに持ちかける。まさか振ってくると思っていなかったので、何処かぎこちない返事になってしまう。
「えぇ!?さ、さぁ…それはどうでしょう…?(むぅ…全然話す隙が無いよぉ!この人が居たんじゃ計画が進まないよぉ!?お願いだから早く出てってくれないかなぁ!?)」
「ふーん、あんまり興味無さそうねぇ……“男の子”なのに」
女性の言葉に何故か冷や汗をかくシャルル。最早その表情に一点の余裕すら感じられないほど硬直していた。そんなシャルルの様子を感じ取ったのか、真名人は助け舟を出すように会話を持ちかけた。
「そりゃあ前のめりに興味ありますなんて言うはずないでしょう?中学生じゃあるまいし…それにそろそろ“僕の時間”なんで出てって下さいよ」
「ひ、酷いっ!真名人君まで私を邪魔者扱いして…!?うえ〜ん!!もう遊びに来ないんだから〜っ!!」
真名人に邪険に扱われた(彼女視点)謎の女性はショックを受けた様子で部屋から走り去ってしまった。扉が閉まる寸前に真名人に向かって舌を出してベーッと軽く悪態をつきながら。一気に静かになった室内に残されたシャルルだったが、望んだこととはいえまさかこんなにもあっさり叶ってしまうとは思っていなかったので心配になって真名人に問いかける。
「あの女の人のこと、ほっといても大丈夫なのかな?泣いてたみたいだけど…」
「あぁ、それなら気にしなくても平気ですよ。あれ、嘘泣きですから。それにもう遊びに来ないから〜って言ってましたけど言われたの初めてじゃありませんし、何なら今のだって何日か前に同じやりとりしてましたから。それよりデュノア君、あんなのが目の前に居てよく理性保っていられましたね?」
「…へっ?それって、どういう…」
真名人の言葉にシャルルはふと?マークを浮かべてしまう。これが意味することとは…。
「いや、目の前に突然あんな巫山戯た格好の女性が現れたのに全然興奮してなかったでしょう?それになまじスタイルが良いから扇情的じゃないですか」
「そ、それは…でも、君だって全然平気そうだったんじゃ……っ!?」
シャルルは言葉の途中で突然両手で顔を隠し真名人から視線を逸らす。
「デュノア君?どうしたんですか、急に様子が…」
「あ、あの!早く“それ”どうにかしてよっ!?」
「それ?それって何のこ……あー、なるほど。どうやら無意識のうちにおっ勃ててしまっていたようですねぇ…」
シャルルに言及されて初めは何のことかさっぱりだった真名人だが指摘された箇所が異様な盛り上がりを見せており、真名人本体の意思とは裏腹に臨戦状態になっていたことに気がついた。要するに真名人の真名人がハッスルハッスルなのだ。
「まぁ、確かに見てて気持ちの良いものではないですけど、同じ男として許して下さいよ。あんなの見せられて何も感じないわけないじゃありませんか。目の前にシャツ一枚の美女がウロウロしてるんですよ?何だったらあのシャツ元は僕の持ち物ですからね。恥ずかしがるのも分かりますけど、デュノア君だってさっきのめちゃめちゃ興奮するでしょう?」
「だ、だからって…そんなにおっきくしなくてもぉ…(あぁ、うわああああっ!?お、男の人の“アレ”が…!アレってあんなにおっきくなるものなのぉ!?は、恥ずかしいよぉ〜!?)」
顔を真っ赤にしてチラチラ視線を真名人の“それ”に移すシャルル。口ではどうにかしてと言いながらも、ちゃっかりその視線は釘付けである。
「あー、駄目だ。何か思い出したら余計にムラムラしてきました。ちょっと今から“致して”くるんで、その後で落ち着いて話をするってことで良いですか?最近作業とかクラス対抗戦とかのごたごたでずっと抜いてなかったから溜まってたんですよね」
「えっ?抜く?溜まってる?な、何の話をしてる、のかな…」
シャルルは今自分が超えてはいけない一線をカッ飛んでしまったのではと、後からその無知という愚かさに気がつく。しかし、それよりも先に真名人によって事態の幕引きを図られてしまった。
「へっ?オ○ニーに決まってるじゃないですか。こちとら男子高校生ですよ。こんな牢獄みたいな所に押し込められてたら、抜くもんも抜けなくて身体の調子がおかしくなりますよ…って、デュノア君。どうしましたか、そんなに顔を赤くして?」
「……ふぇ?あっ、あのぉ…そ、その……ぼ、僕!用事を思い出した!だ、だから…バイバイッ!!」
真名人に顔を覗き込まれたシャルルは、明らかに動揺したまま真名人の部屋を飛び出して行ってしまった。いくらなんでも過剰に反応し過ぎなのでは…と頭で考える真名人だったが、下半身の方は自然と変化が促されていた。
「あっ、何かすっかり落ち着いてきちゃったな。じゃあ…今日はしなくていいかな。それにしても……デュノア君は一体何しに来たんだろうか?」
真名人は知らない所で評価を落としていたが、彼もごく一般的な男子高校生なのである。嘘がつけないくらい根が真っ直ぐな少年ということでご愛嬌…と受け取って頂ければ幸いでしょう。
そして、あっという間に時間は経って真耶との約束の日となった。待ち合わせ時刻より少し早めに学園の門の前に到着してしまった真名人。真耶が来るまでの間、それまで真名人の身に起こった出来事を簡単に振り返ってみよう。真名人が本音から理不尽な仕打ちを受けてから今日までの四日間をダイジェストでどうぞ。
一日目
「の、布仏さん!お、おはようございます!?つきましては昨日の件についてお話しま」
「あ〜!りっぴー、さゆー!おはよ〜♪」
「……」
真名人、あっさり無視されて撃沈。
二日目
「昨日は誠意が足りなかったから、だから布仏さんは相手してくれなかったんだ。今日はお詫びのしるしとしてちょっとお高いロールケーキを買ったから、これを渡せばツンツンだった布仏さんも元のポワポワな布仏さんにきっと戻るはず。よしっ!頑張ろう……あっ、布仏さん。あの…これ、良かったらお納め下さい!」
「…ロールケーキは貰う。でも、許してあげないもん。ふへへ、おいひ〜♡…あっ」
「布仏さん…それ可愛過ぎますよ!ハムスターみたいに口いっぱいにロールケーキを頬張る姿!勢い余って中のクリームが飛び出ちゃったところを見られて焦ってるのもまた愛らしいなぁ…ってゴバァ!?」
「こーちんの、馬鹿っ……えへへ♪」
「真名人さん…どうやらまた謝罪に失敗したご様子ですのね。やはりここは名実共に淑女たるこのセシリア・オルコットが喜んでお力添え致しますわ!」
真名人、お詫びの品のロールケーキだけを取られ返り討ちに遭う。
三日目
「良いですか?真名人さんに足りないと思われるのは真心です。お詫びの品を贈ることも大切ですが、例え真名人さんが何も悪くないとしてもそう思いながら謝っていると自然と相手にも伝わってしまいますわ。それでは状況は一向に良くなりませんことよ」
「なるほど。それなら僕は一体どうすればいいのでしょうか…?」
「私に策がございますの。それは…これですわ!」
「それって…手紙、ですか?でも、もうすぐ布仏さんが教室に来てしまいます。もう時間が…」
「心配御無用ですわ♪こういう場合を想定して、既に私がしたためておきましたの。これを真名人さんが書いたことにしてお渡しすれば真名人さんの誠意はきっと布仏さんにも伝わります」
「オルコットさん…どうして僕にここまで?僕は貴女に何もしてあげられません…それなのに」
「…でしたら、一つ我儘を聞いて頂いても宜しいですか?もしこれが上手くいきましたら…今度こそ私のことをセシリアと呼んでほしいのです!それで手打ちとしましょう」
「わ、分かりました…!あっ、布仏さんが来ました!」
「では真名人さん、健闘を祈りますわ。頑張って下さいましっ!」
「はい!よ〜し、今度こそ……の、布仏さん!あの…これ、受け取って下さい!」
「…手紙?読んでいい?」
「は、はい……あの、布仏さん?なんかどんどん顔が険しくなってません…か?」
「…ふ〜ん、そうなんだそうなんだ。そんな風に思ってたんだ〜、嬉しいなぁ〜。ところでこれ、こーちんが書いたの?」
「えっ、それは…その…何で、そんなことを?」
「ん〜?べっつにぃ…すっごく私のこと褒めてくれてるから嬉しいな〜って思っただけだよぉ。それより…これ、本当にこーちんが書いたの?」
「そ、それを書いたのは……え、えっとぉ…オルコットさん、です…。僕はオルコットさんが書いた物を渡しただけで…すみません!オルコットさんは僕が書いたことにして良いって言ってくれましたけど、やっぱりこんなことで嘘はつけません……って、布仏さん?」
「こーちん、サイテーだよ…セッシー!大好き〜♡」
「キャッ!?な、何をなさいますの!?いきなり抱きつかないで下さいまし!」
「やだやだ〜!セッシーからのラブレター嬉しかったんだも〜ん♡」
「ど、どうして私が書いたことがバレてますのぉ!?真名人さんの筆跡や癖を完璧に真似て書きましたのに……あっ」
「ふふっ♪セッシー、そういうところだよぉ〜?(こーちんってば、全然セッシーの気持ちに気づいてあげてないんだ。女心が分からないお子ちゃまなんだ…じゃあ、あのことも私の勘違い…なのかな?)」
「の、布仏さ〜ん!?」
「………」←本音に最低と罵られて魂が抜けている真名人
真名人、朝のHRを終えた時点で体調不良により早退。
四日目
真名人、体調不良により欠席。彼の部屋を訪れた一部の生徒が室内から"嫌われた…完璧に嫌われた…”と呪詛のように繰り返し聞こえてきたという。
ダイジェスト終了。そして、今に至るのである。
「はぁ…思い出しても辛くなるだけだからもうやめよう。それにしても山田先生遅いなぁ…忙しいところを無理にお願いしてしまったから、やっぱり迷惑だったかな…」
「はぁ、はぁ…こ、上月く〜ん!」
「山田先生!こっちで〜す!こっちで…っ!?」
真名人が門の前で一人物思いにふけていると、遥か彼方から真耶の声が聞こえてきてそちらの方向に向き直す。すると、真耶の姿を見た真名人は思わず絶句してしまった。
「あっ、すみません!お待たせしてしまって。普段あまりお洒落しないので手間取ってしまいまして…上月君?」
「………」
真名人の反応を怪訝に思った真耶は思わず顔を覗き込む。当然真耶の格好が変というわけじゃなく寧ろその反対…綺麗だったのだ。真耶の格好はシンプルだが女性らしいデザインの白のブラウスにふわっと広がる淡い緑のフレアスカートという普段のラフな格好とは違ってかなり大人っぽい上に斜めがけの小さなショルダーバッグがワンポイントのアクセントとなっていて上品な大人の女性を演出していた。しかしながら真耶が小柄な上に身長も真名人より十センチ程度低いことも相まってパッと見未成年の大学生、良くて二十歳そこそこにしか見えないのが難点であった。低身長故に真名人の顔を覗き込んだもののどう足掻いても上目遣いになってしまう。それにドギマギしないわけがなかった真名人である。
「どうかしましたか?あっ…やっぱり変、でしたよね。年甲斐もなくこんなにお洒落して…私、着替えてきますね!?」
真名人から良い反応を得られらなかった真耶は堪らず服を着替えに戻ろうとする。しかし、すぐに真名人によって引き止められた。
「ま、待って下さい!その、すみません…山田先生があまりにも大人っぽくて綺麗だったので、つい黙り込んでしまいました。すごく似合ってますので、ぜひそのままでお願いします……って、僕なんかに褒められたって嬉しくもなんともないですよね。あはは…」
「上月君……いいえ、とても嬉しいですよ。だって上月君の為にお洒落したんですから♪」
そう言って笑いかける真耶に思わず真名人も照れてしまう。それを見て真耶も何故か頬を染めるという負の連鎖が起こる謎状況。なんとなく気恥ずかしく感じた真耶は強引に話題を変えることにした。
「そ、それで今日は何処に行く予定なんですか?外出の理由と場所が明記されていなかったので教師の同行が必要になってしまいましたけど、買い物とかでしたら今からでも変更は可能ですよ?」
「あー、いえ…そのままで大丈夫です。寧ろ信頼できる先生に着いてきてもらいたかったので。本当は千冬さ…織斑先生にも来てもらいたかったんですけど“予定があるから行けん”と断られてしまって。だから、今日は本当にありがとうございます!」
「い、いいんですよ!お礼なんて…困っている生徒を助けるのは先生として当然のことですからっ」
深々と頭を下げてお礼を言う真名人に驚きながらも嗜める真耶。そんな謙虚で慈悲深い真耶の姿を無自覚にもとある人物と重ねてしまう真名人だった。だがすぐにそれは“違う”と理解し、その思考を停止させる。
「山田先生…なんて優しいんだ!やっぱり貴女に頼んで良かったです…貴女なら、きっと……あぁ!?もう行かないと電車に間に合わなくなります!山田先生、お手を失礼しますっ」
「へっ?きゃっ!こ、上月君!?いきなり走ると転びますよぉ〜っ!?」
一瞬何かを言いかけた真名人だったが、腕時計によって示された時間を確認した途端に焦り出した。その結果として真耶の手を取り有無を言わさず走り出す!驚きを隠せない真耶だったが繋がれたその手の温もりを感じつつ、少々強引ながらも真名人の男らしさの片鱗を見たこともあって…。
「(手…握られちゃいましたぁああ!?しかも歳下の男の子、担当のクラスの生徒という禁断の…恋愛物語が始まっちゃいますぅ!!駄目です駄目です!!それだけは聖職者としてあるまじき行為……でも、強引な上月君も新鮮でちょっとだけカッコよかったかも……ぽっ///)」
絶賛妄想街道爆進中なのである。
「あら?あそこにいらっしゃるのって真名人さんと…山田先生!?何故休日にお二人が……ハッ!ま、まさか逢引き!?教師と生徒であるにも関わらず我慢出来ずにお互いを求め合って…い、いけませんわ!?ただならぬ関係になっては駄目ですのっ!!」
偶然にも真名人達の現場付近を通りかかったセシリアが途轍もないスピードで勘違いしていき、有無を言わさず尾行を開始することに。すぐに追いかけようとしたセシリアだったが、彼女よりも少し先に同じことを考えていたであろう人物を発見し、思わず声を掛けてしまう。
「あの…そんな物陰に隠れて一体何をなさってますの?シャルルさん」
「へっ?うわぁああっ!?セ、セシリアさん!ぐ、偶然だねぇ!?ぼ、僕はただ、その…そう!今日は暇だから一日中学園内を見て回ろうかなぁってぐるぐるしてたんだ!決して誰かを覗いたりなんかしてないよっ!?」
セシリアに声を掛けられ明らかに動揺するシャルル。そこまで深く聞いてもないのに自分からボロボロ情報を落としてくれるポンコツっぷりを見せる始末。だが一分一秒を争うセシリアにとっては些細なことで、寧ろ好都合だった。
「そうですか……今、暇だからと仰いましたか?今日一日特に予定は無いと?」
「えっ?う、うん…そう、なるかな…って、うわぁ!?な、何するのさぁ!?」
言質をとったセシリアはすぐにシャルルの手を掴み、半ば強引に尾行に同行させる。突然の行動に驚くシャルルに手短ながらに説明をしながら。
「詳しい説明はまた後ほど!とにかく今は私と一緒に来て下さいましっ。でないと真名人さん達が乗る電車に乗り遅れてしまいますわ!お二人が過ちを犯すことが無いように尾行して監視致しませんと!さぁ、行きますわよ!!」
「わ、分かったから引っ張らないでぇええっ!?」
こうしてセシリア・シャルルによる英仏合同監視チームが結成された。監視対象は真名人と真耶、内容は二人が教師と生徒の垣根を超えて“エッチなことをしないか”だ。
「ふむぅ……さて、どうしたものか」
同じ頃、寮長室にて一人書類と睨めっこしている千冬。珍しく真剣な眼差しで一枚の書類を見つめて思考を巡らせていた。その内容は次の通りである。
“第二の男性IS操縦者である上月 真名人の今後の処遇について”
一体何故こんなことになっているのか、その原因は他の二人の男性操縦者との圧倒的な違いにあった。現在一夏には白式の開発した倉持技研、シャルルには実家であるデュノア社がスポンサーに付いている。しかし真名人には日本はおろか世界中の何処の企業も支援の意向を示していない。本来着用が義務付けられているISスーツを真名人が所持していないのもそれが理由だ。真名人と二人の扱いの差…それはナナシに原因があった。
「上月の専用機の所有権はあくまで軍にある。それを上月個人に貸与している状態であるが故に扱いが難しい。上月の報告だけでISの詳細なスペックデータを推し量る訳にもいかんし…仕方ない、不本意だが軍の奴等に聞く以外ないか」
千冬はとある人物に電話を掛ける。するとその人物はすぐに反応してきた。
《はいは〜い!エリスですよぉ!突然のお電話、本っ当〜に驚きましたよ!まさか“ブリュンヒルデ”から直接連絡を頂けるなんて…エリス感激ですっ!!」
「…鬱陶しいぞ、楠木。それに貴様とは初対面ではないし、ブリュンヒルデという呼び方も止めろと言ったはずだ」
《えへへ…すみません♪私の周りの子が貴女の熱心なファンばかりなもので、オーバーに喜ばないと睨まれるんですよ。それで…私に何かご用ですか?直接連絡を寄越してきたということは、緊急なのでしょう?》
周りへの配慮で喜んでいるフリをしながらもガラリと雰囲気を変えるエリス。これでまだ未成年だというのだから侮れない。俯瞰で物事を判断出来る彼女だからこそ、千冬は一報入れる決断を下した。
「あぁ、そのことなんだが…単刀直入に言おう。このままでは上月が学園に居られなくなるかもしれん」
《えぇ!?そ、そんなの困ります!!一体何が原因なんですか!?私が真名人に言って聞かせますから!!》
真名人の学園存続の危機と聞いた途端、先程までの冷静さを一転させ電話越しの千冬に詰め寄るエリス。その豹変ぶりに千冬はエリスに対して何とも言えない違和感を覚えた。
「…落ち着け。今すぐどうこうという話ではない。将来的にそうなるかもしれないという可能性があるだけだ。ただ国際IS委員会から学園にそういった通達が来たのだ…成績不良且つ出自が不明の上月に専用機を所持させるべきではない、貴重なISの所有権を軍に握らせるのは不当だという過激な意見も少なからず出て来ている。このままでは遅くとも八月末には何らかの判断を下さざるを得ないだろう」
《そんな……真名人の成績はそこまで悪いものなんですか?正直信じられません。だってあの子が…”ナナシ”が付いてるのに!》
ナナシ…それが真名人のISの名前だということはクラス対抗戦の後に報告を受けている。簡易的ながらも機体スペックと武装のデータについてもまとめた書類を提出されたが、それも元を辿れば軍の保有する情報の表面だけをなぞったものに過ぎない。要するに外部に漏れても問題の無い情報価値の低いものばかりという。頭の固い委員会の連中が納得するはずがなかった。それよりも千冬が気になったのは、エリスが口にした“ナナシが付いているのに”という言葉だ。明らかに他の言動よりも意味を成す雰囲気を感じた。
「ちょっと待て。貴様、奴のISの何を知っている?まさか上月がISの使用を躊躇っていることと関係があるのか?」
《あっ…そ、それは…》
千冬に追及され言葉に詰まるエリス。電話越しでも分かるほどに焦りの模様が伝わってくる。エリスが何か情報を知っていて敢えて秘匿していることを察知した千冬は、真名人を助けるべくここぞとばかりに詰め寄る。
「楠木、頼む…今はまだ私の一存でどうにかしてやれるが、それもいつまで持つか分からん。学園関係者は干渉されないという規約も正当な理由さえ用意されてしまえば何の意味も持たなくなる。上月が明らかに学ぶ意思が無く意図的に実習をボイコットしていると判断されても反論出来ないのが現状だ。奴が何故ISを拒むのか…知っているなら話してほしい」
千冬の思いはエリスに届くかは分からない。もしかしたら徒労に終わるかもしれない。ただ縋るしかないのなら迷わずその一筋の光条を求めるだけだ。それで真名人を救うことが出来るのなら…。
《…分かりました。でも、今から言うことは決して他言しないで下さい。それに真名人のことについては憶測の域を出ませんので、参考になるかどうかは分かりませんが…》
「分かっている。あくまで参考程度に留めておくさ。上月を守る為にとにかく今は情報がほしい。さぁ、話してくれ」
千冬は落ち着いた声色でエリスに話をするように促す。すると、意を決したエリスは次第に彼女の知っている事実を話し始めた。
《真名人にナナシを預けた後、内緒でナナシのことを軍のコンピュータを調べたんです。私が入隊した時には既にあの子が倉庫の片隅に放置されていたんですけど、記録では
「何だと…!では、上月のISは“第一世代”なのか!?」
エリスの話を聞いた千冬は思わず因縁深い言葉を口にしてしまう。第一世代とは兵器としての完成を目指したISのことで既に殆どの機体が退役している為、現存する機体はごく僅かだ。その内の一機がナナシである可能性が出てきたという。
しかし、その可能性はエリスによって潰されることとなる。
《いいえ、それは無いですよ。ナナシには
「…冗談だろう?ならば聞くが、素人が初戦で代表候補生のレーザーライフルの射線を見切ることや全身にビーム兵器を搭載した全方位攻撃型のISを無傷で沈黙させたことはどう説明する?」
《えっ!?そ、それはぁ〜、そのぉ……真名人ってば大胆なんですねぇ!意外な才能って奴なのでは!?あはは、あはははっ!》
衝撃的な事実を告げられパニックになるエリス。その証拠に声色がかなり弾んでいた。
千冬は真名人から聞き出した話をするべく新たに話題を切り込む。
「まぁ、その話はまた追々聞くことにする。問題は上月自身がISの使用に関して前向きではないことだ。貴様の言うように上月にそこまでの才能があるのならそれこそ好んで乗るはずだ。それが何故ISを遠ざけることになる?」
《さぁ…それが真名人の性格だからとしか言いようがなくないですか?それに……あっ、もしかしたらナナシに搭載されてるシステムが原因かも!》
「…システム?一体何のことだ?」
千冬に問いかけれたエリスは軍のコンピュータを調べて判明したナナシに搭載されているシステムについて説明する。
《はい…私も詳しいことは知らないんですけど、ナナシの
「成る程な…にわかに信じられんが、それなら素人の上月が訓練機並みの性能しか持たないISで専用機持ちと対等に渡り合えたことにも一応の説明がつくか。だが、それが上月の行動との関連があると言えるのか?」
千冬に問われて一瞬押し黙るエリス。千冬の言いたいことは理解できる。いずれにせよ高い操縦能力を発揮している現状に満足していない人間など普通はいないはず。しかし、真名人は例外なくそれを拒み続けている。その真相は他の誰でもない真名人本人にしか知り得ないのだろう。その結論に至ったエリスは千冬に一つの疑問を投げかけた。千冬には何故かその声色はエリスにとって他人事とは思えない想いのようなものが篭っている…気がした。
《…どうなんでしょうね。でも、誰もが“変化”を受け入れられるとは思えないんです。ねぇ、千冬さん。ある日突然世界が変わるような出来事が自分の身に起こったら、当たり前だと思っていたものを失ったら…貴女はどうしますか?》
本日の一言
「い、いくら男の子同士だと思ってるからって…いきなりエッチな話はしちゃ駄目なんじゃないかなぁ!?」
by シャルル・デュノア