ACEを目指す未熟者   作:自由の魔弾

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寄り道じゃありません、道草です。


ACE 15 開幕、学年別トーナメント 〜銀髪軍人とのほほん少女〜

「……恥ずかしいことなんかない、これは恥ずかしいことじゃないもん。ただこの申請書にこーちんの名前を書いて貰えば良いだけ…よしっ」

 

学年別トーナメントの申請開始から数日後の朝、誰よりも先に教室へ来て一人ヤキモキしている本音の姿があった。自分の机の上に突っ伏しながら自分を納得させるように独り言を投げかけている彼女だが、一体全体どうしてこんな状況になっているのか…それは彼女自身に説明してもらおう。

 

「渡す前に最終確認しなきゃだねっ!まずは対象を確認、それとなく話題を振って誰かと組んでないかを把握して、トドメに“今度のトーナメント、良かったら一緒に組もう?”だよねっ!はぅ…緊張するなぁ〜!?こーちん、早く来てくれないかなぁ…」

 

ぐるぐると思考を巡らせていると、突然教室の後ろ側の扉が開かれた。少しびっくりしながらそちらに視線を向けるとそこに居たのは、普段のルーティーンをこなすべく菓子パン片手に登校してきた真名人だった。真名人は普段居るはずのない本音の存在に気づくと、目を丸くしながら彼女に声をかけた。

 

「あれ、布仏さん?おはようございます。こんな朝早く教室に居るなんて珍しいですね」

 

「あっ、こーちん…オ、オハヨー?」

 

真名人に挨拶されて咄嗟に受け答えする本音だったが、何処かぎこちなくなってしまう。その様子はまるで油切れしたロボットのように言葉だけでなく動きもキギギッ…といった感じに首を傾げる始末だ。

 

「布仏さん…何か普段と雰囲気違いますね。いつもより何かこう……」

 

「ご、ごくり…!」

 

何故か本音を見つめながらそこで一旦言葉を呑む真名人に対して、同様もしくはそれ以上に緊張しながら固唾を呑んでその先の言葉を待つ本音。そして、その瞬間は何の脈絡も無く訪れた。

 

「倍…いや五倍くらい面白い感じになってますよ。何か変な物でも食べました?」

 

「にゃ!?も、もぉ〜っ!!こーちんってば、何でそう思わせぶりなこと言うのかなぁあああ!?」

 

真名人から発せられた予想の斜め上の言葉にツッコミを入れる本音。そのテンションの変わり様ったらもうない。だが一旦エンジンが掛かった本音はもはや誰にも止められなかった。

 

「何、今の間は!?そのトーンは普通だったら“綺麗に見えるよ”とか“魅力的だね”とか“キ、キキキ、キス…してもいい?”とか言う流れじゃん!それなのに“面白いね”って……うわぁあああん!!こーちんの鈍感!浮気者!ポンポコリン!!」

 

「ポ、ポンポコリンって…グフッ!?どういう感情ですかそれ?ハハハッ、やっぱり面白いですね。布仏さんって…あむっ」

 

「ム、ムムム〜ッ!笑いながらパン食べるなぁ〜!?罰としてパンは私が貰っちゃうも〜ん!はむっ!」

 

「えっ?ちょ待っ…」

 

本音はむくれ顔のまま昂った感情そのままに真名人の左手を掴み持っていた菓子パンを強引に取り上げてムシャムシャと頬張り、全部平らげてしまった。彼女にとっては仕返しのつもりなのだが、思春期真っ只中の真名人…遅れて本音自身にもその破壊力が押し寄せて来ることになる。

 

「ムッフ〜!!どうだこーちん、本音様を揶揄うと怖いんだぞぉ〜……って、あれ?どしたの?お〜い、こーち〜ん」

 

「いや、あのですね……そのぉ、僕はあまり気にしてませんけど…大丈夫だったんですか?」

 

「…何のこと?あっ、もしかして朝ごはんが無くなっちゃって困ってるのぉ?大丈夫、お腹が空いたら後でお菓子分けてあげるからこーちんは心配しなくても平気だよ〜♪」

 

満足気な表情を浮かべてそう捲し立てる本音。どうやら真名人の言葉の意図があまり伝わっていないようだ。なのでここは真名人からハッキリ伝えてもらおう。そして、恥ずかしさで身を焦がすが良い。

 

「あっ、いやそうじゃなくて……今、布仏さんがムシャムシャと平らげたパン。それ、僕の食べかけ…なのはお気づきです?」

 

「へっ?うん、それは勿論知ってるけど、それがどうし……ハッ!?」

 

真名人に詳細を確認させられて、彼が言わんとすることを分からせられる本音。その証拠に自身の口元を両手で覆ってしまっていた。もうお互い何を考えているかは明白ではあるが、暴走特急と化した真名人の脳内にブレーキという選択肢は微塵も無かった。

 

「えぇ、これは世間一般で言うところの“間接キス”という奴ですなっ!いや〜、まさか自分がこんな幸運に恵まれるとは思ってませんでしたなぁ!なっはっはーっ!」

 

「な、なな…ななな…っ!」

 

やけにあっけらかんと笑い飛ばす真名人と対照的な程に顔を真っ赤にしてぷるぷる身体を震わせる本音。普段の二人とは正反対の反応だ。

 

「しちゃった…!間接キス…しちゃった!?どうしよぉ…なんて言い訳すれば良いのぉ!?私…お、怒られちゃうよ〜!?」

 

「偶には早起きしてみるのも悪くないですなぁ!これぞまさに役得と言ったところでしょうか?まぁ、お陰で朝食は無くなりましたがさほど腹の虫が騒いでいたわけでもなし、寧ろ思わぬ幸福から若干の満腹感を得られました…って、聞いてませんか。わざと大袈裟に喜んで収拾つけようとしたのですが、あまり効果ありませんでしたね。こういう時は…暫く放っておくに限りますか?“触らぬ神になんとやら”ですものね」

 

話しかけても反応が返ってこない本音にかまけている訳にもいかないので、とりあえずトイレに用を足しに行く真名人。教室から教員用の男性トイレまでは少し距離があるので、行って帰ってすればいい感じに始業時間ギリギリくらいに戻れるという算段だ。無事に用を足してトイレから出ると、同時に隣の女性用トイレから出てきたであろう人物と出会した。

 

「…あれっ?真名人君じゃないですか。おはようございます〜」

 

「山田君、急に立ち止まると危な……あぁ、上月か。朝から女性用トイレの前で待ち伏せとは精が出るな、このエロ餓鬼め」

 

「えぇ!?ま、真名人君…女の人のトイレに興味があるんですかぁ!?だ、駄目ですよぉ!そんな特殊な趣味は今すぐ捨ててください!」

 

「………さて、何処から突っ込めばいいのやら。とりあえずニヤニヤしながらこっち見るのやめてもらっていいですかね、織斑先生。あと山田先生、それものっそい勘違いなので大騒ぎしないで下さい」

 

本人の目の前でデマを吹聴しようとする千冬と見事にそれに乗せられやや興奮気味の真耶に出会した真名人は、辟易しながらそれぞれの対応にあたる。

 

「ぷっ…くくっ、すまない。久々に貴様のアホ面を見たくて我慢出来ずに揶揄ってしまった。他意は無いし悪いとも思っていない」

 

「…ここまでハッキリ開き直られると、逆に清々しいですよ。僕じゃなかったら今頃訴えられてますよ?」

 

「安心しろ。こんなことは貴様にしかやらんし、例え訴えられたとしても確実に示談に持って行く自信があるぞ」ドーンっ

 

「いやいやいや、そんなこと胸張って自慢気になられてもうおっ、大きい…」

 

何故か得意になって胸を張る千冬の強調された巨乳ぶりに目を奪われ、言葉の途中から思考の殆どを侵略される真名人。この時点で既におかしいのだが、当人達からすればこれらは割と普段通りの戯れであったりする。なので当然横で黙っていないお方もいるわけで。

 

「何だ上月、私の胸なんかで興奮してるのか?こんなもの見たって面白くも何ともないだろうに」

 

「いいえ、そんなつもりは「ほれっ」あぁすぅ…ぐっ、くふっ…!?よ、寄せるの卑怯…ですから!?くぅ…小憎らしい織斑先生の胸だと頭では理解しているのに、罠だと分かっているのにぃ…何で視線を逸らせないんだぁ!?」

 

「ま、真名人君!?ほらっ、胸なら私の方が大きいですよっ!それに先輩よりも柔らかいですし、若さも張りもあります…多分!」

 

「はあぁぁ…!!セ、センシティブ!山田先生、そんなに身を乗り出すとお乳が大変なことにあぁ、デカい!!今日、僕死ぬんですか!?何か一生分の運を使い果たしているような気が…」

 

わざとらしく自分の両手でその豊満な胸を寄せて強調する千冬と、それに対抗するようにずいっと身を乗り出して千冬以上の胸元を見せつける真耶…そして、例に漏れず心の声がダダ漏れの真名人。朝から大変カオスな状況である。

 

「とまぁ冗談はさておくとして」

 

「なんてタチの悪い…それが大人のすることですか?」

 

「あ、あはは…わ、私も悪ノリしちゃいました〜」

 

一転して浮ついた話題を切り捨て普段のクールな千冬に戻る。切り替えの早さに真名人と真耶は脱帽してしまうが、これが彼女なりの気の遣い方なのだろう。

教室へと歩みを進める千冬に倣って、真名人と真耶も付き従っていく。

 

「本題に入るが、専用機の調整は上手くいっているか?個人を贔屓する訳にはいかないが、事情が事情だからな…あまり顔を出してやれないのにも申し訳ないと思っている。上月のトーナメントへの出場を止める権限は今の私には無い…すまん」

 

「そんな…頭なんて下げないで下さいよ!?」

 

千冬が助力してやれないことを真名人に謝罪する。まさかそんなことをされるとは思っていなかった真名人はたじろいでしまう。更にそれに真耶も便乗してきた。

 

「私も…謝らなきゃですね。忙しさにかまけて真名人君の専用機のこと、結局手伝えず終いで…うぅ」

 

「山田先生まで…何も泣くこと無いでしょう!?ほら、これで涙拭いて下さいっ」

 

「真名人ぐん〜!ありがどぉございまずぅ〜!?」

 

自分で言って悲しんで見せる真耶にポケットからハンカチを取り出して差し出す真名人。それを受け取った真耶は遠慮なく目元に当てて涙を拭う。これではどちらが歳上なのか分からない。

 

「全く…最悪ゴムだけは忘れるなよ?」

 

「一体今の何を見てその結論に至ったのか……あっ、別に言わなくていいです。聞きたくないので」

 

「むぅ…つれない奴め。さっき目の保養に胸をサービスしてやっただろう?偶には大人しく捌け口になれ」

 

「情緒とは…?」

 

真名人に丁重に断られ少しつまらなそうな表情を見せる千冬。ブリュンヒルデとして崇められ生徒達の憧れの的となっている彼女が、一男子生徒である真名人に対してかなりパーソナルな部分を見せている…親密なのか或いはただ揶揄って遊んでいるだけなのか。

 

「話を戻しますけど、御二方の心配には及びませんよ。肝心のシステム?の方はまだ手付かずですけど、シャルル君と一緒に調べててかなり効率よく分かってきました。それに彼のおかげでちょっと面白いものも見つけたんですよ」

 

「面白いもの…ですか?まさか未知の技術の一端が…!?私、気になりますっ!教えて下さい!」

 

真名人の意味深な発言に元代表候補生の血が騒いだ真耶は目を輝かせる。しかし、敢えて情報を伏せる真名人だった。

 

「今はまだ駄目です。でも必ずお見せしますよ…ちゃんと物にしたその時には。それまではお預けです」

 

「えぇ〜!何でですかぁ!?意地悪しないで教えて下さいよぉ?」

 

「えっ、あの…それは……あっ!も、もうHRの時間です!い、急がないと間に合わないかと……って訳でおさらばです!」

 

「えぇ!?ま、真名人君!?」

 

好奇心からかジリジリと真名人との距離を詰める真耶。低身長ながらもその迫力が真名人にも伝わり、結果廊下をダッシュで駆け抜ける真名人とそれを息一つ切らさず追随する真耶の姿があった。

 

「何で逃げるんですかぁ〜!それに廊下は走っちゃ駄目なんですよぉ!」

 

「や、山田先生が追いかけてくるからじゃないですかぁ!?それに山田先生も走ってるから同罪でしょう!?」

 

「せ、先生はいいんですぅ!緊急事態なので!」

 

「お、横暴だぁ…!千冬イズムを無事に継承しているなんて!?うわぁああん!!」

 

もはや無茶苦茶な理論を振りかざして私利私欲に走っている真耶に恐怖した真名人は悲鳴を上げながらひたすらに逃げる。出会った当初はあんなにも純真無垢だった真耶がたった二ヶ月の間に着実に千冬の気質を継承していることがそれほどショックだったのだろう。そして、それを駄目なことと捉えられた千冬本人にも確かなダメージを与えたらしい。

 

「…今のは軽く傷ついたぞ。あー駄目だ、これはもう仕置きせねばな。くくっ、たっぷりと躾けてやるから覚悟しておけよ…上月」

 

一人廊下に残された千冬だったがその表情は何処か微笑ましく、且つ獲物を定めた狩人そのものであった。まぁ、それが悟られることはないのだが。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「…さて、なんやかんやでトーナメント当日を迎えちゃった訳ですけど、これはまた難儀な…」

 

あっという間に六月最終週の月曜の朝を迎え、学年別トーナメントに出場する生徒達の名前が記されたトーナメント表が大型モニターに映し出された。各々が自分の名前を探す中、学園に三人しかいない男子生徒の抽選結果に自然と注目が集まる。それは居合わせた真名人も同じなようでその抽選結果を確認した瞬間、彼の表情から生気が失われていくことになる。

 

「一回戦の対戦相手…“織斑 一夏・シャルル・デュノア”対“ラウラ・ボーデヴィッヒ・上月 真名人”…か。鈴さんとオルコットさんが知ったら何言われるか分かったもんじゃないよ…」

 

底知らぬ恐怖に身震いした真名人はすぐさまピットに退散することに。同時にここ最近の類稀な幸運続きがこの為の前払いであったことを痛感させられる。新しい友人や親身になってくれる先生が出来たこともこの巨大な不幸のどん底に叩き落とす為の伏線でしかなかったのだ。思えば彼の人生はいつだって多くの不幸と少しの幸運で成り立っていた。しかし、彼は既にこの歪な周期を乗り切る為の手段と力を持っている。その証拠に真名人は待機所に入るや否や、既に準備を終えて待機している人物に声をかけた。

 

「えっと、どうも…ラウラ・ボーデヴィッヒさん、ですよね?僕は今回一緒にペアを組むことになった同じクラスの「挨拶はいい」へっ…?」

 

真名人が話しかけた人物…ラウラ・ボーデヴィッヒが真名人に目もくれずピシャリと会話を断ち切る。あまりにも自然な流れで拒否され目を丸くして呆然とする真名人に、ラウラは椅子に座って腕組みをしたまま憮然とした態度で冷たく言い放った。

 

「馴れ合うつもりはない。私はあの人をドイツへ連れ帰る…せめて邪魔だけはするな」

 

「あぅ…そ、そうなんですか。あの、聞いてもいいですか?」

 

「…何だ?」

 

割と容赦なく突き放されたのに何故か食い下がる真名人に対して、ラウラは直前に千冬に言われた“あること”が脳裏に蘇る。その甲斐あってか突然の真名人の質問を許可したラウラだった。

 

「ボーデヴィッヒさんが言っている“あの人”というのは、織斑先生のことなんですよね?僕、ISに関わるようになってまだ二ヶ月くらいなんですけど、まだ織斑先生の凄さがなんとなくしか分かってないんですよ。もしよろしければ試合が始まるまで間、少し教えてもらえませんか?」

 

「……はぁ?貴様、頭がおかしいのか?ついさっき馴れ合うつもりは無いと言ったばかりなのだが」

 

あまりにも突拍子もない話題振りに今度はラウラの方が目を丸くする事態に陥ってしまう。表面上は平静を保っているが、内心では真名人の奇行に掻き乱されていたのは言うまでもない。

 

「だ、だからこそですよっ!どうせ今回だけの即席ペアなのですし、お互い後腐れなく話が出来るでしょう?僕、知りたいんです。君と一夏君の間に何があったのか…織斑先生に拘る理由は何なのか」

 

「…何故そこまで私に構う?貴様も知っているはずだ。中国とイギリスの代表候補生、そして織斑一夏を叩きのめしたことを。普通なら話しかけようなどと思うまい、なのに何故恐れない?」

 

ラウラの率直な疑問、それは誰しもが思うことだ。転校早々一夏に理不尽な暴力を振るい、クラスメイトの誰とも一切関わることなく、更には鈴とセシリアを一方的に痛めつけ、そして止めに入った一夏にも手を下そうとした。そんなラウラを恐れる者はいれど自分から近づこうなどという人間はここに来て初めて出会う人種であることはまず間違いない。そんな真名人は一体何を答えるつもりなのか。もしかしたら真名人という人間はラウラが考えている以上の人徳の持ち主であり、それを知らせる為に千冬自ら彼女に言伝を…。

 

「分かりません!」

 

「………はっ?」

 

あまりにも潔く身を引いた真名人に、ラウラは思わず虚を突かれてしまった。開いた口が塞がらないとはまさにこのことだろうか。

 

「いや、何となく気になっただけで…もしかしたら君にとって大切なことなのかと。ただの勘ですけど」

 

「…呆れて物も言えん。やはり教官の考え過ぎなのだ…こんなの見るからに特徴の無い平凡で取るに足りん男ではないか!」

 

「…ものすごく流暢な日本語で素敵な酷評、ありがとうございます。でもそんな風に思ってくれてたなんて知りませんでした。今度それをネタにして脅してみようかな……って、すみません。ほんのジョークのつもりで言っただけなので、そのぉ…首元に当ててるナイフを下ろして頂けると…ふえぇ〜んっ」

 

「…ふんっ、次は無いと思え」

 

目にも留まらぬ速さで真名人との距離を詰め、その首筋に忍ばせていたナイフを押し当てるラウラ。その人間離れした動きは彼女が軍人の中でも特に近接戦闘を得意としていることを物語っていた。真名人に涙目で懇願されて興醒めしたのか不服そうにナイフをしまうラウラだったが、目の前でコロコロと表情を変える真名人という珍獣の様な存在にある種の興味を抱き始めていた。

 

「うわぁ…これ、本物ですよね?カッコいいなぁ〜!あの、僕に持たせてもらっても…?」

 

「………刃に気をつけろ。少し触れただけでもバックリ切れるからな」

 

そう思った時には既に真名人の術中に嵌っていたラウラ。気づけば真名人にナイフを手渡してしまっていた。同世代の男子であるはずの真名人に幼児性の様なものを見出していたのだ。これが彼の気質とも言うべきなのか…?ラウラは目の前で軽快にナイフを振り回して喜んでいる真名人の姿を見て、ふとそんな疑問が生じた。

 

「おい、私の質問に答えろ。正直にな」

 

「はっ、ほっ…!えっ、何ですか?」

 

依然としてナイフで遊んでいる真名人に対して、ラウラは堪らず沸々と湧いた疑問をぶつけた。千冬との会話の答え合わせを本人を通して確認しようというのだ。

 

「貴様…私のことを好いているのか?」

 

「………はい?ギャアアアアッ!?」

 

突然の質問に呆気にとられた真名人は思わず手に持っていたナイフを自身の足元に落としてしまった。その結果、足先からほんの数ミリの所にしっかりと突き刺さっていた。

 

「ば、馬鹿者!!気をつけろと言っただろう!?」

 

「だ、だってボーデヴィッヒさんが変なこと聞くからぁ!?こ、怖かったぁ…!?」

 

二人揃ってあたふたしだす。さっきまでの重苦しい空気は一体何処へ行ったのやら。すかさず真名人からナイフを回収してことなきを得たところで、お互いに落ち着いて中断していた話題を再開させる。

 

「貴様は危なっかしいな……それで、先程の答えはどうなんだ?」

 

「うーむ……あまりご期待に添えるか分からないですけど、多分ボーデヴィッヒさんが聞きたいのって“何で一夏君みたいに怒らないのか”ってことですよね?鈴さんとオルコットさんがやられたのに」

 

真名人の問いかけに静かに頷くラウラ。それを受けて真名人は小さく唸って頭を掻きながら少し困った素振りを見せた。

 

「ん〜っ…正直なところ、ボーデヴィッヒさんのことはよく分からないです。勿論鈴さんとオルコットさん、それに一夏君もまとめてやっちゃったのはどうかと思いますけど……でも何となく、何もかもが嫌になっちゃう時ってありますもんね。何かこう…無性に腹立つというか、どうしても周りに当たりたくなるというか」

 

「…貴様も、そうなのか?」

 

「勿論、僕だってそうなる時はありますよ。だって、人間ですもん。ただ…」

 

真名人はそこで一旦言葉を止め、右手で拳を作ってそのまま自身の左手の掌に軽く打ちつけた。

 

「僕はこれを使って…すごく嫌な気持ちになりました。こうなる前に何で分かり合えなかったんだろうって…もっと、もっと出来ることがあったはずなのに…!」

 

真名人は悲しそうに肩を震わせて何かに耐えていることしか出来なかった。誰にも打ち明けられずに抱え込んだ何かは彼の心を蝕み続ける…表面上ではそんな苦しみを微塵も感じさせないように振る舞う真名人。

 

「…な〜んて言ってみたりして。だからボーデヴィッヒさんことはなんとも。好きとも嫌いとも…ただ折角のペア行動、気不味くなりたくないだけですよ。意外とつまらない理由でしょう?」

 

「……そうだな。だがもういい、やはり私の思い違いだったようだ。少し話し過ぎたか……試合が始まったら奴等の相手は私がする。貴様は余計な真似するな」

 

ラウラは一応の納得をした様子でそのまま待機所から出て行ってしまった。何かまずったかと反省する真名人だったが、今はそれよりも“ナナシに乗る決意”を固めることが先決だった。

 

「結局あれからナナシに組み込まれてたシステムの解析、思うように進まなかったんだよなぁ。でも啖呵切った手前、今更出場を辞退するわけにもいかないし…僕がやるしかない、よね?」

 

そう言って首元に装着している待機状態のナナシに右手を添える。すると微かに光を放つナナシ……まるで真名人の問いかけに呼応するかのように。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「のほほんさん、こっちこっち〜っ!早く来ないと試合始まっちゃうよ〜っ!」

 

「はぁ、はぁ…ま、待ってよぉ〜!」

 

クラスメイトに誘導されて慌ててアリーナ内の観客席へパタパタと小走りする本音。無事に席に座れたものの肩で息をするのはきっと彼女の“身体的特徴”に由来すると思われる。

 

「はふぅ……みんな足速いよぉ〜!?何でぇ〜?」

 

「何でって、そりゃあ…ねぇ?」

 

「うん…多分、原因はアレだと思う」

 

「?」

 

本音の問いかけに対してその場にいたクラスメイトの視線が本音のある一部に注がれる。当の本人は全く理解が追いついていないようだが…そんな場面に少し遅れてやってきた清香・ナギ・癒子の三人が会話に参加する。

 

「あれー、どしたの?みんなして本音のこと見つめちゃって」

 

「本音ちゃん、また何か悪戯しちゃったの?」

 

「してないよぉ!もぉ〜、失礼しちゃうなぁ〜!」

 

清香と癒子に揶揄われて少しだけ不貞腐れる本音。ぷりぷり怒って見せる本音だがその様子は同世代のクラスメイトの目から見てもかなり幼く映り、彼女が苦言を呈する間にも頭を撫でられたり頬をさすられたり後ろから抱っこされたりと真名人とは別の意味でマスコット的扱いを受けていた。ひとしきり本音を弄って愉しんだ清香達は直前までの話題を掘り起こすことに。

 

「それで、何の話してたの?随分と真剣な感じだったけど」

 

「あっ、うん。それなんだけど…」

 

クラスメイトの一人が清香達が来る直前まで話していたことを伝える。それを聞いた清香は何か思いついたのか、いやらしい笑みを浮かべながら突然背後から本音の胸を鷲掴みし始めた。

 

「そんなの簡単でしょ!このデッカいおっぱいが原因に決まっておろうがぁ〜!この感じはF…いやGはあるかも!?何食べたらこんなに大っきくなるのかなぁ〜?」

 

「ひゃあああっ!?な、何するのぉ〜!?そ、そんなに激しく揉まないでぇ〜!?」

 

「うわぁ…近くで見るとすごい迫力!制服越しでも分かるくらい大きいね、ナギちゃん」

 

「うん、そうだね癒子ちゃん。ちょっとでいいから分けて欲しいくらいだよぉ…ズルいもん」

 

清香にその幼い見た目に不相応なほどたわわに実った豊満な胸を揉みしだかれ、それを近くで見ていたナギと癒子、クラスメイトに見守られる本音。ある意味では一夏と真名人が絡まないと彼女がイジられるのは通常営業ではあるのだが。

 

「とまぁ、本音弄りはこのくらいにして。いやぁ〜、まさか我らが一組の男子達が一回戦で激突とはねぇ…みんなはどっちが勝つと思う?」

 

「うーん、そうだなぁ…やっぱり織斑君とデュノア君ペアかな!希望的観測も込めて…上月君には悪いけど」

 

「そうだねぇ。それにボーデヴィッヒさんがペアじゃ連携取れないと思うし…上月君が可哀想だけどね」

 

「一組が誇る美男子コンビが勝〜つ!」

 

「……こーちんが勝つもん、絶対」

 

「うんうん。分かったから仔犬みたいな目で訴えないでね〜、本音ちゃん。よしよし〜♪」

 

「う〜っ!」

 

大多数が一夏・シャルルペアを推す中で唯一真名人の勝利を進言する本音…あまりのアウェー感に普段のマイペースぶりがすっかり消え失せて今にも消え入りそうなか細い声&若干涙目になりながら訴える始末。それを見たクラスメイトにまた頭を撫でられるという負の連鎖、彼女は何処か不満気だ。

 

「ありゃ、のほほんさんご機嫌斜め?あっ、頭なでなではやっぱり上月君の方が良いよね〜」

 

「そうなんだ?あれ、でものほほんさんってよく織斑君に抱きついてるから、てっきり織斑君推しなのかなって…」

 

「うんうん、不思議と上月君にそういうのしてるところは見たことないかも。何で?」

 

「っ!そ、それはその……と、とにかくそんなの一回もしてもらったことないも〜ん!?子どもじゃないんだからぁ!!」

 

煽られて危うく自爆しそうになる本音。彼女を弄って楽しんでいるクラスメイトに対してもはや不信感しか募らないようで、まるで猫の威嚇のようにフシャーッ!と可愛らしく(本人は至って真面目)怒って見せていた。

 

「あ、あはは…あっ!ほら、織斑君達がアリーナ内に出てきたよ。試合、もうすぐ始まるみたいだね………頑張って、上月君っ」

 

その様子を横で見ていたナギが苦笑しながら一夏達の登場を知らせる。そして、自分以外の誰にも聞かれない程の声量で小さく真名人を応援する…どうやら彼女もまた真名人の勝利を願う数少ない人物の内の一人らしい。

そんな彼女達の声援を受け、四機のISがアリーナ内へ颯爽と舞い降りる。しかし…。

 

「………」

 

過去の稼働時と同様、明らかに無機質と思えるほど静寂を保っているナナシの姿があった。やはりナナシの中枢システムの解析は上手くいかなかったのか、真名人の意識はどうなったのか。そんな一抹の不安を本人以外が感じ取れるはずもなく、無情にも試合開始のブザーが鳴り響いたのだった。

 




本日の一言

「はぁ!?何で真名人とあのドイツ女がペアなのよ!!んもぉおおおっ!?」

「鈴さん、はしたないですわよ?恐らく山田先生が仰っていた抽選の結果なのでしょう。真名人さんを責めちゃ可哀想ですわ」

「うっ…わ、分かってるわよ!甲龍さえ動かせればあんな奴ボッコボコにしてやるのに…」

「今回ばかりは仕方ありませんわね。例えペアを組めたとしても、手負いの機体とパイロットじゃ真名人さんに迷惑を掛けるだけですもの……ひっじょ〜に悔しいですけどっ!」

「あんたもか……しゃーないわねっ。怪我人のあたし等にできることと言えば応援以外ないか」

「そうですわ、そうですわっ!ここまで来たら我がオルコット家の名に恥じぬエールを見せて差し上げましょう!それで、鈴さんはどちらのチームを応援しますの?」

「えっ?そりゃ勿論一夏……って言いたいとこだけど、それじゃ真名人が拗ねるからね〜。元ルームメイトのよしみで応援してあげないこともないかな」

「…ちょっとお待ちになって下さいまし。真名人さんが…拗ねる、ですって?それどういうことですの?」

「どうって……そっか、あんた達ってあいつのそういうとこ知らないのよね。意外と可愛いとこあるわよ、小っちゃいお子様みたいで」

「ぐ、ぐぬぬ…っ!う、羨まし過ぎますわ!!やはり今の部屋割りに抗議致しますっ!早急に!」

「でも、あたし達の部屋割り決めてるのって千冬さんよ?あんたが突っ込んだとこでそっこー玉砕されるだけ。命を粗末にするもんじゃあないわよ」

「……そ、そうですわね。何も策を練らないと返り討ちに遭うことは目に見えてますわ。どうにかして織斑先生の弱みを握らなくてはいけませんわね」

「あんたって結構な野心家ね…あの千冬さんを相手取ろうなんて。ほら、そんなこと言ってないで両方応援するわよっ!」

「うぅ〜、仕方ありませんわぁ…」

「あんた達〜っ!気合い入れなさいよ〜っ!!」

「頑張って下さいまし〜っ!!」

by 凰 鈴音&セシリア・オルコット
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