ACEを目指す未熟者   作:自由の魔弾

18 / 20
学年別トーナメント後です。どんなに美談でもやっぱり責任を取らなきゃ良くないなぁと思った次第です。彼だけはフィクションの世界の住人じゃなかったんですねー。


ACE 18 罪の重さ

学年別トーナメントが中止となり、それに付随して学園内に蔓延っていた“優勝したら男性操縦者(例に漏れず真名人以外の)と付き合える”という根も葉もない噂話も自然消滅した翌日、いつもと変わらない一日が始まろうかという今日この頃……何やら一年一組の教室内が騒ついていた。その原因はあの突飛な噂話が無効になったこと等どうでもよくなるくらいの横槍が入ったからだった。

 

「……え〜、今日は皆さんにお伝えすることがありまして………えっと、実はもう既に知っていると言いますか…何日も一緒に過ごしたので今更紹介することも無意味なんじゃないかとか色々あるとは思いますけど……と、とりあえず自己紹介して下さい…っ」

 

朝のHRにて拙い説明をする真耶、そしてその真耶に促されたのは長い金髪を後ろで結んだ中性的な顔立ち…しかし胸元には確かな膨らみが存在し、制服も女子用のスカートをやや短めに着用している。更には素足にスニーカーという妙に肌の露出度が高い着こなし…ムダ毛なんか一本も無い艶やかな生脚が際立つその女生徒は、にこやかに笑みを浮かべながら自己紹介をした。

 

「シャルル・デュノア改め“シャルロット・デュノア”です。皆さん、改めてよろしくお願いしますっ」

 

姿勢良くペコリとお辞儀をしてみせる元シャルル。それを受けて絶句する一組の女生徒一同……“お前、男とちゃうんかい…漢とちゃうんかい!?”という心の声が今にも現実となって襲いかかってきそうだ。しかし意外にも一夏にはその反応が認められず、ただただ冷や汗をかくばかりだ。

 

「えぇ〜っと、デュノア君はデュノアさんだった…ということで。とりあえず織斑君は後でまた部屋割りを変える必要がありますね…はぁ〜」

 

やや虚な目でそう口にする真耶。表向きは寮長である千冬が部屋割り等を決めなくてはならないのだが、比較するまでもなく穏やかで押しに弱い且つ千冬との距離が近い真耶に要望を伝える生徒が殆どだ。だったら千冬に僅かな望みを賭けるより圧倒的に希望が通るであろう真耶にお願いしに行く生徒でごった返す日々がまた始まろうとしているのかと心労絶えない真耶であった。しかし、そんな思いも女生徒達の話し声によって見る影もなくかき消されてしまった。

 

「えっ、結局デュノア君って女の子だったの?」

 

「じゃあ美少年じゃなくて美少女だったんだ!」

 

「デュノア君と織斑君って同じ部屋だったから、流石に気づかないってことあるかなぁ?」

 

「っていうか、昨日って男子だけで大浴場使ったんじゃなかったっけ?ということは……一緒にお風呂入ったのかなぁ!?」

 

「こ、混浴…!まさか今日上月君がいないのもそれが理由?でも、それだけで休むわけないよねぇ〜」

 

女生徒達がいつにも増して鋭い推理を展開していく中、それらを間に受けたであろう箒・セシリア・二組から聞きつけた鈴が一夏に詰め寄る。

 

「ど、どういうことだ一夏!?お、お前はデュノアが女と知ってて何食わぬ顔で過ごしていたというのか!?」

 

「箒!?ちょ、落ち着けって!頼むから竹刀しまってくれぇ!?」

 

「一夏さん…そんなふしだらな趣味をお持ちだったなんて、見損ないましたわ!シャルルさんの弱みを握って無理矢理言うことを聞かせていたなんて…」

 

「セ、セシリア…?話、飛躍し過ぎだぞ?た、確かに途中から知ってはいたけどそんな悪どいこと、俺は断じてやってな…うわぁ!?」

 

「一夏……コロス」

 

「り、鈴!?IS使うのは反則だろっ!?てか、本当にまずいって……うわぁああああっ!!?」

 

有無を言わさない勢いで甲龍を展開した鈴が一夏に襲いかかる。咄嗟のことで白式を展開する判断すらままならない一夏はその拳をモロに受ける………ことはなかった。何故なら一組の教室内に遅れて入ってきたであろう人物によって鈴の動きの一切が封じられていたからだ。

 

「……あれ?俺、無傷のままだ。鈴、これってどういうことなんだ?」

 

「あ、あたしにも分かんないわよっ!一夏をぶん殴ってやろうって思ったのにいきなり身体が動かなくなって…って、まさか!」

 

全く状況を把握出来ていない一夏に対して、何か心当たりがある様子の鈴。その答えは鈴の背後で佇んでいる当人から直々に語られた。

 

「全く…騒々しい奴等だな。早朝から盛っている雌犬どもが」

 

『ラウラ・ボーデヴィッヒ!?』

 

その人物の正体は一夏を毛嫌いしているはずのラウラだった。どういうわけかラウラはシュヴァルツェア・レーゲンのAICを使って鈴の動きを封じ、一夏を窮地から救ったのだ。果たしてそれにはどんな意図があるのだというのか。

 

「おい、そこのお前。殴るのは構わないが平手で済ませろ。一々停止結界を使うのも面倒だからな。理解したのならさっさと自分のクラスに帰れ」

 

「っ!わ、分かってるわよっ!あーもう、しらけちゃった。悪かったわね、一夏。でも、後でちゃんと説明してもらうからねっ!」

 

ラウラの停止結界から解放された鈴はISを解除し、捨て台詞を吐いて二組へ戻って行った。それと入れ違いで入ってきた千冬が騒動の予感を感じとった様子だ。

 

「朝から騒がしいな。まぁ、大方織斑が何か禄でもないことをしでかしたのだろうが」

 

「決めつけが酷ぇな…まぁ、間違ってはないけどさ。あぁ、それと……ありがとな。その、助けてくれて」

 

「…フンッ、礼には及ばない。それとだな…この前は、悪かったな。いきなり殴ったりして」

 

突然のラウラの謝罪に千冬と一夏以外が呆然となる。転入してきて以来、その威圧感から何処かとっつきにくい雰囲気を醸し出していたラウラが自分から一夏に謝罪するとは誰もが予想だにしていなかった。しかし、何故か一夏は落ち着き払っていた。

 

「あぁ、そんなのもう気にしてねぇよ。寧ろ殴りたくなる気持ちが分かるってか…俺にも良くない所はあったし、とにかくこの話はもうこれっきりだからな?」

 

「ふっ…了解した。今後は良好な関係を築けるよう善処しよう」

 

お互いに微笑みながら関係の修繕を誓う一夏とラウラ。一同が呆気に取られている中、千冬が切り出した。

 

「話は一段落ついたようだな。だったらさっさと席に着け。まだHRは終わっていないだろう」

 

「皆さ〜ん、出席確認しますので返事して下さいね〜」

 

千冬と真耶に促されて慌ただしく自分の席に座る一夏達。やがて全員が席に戻ったと思われたが、やはり一つだけ空席なのが目立つ。そして、堪らずその隣の人物が質問した。

 

「織斑先生〜。今日はこーちん、お休み〜?」

 

いつも通り間延びした口調で千冬に質問した本音。一瞬脱力しそうになる千冬だったが、普段から真名人に対して執拗に絡んでいるはずの本音が把握していないことに違和感を覚えた。

 

「上月か…。いや、私のところには特に連絡は無いが……山田先生は?」

 

「いえ…私も何も聞いていませんねぇ。HRが終わった後、直接聞きに行ってみましょうか?もしかしたら具合が悪くて連絡出来ないだけかもしれませんし」

 

真耶の提案に乗ることも考えた千冬だったが、彼女にも何か考えがあるようだ。

 

「……いや、私が行きましょう。山田先生は授業をお願いします(昨日報告を受けるまでは特に異常は無かったはずだ…だとしたら原因はその後か?)」

 

「えっ!は、はい…それは、別に構いませんけど…(わ、私が行きたかったのに〜!先輩押し付けましたね〜!?)」

 

「ぶ〜!こーちんがいないとつまんな〜い…(こーちん…大丈夫かなぁ?ショック受けてなければいいんだけど…)」

 

それぞれの思惑が図らずとも交錯するなんてことはなく、独自の解釈を経て思い思いの軌道を描く。その結果、誰とも被らない着地点へ…完全なる身勝手である。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

ピピピピッ、ピピピピッ……ピピピピピピピピッ!!

 

「……五月蝿い」

 

昨夜セットしておいた枕元の置き時計のアラームがけたたましく鳴り響く。もう何度目の応酬かと嫌になる程鳴っては止め、鳴っては止めてを繰り返していた真名人。布団の中から腕を伸ばしてアラームを止め、視線をその時計が指し示す時刻へと見やる。既に始業時間は過ぎており今からどう急いでも間に合うわけもなく、しかしこのまま気怠さに任せて怠惰に過ごしていても仕方がないので遅ればせながら意識を覚醒させることにした。

 

「……学校、サボっちゃったな」

 

ゆっくりと身体を起こす真名人、しかしその表情は何処か曇っていて目元には薄ら隈が確認できる。寝不足・疲労・ストレス…原因は色々考えられるが、もはやそれら全てが真名人に降りかかっているとしか考えられなかった。一体何がここまで真名人を追い込んだのか?

くきゅぅぅ〜…。

 

「…お腹、空いたな。遅いけど…食堂に行こう」

 

どんよりとした現状を変えるべく一応制服に着替える真名人。同じ寮内の食堂に行くだけだが寝巻きや私服のようなラフな格好で彷徨く訳にもいかないので、上着は着用せず中のシャツのみで部屋を後にする。

普段は女生徒達の賑わいが感じられる寮内の廊下も始業時間中となれば人っ子一人居ない静かな雰囲気もある意味新鮮に感じられる。自分の足音だけが響く廊下…心を鎮めるには十分だった。

そして誰とも会うことなく食堂に到着した真名人を見て、調理・配膳を担当している女性が小さく驚きの声を上げた。

 

「あれっ?誰かと思ったら真名人君じゃないの!珍しいわね〜、こんな時間に……サボり?」

 

「…どうも。まぁ…そんなところです。色々あって、気分が乗らないと言いますか…けれども腹の虫は騒ぐもので」

 

申し訳なさそうに俯く真名人に対して、微笑ましく笑みを浮かべながら頷く女性。

 

「うんうん、あるよねぇ〜そういう時って。分かった!おばちゃん居ないから流石にフルコースって訳にはいかないけど、あるもので何か作ってあげるっ。出来たら呼ぶから席に座って待っててよ」

 

そう言って厨房奥に消えていく女性。普段食堂の料理を振る舞っている和洋中その他諸々何でもござれの“パーフェクト・シェフ”ことおばちゃんが不在の為、補助手伝い的な役割の自称“スーパーサブ”こと女性が食事を用意してくれるらしい。

真名人は食堂の奥まった席に腰掛けると、ふと溜め息が漏れ出てしまう。昨日自分の身に起こったこと全てを振り返ると様々な感情が巡り、その結果がこの深い溜め息である。せめてもの救いは今この場に誰もいないことなのだが…。

 

「はあぁぁ……こんな状態じゃ、誰にも顔向け出来ないや「そーね、確かに酷い顔。折角の可愛い顔が台無し♪」へっ…?あ、あなたは…!」

 

自分を見つめ直す真名人だったが、ふと目の前から声が聞こえて思わず視線を見やる。すると、いつの間にかいつぞやの“妖精”こと楯無が真名人に向かって微笑みながら対面の席に座っていた。その様子はまさに神出鬼没、妖精だからこそ成せる技なのか?

 

「んもぅ、駄目じゃない。ちゃんと制服の上着も着ないと。校則に書いてあったでしょ?もしかして…不良になっちゃったとか!?あ〜!だとしたらお姉さんショック〜!?」

 

「……やめて下さいよ、そんな見え見えの嘘。微塵も思ってないでしょう?」

 

「…てへっ♡バレた?」

 

真名人に冷静にツッコまれ舌を出してあざとく誤魔化す楯無。シャルロットが以前真名人の部屋を訪れて以降、全く姿を見せなかった楯無だがこのタイミングで現れた意図は何なのか…そればかりが気掛かりな真名人だった。

 

「それよりも久しぶり…ですよね。暫く見かけませんでしたけど、元気してましたか?」

 

「んー?まぁね〜。真名人君の方は…かなりグロッキー状態みたいね。そんなにショックだったの?シャルル君が……いや、シャルロットちゃんが女の子だったことが」

 

何の脈絡もなく真名人の胸中を見破った楯無。真名人も顔に出してはいなかったが、内心驚くばかりだった。

 

「だからあの時言ったじゃない。女の子みたいねって…本当は真名人君も気づいてたんでしょ?それともわざと気づかないふりしてたの?」

 

「………」

 

楯無の追及に黙り込む真名人。しかし、楯無の追及はそれだけでは終わらなかった。

 

「まぁ、それはいいんだけどね。それより……昨日デュノア社に謎のデータが送信されたらしいの。聞いたところによればそれはISの専用機のデータなんですって。真名人君……まさかとは思うけど君、シャルロットちゃんにデータ渡してないでしょうね?」

 

楯無の凍てつくような冷ややかな眼差しが真名人を追い込む。初めて見るその迫力に圧倒されそうになる真名人、しかし憮然とした態度で言い放つ。

 

「…ナナシのデータは、僕が直接デュノア社の社長に受け渡しました。シャルル君……シャルロットさんは連絡を取り次いでくれただけに過ぎません」

 

「う〜ん…それがそういう訳にもいかないのよねぇ。専用機は特に情報の開示を制限されてるから自国以外に流出させるなんて以ての外。真名人君の場合は軍の管理だから特に権利問題が発生するし…真名人君、あなた自分のしたことの重大さが分かってるのかしら?」

 

「……もう、どうでもいいですよ。なんならここに居られられなくなった方がかえって気が楽かもしれませ」

 

真名人が自暴自棄気味にそう口にした瞬間、乾いた音と衝撃が頬を襲う。突然の出来事に反応が遅れたが状況を把握すると、真名人の左頬を楯無が平手打ちしたのだ。その表情は怒り・悲しみ・そして真名人を思いやる感情が入り混じった…そんな様子だった。そこに普段の飄々とした楯無の姿は無い。

 

「真名人君…巫山戯るのもいい加減にしなさい。あなたのその軽はずみな行動がどれだけの人に迷惑をかけてるか分からないの?これはもうあなたやシャルロットちゃんだけの問題じゃない。担任の織斑先生や副担任の山田先生、同じクラスの子達や他の生徒や先生方…ひいては学園そのものに影響を及ぼしかねないの。このことは誰かに報告した?」

 

「……エリスさんには報告しましたよ。織斑先生にはまだ言えてませんけど」

 

「そっか……それで彼女は何て?」

 

「“何で勝手にそんなことしたの!?”とか“ナナシの情報は外部に流出させないようにって約束したよね!?”とか結構な時間責められましたよ。でも最終的には“真名人が信じてやったことなら私も信じるよ……だから一緒に怒られてあげるね”って」

 

「あの娘…あの手この手で好感度上げに来たわね。侮れないわね、あの金髪娘…」

 

何故か恨めしそうにそう口にする楯無。彼女の脳内には飴と鞭を器用に使いこなすエリスの姿が浮かんでいるのだろうか。

 

「まぁ、要するに色々な人達に迷惑がかかるってこと。例え良かれと思ってしたことでもね。今回は事情が事情なだけに不問って訳にはいかないけど、悪いようにはしないつもりよ。真名人君のことは絶対に私が守ってあげるからね♪」

 

「…それは有り難いですけど、だからって頭撫でないで下さいよ」

 

「え〜、何でぇ?弱ってる真名人君も可愛いじゃ〜ん♡うりうり〜♪」

 

いつの間にか普段のお気楽な楯無に戻っていたらしく、真名人の頭に手伸ばして愛でるように髪を撫でる。戸惑う真名人を気にせず満面の笑みを浮かべる楯無は先程までの冷徹な一面を一切感じさせないほど自由だった。明るく振る舞う彼女と容赦なく追い込んでくる彼女…どちらが本当の楯無なのか?真名人の中で楯無という人物像が二転三転していくのだった……未だに妖精ということは信じて疑わないのだが。

 

「真名人君……さっきから誰と話してるんだろ〜?料理冷めちゃうよぉ…」

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

数日後、深夜の寮長室にて千冬は書類の確認作業に追われていた。実際には週明けに迫った臨海学校についてまとめた資料のチェックなのだが、その殆どが真耶によって完璧過ぎるくらいに簡潔にまとめられており、実質暇潰し程度の作業量でしかなかった。優秀な後輩を持って先輩冥利に尽きるとはこのことであろう。

 

「さて…つまらん書類との睨めっこもこれくらいにしておくか。どうせ真耶のことだ、二重三重にチェック済みのはずだろう……そういえば今日までだったか?上月の謹慎期間は」

 

千冬はふと学年別トーナメント後の真名人の動向について振り返る。今週は特に色々なことが立て続けに起きた為、記憶の整理の意味も込めて一緒に見て行こう。

 

「そもそも上月の謹慎の理由は何だったか……あぁ、デュノア社との一件か。全く、情に絆されて専用機の情報を渡すとは…まだまだガキだな」

 

学年別トーナメントの翌日、無断欠席をした真名人から事情を伺うべく彼の部屋に向かった千冬だったが、そこで何故か真名人と楯無が一緒のベッドで寝ているという現場に遭遇してしまう。まさか自分よりも先に教え子が大人の階段登っちゃうのかと危うく卒倒しそうになる千冬だったが、実際には真名人が寝ている所に楯無が無理矢理潜り込んだだけのようで真名人にその気は毛頭無かったのが唯一の救いだった。

 

「あぁ…あの時は本気で頭を抱えたぞ。更識の奴め、大人を揶揄うのも大概にさせねばな。確かその後だったな…上月から専用機のデータをデュノア社に渡したと聞いたのは」

 

真名人からシャルロットを通してデュノア社にナナシのデータを渡したことを知らされた千冬。一瞬流出源が真名人であることを隠蔽することも考えたが、楯無の説得により真名人の自供を認める手筈が整っていたことで一旦真名人を理由を伏せたまま謹慎処分にし、ナナシの所有権を持っている軍に連絡をとって真名人の処分を委ねた。当然ながら秘密保持契約が結ばれている以上、何らかの処分は免れないと覚悟していたが軍からの返答に千冬は驚きを隠せなかった。軍上層部の協議の結果、真名人の処分は“IS学園に一任する”の一文のみだったのだ。過去にドイツ軍に身を置いていたことがある千冬は軍の体制や規律の厳しさを知っている。知っているからこそ今回の決定は違和感の塊でしかなかった。

 

「何故上月の処分を我々に一任したんだ…?デュノア社に流出したデータに価値が無いのか、それともあまり探られたくない“何か”があるのか。いずれにせよ大ごとになる前に幕引きとしたい魂胆は見え見えだがな」

 

軍から真名人の処分を一任されたことでIS学園が下した決断、それは一週間の謹慎処分だった。しかし楯無の温情によってそれらの事柄は表向きに公表されることはなく、あくまで療養という形での処分となった。それに加えて性別を偽って転入し、更にはこの件に関わったであろうシャルロット・デュノアの処分についてもデュノア社からの圧力によって強制されていたことを考慮し、情状酌量の観点から無罪放免という決定がなされた。かなり無理矢理な決定だがそれら全ての犯行はシャルル・デュノアが行ったもので、シャルロット・デュノアは全く関係ないという真名人の持論を突き通した結果である。とんちが効くというか屁理屈というか…自分の身を第一に考えるべきだというのに。

しかし、千冬が懸念している事案はそれだけではなかった。

 

「ラウラのVTシステムについても気になるな。わざわざ条約で禁止されているものを搭載する意味が分からん。それにそれが露見したとてドイツにメリットは無いはずだ……まさか試験的にデータを取るのが目的か?いや、考え過ぎか……それに真相は既に闇の中だろうしな」

 

千冬はやや乾いた口調でそう言いながら、幼馴染で親友の姿を思い浮かべる。その親友は学年別トーナメントが中止された翌日に突然千冬に連絡を寄越してきた。ずっと音信不通且つ行方不明だった親友が告げた内容、それは…ラウラのISに搭載されていたVTシステムを作成した研究所を潰したというものだった。突然の報告に千冬は上手く口が回らなかったのを思い出す。何故彼女がこんなにも早く事態を察知し行動出来たのか…彼女曰く“ちーちゃんの偽物とか許せないも〜ん!ミジンコ以下の脳みそしか持ってないくせにこの“世紀の大天才”こと束さんの逆鱗に触れるなんて百万年早いのだ〜!ワッハッハ〜ッ!”とのことらしい。言ってることの意味は理解し難いのだが、身内に関係することだけは手早く動くらしい。例え世界的に追われる立場になっている今でも…そんなことを考えていると、突然部屋の扉がノックされた。時間は既に午前零時を回っている…そんな時間に訪ねてくるとは?

 

「鍵は開いている、入って構わない」

 

千冬は部屋の中から呼びかける。すると静かに部屋の扉が開き、訪ねてきた人物が姿を見せる。 

 

「…失礼します。あの、こんな遅くにすみません」

 

「上月…何の用だ?とっくに消灯時間は過ぎているはずだが」

 

千冬の部屋を訪ねたのは真名人だった。生徒は消灯時間を過ぎたら部屋から出てはいけない規則なのだが、それを破ってでもここへ来た理由は何だろうか?

 

「それは、分かってます。後で処分も受けるつもりです。ただ…織斑先生にちゃんとお礼を言っておきたくて、謹慎が解けたら真っ先に向かうつもりだったんです」

 

「礼、だと…?」

 

申し訳なさそうに話を切り出す真名人。彼が言う礼とは何なのか、千冬には皆目見当もつかなかった。

 

「はい…あの、シャルル君…シャルロットさんのこと、守ってくれて。聞きました…先生達との会議で織斑先生が彼女を庇ってくれたって」

 

「…そのことか。別に礼を言われるようなことじゃない。実際デュノア社に強制されていたらしいからな。齢十五の小娘が刃向かえるはずもないだろうし、お前の助力もあって情状酌量は十分考慮出来る状況に持って行けたからな。その分だけ、お前一人に重荷を背負わせる羽目になってしまったがな」

 

「…いいんです、僕のことは。こんな形でしか誰かの役に立てないですから」

 

「まぁ立ち話も何だ…扉の前で突っ立ってないでこっちに来て座れ。いい加減見上げてて首が痛くなる」

 

「あっ…はい。失礼、します…」

 

渋々了承して千冬の対面に正座するもすぐに俯きがちに視線を逸らす真名人。元々活発な一面を見せない真名人だが、今はより一層暗く沈んでしまっているのが千冬にも伝わった。この謹慎中に自分のしたことの重大さを痛感しているのだろう。見かねた千冬はかねてから気になっていた真名人の犯行動機について尋ねた。

 

「…そういえばまだ聞いていなかったな、今回の一件の動機。デュノアを助ける理由は無かったはずだろう?」

 

「それは…」

 

そこで何故か言葉を詰まらせる真名人。しかし千冬の切れ味抜群の鋭い視線に気圧され、暫く考え込んだ後にその理由を打ち明けた。

 

「友達だと…思ったんです。だから、助けなきゃって……彼女も父親に逆らえなくて無理矢理手伝わされただけで……親に利用される辛さは、僕が一番理解してますから。そう思ったら居ても立っても居られなくなって、気づいた時にはデュノア社にナナシのデータを…」

 

「……そうか。だが、本当に友のことを思うのなら誰かに相談するべきだ。短絡的に考え行動した結果、誰が幸せになった?デュノアがお前に感謝したか?楠木がお前を褒め称えたか?」

 

「っ!くっ…」

 

千冬の説教に真名人は苦虫を噛み潰したように顔を歪める。今回の件でシャルロットは真名人に対して感謝どころか責任を押し付けてしまった負い目を感じているし、エリスに至っては信頼してナナシを託してくれたことを裏切ってしまった。そして真名人自身も犯す必要の無い罪を背負い、事態の沈静化に伴い誰も得をしない結末を迎えてしまった。それを招いたのは他の誰でもない真名人自身であり、他所に責任を押し付けて良いものではない。それは真名人も理解しているのだが…。

 

「違うな。二人とも要らぬ負い目を背負わされ、そしてお前も…これが現実だ。だがあいつ等がお前を責めることは無いだろう。だからこそ心に刻め…“もう間違えるな”」

 

「織斑、先生……はい、僕はもう…うわっぷ!?な、何を…」

 

千冬の想いが込められた言葉を受けて再び俯きがちに顔を伏せる真名人だったが、そこですかさず真名人の頭に置かれる右手。困惑する真名人に対してその犯人は不敵に微笑みながら悪びれもせず答えた。

 

「おっと、すまんな。何、目の前にいかにも手が置きやすい手頃な頭があったものでな。ふむぅ…一夏やラウラとも感触が違うのか、不思議だな」

 

「あの、感想は要りませんので…手を退けて下さいよ。じゃないと帰れないですし、あと…恥ずかしい、ので」

 

そう言いながら千冬から視線を逸らす真名人。心なしか頬が紅潮していることから珍しく本気で恥ずかしがっているらしく、それが余計に千冬の悪戯心に火をつけてしまう。

 

「ほぉ…?何だ上月、柄にもなく恥ずかしがっているのか?ふふっ、随分と可愛いところもあるじゃないか。そんなに良かったならほれ、気の済むまで撫でてやるぞ?」

 

「ち、ちょっと…勘弁して下さいよ!?あの、もしかして酔ってます?」

 

今回の一件で恩義を感じている千冬に対してあまり強く出られない真名人。それに乗じて千冬のイジりが止まらない。

 

「馬鹿な…仮にも私は教師だぞ、シラフに決まっているだろうが。それとだな、この部屋から一歩でも出てみろ。その瞬間、私は寮長としてお前を処罰するからな」

 

「んなっ!?じゃあ…どうやって僕は部屋に戻れば?」

 

真名人の問いかけに千冬は少し考え込む素振りを見せ、ふと思い浮かんだことを何の気無しに口にした。

 

「そんなの…ここで寝泊まりすればいいだけの話だろう。別に私は気にしないぞ」

 

「……ふぁ!?そ、それは…その…っ!」

 

千冬の提案に困惑を通り越して硬直してしまった真名人。しかし、千冬はそんなことを気にせず一人でどんどん話を進めていく。

 

「そうだそうだ、今日はここに泊まって行け。寝る場所は自分で確保してくれよ、生徒と同衾するわけにもいかんからな……どうしても一緒に寝たいと泣いて懇願するなら考えてやってもいいが?」

 

「っ!え、遠慮しておきます…後が怖いので」

 

あくまで真面目に返す真名人だが、千冬は漸く軽口を叩けるくらいに調子を取り戻したと心の中で歓喜していた。

 

「ふっ…そうか。よしっ、私はこのままシャワーを浴びるとしよう。その間に寝床を確保するといい。あっ、ついでに部屋の掃除も頼む」

 

「えっ、いや何を勝手に…行っちゃった」

 

真名人の制止の声も気にせず、千冬は着替えを持ってシャワールームへ消えていった。室内に一人ポツンと残された真名人は深く溜め息一つ溢すと、沈んだ気持ちを切り替えるように自分の両頬を軽く叩いて喝を入れる。

 

「…今回ばかりは借りがあるし、大人しく従う他無いか。大丈夫、義姉さんの部屋だと思えば似たようなものだ。ブリュンヒルデの意外な一面…か。とりあえず床に散乱してる衣類をまとめよう…なるべく下着は見ないようにしなきゃ」

 

少年・上月 真名人は心を鬼にして世界最強と称される才色兼備な成人女性の汚部屋と戦う決意を固める。まさか千冬にこんなにも救いようの無いずぼらな一面があるなんて……人は見た目だけでは完全に理解出来ないことを改めて実感する真名人だった。

そして七月初頭、IS学園一年生一行は臨海学校へと繰り出す。そこで起こる最悪の事件、それが真名人自身に降りかかる悲劇のきっかけになるとは夢にも思わず…。

 

 

 




本日の一言

「臨海学校用の水着、新しいの買ってみたけど……うぅ〜!やっぱり恥ずかしいなぁ!?でも買ったからにはちゃんと見てもらいたいし、褒めてくれると良いんだけど…あ〜!僕はどうしたらいいんだろぉ!?」

「…一体何を騒いでいる?明日の臨海学校に向けて早く寝ようと言っていたのはシャルロットだろう」

「ラウラ…だ、だって!もし真名人に見せて可愛くないって言われたら…僕、立ち直れないよぉ…」

「ふむ……そういうものか。だが、私が知る限り奴はそこまで偏屈な見方はしていないはずだが?」

「わ、分かってるよぉ!だって真名人は僕を守ってくれたもんっ!だから僕は…」

「…?」

by シャルロット・デュノア&ラウラ・ボーデヴィッヒ
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