③シャルロット&ラウラ編
「おい、止まれ。上月 真名人…貴様に用がある」
セシリアとのたわいもない話を終えた真名人だったが、いざ別の場所に移ろうかというところでラウラに呼び止められた。彼の前で仁王立ちのまま立ちはだかるラウラは憮然とした態度で、その身に纏った黒のビキニ(フリルがあしらわれていて大人っぽいえっち〜奴)と長い銀髪を左右で結んだヘアースタイルで普段と違う雰囲気を醸し出していた。それだけで真名人は直感する。バスの中で千冬に言われた紳士の条件、そして鈴やセシリアのリアクションから察するに考え得る最適解を導き出した。
「……最高、です」
「何がだ?」
「えっと…水着とボーデヴィッヒさんが?」
「………。そうなのか?」
そして案の定繰り広げられるお互いに的を射ることのない問答。誰もが予想出来た展開であろうによりにもよってこの二人で行われるとは…。
「あの、それで僕に用とは…?」
「むっ、それはだな……どうだっ!私の水着姿を見た感想は。率直な意見をくれ」
「………。えっ、今までのやりとりは無視ですかっ!?僕、ちゃんと言いましたって!」
今までの会話の流れを完全にぶった斬るラウラのキラーパス。あまりにも予想外過ぎる返しに真名人の方が翻弄されてしまう。
「それは私とて分かっている!だがどうしても言質を取る必要があるのだ!でなければシャルロットが…」
シャルロットの名前を聞いた途端、一瞬身体が震える真名人。動揺が明らかに目に見えている。
「シャルロットさんがって…彼女に何かあったんですか!?」
「詳しくは話せないが、奴を救う為には貴様の協力が必要なのだ。奴の友人として要求を聞き入れてくれないか?」
ラウラの申し出に躊躇いを見せるも、腹を決め真っ向から挑む真名人だった。
「……分かりました。じゃあ改めて言いますから、ちゃんと録音なり何なりしておいて下さいね」
「心得た。よし…いつでも来い」
お互いに身構えるとラウラは何処からともなくボイスレコーダーを取り出し、真名人は深く息を吸った気持ちを落ち着かせる。そして、遂にその瞬間が訪れた。
「ボーデヴィッヒさん、貴女の水着姿…とても素敵です。女の子らしくて、凄く可愛い…と思い、ます……くっ、くくっ…ふぐぅ…!!」
あまりにもキザな台詞に言っている側から嗚咽を漏らす真名人。感想そのものは本心なのだがそれよりも自己嫌悪が彼を襲う。何が悲しくて同級生の女の子にせがまれて世の中の平均以下の見た目の男子が水着姿の感想を求められなきゃならないんだろう。はっきり言って…謎。その場に崩れ落ちて膝をつく真名人の肩にそっとラウラの手が置かれる。顔を上げるとそこには少しだけ柔和な笑みを浮かべたラウラの端正な顔が…。
「協力、感謝する。これで漸く奴を引き摺り出せる……どうせ近くで見ているのだろう?上月 真名人は約束を果たした。次は貴様の番だぞっ!」
ラウラが何処かは向かって声高らかに宣言する。すると、近くの小屋の陰から妙にドギマギしながら顔だけを覗かせる人物がいた。
「も、もぉ〜!ラウラってば大声で叫ばないでよっ!恥ずかしいじゃん!?」
「フンッ…だが、賭けは私の勝ちのようだな。シャルロットの予想に反して見事に“可愛い”と言わせて見せたぞ!」
ラウラはそう言って持っていたボイスレコーダーをシャルロットに投げ渡す。それを受け取ったシャルロットは録音した音声を耳元で聞いて確認すると、嬉しさと恥ずかしさと恨めしさが入り混じったような表情を浮かべていた。
「うわぁ…!ほ、本当に言ってる〜!?でもぉ…ちょっと褒め過ぎだよぉ。真名人って女の子相手なら誰にでもこんなこと言うの?だとしたら、ちょっとだけ幻滅しちゃうなっ」
「……あの、これどういうことですか?状況が全然読めないんですが」
二人だけで話が盛り上がっているところで漸く口を開いた真名人。しかし、心なしか口調が刺々しく雰囲気も重苦しい。
「あぁ、私とシャルロットで賭けをしていたのだ。シャルロットがどうしても貴様に水着姿を見せたくないと言い出してな。散々話し合った結果、貴様に私の水着姿を見せて可愛いと言わせたら私の勝ちという勝負だったのだ。…さぁ、シャルロットよ。敗者は勝者の言うことに従うんだったなぁ?」
「っ!くぅ…わ、分かったよぉ〜………えいっ!」
ラウラに煽られて悔しさ半分、恥ずかしさ半分の心情のまま真名人の前に現れ出るシャルロット。その身体は確かに女性らしい柔らかな体躯で、更にオレンジのビキニが彼女の女性らしさを際立たせて一層輝きを放っていた。
「あぅ〜…や、やっぱり恥ずかしいよぉ……ラウラ、ねっ?もういいでしょ?」
「駄目だ。上月 真名人に水着姿を見せた上で感想を貰うというところまでがセットだと最初に言ったはずだ。ほれ、自分の口で言ってみるんだ」
「ら、ラウラの意地悪〜っ!!」
恥ずかしさのあまりラウラに助けを求めるシャルロットだったが、見事に玉砕され窮地に立たされてしまう。その間ずっと恥ずかしさを誤魔化す為なのか胸の前で隠すように腕を組んでみたり、若干へっぴり腰だったりと男子時代の気品あふれる姿は見る影もなく、只々年頃の女の子な彼女が存在するだけだった。そんなシャルロットにとって生き地獄のような時間を終わらせたかったのか、何とか意を決して真名人に水着の感想を求めた。
「あ、あの……ど、どうかな?僕の水着姿……へ、変じゃないかな?」
真っ赤な顔のまま視線だけ真名人の方に向けて問いかけるシャルロット。その恥じらう姿は大多数の男性を魅了するには十分過ぎる代物だろう……唯一、真名人を除いては。
「……変じゃないですよ。とても可愛らしいと思いますし、似合ってるでしょう」
「ほ、本当…?嘘ついてない?えへっ、えへへ♪そう言ってもらえるなんて嬉しいなぁ♡」
真名人から褒められたことがよっぽど嬉しかったのか、頬に手を当て身体をくねくねさせるシャルロット。それを見て何故かラウラも誇らしげな様子だ。
「シャルロットさん、少し時間を頂けませんか?二、三言話したいことがあります。出来れば二人きりで」
すると、突然真名人から誘われるシャルロット。当然、答えはYESだ。
「ぼ、僕と…二人っきりで!?う、うんっ!全然良いよぉ!」
若干興奮気味で即答するシャルロット。それを受けて真名人はラウラに対して断りを入れた。
「では、場所を変えましょう。ボーデヴィッヒさん、少しの間シャルロットさんをお借りしますね」
「むっ…あぁ、私は構わないが」
一瞬、返答に遅れたラウラだったが無事に了承を得たことで真名人とシャルロットは少し離れた岩場の陰に消えていった。その後、漸く口を開いたラウラは異様な胸騒ぎを感じたのだった。
「…何だ、あの上月 真名人の瞳は?まるで奴自身ですらない何かが飼われている感覚すら覚える。それに奴のIS、以前何処かで見たことがあるのか?一度調査してみる必要があるか………もしもし、クラリッサか?私だ、ラウラ・ボーデヴィッヒだ。先日の水着の件、非常に助かった。的確な情報提供により対象に好印象を与えることが出来た。それとは別に至急追加で調べて貰いたいのだが……そうだ、上月 真名人のISの映像を送る。軍のデータベースと照合し、何か手掛かりがあれば報告してくれ。うむ…無理を言って済まない。ではな……上月 真名人、やはり貴様は…いや、私の考え過ぎか」
ISのコア・ネットワークを介して所属する部隊の部下に連絡を取るラウラ。どうやら彼女には真名人達ですら知らないナナシについての“何か”の心当たりがあるようだが…。
一方で、少し先を歩く真名人の後ろをついて行くシャルロット。当初の目的である水着を誉めて貰えたので内心舞い上がっているが、それよりもさっきからずっと無言のまま歩みを続ける真名人の態度が気掛かりだった。
「(真名人…何を話してくれるのかな?わざわざラウラに断って、僕と二人っきりに………はっ!ま、まさか……こ、告白?ヒエェェエエッ!?そ、そそそそれはき、ききき急展開過ぎるんじゃないかなぁ!?でも……もしそうなら、こんなに幸せなことって無いよ!彼女、か…真名人はどう思ってるのかな?さっきからずっと黙ってるけど…)」
そんなシャルロットの不安も決して的外れではなく、さっきから一度もシャルロットの方を振り返ることなくひたすらに歩くのを止めない真名人の様子は側から見ても明らかに異常だった。そして近くに人が居ないことを確認すると立ち止まって深呼吸をした後、真名人は神妙な面持ちで話し始めた。
「…さてと、もうこの辺でいいでしょう。こんなところまで連れ出してすみません。あまり人には聞かれたくない話なので」
「(来たっ!やっぱりこれって…そういうことだよねっ!?)う、うん…。な、なんか緊張しちゃうな… 何を話してくれるんだろ〜」
人目を気にする話と聞いて、より一層期待感を抱くシャルロット。こんなにも思い描いた通りの展開で良いんだろうかと心躍らせる彼女だが、真名人から告げられた一言によって凍りついてしまうことになる。
「単刀直入に言います……“二度と僕に関わらないで下さい”」
④箒編
「はぁ…私は何をやっているんだ。土壇場で逃げ出してしまうとは、我ながら情けないぞっ!このままではいつまで経っても……んっ?あそこにいるのは…」
砂浜から少し離れた小高い崖の上で一人反省するように体育座りで小さくまとまっていた箒。ふと視線を下方に向けると何かを話している真名人とシャルロットの姿があった。遠くから見ているだけでは何を話しているのかは皆目見当もつかないのだが、真名人に何かを言われて困惑するシャルロットの様子を見れば明らかにおかしいことは分かる。側から見れば別れを告げられた恋人のようにも見えるが、生憎二人に浮いた話は一度だって上がったことはない。
暫くしてシャルロットの元を離れる真名人。その際に一瞬だけ真名人の視線がかち合った気配を感じて、急いで覗き込んでいた身体ごと引っ込める箒。まさかあの距離で気づかれた…?そう考えていると少し経ってから当人が現れた。
「……やっぱり、誰かに見られてるかもって思ったんですよ。まさか篠ノ之さんだったとは」
「うっ…す、すまん。決して盗み見るつもりはなかったのだが…。その…差し支えなければ、何があったのか話してくれないか?」
珍しく箒の方から真名人に話を持ちかける。それが功を奏したのか普段あまり自分のことを話したがらない真名人が少し距離を空けて箒の横に座り、そのままぽつりぽつりと話し始めた。
「篠ノ之さんが気にかけてくれるなんて珍しいですね。まぁ確かに気にはなりますか…。別に大したことじゃないんです。意見の相違、と言いますか…ちょっとした喧嘩と言いますか」
「あの温厚なシャルロットと喧嘩とは…一体何を言ったんだ?」
「うぐっ……そ、それはいいじゃないですかっ」
箒に追及されて押し黙る真名人。あまり絡みが無いと思われるこの二人だが、実は意外にも接点がある。
「ふふっ、すまない。だがいつもの上月らしくない姿が可笑しくてな。クラス代表戦の襲撃者から私を庇った時の勇ましさはもう無いぞ?」
「…そんなこともありましたねぇ。その後篠ノ之さんから呼び出された時はもう締め上げられると思ってヒヤヒヤしてましたっけ」
「一体どんなイメージなのだ、私は…」
真名人の失礼なイメージに思わず肩を落とす箒。真面目なはずなのに何処か抜けている…それが彼女が抱く真名人のイメージだ。こちらもこちらで失礼なのだが。
「そんなことよりもです。篠ノ之さんはどうしてこんな所に?折角の海なのに遊ばないのは勿体ないですよ」
「い、いいのだ私は…。あまり肌を晒すのは好きじゃないしな」
「あー、昔の人は言いましたもんね。滅多なことじゃ顔見せないっていう平安時代くらいの女の人は。そういうのと同じですか」
「いつの時代の話をしているんだ…相変わらず変な奴だな、お前は」
呆れるように額に手を置く箒だが、その顔には笑みがあった。それを見て真名人はふと思ったことを口にする。
「…やっと笑顔になりましたねっ」
「もしかしてわざとか…?道化が過ぎるぞ」
真名人の言葉から自分が踊らされていたことに気づく箒。しかし、本気で怒っている訳でもなく寧ろここまで素の状態を見せる真名人に戸惑いを覚える程だ。何処か様子がおかしいとすら思える…。
「だって篠ノ之さん、ここに来てからずっと浮かない顔してたでしょう?何か心配ごとでもあるような感じがしてちょっと気になってたんです」
「お前は超能力者か……はっきり言って怖いぞ?」
「たははっ、まぁそれはそれとして…。悩みなら全然関係無い人に話してみた方が解決することって結構ありますよ!経験則ですけど」
楽観的な物言いで箒に促す真名人。一見能天気とも取れるが決して難しいことを言っている訳ではないので、箒の中で従うか拒むか葛藤が生まれる。ただここはあまり深く考えず物は試し精神で挑むことにした。
「うむ…じ、じゃあ試しにお前に聞いてみるとしよう。これで上手くいったら本気の相談をすることにしよう……上月以外にっ」
「えっ、僕“お試し”ですか?」
まさか箒が真名人を指名してくるとは思っておらず、素っ頓狂な声が出てしまう。それに対して表情を変えずに答える箒だった。
「当たり前だろうっ。言い出した責任くらい果たしてみせろ」
「はぁ…まぁ、確かにそうですねぇ。分かりました、どんと来いですよ」
苦しい言い訳だったかもしれないが、真名人を納得させるのには十分だったようだ。実際、他にも相談出来る人間は周りにいたはずの箒が真名人を選んだのは偶然か、それとも…?
「よしっ、ではお前に問うぞ。初めてISを手にした時のことを教えてほしい」
「IS…ナナシのことですか?う〜ん、そうですねぇ…」
箒の質問はどういう訳かISに関連するものだった。専用機を持たない彼女が一体なぜそんなことを聞くのか…一瞬そんな考えが過ったものの、言い出しっぺの自分が遇らうなんて出来るはずもなく思いついたことを素直にそのまま話す真名人だった。
「まず頭に浮かんだのは……嬉しい、ですかね。ほら元々ISって男には全く縁の無いものだったでしょう?それがどういう訳か僕の所に舞い込んできて、今も乗ってるっていう…こういうことが聞きたかったんですか?」
「う〜む……もう少し突き詰めた話を聞きたいのだが…」
今の回答では箒の満足を得ることは出来なかった模様。なのでもう少し踏み込んだ話をしてみることにした。
「そうですか……まぁ、ぶっちゃけ良い思い出ばかりじゃないですけどね。実技の成績だっていつまで経っても最低ラインギリギリですし、相変わらずナナシ以外のISは動かせないし…その上この前の謹慎処分でしょう?今は首の皮一枚で繋がってる状態ですけど、これ以上何か問題を起こせば学園から追い出すとまで念押されてますし。正直、ナナシさえ居なければ僕はとっくにお払い箱だったんでしょう」
「んなっ!?何だそれは…」
真名人から想像していたよりもずっと過酷な事実を聞いて動揺する箒。しかし、真名人は特に気にする様子も見せず、寧ろ諦めたかのように言葉を続ける。
「いいんです。その方が自然、寧ろこの学園に入って色々と優遇されてたことの方が僕にとっては異常だったんですから。どう足掻いたところで世界的に有名な姉を持つ一夏君と何の取り柄も無い施設出身の僕、こんな簡単な二者択一を間違える人間なんていませんから」
「す、すまん……姉さんがISさえ開発しなければこんなことには…上月を苦しめるつもりは…」
箒は申し訳なさに苛まれ真名人に謝罪する。しかし、真名人は特に気にする様子も無く言葉を続けた。
「篠ノ之さんが謝ることないですよ。それにお姉さんだって悪くありません。だって篠ノ之さんのお姉さんがISを開発してくれたおかげで、人が宇宙に行けるかもしれないんですよ?こんな夢みたいな話、現実にしたいじゃないですか!」
「…上月は、宇宙に行きたいのか?」
興味本位で聞いていると、真名人の意外な思いが発覚する。
「えぇ、実はそうなんですよ。子どもの頃に憧れましてね……誰にも言わないで下さいよ?」
「う、うむ…心得たぞ。少し意外だったがな」
箒の中の真名人のイメージがただのクラスメイトから等身大の男子へと変わっていく。普段は直接話すことはあまり無かったが故に受ける印象が新鮮だったのだろう。話し終える頃には何か思い詰めていた表情は消えていて、何処か晴れやかな気分になっていた箒だった。
時間は経って自由時間を遊び尽くした生徒達は汗を流すべく先に露天風呂に直行したり、浴衣姿を堪能したりと夕食までの時間を思い思いに過ごしていた。そして、いざ夕食の時間になると組ごとに別れて食事を摂る。一組もそれは同じなのだがいつもの雰囲気と違うことが二つ。
「……あ、あの…真名人、ごめんね?席順は予め決められてたから動けなくて…僕が隣じゃ、嫌だよね…」
「………あまり余所余所しくしないで下さい。疑われるでしょう」
「うぅ…だ、だってぇ〜!?」
一つは座席に対して隣り合わせに座っている真名人とシャルロット。一番端に座る真名人の唯一の隣の座席を陣取ったのがシャルロットなのだが、本人達の間でしか知り得ない会話を繰り広げていた。しかしその様子は真名人は冷静過ぎるし、シャルロットに至っては急に沈んだり騒いだりと若干の情緒不安定気味である。そして、もう一つの門田は…。
「おりむ〜、お野菜あげるから代わりにお刺身頂戴〜っ」
「えっ!?ちょ、のほほんさん!?俺まだ一口も食べてないから!」
「の、布仏さんっ!どうして貴女が一夏さんの隣に居るんですの!?貴女の場所はあちらでしょう!早くお帰りなさいましっ!」
少し離れた所で一夏の左隣をセシリアが座り、そして何故か右隣を本音が陣取っていたことだ。セシリアに注意された本音は少し不機嫌そうに文句をブー垂れる。
「え〜、何でぇ?ちゃんとじゃんけんで勝ったんだから良いじゃん〜。それにこーちんの隣はデュッチーだも〜ん。セッシーは考えが甘々だな〜」
「にゃ!あ、貴女ね〜!?一夏さんからも何か言って下さいましっ」
一夏を挟んでキャットファイトが繰り広げられるも、状況は圧倒的に本音が優勢だった。しかし一夏にも色々と思うところはあるようで、ふと疑問を投げかけてみる。
「のほほんさん、また真名人と喧嘩でもしたのか?気まずいなら俺もついてって一緒に謝っても構わんぞ?」
「喧嘩?こーちんと?してないしてない!だって仲良しだも〜んっ」
そう言って浴衣の袖をパタパタ振りながら真名人の方を見つめる本音。しかし、その表情は曇っていて何処か辛そうに見てとれる。それは心の機微に疎い一夏ですらすぐに分かる程だ。
「うーむ、そういうことなら良いんだけど……真名人とのほほんさんのコンビ、結構好きだからさ」
「ふぇ?私とこーちんの?どうして〜?」
「そうですわ。お二人のコンビってどういうことですの?何故私を省くのですか!?納得いきませんわぁ〜っ!!」
そんな中、一夏がボソッと思ったことを口にする。その真意はセシリア、本音両名も頭の上に?を浮かべていた。
「いや、真名人っていつも真面目にISの参考書とか持って見てるだろ?俺もそうだけどずっと参考書見てると段々頭おかしくなってくるんだよ。そういう時にのほほんさんとかが真名人にちょっかい出したりしてるだろ?あぁいうのって頭のリフレッシュに意外と丁度いいんだ。その時の真名人の返しがまた鋭くてな…お笑い好きとしてはポイント高いんだよ」
「へぇ〜、そうなんだぁ。じゃあ、おりむーから見たら私とこーちんって相性抜群って感じ〜?」
「えっ?あー、それはだな…う〜ん…」
本音から期待の込められた眼差しを向けられ、思わず圧倒される一夏。これは彼女の期待通りの言葉を投げかけなければ最悪の結果を招いてしまうことが一夏にも理解させられる。
「……まぁ、良いんじゃないか?」
「ち、ちょっと一夏さん!?何適当ぶっこいてますのぉ!?冗談じゃありませんわよ〜っ!」
「うひひ〜、そっかそっか〜。皆からはそういう風に見えてるんだぁ。いや〜、照れますなぁ〜♡」
一夏の称賛を受けて嬉しさを隠せない様子で顔を両手で覆う本音と除け者にされた気分で狂喜乱舞しているセシリア。この二つの空間だけでも混沌を極めているのは明白だった。普段と違う環境だからなのか、それとも何か別の思惑があるのか…つまるところ、本人達次第である。
「……ってなことがあったんだよ。どう思う、千冬姉?」
「織斑先生と呼べと言っているだろうが……まぁ、今は二人だから咎めはせんがな」
夕食後、解散した一夏は同部屋の千冬に意見を伺う。普段名前呼びを禁止されているが、それすら気にならない程内心動揺していた一夏だった。
「わ、悪かったよ。でもやっぱり千冬姉も気になるだろ?のほほんさんはあぁ言ってたけど、どうもそれだけじゃないような気がするんだよなぁ……って、何で扉の前に立ってるんだ?」
一夏の言葉の途中で椅子から立ち上がって襖の前に佇む千冬。すると暫く襖の奥の気配を察知したのか無言のまま徐に襖を開けた。すると、どういう訳か箒・セシリア・鈴・シャルロット・ラウラが部屋の中に雪崩れ込んできた。いや、千冬に引き摺り出されたといった方が正しいか。
「お前達…人の部屋の前で屯して盗み聞きか?随分と高尚な趣味だな」
『お、織斑先生…!こ、これはそのぉ…』
跪く五人の前で腕を組んで仁王立ちしたまま見下す千冬。世界最強の睨みを受けて言い訳の一つもまともに出来ない状況、堪らず一夏は助け舟を出す。
「みんな揃ってどうしたんだ?セシリアは呼んだからいるのは分かるけど」
「あら、一夏さんったら大胆♪皆さんの前ですのに」
「ちょ、何それ!?どういうことよ一夏!!」
「そ、そうだ!詳しい説明を求めるぞ!!」
セシリアの思わせぶりな発言を聞きつけた箒と鈴が一夏に詰め寄る。
「うおっ!?な、何だよ箒も鈴も……ほらさっき夜飯でセシリア、正座辛そうにして殆ど食えてなかったからさ。マッサージとかしてやれば少しは楽になるかなって」
「あっ…そ、そういうこと?」
「わ、私は分かっていたぞ!当然だっ」
「んもぅ…一夏さんったら、ネタバラシが早過ぎますわっ。もっとお二人の慌てふためくお姿を鑑賞していたかったですのに…」
一夏の言い分を聞いてすぐに落ち着きを取り戻す箒と鈴、そして残念そうにそっぽを向くセシリア。その手のひら返しの速さといったら…その様子を流し目で見ていた千冬はあまり話題に出てこなかった人物に話題を振った。
「お前達、騒ぐなら他所で勝手にやってくれ…そっちの転校生組はあまり話に入ってこないな。よし、お前達二人は私と一緒に来い。酒のつまみに面白い話をしてやろう」
「えっ!?は、はい…じゃあ行こっか、ラウラ」
「うむ、教官とプライベートな話が出来るまたとないチャンスだからな。色々と情報を得なければ…」
千冬は部屋に備えてある冷蔵庫から缶ビール一本とジュース二本を取り出して部屋の外のベランダに二人を誘導する。そして二人が椅子に座ったのを確認すると内外を仕切っている襖を閉じて、二人にそれぞれジュースを手渡した後に自身も缶ビールを飲み干しながら椅子に腰掛けた。
「んぐっ、んぐっ……ぷはあぁぁぁあ…!!騒ぎばかり起こす弟を持つと気苦労が絶えん。ゆっくり酒を飲む余裕も無いな。ほれ、お前たちも遠慮せずに飲め」
「えっ?あっ…い、いただきます。んくっ、んくっ…」
「頂きます。んくっ…」
たった一杯飲んだだけで既にほろ酔い気味(?)の千冬に促されて、渡されたジュースに口をつけるシャルロットとラウラ。それを見た瞬間、千冬は目の色を変えて二人に肉迫する。
「お前達、ちゃんと飲んだな?これで“口止め料”は払ったことになるなぁ…さぁ、ここからは女同士腹を割って話そうじゃないか」
『へっ…?あぁ!?』
千冬のいやらしい笑みと脅迫めいた言葉から自分たちはまんまと嵌められたことに遅れて気づく二人。そう、千冬は最初から酔ってなどいなかった!全ては二人を油断させるために打った芝居だったのだ。元より彼女が缶ビール一本程度で酔うようなタマじゃないことは深く考えれば誰でも分かることだった。
「ラウラはこの前聞いたばかりだからあまり進展は無さそうだが……デュノア。先程一夏の話題が出た時、お前はあまり興味が無さそうだったな。あれはどういうことだ?」
「へぇ!?そ、それは…そのぉ……ラウラ〜!?助けてよぉ!?」
「済まないが私の手には負えん。それに私も少し気にはなってはいたのだ」
「う、裏切り者〜っ!!」
千冬に迫られラウラに助けを求めるも、熱い裏切りに遭うシャルロット。もはや逃げ場は無い。
「何だラウラ、何か気になることがあるのか?」
「はい。実はシャルロットの件と直接関係があるかは判断しかねるのですが、上月 真名人との関連を疑ってはいます」
「ラウラ!?ま、真名人は関係無いよぉ〜…?」
額から大量の汗をかきながら弱々しく否定するシャルロット。しかし、それは静かなる肯定を意味していることは彼女自身が理解していた。
「ほぉ……だそうだ、デュノア。ラウラもこう言っているんだ、このままでは気になって完徹してしまうそうだぞ?」
「あぁ、そうだ。このままでは夜も眠れそうにないぞ。観念して奴の秘密を暴露しろ」
「何で結託してるのさぁ!?駄目駄目っ!誰にも言わないって真名人と約束したんだから…」
顔を赤くしながらも必死に口をつぐんで抵抗するシャルロット。そこには二人にしか分からない感情のようなものの一面が垣間見える。それを感じ取った千冬はあえて別の材料を使って取引を持ちかけた。
「分かった分かった。なら代わりに例の上月謹慎事件の真相を話せ。あの襲撃があった夜、上月に何があった?」
「うぅ……分かりましたぁ…!話しますから真名人には僕から聞いたこと、内緒にして下さいよっ!本当に怒られちゃいますから…」
遂に諦めたシャルロットは落胆しながらも秘密保持厳守を懇願する。そして少しの間沈黙を貫いた後、彼女のみが知る真実を語り始めた。
「………。あの日、僕は自分が女の子だってことを打ち明けようと思って真名人の部屋を訪ねました。試合中、僕の所為で大怪我負わせてしまった責任も感じて謝ろうと思ったんです。その直前に真名人が躊躇うよりも後悔で泣きたくないって言ってたのを聞いちゃったので余計に…」
「奴がそんなことを…」
ラウラが相槌を打つも千冬は黙って話を聞いていた。彼女の中で何かを消化しているといった様子だ。
「それでいざ真名人の部屋に入れてもらって、僕が父の命令で男性操縦者としてIS学園に編入して一夏や真名人の専用機の情報を盗む為に送り込まれたことを告白しました。それを聞いた真名人は呆然としていて、それまで友達として色々手伝ったりしてたから当然ショックを受けていて……無理に気丈に振る舞って見せたけど、本気で怒ってるのは伝わってて……それが余計に苦しくて…」
シャルロットは当時の状況を思い出しながら話を進めていく。時折言葉を詰まらせる場面も見受けられたが、それが彼女自身を苦しめることになっても話すことを止めなかった。
「学年別トーナメントの前から真名人の専用機を見せてもらっていたから当然詳細なデータを持ってる。それを本国に報告すれば例え僕の正体がバレたとしてもその時点で僕の役目は終わり、僕は罪を被されたまま一生塀の中で過ごすことになるんだって覚悟してました。だから最後に真名人にだけは本当のこと言わなくちゃって……許してもらえるはずないのは分かってるけど、嘘ついたままお別れしたくなくて…うっ、うぅ……うえぇぇぇぇんんっ…!!」
「おいシャルロット…自分で言っておいて本気で泣き始めるな。これで涙を拭け」
「ふぐっ……あ、ありがどゔラウラ〜!」
シャルロットのあまりの号泣っぷりを見かねたラウラが自分のハンカチを差し出す。それを受け取ったシャルロットは溢れ出る涙を拭いながらも荒れた気持ちを整える。この間も千冬はまだだんまりを決め込んでいた。
「ぐすっ……すみません、えっと…どこまで話しましたっけ?」
「…上月に話したというところまで、だな。その先から頼む」
ここで漸く千冬が催促する。それを確認したシャルロットは姿勢を正して続きを話し始めた。
「あっ…分かりました。えっとそれで…真名人に騙してごめん、でもデュノア社に情報は渡してないし渡すつもりもないから心配しないでって伝えたら……真名人が直接確認したいから今すぐデュノア社に連絡を取ってほしいって。それで父に連絡を取ってそのまま真名人に渡したら……」
「デュノア、辛そうならこれ以上は聞かん。どうする?」
話の途中で口籠るシャルロットを見て、千冬が続けられるかを確認する。しかし、シャルロットはそれを見事につっぱねた。
「…いえ、大丈夫です。ただ、僕がまだ日本語に不慣れな所為だからか上手く聞き取れなかったのもしれないですけど……何だか“親”のことをずっと話してたように聞こえて…」
「親…か。そういえば上月はその辺のことをあまり話したがらないからな。他人の家庭事情に口を出すつもりは無いが、それが今回の件とどう関係がある?言い方は悪くなるが、自分の専用機の情報を盗む為に騙したデュノアを庇う理由に結びつくにはどうも納得がいかんな」
千冬の言い分は至極当然である。ずっと友人として接してきたシャルロットが実はデュノア社によって送り込まれた謂わばスパイであったことは、いくら真名人でも受け入れることは出来ないだろう。では一体どうやって…というのは当然の疑問だ。
「僕にもはっきりとした理由は分からないんです。始めは父と冷静に話してたと思ったら、どんどん口調が激しくなって……子を不幸にする親なんて本当の親じゃない、最終的には専用機の情報と引き換えに僕との縁を切れって泣きながら父に迫って……全部話し終えてデバイスを返してくれたら、ものすごく怖い目で……頼むから出てってほしいって…あんな真名人、初めて見た……でも、それ以上にすごく嬉しかった。こんなにも誰かに想ってもらえるなんてなかったから…。これがあの夜起こったことの全てです」
全てを話し終えたシャルロットは当時の恐怖を蘇らせつつも、その中で僅かに芽吹いた感情を大切にするように自身の胸の前でギュッと手を握りしめる。それを聞いたラウラも思いの丈を口にする。
「シャルロットと同室になる前だったから知らなかったが、そんなことがあったのか……どういう経緯にしろ上月 真名人の行動によってシャルロットは強制送還されずに済んだ、という訳だな。奴のしたことは褒められたことではないが、友人としてはシャルロットを救ってくれたことに感謝せざるを得ないな……些か不器用過ぎるが」
「ラウラ…!うんっ、そうなんだよ!真名人って口下手…っていうか、あまり話すの上手じゃないから誤解されがちなんだけど実は一生懸命で……そこがまた可愛らしいというか、いじらしいというか…♡」
ラウラの言葉に目を輝かせながら激しく同意するシャルロット。その様子は乙女そのものだった。それをずっと黙って聞いていた千冬は如何にも真剣な表情のまま、シャルロットの方に向き直して改めて容赦なく言い放った。
「デュノア………お前、上月に惚れたな?」
「………も、黙秘させて頂きますっ」
両手で口元を押さえて拒否のポーズを示すシャルロット。もはやそれは肯定を意味していることは千冬に痛いほど伝わってしまう。顔を真っ赤にしながらも否定はしないその姿勢に千冬は何処か嬉しくもあり、その隣で色恋の類に疎いラウラは終始不思議そうな顔をしていたことで愛らしさと何故か面白さが込み上げ、いつもよりも酒が美味かったと後々語ったという。
本日の一言
「うぅ〜、やっぱり七月の夜風は気持ち良い〜♪…もしも〜し。えへへ〜、定時連絡で〜す。えっとぉ………あっ!な、何で笑うの〜!?ブー、ブー!不本意だよ〜!ちゃんとお仕事してるのに〜。えっとね、今日はねぇ……あれっ、何やったんだっけ?あぁ〜!たっちゃん怒らないで〜!?ほんの冗談だからぁ〜。うぅ〜、今日のたっちゃんはプンプンで怖いよぉ……うんうん、今日一日ず〜っと一緒にいようと思ったんだけど、なんかバス降りてから一回姿見えなくて……うっ、分かってるよぉ………引き続き彼の監視は怠りません、なので安心してお任せ下さいませ…お嬢様。またね〜っ」
by 深夜何処かへ連絡をとる布仏 本音