ACEを目指す未熟者   作:自由の魔弾

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戦闘の描写は未だに苦手です。


ACE 3 真名人、初陣

「あの、少し宜しくて?」

 

前回までのあらすじ。教室でISの参考書を読み耽っていた真名人に、ドレス風に改造した制服を着こなす金髪碧眼の女生徒が声をかける。一瞬参考書から視線をその女生徒に移す真名人。その人物が少なからず因縁があることに気づき、すぐに参考書を閉じると軽く会釈をした。

 

「えっ?あぁ…確か貴女はイギリスの代表候補生の“セシリア・オルコット”さん、だったよね。僕に何か用かな?」

 

あくまで下手に出る真名人。こうするのには真名人なりの理由があって、その理由はセシリアから説明してもらおう。

 

「来週のクラス代表を選抜する決闘に貴方も参加なさると聞きましたわ。まさかとは思いますが、貴方もこの私を差し置いてご自分がクラス代表に相応しいなどとは思っていませんわよね?」

 

言葉の端々に自信とプライド、そして男性に対する強い憤りと激しい嫌悪感が感じられる。だがそれに一々驚いたりはしない。何故ならこの女尊男卑という風潮が蔓延る世の中で、セシリアのように男性を見下す女性は少なくない。それほどまでにISという存在の影響力は絶大だと思い知らされる。しかしそんな世界で弱者として暮らしてきた真名人にとって、セシリアの高圧的な態度など日常でしかなかった。

 

「…まさか。実力的に考えてもまともな稼働時間が極端に少ない僕や織斑君よりも、クラスで唯一の代表候補生であるオルコットさんの方が適任だと思いますよ。僕も織斑先生にそう提言したのですけどねぇ」

 

意外にも真名人がセシリアの方が適任だという意見を述べたことに、驚くセシリア。無謀にも刃向かってきた一夏と同様な存在だと考えていたが、事実は少し違ったようだと認識する。だが、それは益々彼女の偏った思想を増長させる以外なにものでもなかった。

 

「ほぅ…貴方、男にしてはまともな感性をお持ちのようですわね。そうでしょう、そうでしょう!やはり無能な男よりも女性である私の方が優秀かつクラス代表に相応しいはずっ。次の決闘ではそれを証明して差し上げますわ!」

 

「えぇ、そうですよ。男が女性より優っているなどそれはもう過去の話です。本当はわざわざ恥を晒すようなことに巻き込まれたくなかったのですが…」

 

真名人が妙に白々しく弱音を吐くと、散々後押しされて気分が良くなったのかセシリアは口元に手を当ててより高飛車な態度をとった。

 

「うふふっ、貴方のお考えは分かりました。ならばせめて私に倒されることを光栄に思うと良いですわ。お〜ほっほっほ!!」

 

セシリアは言いたいことを言って満足したのか、上機嫌で自分の席に戻って行った。それをまるで能面のように張り付いた笑みを浮かべて手を振って送り出す真名人…これが彼の処世術である。長いものに巻かれろ精神である、諸事情あって世間的には弱者である真名人はこうすることでしか生き残る手段はなかった。始めこそそんなことをしなければいけない自分に抵抗がなかったわけではない。だがその感覚は回数を重ねていくうちに次第に薄れていくことになり、今はもうそんな感情が湧き上がることは二度と無い。自らを卑下し地べたを這いずり他人に媚びへつらうことに慣れ過ぎたのだ。

 

「…さぁて、どうしたもんかなぁ」

 

真名人は今までのやりとりをまるで何も無かったかのように捉え、再び参考書と睨めっこを始めた。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「(へぇ〜、なるほどな。ISの実践理論に則れば、その動かし方は頭の中でイメージしたものが反映されるようになっているんだ。本来、人は飛べないのに空中を舞うイメージがそれを可能にしてるのか…背面のバーニアが姿勢制御の役割を果たしていて、浮遊を確立させると。更に主武装や特殊兵装の展開・収納には複数のインターフェースを経由して本人の意思による具現化を…)「ねぇねぇ、こーちんっ。先生に呼ばれてるよぉ〜!?」えっ?あぁ…そう。すみませ〜ん、聞いてませんでした」

 

授業中、後列であるのを良いことに一人参考書を開いて自主的にISの勉強をしていた真名人だったが、知らず知らずのうちにかなり没頭していたようで隣の席の本音に声を掛けられるまで自分が指名されていることに気づいていなかった。

 

「あ、貴方ねぇ〜…はっ、終了のチャイムが鳴ったので今日ここまでとします!次回はこの続きからやりますので、しっかりと復習しておいてくださいねっ!」

 

真名人を咎めようとした教師だったが、授業終了の呼び鈴によって出鼻を挫かれる羽目に。休み時間に入ったのを確認して再び参考書に目を向ける真名人だったが、それを隣の席の本音に邪魔される。

 

「もぉ〜、こーちんってば!さっきから何読んでるの?」

 

隣から覗き込んでくる本音を無視することも考えたがそれも中々に面倒なことになりそうだと判断し、諦めて相手をすることにした。

 

「…参考書、暇つぶしに眺めてただけだよ。これで満足?」

 

「むぅ〜、何さ何さぁ!折角教えてあげたのにぃ!もう知らない〜っ!」

 

真名人の反応が薄かったのがお気に召さなかったのか、不満気に真名人の下から離れて行く本音。しかし、真名人の頭の中には先ほどのセシリアとのやりとりがずっと引っかかっていた。

 

「(僕がISの勝負で勝てる見込みは無い。こんな付け焼き刃の勉強だってきっと無意味なのかもしれない。だからこそ僕は彼女に降伏の意を伝えたんだ。なのに、どうしてなんだろう……“負けたくない”って思った。“負けてたまるか”って思った。期待するだけ裏切られた時の代償は大きい、だから自分にはそんな力は無いと、今まで期待することを諦めていた。でも、もしかしたら…?)」

 

そんなことを考えていた時、ポケットに入れていたデバイスに呼び出しが来た。真名人はその相手を確認すると、すぐに廊下に出て通話を始める。

 

「もしもし、どうしましたエリスさん?」

 

《真名人、今大丈夫だった?来週いきなり代表候補生とISで勝負するって聞いたからさ…ほら、押し付けちゃった私としてはちょっと責任感じちゃうな〜なんて。なはは…っ》

 

通話越しの音声しか聞こえないが、その声色から本気で真名人を心配していることが伺える。何となくだが、真名人は自分のことを気に掛けてくれていることが何故か嬉しかった。

 

「そうだったんですか。まぁ正直なところ、負けるの分かってて勝負したくないんですけどねぇ…」

 

《ん〜?でもそう言ってるわりには、どうしても“勝ちたい”って聞こえるんですけどぉ?私の気のせいなのかな〜?》

 

図星を突かれて内心冷や汗をかく真名人。降参してエリスに胸の内を吐露することにした。

 

「…やっぱり隠し事は出来そうにありませんね。ここに無理矢理入れられた時はISなんてって思ってたんですけど、男なんて無能だって言われた時…どうしても納得出来なかった。今までならきっと黙って頷いていただろうに。でも、どうしても勝ちたい…勝って弱い自分を変えたいって思えたんですっ。それが…僕とISが引き合った理由だと信じて」

 

真名人の独白をエリスは黙って聞いていた。そして、その全てを聞き終えたエリスは一つだけ真名人に問いかけた。

 

《ねぇ、真名人…一つだけ聞いてもいい?初めて“あの子”を見た時、どう思った?》

 

突然のエリスの質問、その真意を図ることは出来なかった真名人。だからこそ、思ったまま答える以外選択肢は無かった。

 

「今までISなんて無縁だって思ってたはずなのに、いざ目の前で見た瞬間“なんでそこに僕は居ないんだろう” “羨ましい”って感じました。だから例え偶然であっても僕とISが共に居られるのなら、一緒に輝きたいんです!」

 

真名人の真摯な想い、それを受け止めたエリスはどこか納得したように助言を与える。

 

《…だったら、あの子の先輩である私からアドバイスですっ。あの子に乗ったら“絶対に自分を見失わないで”、あの子はそういう子なのですよ。ずっと縛られてた自由を求めて乗り手の意識すら飲み込んでしまう、私だってそうだったんだもん。だから、強い気持ちを持って向き合ってほしいのですっ。そうすればきっとあの子も応えてくれるのですよ!》

 

エリスの純粋な気持ちが真名人の冷え切った心に響くように伝わり始める。偶然にも関わらず引き合った僕とあのISはもう既に切っても切れない関係なんだ。だったら最後まで付き合ってやるのが道理じゃないのかと、真名人は自分に喝を入れる。

 

「…ありがとうございます。お陰で色々と吹っ切れましたよ。それで、まだ解析の方が終わってなくて手元に返ってきてないんですが、せめてエリスさんが知っていることだけでもデータで貰えませんかね?使えるものは何でも使わないと勝てないと思うので」

 

真名人がそう頼んだ時、デバイスに複数のデータファイルが送信されてくる。勿論、送り主はエリスだ。

 

《そう言うと思って、既に準備してましたっ!一応基本的なスペックだけしかデータが取れなかったけど、無いよりはマシだと思います。あと名前なんだけど…もし良ければ真名人が決めてあげてほしいのですよっ》

 

「名前、ですか?軍でも正式な呼び名くらいは周知されてたんじゃ?」

 

《あーっ、それはそうなのですけれど…理由はよく分かりませんがあの子、“曰く付き”って呼ばれてたから。真名人にまでそんな風に呼ばれたら可哀想なのですよ。それにあの子は軍に放置されていた頃から外部からの干渉を一切受け付けないのです。だから多分IS学園でも大したことは分からないと思います。あの子が自分の情報を開示するとしたら、その相手はただ一人…》

 

「僕、になるんですね。もしその仮説が正しいとすればISを起動中、つまり僕が操縦してる時だけってことになりますもんね。例えどんなに傷ついて壊れても、触れられるのは僕一人なんですね」

 

真名人は今の仮説はかなり信憑性の高いものだと一人納得する。でなければ初めて遭遇したあの時、ハンドガンのみで戦闘を行なってことにも合点がいく。外部からの干渉を遮断していたということは、それまでまともにメンテすら受けていなかったことを意味するからだ。恐らく武装の殆どは使用が制限されているはず…つまり真名人自身がそれらを解除していく以外、方法はないのだ。

 

《そういうことです。でもだからって真名人には一人も味方が居ないってことじゃないですからねっ。少なくともあの子に対して前向きに付き合ってくれる気になってくれたのですから、私と真名人は仲間ってこと!ISのこともいつも助けてあげられるわけじゃないけど、遠慮なく連絡して良いですからね?あ〜っ!そろそろ休憩時間、終わっちゃう!ごめん、また今度ね!》

 

そう言って、慌ただしく通話が切断される。エリスの上官は特に厳しい人だと聞いている、新人となればその当たりは一層強いはず。そんな中でも時間を見つけて激励の連絡を寄越してくれたエリスの純真無垢な気持ちに、真名人は賛辞を呈する。

 

「あっ、切れちゃったか……でもありがとう、エリスさん。お陰で色々吹っ切れたよ。やっぱ負けちゃいけないんだな。僕を選んだあいつの為にも」

 

新たに決意を固める真名人。ちょうどそのタイミングで授業開始を告げるチャイムが鳴り始めたので教室に戻るが、その足取りは前よりもずっと軽いものに変わっていた。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

そして、日は経ちいよいよクラス代表決定戦を迎えた。初戦は要望通りセシリアと一夏が既にアリーナで対峙している。真名人はその様子を別室で見届ける…ことはせず、直前に手渡された待機状態のISをじっと見つめていた。結局のところ、エリスの言っていた通り学園の教師陣による解析作業は徒労に終わった。やはり、このISと向き合えるのは自分だけなんだと改めて実感する真名人。その責任と覚悟が強い炎となって瞳に宿るのが分かる。

 

「大丈夫…君には僕が居る。だから君も僕に力を貸してほしい」

 

チョーカー型の待機状態のISを握りしめ、そう懇願する真名人。ちょうどその時試合終了のブザーが鳴り響く。どうやら真名人の出番のようだ。

 

「よし、じゃあ行こうか」

 

真名人は待機状態のISを首にはめると、待機していた別室から予め指定されていた第三アリーナのピットに向かう。第二試合は真名人とセシリアが勝負することになっている。本当なら今の試合の分析を行い参考にしたかったのだが、公平を期する意味から参加者同士の試合内容は観覧が禁止されている。別室で真名人が二人の試合を見ていなかったのもそれが理由だ。お互いの情報は開示せず、あくまでフラットに…それが今回千冬が出した条件である。

真名人がピットに入ると、中は妙に騒がしい様子だった。よく見てみると、試合を終えた一夏を中心に千冬・真耶・そして何故か箒が彼の試合の批評を行なっていたようだ。

 

「ちくしょお…もう少しで勝てそうだったんだけどなぁ。でも何で急にエネルギーが無くなっちまったんだ?」

 

「当然だ。貴様の白式(びゃくしき)の持つ単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)は相手に直接攻撃が出来る代わりに自身のシールドエネルギーを消費して稼動するため、使用するほど自身も危機に陥ってしまう諸刃の剣でもあるのだ」

 

「要するに、織斑君の自滅ってことですか?」

 

「なっ!?情けない、情けなさ過ぎるぞ一夏!!」

 

「し、しょうがねぇだろ!!俺も知らなかったんだからっ…うわぁ!?箒、竹刀振り回すなよ!?」

 

「問答無用ォ!!その根性ごと叩き直してやるっ!待てェエエ!!」

 

竹刀を振り回す箒に追いかけ回され堪らずピットから飛び出していく一夏とそれを追う箒。騒動の間、物陰に隠れていた真名人は一段落ついたのを確認すると、千冬達の前に姿を見せた。

 

「全く、騒々しいガキ共が……むっ、上月か。オルコットは現在、前の試合で受けたダメージの回復作業に入っている。それが終わり次第試合を開始する、先にISを展開しアリーナで待機しておけ」

 

「はい、分かりました……行くよ“ナナシ”」

 

千冬に指示され、真名人は首元のチョーカーに右手を添える。すると、チョーカーは眩い光を放ち次第に真名人の身体を包み込んでいく。やがて光が消えると、そこには蒼を基調とした全体的に細身で鋭角的なデザインのISを纏った真名人の姿があった。各部の整流翼の様なパーツと各所に特徴的なジョイントを備えているが、学園の解析では得られなかったそれも含めて初めて確認させられる。

 

「すごい…織斑君も上月君も本当にISが扱えるんですねぇ。それに綺麗……上月君、頑張って下さいねっ!先生、応援しちゃいますよ♪」

 

初めて見るその姿に見惚れていた真耶だったが、気を取り直して真名人を激励する。しかし、真名人は真耶に答えることなく無言のままその場で立ち尽くしていた。

 

「…上月?」

 

その様子を不審に思った千冬が一瞬呼び掛けようとするも、突然背面のバーニアを噴射しアリーナに向かって発進する真名人。発生した突風に煽られ吹き飛ばされそうになる真耶と微動だにしない千冬。言葉にこそ表さないがこの時、彼女の中に一つ懸念が生じていた。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

セシリアが補給を終え再びアリーナに舞い降りた時、既に二人目の対戦相手である真名人が待ち受けていた。しかし真名人が纏っているISは今まで見たことのないタイプのもので、加えてさっきから真名人から生気が感じられないことが彼の頭部を覆うバイザー越しでも分かるくらい不気味で仕方がなかった。

 

「お待たせしてしまって申し訳ありませんわ。それと、試合の前に一つお詫びをさせて下さい。私は自分がどれほど狭い視野で物事を捉えていたのか思い知りましたわ。世の中の男性全てを無条件に見下し貶すなど正に愚の骨頂、恥ずべき行為でした。貴方にも大変失礼なことを申し上げたことを謝罪致しますわ」

 

セシリアの誠意のこもった謝罪を黙って聞いている真名人。返答は一切ない、代わりに真名人のISの武装であるハンドガンが展開された。

 

「なるほど…私情は挟むなということですのね。では遠慮なく…参りますわっ!!」

 

そう叫んだセシリアは主力武装である巨大な特殊レーザーライフル“ スターライトmkIII”を展開し、両者の武装展開が確認されたことにより試合開始のブザーが鳴り響いた。

 

「行きますわっ!」

 

セシリアはブザーと同時にレーザーライフルの照準を真名人に定め、躊躇なくその引き金を引く。ライフルから放たれたレーザーは無慈悲にも真名人の顔面を直撃する。僅かにのけ反るだけで全く避ける気の無い真名人に対して、セシリアは困惑と同時に一種の恐怖感を抱き始める。しかし、それを振り切るようにライフルを連射していくセシリア。それに対して棒立ちしたまま直撃を受ける真名人、当然ながら次第に機体の残存エネルギーはどんどん減っていく一方だった。やはり宣言通り、このままではワンサイドゲームになるとギャラリー含む誰もがそう確信したその時、事態は動きを見せる。

 

「…っ!動きが、変わった…!?」

 

セシリアのライフルによる連射に対してつい先ほどまで直撃を受けているだけだった真名人。しかし、まるで攻撃を受けて学習したかのように軌道を予測して回避運動に転じ始めたのだ。レーザーライフルの特性上、直線的に発射されることを考慮したとしてもたった数発受けたからといって発射されてから着弾までの僅かな時間で見切るなど初心者の出来る芸当ではない。

 

「………」

 

真名人はセシリアの攻撃を避けると同時にハンドガンによる射撃を試みる。弾道はまっすぐセシリアへ向かって発射され、ダメージは小さいながらも全て着弾した。本当に素人の動きなのかとセシリアは堪らず空中へ飛翔し一旦距離をとる。

 

「これほどの実力を持っていながら自分が優っていないなど…とんだ天邪鬼さんですわね。ですが、私だってこのまま負けるつもりはありませんわ!!行きなさい、“ブルー・ティアーズ”!」

 

セシリアの叫びと同時に背面で浮遊しているユニットから何かが射出され、それぞれが独自の軌道を描きながら地上にいる真名人のもとへ飛来する。そして、その内の一基からレーザーを発射され難なく避ける真名人だったが、別の角度に配置されたもう一基から放たれたレーザーに直撃し大きくのけ反る。更に残りの二基による波状攻撃により大幅にシールドエネルギーを削られると同時に空中への退路を断たれてしまう。

 

「うふふっ、流石にこれでは手も足も出せないでしょう?それではそのまま…ご退場願いますわッ!!」

 

地上で四基のビット相手に手間取っている真名人に向けて、静かにライフルの照準を真名人の顔面に合わせるセシリア。しかしその時、セシリアはスコープ越しにある事実に気づいてしまった。

 

「なっ…!?こ、上月さん…貴方、意識を失ってますの!?で、ではあの動きは…!?」

 

セシリアが気づいた事実。それは度重なる被弾によっていつの間にか割れていたバイザーの隙間から真名人自身が完全に意識を失っている状態であること、その状態でありながら今も尚ビットと必死の攻防を興じている動きを見せていることだ。もし真名人自身がISを操っていないのなら、現在真名人を動かしているのは…?

そんな考えがセシリアの一瞬の硬直を招き、それを察知した真名人…もといISは空中で後方旋回する動きでその場を離れ、新たに大腿部に展開したミサイルポッドから合計六発の小型ミサイルがセシリアに向けて発射される。

 

「…っ!守りなさいっ、ブルー・ティアーズ!!」

 

セシリアは真名人に向けて展開していたビットを全て戻し、ミサイルの撃墜に当たらせる。展開していた四基に加えて温存していた残りの二基を展開し迫り来るミサイル全ての撃墜に成功する。しかし、ビットによる追撃が無くなり解放された真名人はバーニアを一気に噴射し跳躍すると、左腕に装備されているレーザーブレードを展開し、きりもみ回転をしながらセシリアに光刃を煌めかせる。

 

「(展開が間に合わない!!こ、このままじゃ…やられる!?)い、インターセプ」

 

セシリアは咄嗟に接近戦用のショートブレード“インターセプター”を展開しようとするも、それよりも早く真名人のレーザーブレードが届く……誰もがそう確信したその時、突然糸が切れた操り人形のように動きを止める真名人。ゆっくりと開かれたその瞳には戦闘中に見受けられた正気の消えたものではなく、確かな意思が感じられるものに変わっていた。

 

「…オルコット、さん?」

 

その言葉を皮切りに真名人のISに表示されている全てのモニター類が一斉にエラーへ変わっていく。武装・姿勢制御・ハイパーセンサー諸々の計器類が全て制御不能となり、それによって一切の操作を受け付けなくなったISは真名人を乗せたまま空中から地表へ墜落していく。頼みの綱の“絶対防御”が発動するか定かではないまま真名人は地表に激突し、再び意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「それでは“織斑君のクラス代表就任おめでとうパーティー”を始めたいと思いま〜す!!皆の者、乾杯する準備は出来てるか〜い?」

 

『いえ〜い!!』

 

その日の夜、食堂では一組のメンバーが集結しており、名目通り一夏の代表就任を祝う為に、既にジュースを注いだコップ片手に浮かれている女生徒が大多数だ。しかし、中にはそうでない者もいた。

 

「お、おいおい…何で俺がクラス代表なんだぁ!?俺、オルコットさんに負けたし上月とは勝負すらしてないんだぞ?」

 

狼狽する一夏に対して、近くの席に座っていたセシリアが気品あふれる振る舞いを見せて納得のいく理由を説明し始めた。

 

「それなら私が代表を辞退したからですわ。私、お二方と勝負して気付きましたの。自分がどれほど狭い視野で世間を捉えていたのか…今思えば本当に情けない限りですわぁ!ですので、ここはその高い人間性に感銘を受けましたことを考慮致しまして、ぜひ一夏さんにお願いしたいのですっ!」

 

妙に説得力のある説明をするセシリア。しかし、一夏もまだ諦めてはいなかった。

 

「うっ…で、でも俺ってこういうの初めてだし」

 

「人間誰しも初めてのことは慣れないものですわ。私も出来る限りのことは協力致しますので、どうかよろしくお願い致します」

 

柔らかな物腰と口調の裏に絶対に逃がさないという気持ちの表れが見え隠れする。流石にここまで言われて逃げ切れないと諦めたのか、一夏はそれ以上の抵抗をやめた。

 

「じゃあ織斑君も無事に納得したみたいだしここからは楽しくいこう!せーのっ、かんぱーい!」

 

『乾杯〜!』

 

乾杯の音頭を取り、その後は各々談笑する雰囲気になり和やかな時間が流れる。セシリアは以前のような男性に対する強い偏見を改め、一夏に自分が何故そういった思想に染まってしまったのかを説明していた。詳しいことは省くが彼女の両親…特に父親が婿養子という立場であり、常に人の顔色ばかり伺って生きている人物だったことが深く関係しているとのこと。なので自然と世の中の男性もそう変わらないと思い込んでいたのだが、今回の二人との勝負でその考えは消え去った。そして、今までの無礼な振る舞いを深く詫びたことにより一夏やクラスに対する蟠りは無事に解消された。

その後、新聞部の副部長を務める(まゆずみ) 薫子(かおるこ)という二年生の生徒がやってきて、クラス代表になった一夏や対戦したセシリア(真名人は不在だった為、後日改めて)にインタビューと写真撮影を行なった後、速攻で逃げ帰って行った。

そんなこんなで何となくお開きになったパーティーだったが、終始浮かない顔で辺りをキョロキョロと見渡していた人物が一人。その人物をチラチラ見かけていたセシリアは一人抜け出して、その人物に話しかけた。

 

「あの、布仏さん?何かお探しですか?」

 

「ぴゃっ!?せ、セッシーかぁ…びっくりしたよぉ〜」

 

背後から突然声をかけられて、その場で軽く跳ぶほど驚く本音。テンパっているはずなのに、渾名で呼ぶことは忘れていないようだ。

 

「セッシー…?まぁ、それはいいですわ。それより先程から辺りを見回していたご様子だったので、お声を掛けさせて頂いたのですが…もし何かお探しでしたら、私もお手伝い致しますわっ」

 

そう言って、胸に手を当てながら優雅な立ち振る舞いを見せるセシリア。流石名門貴族の御令嬢といったところか。

 

「あ〜っ、えっと…探し物といえば探し物なんだけどぉ…」

 

普段の明るくのほほんとした様子から一転、珍しくどこか落ち着きがなく妙に歯切れの悪い様子の本音。そんな様子を怪訝に思ったセシリアは彼女を安心させるように声高らかに宣言した。

 

「でしたら、ここはやはり私にお任せ下さいまし!クラスの方々に御迷惑をかけてしまった分、精一杯頑張りますわっ!それで一体何をお探しですの?」

 

張り切っているお陰かやけに目を輝かせて本音に肉迫するセシリア。そんなセシリアの勢いに負けたのか、本音は探し物の正体を打ち明けた。

 

「あの、えっと……こーちん」

 

「…こーちん?」

 

本気で何のことか分からず頭の上に?を浮かべるセシリア。その反応を受けて何を勘違いしたのか、本音は長い制服の袖をブンブン振りながら赤い顔で弁明を始める。

 

「べ、別に大した用事じゃないんだよっ?おりむーのお祝いパーティーに来てないなぁって、そしたらちょっとだけ言い過ぎちゃったこと謝ろうかなぁって思っただけで…本当にそれだけだから〜!!」

 

「あっ、お待ちになって…!」

 

セシリアの静止を振り切って、本音は叫びながら一目散に会場を飛び出していった。残されたセシリアは本音の焦りぶりを気にしつつも、必死に“こーちん”の正体について考察していた。

 

「こーちんって一体何ですの?人なのか物なのか全く見当がつきませんわ…くぅ〜、もっと日本について深く知っておくべきでしたわ!私の馬鹿馬鹿馬鹿ぁ〜!!こうなったら如何なる手段をもってしても“こーちん”とやらが何なのか調べ尽くして差し上げますわ……もしもしチェルシー、突然ですがお伺いしたいことがあります。貴女“こーちん”というものが何かご存知かしら?私のクラスメイトの方がどうやらそれを求めていらっしゃるのですが、私にはそれが何なのか皆目見当もつきませんの。恐らく日本独自の何かだと思いますの……えっ、それは本当ですの!?でしたらすぐに手配して下さいましっ!はい、では明日の便で…えぇ、それでは。うふふ、布仏さんったらお腹が空いていたのなら正直にそう仰ってくだされば宜しいのに…乙女の恥じらいということでしょうか?可愛いお人ですわ♪」

 

セシリア、それ“真名人(こーちん)”やない。“名古屋の鶏(コーチン)”や。

 

 

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