ACEを目指す未熟者   作:自由の魔弾

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クラス対抗戦、後編です。
今回で第一巻の内容が終わりますので一区切りです。


ACE 7 終結、クラス対抗戦

「これは……山田先生、状況は?」

 

「はい!現在、謎のISの襲撃によりアリーナの遮断シールドが発動中。ですが何者かによる原因不明の遠隔操作を受け、シールドがレベル4に設定されて全ての扉がロックされました!観客席にいる生徒は勿論、アリーナ内には織斑君と凰さんが取り残されていて連絡が…」

 

突然の襲撃者の登場によりアリーナ全体が恐怖に包まれていた。千冬は表情にこそ出ていないが、弟の一夏と昔馴染みの鈴が孤立してしまっている上に謎の襲撃者の相手をする羽目に遭い、更に何故かアリーナの観客席が遮断されて生徒達が逃げ出せない状況に陥ってしまった。

 

「あのISの影響か……シールドの解除にはどれくらい時間が必要ですか?」

 

「すぐに作業に取り掛かりますが暫くかかりそうです。それまで生徒達に危害が及ばなければ良いのですが…」

 

真耶の報告を受けて、現状かなり不味い状況であることを再認識させられる千冬。真耶や他の教員、現状で動ける上級生達が何とか解除作業に集中してくれているが、それまでは一夏達に負担を強いることになる。何か、何か出来ることは無いのか…?そんな思いが千冬の早る気持ちを駆り立て、側で試合の様子を見ていたセシリアに指示をする。

 

「…オルコット。シールドの解除が終わり次第、織斑達の救援に向かえ。あの正体不明のIS相手に織斑達がどれほど持ち堪えられるかわからんからな」

 

「それは承知致しました…ですが、観客席で閉じ込められている方々はどうするおつもりですの!?このまま何もせずに放っておくなんてこと、ありませんわよね…?」

 

セシリアが不安と困惑が入り混じった目で千冬に訴えかける。彼女の目や言葉の端々には特定の誰かを想起させる何かが感じられたのは言うまでもない。

 

「…当然だ。どういうわけか奴の襲撃と同時に観客席には強制的に遮断シールドが発動している。そのおかげで真っ先に狙われることはないだろう…だから、そんな顔をするな」

 

「あぅ!?い、いきなり何をなさるんですの〜…」

 

そう言って、不安気なセシリアの額を小突く千冬。彼女なりの気の紛らわし方なのだろうが、それに付き合わされるセシリアにとっては堪ったもんじゃなかった。

 

「でも、もしあのISが学園のシステムを掌握しているのなら気を抜けませんよね。またいつ解除してくるかも分かりませんから、それまでに観客席に閉じ込められている生徒だけでも逃げられると良いのですが…」

 

真耶が現状を把握し、少しでも生徒に危害が及ばない様に心配の声を出す。それを見た千冬は少し考え込んだ後、ある決断を下す。

 

「……山田先生、上月のISのコアネットワークに繋ぐことは可能ですか?」

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「閉じ込められた…って、閉じ込められたってこと?」

 

「相川さん、何で同じこと二回言うんですか。しかもそんな可愛らしく小首を傾げて」

 

「こーちん、女の子にすぐ可愛いとか言っちゃ駄目なんだよっ。関心しないぞ〜!」

 

「上月君、こういうのがポイント高いんだ……覚えておこうっ」

 

「みんな、一応非常事態なんだからもっと緊張感持とうよ…」

 

観客席で閉じ込められた真名人達だったが扉がロックされて身動きが取れないこと以外は特に危険が無い為、割と楽観的な雰囲気が流れていた。この五人に限っての話なのだが。

 

「でも、これって僕等じゃどうしようもないですよね?あの扉って人力で開くようなものじゃなさそうですし、ここは大人しく救援を待ちましょうか」

 

「むっ、こーちん諦め早過ぎだよぉ!男の子でしょ〜、どうにかしてみんなを助けてよ〜!」

 

如実に現実に向き合う真名人に対して、かなり理不尽に食い下がってくる本音。突然の本音の行動に思わず困り顔をする以外になす術はなかった。

 

「どうにかって言われても……僕に出来ることなんて何もンブッ!?」

 

あくまで苦言を呈する真名人に対して、その言葉を遮るように両手で彼の頬を挟み込む本音。そのおかげでタコのように口を突き出す羽目になる真名人。

 

「こーちん!周りをちゃんと見て、みんな怖がってるでしょ?ううん、みんなだけじゃない…私だって本当は怖くて怖くてしょうがないよ。でもね、私それ以上に信じてるもん……こーちんならきっと、どんな状況でもみんなを助けてくれるヒーローになれるって!」

 

「…ぼ、僕がヒーロー?そんなこと、あるわけない……そんなこと…」

 

本音の鼓舞の言葉により、真名人の中で燻っていた想いの片鱗が見え隠れし始める。そして、それを後押しするかのように彼の首元に装着されているナナシから呼び出し音が鳴り響いた。

 

《上月、聞こえるか?織斑だ…聞こえていたら返事をしてほしい》

 

「織斑、先生……はい、聞こえてます。どうしました?いきなり僕に通信なんて…」

 

真名人の率直な疑問に少し考え込んでから千冬は口を開く。まるで何かに踏ん切りをつけるかのように。

 

《既に知っているとは思うが観客席はロックされた扉とシールドによって外部と遮断されている。しかも襲撃してきたISによってシステムの一部を掌握されこちらからではすぐに解除が出来ないのが現状だ。現在織斑と凰が相手をしているが、それもいつまで持つか分からん》

 

「そう、ですか…まさか、織斑先生まで僕に何かしろって言うんじゃないでしょうね!?」

 

《……お前が何かを危惧していることは知っている、だから無理強いはしない。だが後悔先に立たずという言葉の通りにだけはなるなよ。それを伝えておきたかっただけだ》

 

千冬はそれだけ言い残して通信を切ってしまったが、釈然としない真名人の考えはやがて一つの結論を導き出した。

 

「……はぁ、やるしかないのか。ナナシを使って、誰かを守って…か」

 

「こーちん…」

 

「やるよ。でも、どこまでやれるか分からないから」

 

いつの間にかいつもの敬語も無くなっており、もはや真名人に取り繕う余裕すら感じさせないものに変わっていく。その些細な変化に気づいたのは近くで真名人を見ていた本音だけだった。

 

「行こう、ナナシ……“僕を守って”」

 

真名人がそう呟きながらそっと右手を待機状態のナナシに添える。すると眩い光が真名人の身体を包み込み、一瞬の内にナナシを纏った姿へと変わった。依然としてその瞳はバイザーによって隠されたままだ。

 

「………」

 

ナナシを纏った真名人は特に何か言葉を発することなく、ゆったりとした足取りでロックされた扉の前に向かう。それに伴って扉の前にひしめいていた生徒達も自然と道を空ける。

 

「………」

 

扉の前に立った真名人は無言で左腕のレーザーブレードを展開し、そして扉の接合部のみ目掛けて一気に振り下ろす。光刃と扉がぶつかった際に生じる火花がその衝撃を物語っていたが、やがてナナシのレーザーブレードが接合部を全て切り裂き僅かながら扉に隙間が出来た。そのままレーザーブレードを収納したナナシは両手を隙間に入れ、持てる力の発揮して僅かな隙間を徐々に押し広げていく。そして、みるみる内に隙間は人が通れるほどに広がり、やがて完全に開いた。

 

「ひ、開いた!みんな、急いで出よう!」

 

「順番に!押したりしないでね!」

 

「上月君、ありがとね!」

 

扉が開いたのを確認した付近の生徒達が口々に真名人に対する感謝の言葉を投げかけたり、率先して避難誘導を開始する。しかし、真名人はそれらに答えることなくただただその場で呆然としているばかりだった。その様子はまるで糸が切れた人形、或いは命令の一切を受け付けなくなったロボットのようだった。

 

「…こーちん?どうしたの?ほら、早く避難しようよ?」

 

そんな真名人の様子を怪訝に思ったのか本音が立ち尽くす真名人の腕を引っ張るも、やはり何の反応も示さない。それを近くで見ていた清香・癒子・ナギの三人も真名人の様子が普通ではないことに薄々ながらも感じ始めていた。

 

「本音ちゃん、上月君どうかしたの?さっきからずっと黙ってるけど…」

 

「わ、分からないよぉ〜!?話しかけても全然返してくれないんだもん〜!?」

 

困惑する本音達を他所に真名人は封鎖された遮断シールドの方向にぐるりと巻き直すと静かに歩みを進める。そして一枚のシールドの前に立ち止まった真名人は一瞬の静止の後、その右腕部を覆うように新たに装備された特殊兵装を展開する。

 

「何あれ?上月君のおにゅーの武器?」

 

「さ、さぁ…?私に聞かれても…」

 

「でもさ、何かすっごいヤバい気がしない?さっきからずっとキュインキュイン鳴ってるし、これ離れてた方が絶対良いよねぇ!?」

 

清香達が真名人から不穏な気配を感じ取り扉の先まで急いで退避すると、そのすぐ後いきなりシールドを殴り始める真名人。突然の行動に愕然とする清香達、それを一切気にせずひたすらシールドを殴り続ける真名人。冷酷なまでに攻撃を止めない真名人によって次第にグシャグシャにされていくシールド。それに伴って右腕の装備も損傷しているかと思いきや、擦り傷一つとして受けた形跡が無い。どうやら拳がシールドに接触する瞬間に装甲表面にバリアを発生させており、破損を未然に防いでいたらしく先に音を上げたのはシールドの方で真名人の拳の威力を物語るかのように呆気なく貫通し風穴を開け見事に吹き飛んでいく。

その衝撃はアリーナ内で謎のISと戦闘を続けていた一夏と鈴にも程なくして伝わった。

 

「っ!な、何だ!?観客席の方から!?」

 

「見て一夏!あのISって…」

 

「あれは…真名人だ!良かった…無事だったんだな!」

 

空中で浮遊していた二人は突如として現れた真名人に視線をやるも、すぐにその様子がおかしいことに気づく。そしてアリーナを襲撃した謎のISは真名人の存在を確認するとすぐさま両肩に搭載されている二門のビーム砲を発射する。

 

「っ!マズい!真名人、避けろォ!!」

 

いち早くそれを視認した一夏が叫ぶが、無情にも真名人に向かって一直線に迫るビーム。誰もが避けられずに直撃すると確信したが、真名人は直撃する寸前に展開したレーザーブレードを目にも止まらぬ速さで一閃させてビームそのものを打ち消すという芸当を実践して見せたのだ。

 

「………っ!」

 

攻撃を打ち消した真名人は一気に謎のIS目掛けてバーニアを噴射すると同時に大腿部のミサイルポッドを展開させ、合計六発のミサイルが各々の軌道を描きながら確実に仕留めると言わんばかりに謎のISへ迫る。

 

『……!?』

 

迫り来るミサイル群に対応する為、一瞬真名人を視界から外し両腕部のビーム砲を発射し続ける謎のIS。しかし、その僅かな時間ミサイルの飼い主である真名人の存在を失念したのが仇となる。

謎のISによって六発全てのミサイルが撃墜され連鎖的に小規模な爆発が起こり周辺の視界を悉く遮っていく。

 

「くっ…どうなったんだ!?真名人は何処に…?」

 

「……いた!あいつの真上!」

 

アリーナ上空で滞空していた一夏と鈴はミサイルの爆発によって発生した煙の中から急上昇して飛び出てくる真名人の姿を確認する。そしてそのまま空中で身体を翻し、謎のISの頭頂部目掛けて急降下する真名人。その手に持つレーザーブレードの切先を謎のISに向けて、バーニアと重力を味方につけて降下する速度に拍車を掛ける。その速さは正しく神速と呼べるものだった。

 

「まさかあいつ…そのまま突っ込む気!?あれじゃどっちもタダじゃ済まないわよ!?」

 

「…いや、もしかして真名人も気づいたのかも。多分、あれって“人が乗ってない”よな?」

 

「……はぁ?一夏、あんた何言って」

 

一夏の突拍子の無い、だが何処か確信を持った言葉に戸惑いを隠せない鈴だったが、次の瞬間には耳をつんざくような轟音と衝撃波が押し寄せて彼女のそれ以上の言葉を遮った。全てが過ぎ去った後、二人の目の前に飛び込んできたのは急激な速度で地面を滑走しながらブレーキをかけて止まる真名人とその背後で胴体から頭部が切り離され宙を舞う謎のISの姿だった。

 

「あいつ……なんて奴なのよ、本当にやるなんて…」

 

「……おい、鈴。やっぱりあのISって人が乗ってなかったんだよな?だから真名人も躊躇無く、その……っ!?ま、真名人!!後ろだッ!!」

 

真名人によって頭部を切り落とされて雪崩れ込むように地面に倒れた謎のISだったが、最後の足掻きとも取れる両肩のビーム砲が静かに真名人を狙い撃つ。それにいち早く気づいた一夏の叫びも虚しく発射される二門のビーム砲、しかし真名人は予め予測していたかのように振り向きざまにレーザーブレードで自身に迫り来る一筋の光条を切り裂いていく。そして一気に距離を詰めて再起不能にさせるべくバーニアを噴射しようとした真名人だったが、急に動きを止め何かに引きつけられたように謎のISとは正反対の方向に飛び立つ。

 

「……!ま、にあ…え…!」

 

ここへ来て初めて失われていた自我を取り戻した真名人。さっきまでの卓越した操縦技術はまるで嘘のように拙い飛行に変わっていたが、そのスピードは先ほどとは引けを取らない程の速さだ。その甲斐あってか真名人の目的は無事に達成されたのだった。

 

「なっ…!?こ、上月…何故、貴様が…!?」

 

謎のISが放ったもう一方のビーム砲がアリーナの観客席で何故か逃げずにいた箒へ真っ直ぐ迫るも、それを自らの身体で受け止めて彼女を守った真名人。しかしビーム砲の直撃を受けた真名人の体躯はいとも簡単に堕ちていき、地面に激突すると同時に再び彼の意識も手放すこととなる。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

放課後、医務室に備えてある二つのベッドに仕切りを挟んで並んで眠りについている真名人と一夏の姿があった。何故一夏までここにいるのかというと、真名人が撃墜された後に謎のISに対して鈴の援護を受けつつ捨て身の特攻を仕掛け、自身も攻撃を受けながらも今度こそ機能停止に追い込んだことに起因する。傷自体は軽症で済んだ一夏だったが疲労感からかその場で倒れるように意識を失ってしまい、そのまま医務室に運ばれたという流れだ。

そして、その傍らには倒れた一夏を心配する鈴の姿があった。

 

「全く…なんでザマよ、あたしに目に物見せるって息巻いたくせに自分は先におねむ?でもまぁ…ちょっとだけ、そういうあんたもカッコ良かったけどね…この、このっ」

 

口ではそう言いつつも、その顔には年相応の少女の乙女心が滲み出ていた。自分で言ってて急に恥ずかしくなったのか、静かに寝息を立てる一夏の頬を指で突いて照れ隠しをする鈴。やられている本人としては堪ったものじゃないが、意識のない時であることがせめてもの救いだろう。しかし、その時間もすぐに終わりを告げることになる。

 

「失礼致しますわ!先生、一夏さんと真名人さんの容態は……って、鈴さん?貴女、一体何をなさってますの?ま、まさか…抵抗できないのを良いことに一夏さんに邪な悪戯を!?は、恥知らず!!」

 

「は、はぁ〜!?ちょっと何とんでもない勘違いしてんのよセシリア!!あたしはそんなことこれっぽっちも考えてないから!」

 

「そんなの嘘ですわ!?そうやって私を誑かそうとしても無駄です!鈴さんの魔の手からお二人をお守りするんですの〜!!」

 

医務室に飛び込んでくるやいなや部屋に誰もいない且つ意識を失っていて抵抗できないのを良いことに一夏に覆い被さって猥褻な行為を働こうとする鈴(※セシリア視点)を目撃し、すぐさま二人から引き離そうとするセシリア。当然そんなことはあり得ないのだが、盲目状態になっている現在のセシリアに冷静な判断など下せるわけもなく必死で鈴との格闘を興じていると、事件の発端でもある一夏が騒ぎに気づいて眠りから覚めた。

 

「…んっ、うぅ…あれ?ここは……鈴?それにセシリアも…って、何やってんだ?二人で抱き合ったりして」

 

『一夏(さん)!?これは、その…』

 

目を覚ました一夏の目に飛び込んできたのは何故か組み合っている鈴とセシリア。どう言い訳しようか狼狽している二人よりも先に一夏なりの結論を導き出した。

 

「あっ、そうか!俺が寝てる間にスゲー仲良くなったんだな!これが代表候補生の絆ってやつか!」

 

『何でそうなるのよ(そうなりますの)!?』

 

あまりにも楽観的過ぎる一夏に息を揃えてツッコむ鈴とセシリア。確かに側から見れば出会って数日でここまで息ピッタリなのであればそれは仲が良いと言わざるを得ないだろう。あんなことがた後だというのにそれを感じさせないくらいにその場の雰囲気は和やかで穏やかなものだった。

 

「失礼します。負傷した織斑一夏の容態はどうで……い、一夏!もう起きても平気なのか!?」

 

「箒?あぁ、さっき起きたばっかでまだ身体が怠いけど何とかな」

 

一夏達が談笑していると、今度は箒が医務室に飛び込んできた。急ぐために走ってきたのか肩で息をしながらも、一夏の無事を確認した彼女の表情にも思わず安堵の笑みが溢れる。

 

「そ、そうか!それなら良いのだ…だが、あの程度の相手に苦戦するなどまだまだ鍛錬が足りんぞ、一夏!」

 

「…ちょっとあんた、それより先にすることあるんじゃないの?」

 

無事だと分かった途端に一夏に喝を入れる箒だったが、その様子を傍らで見ていた鈴が普段の快活さとはかけ離れた冷静な口調で言葉をぶつける。あまりの迫力に思わず圧倒されそうになる箒だったが、グッと堪えて鈴の言葉の真意を問う。

 

「お前は、確か一夏の中学時代の幼馴染……私に何か言いたいことがあるようだな?」

 

「まぁね、でもあたしってより真名人が言いたいことよ。口きけない真名人の代わりにあたしが言ってあげるだけ……セシリア、良いわよね?」

 

そう言って鈴は何故かセシリアに承諾を得る。しかもセシリアの方も自分に振られることが分かっていたのか、特に驚く様子もなく淡々と了承した。

 

「…止めろと言ってもどうせ聞かないでしょう?今回当事者ではありません故お譲り致しますので、鈴さんのお好きな通りになさって下さいまし。その間、真名人さんには私が付いて差し上げますわ」

 

「んっ、ありがとね。じゃあ部屋の外に行きましょ、ここじゃ迷惑になるから」

 

「あ、あぁ…そうだな。一夏、少し席を外すがしっかりと身体を休めるのだぞ?」

 

「えっ?お、おう…分かった」

 

流れるように話が進み過ぎて若干置いてけぼりを食らう一夏。そんなことは気にせずに鈴と箒は医務室の外へ、セシリアもまた仕切りの向こう側の真名人が寝ているベッドへ向かってしまい今度こそ身体を休める以外の選択肢を奪われてしまったので、素直に諦める一夏だった。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「全く、どうしてこうも面倒ばかり起こるのか。もはや何者かが画策しているとしか思えんのだが……むっ、あれは篠ノ之?何故凰と一緒にいるんだ?」

 

謎のISによる襲撃後、一夏達によって行動不能にされたISの回収・解析作業に追われ漸くそれらを終えた千冬は負傷した一夏と真名人が運び込まれた医務室に遅れて向かっていた。その道中で箒と鈴が何かを話している現場に出くわしてしまい、咄嗟に壁際に身を隠して聞き耳を立てる。

 

「ーーーーって、言ってんの!あんたがーーーーーれずに済んだんだから!」

 

「何を言うか!私はただーーーーだけだ!それを言うなら貴様だってーーーー!上月が来る前に倒していればーーーー!」

 

「はぁ〜!?何よそれ!都合悪いからってこっちに責任転嫁しないでよ!?」

 

「こちらとてそれは同じだ!上月にならまだしも関係のない貴様にとやかく言われる謂れはない!」

 

「…おい、止めんか馬鹿共。病人が居る部屋の前で騒ぐな」

 

『ち、千冬さん!?ぐえっ!?』

 

口論が激しさを増す一方でいつまで経っても着地点が見えない様子を見て堪らず二人の前に姿を現した千冬だったが、感情的になって周りが見えていない二人に学園内で禁止している“名前呼び”をされ即座にその脳天に手刀を叩き込むことによって事態の沈静化を図る。

 

「織斑先生だ、いい加減覚えろ。それで、一体何を言い争っている?」

 

「うぅ…!痛〜い!?ちふ「あぁ?」お、織斑先生…あたしはこの子に自分のしたことがどれだけ危険なのかを教えてただけです!そしたら自分は悪くないって突っぱねてきて…」

 

「そうは言っていないだろっ!助けてくれたことには感謝しているし恩も感じている。私を庇った所為で上月が負傷したのが明白な以上詫びも入れるつもりだが、それを上月本人から言及されるのなら甘んじて受け入れるが何故関係の無い貴様から責められなければならない!」

 

「そんなの決まってんでしょ!真名人が喋れないからあたしが代弁してあげてるんじゃない!それに真名人の性格からしてあんたに謝らないで良いとか言い出すかもしれないから、責任はきっちりとってもらうって約束させるのは当然でしょ!」

 

「何を勝手なこと…大体貴様は上月の何なのだ!?」

 

「はぁ!?ただのルームメイトですけど何か!?」

 

「全くの部外者ではないか!これは私と上月の問題だ!ルームメイト如きに口出しされる謂れはなヘブッ!?」

 

「はぁ?何素っ頓狂な声出してグギャ!?」

 

口論が更にヒートアップしてきたところで再び千冬による制裁チョップが炸裂し、沈静化に成功する。

 

「状況は理解した。だがこれ以上無駄に盛り上がるな。手間が増えるだけだ……篠ノ之は私が預かる、だから凰はこれ以上言及するな。この意味は分かるな?」

 

千冬に諭されて思わずグッと堪える鈴。ここから先は自分の領分だという合図だと理解させられ、渋々それを了承した。

 

「…分かりました。でも、もし今度会った時にこの子の態度に不満があったら……あたし、容赦しませんから」

 

鈴はそれだけを言い残して再び医務室の中へ消えていった。廊下には面倒くさそうに頭を掻く千冬と申し訳なさそうに黙っている箒が残された。それを察したのか不意に千冬が口を開く。

 

「はぁ…何がそこまであいつを突き動かしたのかは知らんが、面倒見が良いのもあそこまで来ると厄介だな。本人の意思も確認せずに推し量るなどかえって迷惑というものだというのに。お前もそう思うだろ?」

 

「それは…!ですが、彼女の言うこともごもっともです。一夏の無事を確認してどこか心が浮ついていたのかもしれません。悔しいですけど、それは認めざるを得ないです…」

 

千冬は内心驚きを隠せなかった。自分の知る篠ノ之 箒という人間がまさかこんなにもあっさりと自分の非を認めるとは思いもしなかったからだ。特に一夏関連のことに関しては今まで一度だって譲らなかったのをずっと見てきた。だからこそ今の反応はあまりにも新鮮過ぎた。

 

「…驚いたな。まさかこうも簡単に凰の言い分を呑むとはな。正直篠ノ之には平手と反省文でも足りんとは思っていたが、どうやらそうじゃないらしい。どういう心境の変化だ……まさか、男でも出来たか?」

 

「揶揄わないで下さい。これでも武道に精通している身、自分の誤ちは自分で正せるつもりです。確かに彼女の言う通り、まず最初に上月の身を案じるべきでした」

 

そう言って深く反省をしている様子の箒。千冬はそれを見てついさっきまで言おうとしていたことを改め、別の言葉を投げかけることにした。

 

「そうか…。ならばここで今回の件での処分を言い渡す。篠ノ之、お前は生身であるにも関わらずあの場にしゃしゃり出て案の定襲撃者の攻撃によって危機に陥り、そしてそれを庇った上月を負傷させる原因を作った。よって今回は……“上月が復帰するまでの間、謹慎”とする」

 

「……それだけ、ですか?」

 

想定よりもあまりにも軽い処分を下されて呆気に取られる箒。千冬は内心面白がりながらも言葉を続ける。

 

「何だ、不服か?まぁ本来なら一週間謹慎くらいは妥当だろうが、本人に反省の念が感じられるからな。上月が復帰するであろうせいぜい二、三日の謹慎で手を打つ。私としては不問でも構わないがそれでは他の者に示しがつかないからな。それまではしっかりと反省しろよ?」

 

「は、はいっ!分かりました…それじゃ今から準備しますのでこれで失礼します」

 

千冬に処分を言い渡され、その場を後にしようとする箒。しかし、すぐに千冬に呼び止められた。

 

「あぁ、すまない。もう一つ言っておかなければならないことがあったのを忘れていた」

 

「?」

 

呼び止めたのは良いが、何故かそこで躊躇いを見せる千冬。どうやら言葉を選んでいるらしく、途絶えた言葉の続きが出るまで少々時間がかかった。

 

「…今回襲撃してきたISを解析している最中に判明したことなのだがな、使用されていたコアは未登録のものであり“無人機”だった。つまり“存在し得ないはずの468番目”ということになる。今のところ確証は無いがもしそんな巫山戯たことがあり得るとすれば……やらかすのはアイツ以外に考えられない」

 

千冬が苦虫を噛み潰したような表情でその事実を告げると、彼女の思い描く人物と箒の思い描く人物が合致してしまう。

 

「それってまさか……姉さん!?」

 

二人が思い描く人物。それはこの世界においては誰よりも重要な人物。何故なら彼女こそこの世界にISをもたらした張本人であり、そして今も全世界が血眼になってその行方を探しているはずの箒の実の姉だった。

 

 




本日の一言

「部屋割りの調整が済んだことを知らせに来ただけのつもりだったのに、まさか寝ている上月君の着替えを手伝うことになるなんて!?と、年下の男の子とはいえ上月君は私の教え子です!副担任として決して変な気は起こさないようにしないとっ!でもやっぱり緊張するな〜…」

by 山田 真耶
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