ACEを目指す未熟者   作:自由の魔弾

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第二巻の内容に入る前に色々補っておきますの回。


ACE 8 束の間の休息を君に

 

突然の襲撃に遭いながらも無事にクラス対抗戦を終え、学園内にも再び平穏な日常が取り戻されつつあった今日この頃。この生徒もその内の一人である。

 

「今日こそは、進めないと…。じゃなきゃ、いつまで経ってもお姉ちゃんに……んっ、あれは…?」

 

かつて整備室で真名人と邂逅した女生徒。今日こそ自分の愛機を完成させるべく放課後の廊下を歩いていると視線の先に人だかりが出来ていることに気がつき、咄嗟に物陰に隠れて聞き耳を立てる。

 

「どぉ?彼、そっちにいた?」

 

「ううん、全然見つからない!?もぉ〜、寝起きなのにどこ行っちゃったのかなぁ!上月君ってば」

 

「病み上がりで心配だし、早く見つけなきゃだね!何たって一番最初に見つけたら……ぐふふっ♪」

 

「馬鹿っ!それは一組勢だけの話でしょ!ただでさえこの前のクラス対抗戦の一件で、上月君のこと気になり出してる子増えてるんだから!ほら、他の子達に“悪戯”される前にちゃっちゃと捜すよ?」

 

恐らく一組の生徒であろう彼女達がしきりに話題に上げていた“上月君”なる人物、女生徒の中で心当たりがあるったらなかった。

 

「上月…って、多分あの人…だよね。居なくなっちゃったんだ……悪戯って、何だろう…?」

 

女生徒は素朴な疑問に戸惑いつつもすぐにその考えごと振り払い、当初の予定通り普段から利用している整備室へと足を進めた。その道中、様々な憶測や考えを巡らせるも結局は真名人が何処に行こうとも自分とは何の関係も無いのだと割り切って整備室の扉を開いた。

 

「…おっ、丁度良いところに!君に見てもらいたいものがあって、今から捜しに行こうと思ってたんです。さぁ、こっちこっち!」

 

「えっ、えっ?な、何なのいきなり…!?」

 

扉を開けて目の前に居たのは、つい先程まで他のクラスの女生徒達が探し回っていた上月 真名人その人だった。彼は女生徒の姿を見るや否やいきなり彼女の手を取り、整備室の奥まったスペースに佇んでいる搭乗部分がぽっかりと空いた自分の愛機である“ナナシ”の前に半ば強引に連れていく。訳も分からず真名人に誘導される女生徒だったが、以前見たある部分と機体の側のディスプレイに投影されている今回のパーソナルデータでの違いにすぐ気づき小さく驚きの声を漏らした。

 

「あっ……ここ、前に見た時の杜撰な組み方じゃなくなってる。ううん、それよりもかなり複雑だけど、緻密な調整が施されてるんだ…!修理と同時に内部パーツそのものを別のものに交換して機体出力と制御効率を12%も向上させるなんて…それにCPU処理能力、CPUサイクルに注目することでミサイルポッドのオペレーティングシステムそのものをアップグレードに成功してる…。追尾性能が前回よりも高い数値を叩き出してるし、これならかなり無理矢理な軌道を描きながら目標を攻撃できるはず……なら複数のアプリケーションによる命令をマルチタスクで処理するために容量を増やした?いや、でもそこは前回のデータを見る限り交換した形跡が無いし……むぅ…」

 

「あ、あの…そんなにのめり込むとは思ってなかったんですけど。前に出来てなかった所がちゃんと出来るようになったよっていうのを見てもらいたかっただけで……あっ!まだ触っちゃ駄目!」

 

「へっ?あっ…」

 

あまりの豹変ぶりに困惑する真名人、そしてそれをものともせずに機体とディスプレイを交互に見やる女生徒。そののめり込みっぷりを普段の彼女を知る人間が見ればまさに別人だと揃って言うだろう。しかし、それも彼女がナナシに触れたことにより落ち着きを取り戻すことになる。

 

「言い忘れてたんですけど…僕のISは少し特殊で、僕以外の人が触れると勝手に待機状態に戻ってしまうんです。まぁ、またすぐに展開出来るので手間ではないんですけどね」

 

「ご、ごめんなさい…でも、これってあなたがやったの?どうやってこんな複雑な組み方思いついたの?」

 

「えっ?あー、いや…まぁ確かに作業したのは僕ですけど、色々教えてくれたのはうつ…じゃなかった、僕のお師匠様なんですよ。だから僕一人の力ではなくてですね…」

 

女生徒の期待のこもった眼差しを向けられて堪らず事実を告げる真名人。ついこの前まで素人だった自分が短期間でここまでの成果を上げることが出来たのは助力あってのことだと。しかし、真名人がそれを口にすればするほど謙遜だと捉えてしまう女生徒。それほどまでに彼女は内心舞い上がっていた。

 

「そんなこと、ない…!前は目も当てられないくらい、酷かった。でも、これは凄い…と思う」

 

やや興奮気味に真名人へ向き直す女生徒。以前彼女にこっぴどく物申された真名人としては、今回で完全に汚名返上が達成されたのでどこか誇らしげといった様子が垣間見える。

 

「そ、そうですか?でも君にそう言ってもらえると、何だか特別嬉しいですね…」

 

「えっ?そ、それって…」

 

真名人の思いもよらない言葉に驚きを隠せない女生徒。その反応を見て自分の発言が軽はずみだったことに遅れて気づいた真名人は慌てて取り繕う。

 

「あっ…い、今のはそういう意味ではなくてですね!?あの、ほら前に君に言われたでしょう?ISと本気で向き合ってないって。あれから勉強を始めて、知識を身につけていく度にその通りだなって思い知らされましたよ…だからそのことに気づかせてくれた君には本当に感謝してるんです!ただそれを伝えたかっただけなのに、何でこんなにおかしくなってしまうんだろう…?」

 

「……ぷっ、ふふっ…ふふふ…」

 

真名人が疑いを払拭しようと弁明を続けていると、いつの間にか身体を小刻みに振るわせながら真名人から視線を逸らす女生徒。よく見ると彼女は笑いを堪えているようだ。

 

「あ、あれ?どうしました?何か気を悪くするようなこと、言っちゃいました!?た、確かに今のは言葉尻を捉えればそういう風に聞こえてしまうのも仕方ないかもしれませんけど…!?」

 

「弁明、必死過ぎ…そんなに本気で説明しなくても、勘違いとかしないよ?」

 

女生徒のあまりにも気持ちの良いぶった斬られ方に思わず言葉を失ってその場で膝から崩れる男、真名人。ほんの少しでも自分に自信を持てるなんて思ったのも束の間、やはり世間は自分が考えているよりも甘くないという揺るぎない事実を突きつけられる。今、彼の脳内には“勘違い”という単語が静かにリフレインしていることだろう。女性経験が皆無の真名人にとっては所謂“良さげな雰囲気”を醸し出していたとしても心地良く対応することなど出来ず、かの有名な一夏と違って容姿や話術も自他ともに認める並レベル。一瞬でも淡い期待を抱いた真名人に立ちはだかる現実という名の高過ぎる壁。要するに女生徒目線、真名人相手では男性として意識することは限りなくあり得ないと暗に言われているのと同義なのである。

そんなこととは露知らず、しゃがんですっかり打ちのめされた真名人の顔を覗き込む女生徒。

 

「…どうか、したの?」

 

「い、いや…何か、世の中って世知辛いなぁ〜って」

 

「…変なの。それよりここに来る途中、あなたのことを捜してる人達がいた。黙って抜け出してきたんでしょ…?」

 

「…もしかして、その人達って一組の人達じゃなかったです?」

 

真名人の問いかけに対してこくんと小さく頷く女生徒。その反応を受けて思わずげんなりしてしまう真名人だった。

 

「…やっぱりか。いや、その人達って特別な思惑がある方々なので…。教えてくれてありがとうございます。じゃあ騒ぎになる前に戻ることにしますね……うぅ、今から寒気がしてきた」

 

「えっと…その、頑張って。上月…君」

 

真名人は女生徒にお礼を言うと、ナナシを待機状態に戻して整備室を後にする。そんな真名人の背中に向かって誰にも聞こえないほど小さく言葉を投げかける女生徒。その表情は何処か穏やかなものに変わっていたのだが、それは彼女本人すら全く気づいていなかった。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「全く…起きて早々に外出とは、元気過ぎるのも考えものだな」

 

「はぁ、はぁ…お、織斑先生〜!大変なんです〜!?」

 

休日にも関わらず学園に出勤して山のように積まれた書類を半ば流し目で処理する千冬。そんな彼女のもとに副担任の真耶が半泣きになりながら駆け込んできた。

 

「どうしました、山田先生。顔が大変なことになっていますよ。男が見たら逃げ出すくらいに」

 

「へぇ!?ほ、本当ですかぁ!?やだぁ、私ったら…って、そんなのどうでもいいんですっ!織斑君と上月君が居なくなっちゃったんですよ!本当は昨日のうちに二人に部屋割りの調整が済んだことを報告するはずだったのに、そのことをうっかり忘れてしまいまして……あぁ〜、私の馬鹿馬鹿〜!?」

 

そう言いながら自分の頭をポカポカ叩く真耶。堪らず千冬が宥める。

 

「落ち着いて下さい。二人の行き先なら…ここに」

 

「へっ?これって外出許可書ですか?いつの間に…」

 

千冬が山積みの書類の中から取り出した二枚の紙きれ。それには一夏と真名人それぞれの名前と外出先、そして外出理由が記載されていた。

 

「織斑は中学時代の友人に会いに行くと。上月も一度自宅に帰りたいと今朝私の所に提出しに来た次第です。男二人でずっと肩身の狭い思いを強いてきたのです、たまには羽休めも必要でしょう……って、何ですか山田先生?その微笑ましい笑みは」

 

「うふふ♪織斑先生、今すっごく可愛い表情してますよ……って、にゃにしゅるんでしゅか〜!?」

 

「…自分の失敗を棚に上げて生徒思いの善良な先輩をイジる不真面目な後輩を躾けているだけです。おっ、これはまたよく伸びる…あっ」

 

千冬が罰の意味も込めて(ほとんどは真耶に恥ずかしいところを追及されたことに対する私怨なのだが)、彼女の言葉を遮る形で頬を摘み横に引っ張る。普段は女生徒達の憧れの存在である彼女が時折見せる子供っぽい言動が真耶のツボなのである。だから後から仕返しされると分かっていても千冬に対するイジりがやめられないのだ。

 

「だ、だからってほっぺ引っ張らないで下さいよぉ…でも、彼らだけで学園外を散策するのは少し危険なのでは?」

 

「…それもそうですね。では仕事が終わり次第、織斑には私が付きましょう。山田先生には…」

 

「分かりました!じゃあ私は上月君の所に行けば良いんですね?頑張りますよ〜」

 

その大きな胸の前で拳をギュッと握りしめて意気込む真耶だったが、即座に千冬によって否定される。

 

「いえ、そちらには既に人をやったので山田先生が向かう必要はありません。それよりもやってほしいことがあります」

 

「やってほしいこと?私に…ですか?」

 

頭の上に?を浮かべる真耶に対して千冬は先ほどとは別の書類を手渡す。そこには誰もが目を見張る事実が記されていた。

 

「今度一組に転入してくる二人の生徒です。その内の一人はフランスで発見されたそうですよ……“三人目”としてね」

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「織斑先生に言われて初めて学園の外に出てみたけど、やっぱり帰ってきてないか…“義姉さん”」

 

千冬達が話しているのと同時刻、真名人はずっと空けていた我が家に帰ってきていた。しかし彼の目的が達成されることはなく、その心は何処か晴れない様子。

 

「色々と話したいこともあったんだけどな…。せめていつ帰ってきてもいいように少し掃除して綺麗にしておこう。その後は…手紙でも残しておこうかな?うん、そうしようっ」

 

そう言って慣れた手つきで室内を歩き回り約二ヶ月間空けていた我が家を掃除し、それが終わると同時に紙とペンを取り出すと、簡素ながらも自分の思いの丈をしたためる。つい二ヶ月前にやりたい仕事に就職が決まった関係で離れて暮らすことを告げられたばかりなのに、それが遥か昔のことのように懐かしく感じる真名人。気づけば紙から溢れ出すほどに筆を走らせていた…このままでは歯止めが効かなくなると自制心を強く持つ真名人。早い話、彼はドがつくほどの姉好きなのだ。

 

「よし…これで、オッケーかな♪義姉さん、また暫く帰って来れないけどいつかゆっくり話がしたいな…じゃあね」

 

真名人は思いをしたためた手紙を残して、家を出て再び鍵を施錠する。男性IS操縦者としての立場が発覚した以上、気軽に会うことは出来なくなってしまったが無事に生きてさえいればいつかきっと…その思いだけを胸に新たな目的を果たしに行くのだった。

 

「……?今、誰か居たような…」

 

そのすぐ後、ふいに何かの気配を感じて振り返る真名人。しかしそこには人の気配はおろか虫一匹すらいなかった。ならば、彼が感じた違和感は一体…?

 

「気のせい、なのかな?病み上がりでまだ疲れてるのかもしれないな…次で最後にしよう。そうだ、帰る前にあの人に会って行こう…!」

 

真名人はそれ以上の考察をやめて、ずっと気がかりだったある人物のもとへ向かうことにした。すると、暫くして真名人が離れて行ったのを確認した人物が物陰から顔を覗かせた。

 

「…っと、危ない危ない。もうちょっとで尾行がバレちゃうところだったわ。それにしても意外と感が鋭いのね、彼って。まさか気配消してたのに気づくなんて……そんなことされたらお姉さん、益々興味湧いてきちゃうじゃない♪」

 

物陰から真名人が居た場所を見つめる謎の人物。目深に被った帽子の先を右手で持っていた扇子で軽く押し上げると、サングラス越しにその鋭い眼光を放つ。しかし、突如鳴り響く携帯の呼び出し音に邪魔され半ばイライラしながら対応する。

 

「…ちっ、もう掴んだか。意外と早かったわね……よしっ。もしもし〜♪虚ちゃんがお掛けになった番号は現在ものすごぉ〜〜〜く重要なお仕事の最中なので、例え今すぐ戻って来いと言われても学園に戻ることが出来ませ〜ん!てへぺろりんっ☆諸々落ち着いたらこっちから連絡するのでそれまでは私抜きで溜まりに溜まった書類の処理をして《……はぁ?》ヒィ!?あ、あの…そんなにドスの効いた声出してると、周りの男の子達が怖がって逃げちゃうよ〜なんて《会長》ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい〜っ!?」

 

が、ものの数秒で電話の相手に陥落する。さっきまでの気丈な姿は何処へ行ったのか…。

 

《はぁ……会長が織斑先生の頼みで外出していることは分かっています。ですからそのような下らない嘘を吐かなくても大丈夫ですよ…と先ほどまではそう申し上げようと思っていましたが、やはり帰ってきたらお説教が必要でしょうか?》

 

「う、虚ちゃん!?それだけは勘弁して!お願いっ!帰ったら何でも言うこと聞くから!《何でも?》あっ…」

 

人通りの少ない道の真ん中でジタバタと身振り手振りをしながら一人格闘する姿は、誰がどう見ても変質者のそれである。

 

《言質は既に取ってありますので、しっかりと用事を済ませて帰ってきて下さいね。それまでは私が引き受けますので…それでは》

 

「あっ!ちょっ、待って……あぅ〜、切られたぁ…。まぁ、今回ばかりは仕方ないか。よ〜しっ!張り切って監視頑張っちゃうわよ〜!!」

 

「ママ〜、あのお姉ちゃんがおっきな声で言ってる“かんし”って何〜?」

 

「…気にしなくていいのよ、良い子だからね〜」

 

偶然近くを通りかかった親子にドン引きされるくらい、彼女は真面目でストイックだった。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「あ〜あ、休みの日ってほんっとに退屈ねぇ〜。何か面白いことないかなぁ……ん?あそこにいるのって…」

 

更に時を同じくしてIS学園では新たな火種が生まれようとしていた。休日ということもあって大半の生徒が買い物やら何やらで出払っている中、特にやることもなく完全に暇を持て余していた鈴は部屋にいても気持ちが沈むだけなので手持ち無沙汰を解消する為に闊歩していると、真名人の部屋の前で扉をノックしようとしてでもまたその手を引っ込めてを繰り返している人物を発見する。第六感的にこれは暇つぶしになると直感した鈴はすかさずその人物に話しかけることにした。

 

「人の部屋の前で何してんのよ、セシリア」

 

「はい?……り、りりりり鈴さんっ!?ど、どうして……って、それより丁度良いところにいらっしゃいましたわ!早く開けてくださいまし!」

 

鈴の姿を見た途端、血相を変えて鈴に詰め寄るセシリア。眼前に迫る彼女の迫力に圧倒されながらも、状況を飲み込む為に話を聞くことにした。

 

「はっ?何であたしが…大体あたしもうこの部屋の住人じゃないし、鍵持ってないわよ」

 

「そんなぁ!?あぅ…真名人さんをお茶のお誘いにと参りましたのに、いくら声を掛けても返事が無いんですの!もしかしたらまた体調を崩されて倒れているのかもしれませんわ…!だとしたら誰にも助けを求められずにいることに…あぁ〜!私は一体どうしたら良いんですの〜!?」

 

セシリアが本気で心配してるのか、はたまた全部知っててあえてのポーズなのかもはや判別出来ない鈴。一応、確認の意味も込めて自分が知り得た情報を開示してみる。

 

「今更かもしれないけど…今日は真名人、学園には居ないわよ?何か久しぶりに家帰るって「鈴さん…今何と?」へっ?いや、だから今朝会った時に言ってたのよ。千冬さんに許可貰ったから、久しぶりに住んでた家に帰るって…言ってた、けど…」

 

発言を続けるにつれて尻すぼみになる鈴。何故そんなことになっているかというのは目の前で不敵に微笑むセシリアが原因であったことは言わずもがな。

 

「お家…真名人さんの……何で、何でそんな美味しいイベントがあることを内緒にしてたんですの!?」

 

「いや、別に内緒にしてたわけじゃないんだけど…そもそもセシリアと話すの今日は今が初めてでしょ」

 

鈴の言うことはごもっともだが、現在進行形で悶えているセシリアにはその言葉は届かない様子だ。

 

「くぅ〜!?まさか私の与り知らぬところでそんな事態になっていたなんて!もし予め知っていれば真名人さんのご実家に招待して頂けてたかもしれませんのに……あぁ〜!私の馬鹿馬鹿ァ!こうなったら私の持てる力の全てを注いで真名人さんの交友関係を調査し、ひいてはその強さの秘訣を…」

 

「…なんか一周回って楽しそうね。じゃあ可哀想なあんたにコレを見せてあげようかしら。ほれっ」

 

ぶつぶつと一人呟くセシリアをまるで可哀想なものを見る目で眺める鈴だったが、ふと何か妙案を思いついたのか携帯に保存している何枚かの写真をセシリアに見せた。

 

「………んなっ!!こ、これは…!?」

 

写真を見せられて恐らくニ、三秒硬直していたであろうセシリアが遅れて驚愕の声をあげた。その様子を見て鈴はニンマリとした笑みを浮かべながら詳細を説明し始める。

 

「そ、これはまだルームメイトだった時に面白がって撮った真名人の秘蔵写真コレクションよ。何かの役に立つと思って撮っておいたのよね〜」

 

「就寝中の真名人さん、寝起きで無防備な表情のものも…着替え中の写真も!?そ、そして何と言っても…し、シャワー上がり直後の際どいものまで!?あ、貴女に良心の呵責というものはありませんの!?」

 

「鼻血ダラダラ垂らしながら言われても全然説得力無いっての。それに一応真名人にも了承は得てるし、あんたが悪用しない限りはまぁ問題無いってわけ。これだけ言えば後はどうすればいいか分かるわよねぇ?」

 

一瞬の静寂が二人の間に訪れ、それが取引の合図となる。だが、セシリアとて黙って鈴の言うことを聞くほどプライドを捨ててはいなかった。

 

「…一体、私にどうしろと仰いますの?このセシリア・オルコット、クラスメイトであり良き友人でもある真名人さんを貶めるような真似は致しませんわ!!」

 

「べっつにぃ〜。普段一緒に居られないあたしの代わりに一夏の情報を寄越してほしいだけよ。大したことじゃないし、引き受けてくれるでしょ?」

 

流し目でそう要求する鈴に対して、セシリアはフッ…と微笑んで憮然とした態度でその申し出に異議を唱えた。

 

「何と…真名人さんだけでなく一夏さんにまでその様な下衆なことを?ならば私の答えは既に決まっております。私、セシリア・オルコットはその様な恥ずべき行為など断じて協力致しませ「あっ、言い忘れてたけど真名人の秘蔵写真これだけじゃないから。もし協力してくれるなら……もっと“えっちぃ”やつ、特別に見せてあげるけど?」鈴さんは私の大切な友人ですもの。その申し出を断ることなど有り得ませんわ!」

 

折れた。セシリア・オルコット、鈴の巧妙な話術によって陥落した。互いを認め合うかの様にガッチリと握手を交わす二人、ついさっきまでの勇敢な姿勢など見る影もなく悪の道に染まったセシリア。もはや彼女の頭の中には真名人や一夏に対する罪悪感よりも己の欲に従う本能だけが渦巻いているのだろう。

 

「んじゃ、これからは共同戦線ってことで。それで、あたし今猛烈に何かつまみたい気分なんだけど…良かったら食堂来る?」

 

「鈴さん、貴女意外と策士ですのね。えぇ、是非ご一緒させて下さいまし。とびきり凄い写真じゃないと怒りますからねっ」

 

お互いににこやかな笑みを浮かべて食堂へ歩みを進める二人。全く違って全く同じ思惑を抱きながら…。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「たくよぉ……この俺様が奉仕作業なんてさせられるとは…今度会ったらあのハゲ親父、絶対ェただじゃおかねぇからな「お兄さん、あの時の恨みを返しに来たよ!」…ほぉ?誰だか知らねぇが丁度むしゃくしゃしてたとこだ。ストレス発散させてもらうぜ!オラァ!!」

 

街中で奉仕作業をしている男子学生。突如投げかけられた宣戦布告の言葉を受けて、彼の押さえつけられていた凶暴性が再び世に放たれる。背後から飛んできた力無いパンチを難なく躱して、そのままその相手をヘッドロックで締め上げる。すると、何処からともなくか細い救いを求める声が聞こえてきた。

 

「いや、これほんの冗談…ぎ、ギブギブ!?これ以上はい、息が…出来、な……ガクッ」

 

「んあっ?お前……上月 真名人か!?うおぉ〜!久しぶりじゃねぇか……あれ、何でガックリしてんだ?おーい、返事しろ〜」

 

真名人、天に召される。一応、主人公なのに…。

 

「……いや!まだ死にたくない!始まったばかりなのに!」

 

真名人、復活。危うく悪ふざけで命を落としかけるところだったとさっきから嫌な汗が止まらない真名人だった。

 

「それよりも随分会わねぇ内に有名人になっちまいやがって!この野郎〜!」

 

「うわっ!?り、龍司くん!?もぉ…大袈裟だよ〜!」

 

再び真名人をヘッドロックにかける龍司。しかし、さっきとは違って込められている力がかなり軽減されていることから、今度は真名人を揶揄っているのがよく分かる。

暫くそんなやり取りが続いた後、休憩時間になった龍司と真名人は近くのベンチに座りながらお互いの近況報告をすることになった。

 

「ほい、貰いもんの缶コーヒーで悪いけどよ」

 

「あっ…ありがとう、龍司君。なんかごめんね、いきなり押しかけるように来ちゃって」

 

「いや、それは別にいいけどよ。一応、お前は命の恩人だしよ…」

 

龍司から手渡された缶コーヒーを受け取った真名人は、少し申し訳なさそうに軽く謝罪をする。それを受けた龍司もなんとなく気恥ずかしいのか、視線を逸らして少し動揺しながら返事をする始末だ。

 

「そういえば龍司君は最近どうしてるの?あれから色々あって時間が作れなかったし、怪我してたからすごく気になってたんだ」

 

「んぁ?別に大したことはねぇぞ。怪我したって言っても精々一週間ぐれーのかすり傷だったしよ。それよりもお前から巻き上げた金、まだ返せてなかったからよ…あの時は本当悪かったな」

 

そう言って財布から数枚の一万円札を取り出して真名人に手渡す龍司。突然の行動に真名人も困惑を隠しきれなかった。

 

「えっ!?い、いいよそんなの!龍司君が分かってくれればそれで…それにこれ、盗られた金額よりも全然多いし…こんなに受け取れないよ!」

 

「いや!それはもう俺の気持ちだ!今思えばカツアゲなんて馬鹿なことに夢中になって弱ぇ奴虐めて…本当はこんなんじゃ詫び足りねぇくらいだけどよ……それにもう他の奴にも盗った金返し終わって、後はお前だけなんだ!だから罪滅ぼしってわけじゃねぇけど受け取ってくれよ…!」

 

「龍司君…」

 

真名人に頭を下げて謝罪する龍司。この二ヶ月弱の間に彼の胸中で何があったのかの全てを垣間見ているかのように真名人はこの一連の行動から察する。彼が改心などしていなければ当然真名人に謝ることなど断じてあり得ないし、ましてや金を返すことはしないだろう。それに真名人以外の金を盗った被害者達にも同じように余分に金を渡し謝罪しているのは嘘ではないと感じる。同時にあれだけ荒れていたであろう彼の身なりや言葉の端々にもどこか真っ当な印象を受ける。それら全てを総合的に考えるとすれば、龍司がちゃんと更生していることは明らかだった。

 

「…分かったよ。でも、余計にお金は受け取れないな。だから一つだけお願いしてもいいかな?」

 

「お願い?お、おう…恩人の頼みだ、何だって頼まれてやる!」

 

唐突な断りに一瞬たじろぐ龍司だったが、すぐに調子を取り戻して威勢のいい返事をする。それを受けて、真名人は何の躊躇いもなく言い放った。

 

「僕と…“友達”になってくれませんか?」

 

真名人は真っ直ぐ龍司を見据えながらそっと右手を差し出す。この差し出された手は今までの真名人に対する全ての行いを許し、同時に関係性を一から始めようという心の現れでもあった。

 

「…いいのかよ、俺なんかで」

 

「龍司君だから、だよ。今の君なら誰かの痛みを分かってあげられるはずだから。そういう人と僕は友達になりたいんだ」

 

恥ずかしげもなくそう口にする真名人とそれを受けて思わず赤面する龍司。だが既に彼の中で答えは決まっていた。

 

「…あぁ、分かったよ。お前に恥かかせないくらい立派な男になってやるぜ!これから宜しくな、真名人!!」

 

「うん、こちらこそ宜しく…龍司君!」

 

差し出された真名人の手をガッチリと握り返す龍司。その手の中には確かな友情が芽生えていた。一時は完全に違えた二人が再び関係を持つことになるとは…人生って、不思議だねぇ…。

 

 




本日の一言

「こーちんが……“かんちゃん”口説いてる〜!!」

by諸事情あって整備室を覗いていた布仏 本音
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