魔王(中身一般人)と仮面少女(無表情魔法使い)の異世界道中 作:クラウディ
続けて二話目を投稿。
主人公の活躍はもうちょっと後です。
(何だ、これ……?)
目の前に広がる、鬱蒼とした大森林に“俺”は息を飲む。
次に笑いが込み上げてきた。
確かに15年も続けてきた趣味が終わるって事で、多少の酒は飲んでいたが、流石に大森林に放り込まれるような白昼夢を見る程には飲んでいない。
まして、明日は仕事だ。
と言うか、あれか……起きてたと思ってたのは俺だけで、いつのまにか寝オチしてたって展開か?
「つか、大森林ハンパねぇな……お前、グリーン過ぎるだろ」
最近は会社と自宅の往復をする日々だったので、余計に真緑の色が目に痛い。
疲れきった体に大自然の尊さを染み込ませてくるようだ。とは言え、早く明日に備えなければちょっと不味い。
PC前で寝ていたら、翌日は筋肉痛不可避だ。
「しっかし、やけにリアルだな……」
差込む日差しに、辺りを飛ぶトンボ、セミの鳴き声まで聞こえてくる。遠くを見れば、太陽を反射してキラキラと光る湖まであるのだ。
夢は願望を表すなんて言うけど、俺は心の奥底では森林浴でもしたいと願っていたんだろうか?
湖に近付こうと一歩を踏み出した時、背中に冷や汗が流れた。
「ん? こんな靴……持ってたか?」
目に映ったのは、皺一つ入っていない高級な革靴。そして、体を見れば上下の黒いスーツ。
このクソ暑い季節だというのに、ご丁寧に足首にも届きそうなロングコートまで羽織ってくれている。この姿を見たら、誰もが「何処のマフィアのボスだ」と突っ込んでくるに違いない。
(何か、嫌な予感が…………)
さっきから、心臓が嫌な音を立てている。慌てて湖へと走ると、隼のような速度であっと言う間に森を突っ切ってしまった。
その異様な速度に、嫌な予感が一層濃くなっていく。
最後に湖へ映る自分の姿を見た時――――予感は確信へと変わった。
「何で……
湖に映るのは、見慣れたラスボス。
並居るプレイヤー達を絶望のドン底へと叩き落とし続けた、“魔王”が居た。その顔は何が可笑しいのか、笑みを浮かべているようにも見える。
「ふっ、ふざけんなよ……! 何で俺がこんこいつに……!」
自分も他人の事を言える歳ではないが、流石にこれは無い。
大体、さっきから五感に入ってくる全てがリアルすぎて、とても夢とは思えないのだ。まさかとは思うが、アニメや漫画でよく見る異世界転移とか言うんじゃないだろうな?
もしくは、心臓発作とかで俺は既に死んでて、天国に居るとか? いや、それなら九内の姿になっているのは変だろ……。
「ま、待て……落ち着け、まだ慌てるような時間じゃない」
取り敢えず、落ち着いて自身の状況を整理する。
(この状況から察するに、最近のアニメとか漫画でよく見た、異世界転異ってやつじゃないのか……?)
(うぉぉぃ! せめてHDDの整理してからにしてくれよ! そしてなぜこの見た目……)
魂からの叫びであった。異世界に行くのはまだ良い。
万歩譲って許せるとしても、こんなオッサンになって異世界転移なんて夢が無さ過ぎるだろ! せめて、超絶のイケメンとか大富豪とかにしてくれよ!
後、HDDの整理な! 大事な事だから二回言っとくぞ!
何でよりにもよって、こんなガチムチのオッサンに……。
俺が一体、何をしたっていうんだ!?
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(とにかく情報だ……何か見つけないと……)
あれから暫く歩き回ってみたが、夢から覚める、なんて事は無さそうだった。
むしろ、あれからも刻々と意識が体へ馴染んでいくようで、今では殆ど違和感を覚えない。時折、吹き抜けるような森の息吹が体を揺らし、この世界がまやかしではないと伝えてくるようだ。
(この世界は、この森は何だ……? せめてヒントでも無いのか……?)
服を漁っても、現状を打破するような物は無かった。
ロングコートの内側には九内の得意武器であるナイフが多数仕込まれており、他には九内が愛用する煙草などがあるだけ。
こうなったら、腹を括って“アレ”を叫ぶか……!
かつてのネトゲ仲間から聞いたあの魔法の言葉……!
頼むぞ? い、行くからな……?
「す、ステータス!」
――――森に静寂が広がり、カラスが一声鳴いた。
「出ないのかよ!」
恥の掻き損じゃないか!
何か数値やら画面でも出るのかと思いきや、何事も起こらず、むしろ風に揺れる木々が爆笑しているようにも感じられた。
……待てよ? 魔王だったらもしかして……
「ADMINISTRATOR―――」
――ビンゴ!!
空中に黒いパネルとキーボードのようなものが広がり、パスワードを打ち込む画面が浮かび上がった。
これだよ、これ! これを待っていました!
「よ~しよし! いい子でちゅね~! パスワード入力っと……あれ?」
パスワードが受理されると同時に、無数のコマンドが浮かび上がったが、そのどれもが真っ黒に塗りつぶされており、内容を見る事すら出来なかった。
そこに書かれているのは、《規定条件を満たしていません》の羅列。
思わず腰から下の力が抜け、横の大木へ凭れかかる。
「何が規定条件だ……何がしたいんだよ、こいつは……」
思わず懐から煙草を取り出し、火を点ける。吸い慣れた煙を口から吐き出したが、その美味さが否応無しに現実を突き付けてくるようだった。
夢で煙草の味を感じるなど、ありえない事だ。
2本、3本と続けざまに煙草を吸うも、頭の中は真っ白のまま。むしろ吸いすぎで頭がクラクラしてきた。
「どうすりゃ良いんだ……こんな事になるなら、もっとラノベを読んでおくべきだったのか?」
考えが纏まらなくて苛々する。
そんな時だった。
「…………」
「へあっ!?」
不意に気配を感じて横を見ると、無表情の女の子が俺の顔をジーッと見ていた。
え、誰?
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「…………」
「…………」
大森林のど真ん中で見つめ合う二人の男女。
男はスーツ姿で、少女は艶のあるドレス姿。
場所が違えば、社交ダンスの一つでも踊っていそうな二人だが、そんな状況とは全く違う。
男の方は、とあるゲームを運営していた社会人で、現在は運営していたゲームのラスボスの姿になっているという、普通なら「頭おかしいんじゃないか?」と言われそうな状況になってしまっている。
そんな男――九内伯斗は自身と少女の間に流れてしまった微妙な空気を払拭するために声を掛けようとした。
「や、やあ! いい天気――」
「斬鬼、剣鬼」
取り敢えず、当たり障りのない会話から始めようとしたのだが、そんな伯斗の言葉を遮って、少女の方が動いた。
彼女が呟くと、服の袖(手が隠れてしまうほどに長く袖口が大きい)から二枚の仮面が飛び出し、縁を伯斗に向けながら飛翔していく。
仮面の縁は刃のように鋭く、当たればひとたまりもないことを物語っていた。
(いきなり攻撃かよ!? ……ってあれ?)
まるでフリスビーのように回転しながら伯斗の命を狙っていた二枚の仮面――斬鬼と剣鬼は伯斗の首元数センチで止まる。
いきなり異世界に召喚されたと思ったら、第一村人に殺されかけることに肝を冷やす伯斗。
そんな伯斗に、感情の籠っていない声色で少女は問いかけてきた。
「あなたは何者?」
こてんっと首を傾げながら問いかけてくる絶世の美少女。
まるで地上に降り立った天使のようだが、伯斗にはそんなことを考えている暇などなかった。
(いや、俺も良く分かっていないんですけどぉ!?)
少女の問い――〝貴方は何者〟。
それは今の伯斗には答えづらいものだった。
今の自分はゲームを運営していた大野晶なのか、それとも、自分のゲームキャラだった九内伯斗なのか……
「自分でも未だよく分かっていないことを話してもいいのか?」と思った伯斗だったが、今の自分の姿は、九内伯斗だということでその名を名乗った。
「わ、私は九内伯斗。ただの通りすがりだ」
名前の方は良いとして、後のセリフは誤魔化すにしてはお粗末すぎないか?
それは少女の方も分かったようで、近づいてきたかと思えば、顔を思いっきり近づけてきて言葉を告げる。
「嘘。あなたは嘘をついてる」
相も変わらず、無表情で事実を淡々と告げる少女。
そんな少女の顔を零距離で見ることになった伯斗は、内心テンパりだした。
(ち、近い! というか、顔がよすぎる!)
今まで出会ったことのある女性は、仲のいい友人を除いてゲームでしかない。(そのゲームも自分で作った物だったから、実質自分の子供)
そのため、こんな美少女を生で見ることになるのは初めてなのだ。
必死に顔を逸らそうとしても、仮面があって碌に動かせない。
その時であった。
どこからか、荒っぽい足音が聞こえてくる。
少女が音の発生している方向へ顔を向けたかと思うと、伯斗から離れ、仮面も少女を追従して伯斗から離れた。
「……後で聞くから、絶対に逃げないで」
「お、おう……(と、取り敢えずは仮面を退かしてくれた……ってか、なんで仮面が飛んでんだ?)」
仮面が宙に浮いていることを疑問に思いながらも、少女の言う通りにその場から動かない伯斗。
そしてついに足音の正体が分かった。
(子供、か……? ずいぶんと汚れているが……)
現れたのは美少女よりも小さい子供だった。
しかし、その顔や服には黒い泥がべったりと付いており、性別すらよく分からない。
髪の毛は金髪だし、目に至っては赤色である。
明らかに日本人ではないが、伯斗は言葉が通じるか確認しようとした。
「あー、その、何だ……。君は言葉が通じるか?」
「逃げてくださいっ!」
「は?」
一先ず言葉は通じたが、急展開は待ってくれないようだ。
子供を追い越すようにして、剥き出しの骨で出来た翼を持つ、化物が居た――
その体はくすんだ灰色をしており、ファンタジー世界などでよく出てくるガーゴイルに酷似している。
(えっ? えええええぇぇぇぇえぇぇぇぇ!? つか、マジなにコレ!?)
度重なる現実離れした光景に、驚愕しっぱなしの伯斗。
(いやいや、落ち着け。流石に夢オチだろこんなの……!?)
もはや驚きすぎてキャパオーバーしかけの脳内を酷使しながら、震える手でタバコに火を点け一服する。
「フ――……何と言うべきか……後ろの可愛くない化物は君のペットかな? なら、大人しくするように躾けて欲しいんだが」
そう、気障で皮肉っぽく子供に問いかける伯斗だが、
「早く逃げてください!! これは悪魔です!」
子供ははっきりと告げてきた。
(悪魔! 悪魔ときたか……!)
もう笑えば良いのか、逃げた方が良いのか、それとも命乞いでもすれば良いのか、サッパリ分からない。
――俺は一体、何に巻き込まれてる?
そう、やけくそ気味に考えていると……
「――矮小なる人間よ……血肉を捧げよ」
「怖っ!」
真っ赤な眼をした化け物が、“食い物”を見る眼でじりじりと近付いてくる姿は控えめに言ってもホラーだ。
(ってやっぱ夢じゃないのか!? 本気で、ヤバい――)
伯斗が猛ダッシュで逃げようとした瞬間、悪魔が大きな手を振りかぶり、凄まじい速度で顔面へ爪を叩き付けてきた。額に鈍い痛みが走り、目の奥からチカチカと赤い光が迸る。
「いっ……つ……」
伯斗が痛みを感じていると、不意にこんな考えがわいてきた。
――こいつ、本気で襲ってきた……?
――俺を、殺そうと?
――腹の底から、得体の知れない感情が込み上げてくる。
「――――お前、何のつもりだ?」
とても自分の声とは思えない、低い声が喉から漏れ、戸惑っているような化物が視界に映った瞬間、目にも止まらぬ速さで右手がコートの内側へと伸びた。
――――自動反撃発動!
(ちょ、体が勝手に……!)
自分の意思とは裏腹に、手足が勝手に動き出す。
理想的とも言えるフォームから、稲妻のような速度で――ナイフが投擲された!
そのナイフは、向かってきていた悪魔の全身のいたるところに突き刺さり、バラバラにしていく。
その余りの威力に、悪魔は完全に爆散してしまっていた。
「…………」
「…………へ?」
いつの間にか攻撃の当たらない場所まで避難していた美少女は相変わらず無表情で、悪魔から逃げてきたであろう子供はポカーンと口を開けて立っていた。
だが、子供の方は段々と理解が追い付いたのか、カタカタと震えだす。
そんな子供の様子を見て、伯斗は恐る恐る口を開く。
「ま、まぁその……なんだ? 正当防衛というやつだな。私は悪くない……」
「まっ魔王様! 食べないでください!」
「は?」
「ぼっ僕は美味しくありませんからっ!」
カチンッという音がした。
「ふざけんなよ! 人を何だと思ってやがる!」
「ひゃああああ!」
逃げ出した子供をヤの付く人にしか見えない男が追いかける。
現代日本なら、通報されてもおかしくない光景だ。
そんな二人を尻目に、美少女は考えていた。
(あの人……何者?)
謎は深まるばかりだ。
主人公の能力は、仮面と感情に関係するものです。
当てれたら結構すごいかも?(ヒント:ムジュラの仮面みたいなもの)
後、カウンターが発生しなかったのは、寸止めだったからということにしています。