魔王(中身一般人)と仮面少女(無表情魔法使い)の異世界道中 作:クラウディ
前回の続き
抜けるような雲一つない青空……失礼、所々に雲が見える空の下、男一人に少女が二人大森林のど真ん中で立っていた。
「……オホンっ。わっ私は……九内という。怪しい者ではないぞ? 取り敢えず、君達の名前を聞かせてもらえんかね?」
男……いや、“魔王”が長い髪を後ろへとやりながら口を開く。
何と名乗るのか、それなりに苦悩があったようだが、最終的には九内と名乗る事にしたようだ。
少女達を前にして、一応は大人らしい口調を心掛けているようだが、そのメッキはすぐにでも剥がれそうであった。
「は、はい……」
自身の名を名乗った伯斗は、目の前に立つ二人の少女に問いかける。
一人は金髪赤目の汚れた少女で、もう一人は黒いドレスを身に纏った白髪碧眼の美少女。
そんな対照的な二人の少女のうち、金髪の少女が名乗った。
「ぼ、僕は……〝アク〟といいます……」
「ブホォッ!」
「ど、どうかしましたか?」
「いや……と、とても良い名だな……(魔王とアクって……ッ)」
その返事に魔王が盛大に噴き出し、激しく咳き込む。
まぁ、気持ちは分からないでもない。
“魔王”と“アク”とは――何の判じ物であろうか。
金髪の少女――アクが名乗ったことで、残るは白髪の美少女だけとなった。
そんな少女は、表情の変わらない鉄仮面の状態とはいえ、どことなく仕方なさげな雰囲気を纏って自身の名を名乗った。
「……姓は葛葉、名は小百合。葛葉小百合です。よろしくお願いします」
「う、うむ。よろしく頼む……(外人さんみたいだけど、名前の語感からしておそらく日本人だな……)」
伯斗は、内心、他国の令嬢が如き美貌をした少女――小百合に驚きながらも、一先ずは差し出された手を取り握手をする。
自身のごつごつした手とは正反対のすべすべとした小百合の手に緊張しながらも、本題を切り出した。
「ところでアク。それに小百合。日本という国を知っているかね?」
「す、すみません……聞いたことがないです……」
「……私は知っている」
「だろうな……」
半ば予想していた答えを返されて、伯斗は小さく呟いた。
彼の見るところ、アクが着ている服はどう考えても近代的な服ではない。
粗末な布で出来た服のような代物に、申し訳程度の青い紋様のようなものが入っているだけであり、お洒落には程遠いものだ。
下には膝に届くか届かないかくらいの半ズボンを履いており、顔の綺麗さと相俟って余計に性別を分かり辛くさせている。
髪はショートヘアであるが、前髪だけは異様に長く、顔の左半分を覆ってしまっていた。
魔王は思わず、ストレートに性別を聞きそうになったが、大人としての矜持で何とか堪える。
流石に初対面の子供に向かって「お前は男か? 女か?」などと聞くのは恥ずかしいと思ったのだろう。
彼が“九内伯斗”であれば、あらゆる手段を用いて情報を根こそぎ吐き出させたであろうが、中身が“別人”であった事がアクに幸いした。
小百合の方はそもそも名前からして日本人だ。
着ている服や、髪色、目の色はどこの海外モデルかと言いたくなるほど浮世離れしているが……
小百合が日本のことを知っているならこの状況に関わりがあるのかとも一瞬思ったが、それはファーストコンタクトの時点で否定されている。
「貴方は何者」
そう言うのは何も知らない人間の口から出るものだ。
(はぁ……どうしたもんだか……)
口にくわえたタバコに火を点け、煙を吸いながら伯斗は考える。
(ラノベの展開みたく、青春真っ盛りの高校生ならまだしも、こんなおっさん呼んで何がしたいのか…………!)
そんな時、伯斗の脳内に電流が走る。
(――待てよ……?)
「?」
アクが不安そうに見つめる傍らで、伯斗はある事に思い至ったのである。
(呼ばれたのは俺じゃなくて、この
そう、伯斗の中身となっている人物が作りだしたGAMEのラスボス。
最強の存在である〝九内伯斗〟のことだ。
ラノベのテンプレとして、何か強大な存在に対抗するために、それよりも強い〝最強〟の存在を召喚するのはよくあることだとされている。
それなら、〝九内伯斗〟はドンピシャと言っても過言ではない。
十五年もの間、狂気の沙汰ともいえるGAMEを開催し、そしてその頂点に君臨し続けた魔王。
それが〝九内伯斗〟である。
ならば、伯斗が呼ばれてもそうおかしくない。
だが、何故中身が別物なのか……
そして、おそらく無関係であろう小百合が何故いるのか……
要するに、
(――ってことは!! 要するに、俺と小百合は巻き込まれたってことじゃないか!)
「??」
「…………」
頭を抱える伯斗を困惑したような眼差しで見つめるアクと相変わらずの無表情で見つめる小百合。
そう、伯斗が考えるように、伯斗の中身である晶と小百合は巻き込まれたと言っても過言ではない。
悪魔を瞬殺した伯斗と何やら不思議な力で仮面を動かしている小百合。
確かに戦う力を持っているということで選ばれたのなら、納得のできる人選だと言えよう。
伯斗はともかく、小百合の方は大した動揺もなく冷静に現状を受け止めているようにも感じられる。
おそらく威嚇を目的とした仮面の攻撃も、首元数センチという精密さで止められていた。
こういった状況には慣れているのだろう。
……だが、この事態の原因ではないと判断できた。
そこに確証を持った理由はない。
言うなれば、ただの直感だ。
それはともかく……
(さっさと帰る手段を見つけないと!! でも、どうすれば……)
何故、伯斗が呼ばれたのかは理解できた。
だが、そんなことに勝手に呼び出されるのはたまったもんではない。
伯斗(正確にはその中身)には、会社がある。
無断欠勤なんてしようものなら、どうなるか分かった物ではない。
「まっ魔王様?」
さっきから無言で何かを考え込んでいる伯斗(オーバーリアクション気味)を心配して、アクが声を掛けてくる。
焦りでイライラしていた伯斗は、タバコをふかしながら問いかける。
「だから私は魔王では……あぁ、もういい……それよりさっきの雑魚はこの辺りにまだ出たりするのか?」
「と、とんでもない! あんなのが他にもいたら国が滅びますよ!」
「えっ……アレってそんなにヤバい奴なの?」
「……!」
瞬殺した悪魔を雑魚呼ばわりする伯斗に、顔を青褪めさせながら、もういないことを何度も頷くことで知らせるアク。
そんな二人に、先ほどからだんまりだった小百合が口を開く。
「……この周辺には無害な動植物しかいない。
「…………この際、深くは聞かないことにする。アレはもういないんだな?」
「……うん、いたとしたら私が対処しに行ってた」
(嘘はついてないな……というより、ホント人形みたいだな……)
先程から表情が変わらず、声の抑揚もほぼ一定な小百合のことを、内心、人形のようだと伯斗は評価する。
それなら、急に戦闘が起こることなどないだろうと判断した伯斗は、元の世界への手掛かりを探すために、この世界のことをこの場の誰よりも知っているであろうアクに問いかけた。
「アク、あいつの巣穴や寝床などを知らないか? 少し調べてみたい」
「悪魔は確か……森の奥にある願いの祠に封印されたと聞いています!!」
「願いね……すまんがそこに案内してもらえるか?」
「あっ、す、すみません。案内したいのはやまやまなのですが、僕、足が……」
そう言うアクの右足首には、大きな傷が残っている。
大きな裂傷でも負い、殆ど処置出来ないまま傷だけ塞がったような、痛々しいものだ。
「……仕方ない……」
そう言いながら伯斗はしゃがみ込み、悪の背と自身の背の高さを合わせ、アクに背を向ける。
これが何を意味するのか……
「おぶってやるから背中に乗れ」
「!? そっそんな!? とっとんでもない!」
アクをおぶることだった。
そんな伯斗の行動を拒絶するアク。
別にいやがってるというわけではなく、むしろ迷惑をかけてしまうのではないかという恐れの色があった。
「ままっ魔王様の背中に僕のような汚い身を乗せるなんて……」
「すまんが時間がおしくてな。二度は言わん、早くしろ」
「……ッ!」
一刻も早くこの世界から脱出したいと思っている伯斗が、少し威圧的な声色(無自覚)で急かしてくる。
そんな伯斗の優しさに、アクはあることを話し始めた。
「……ぼ、僕は村の厄介者なんです。だからいつも村のゴミや糞尿を集めて捨てる仕事をしたりして、自分なりにみんなの役に立とうと頑張ってたんです」
「…………」
「…………」
ポツリポツリと語っていくアクを無言で見つめる伯斗と小百合。
確かに、そんな人生を送ってきたならば、自身を低めるようになるだろう。
「でも、いつも汚い臭いって言われて……」
「――それでとうとう、悪魔への生贄に出されちゃいました……あははは……」
自虐気味に笑うアク。
その姿は怪我とは別の意味で痛々しかった。
「村の人が言うんです。僕に触れると汚れるって。……だから――」
〝大丈夫です〟
おそらくそんなことを言おうとしたのだろう。
だが、伯斗が無理やりにでもおぶったことで言葉は遮られた。
「!! ちょ、ちょっと! 待ってください! 僕に触れると……」
「そんなことで人間が汚れたりするもんか」
アクは自分よりも優れている人の手を煩わせてはいけないと言葉を告げようとしたが、伯斗がある言葉を告げたことで驚愕に表情を染めた。
「いいか? 人間の体なんざ、洗えばいつだって新品になるんだよ」
「…………っ」
「それより、その祠って場所……」
言おうとした言葉が、途中で詰まる。
背中から――嗚咽が聞こえてきたからだ。
(ちょっ、なんかマジ泣きしてるしっ! というか傍目から見たら完全に誘拐犯だよな!!?)
「ありがとうございます……魔王様……」
「…………」
真っ直ぐな感謝の言葉をぶつけられて、思わず気恥ずかしくなってしまう伯斗。
「……優しいんだね」
ついてきていた小百合からも言葉を告げられてますます恥ずかしくなる。
「……お前、ちょっとくっつき過ぎじゃないか?」
「そっそんなことないです!」
「…………」
こうして始まった魔王と仮面と子供の三人旅。
さて、いつまで続くのやら……
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「…………お前、誰だ?」
「はっはっは! いやぁひどいな伯斗君! 僕が誰かって? そう! 僕こそ! あの無表情でお人形さんみたいな絶世の美少女!
葛葉小百合さ!」
「な、なんじゃこりゃぁあああああああ!!??」
これで主人公の能力が分かったら大したもんですよ。