第零話 プロローグ
人気のない路地裏で、二人の魔術師が対峙している。
一人は長い、黒髪を持つ美しい青色の目を持つ少女。
もう一人は白髪の、光を失った目を持つ男。
「……ここが神塚の土地と知って、私に敵対するか。外来の魔術師よ」
少女は男に問う。
「あぁ、その通りだ、神塚麗華。私は一族の願いを叶えるためにお前を殺さなければならないのだ」
その問いに男はそう答えると、血濡れた巨大なバスターソードの柄を右手で握りしめる。
一体、その魔剣は何人の人を食らったのだろうか?
「話し合いの余地無し、か。なら仕方ない」
その男の返しを聞くと、神塚麗華と呼ばれた少女もまた青色の着物の帯に差していた刀を抜刀した。
お互い、武器を構えての睨み合い。
いつまでも続くかと思われたその拮抗。
それを破ったのは男の方だった。
「アァ、アァァァァァッッ!!」
狂人の如き雄叫びを上げながら男は少女へと疾走する。
男と少女の間には10m以上の距離差があった。
しかしながら、魔術的な身体強化を使用している男はその距離を数秒で詰めてくる。
恐らく、一般人がこれを見ていたら彼がテレポートしたかのように見えたことだろう。
音を置き去りにするほどの速度で距離を詰めてきた男はバスターソードの射程圏内に少女が入ったのを確認するとバスターソードを高速で振り下ろし、少女を真っ二つに切り裂かんとする。
そんな、神速とも言っても過言でも無い斬撃を少女は刀で受け流す。
相手の神速の斬撃を、神業の技術で受け流したのである。
刀の刃とバスターソードの刃が擦れ合い、火花が散る。
そして、少女を斬るはずだったバスターソードはコンクリートの地面を叩き割るにとどまる。
空中にはあまりに強い力でバスターソードの刀身を叩きつけられたことで割れたコンクリートの欠片が舞っていたが……
「
少女がそう叫ぶと、神聖に光り輝く魔力の矢によって空中のコンクリート片は消し飛ばされ、そのままの勢いで男の身体に直撃する。
男は防御魔術でも使ったのかその身体を貫かれるのは防いだが、その衝撃は殺せずに男は勢いよく吹き飛ばされ、30m先のコンクリートの壁にめり込む。
コンクリートの壁にめり込んでいる時点で、普通の人は死んでいるだろうが、男は浅くはない傷を負ったがまだ動く。
コンクリートの壁から出てきた男は、額から流れている血を拭い、身につけていた黒色のローブを脱ぎ捨てる。
「俺は……俺は……まだ、死ねない。聖杯……聖杯ぃぃぃぃ!」
男は再びバスターソードを握り直す。
しかし、男は動かない。
否、動けない。
「そっちから来ないなら……」
そう少女が呟くと、彼女の姿が消える。
「……どこに行った?」
そう男が言って少し、前に歩くと
「こっちから行くよ」
男の後ろに少女が居た。
そのまま、少女は男の心臓部に刀を突き刺そうとするが、男は無理矢理身体を捻り回避する。
少女の持つ刀は男の頬の部分を軽く斬るにとどまった。
少量の朱色が宙を舞う。
男は距離を取ろうと、ガンドを撃ちまくって少女を牽制しながら後ろに下がる。
しかし、少女は器用にガンドを避けながら、高速で男に再び接近する。
そして、再び少女は刀で男の心臓を貫かんとする。
それを男はバスターソードで迎撃をする。
刀とバスターソードが衝突し、キィィィンと甲高い金属音が鳴り響く。
「っ……!!」
「まだ、まだ、死ねんよ!」
「いや、貴女はここで……死になさい!」
少女は男を蹴り飛ばして、一旦距離を取る。
再び男はガンドを撃ちながら後退する。
少女は、今度は刀を持ってない方でリボルバーハンドガンを持ち、それを男に向けて発砲しながら接近する。
この銃の弾丸は普通の鉛玉ではない。
この銃のシリンダーに装填されている銃弾には火属性魔術の術式が仕込んであり、この弾丸が着弾すると術式が起動し炎上するため、実質的な焼夷弾となっている。
銃弾が男の周りに着弾し、燃え始める。
この炎によって、男は逃げ道が封じられる。
その事に焦り始めた男は、ついに後退するのをやめる。
そして、接近してくる少女を迎撃するために男も少女の方へと疾走する。
……交差する二つの刃。
男と少女は互いに通り過ぎた所で止まる。
3秒間ほどの硬直。
それを破ったのは
カランカランという音を立てて、地面へと落ちたへし折れた刀の刀身と
「ゴフッ」
腹を切り裂かれ、吐血し地面へと崩れ落ちる男だった。
「神塚……麗華、覚えておけ。いつか、この、天野の地に聖杯が……降臨する」
そう少女に言うと、男は息絶えた。
「聖杯、か」
そう呟くと少女は路地裏を去って行った。
これは聖杯戦争が始まる1週間前の事だった。