それは私の命を容易に奪えるものだった。
心臓を撃ち抜かんと発射された銃弾。
躱そうとする試みは無意味だろう。
それが音速で飛来する銃弾である以上、もはやそれは間に合わない。
だが。
この身を貫こうとする銃弾は、
この身を救おうとする氷の盾に弾かれた。
夜風が吹く。
その風は冷気を伴っていて少々冷たい。
私の召喚に応じた少女は全体的にどこか儚げな雰囲気を持っていた。
彼女の髪は長い銀髪であり、白雪の如き綺麗さであった。
右目は前髪で隠れており、それがまた彼女の魅力をさらに引き立てている。
ばさっ、という音を立てて彼女のドレスが靡く。
その服は現代の庶民が着るようなものではないように思える。
華やかなドレス、それは貴族や王と呼ばれるような高貴な人が着るものであるように見える。
されど彼女の敵に向ける視線はそのような華やかとは程遠い、殺意を含んでいて凍てついた夜気の如く冷たい。
ただ、この氷の皇女はそんな視線を向けていても尚美しいと思える美しさを持っていた。
「サーバント、キャスター。召喚の求めに応じ、ここに参上したわ。貴女がわたくしのマスターかしら?」
夜を弾く声で、彼女は言った。
「……えぇ、私が貴女のマスターよ」
「そう、なら契約は成立ね」
そう、契約は完了した。
彼女がこの身を主と選んだように。
きっと自分も、彼女の助けになると誓ったのだ。
月光はなお冴え冴えと闇を照らし。
庭は皇女の姿に倣うよう、かつての静けさを取り戻す。
時間は止まっていた。
おそらくは一秒すらなかった光景。
されど。
その姿ならば、たとえ地獄に堕ちようと、鮮明に思い返す事が出来るだろう……
「……ん」
瞼を開くと、優しげな日の光が目に入って来る。
首を少し曲げて時計を見ると時刻は7時34分。
うーん、そろそろ起きるか。
私は寝起き特有の重く感じる体を起こす。
そして、クローゼットを開けて寝巻きから高校の制服に着替える。
うぅ、まだ眠い。
瞼が下がりかかってる目を擦りながら自分の部屋を出て、下の階に降りて、歯磨きをして顔を洗う。
……よしっ、目が覚めた。
やっぱ眠い時は顔を洗うに限る。
その後、髪を解かす。
それが終わると、今日の朝ご飯何にしようかなぁなんて考えながら居間に入る。
「お姉ちゃん、おはよー。先にご飯食べちゃった」
「別に良いよ。私が起きるのが遅かっただけだから」
ちょうど私の妹が食器を片付けている所だった。
一緒に朝ご飯を食べたかったけど……まぁ仕方ないか。
私は自分の朝ご飯-バターを塗っただけのシンプルなトーストーを用意する。シンプルイズベスト。
「あれ? 今日から修学旅行だっけか?」
片付けを終え、居間を去ろうとする妹に尋ねる。
「うん、日光に2泊3日泊まる予定だよ」
「そっか。最近、色々な事故とか多いから気をつけてね」
実際に、今トーストを齧りながら見てるテレビのニュースでも昨日起きたガス漏れ事故の報道を取り扱っている。最近、ほんとに事故や事件が多い。妹が心配だ。
「心配しすぎだよ。じゃあ、行ってきまーす」
「ん、行ってらっしゃい」
私も早く登校しないと。
トーストを食べ終わったので、お皿を軽く洗って乾かせる場所に置いておく。
最後に、自室に戻りカバンを取りに行く。
一応、教科書とか課題とかを忘れてないか中身を確認……よし、忘れ物なし。
そして、一階に降りて家を出ようと玄関のドアを開けようとした時
「イタッ……何だこれ?」
左手の甲に少し痛みを感じる。
確認してみると十字剣の形をした痣のようなものが左手の甲にあった。
とりあえず害は無さそうだ。
……これ、何処かで見たような。
まぁ良いや、このまま登校しよう。
一応、魔術的な呪いとかじゃないか明日師匠に聞いておこう。
今度こそ私はドアを開けて、登校する。
空を見ると、雲ひとつない澄んだ青い空だった。
キーンコーンカーンコーン
本日七回目の時を告げる鐘の音が校内に鳴り響く。
この鐘は最終下校時刻を知らせるものだ。
ということは現在の時刻は17時30分くらいだろう。
部活の作業も良いとこまで終わったし、今日は帰ろう。
私は今日の部活動として書いたロシア革命についてのレポートをクリアファイルに入れて、カバンにしまう。
「麗華、もう帰るの?」
「うん、一応最終下校時刻だし」
「そっか。私はまだ作業したいから……じゃ、また明日」
「じゃあね、萌」
同じ歴史研究部の部員である友人の
そのまま、校門を通り過ぎてから数分過ぎた頃に後ろから何かの気配を感じた。
この気配は……霊体?
悪霊でも居るのかと後ろを振り向くとそこには……街灯の灯りに照らされている黒い軍服を着ている金髪の若く美しい女性が立っていた。
そして、その軍服の左胸部分には鉄十字勲章がある。
もちろんここら辺に住んでいる日本人では無いだろうし、軍服を着ていてしかも1930年代ものの、真ん中に小さな
この人、まさか……いやでもあの儀式は……
「おい、そこの小娘。貴様は聖杯に選ばれたマスターだな?」
その女性は私の左手の甲を見ながらそう言う。
「聖……-杯? マス……ター……? そんなバカな話が……だって聖杯戦争は終わったはずでしょ?」
「劣等種らしい察しの悪さだな。まぁ見た感じ、巻き込まれたマスターだから混乱するのも致し方ない、か」
もはや、この女性の言っていることなんて耳に入ってこない。だって冬木の聖杯戦争は、20年前に大聖杯が解体されて終わったはずだ。しかもここは冬木市では無い。天野市だ。でもこの左手の痣のようなもの、どこかで見たと思ったらこれは聖杯戦争に関連する聖痕、令呪にとても似ている。まさか、大聖杯解体の時に誰かが術式を解析でも……
「考えてるところ悪いが……お前が敵マスターというならば、ここで死んで貰おうか」
邪悪な笑みを浮かべながらそう言うと、彼女は小型なハンドガンを懐から取り出して私に銃口を向ける。
……これが本当に聖杯戦争というのならば、私に銃口を向けている彼女はかつて何らかの偉業を成し遂げた英雄が死後、人々に祀り上げられ英霊化した者、サーヴァントと呼ばれる使い魔なのだろう。基本的に、魔術師ではサーバントを倒すことは出来ない。
サーヴァントはサーヴァントをもって制する。
それが聖杯戦争での対サーバント戦の常識だ。
……私の家の庭の隅に昨日の鍛錬で使った魔法陣がある。
あそこに行って、サーヴァント召喚の詠唱をすればこの窮地を乗り越えられるかもしれない。
「では、さらばだ。使い魔無きマスターよ」
そう言って彼女はハンドガンのトリガーを引き、発砲する。
何もしなければ、その銃弾は私の心臓に風穴を開けていたことだろう。
しかし……
「
そう私が唱えると、私の身体は本来あり得ないほど早く横に避ける。
そして、銃弾は私の心臓を貫くこと無く暗闇へと消えていった。
「ちっ、次は外さんぞ」
彼女は再びハンドガンの引き金を引こうとするが……
「
魔術で私の周りに煙を焚き、彼女の視界を封じる。
初歩的な魔術ではあるが、銃を使うサーヴァントにこれは致命的だろう。
「おのれぇ! 黄色い猿の分際でアーリア人たる私の邪魔をするか!」
今のうちに我が家に逃げ込もう。
サーヴァントさえ召喚出来ればなんとかなるだろうから。
「はぁ……はぁ」
全力で走ってきた結果、無事に庭にある魔法陣の元に辿り着いた。
その英霊と縁のある触媒を使うことで強力なサーヴァントを確定で召喚出来らしいが……私は生憎そのような物は持って無いので触媒無しで召喚するしかない。
「…… 素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。
四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。
閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する。
────告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
誓いを此処に。
我は常世総すべての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷しく者。
汝、三大の言霊を纏う七天」
この詠唱を詠む私の声と夜風に吹かれて揺れる庭に生えている草の音しかしない、いっそ神聖さすら感じる静かな常闇の空間に、突如銃声が鳴り響く。
さっきのように避けることも出来たが、詠唱を破棄する方が致命的だと判断し、銃弾を避けずに詠唱を続けた。
「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」
それは私の命を容易に奪えるものだった。
心臓を撃ち抜かんと発射された銃弾。
今から躱そうとする試みは無意味だろう。
それが音速で飛来する銃弾である以上、もはやそれは間に合わない。
だが。
この身を貫こうとする銃弾は、
この身を救おうとする氷の盾に弾かれた。
夜風が吹く。
その風は冷気を伴っていて少々冷たい。
私の召喚に応じた少女は全体的にどこか儚げな雰囲気を持っていた。
彼女の髪は長い銀髪であり、白雪の如き綺麗さであった。
右目は前髪で隠れており、それがまた彼女の魅力をさらに引き立てている。
ばさっ、という音を立てて彼女の服が靡く。
その服は現代の庶民が着るようなものではないように思える。
華やかなドレス、それは貴族や王と呼ばれるような高貴な人が着るようなものであるように見える。
されど彼女の敵に向ける視線はそのような華やかとは程遠い、凍てついた夜気の如く冷たい。
ただ、この氷の皇女はそんな視線を向けていても尚美しいと思える美しさを持っていた。
「サーヴァント、キャスター。召喚の求めに応じ、ここに参上したわ。貴女がわたくしのマスターかしら?」
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