「……サーヴァントを召喚したか、小娘」
キャスターを見ながら苦虫を噛み潰したような顔をして彼女は呟く。
魔力量的に限界なので出来ればこのまま帰って欲しいのだが……
《キャスター、敵サーヴァントの撃退は出来る? 一応、ここ一帯に張ってある結界で敵は弱体化しているはずだけど》
私が念話でそう聞くと、私の庭の地面全てが凍りつく。
そう、キャスターを中心として付近の温度が急激に下がったのだ。
この寒さの中では並大抵の生き物はすぐさま生命活動を停止してしまうだろう。
この凍土の世界の
そんな絶死の環境で生き延びたものは二人。
一人は私。恐らくキャスターが私の周りには冷気が行かないようにしてくれているのだろう。
もう一人は敵サーヴァントである金髪の女性。
彼女はサーヴァントであり、この程度で凍死するような柔な構造はしていない。
「マスター、凍死したくなければあのサーヴァントを
とキャスターが言う。
私とて素敵な氷のオブジェになるのはごめんなので、大人しくキャスターの忠告に従うとしよう。
「……なるほど。半径5mほどの土地を自分の陣地にしたか。劣等種たるスラヴ人にしては良くやる。だが、このチンケな冬将軍擬きで何が出来る?」
そう言うと彼女は拳銃をキャスターに向ける。
しかし……
「……!」
その銃を撃つことなく、何かの気配でも察して身体を捻る。
すると、彼女が先程まで居た所にまるでクリスタルの如き透明な氷の杭が生えて来た。
もし彼女が躱さなければ、今頃身体をズタズタにされていただろう。
「……貴女の言うチンケな陣地でもこの程度は出来るわ。見たところ、貴女ここの結界の影響を受けて身体能力が下がってると思うのだけど……どこまで躱せるかしら?」
「貴様ァァァ! 劣等人種のくせに私をバカにするか! ……いいだろう。貴様を強制収容所にぶち込んで、ありとあらゆる苦痛を与えてやろう」
敵サーヴァントの魔力反応が……まさか、宝具か⁉︎
「キャスター!」
「えぇ、分かってるわ。何が来ても一発は防いでみせる……!」
しかし、その強大な魔力反応は宝具を発動する前に突如として霧散する。
一体何が……
「たかが一日限りの同盟者のくせに大きく出たな、アインホルン……チッ、いい気になるなよ」
ふきげんそうな表情を浮かべながら、そう呟いて彼女は私の視界から消えた。
恐らく霊体化したのだろう。
何はともあれ退いてくれて助かった。
「マスター、あのサーヴァントとは別に敵のサーヴァントの反応が500m先くらいにあるわ。わざと魔力を垂れ流して敵を誘き寄せようとしてるのね。どうしますか?」
私の召喚したサーヴァントはキャスター。
ならば取る行動は一つ。
「無視するよ。そもそも、貴女キャスターだから正々堂々戦うの苦手でしょ?」
「賢明な判断ね。もし、貴女がわたくしを突っ込ませようとしたら契約を切っていたわ」
このサーヴァント、私のこと試したな。
……まぁ、パスを通じて流れてくる魔力量が少ないだろうからなぁ。
聖杯戦争に勝てるか不安に思われるのも仕方ないか。
実際、私も不安だし。
「キャスター、他に気になる反応は?」
「無いわ」
とりあえず、今日はもう戦闘が起きることは無さそうだ。
にしても、聖杯戦争についての知識が欲しい。
……昔、師匠から軽く聞いた分の知識しかないから圧倒的に知識が足りない。
基本的な知識だけじゃ無く、冬木の聖杯戦争の推移とかもあれば戦略も立てやすいんだけど。
「そっか。じゃあ、とりあえず私の家に入ろっか。色々話し合いたいこともあるし」
「……えぇ」
「キャスター、お待たせ」
私は鞄を自室に置き、制服から普段着に着替えて居間へと入る。
そこには椅子に座る白いドレスを着ている美しい銀髪を持つ少女が居た。
瞳は薄い青色で、片目が前髪で隠れている。
……先ほど、かなり暗い場所で見ても彼女は美しく見えたが、改めて明るい所で見ると更に魅力的なのが分かる。
「そんなに待ってないから大丈夫よ。ところで……その服、わたくしの国では見たことが無い服ね。この国独自のものかしら?」
「あぁ、この服のこと。この服は着物って言ってね、日本の伝統的な服だよ。……まぁ、日頃から着物を着ている人はほとんど居ないだろうけど」
そう、私はこの紫を基調としている着物がお気に入りで普段はこれを着ている。
変わった服装なのは自覚しているが、好きなのだから仕方ない。
「もったいないわね、そんないい服を着ないなんて」
「まぁ、時の流れってやつだよ。さて、聖杯戦争についての話でもしようか。今後の方針とかね。あ、お茶でも飲む?」
「……せっかくだし、貰おうかしら」
「オッケー。じゃあ、ちょっとお茶淹れてくるねー。まぁインスタントだけど」
私はそのまま椅子に座ること無く、お茶を淹れるために台所に行く。
電気ケトルに水を入れ、お湯が沸くのを待っているとふとキャスターが口を開いた。
「マスター、貴女はどうして聖杯戦争に参加したのかしら?」
「私は……ただ、巻き込まれただけだよ。だから、特に理由があった訳じゃない」
「じゃあ、マスター権を放棄して教会に保護してもらうのですか?」
……少し、先ほどまでよりキャスターの声が硬くなった気がする。
「いや、それはしない。確かに私は別に聖杯が欲しくて参加した訳じゃない。だから、本来なら教会に保護してもらうのがいいんだろうけど……それじゃあ、キャスターの願いが叶わなくなっちゃう。それはキャスターに悪いでしょ。あのサーヴァントから守って貰うだけキャスターを使っておいて危機が去ったらキャスターとの縁を切るなんて」
そこそこ長く喋っていたらしい。いつの間にかお湯が沸けていた。
私はインスタントの紅茶の粉の入った2つのマグカップにお湯を注ぎ、そのマグカップを居間へと持って行く。
そして、そのうちの一つをキャスターの前に置く。
「はい、どうぞ」
「ありがとう……あら、まぁまぁ美味しいじゃない。インスタントの紅茶って聖杯から得た知識だとあまり美味しそうには思えなかったけど……」
「これ、インスタントの中では一番美味しいやつだからね。一番安いのとか買うとまぁ……あんまり美味しくない」
「インスタントも茶葉も美味しいものは美味しいってことね。……話しが脱線したわね。じゃあ、マスターはわたくしのためだけにこの聖杯戦争に参加するのかしら?」
「まぁ流石にそれだけでは無いけどね。まぁこれは大したことじゃないよ。で、そう言うキャスターは聖杯で願いを叶えるために現界したんでしょ? どんな願いを叶えたいの?」
これはとても大切なことだ。
私は先程も言ったように、出来る限りキャスターの願いを叶えたい。
でも、願いによっては……神塚家の役割に反するのならば……
「わたくしは別に大した願いは無いのだけれども……そうね、受肉したいわ。わたくしは生前、まだ若いうちに死んでしまったからもう少し長く生きてみたい」
「……そっか。じゃあ、その願いを叶えるためにも聖杯戦争に勝たないとね」
「えぇ」
うん、その願いなら問題は無い。
是非、キャスターのその願いを叶えさせてあげたい。
「じゃあ、今から戦略でも……」
「マスター、今日はもう休んだ方が良いと思いますよ」
「いや、大丈夫だよ」
「……絶対大丈夫じゃないわよ。酷い顔色よ」
「……そっか。じゃあ、キャスターの言う通りにしようかな」
実を言うとかなり無理をして、今起きている。
ただでさえ、私の魔力保有量は少ないのに今日は色々と魔力を使った。
身体強化に煙幕、そしてキャスターの召喚。
もう魔力はすっからかん。そのせいか疲労感がハンパじゃない。
だから今日はキャスターの言う通りに寝るとしよう。
「……あっ」
2階に自室に向かおうと立ち上がったら、急に目眩がして倒れそうになったが
「大丈夫?」
頭をテーブルにぶつける寸前でキャスターが私の身体を受け止めてくれた。
「ごめん、大丈夫じゃないかも」
「肩を貸します。この家の2階に貴女の部屋があるのよね?」
「そうだよ。2階の右側の部屋が私の部屋……」
私はキャスターの肩を借りて、いつもよりゆっくり階段を登る。
そして、ようやく私の部屋の前へと辿り着く。
「キャスター、ありがとう」
「どういたしまして……ねぇマスター、貴女の名前はなんて言うの?」
あぁ、そういえば言ってなかったっけ?
「私は神塚麗華。……そういえば、私も貴女の真名聞いてないや。貴女の真名は?」
「わたくしの真名は……秘密です」
「え? なんでさ」
「貴女……魔術師としては弱いでしょ?」
「うっ」
「だから、敵の暗示とかにかかったらわたくしの事を話してしまうかもしれないでしょう? だから、秘密です」
「なるほど……それは妥当な判断だね」
まぁこれは仕方ない。
魔術師として私が弱いのは事実なのだから。
「じゃあお休み、キャスター。キャスターは左側の部屋を好きに使っていいよ」
「わたくし達、サーヴァントは霊体化出来るから部屋は必要無いわ」
「あっ、そっか」
「でも……偶には生前の真似も悪くないかも。マスターの好意に甘えて部屋を使わせて貰うわ。ではお休みなさい、レイカ」
「あっ……」
私の名前……。
少しは信頼を築けた……って事でいいのかな。
私は自室に入り、ベットに潜り込む。
そして、2分もたたないうちに私の意識は闇へと消えていった。