目が覚めると知らないベッドに寝かされていた。
起き上がろうとするも体中に激痛が走り、動くことが出来ない。
窓から差す日の光が顔にかかり妙に眩しかった。
体中……皮膚の表面さえもズキズキとした痛みが走る。
何がどうなっているのか……。
視線だけ動かし周囲を見渡すと、ここはどうやらログハウスのような場所のようだった。丸太をそのまま使った壁で天井には電灯すらない。
ゴリゴリと何かをこするような音がしている。
痛みを我慢しそちらに顔を向けると、青髪の少女がいた。
机の上で何かしている。
「だ、だで……が……」
なんとか声を出し少女を呼ぶ。
声を出すだけで喉が裂けるかというような痛みがある。
俺の声に気が付いて少女は飛ぶように立ち上がり、すごい速さでこちらにやってきた。
「意識が戻ったんですね! よかった~!」
少女はそう言うと優し気な笑顔を浮かべた。
笑顔だが少しだけ影のある顔をしている。
「ここは安全ですから今は休んでくださいね」
それだけ言うとまた少し離れた机の方へ戻っていった。
ゴリゴリと何かをこするような音だけが部屋に響いている。
少女の年齢は15、6と言ったところだろうか。
幼さが残った顔をしている。髪が青いのが気になるところだが、奇妙なことに違和感は全くなかった。
どうやら彼女に助けられたらしい。
助けられたと言っても何に助けられたのかは分からない。
記憶が飛んでいるようだ。
事故にでもあっていたのなら救急車で病院にいくはずだが……。
いや……。
救急車ってなんだ?
ここはどこだ?
頭が痛い。
何かおかしいぞ。
頭がいかれている。
記憶が飛んでるってレベルじゃない……。
落ち着こう。
いったん落ち着いて思い出そう。
今の状態は体中が痛いがなんでこうなったのかは分からないといった状況だ。
青髪の少女に助けられこの場所にいるらしい。
ここに来る前の記憶はないから、なんで体中が痛いのかわからない。
最後の記憶は……。
わからない……。
今までの俺は何をしてきたんだ?
思い出せない。
俺はなんなんだ……?
顔を触られる感覚で目が覚めた。
いつの間にか寝てしまっていたらしい。
相変わらず体中に痛みが走っている。
特にお腹がひどい。
ナイフでも刺さっているような痛みがある。
「起こしちゃいましたね。少ししみるかもしれないけど傷を治すためだから我慢してくださいね」
俺の顔を触っていたのは青髪の少女だった。
粘度のある何かを俺の顔に塗っているようだ。
青臭い臭いがした。
あまり嗅ぎたくない部類の臭いだ。
少女は俺に何かを塗りながら話し始めた。
「今はまだ話せないと思うから無理に声を出そうとしないでくださいね。喉が焼けちゃっているんで……」
道理で痛むわけだ。
火事に巻き込まれて火を吸ってしまったのだろうか?
体中の痛みもそれで説明がつく。
「山肌の……崖の下のところで魔物に襲われているところを見つけて……。もう少し早く見つけれたらよかったんだけど……」
言いながら彼女は少し申し訳のなさそうな顔をした。
何か……。
何かいま魔物って言った……。
魔物。
頭の中で紫の生物の姿がフラッシュバックする。
馬鹿でかい口が目の前にあって、その舌が俺の顔に張り付き……。
確かに魔物を見た記憶はあるようだ……。
だが魔物……。
魔物と言う言葉に妙な違和感を感じている。
その違和感が何かは分からなかった。
少女が話す言葉を相槌も打てないまま聞くうちにいくつかのことが分かった。
俺が紫の魔物に襲われたということ
今の俺はまともに動ける状態じゃないということ
俺を助けた少女は『ターニア』と言う名前だと言うこと
そしてやはり俺の記憶は剝脱としてはっきりとしないことが分かった。
どうやら過去のことは一切合切覚えていないようだ。
どうして魔物に襲われたのかも、襲われる前に何をしていたのかも記憶になかった。
自分がどこに行き何をしようとしていたのかもわからない。
名前さえ思い出すことはできなかった。
数日経ち、ようやく多少なり動けるようになってきた。
依然痛みはあるが何とか耐えれる痛みだ。
痛みを我慢しながらベッドから起き上がる。
体の表面の痛みは引き、今ではむしろ痛みより痒みの方が強かった。
ベッドのシーツを見るとところどころ血が付き黒くシミを作っている。眠っている内に掻いてしまっているようだ。
まだ歩くのは厳しいがベッドの上で座ることぐらいなら出来るようになっていた。
座ったところでやることはないのだが……。
「お兄ちゃん! ご飯できたよ!」
青髪の少女ターニアは俺のことを『お兄ちゃん』と呼ぶようになっていた。
名前が分からないからそう呼ぶことにすると言われ、それが続いている。呼び名がないのは不自由だからだそうだ。
喋ると喉に激痛が走るから未だ会話が出ていないから仕方のないことなのだが、喋ることが出来るようになっても恐らくこのままだろう。俺自身が名前を知らないからだ。
なんとか記憶を戻したかったが、何もきっかけをつかめずにいる。
「ほら、あーんして!」
ターニアは初めよりも明るくなっていた。
なんだか暗い印象を受けたのはただ緊張していただけなのかもしれない。知り合いでもない死にかけの人間の面倒を見る羽目に合うなら俺だって暗くなる。そう言うことなのだろう。
今は少しずつ俺に慣れてきたと言ったことなのかもしれない。
「もう! お兄ちゃん早く開けてよ~!」
ターニアは木で出来たスプーンを俺の前に差し出した。
スプーンの上で何やら緑色のドロドロとした物質が異臭を放っている。
薬草を小麦と混ぜ煮詰めたものなのだと言う。
薬草が何なのかはわからない。
ただ口に入れると口中に青臭い臭いが広がるのだ。
美味しい物じゃない。はっきり言うと不味かった。
「ほら、あーん。お兄ちゃん美味しい?」
ターニアの言葉に俺は無言でうなずく。
美味しいわけはないがそうするほかなかった。
食事が終わると目を瞑った。
碌に動けないから横になることくらいしかできないのだ。
しばらくすると体が熱くなってくる。
食事の後と軟膏を塗った後はいつもこうなった。
熱と共に僅かに痛みが和らいでいくのだ。
体の中に熱を感じながらこれからのことを考える。
恐らく傷がある程度癒えるまではこの家においてもらえるだろう。
ターニアの感じからして、少なくとも今すぐ放り出されることはないはずだ。
逆になぜここまで親切に看病して貰えるのかはわからないが、それはまあいい。
問題はここを出ることになってからだ。
この家を出ることになったらどうすればいい?
俺はどこに行けばいいんだ?
わからない。
記憶がないからわからない……。
しかしそんなこと信じてもらえるだろうか?
何か思い出さなくては不味い。
何でもいい……。
何か記憶を……。
なまえ:XXXX
きおくのないいきだおれ
レベル:5
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ちから:10
すばやさ:7
みのまもり:2
かしこさ:2
かっこよさ:5
呪文・特技:ライデイン