「ギラ」
その言葉と共に手のひらから光が生まれた。
光は釜の下にある薪に向かって放射され、閃光に当たった薪は瞬く間に燃えだした。
「今日は野菜のスープだよ」
「……」
ターニアが普段から手から何か放出しているのには気が付いていた。
薪に火をつけるときや蠟燭に火を灯すとき『ギラ』と言う言葉と共に光が生まれるのだ。
謎の現象である。
俺も試してみたが何度やっても上手くはいかなかった。
魔法と言う物らしい。
ターニアに聞くと、気が付いたときには使えるようになっていたのだという。
「掌に魔力を込めて呪文を唱えるとでるんだよ」
魔力が何なのかまずわからない。
記憶が戻れば使えるようになる可能性もあるが、今のところ望みは薄いようだ。
「使えなくても気にしちゃだめだよ」
村の中でも魔法を使えるのは珍しいのだとターニアは少し自慢げに言った。
ある日、家に60代くらいの禿げた男がやってきた。
ターニア曰くこの村の村長だという。
精悍な顔立ちだった。歳を取ってはいても目に力があり、服の上からでも筋肉質な体つきをしていることはすぐにわかった。
「お前が……ターニアが助けたという男か?」
村長はまずターニアを一瞥し、それから俺に目を合わせ話し始めた。
「傷の具合はどうだ?」
「ようやくなんとか……」
最近ようやくまともに動けるようになってきていた。
ターニアの薬草が効いたのかもしれない。
毎日の水汲みでもへばることもなくなり、日常生活でも不自由がない程度に回復していた。
「そうか……。良かったのう。はじめ見た時は消し炭のような見た目じゃったからこのまま死ぬかと思っておったがよく頑張った」
「はあ……」
「それでだ。体も癒えたところでこれからどうするつもりかね?」
「これから……ですか」
どうすればいいのか俺自身分からなかった。
体が癒えるにつれてどうするべきか考えていたが答えは出ない。ターニアは記憶が戻るまでここにいていいと毎度のように言ってくるが、それでいいわけがないことはわかっていた。
碌に働きもしないごく潰し。
せめて何か役に立てることでもあればいいが、そんなものは思いつかなかった。記憶があれば何か出来ることはあったのだろうか……。
「ふん。なにも思いつかんか」
「はい……」
村長は俺の無能さを特に気にした様子はないようだった。
ターニアをまた一瞥すると話を続けた。
「お前はターニアに助けられた。それはわかっているな?」
「はい」
「それならば、これからはターニアを助けるために働かなきゃいかん。分かるか?」
わかるだろう。
そう言わんばかりの圧のある言葉だった。
『その命は誰のものか』
そんな言葉が頭の中で流れた。
昔の記憶だろうか……。思い出せない。
「お前もただ飯ぐらいのままでは嫌だろう。明日の朝わしの家まで着なさい。なにか村での仕事を探してやろう」
それから村長はターニアになにか話し帰っていった。
俺に何かできることがあればいいが……。
水汲みの仕事があればいいなと思った。ないことはわかっているのに……。
「大丈夫だよ。お兄ちゃん」
「そうかな……」
「そうだよ!!!」
少し不安がる俺にターニアは優しかった。
いつだって優しかった。