「お兄ちゃんおかえりなさい!」
俺が家に帰り着いたのは夕暮れ時だった。
家に入るなりすぐターニアが玄関まで出迎えに来る。
俺がここに来てから家を離れることはほぼ無かったので心配だったのだろう。
「お兄ちゃん、お腹減ったでしょ? ご飯できてるからすぐに食べようね!」
そんなことを言われながら家に入る。
夕飯はいつもより少し豪華だった。
「今日はどうだった? 何か仕事見つかった?」
ニコニコしながら聞かれる。
答えずらかった。
「その、だな……」
「うん」
「……」
「……?」
「あー、うん。狩人に……なることにした」
「えっすごい!!! お兄ちゃんが狩人になったらお肉いっぱい食べれるね!」
とんでもないことを言ってしまった。
言ってから思った。
いや、でもランドの親父はなりたいなら今から狩人だって言ってたし……。
今日まわった中ではなんとなく一番できそうな感じだったし……。
兎に角、言ってしまったからには狩人で押し通すしかない。
「そうだな。これから肉を食べるの飽きちゃうかもな」
「やったー!!!」
ターニアは嬉しそうに笑った。
たぶんお肉とかそう言うのはどうでもよかったんだと思う。
俺が怪我を克服し働けるようになったのが嬉しかったんだ。
そう思った。
「センスは悪くないかもしれんが……。スライム一匹位なら一振りで倒せるようにならんと、こいつらは群れで生活する魔物じゃからタコ殴りにされるぞ」
村長からの言葉だった。
なんとか一匹だけスライムを倒した後に言われた言葉だ。
スライムは本来は苦労して倒すような魔物ではないという。
子供でも倒せるような魔物なのだと。
スライムから体当たりを受けた場所に痛みが走るのを我慢しながら話を聞いた。
「ちょっと弱すぎだろ……。狩人はやめたといた方がいいな。……死ぬぜ?」
ランドの言葉は率直だった。
狩人になった場合に狙う獲物は鹿や猪だ。
鹿や猪を見つけるまでに出てくる魔物を蹴散らせないようじゃ話にならない。
そう言うことなのだ。
初めての狩りはこれで終了となった。
体中が痛かった。
スライムに体当たりされた場所が熱を持ったように腫れあがっている。
帰り道にも魔物が出た。
紫色の魔物と馬鹿でかい蝙蝠の魔物だった。
ランドがあっという間に倒してしまったので強さはわからないが、少なくともスライムよりは強いだろう。戦っている動きでさえ俺にはよくわからなかった。
「うーむ。しばらく村の雑用でもやってもらうか……。薪拾いくらいなら出来るじゃろ……」
村に着きしばらく悩んだ後、村長は言った。
俺に出来る仕事を思いつかなかったのだ。
武器屋なら働けそうだと思ったのだが……。
『ひのきのぼう3年、たけのやり5年……』
俺が日和ったこの言葉は、遠回しな断りの言葉だったのかもしれない。
少なくとも村長から二度と武器屋にするかという言葉は出ることはなかった。
朝が来る。
一晩寝るとスライムと戦った時にできた体の痛みは消えていた。
昨日は傷んだが、それほどひどいダメージではなかったのかもしれない。
家を出てまずは水を汲みに外へ出た。
最近はターニアの付き添いはない。
体が動くようになってきてから一人で行けると断ったのだ。
水汲みを終えて家に戻ると、ターニアと朝食を食べる。
「今日は村長さんの家に行ってくる」
「うん。お仕事頑張ってね!」
えらいことになったかもしれないなと思った。
昨日から思っていたが改めて思った。
その日は村長と二人で村の外へ出た。
村の外と言っても目と鼻の先に村が見える場所だ。
その場所は枝を切られた木が乱立していた。
「薪拾いは落ちてる枝を拾ってもいいし、木から生えてる枝を切ってもいい」
村長は手に持った鉈を振るって、目の前の木から生えた枝を切り落とした。
なぜか丸太を斧で切って薪を作るイメージがあったが、確かに木の幹をのこぎりで手ごろな長さに切り分けるよりは枝を切り落として集める方が楽かもしれない。
「村の近くならほとんどスライムしか出ない。もしスライムに出合っても走って逃げれば追いつかれることはないから大丈夫じゃ」
魔物はやはり出るらしい。
今日は村長が見張ってくれるらしいが、明日からは逃げろとそう言うことだ。
確かにスライムなら囲まれたとしても1,2回体当たりは食らうかもしれないが強引に逃げ出せる余地はありそうだった。
村長から渡された鉈を振るう。
村長が一振りで切れた枝を、俺は3度振って切り落とした。
根本的な腕力が違うのかもしれない。
ある程度切り落としたら、開けた場所まで枝を運び集めて山にした。
数日乾燥させてから村の小屋へ運ぶのだそうだ。
作業中に数回スライムが現れた。
大半は村長が倒したが、3匹ほどこちらへ向かってきたスライムを体当たりを食らいながらも鉈で切り倒すことができた。
スライムの動きは変則的だが結局は体当たりしかないのだ。防御することだけ集中するなら受けることは容易い。
棍棒で体当たりを受け止めるとはじくだけの結果になったが、鉈の場合は相手の体当たりで体を少しだけだが切ることが出来た。
「これって、もしかしたら……」
銅の剣があれば刃先をうまく向けて防御するだけでスライムを倒せるかもしれない。
そう思った。
その日は帰りに拾ったキノコをお土産に持って帰った。
「今日はキノコ鍋にするね!」
「ああ」
夕食はキノコ鍋になった。
美味しそうにキノコを食べるターニアは、狩りについてのことは何も聞かなかった。