見える子ちゃんの先輩   作:生死郎

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『見える子ちゃん』そして四谷みこが好きで書きたい欲求が極まり書いてしまいました。よろしくお願いいたします。


あなたも、見えてる?

 四谷みこは人には見えないものが見える。異形で奇怪。恐ろしく禍々しいものたち。

 

「あぁ……、今日もいい天気だなぁ」

 

 みこは朝起きると毎日思う。

 今日こそ見えませんように。怖い思いせずに一日を過ごせますように。信心が特別あるわけでもなく、祈る神すら決まっていない漠然とした祈りをする。

 

《ね、ね、……あそぼ。ね、あそぼ》

 

(……怖い怖い怖い怖い怖い怖い!)

 

 朝からいつの間に近づき寄り添う異形。日常を蚕食してくる非日常の侵略者。

 みこは妖異に自分が見えると知られるのは不味いと、直感的に知っていた。しかしながら、みこは彼らが見えるだけで自衛や抗うすべを持たない少女である。

 故に、彼女は初めて異形たちを認識できるようになった日から本能的に“シカトする”という選択肢を採った。

 自分を見えないと思った異形たちは暫くするとみこから離れるようになっていたことで、彼女は唯一できる自衛手段を続けていた。

 

《こっち見て……ね、ね。……見て、見て……》

 

(……やめて!やめて!めっちゃ怖い!)

 

 学校へ向かうバス停で、みこはいつも通りバスを待ちながら手持ち無沙汰を誤魔化すためにスマートフォンを弄る今どきの女子高生にしか見えない。

 

 だが、みこは空いたほうの片手は丈の短いスカートの裾を震えながら握りしめていた。恐怖心を誤魔化すときの彼女の癖だった。

 大きな虚のような目でみこの顔を覗き込む。

 

(───!)

 

 みこは思わず声が出そうになった。そのとき──

 

方位(ほうい)

 

 みこの近く異形とは別の声が聞こえた。

 

定礎(じょうそ)

 

 振り返ればそこには学生服を着た少年が立っていた。

 

(けつ)!」

 

 みこのそばに立つ異形は半透明な立方体に囲まれていた。

 

「……え?」

 

 呆けたような声を出すみこ。

 異形も困惑している様子だが、少年が自分を見ていることに気がついた。

 

《見え……見えるの?》

 

「だ、ダメ!」

 

 みこは思わず、声をあげて少年に視線を逸らすよう言いそうになる。

 

「そうだよ。俺はお前が見える」

 

《見えるのぉぉぉ!!》

 

「見える。だからお前を消す」

 

 少年が冷然と異形に言った。怯だを感じさせない態度である。

 

(めつ)!」

 

 立方体は瞬きよりも速く縮小して、異形を圧砕した。

 

「ひっ!」

 

 縮小の風圧でみこの長い黒髪やスカートが翻る。恐る恐る、みこは少年を見た。自分が恐れ、怯えるしかできない異形を一方的に滅した少年。

 頭髪はくせのある髪で黒に近いダークブラウン。端正な顔立ちの少年。学生服を着ていることから学生と思われる。

 

「あなたは……見えるんですか」

「そうか、やはり見えていたか。ああ、俺も見える」

 

 少年が真っ直ぐとみこを見据えた。

 

「俺は墨村景守(すみむらかげもり)結界師(けっかいし)だ」

 

 少年──景守はそう言った。彼はポケットからハンカチを取り出して、みこに差し出した。

 

「え?」

「怖かっただろう。涙、拭いてくれ。これは未使用だから安心していいから」

「ありがとうございます……」

 

 きっちりアイロンのかけられたハンカチ。みこが受け取ったとき、自分がはじめて自分が瞳に涙を湛えていたことに気が付いた。

 

「あ……あれ……。ご、ごめんなさい」

「気にしなくていいよ。安心してれていい」

 

 景守は低く、優しい声音で諭すように言う。

 

「それで、ぁ……。すまない、名前をまだ訊いてなかった」

「あっ、私こそすみません。四谷みこです」

「よろしく。四谷さんは見えていたようだが特別、身を守る手段があるわけではないんだな」

「あの、はい……。見えるだけなんです。それで、私は最近急に見えるようになって……」

 

 景守に少しずつ、みこは話し始めた。今まで言えなかった秘密の悩みを話せる相手、ということもあって慣れない異性であっても徐々に言葉が止まらなくなってきた。

 

「ほんとに怖くて、私以外誰も見えてないし、盛り塩しても全然効果ないし、無視してたらどこか行っちゃう奴もいるけど、さっきの奴みたいにしつこく付きまとってくる奴もいて、家に居座ったり友達に絡み付いたりする奴もいて、このままだと耐えきれなくてあいつらに見えることバレたら私どうなっちゃうんだろうって思うと本当に怖くて……だから、お願いします。助けてください!」

 

「ああ、いいぞ」

(え、軽っ!?)

 

 気が抜けるほどあっさりした少年の言い方にみこは驚いた。しかし、端正な容貌に浮かべる笑みには不思議と安心感と任せられるという安心感があった。

 

「とりあえずコレ連絡先を渡して置くので、後で会おう」

 

 学生服の内ポケットから取り出したメモ帳に電話番号を走り書きしてみこに渡した。

 

「詳しい事はそのときに話そう」

「あっ、はい。すみません、ありがとうございます」

 

 良かった、伝わった!それに助けてくれそう!とみこは内心小躍りしたくなるほど喜んだ。

 秘密の悩みを共有できて、しかも助けてくれるという。まさにヒーロー見参!神に祈った甲斐があったというものだ。

 

「お互い、学校があるだろうし放課後でいいよね」

「そ、そうですね。よろしくお願いします」

 

 景守は青山にある学校に在学しているらしい。そこは、つい最近まで受験生だったみこはも訊いたことがある学校で偏差値はみこが通う高校よりも高かった。制服が可愛くて魅力的だったのだが学校選びでは考慮から外していたので印象的に覚えていた。

 

「墨村さん、二年生なんですね。じゃあ、先輩だ」

「────」

 

 景守は瞠目したまま沈黙している。前髪を弄って真剣そうに考えている。

 

「あの……」

 

 みこが胡乱げに景守を見ると、彼女の視線に気づいた景守は誤魔化すように頭を掻く。

 

「いや、なんでもない。そうだな、先輩ってことでよろしく」

「は、はぁ、よろしくお願いします……先輩」

 

 景守の何か満たされたような笑みを浮かべた様子から、とりあえず彼の歓心を得ることができたようだと、みこは安堵する。

 

 その後、景守と別れたみこはHRにギリギリで登校した。

 

「先輩、どういう人なんだろう……?」

 

 みこの手には返し忘れた景守のハンカチがあった。高級なブランド品というわけではないが良いブラントで柄の品もいい。持ち主のセンスが良いのだろう。

 

「学生で、あいつらを倒すことを仕事をして……。ゴーストバスター?」




【人物紹介】
墨村景守(すみむら かげもり)
頭髪はくせのある髪で黒に近いダークブラウン。端正な顔立ちの少年。燦燦たる切れ長の眼、赤く濡れた唇、学生服姿でも優雅さがある。年齢に似合わず万事に超然とした趣をしている。
高校生ながら類稀なる間流結界術の使い手。通常の結界術だけでなく絶界も使いこなせているが、無想はまだ発展途上。結界師として幼少期から活動していた経験から同年代の少年よりも精神的に達観している。
身長:180cm、体重:77kg。
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