連載中の作品の二次創作だとあとで頭を抱える事態になることもあるので、彼女の扱いが難しいです。お父さんのお友達の奴も主人公が祓ってしまったのは申し訳ない。
「ごめんハナ、家族以外面会できなくて……。うん、大丈夫。検査だけだから」
「差し入れのお菓子は何キロ必要?」
「はは……。要らないよ。というか、キロって……」
ハナと同じ量を食べれば待っている未来は苦しいダイエット地獄だ。十代の娘と変わらないスタイルの母を持つみことしては、母より体型が崩れるというのは危機感を煽られる思いだ。
(前はちょっとくらい、とか思っていたけれど……)
最近は見た目にもよく気を遣うようになった気がする。食べるものもそうだが、美容品などにも何かと興味が強くなったとみこは感じている。それは最近知り合った先輩からどう見られるか、と気になる気持ちがみこの中で優先順位が高くなったのだ。
ザザッという耳元の音で音もなく思惟の泡が弾けて、みこはハナと通話中の自分をあらためて確認した。
ハナは何か話しているようだが雑音で声が聞き取れない。電波が悪いな、と思いながら友人の言葉を聴き取ろうとする。
「もしもし?」
《でんわ切って》
「す……っ!?」
注意されて反射的に謝りかけたみこは、途中で通話OKの休憩スペースにいることに気づき、振り返る。
そこにいたのだ。怪異が。
異様に下顎が長く、洞のようにぽっかり開いた口。片目が潰れた虚ろな目をした異様な男の姿をした怪異。
「───」
視線を虚空に投げ出し、シカトし始めたみこ。怪異をシカトして見えていないように振る舞うことこそ、みこの怪異への護身だ。
《切って、でんわ切って……》
空いたままの口から出て来る声は、咽喉を通った空気が感じられないような違和感のある声で、みこは内心身震いを禁じ得ない。
事故に遭って怪異から彼女を守る御守りも失われた。もしもあの怪異が電話をしているからと襲い掛かられたら、みこには身を守るすべがない。
ザザッ、ザザーと雑音が怪異から発しはじめ、頭痛に苦しむように頭を抱えて悶える怪異。
みこは緊張で全身が強張り、皮膚には鳥肌が生じ、冷たい汗が内側から入院用に着ていたパジャマを湿らせた。
「ハナ、ごめん! そろそろお夕飯だから、また連絡するね!」
嘘である。夕飯までには時間があるが、咄嗟に嘘を吐いてハナとの通話切った。
怪異が立ち去ったのを視界の隅で確認して、みこは嘆息を吐きながら椅子に座る。ようやく緊張がほぐれていく。
(怪我よりもあっちのほうが頭痛いよ。……見分けづら……)
気だるい疲労感を感じながら、みこが視線をふと向けた先に見知った姿があって、みこは心臓はステップを踏んで舞った。姿勢も自然と伸びる。
「せ、先輩……」
頭髪はくせのある髪で黒に近いダークブラウン。端正な顔立ちの少年で学生服姿でも優雅さを感じさせる。
みこが先輩と慕う
景守は一〇歳に満たなそうな少女と何か話して、いると現れた母親とも何か話している。
母娘と別れた景守はみこを見つけて手を振った。
手を振り返したみこは花が綻ぶように自然と微笑む。先程までの疲労感は既になかった。
◇◆◇
「あいつらの声が五月蠅くて、それで適当な受け答えをして検査入院することになったて……みこ」
「すみません、先輩! 本当にすみませんでした!」
「いや、謝らなくてもいい。不可抗力なところもあるから」
呆れた様子の景守にみこは肩を落としている。呆れられるのもしょうがない、そう思うみことだった。
入院することになった理由は客観的に見れば、馬鹿馬鹿しいことだなとみこ本人も思った。
みこはバスが横転する事故に遭いながらも、小さなこぶと少々の打ち身程度の怪我だった。問診の際に、ふとした出来心と好奇心で脳に何かあれば普通なら見えないものも見えるのではないか、そう思い医師に質問したのだった。それがいけなかった。
医師が問診をしても突如湧いて出た奴らの意味を持たたない言葉を紡ぐだけの声に、問診が聞き取り難く、適当な受け答えをしてしまったがために医師は検査入院をみこに言い渡したのだった。
「ここ、少し歩くだけでもヤバいのがたくさんいて、困っているんです。やっぱり病院だからこんなに……」
「病院は集まりやすいところではあるけど、土地の問題だ」
隠してもみこには意味がないと思い、景守は調べてわかったことを教えた。
「病院が建つ前、この辺りは大きな池があった。さらに昔は古戦場で池に死体を沈めていたのだという。池が埋め立てられてまた多くの生き物が命を落として未練や妄執が染み込み、次々と地中の池に念を吸い込み続ける。ここはそういう場所なんだ」
「……あの、それは生きた人間には」
「土地そのものには悪影響はないだろうが、死霊が集まり過ぎているのが問題だな。今回は君もその被害を被ったわけだ」
入院の件を指摘されてみこは苦笑した。
「とりあえず、ここにいる良くないものは、君が入院する一晩のうちで片付けておくよ」
「……よろしくお願いします」
部屋の掃除をする予定を話すように景守はみこに話していた。彼女が利用することになった病室も、他の病室に蔓延る怪異たちにもみは怯えていたので景守の提案は素直に嬉しかった。
「それにしてもあの人たちの意味がよくわからない言葉……あれは何なのでしょうか」
「意味なんてないさ」
みこの疑問に景守は彼の私見を交えて答える。
「生前の記憶、その中にある言葉をただ言っているだけで誰かに何かを伝えたいわけじゃないことが多い。あれらは壊れたミュージックボックスのようなもんさ」
「生前の記憶……」
「奴らの言葉が何か言い方がおかしかったりする経験が君にはあるかな? 妙な言葉を繰り返すだけ、というものだ。それもバグを起こしても誰かが修正することもないからそうなっているだけのようなものだ」
「ああ、覚えがあります。コンビニで昔の消費税で請求されました。あれ、昔は店員だったのかも」
「人間、遊ぶために働くものだというのに、死んでも働くことになるとは気の毒に」
景守がシニカルに笑いながらそう言った。
「先輩、人と言葉を交わせる霊はいるんですか? そういうのと話したことはありますか」
「いるにはいるけど……話してみたいのかい? お父さんと」
「確かに父とはもう一度話したいと思っていますが、それだけじゃなくてほかの見えるものと、考えていたんです。人には見えないモノが見える私は、これからできることは何だろうと」
「話して意思疎通が可能であれば何かができるのだろうかと?」
景守に台詞を先取りされたみこは黙然と頷いた。みこには景守が賛成してはいないようだと感づいた。
「君には話しても大丈夫なモノとそうでないモノを見分けられるのか? 人に擬態した怪異に襲われたことがあったよね。あんなことは珍しくはないんだぞ」
以前、景守と公園で話していたときである。ただの子供だと思っていた。子供が手をふり、みこもそれに手を振り返したのが不味かった。見えることがばれると子供の姿は禍々しい異形へと変わり、みこへ襲い掛かってきたが景守によって事無きえた。
「俺にはごく僅かな例外のためにみこが危険に身を晒すことは賛成できない。あいつらが人と言葉を交わせる奴らもいるが、何故言葉を交わせるかわかるか? 奴らにとっての言葉は生きた者を欺くすべだ。
「───」
「まあ、俺が言えることはだ。何がしたいか、何をしたいかを決めるのは急ぐ必要はないということだ」
「……そうですね。急ぐ必要はないですよね」
「さて、そろそろ本題に入ろうか」
「本題?」
「君があの神社で結んだ縁を断とうと思う」
(入院イベントのフライングで)ロムの霊圧が……消えた……?