見える子ちゃんの先輩   作:生死郎

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更新がかなり遅れてしまいました……。事前連絡した日より遅れて申し訳ございません。
この先も合わせてやることは決まってるのですが、なかなかそれらをまとめるのが難しかった。


神はそこまで人に興味を持っていない

 東京郊外へ墨村(すみむら)景守(かげもり)四谷(よつや)みこは向かうためバスに乗っていた。休日の土曜日。学生も会社員も乗り込む人の数は少なく、景守たちの目的地に近づくにつれて人が徐々に少なくなった。

 

 隣の景守をみこは何度も観てしまうのは、彼が珍しい格好をしていたからだ。

 黒の手甲、黒の着物、黒の足袋と、黒ずくめの格好。袖を翻す様子は鴉のようだった。杖のような長いものを納めている布袋を持っていたが、それらは彼の家が結界師の仕事をするときの装束なのだと、みこは説明を受けた。

 

 今までと違う装い。結界師としての仕事着を着る景守に、自然とみこも気持ちが引き締まる。

 

「そろそろ着きそうだ。こう言っても意味ないかもしれないが、あまり緊張し過ぎることがないようにな」

「はい……先輩、ありがとうございます」

 

 不安がまったくないわけではないが、みこの表情は覚悟を決めた毅然としたものだった。

 

「後は任せろって言われて関わらせてもらえないかと思いました」

「関わらせたくないのは本音だけど、君は当事者だからね。知ることも、どうするか決めることもみこは決めるべきだと思うんだ」

「ハナは私があの神社へ連れてきてしまいましたから。だから、私がなんとかしないといけないと思うから先輩、私にも協力させてもらってありがとうございます」

 

 バスの後方で並んで座る景守とみこの会話は、少ない乗客たちの耳にも届かないよう景守が予め結界を張っていた。目につく魔も既に除去してしまっている徹底ぶりだ。

 見てないふりをするしかないみこにとって、実力行使で恐ろしいものを滅する景守は頼もしい。

 

 

「改めて確認すると、これから向かうところは良くないものが集積されるエアーポケットみたいな場所だ。有象無象が集まっているからキツいだろうが、そこは頑張ってくれ」

 

 景守がみこへ状況を整理するために話し出す。

 妖魔が集まる影響か民家からも人が離れて廃墟同然と化したことで、行政からも忘れられた土地。裏会の管理者も不在という表世界、異能業界の両界から見放された土地と言えた。

 

「調べてわかったことだが、あの一帯は人が立ち寄らないが例外的に近づいてくる人たちがいる。目的はあの神社だ」

「えっ……」

「山の神様にお祈りをすれば、願いを叶えてくれる。そんな噂を信じてやってくる人たちだ」

「あのそれじゃあ、願いを叶えるというのは」

「叶えてはやるんじゃないかな。だがそれは神ではなく神を詐称する(あやかし)だよ」

「妖? 神様ではなくて?」

「廃神社を棲み処とする妖。それが山の神様の正体だろう」

 

 景守が神社の件でみこに正体の推測を話し始めた。

 

「君に移ったと思われる邪気、それと山周辺を調べたことで考えた。土地神の類ではないと思った。妖から土地神になることもあるが……それが人間に手出しするって話はあまり聞かないなぁ」

 

 景守が腕を組んで唸る。美人にストーカーしていた神はいたらしいけど、など独り言を呟いていた。

 その神についてはみこも非常に気になるところだが、今は目下の問題のほうである。

 

「妖から土地神になることもあるんですか?」

「あるね。そもそも土地神は大きく分けて二種類ある。一つはその神祐地内で生まれ出た土地神。これが生え抜きの例。生え抜きは邪気がなく、より純粋な神としての存在だ。そしてもう一つが元来力を持った妖が、神祐地に住み着く等して土地神に昇格するケース。最初、神社の件で疑ったのはこれだった」

「もう疑っていないんですね」

「ああ、人の願いを叶えて対価を得る。そんなことをするほど神は何かを求めてないし、人間に差し出せるものに、神が興味を持つものがあるかどうか……。何より、神はそこまで人に興味を持っていない」

 

 勘だけどね、そう付け加えた景守だが彼には確信があるようだとみこは思った。

 

「妖だったとして、願いを叶えることは本当だと思いますか?」

「願いは叶えてくれるだろうね。だが、願いを叶えてくれるだけの魔法の壺ってわけじゃあない」

「見返りが必要、ということですね?」

「そういうことになるだろうね。真実は、願った者にしかわからないだろうけどな。困ったことに、この類の誘惑にかられるのは異能者にも多いんだ」

 

 裏会にも記録されている異能者が件の土地で行方不明となっている。異能者以外にも行方不明になった者も少なくないだろうと景守は考えている。

 

「……私はただ、ハナに憑いたヤツをなんとかしたいからお参りしただけなのに……」

「みこ、その願いはすぐに叶ったんだよな?」

「はい……」

 

 景守の確認にみこが首肯する。みこが願ったときハナに憑いていた巨大な怪異。それが突如現れた禍々しい巨獣が滅ぼした光景は、今でもみこの記憶には鮮明に残っている。

 

「ならばその場で対価……見返りを要求されそうなものだけどね。見逃されたのは何故か。

その時に願ったときのことをよく思い出してくれ。みこ、君は何て願った?」

 

 みこは当時に胸中で念じた言葉を思い出した。

 

 ───お願いします。

 ───お願いします。

 ───助けてください。何でもします。

 どうかハナを呪いから救ってください。ついでに私も……

 

「……ついでに私も助けて欲しい……ってお願いしました」

「ついで、か。そして奴らからは“さんかい”って言われたのか」

「そうです。あの着物の子たちに助けられたし、三回助けてくれるってことなのかなって……」

 

 景守はみこの言葉を訊きながら、自分の推測を話し出す。

 

「あの場所に立ち入る者は明確な願い事は大抵がひとつだ。通常では成就できない願い。だからこそ、もう縋ることは神頼みしかないって」

「困ったときの神頼み、ですね」

「まさにその通り。だけどみこはナビで偶然あの場所を見つけてふらっとやって来た。そして願い事が二つ。だけど願いの内容が『ついでに私も助けて』なんて曖昧な願い。願望を成就させて対価を得る契約は、人間だけではなく魔のほうもにも課せられる。願望が成就できたか、魔のほうへも対応に苦慮したのだろう」

「そうか……あのときのは」

 

 巨獣と二人の着物の少女が何か揉めているような様子を、みこは思い出した。言葉はまったくわからなかったが、あれは願いを叶えることができたか、出来なかったかで口論していたのか。

 

「“さんかい”が三回助けるという意味であるならば、君にはあと二回助ける必要が奴らにはある」

 

 景守は三と指を立て、一つ指を折り二とみこに見せつける。

 

「今はまだ猶予があるが、……君の願いの対象はハナも含まれている。もしも、ハナが知らないうちに奴らに助けられていれば、既に願いは成就したことになる」

 

 黒檀のような瞳が、みこを見据える。

 

「奴らは高利貸しだ。貸した金を返さないならば取り立てられる。そして、取り立てる相手はみこだけではない」

「……ハナ」

 

 みこの声が震える。緊張で咽喉が渇き、水を飲もうとするが手が震えてペットボトルのキャップが上手く開けられない。

 恐ろしい話だが自分はそれを訊かなければならないとみこは自分に言い聞かせる。景守が自分に話しているのは、みこ自身が当事者であり、友人を巻き込んだしまった責任の取り方を、友人の護り方を教えてくれているからだ。

 

「私はどうすればいいんですか?」

「みこには神社へ通じる道を作ることを協力して欲しい」

「道?」

「ああ、神社には結界がある。結界こそが簡単には立ち入ることができない理由だ。結界を破ることができなければ、決して辿り着くことができない場所」

 

 山という異界。そして神社がある山は神佑地(しんゆうち)とされる霊山だ。俗世間と神社を隔てる結界は展開させやすく、閉鎖性も強いものとなる。

 

「これはほぼ間違いないだろう推測だが……はじめてみこが神社に来たとき。君が神社に立ち入れたのは、ハナがオーラで結界を破ったのだと思う」

「オーラが? ヤバイ奴らからハナを守るだけじゃなかったんだ」

「凄い能力だけれどね。もしもみこが一人で神社へ向かっていたならば辿り着けなかっただろう。そういう意味じゃ、今回は間が悪かった」

「……」

 

 俯くみこの頭に、景守がそっと手を置く。

 

「間が悪かっただけだ。誰も悪くはないさ」

「すみません……ありがとうございます」

 

 通常は結界で辿り着く事はできないが、景守の結界師としての能力が神社に至るための道を無理矢理実体化させるのが景守の計画だった。

 そしてみこに頼む役割とは指針。道を作るすべがあっても神社へ繋げられなければ、結界の向こう側へは渡れない。魔と契約したことでは神社との繋がりがあり、神社と共振できるみこを指針にして初めて確たる道のりを歩むことが出来る。

 

「まあ、みこは俺と一緒に山を登って神社まで行けばいいだけから、そこまでは難しく考えなくていいよ」

「道中に湧いてくるだろうモノや肝心の結界破り───いや、越境かな? それを大したことがないみたいに言うのはご立派です」

「えっ」

 

 不意に知らない男の声を訊いてみこの心臓は強烈にステップをふんで踊った。

 みこと景守が座る座席の通路を挟んだ反対側の座席に座る男の声だった。頂が平らな円筒形の黒い帽子をかぶり、黒いコートを着た男で、年齢はどれくらいかみこには検討がつかなかった。若くも見えるし、中年にも見える。

 

「こんにちは」

 

 男はあいさつをしてくるが、景守は警戒して、みこは驚きと困惑で何も言わなかった。

 

「ついあなた達の話が耳に入ってしまって、つい口出ししてしまいました。すみませんでした」

「嘘をつけ。結界で話は聞こえないようにしていたんだ。普通ならば聞こえるわけがないだろう」

 

 みこには景守の周囲から黒い陽炎のようなものが立ち昇るのが見えた。これはオーラなのかと、みこは思った。ハナのオーラは見えなかったのだが、景守が纏うように見えるのは何なのか……。

 

「お前は何者だ?」

「私は神童ロム。同業者ですよ。私もこの先に用事がありましてね」

 

 ロムはそう言って、チカラの石と称する石を景守とみこたちに「賄賂です」と言って差し出してきた。

 

「あなたたちの仕事に私も関わらせてもらいたいのですよ。暫くの間、お話しましょう墨村景守さん、四谷みこさん」

 

 彼らが名乗る前にロムはそう言って笑っていた。




ひとまずの状況整理回。『結界師』の設定も含めた独自設定を加えました。

神童ロムについて
『結界師』の世界観と融合したことで彼も異能者になったので、原作よりも能力的にも違うところが多くなります。

ゴッドマザー
もはやRTAになったさんかい編突入のため、写真受け取ってほぼすぐ辺りなので神社行きは不参加。
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