見える子ちゃんの先輩   作:生死郎

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お待たせしてすみません。これが『見える子ちゃんの先輩』の今年最後の更新です。


私の先輩

 土曜日となり、景守は神津に依頼した呪具を用意できた。みこに連絡を取ればすぐにでも欲しいとのことなので、本日、みこと会って渡すつもりである。

 

「ハナ……ああ、君が前に言っていた娘もいるのか」

「はい、ですから彼女にもすぐに渡しておきたいと思って」

 

 景守がみこと出会って最初の土曜日。電話でこのようなやり取りがあった。

 みこは自分の友人が本人も知らないまま、よくないものを引き寄せていることは景守には説明済である。そのため、景守が用意した呪具にはみこの友人であるハナの分もあった。自分のものだけでなく、厚かましいと思いながら友人の分も要求したのはハナにまとわりつく怪異を見た記憶がいまだ鮮明だからだった。

 友人が元気でないと嫌だ、そう思うみこは景守にお願いをしたのだった。

 さて、景守がみこと会う予定である場所へ向かう時、彼はふと気づいたことがあった。

 

(たしか、この辺りにあの店があるはずだったな)

 

 それは土地の管理者が隠していた業界からみのいくつかの事件、そのひとつに関わる人物が持つ店。

 

《占い・お祓い ゴッドマザー 金運・仕事運・恋愛運全て根こそぎアップ》

 

「……怪しい」

 

 胡乱な雰囲気の店構え。屋号からすでに怪しい。資料を読んでいたときから思っていたがこのゴッドマザーと呼ばれる人物は、景守があってきた異能者とはだいぶ異なるようだ。

 対応している客が去ったら接触しようかと思っていたが、景守は心変わりした。

ゴッドマザーの店の前に若い女性が二人立っていた。──正確に言えば傍らに立つ妖異がいる。

 

「みこ……?」

 

 客は四谷みこと女友達だった。伝え聞く特徴などからおそらく、彼女が百合川ハナなのだろう。

「おいおい……、あの娘、また」

 

 景守は忌々しそうに顔を歪めた。経緯はわからないがみこはかなりたちの悪いモノに憑かれている様子だった。

 みこは怪異と引かれ合う性質でもあるのではないか、と景守は考えてしまった。

妖異から身を守るため、ゴッドマザーの道具を求めているのか、と景守は推測した。それに関しては呪具をすぐに届けられなかった景守にも負い目がある。

 

「兎に角、やるべきことをしなければ」

 

みこは相変わらず気づかないフリをしているが、いつまでそれが維持できるのか分からない。

 

『がゆい…』

 

 景守はみこたちに近づく、距離を見計らっているとゴッドマザーがみこに渡した数珠が、妖異が放つ禍々しい気によって爆ぜ飛んだところだった。

 景守の指先から糸状の結界、念糸(ねんし)が伸ばされみこに憑いていた妖異を幾重にも巻き付き拘束した。

 

『がゆっ……い゛ぃ!』

「黙れ」

 

 景守の膂力でみこから引き剝がされ、転倒した妖異。悶え、抵抗するものの、糸から逃れることはできない。景守は引きずり、みことの距離を取らせる。糸が鉄骨も圧砕できるほどの圧力で締めつけ、妖異を強制的に鎮めさせる。

 異変を感じたみこと景守の視線がぶつかった。

 

「先輩!」

 

 

 ◇◆◇

 

 

 四谷みこはハナにも呪具を渡そうと思ったので、景守と会う予定を組みハナを遊びに誘い出した。自分が受け取り、学校で会ったときに手渡すことも考えたが、渡せるなら早いほうがいいだろうし、ハナについても結界師ならではの知見を得られるのではないか、そういう考えもあって、やや強引ではあるが景守とハナを引き合わせてるつもりだった。

 

 

(なんか……ついてきてる……)

 

 迂闊にも暗い路地裏を通ってしまったのが不味かった。みこは後悔していた。

 ハナの買い物に付き合い、さて景守と会おうと思っていたみこの計算は、友人の無軌道な行動でご破算となった。

 魑魅魍魎の棲み処となった路地裏を通るとき、なぜかそこで一番” ヤバそう”なヤツがみこの後を追うようになってしまったのだ。

 

 ボロボロの服を内側から膨らませる膨張した身体。腐り爛れたような大きな頭。禍々しい気がみこの心身を蝕む。

 

 背中に氷塊を詰め込まれたような感覚が襲う。

 嫌だ。恐い。恐い。──誰か。

 

(助けて……先輩……)

 

 祈るような気持ちでみこは胸中で呟く。会ってまだ数日しか経たない。だが、それでも彼の存在はみこの中でかなり大きくなっていた。

 会うまでまだ時間がある。そこでみこはハナが噂で聞いていた”ゴッドマザーの店”に立ち寄ることになったのだが……。

 

(じゅ、数珠が……壊れた!?)

 

 二度も目の前で起きた出来事。みこが呆然としていると突如として背後のヤバい奴が自分から離れたことを感じた。振り向けばそこに彼がいた。

 

「先輩!」

 

 そう呼ぶみこの表情は知らず知らずのうちに明るい晴れやかなものだった。やはり先輩は自分が恐怖し怯えているとき助けてくれるのだと、みこは思った。

 

「偶然ここを通りかかっただけだったが、早く会えてよかった」

 

 四谷みこの先輩はいつもの、何でもないかのように悠然とした態度で挨拶してきた。片手間で行っていることなど大変なことではないというかのようだ。

 景守は手から伸ばした何本もの糸でヤバい奴の身体を縛ってみこから引き剝がしてくれたようだ。

 

 

「何々、みこ。その人は誰? というか、イケメンじゃん!」

「えっと、……彼は、その、先輩です。私の先輩」

「先輩? ……そう、なんだ?」

「うんそうだよ」

 

 断言するみこと景守に、そういうものかと受け止めたハナ。

 

「そっか、私てっきりみこの彼氏かと思ったよ」

「えっ!」

 

 素っ頓狂な声を上げるみこ。途端に火が付いたようにみこの透けるような白い肌が赤くなる。

 

「ち、違うよ」

「だって、この間彼氏いるって言ってたじゃん」

「そうなの?」

「え、いや、いないですよ!?」

 

 景守に聞かれて自分でも思う以上に焦り、慌てて否定した。景守に誤解されたくない。そう強く感じたのだ。

 

「はっ、そうだ自己紹介がまだでしたね。私はみこの同級生で親友の百合川ハナです!ハナって呼んでください!」

「ご丁寧にどうも、俺は墨村景守。高校二年」

「あ、年上? 確かに先輩だ!」

 

 ハナはなるほどなーと納得した顔で頷いた。

 ハナは景守の登場に驚いたようだが、景守の人柄もあってすぐに打ち解けたようだ。みこは景守に待ち合わせ場所へ先に向かうように言われた。

 

「すまない、ちょっと寄り道する用事ができた」

「ああ……! 了解です、お願いします!」

 

 景守の視線の先を見れば明確な言葉は必要なかった。みこは心底安堵した。

 

「──アレがいたところを教えてくれ」

「アレ?」

「はい、あの、実は……」

 

 話についていけてないハナをわきに置いておいて、みこは先程の路地裏を景守に説明する。

 

「なんでそんなところ通ったの!? 危ないでしょ!」

「す、すみません先輩。返す言葉もありません……」

「あ、あの、墨村さん。みこは悪くないんです。私が近道しようって言ったんです。確かに人の目も届かない路地裏を女子だけで歩くのは不用心でしたっ、すみませんでしたっ!」

 

 みこが咎められている様子を見て、ハナは友人を庇う。事情を理解していないため頓珍漢な態度だ。

 

「ごめんごめん、怒ってるわけじゃないから」

 

 ハナの懸命な態度に景守もふっと微笑む。

 

「兎に角、そういうときは俺を呼びなさいよ」

「──はい。ありがとうございます、先輩」

 

 ハナはみこの顔を興味深そうに見た。悠二の顔を見てハナはニヤニヤと笑う。ハナの笑みを見たみこはパッと顔をそらした。みこは立ち去る前に老婆へ謝罪とお礼を言ったのだが、茫洋として反応がなかった。

 

 

 ◇◆◇

 

 

「坊主、あんた何者だい? ソレがはっきり見えるのか」

 

 老婆──ゴッドマザーの景守を見る目は、強い警戒と猜疑が現れている。彼女では景守やみこが明瞭に見えているものも、ぼやけた黒い靄程度にした見えない。

 

「それを何するつもりだ」

「祓います。それが俺の仕事ですから」

 

 景守の念糸で縛られた怪異は既におとなしくなっている。『痒い……』『痒い……』と呟くだけで、陸に打ち上げられた魚のようだった。

 

「初めまして、俺は結界師をやっている墨村景守といいます」

 

 ゴッドマザーが瞠目する。

 

「墨村……結界師……。お前は、裏会の異能者か! ふん、裏会なんてロクな組織じゃないのによくいられるもんだね」

「裏会からの依頼で来ましたが、俺個人は所属していません」

「だが、お前は、墨村は裏会とも縁が深いだろう。お前はどの兄弟の子供だ?」

「長兄です。墨村正守」

「そうか、裏会幹部の倅か。あいつの細君も総帥の覚えが良い鬼使いだそうじゃないか。やっぱり裏会にどっぷり浸かっている。お気の毒」

「……俺のことはもういいじゃないですか。あなたも気づいているでしょう。この街のおかしさを」

「だとしたら、なんだというんだい。私は面倒なことに首を突っ込むつもりはない。……それに、今日こそ己の限界を知ったからね。もうこの街からは出るよ」

 

 ゴッドマザーは苦い表情で地面に落ちている数珠の珠を眺めている。

 

「……そうですか。ひとつお聞きしたい。記録にない神社について」

「何?」

「文部科学省や神社本庁にも記録されていない神社があるんですよ。勿論、裏会の正式な記録にも残されていない。だけど、その神社は実在している」

 

 ゴッドマザーの表情が強張る。それは困惑、恐怖、そして怒りによって化合された表情だった。

 

「……知らないね」

「本当に些細な事でもいいんです。知りませんか?」

「しつこい坊主だね。知らないって言ったら知らないよ」

 

 貝のように口を閉ざしたゴッドマザーの様子に、景守のほうが根負けして嘆息を吐いた。

 

「まぁ、今度話を聞かせてください。それでは今日は帰ります」

「もう来んなと言ったはずだがね」

 

 景守は怪異を引き摺りながら歩き出す。みこたちと会うにはまず、これらが住み着く巣を除去してからだ。そして収穫があった。ゴッドマザーは嘘をついている。何かを知っている。それを景守は確信したのだ。




オリジナル設定
景守は墨村正守と春日夜未の息子です。結界師としての力は既にかなりのものですが、母方の鬼使いの力は受け継いでいません。両親との仲は良好です。父親の縁で出会ってしまった龍姫や無道とかのせいで年齢に似合わない肝がかなり据わることになりました。



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