見える子ちゃんの先輩   作:生死郎

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久しぶりの更新です。原作ではまたとんでもない人が出てきましたね。彼女を結界師とのクロスオーバーにどのように落とし込めるか、楽しみです。
その前にはユリアやロムを出さねばなりませんが、それは追々。


おしり大福×シュラスコ×はらこ飯

「あっ、おしり大福美味しい!」

「本当だ、美味しい……」

「でしょ! お尻食べているみたいでしょう?」

「「いや、お尻食べたことないからわからない」」

 

 四谷みこと墨村景守は期せずして、ハナの頓珍漢な問いかけに同じ言葉を返した。

 ゴッドマザーのもとを去ったあと景守はみこやハナと公園で合流した。そして今はハナが美味しいと勧めるおしり大福を景守とみこは食べていた。

 

「あっ、あのシュラスコ美味しそう! お肉祭りだぁ!?」

「……本気?」

 

 ハナがおしり大福を一ダース食べたあと、屋台のシュラスコを見て大喜びで目を輝かせている。生命力の躍動を感じさせる瞳の輝きに、友人であるみこでもドン引きした表情だ。

 

「凄い肉の塊! 目の前で取り分けてくれるライブ感……ダメ、抗えない!」

「本能の赴くままか……」

「うん、まあ、行ってらっしゃい」

「行ってくる~」

 

 走り去るハナを見送るみこたち。

 

「凄い、あれだけの量をよく一人で食べられたね。そして、まだ食べるという」

「あははは、初めて見る人はびっくりしますよね。まあ、クラスのみんなや先生たちはもう慣れたみたいだけど」

 

 早弁は当たり前で、一時限目から間食していることが多く放課後でも買い食いは毎日のように行っている。

 友人のことを話すみこの表情は知らず知らずのうちに明るくなっている。先程まで、おぞましい怪異に憑きまとわれて緊張も解けているようになった。それが見て取れたので景守も安心した。

 

「ハナは身体から放たれている生命オーラが強烈なんだ。人間というのは生きているだけで強い力を持っているんだ。それによって魔から自分を守ってくれるものだけど、逆にそれがよくないものを引き寄せてしまうこともある。奴らにとって彼女は激しく燃える炎みたいなものでね、虫のようにオーラへ引き寄せられてしまう。そしてハナに近づきすぎれば焼かれてしまう」

 

 景守は屋台で買い物しているハナを目で追いながら話している。彼女が身にまとう光は強力で長く見ていれば目が焼かれそうになる。

 

「……私には見えないです。おかしなものは見えるのに」

 

 みこは残念そうに呟く。

 

「ああいうのは人それぞれ、見やすいものが違うからだよ。俺はみこが見ている世界も見れるが、世の中にはハナのオーラを見れてもみこと同じものが見れない人もいる」

 

 ゴッドマザーと呼ばれていた老婆も見える人なのだろう。しかし、どの程度見えるのか、景守にもわからない。

 

「ハナのあの食欲はその尋常じゃない生命オーラのために消費されているんだろう。オーラは奴らを引き寄せるが、ハナ本人を守ることにもなっている」

「成る程……。だけど将来、糖尿病とか痛風とかにならないかなって不安です」

「そこはまではわからないなぁ。生活習慣病に関しては俺も門外漢だしさ」

 

 景守が困ったように頭を掻いた。それもそうですよね、とみこも相づちを打った。

 

「ハナの食欲がいつもより旺盛になったらそれだけヤバいのが近くにいるかもしれないんですか?」

「あり得るな。奴らは現世(こっち)の理から離れていてその存在自体が世界を乱す。奴らの念は現世(こっち)にはねじ曲がって作用する」

「──」

 

 みこは自分が見た恐ろしいものを思い出す。近くにいるだけで感じる重圧や悪寒は忘れることができない。

 

「俺は耐性があるけど、そうでない人間は奴らが近づくだけで心身に変調をきたすこともある。ハナが自分でも気づかない心の奥底で奴らの脅威を感じ取って、それから身を守ろうとすればオーラをより強く放出することで、食事量が増すこともあり得る」

「……そうですか。私も気を付けてハナの様子を見てみます」

「それもいいが、気を付けて欲しいのはみこもなんだけどね。君は見えるだけで耐性が強いわけでもないのだから」

「そうですね、気を付けます」

「本当にわかっている? 奴らに頭突っ込んだ奴が?」

「わ、わかってますよ……」

 

 景守の追究する眼差しに対し、思わず目をそらすみこ。

 

「彼女には話していないんだね、見えること」

 

 もとより、簡単には話せることもでないし、信じてもらうのも難しいことだ。

 

「信じてもらえるかわからないことですし、見えることを奴らにどこかで聞かれるかもわかりませんから」

 

 みこは遠くで肉に齧りついている友人を見て微笑む。

 

「知らなければ、例えば私が服を汚してしまっても、『おっちょこちょいだね』って笑ってすませてくれる」

「……」

「だけど、もしも教えてそれを信じてくれたら、それが見えない奴らのせいなんじゃないかって心配かけてしまうかもしれない。笑っていられなくなる。それが嫌なんです」

「……そうか、じゃあ少しでもそのために力を貸せるなら何よりだ。俺も、彼女が悲しむというのも嫌だ」

 

 景守もハナと直接会って、みこが抱く気持ちがわかった気がした。

 

「今日は本当にありがとうございました。この呪具」

 

 みこが改めて景守に礼を言う。景守から渡された呪具をみこは既に身に着けていた。形状は出雲石の飾り紐型で、みこの左手に巻かれている。同じものをハナも身に着けていた。

 おしゃれアイテムだとみこに数珠を渡されたときよりも、ハナの反応は良いものだった。

 

「いいさ、これも色々と協力してもらえているからね。取引ってやつだ」

「はい、取引、ですね」

「あれ~、どうしたのみこ? ご機嫌じゃん」

 

 戻ってきたハナが不思議そうに言った。シュラスコが六箱もビニール袋に入っており、既に片手には開封済のシュラスコを入れたプラスチックケースを持っていた。さらに腕には発泡スチロールの丼が袋をひっかけていた。

 

「な、なんでもない!」

 

 みこが驚いたように慌てて取り繕った。ただ話していただけならばあり得ない、見られてしまったという動揺と焦燥。そして先程までひと時を惜しむという自分でもよくわからない感情にみこ本人も戸惑った。

 

「シュラスコは美味しい?」

 

 無理矢理な話題の変更を試みるみこ。ちなみに彼女はシュラスコとケバブの違いがよくわからない。

 

「美味しすぎるよ~。お塩の振り方と焼き具合が絶妙なんだ。素材の味がすごく活きている」

 

 プラスチックのフォークで切り分けられた肉を何重にも刺し貫き頬張るハナ。肉汁が口中を満たしているのだろう、多幸感で表情が緩んでいる。

食事の様子はまるで栗鼠の食事だな、と景守は思った。

 彼はふと、ハナが腕にかけているビニール袋が気になった。

 

「もしかしたらシュラスコ以外に何か買ったの?」

「はい! 美味しそうなはらこ飯があったので買いました!」

「……そっか美味しそうだね」

 

 なぜ、この地区には屋台の品揃えが良いのか、景守とみこは思った。

 

「ですよね! だから二人の分も買いました。墨村先輩、このブレスレットのお礼ですから遠慮せずにどうぞ!」

 

 華やかに笑うハナから景守たちははらこ飯を受け取った。

 

「これ食べたら夕食食べれなくなっちゃう……」

「ハナと付き合う男は財布に穴が空きそうだな」

 

 

 

 みこたちは景守と公園で別れた。景守はこれからみこに教えられた路地裏に行くためだ。暫く話している間に、景守はハナとも打ち解けることができた。

 

「それでさぁ、本当はどうなの?」

「どうって、何が?」

 

 途中で寄ったコンビニで購入したメンチカツの匂いを幸せそうに嗅ぎながら、ハナはみこに訊ねるがみこは胡乱げな目で友人を見ている。

 

「だから、先輩だよ。墨村先輩。本当は彼氏ってあの人なんじゃない?」

 

 待ち合わせの時間になって楽しそうに表情をほころばせたとき、そして先程の景守と話しているときの顔。それは何か近いものをハナは感じ取った。

 

「……違う。違うから」

「嘘だぁ~、男の人とあんな風に楽しそうにしているなんて珍しいじゃん」

「うちは女子高だから、男子と話す機会がないだけだよ」

「ふーーーーん?」

 

 ハナがニヤニヤと笑いながら友人を見ている。友人が同年代の男と話している場面は見たことがある。しかし、彼女がそれでも景守に見せたような表情を見たことがなかった。

 それに、今のようなちっとも顔を向けない頑なな態度がますます怪しい。耳まで赤いのも語らずとも何か察することができた。

 

「まあ、そういうことにしてあげよう」

 

 ハナから見ても景守は、友人が付き合うには危険な相手だとは思えなかった。同年代の男子(ハナもさほど多く交流があるわけではない)とは違う、大人っぽい物腰やみこを気遣う様子は好感が持てた。あんまり弄って怒らせても嫌なので、ハナは追及の鉾を収めた。

 

 みことしても自分の心の整理で忙しかった。自分が墨村景守に抱いている気持ち。それが信頼や尊敬……だけではないのであれば、何であるか。

 

「──」

 

 想像することができる。だが、それは四半世紀も生きていないみこにとっては未知であり、創作や他人の体験談でしか知りえないものなので、確信と得られず思考はまとまらずにいた。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 景守はみこに教えられた路地裏を掃除した後に帰宅。シャワーを浴びてハナから貰ったはらこ飯をコンビニで買った緑茶と一緒に食べた。はらこ飯が本日の夕食だった。

 

 彼の目の前に広げているのは何枚もの地図とコピー用紙。そしてその上にはタブレット端末が置いてある。

 探している神社について調べても、管理者の持つ記録は曖昧。裏会の記録もない。手がかりと言えそうなのは、亡くなった異能者の個人的な記録。

そのため、景守は市役所と図書館と博物館から、公式の記録を探ることにした。それは歴史学に則った調べ方だった。

 

「大正まで遡ってもそれらしきものはないか……」

 

 地図を調べても彼が探す神社はなかった。しかし、異様なまでに記録がないことが景守にはより興味を惹かせた。

 

「岡トワ子……。その弟子ならば何か知っているかと思ったが、それは予感的中したみたいだったな」

 

 タブレットに映っているのは昔のTV番組の一場面だ。そこには失踪したとされている異能者の記録があった。

 

 今日出会った老婆を思い出す。鎌をかける程度のつもりで問いかけた一瞬、「なぜ知っている」と老婆の顔に出ていた。それもすぐに隠して韜晦したが、景守は見逃さなかった。

 もっとも、景守も思いがけない反応に驚いたのが態度に出てしまったので取り繕ってもそれがバレているからもしれないが……。

 

「まあ、ここまで隠されている神社だ。みこやハナが参拝することはないだろうが、早く見つけたいものだ」




裏会の記録がないのは『結界師』本編で記録室が炎上して消失しているからです。DB的存在だった水月が知っていても彼女は消滅しているので綺砂魚も含めて、記録室や裏会全体であの神社を知る者はいませんでした。
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