以前、募集したクエストの内容を元にストーリーを作らせていただきました。ご提案いただきましたRKTXさん、ありがとうございました。
「久しぶりだな、景守」
「
中性的な顔立ちの青年が景守に声をかける。彼の名前は
夜行とは景守の父、
実行部隊とは言うものの、軍事色は薄く能力の使い方を知らない異能者を一時的に引き取ってその力の使い方や向き合い方を教育することもあって、実情は異能者同士で一種の擬似家族のような関係を形成している。
影宮と氷浦は共に三五歳と若いながらも夜行では古参の幹部で、影宮は
氷浦はかつて人形と呼ばれた兵士だった。異能者としての素質を子供の頃から見出され、攫われて記憶と感情を除去されて情緒が発達する前に戦闘訓練を施され、戦闘人形として育てられた経緯を持つ。夜行に身を預けることになり徐々に洗脳も解けていき情緒も育つようになり、今では夜行でも実行部隊の幹部にまでなった。
無感情な少年兵だった彼も影宮と同じく三五歳の大人となっていた。
氷浦が運転する車に乗って目的地に移動する。少年時代、洗濯機やシャープペンシルに興味を持っていたが、大人になってからは車やバイクに興味を持ち彼なりのこだわりを持つようになった。
「えーと、影宮さん。俺たちの今日の仕事ってのは、これですよね」
ファイルに閉じられた資料を再度確認する。仕事は妖と人間の婚約の阻止のため、その妖の抹殺。
「小説とか漫画だと人間と妖怪の結婚とかありますけど、本当にそうしようとする人っているんですね」
「こういう仕事は俺も初めてだ」
「ある意味、勇者だな。成功すれば伝説だったことを現実にした大偉業だ」
氷浦も落ち着いた声で、相槌を打つ。
「まあ、阻止さえできればいいのだから、祓うなり封じるなりでもいいわけですよね? 必ず滅することを望んでいるんですか?」
「いや、そうではないようだ。とりあえず、自分の子供と関わらないようにすればいいらしい」
依頼主は大地主で、山や田畑を持つだけでなく、ビルなども管理してい不動産も数多くあるらしい。そして依頼主が持つ土地には神祐地も含まれている。
妖と結婚したいと考えているのは、依頼主の息子だった。今年で二〇歳の学生と資料に書かれていた。
景守たちは依頼主からの話を訊いて、彼の息子と件の妖がいる別邸へと案内された。すぐ近くに森がある長閑な場所だった。
応接室に案内された景守たちは間もなく、依頼主の息子がやって来る。一緒に連れている着物の美女が妖なのだろう。
「はじめまして、僕は万里。彼女が瑠花です」
互いの自己紹介も終えるとすぐに本題に移った。影宮が気になっていたことを瑠花に訊ねた。
「まずは確認させて欲しいのだが俺たちはあんたが妖だと訊かれていた、しかし、あんたは妖じゃあないな。妖混じりだろう?」
「え?」
「……本当か」
影宮の指摘に景守と氷浦が驚き、瑠花は驚いたように瞠目した。影宮を妖気の探知・分析が得意であるので彼の発言には景守たちも信頼していた。
「ふむ、お前はあの男よりも見る目があるようだな。いかにも私は妖混じり。龍仙境で生まれで齢三〇五歳になる」
「さ!? え……」
「
「竜姫? ああ、奴のことは知っているぞ」
瑠花は不機嫌な表情をする。心なしか外の天候が少し荒れている。力ある妖混じりや異能者はその意思を現実へ影響を与えることがしばしばあり得る。
龍仙境というのは特殊な土地で人の世と妖の世の境界が曖昧な土地で、竜姫はその土地の力を得て土地神クラスの妖の力を持つ強大極まる妖混じりである。
竜姫は普通の人間よりもはるかに長い寿命を持っていて、若々しい外見ながらも数〇〇年以上を生きて古老(竜姫本人にこの表現は禁忌とされている)である。
「竜姫……とは腐れ縁、そう腐っているのだ。今にも腐れ爛れた悪縁なのだ。まったく! あの女ときたら私が右と言えば左、海が好きだと言えば山が好きだという、猫が好きだと言えば犬が好きだという! まったく、私とあいつはいつか雌雄を決する必要があると常々思っている!」
瑠花のやや興奮した口調に景守たちはなんと反応したほうがいいかわからない。
「それで、お前たちは私を殺すつもりか?」
「いや、正直俺達では勝てる自信がありませんね」
景守、影宮、氷浦でチームを組んで妖退治をしたことは何度とあるが、瑠花から感じ取れる力は、三人で協力して勝てる目算がない。
「あの、そもそもその前に確認したいんですけど、瑠花さんとはどう知り合ったんですか?」
「僕はこれでも異能の家系その継承者として頑張ってきました。ですが、家督は弟が継承することに決まり、父さんにはいつも出来のいい弟と比べられて、勝手に期待されて勝手に失望されて、弟は弟でそんな僕を見下すどころか逆に慕ってくれて、それが余計に惨めで……」
万里は趣味で嗜む絵画や彫刻に優れた才を現して、世間的にも高い評価をされているらしい。しかしながら、異能者として一番大切な才を持ち合わせていなかったようだ。
「それで自殺しようと山に入ったら、瑠花が僕を助けてくれたんです! その時に一目惚れしちゃって、僕の人生この人のために捧げたいなって」
「私は別に助けたのではなく、若くて健康であるのに好き好んで自殺する理由に興味があっただけなのだがなぁ」
素っ気ないようなことを言いつつも、瑠花の頬は赤くなっている。
「そしたらこやつめ、私が好きだだの、私のために生きるだのとまあ、歯の浮くような台詞を並べおってからに!それで……」
こうして万里と瑠花ののろけ話は九〇分近く続いた。ようやく終わったと景守たちが精神的疲労に参っていたとき、万里のほうから話題を変えた。
「それでしたら僕に提案があります! 皆さんにも僕たちにも得があるアイデアです」
「……聞きましょう?」
「僕と瑠花は駆け落ちするので、皆さんは瑠花を追い払ったと父に報告していただいて、僕は家族に反発して出て行ったことにします」
「───」
影宮の表情がすとんと落ちる。頭が痛そうにこめかみを摩っている。氷浦は何とも不思議そうな顔で万里を見ている。
「そうですか、それではどう駆け落ちするかについて何かお考えはありますか? 駆け落ちする場所、決行する日時、そのための資金をどうするかなど」
「ええ、それは勿論。ちゃんと考えていますとも!」
景守からの質問に、万里は自信ありげに用意した資金や駆け落ちした先での予定を話し始める。しかし計画性で言えば杜撰極まりなく、ただの見通しの甘いものだった。
「……無理だろう」
「無理だな」
「無理ですね」
「どうしてですか!?」
影宮は面倒くさいと思いつつも、しかし、これも給料のうちだと思いながら景守のほうを向く。
「景守、この二人が駆け落ちした後、どうなると思う?」
「そうですね、彼のご家族が行方不明となった彼の居場所を捜索するでしょうね。今回のことの後なので警察ではなく裏会に妖による人攫いとして討伐を依頼するのではないかな?」
瑠花がたとえ強大な妖混じりであっても無敵ではない。裏会が動けば討伐あるいは封印されることだろう。
「そんな! どうして殺されなくちゃならないんだ! 僕らはただ静かに暮らしたいだけなのに! そっとしておいてくれないんだ!?」
「ただの人だと思われていたなら兎も角、妖ものだと思われているのが不味い。ただの駆け落ちならご家族が、見逃す可能性もゼロではなかったかもしれない」
まあ、ないだろうなと思いつつも景守はそう付け加えた。いずれは妖混じりだとバレてしまってもやはり危険だと滅ぼされることもあるだろう。
「龍の姿にならず、変化しなければ大丈夫なはずだ!」
「まあ、あなたが奇跡的に覚醒して努力し、一人で田舎にて生活できていくだけの生活力を身に着けることができれば、やれるかもしれない。だがしかし、駆け落ちのための資金も、逃避行のあとの展望がないあなたの状態を見れば、その可能性もないでしょう」
逃げた先でどうやって生きるのかではなく、二人で何をしたい、ばかりで具体的な生活を立てるための構想に欠如すること甚だしい万里に、景守は容赦しなかった。
「いずれ生きるのに瑠花の妖の力に頼らざるを得なくなり、それで周囲にばれて、終わりだ。瑠花ほどの力を持つ妖混じりを放置するほど裏会の目も節穴じゃあない」
骨まで蜂蜜をかけた砂糖漬けのように甘い万里へのとどめだった。
「そんなことはない! 僕は上手くやってみせる! 年下のくせに偉そうに説教するな!」
「よせ万里! 私は俗世間の事情には疎いが、この者たちが嘘を言っていないようだということは、なんとなく分かる」
瑠花は首を振りながら嘆息した。
「……すまんが万里、駆け落ちの話はなしにしよう。きっと駆け落ちしても私たちは幸せにはなれない」
「そんな……君を見つけたから、僕は生き甲斐を見つけて頑張って生きようと思ったのに……」
「頑張る? 親の金とコネを使って裏会に依頼する程度が、あんたにとっての頑張るなのか?」
そこで冷淡な眼で彼を見詰めたまま氷浦が、万里に言った。その言葉は有刺鉄線つきの冷笑の言葉だった。
「本当にお前が愛した女のためなら頑張れるというなら、そんなところで自己憐憫の沼に浸かっている時間があれば、血反吐を吐きながらでも働け、体を休めている間に脳が焼けるほど勉強しろ。そして彼女の居場所を作れるように考えろ、行動しろ──それが、家族を守るってことだ」
氷浦は感情のドアに忍耐という錠をかけていたのだが、このとき、その錠が緩んでしまい、万里へ感情に任せた言葉の熔岩を吐き掛けてしまった。
元来、氷浦は寡黙な男だ。その出生故にコミュニケーションも得手ではないが、それでも今ばかりは言葉は彼の口から溢れ、表情の変化に乏しい顔には激情が浮かび上がっていた。
「それができないなら、お前の彼女への思いもその程度だ。……
氷浦の声に、好意の微粒子は含まれていなかった。
「氷浦さん……」
「─────」
景守と影宮には氷浦が何を思ったのかわかってしまい、彼の言葉を制止するタイミングを逸してしまった。
氷浦は二年ほど前に妻と娘を失っていた。夜行が非道な人体実験を多数繰り返していた裏会の研究室を粛清した際に、研究室の残党によって妻と娘が逆恨みによる八つ当たりめいた報復のために殺されてしまった。これを受け、氷浦は単身で残党を討滅したものの、後ろ暗い過去として彼に付き纏うこととなっていた。
一度は戦闘人形として育てられ、感情がほぼ全くと言っていいほど育っていなかったかつての彼ならば抱かなかった情動と呵責、罪の意識が彼をいまだに縛り、心の中で闇色の炎が燻っていた。
「ぼ、僕の思いを馬鹿にするなぁ! アンタは知らないだろうけど、あの日、僕を助けてくれた時、瑠花のためならば死んでもいいとさえ思ったんだ!」
目の端に涙を溜めながら万里は叫んだ。ようやく言葉を取り戻した影宮は万里を宥めるように言った。
「だったら頑張って一人でも生きていけるだけの力を身につけてはいかがですか。それこそ命を棄てるくらいの気持ちがあるなら、やってみればいいじゃないですか」
「それで駆け落ちしたかったら資金も親の金じゃなくて自分で用意するんだな」
「僕は役立たずとか低能と馬鹿にされることには何ら痛痒を覚えない。僕が父さんや兄弟たちのように才能を持っているわけでもないし、何ら有能であるわけないことはしっている。……だけど、瑠花への愛を軽んじられることは我慢できない!」
万里は覚悟の小さな松明を瞳の隅にともした。
「僕は決めたぞ! 今の僕で瑠花を幸せにできないならば、必ず幸せにできる僕になってみせる! だから……待っていてくれないか、瑠花」
「待つさ、人の一生など私にはあっという間だからな。待つのは得意さ」
こうして夜行への依頼はキャンセルされた。キャンセル料が生じたがそれは万里のツケとなった。
時系列的にはみこが謎の神社に行って狐の加護を受けた辺りです。ハナがとり憑いた妖について景守へ助けてもらおうと連絡したけど、連絡がつかずやむなく神社へ行った……という流れです。
ちなみに影宮は裏会と非所属の異能者女性(同じ歳)と結婚しました。お相手は原作キャラではありません。