私だってやるときはやるんだな! ガハハ!
[『【第一章】呪い塗れた高専へ』をスタートします!]
の続編となっております。作者は配慮とかいうものが出来ないので読んでおかないと分かりません(威風堂々)
私は呪術師になった。
確かにあの時の管理人さんも私は呪術師になれるって言っていたけれど、まさか本当になってしまうとは。
いろいろ理由はあったけど、やっぱり住むところを提供されてて仕事したらお給料も頂けるのはデカい。これ以上親に心配もかけたくなかったし、あの後五条先生から投げかけられた提案に乗った。
……いや、選択肢のせいってのもあるけどな!!
五条先生に呪術師になるかって誘われたときの状況は何度思い出しても頭が痛くなってくる。
簡単に言うと本気で選ばせる気がなかった。
選択を確認する間もなく時間切れになって強制的に選択されるとか言う。三十秒じゃなかったんですか??
「……だめだ、本当に頭痛くなってきた。」
「何よ、変なモノでも食べた?」
「あぁいや違う……」
私の返事にあっそ、と返して自販機の飲み物を吟味する釘崎。こう言う拒まれたら無理に踏み込んでこないところは彼女の良さだと思う。
「狗巻先輩何がいいって言ってた?」
「いくら、こんぶ」
「いくらこんぶなんかねぇよ」
「私も知らないよ」
「ちげぇ、スポドリだ」
「逆になんで伏黒くんは分かんの???」
釘崎が私に先輩たちの分の飲み物を渡しながらいつも通りに続く会話。……虎杖くんがいたのなら、もっともっと賑やかになっただろうなぁ……。
いつまでもくよくよしてられないのは分かってる、くよくよしてたら上手くいかないのだって分かってる、けれどやっぱり気にしてしまう。
釘崎も伏黒くんも同じだって励ましてくれたけれど、きちんと前を向いている。先輩たちからの特訓の提案に直ぐに返答出来なかったのは、私だけ。
あぁ駄目だな、やっぱりくよくよしてしまう。
「……言羽? どうした」
「……なんでも」
ないよ、と、そう答えようとした時に、いつもの、あれ。
ピコン! と軽い電子音がなって空中に浮かび上がってくる文字列。
「……なんでも」どうする?
「ないわけないだろいい加減にしろ!」 ー
「虎杖くんのことに結びつけちゃう……
もしかして私……虎杖くんのこと……」 ー
「あっ誰か来てる気がする」 ー
もうオマエがいい加減にしろよ。
本当に選ばせる気がないだろ? 本当に選ばせる気がないだろ?(二回目) ふざけとかなしでいい加減にして。
虎杖くんのことは好きだけど友愛だし! そんなんじゃないし! 違うからな! 選択肢さん若干イジってくるのやめてください!
それに一番マシな三番目も違和感しかない。「……なんでもあっ誰か来てる気がする」って何。
私は心の中でため息を吐く。この選択肢のせいでどれだけのため息を吐くことになっただろうか。
いや、もうこの選択肢にも慣れていかなければならないのだ。どこからともなく現れて厄介ごとを持ち出してくる、そう、五条先生とおんなじようなものだから。
そう言い聞かせて、私は選択した。
「……なんでも」どうする?
「ないわけないだろいい加減にしろ!」 ー
「虎杖くんのことに結びつけちゃう……
もしかして私……虎杖くんのこと……」 ー
▶︎「あっ誰か来てる気がする」 ー
選択した瞬間に体が勝手に動いて太陽が差し込む方向に顔を向ける。
「あっ誰か来てる気がする」
「……」
ひいごめんなさい伏黒くん! ごめんなさいだからそんなに眉を潜めないで! 全ては選択肢が! コイツが悪いんです!!
私は違和感をなくすためにせめてと顔を向けた方に──先輩たちがいる方に向けて歩き出した。
ため息を吐きながら後を追ってくる伏黒くん。何故か大荷物を抱えている釘崎を置いていって二人で先輩のもとへ向かった。
「……おい、言羽」
「はっ!? はい、なんでしょ」
歩いている途中で伏黒くんに話しかけられたことにビクついたせいで落としそうになった先輩たちの飲み物をしっかりと持つ。あっぶね、落とすところだった。
「……俺らの前で変に誤魔化すのはやめろ。」
「……? え、なんのこと?」
「そういうの、いらねぇ。あるだろ、虎杖のことの他に隠してること」
いや本当に何のこと???
それこの前釘崎にも言われた気がするんだけど、本当に何? 私の知らないところで私が隠し事してるみたいな事案が出来てるのなんで?
伏黒くんも釘崎も話の内容からして私のことを気遣ってくれてるのは分かる、それは分かるんだけど、肝心の私に心当たりが全くないんだけど。
確かに隠し事って言われたらいっぱいあるよ。選択肢のこととか、選択肢のこととか、選択肢のこととか。
でも「もしかしてあれ? 私がいつもしてる奇行のこと?」なんてそれとなく聞いたら「オマエが変なこと始めるのはいつもだろ」と突っ込まれたことからして、それじゃないんだよな。
「……本当に何のこと?」
「ハァ……もういい。」
「オイ待て! 私を置いてくな!」
もう少し追求したかったけど釘崎の声で遮られてしまった。
後ろを振り返ると肩で息をした鬼のような形相の釘崎、と何故か大荷物。
ゴメンゴメンと謝ってから、私は視界を下にある荷物に移した。
「そんなにいっぱい何入れてるの?」
「逆にアンタはどこに入れてんのよ……少な過ぎでしょ。」
「少ない……?」
「今から京都の姉妹校
「え……? あっ。」
いろいろ噛み合ってない。
今日この日、京都の姉妹校
察し、と言うやつだ。
「釘崎、えーと……」
訂正しておこうと思ったけれど、釘崎の叫び声が聞こえたことからして……少し遅かったらしい。
やっと追いつくとぽかんと口を開けている釘崎が目に入る。
パンダ先輩の説明を聞いていると次第に荷物を持つ手が震えてきた。
「乙骨……乙骨はどこだァー!!」
「釘崎落ち着け」
「モテモテじゃん憂太、喜ぶだろうなぁ」
モテモテか??
パンダ先輩を三度見してから釘崎を落ち着かせるために今度一緒に京都に行こうと口を回す。
なんとか落ち着いた釘崎に安堵の息を吐くと、京都校の皆さんが来たようで。
一番初めに喋ったのは先月釘崎を庇った私までもを一緒にボコボコにしてくれた女の人。確か真希先輩の妹さんなんだっけ。
因みに私は気絶したフリして虎視眈々と機会を狙っていた釘崎と違って普通に伸びてた。釘崎がそれより庇ってくれたことが嬉しかったとフォローしてくれたけど本当に面目なく思っている。
そんなことを延々と考えて物思いに耽っていると、いつの間にか五条先生も帰ってきた。
京都校の皆にいつものハイテンションでお土産を渡していく。あっそれ可愛いな私も欲しい……。
「歌姫のはないよ。……ん? 菜月のもないよ」
「えぇー」
「そこ「えぇー」なのか……?」
真希先輩はお人形をお気に召さなかったらしい。可愛いよね? と釘崎に視線を向けたけど釘崎も微妙な顔をしていた。えぇー。
「それより! 東京校の子たちにもお土産はあるから! 勿論菜月にもね」
「お人形……?」
「いや違うけど」
違うらしい。
そう言われたら私たちの視線は言うまでもなく持ってきていた台車の上にある大きな箱に向かう。
結構大きめだけど何が入っているんだろう。人一人ぐらいなら入れそうだよな……後で入っちゃダメか聞いてみよう。
「東京都の皆にはコチラ!!」
「ハイテンションな大人って不気味ね」
「うーん、
釘崎とのんびり話している間に五条先生の叫びと共に箱が開けられる。
そこには虎杖くんが入っていた。
そこには虎杖くんが入っていた。
虎杖くんが入っていた。
……虎杖くんが入っていた。
「……おい菜月、遺影の額縁かなんか持ってこい。」
ピコン!
どうしよう……
▶︎釘崎野薔薇の指示に従う ー
その場で泣く ↑
生きててよかったと話しかける ↑
私は迷うことなく選択した。
◆◆◆
五条先生によると、虎杖くんは交流会に参加するらしい。
ついさっきまで京都校の学長とバチバチしてたのに参加するの? と思わなくもないが、どうせいつもの「若人は青春しなきゃうんたら〜」ってやつでしょ。私に入学提案してきたのもそれが理由だったしね。
作戦会議を終えたところで今は細かい調整中。一応私も動きとか真希先輩に確認しようかなと思ったけど、何やら神妙な顔で話している虎杖くんと伏黒くんを見て足を止めた。
ふむふむ、なんかあった? 何もねぇよ的な何かを話している。いや盗み聞きじゃないよ、体が勝手に音を拾ってるだけだから。
これ以上は流石に怒られそうだから退散しようと思ったとき、いつもの電子音が鳴った。
どう反応する?
「虎杖くんは抱え込み過ぎだよ」 ↑↓
▶︎「二人とも、そろそろ向かうって」 ー
「クラゲって美味しいよね」 ↓
話しかける前提で話が進んでるのなんで???
本当に選択肢のくせに実質一つしか候補がないのやめてよ。私前から言ってるよね?
それと唐突なクラゲ何? クラゲは美味しいけど明らか今出すような話題じゃないでしょ。
何より矢印さんさ、なんで上向きと下向きが同居してんの??? そんな仲じゃなかったはずでしょ?? お願いだからお互い険悪であって(支離滅裂)
意味のわからない選択肢に今日もツッコミ切ってから選択した。
高専に来てから碌な選択候補を見ていない気がする。『五条悟の飲み物にデスソースを仕込む』とか『宿儺の指に油性ペンで落書きする』とか『今から服を脱ぎますと宣言する』とか……それを考えたら今回のクラゲはマシな気がしてきた。因みに一番最初しか実行はしていない。
「二人とも、そろそろ向かうって」
「応!」
私に元気よく返事をして真希先輩たちの方へ向かう虎杖くん、それを見てため息を吐いた伏黒くんは少し気怠げに後を追いかけていた。
私もその後を追いかける。そうだ、選択肢のことなんか気にしててもしょうがない。これから大事な交流会が始まるんだから、気合入れて行かなきゃね。
ここは先生たちから指示された東京校に所属する生徒のスタート地点。
私は取り敢えず探索班についていくことになっている。だって真希先輩のスピードには追いつけないし、虎杖くんと一緒に行ったら絶対に足引っ張るし。
出来れば戦いになることなくお目当ての呪霊を見つけて終わりたいなと思っている。……東堂先輩の顔を思い出すと望みが薄くなっていくけど。
五条先生の声が森の中に響く中、不意に真希先輩が私の名を呼んだ。
「菜月、これ持っとけ」
「え、はい」
ひょいと投げられた呪力が込められた長刀を受け取る。これは確か……伏黒くんの影の中に収納していた呪具の中にあったものだ。その証拠に背後では伏黒くんがしゃがんで影の中に手を突っ込んでいた。
恐らく未だに術式を使いこなせていない私への配慮だろう。しかも訓練の時私が長刀を扱いやすく思っていたのも見抜いていたらしい。いい先輩を持ったなとしみじみと思う。
「ありがとうございます」
「今回は私じゃなくて高専のもんだから壊しても問題ねぇぞ」
「いや壊しませんよ、多分」
確かにこの前訓練中に真希先輩愛用の刀を真っ二つにぶっ壊しこってり叱られてしまったが、同じ轍は踏まない。私は学習する子なのだ。
五条先生のスタートの声が響き渡る中、私たちは走り出した。
例のタイミング……東堂先輩が現れた今から、私はパンダ先輩の班についていくことになっている。
虎杖くん一人に東堂先輩をぶつけるのも、と思ったが、皆虎杖くんのことを信用しているっぽいので私も彼を信じることにした。
「ここまで来たら大丈夫……な訳ないか」
「いや、この調子だと大丈夫そうだ」
そう言った後に伏黒くんと揃って変だと溢すパンダ先輩。
何が? と問いかけると、京都校が纏まって行動してるのがおかしいのだと説明された。その後真希先輩に「それぐらい気付けバカ」と呪具の先っぽで小突かれた。地味に痛い。
皆が言うには、京都校はこの交流会のどさくさで虎杖くんを暗殺しようと企んでるんじゃないかということらしい。
「……え、交流会で殺害とかってナシだよね?」
「だから『どさくさ』なんでしょ」
釘崎の一言でようやく理解して、顔から血の気が引いた。そうか、事故に見せかけることが可能なのか。
どうやら作戦変更らしい。パンダ先輩と釘崎は虎杖くんの生存確認、狗巻先輩は試合そのものを終わらせるために呪霊探し、そして私は──
「菜月はここで待機だ」
……ということらしい。
私は先程の狗巻先輩の様に体の前でバツを作って講義をする。何故私だけ待機なんだ。狗巻先輩が自分の真似をした私の真似をしている。面白い。
「ヤバくなったヤツがここに来るから、菜月はフォロー、それから何かあったら情報共有だ。術式が
「……了解です」
そうは言うが、パンダ先輩も真希先輩も狗巻先輩も釘崎や伏黒くんだって、お世辞無しに私よりも実力は上の筈だ。私がフォローに入らなければならなくなる様な状況に陥るとは思えない。
くそう、つまり私はお荷物ってことか。確かにさっきも何も気付けなかったバカですが。
見るからに不服そうに口を尖らせる私を見て「そんなんじゃねぇって」と頭を撫でてくるパンダ先輩。真希先輩がそんなこと考えて指示したわけじゃないことなんて分かっているが、こういう時に何もできない自分が歯痒い。
各方に散っていく仲間を見送りながら、私は静かに落胆した。
──瞬間だった。
ピコン!!! と電子音がなって体をびくつかせる。
いつもよりも大きい音に何事かと顔を上に上げて、まるで初めて選択肢と相対した時のように固まった。
行動開始だ!
三番目を実行する 選んだら
三番目を実行する いいことあるよ!
オートモードに変更する ↑
遊び心があり過ぎない????????
最早選択肢じゃないじゃん、いつも以上に選択要素薄くなっちゃってるじゃん。
"選んだらいいことあるよ!"なんて書かなくていいから矢印を表示していただきたい。
そして最後、最後だ。
『オートモード』……何??
オートってあのオート? あの
い、意味が分からない。私は
食道から何かが迫り上げてくるような感覚が止まらない。いや、平静を保て、そうだ、この選択肢は五条悟と同じ、五条悟と同じ、おな……じなわけあるか! あの人の方が百倍、いや十倍、いや二倍…………ちょっとはマシだわ!
両面宿儺を相手にした時ぐらい訳が分からないその選択肢に最早呆れにも似た心境を抱きながら、私は選択した。勿論、実質それしかないので三番目だ。
途端に体から力が抜けていく。眠る前のようなふわふわとした感覚に抗っていたちっぽけなプライドが剥がれていった。
「オートモードに移行します、現在位置、座標、方角を検索──終了しました。個体"言葉菜月"の体力、所持品、行動パターンを確認──終了しました。これより行動を開始します。」
そういうなり『私』は地面に置いていた長刀を拾い上げた。
本当に自分が自分の意思関係無しに動いている。不思議な感覚どころではないのだが、長刀を拾い上げたということはやはり移動するのか。あぁ、待機してろって言っただろって後で真希先輩に怒られちゃう、そう言えば今何故か振りかぶってる長刀も真希先輩に貸してもらったものだったな、壊していいとは言われてたけど、一応気をつけて扱わなきゃね。
「目的地の方角を確認──投擲します。」
『私』は構えていた長刀をブォンッ! と音が鳴るぐらいの速度で投擲した。
大事に扱わなきゃいけない長刀ぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!?!?
◆◆◆
伏黒恵は走っていた。
呪霊を追いかけているわけでも、京都校の生徒を見つけたからでもない。
想定外の呪霊──それも特級に分類する程の化け物から、逃走しているのである。
隣を並走している先輩である狗巻と先程まで戦闘を行なっていた加茂。どちらも自分では敵わないと思う程に強い、弱くはないが、特級を相手にするとなると話は別だ。
しかも狗巻の呪言が殆ど効果をなさないあたり、相手は特級の中でも格別と言っていいだろう。逃走以外に手段はなかった。
壊された携帯電話を思い出して舌打ちを溢す。五条が……教師たちがこの状況を把握していないはずがない。これだけ大きく暴れまわっているのだ、仮に気付いていなくても冥冥の術式で
「ツナ!」
狗巻の声にハッと我に返り、伏黒が近づいてくる呪力に気が付いた時、彼女は出てきた。
「なっ、おい!!」
伏黒の制止の声に振り向きもせずに走り出す己のクラスメイト。彼女は一直線に呪霊に向かって走っていた。
そんな彼女は、呪霊に向かって躊躇いもせずに言葉を紡いだ。
「"命令"、停止」
その場にいる誰もが、目を見開いた。
意味の分からない面倒なヤツ、というのが伏黒が彼女に、言羽葉月に抱いた最初の印象だ。
初対面は虎杖が両面宿儺を取り込んだあの日、人の言うことは聞かない、人の忠告も聞かない、何より何故か宿儺の指を持っている。
面倒事にわざわざ首を突っ込んできて
彼女が転校してくると担任に聞かされた時は隠しもせずため息をはいたぐらいだ。
しかし、クラスメイトとして共に過ごしていく中で、伏黒の彼女に対する見方は変わりつつあった。
時々彼女は、苦しそうな顔をするのだ。いつも通りの奇行に走った後、なんてことない発言をした後、言羽はまるで自分が嫌いで仕方ないと思っているかの様に顔を歪める。
奇想天外な行動をとって明るく振る舞う同級生が何かに悩み苦しんでいるのは、釘崎も虎杖もなんとなく察していた。
それが確信に変わったのは少年院で任務についた、虎杖が死んだ──正しくは死んでいなかったが──あの日だった。
「ごめん、ごめん……私が、間違えたから……」
彼女は虚な目で虎杖の遺体を見ながら、ひたすらに謝っていた。
今回虎杖が死んでしまったのは言羽のせいではない。伏黒だって「宿儺がいるのなら大丈夫だ」と安易な考えで虎杖を置いていった。
そう伝えても、言羽は変わらなかった。たまに意味の分からないことをするくせに目はずっと伽藍堂なままで。
虎杖の死があってから、言羽は術式を使わなくなった、いや、使えなくなった。
相手に"命令"することで行動を強制させる術式を持つ言羽菜月という人間は、誰よりも命令されることを、命令することを嫌がっていた。
今までは嫌悪感を押し込めば呪霊相手ならば使えたらしいが、「間違いかもしれない」と思うととんと使えなくなったらしい。
五条に確認すると術式が消滅しているわけではないから、やはりというか心の問題らしい。
それからは彼女が辛そうなのが見えると何かあるなら言えと釘崎と共に言ってはいるが、肝心の彼女はとぼけて誤魔化すので、話にならなかった。
なのに、だ。
特級がピタリと止まって動かなくなった刹那に言羽は重い蹴りを入れた。体勢を変え着地した特級を見るに、どうやら彼女の術式もそう効きはしないらしい。
術式は使えないんじゃなかったのか、オマエなんでわざわざここにきた、聞きたいことはあるが、極限まで喉を酷使していた狗巻がこれ以上術式を使わなくていいようになったのには一安心だ。
「"命令"停止」
もう一度言羽が術式を使ったことで我に返って、三人は走り出した。動く様子のなかった言羽は伏黒が抱えている。
「"命令"停止」
「"命令"停止」
「"命令"停止」
「使い過ぎではないか、温存した方がいい」
伏黒に抱えられたまま術式を連続で行使する言羽に加茂がそう言ったが、言羽は全く聞く耳を持たず"命令"を続けた。
彼女の術式のおかげで大分距離が空いた頃、今まで"命令"しかしなかった言羽はポツリと口にした。
「呪力の残量を確認──終了しました。危険域に突入しています。これ以上の行動は不可能と判断、行動を終了します。」
「何言ってんだオマエ!」
走り続けているため何を言っているのかとんと聞こえなかったが、彼女はその後がくんと項垂れて気を失ってしまった。
特級呪霊と彼らの間に五条悟が降り立ってきたのは、そのすぐ後である。
件の交流会襲撃における報告会にて、伊地知は冷や汗を流す。
「だから本人はまぐれだって言ってんじゃん、何? おじいちゃんは可愛い生徒を信用することもできないの?」
「それとこれとは話が別だ、五条悟。証言などあてにならない。もし故意にああしたとなれば、あの娘は呪詛師が来ることを知っていたことになる。」
五条悟と楽巌寺嘉伸による
議題は、言羽菜月は呪詛師であるか、否か。
呪詛師ではないと主張するのが五条悟。己が受け持つ生徒なのだから目はむけていたし、故意ならば呪詛師の行動を封じた今回の行動には矛盾が生じると提言した。しかし自分の主張にあまり力がないことはわかっているらしい。
大して呪詛師の可能性があると主張するのが楽巌寺嘉伸。いや、皆口には出さないだけで、彼女の人柄をよく知る東京校に属する者以外は言羽に対し懐疑の念を抱いていたし、五条から
原因は言羽が投げたあの長刀である。
オートモードに移行した言羽菜月がいの一番に投げたあの長刀が着地した場所は、呪詛師、組屋鞣造の右腕だった。
そのおかげで組屋の目的であった帳はおろされず、大した抵抗もされずに捕縛することができた。生徒が大きな怪我をする前に五条悟が介入できた。一見すれば活躍に見える。
どうやって人目につかないところにいた組屋を見つけたのか説明できれば、だ。
知っていたか、はたまた今回の騒動の首謀者は彼女か。
それを否定した五条悟を皮切りに、この口論は始まったのである。
伊地知は勿論、言羽を疑ってはいない。言羽菜月という人間は心優しい女の子だと、任務を補助する中で確信していた。
任務先で子どもを助けられたことに安堵して飴を渡すような子が、いつも同級生と仲良く笑っていた子が、虎杖の死であんなにも影響を受けた子が、今回の死亡者が出る程の事態を策謀したとは思えないのだ。
会議が終わって愚痴をこぼしながら歩く五条の後ろをついていく。
部屋に入ると、ベッドに座った言羽を同級生二人が囲んでピザを食べていた。何故ピザ。何故外で虎杖と東堂が走っているんだ。
五条と伊地知を見て話し合いが終わったのだと察した言羽は顔を青くした。結論次第で自分がどうなるのか分かっているのだろう。
「五条先生、あの……」
「安心しなって、菜月にはまだまだ青春してもらうよ。」
「ヤッターーーッッッッ!!! ちょっとマシとか言ってすみませんでした!!! 五倍はマシです!!!!」
「それ何と比べられてんの、ウケる」
五条のゴリ押しの結果に彼女はベッドの上で跳ね喜んだ。それを察知した釘崎と伏黒が置いてあったピザを既に手に持っている。相変わらず仲が良い。
釘崎に抱き付いて一緒にいられると喜ぶ言羽を見て、伊地知は彼女たちがどうか幸せになれるようにと願った。
流石に苗字全部間違えてるのはアセアセだったので修正しました。
言羽菜月
上層部に目をつけられるようになったぞ!
次に疑わしい行動を取れば一瞬で首がスパンだ!
なお選択肢パイセンの猛攻は止まらない模様。
五条悟
万が一があったら死刑するのはこの人。作者はだいたいこの人に丸投げすればいいと思ってる。
(重いモンが)のしかかっていくゥ……。
今週中に次出せたらいいですね。