ソードアート・オンライン ~PotetoEdition~ 作:水名(仮)
それではどうぞ
「生きてるですって!?」
キリトさんの解説を聞いたアスナは思わず叫んでいた
それもそうでキリトさんの解説は今までの推理を根本的に覆すものだったからだ
しかしあくまででもキリトさんは落ち着いた口調で話す
「あぁ 生きてる ヨルコさんもカインズ氏もな」
「でも…だって…だって」
アスナは浅い呼吸を何回か繰り返すと膝の上で両手を握り合わせ、かすれ声で反論した
「だって…私達昨夜確かに見たじゃない 黒い槍に貫かれてカインズさんが…
「違う」
キリトさんはかぶりを振る
「俺たちが見たのはカインズ氏のアバターが大量のポリゴン片を振り撒きながら青い光を放って
「だからそれがこの世界での
キリトさんは人差し指を伸ばすと顔の前に掲げた
「覚えているか? 昨日、教会の窓から吊るされたカインズ氏が空中の一点を凝視していたのを」
私達はキリトさんの言葉に頷くと代表してておさんが言った
「だからそれは自分のHPバーを見てたんだろ?」
「俺も最初はそう思ってた でも違ったんだ 彼が本当に見ていたのはHPバーじゃなくて自分の着こんだ鎧の耐久値だったんだ」
「耐久値?」
「あぁ 今日の朝、ヨルコさんに会う前に貫通ダメージが圏内でどうなるか実験したとき俺は左手のグローブを外したろ? あの実験の結果の通り圏内ではプレイヤーのHPは減らない でもオブジェクトの耐久値は減るんだ…さっき俺達が食べてたバゲットサンドのように 勿論装備は食べ物みたいに街中では消滅しないけどそれは損傷を受けていない場合だ いいか あの時カインズのアーマーは槍に貫通されていた つまりあの時槍が削っていたのはカインズのHPじゃなく鎧の耐久値だったんだ」
キリトさんがそこまで言うと眉を寄せていたアスナがハッとしたように眼を見開いた
「じゃぁあの時砕けて飛び散ったのはカインズさんのアバターじゃなく…」
「そうだ 彼の着ていた鎧だけだったんだよ そもそも最初っから妙だと思っていたんだ 食事に来ただけなのになんであんなに武装をする必要があるんだろうかって… あれはポリゴンの爆散エフェクトを出来るだけ派手にするためだったんだ そして鎧が壊れる瞬間を狙って…」
「カインズさんは結晶でテレポートしたと…」
キリトさんの言葉に続けるようにして私は呟くとあの場面を思い出しながら目をつむる
「…そして発生するのはプレイヤーの死亡時に発するエフェクトに限りなく近い…でも全く別のエフェクトですね」
「うん 恐らく実際のカインズ氏の行動は圏外であの槍を鎧ごと自分の胸に突き刺し〖回廊結晶〗であの教会の2階へ移動、そして自分の首にロープを掛けて鎧が破壊される直前に窓から飛び降り、鎧破壊のタイミングに合わせて〖転移結晶〗でテレポート…こんな感じだろうな」
「成程ね…」
ゆっくりと頷いたアスナは長い息を吐いた
「じゃぁ夕方のヨルコさんも同じトリックを使ったってことね…よかった…生きてるのね…」
アスナは安堵したが直ぐに唇を噛む
「で、でも 確かに彼女やたらと厚着をしてたけどダガーはいつ刺したの? 圏内じゃコードに阻まれて体に触れることすらできないはずだわ」
「最初っから刺さってたんだ」
アスナの疑問にキリトさんは即答した
「よく思い出してみてくれ 彼女、俺たちが部屋に入った時からずっと背中を見せようとしなかっただろ? これから部屋を訪れるっていうメッセージを受け取ってから大急ぎで圏外まで行って背中にダガーを刺してから帰りはマントかローブを羽織って宿屋に戻ったんだろう あの髪型だしソファにピッタリ座られたらあんなちっぽけなダガーの柄なんて全部隠れるよ そして服の耐久が減っていくのを確認しながら会話を続け、タイミングを見計らって後ろ向きに窓まで歩いて壁を蹴るかなんかしてそれっぽい効果音を出してから後ろを向く そうしたら俺たちの目にはダガーが今飛んできて刺さったようにしか見えない」
「そして自分は窓の外に落下した…あれは転移コマンドを私達に聞かれないようにする為だったのね…ってことはキリト君が追いかけた黒いローブの人は…」
「十中八九グリムロックじゃない カインズだ」
キリトさんが断定するとアスナは視線を宙に向け、短く嘆息を洩らした
「あれは犯人どころか被害者だったっていう訳ね… …? でもちょっと待って」
しかしふとアスナは疑問に思ったのか声に出していた
「私達昨晩わざわざ{黒鉄宮}にまで行って生命の碑を確認しに行ったじゃない それでカインズさんの名前には横線が引かれてたことを確認したでしょ 死亡時間もピッタリだったし死因だって貫通属性攻撃だったわ」
「そのカインズさんの名前の表記憶えてる?」
キリトさんにそう言われたアスナは「うーん…」と呟くと思い出し始めたので私が代わりに答える
「確か K,a,i,n,s だったと…まさか!?」
答えている途中である一つの可能性が頭によぎったので私は思わず声に出す
「あぁ そのまさかだ」
キリトさんはそう言いながら羊皮紙を私に渡してきたのでそれを受け取ると私とアスナとておさんは覗き込むようにして見た
「C,a,y,n,z… これがほんとのカインズさんの綴りだったんですね~」
「1文字ぐらいだったらシュミットの勘違いという線もあったけど流石に3文字も違ったらそれもないからな つまりヨルコさんが嘘の綴りを教えたんだ Kの方のカインズ氏の死亡表記をCの方のカインズ氏だと俺達に誤認させるように」
「え…? じゃ…じゃぁ…」
ふとアスナの顔が強張り、声のトーンも低くなる
「あの時…私達が教会前の広場でCのカインズさんの偽装死を目撃した瞬間、同時にアインクラッドのどこかでKのカインズさんも貫通属性攻撃で死んだっていうの? 偶然…っていうことはないわよね? …まさか…」
「いやいや 違うよ むしろ今回の事件はKのカインズ氏の方に合わせて起こしたんだ」
「どういうこと?」
アスナの仮説にキリトさんは軽く笑いながら大きく右手を振ったためアスナは訊ねた
「いいか? 生命の碑の死亡時間にはこう書かれてた サクラの月の22日18時27分…アインクラッドにサクラの月 つまり4月の22日が来たのは昨日で2回目なんだよ」
「あっ…」
キリトさんの説明にアスナはしばらく絶句し、力ない笑みを浮かべる
「…なんてことなの…私考えもしなかったわ 去年なのね 去年の同じ日、同じ時間にKのカインズさんはこの件とは無関係に亡くなっていたのね…」
「そういうこと それが今回の事件の始まりっていうところかな」
キリトさんはそこで一旦区切ると深呼吸をした
「…恐らくヨルコさんとカインズ氏は早いタイミングで同じくカインズと読める見知らぬ人が去年の4月に死亡していることに気が付いたんだろう 始めは単に話のタネにしてたぐらいだったんだろうけどある時どっちかは判らないがこの偶然を使えば死亡を偽装できるんじゃないかと思いついた しかも対モンスターとの戦闘死じゃない…圏内殺人という恐るべき演出を付け加えて」
「…確かに私達完璧に騙されちゃったもんね 同じ読み方のできる他人の死亡記録、貫通継続ダメージによる圏内での装備破壊、その後のタイミングを見計らった転移…この3つを重ねて実行したことで圏内でのPKを限りなく真実に見せかけたんだわ…そしてその目的は…」
アスナは囁くようにして続きを口にする
「『指輪事件』の犯人を追い詰めて炙り出すこと 自分たちが犯人だと疑われる立場だということを逆手にとって、ヨルコさんとカインズさんの2人は自らの殺人事件を演出して、幻の
「シュミット…と」
アスナの言葉に続くようにしてておさんが言う
「多分…最初からある程度は疑っていたんだろうな …シュミットは言ってしまえばあれだけど中層ギルドの[黄金林檎]から一気に攻略組でもトップの[聖竜連合]に加入した やっぱりこれは異質なことではあるよ よほど急送なレベルアップかそれこそ急激な武器更新がないと…」
「ディアベルさん曰くDDAの加入条件は厳しいって言ってましたからね… 『指輪事件』の真実に関わってる可能性は非常に高いと思います」
「ってことはシュミットさんが『指輪事件』の犯人? …あの人がグリセルダさんを殺して指輪を奪ったの?」
確かにアスナの言う通り可能性としては考えられるけど先ほどまでのシュミットさんの様子を見ているとそれは考えにくいと思う
キリトさんも同じようなことを思ったのか首を横に振っていた
「判らない… 疑い得る材料はあるけど…あいつに
キリトさんの呟きに私達は同意するように頷くと椅子の背もたれに腰かけ、窓から街の上空を見上げる
「…どちらにせよ シュミットさんは極限まで追い詰められてるわ 復讐者の存在を完全に信じ切って圏内…ひいてはギルドホームにある自分の部屋ですら安全と思わないでしょうね… これから彼はどう動くのかしら…」
「もし仮に『指輪事件』に共犯者がいるんだったらそいつに連絡するだろうな ヨルコさんとカインズ氏もそれを狙ってるんだろう ただ、シュミットにも共犯者の今の居場所が判らない場合は…うーん…俺がもしシュミットだったら…」
キリトさんは少し考えると口を開いた
「…もしグリセルダさんのお墓があったらそこに行って許しを乞うよ」
SAOではシステム上遺体は残らないので彼らに縁があった場所に使っていた武器などを立て、そこをお墓にするという習慣がある
「そうね 私もそうするわ KoBの本部にも今までのボス戦で亡くなった人達のお墓があるからね… …そっかきっとヨルコさんとカインズさんも今そこに…グリセルダさんのお墓にいるんだわ…そしてそこにシュミットさんが現れるのを待ってる…」
アスナは穏やかな笑みを浮かべながら話したがふと口をつぐんで表情を陰らせたのでキリトさんが疑問に思ったのか訪ねていた
「どうした?」
「ううん ただちょっとね もしそのグリセルダさんのお墓が圏外にあったらって思ってね… シュミットさんがそこに許しを乞いに行ったとして…ヨルコさんとカインズさんはただ許すのかな? まさかとは思うけど今度こそ本当に復讐しようとしないかしら…?」
アスナの言う通り、2人が復讐に走るという可能性も少なからずある この『圏内事件』を演出するのに最低限かかった出費は〖転移結晶〗2つと〖回廊結晶〗1つ…武器や防具の費用も合わせれば2人のレベルからすれば相当な出費だろう そこまでの出費をしてただ謝罪を引き出すだけで彼らが満足するのだろうか…?
「あ…いや…そうか」
キリトさんは何か分かったらしく首を横に振った
「いや 彼らが復讐に走ることは無いよ」
「何で言い切れる?」
「タコミカとアスナはヨルコさんとフレンド登録したままだろ? 向こうから登録解除されたって表示は見てないよな?」
言われてみればそんなメッセージは受け取ってないかな
「見てないですね」
「そうね 私達第2の事件のことをすっかり信じ切っちゃってたからそのまま自動解除されたものだと思ってたけど生きてるならフレンド登録も継続してるはずだわ」
私が合図をするとアスナが代表してウィンドウを開き、手早く操作すると軽く頷いた
「確かに登録されたままになってるわ …もっと早く見てればこのからくりに気づけたのになぁ… …そうなると何でヨルコさんは私とタコミカとのフレンド登録を受け入れたのかしら…? ここから計画が破綻することも有り得るわよね?」
キリトさんは瞳を閉じて少し考えてから口を開く
「恐らく…俺達を結果として騙してしまうことへの謝罪という意味ともう1つ 俺達を信じてくれたんだろうな フレンド登録から生きていることに気が付いてもそこから彼らの真の意図を推測してシュミットをおびき出す邪魔はしないとね アスナ ヨルコさんを位置追跡してみてくれ」
キリトさんはそこで瞼を開けるとアスナの方を向いたので頷きウィンドウを叩いた
「…今は19層の主街区から少し離れた丘の上にいるわね… じゃぁここが…」
「あぁ [黄金林檎]のリーダー、グリセルダさんのお墓があるところだろうな そこにカインズさんとシュミットもいるはずだ もしそこでシュミットが死ねば、俺たちにはヨルコさんが殺したんだと判ってしまう だから殺すまではしないだろう」
「なら逆はどうだ…? 『指輪事件』に関わってたことを知られたシュミットが口封じのために2人を始末するということはないか?」
突拍子に出たておさんの意見にキリトさんは少し考えて首を横に振った
「いや…その場合も俺達に露見しちゃうし、そもそもあの人は
「そうですね」
キリトさんの言葉に私は笑みを浮かべながら頷くとアスナもしばらく考えた後、うんと頷いた
彼らの身に本物の
長かった圏内事件編もあと少しかもです
それではまた次回に