ソードアート・オンライン ~PotetoEdition~ 作:水名(仮)
それではどうぞ
第61層の主街区の<セルムブルグ>はそのままでも街全体がまるで1つの芸術品のように美しいが、私達が来た時間帯は丁度日没だったので、湖に外周部から夕陽が差し込んでオレンジ色の光が反射しており、それがより一層美しさを際立たせる
第61層が最前線ぐらいの時ににここに家を買おうと検討したこともあったが、メゾネットタイプの家で今の私の家の値段の2倍したため断念した
今回がアスナの家に行くのは初めての為、アスナを先頭にしてしばらく歩いているとキリトさんがいきなり伸びをした
「うーん 人は少ないし開放感があっていいなぁ」
「なら君もここに引っ越せば?」
「お金が圧倒的に足りません」
キリトさんは肩をすくめて答えると、真剣な表情になったが遠慮気味にアスナに対して訊ねる
「それより…良かったのか? さっきの護衛」
「…」
キリトさんが先ほどのことを持ち出すとアスナは俯き、ブーツのかかとを地面でとんとんと鳴らし始めた
「…要らないって言ったんだけどね…ギルドの方針だからって参謀の人達に押し切られちゃって… 実際1人の時に嫌なことがあったのは事実だけど…」
彼女はその後もやや沈んだ声で続ける
「昔は団長が1人ずつ声をかけて作った小規模ギルドだったのよ でも人数がどんどん増えてきてメンバーも何回か入れ替わったりして…最強ギルドなんて言われ始めた頃から何かがおかしくなってきちゃった」
そこで言葉を切ると体半分振り向いて、キリトさんのことをどこか縋るような瞳で見たような気がした
何か言わないとと思ったけど何も思いつかずにしばらく全員無言だったが、アスナはキリトさんから視線を逸らすと、場の空気を切り替えるように歯切れの良い声を出した
「まぁ 大したことじゃないから気にしなくて良し! 早く行かないと日が暮れちゃうわよ」
そして前に向き直ると再び歩き始めたので、私は心配になりながらもその後に続いた
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アスナの家はメゾットタイプの家の3階で、私はアスナに続いてそのまま進もうとするが、キリトさんとておさんは建物の前で立ち止まった
「しかし…いいのか? その…」
「なによ 君が持ち掛けた話じゃない ここまで来たのに帰るってわけにもいかないでしょ」
「それもそっか…」
そう言ったアスナはそのまま階段を登っていったので私はその後に続く
そして3階に辿り着いて自分のホームの扉を開けて入ったので私も扉をくぐる
「お邪魔しま~す おお~!」
部屋に入ると、広いリビングダイニングと隣のキッチンには、恐らく最上級のプレイヤーメイド品であろう明るい色の木製家具が設えられており、モスグリーン色のクロス類が統一して装飾されている
私の家の場合は使えて、多少お洒落な家具であればそれでいいと言う感じなのでこの部屋と比べると結構差がある
「お…お邪魔します…」
私が部屋に入ってから少しすると、キリトさんとておさんも部屋に入ってきてその場に立ち尽くしていた
そして部屋をひとしきり眺めたキリトさんはアスナに対して訊ねていた
「なぁ… これいくらかかってるんだ…?」
「ん~ 部屋と内装合わせて400万ぐらいかな? じゃぁ私達は着替えてくるから2人共そこら辺でくつろいでてね」
アスナは2人に対してそう告げると、リビング奥の扉に向かったので私も着替えるために同じように扉へと向かう
まぁ着替えと言ってもメニューを操作すればすぐなんだけど、着衣変更前後の数秒ぐらいは下着姿になってしまうので、私は人前で着替えはしない(極々一部を除く)
私がメニューを操作して、千歳緑色のパーカーっぽい服(下は紺色のショートパンツ)に着替えると、アスナは既に着替え終わっていたみたいで簡素な白いチュニックに膝上丈のスカートの見たまんま私服姿になっていた
私がそろそろ行こうと言おうとしたとき、アスナが私に近づいてパーカーっぽい服のフード部分に触りながら話しかけてきた
「ねぇタコミカ」
「ん? なに?」
「それってパーカー?」
「みたいな何かだけど 一応そうかな」
私が答えると、アスナは納得したように頷く
「へぇ~… このパーカーの型紙とかって持ってるの?」
「型紙はないけど もし良かったら今度作って持ってくるよ」
「いいの? じゃぁお願いしてもいいかな」
「勿論!」
アスナはしばらく私のパーカーみたいな服をしばらく触ったりして確かめると、どうやら自分で作ってみたくなったみたいで型紙はあるかと訊ねたが、残念ながら私は型紙は取っていないが作り方は覚えているのでまた作ってくると言ったら、とても喜んでいた
リビングダイニングに戻ると、ておさんはコート等を解除していたがキリトさんは先ほどの恰好のままであったので、アスナはそんなキリトさんに視線を投げかける
「ところでキリト君はいつまでそんな恰好してるのよ?」
「お…おう」
アスナに言われて、キリトさんは慌ててコートなどの武装を外し、立ち上がると再びメニューを操作して今度は〖ラグー・ラビットの肉〗を近くのテーブルにオブジェクト化した
「これが噂のS級食材…」
「〖ラグー・ラビットの肉〗ですね… 見てるだけでも美味しそう…」
「で… どんな料理にするつもりなの?」
「ここはシェフのお任せで頼む」
「それじゃぁシチューにしましょうか
そしてアスナは〖ラグー・ラビットの肉〗をキッチンに持っていくと、早速色々と準備をし始める
「本当は色々と手順があるんだけどSAOの料理は簡略化されすぎててつまらないわ」
アスナは料理の過程に関して愚痴を言いながらも具材を入れた鍋をオーブンに入れて、タイマーをセットする
「さてと…シチューはこれでオッケーだから待ってる間に付け合わせでも作っちゃいましょうか 付け合わせはタコミカが作ってくれる?」
「了解~」
アスナから何個か食材を受け取った私はアスナと交代で台所に立つと、先ほどアスナがやっていたように包丁で手早く食材を切っていき、皿に盛り付ける
そして色々と準備を終え、席に着くと3人共いただきますを言うのももどかしそうにスプーンを手に取り、シチューを食べ始めたが私は一応手を合わせてからスプーンを手に取って、シチューを食べ始めた(親からは食事の挨拶に関してはとても厳しくされてきたので)
気になるシチューの味はやはりと言うかとても美味しく、私も3人と同じく黙々と食べ進める
瞬く間にシチューは無くなり、味の余韻に浸りながら先ほどまでシチューが入っていた皿を眺めていると、アスナは深く溜息をついた
「あぁ… S級食材なんて2年も経つのに初めて食べたわ… 今まで頑張って生き残っててよかったぁ…」
「そうだね~… S級食材食べたのは初めてだけど言葉にできない程美味しいよ…」
私はアスナの言葉に同意して、カップに入った不思議な香りのお茶を啜る
時折、カップを持ってお茶を啜りながらカップの中身をぼんやりと眺めていると、ふとアスナが呟く
「不思議ね… なんだか最近、この世界で生まれて今までずっと暮らしてきたようなそんな感覚になる時があるわ…」
「…俺も最近はあっちのことを思い出さない日が多くなってきたよ 俺だけじゃない…この頃はクリアだ脱出だって血眼になってるやつも少なくなってきた気がする」
「攻略のペース自体も落ちてきてますよね…今最前線で戦ってるのって500人いるかいないかですよね?」
「まぁたみの言う通りだな 最前線の人数が減ってきたのは危険度のせいもあるだろうけど…みんな馴染んできてるんだろうな… この世界に…」
確かにキリトさんの言う通り、最近はこのゲームが始まった時のようにクリアに必死になってる人が少なくなってきたような気がする
かくいう私も最近はクリアしたいという気持ちが薄れてきているような気がする… でも…
「それでも 私はあっちに帰りたい だって最初にそう決心したから」
「そうね 私もあっちでやり残したこと沢山あるし」
私に続けてアスナも微笑みを見せながら言うと、キリトさんは素直に頷いた
「そうだな 俺らが頑張らないとサポートしてくれてる職人クラスのプレーヤーたちに申し訳が立たないもんな…」
「まぁキリトの言ってることもある程度は分かるけど、それ以上にクリアしないとリアルで会えないからな」
ておさんもキリトさんの言ったことに同意すると、カップのお茶を一気に飲み下し、肘をテーブルにつくと私のことを見つめてきたので、何か用があると思いテオさんに訊ねる
「ど…どうしたんですか…?」
「いやぁ… 何となく」
「む~…」
しかし特に用はないと答えたので、私は唇を尖らせて顔を背けると私達のやり取りを見ていたアスナが口許を押さえて笑い始めた
「ふふっ… タコミカとテオ君ってここ最近は本当に付き合ってるって感じが傍から見ても解るようになってきたわよね」
「えっ!? そ…そう…?」
「そうそう テオ君と話してるときはより一段と可愛くなってるもん」
「あうぅ…」
アスナの指摘に思わず顔が熱くなる
「それに比べて"黒の剣士"サマは…」
「俺は良いんだよ ソロなんだから…」
「折角のMMOなんだから俺ら以外にももっと友達作くれって」
その隣ではておさんがキリトさんをディスって私とアスナも笑っていたが、やがてアスナが真剣な声色でキリトさんに話しかける
「キリト君はギルドに入るつもりは無いの?」
「え…?」
「元βテスターが集団に馴染みにくいのは解ってる でもね」
アスナは更に真剣になって続ける
「70層を超えた辺りからモンスターの動きにイレギュラー性が増してきた気がするの」
確かにアスナの言う通り、その辺りからモンスターの動きが複雑化してきたような気がする
「ソロだと想定外のことに対処できないことがあるわ いつでも緊急脱出できるとは限らない パーティを組んでたら安全性が段違いだと思うの」
「忠告はありがたく受け取っておくけど… 安全マージンは十分取ってるし そもそもパーティメンバーは俺の場合だと助けっていうより邪魔になることの方が多いから…」
「ふーん?」
キリトさんが余計な一言を言ったのでアスナはナイフを構えると、キリトさんは両手を挙げた
「…解ったよ あんたは例外だ」
「そう」
私達はどうなのかと訊こうとしてキリトさんに視線を向けると、キリトさんは軽く頷いた
それを確認したアスナは手に取ったナイフを器用に指の上でクルクルと回すと、ある1つの提案を出す
「なら しばらく私達とパーティを組みなさい パーティでのあなたの実力を知りたいし あと今週のラッキーカラーは黒だから」
「はぁ!? なんだそりゃ!?」
キリトさんは思わず叫び、次々に反対材料を出してゆく
「そんなこと言ったってお前…ギルドはどうすんだよ」
「うちは別にレベル上げのノルマとかはないし」
「じゃ…じゃぁあの護衛は…」
「置いてくる」
「タコミカやテオの都合だって…」
「明日は大丈夫ですよ」
アスナと私に次々と反対材料を潰されていき、せめてもの時間稼ぎにカップを口に持っていったが、空だったのか飲めず、次の瞬間にはアスナがキリトさんのカップを奪ってポットから湯気の立つお茶を注ぐ
しばらく葛藤した後、キリトさんは絶対に口にしてはいけない言葉を口にしてしまった
「…最前線は危ないぞ」
「あっ 馬鹿」
「へ?」
ておさんが静止したときにはもう遅く、アスナが持っていたナイフで≪リニアー≫を発動させ、ナイフがキリトさんの目前まで迫ったのでキリトさんは大慌てでコクコクと頷いた
「わ…解った じゃぁ明日朝九時 74層主街区の転移門前で待ってる」
それを聞いたアスナは「ふふん」と強気な笑みで答える
キリトさんは流石にこれ以上女の子の部屋にいるのは不味いと思ったのか、そそくさと暇を告げたのでておさんもそれに続いた、その為私もお暇しようと思ったが、見送りの為に階段を降りている最中にアスナから「どうせなら私の家に泊まって行ったら?」と言われたので、階段を降りながら考え、折角なのでお言葉に甘えることにした
建物の階段を降り切ったところまで来ると、アスナは軽く頭を動かして言った
「今日はまぁ… 一応お礼を言っておくわ ご馳走様」
「こっちこそまた頼む…って言いたいところだけど今日みたいな幸運は二度とないだろうな…」
「あら 普通の食材だって腕次第では今日のシチュー並みに美味しくなるわよ?」
そして上を見たので私達も思わず上を見たが、夜のとばりに包まれた空には当然星の光などはなく、あるのは上の層の底だけである
上を見上げながらもておさんが不意に呟いた
「なぁ この世界の状況をどこかで見てるであろう茅場は今の状況に満足してるのかな…」
その問いかけにはだれも答えることが出来ず、ただただ上を見上げるのみだった
現在の最前線は第74層 未だに解放の日は判らないけど、確実に進んでいるということだけは解る
結構悩みましたがタコミカがアスナの家に泊まるルートにしました
それではまた次回に