ソードアート・オンライン ~PotetoEdition~ 作:水名(仮)
それではどうぞ
教会に辿り着いた私達は正面の2枚の扉の内、片方を押し開けて中を覗く
「あのー どなたかいませんかー?」
アスナが上半身だけを差し入れ、呼びかけるが誰も出てくる様子はなかった
「誰もいないのかな…」
「返事がないってことはそういうことじゃない?」
私とアスナが首を傾げると、キリトさんが低めの声で否定した
「いや…人はいるよ 右に3人 左に4人…2階にも何人か」
「…索敵スキルって高いと壁の向こう側の人数までわかるのか…?」
「正確には980からだけどな 何かと便利だから3人共あげなよ」
「嫌よ 修行が地味すぎてそこに到達するまでに発狂しちゃうわ …それはそうと何で隠れてるのかな…」
そうアスナは呟くと教会の敷地内へと入っていったので、私達も教会内部へと足を踏み入れた
中はしんと静まり返っていたものの、キリトさんの言った通り何人かの気配をわずかに感じる
「あの~ すみません 人を探しているんですけれども!」
アスナが今度は先ほどより少し大きな声で呼びかけると、右手のドアがわずかに開き、中からか細い声が聞こえてきた
「…"軍"の人達じゃないんですか…?」
「違いますよ 上の層から来たんです」
アスナが優しい口調で答えると、中からおっとりした感じだが黒縁の眼鏡をかけた目には、怯えの色をはらんでいる女性が姿を現した
簡素な濃紺色のプレーンドレスを身にまとっており、手には鞘に納められた小さな短剣を持っている
「本当に…"軍"の徴税隊じゃないんですね…?」
アスナは安心させるように女性に対して微笑むと、頷く
「えぇ 私達は人を探していて、先ほど上から来たばかりなんです だから"軍"とは何の関係もないですよ」
そう言い終わった途端…
「上から!? ってことは本物の剣士なのか!?」
少年のような叫び声と共に、女性の背後の扉が大きな音を立てて開かれ、中から数人の人影がばらばらと走り出してきた
思わず呆気に取られて声なく見守る中で、眼鏡の女性の両脇に先ほど飛び出してきた人影がずらりと並ぶ
見たところ12~14歳ぐらいの子どもたちが、興味津々と言ったような様子でこちらを眺めまわしてくる
「こら あなたたち! 部屋に隠れてなさいって言ったじゃない!」
女性は慌てたように子どもたちを押し戻そうとするが、従う子は誰一人としていない
しかし直ぐに一番最初に飛び出してきた、赤毛の紙を逆立てた男の子が落胆の声を上げた
「なんだよ 剣の1本も持ってないじゃん なぁ あんた 上から来たんだろ? 武器は持ってないのかよ?」
途中からキリトさんに向けて話していた
「いや… なくはないけど…」
キリトさんが目を白黒とさせながら答えると、再び子供たちは眼を輝かせ、口々に見せて、見せてと要求してくる
「こらっ 初対面の人にそんなこと言っちゃダメでしょう …すみません 普段お客さんなんてなかなか来ないものですから…」
私達に対して謝罪するように頭を下げる女性に対して、アスナは慌てて言った
「い…いえ 構いませんよ ねぇ キリト君 幾つか武器がアイテムストレージに入れっぱなしになってたと思うから見せてあげてくれる?」
「お…おう」
アスナの提案にキリトさんは頷き、ウィンドウを開いて操作し始める
たちまち10個ほどの武器アイテムが傍らにある長机に積みあがっていき、キリトさんがウィンドウを閉じると子供たちは歓声を上げて、周囲に群がり剣やらメイスやらを手にとっては「重ーい」や「かっこいい!」などと言った声を出している
「本当にすみません…」
眼鏡の女性は困ったように首を振りつつ、喜ぶ子供たちの様子に笑顔を浮かべながら言った
「…あの こちらへどうぞ 今お茶を入れますので…」
私達は礼拝堂の右にある小部屋に案内され、用意してくださった熱いお茶を一口飲んで一息つく
「それで…人を探してらっしゃるということでしたけど…」
私から見て右の椅子に腰かけた眼鏡の女性は、小さく首を傾けながら言った
「あ はい えぇっと… 私はアスナ、この人はキリトで、そちらがタコミカ、その正面にいるのがテオロングといいます」
「あっ すみません 名前も言わず…私はサーシャです」
お互いに自己紹介をすると頭を下げる
「それでこの子がユイっていいます」
アスナは膝の上で眠っている、ユイちゃんの髪を撫でながら続ける
「この子 22層の森の中で迷子になってたんです …その…記憶をなくしてるみたいで…」
「まぁ…」
サーシャさんの瞳が眼鏡の奥で、いっぱいに開かれる
「装備も服以外には何もなく、上層で暮らしてたとは思えなくて… それで<はじまりの街>に保護者とか…この子のことを知ってる人がいるんじゃないかって思って、探しに来たんです それで、こちらの教会で子どもたちが集まって暮らしてると聞いたものですから…」
「そうだったんですか…」
サーシャさんはカップを両手で包み込むと、視線をテーブルに落とす
「…この教会には今、小学生から中学生ぐらいの子どもたちが20人くらい暮らしています 多分、現在この街にいる子どもプレイヤーのほぼ全員だと思います このゲームが始まった時…」
そこで声が細くなるが、はっきりとした口調でサーシャさんは話し始める
「それくらいの子ども達のほとんどは、パニックを起こして遅かれ早かれ精神的に問題を来しました 勿論、ゲームに適応して街を出て行った子もいますが、それは例外的なことだと考えてます」
まぁうん…確かに教会にいる子たちと、同年代と思われるやる気君は最初に私達と合流してなくても、そのうち街を出て行きそうだな…
私がそう思ってる間にも、サーシャさんは続ける
「当然ですよね まだまだ親に甘えたい盛りの時に、いきなりここから出られない、もしかしたら二度と現実に戻れない、なんて言われたんですから… そんな子ども達は大抵虚脱状態になって、中には何人か…そのまま回線切断してしまった子もいたようです」
サーシャさんの口許が固く強張るが、彼女は続けた
「私、ゲームが始まって1ヵ月くらいは、ゲームクリアを目指そうと思ってフィールドでレベル上げをしてたんですけど…ある日、そんな子ども達の内の1人を街角で見かけて、どうしても放っておけなくて、連れてきて宿屋で一緒に暮らし始めたんです それでそんな子ども達がまだ他にもいると思ったらいてもたってもいられなくなって、街中を回っては独りぼっちの子どもに声を掛けるようなことを始めて 気が付いたらこんなことになっていたんです だからなんだか…皆さんみたいに、上層で戦ってる方もいるのに私がドロップアウトしたのが申し訳なくて」
「そんな…そんなこと…」
アスナは首を振りながら何か言おうとしたが、何を言ったらいいのかがわからないと言った感じを出している
かといって私達も何を言ったらいいのかが分からない
しかしキリトさんが、重い空気を切り開くようにして言った
「そんなことないです サーシャさんは立派に戦ってる…俺なんかよりずっと」
「ありがとうございます でも義務感でやってるわけじゃないんですよ 子ども達と暮らすのはとても楽しいです」
ニコリと笑うと、サーシャさんは眠ったままのユイちゃんを心配そうに見つめる
「だから…私達は2年間ずっと、毎日1エリアずつ全ての建物を見回って、困ってる子がいないか調べてるんです なのでそんな小さい子が残されていれば、絶対気が付いたはずです 残念ですけど…<はじまりの街>で暮らしていた子じゃないと思います」
「そうですか…」
アスナは俯いてユイちゃんを抱きしめたが、気持ちを切り替えるようにサーシャさんの顔を見た
「あの 立ち入ったことを聞くようですけど、毎日の生活費とかってどうしてるんですか?」
確かにそれは少し気になるかも… 教会の小部屋を1日借りるだけでも、確か100コルとか必要になったはずだけど…
「あ それは私以外にもここを守ろうとしてくれている年長の子が何人かいて、彼らは街の外ぐらいでしたら大丈夫なレベルになってるんです それ以外にも支援してくださる方もいてくださって…なので食事代ぐらいでしたら何とかなっています …それでもあまり贅沢はできないですけどね…」
「へぇ… そうなんですね 先程、街で聞いた話ではフィールドに出て狩りをするのは自殺行為だって言ってたので…」
私が呟くようにして言うと、サーシャさんはこくりと頷いた
「基本的に<はじまりの街>残ってるプレイヤーは全員そういった考えだと思います 私はそれが悪いとは思ってません、死ぬかもしれないと考えれば仕方のないことかもしれないですが… ですので私達は相対的に他の街の人よりも稼いでいるということになるんです でも…そのせいで最近目をつけられてしまって…」
「誰に…です?」
サーシャさんの穏やかな目が一瞬厳しくなったので、ておさんがその人物を聞こうとした時…
「先生! サーシャ先生! 大変だ!」
部屋の扉が開かれ、数人の子ども達がなだれ込むようにして部屋に入ってきた
「こら お客様に失礼じゃないの!」
「それどころじゃないよ!!」
先程の赤毛の男の子が、眼に涙を浮かべながら叫んだので只事ではないと感じ、真剣な表情で話を聞く
「ギン兄ぃ達が、"軍"の奴らに掴まっちゃったんだ!」
「場所は!?」
サーシャさんもまるで別人のように毅然とした態度で立ち上がると、男の子に訊ねた
「東五区の道具屋の空地 "軍"が10人ぐらいでブロックしてる コッタだけが逃げられて知らせてくれたんだ」
「解った すぐ行くわ ―――すみませんが…」
そこで私達の方を向き、頭を軽く下げた
「私は子ども達を助けに行かなければいけません なのでお話は後程…」
「先生! 俺達も行くよ!」
赤毛の男の子が叫ぶと、その後ろにいる子ども達も口々に同意するように声を上げると、男の子はキリトさんの傍まで駆け寄り、必死な形相を浮かべながら言った
「なぁ兄ちゃん! さっきの武器、貸してくれよ! あれがありゃあ"軍"の奴らもすぐ逃げ出すよ!」
「いけません!」
その男の子に対して、サーシャさんは叱責する
「あなたたちはここで待っていなさい!」
その時、今まで成り行きを見守っていたキリトさんが、子ども達を宥めるようにして右手を挙げた
すると不思議と子ども達はぴたりと口をつぐんだ
「―――残念だけど」
落ち着いた口調でキリトさんは話し始める
「あの武器は必要なパラメータが高すぎて君達じゃ装備できない だから俺達が助けに行くよ こう見えてもこのお姉ちゃん達は無茶苦茶強いんだぞ?」
そう言うと私達に対してちらりと視線を向けたので、私達は大きく頷き返し、代表してアスナが立ち上がってサーシャさんに向くと、口を開いた
「私達にお手伝いさせてください 少しでも人数は多いほうが良いはずです」
「―――ありがとうございます それでは、お気持ちに甘えさせていただきます」
サーシャさんは深く一礼をすると、眼鏡をグッと押し上げた
「それじゃぁすみませんけど、走ります!」
そう告げると、サーシャさんは一直線に部屋の外に向かい、教会から飛び出したので、私達もその後に続いた
索敵スキルの修業ってどんなのなんでしょうね…
それではまた次回に