ソードアート・オンライン ~PotetoEdition~ 作:水名(仮)
それではどうぞ
P.S.:キリト誕生日おめでとう!
1人、また1人と消滅していく中でも私達は攻撃の手を緩めず、ボスに攻撃し続ける
そしてボスのHPが残りわずかになった時、ヒースクリフさんが「全員、突撃!」と叫んだのですかさず私達は一気に畳みかけた
私が現時点で使える最上位のソードスキルを放ってから数秒後、遂にボスがその巨体を四散させた
しかし、誰一人歓声を上げるということはせず、全員床の上に倒れこんだり、座り込んだりしており、かくいう私も床に俯せに寝転がって荒い呼吸を繰り返していた
ぼんやりとした視界の中で辺りを見回すと、[フリッツ・フリット]のみんなは生き残っている様子だった
それと同時に明らかに
「何人―――やられた…?」
クラインさんの掠れた声にリオンさんはマップを開いて、光点の数を数えると答えた
「―――10人、死んだ」
リオンさんは冷静にそう言ったが、その声は僅かに震えているような気がする
「…嘘だろ…?」
「まだあと25層もあるんですよね…?」
エギルさんとポテトさんの声も、どこか信じられないといったような色を帯びている
それもそのはずで、全員が歴戦のプレイヤーだったはずで、離脱や瞬間回復が不可能とはいえ、生存最優先にしていれば、そうそう死ぬことはないとは思ってたけど…
一連のやり取りを聞いた、生き残った人達の間にも陰鬱な空気が流れ始める
1層のボス戦ごとにこれだけ犠牲を出していては、100層に辿り着く前に全滅するかもしれない…
その中で1人だけ、床に伏している私達とは違い、毅然とした態度で部屋の奥に立っている人の姿があった …ヒースクリフさんだ
あの人も当然HPバーは減少してはいるが、キリトさんとアスナのように鎌を捌いていたので精神的な疲労は計り知れないはずだ、それなのに平然と立っている…
私はそのことで、彼はただのプレイヤーなのかという違和感を抱いた
でもそれだけで、何の証拠もない…
私が様々な考えを巡らせていると、不意にリオンさんが何か覚悟を決めた様子で剣を支えにしながら立ち上がり、そのままヒースクリフさんの元へと歩き始めた
そしてヒースクリフさんの前まで来ると、口を開く
「…やはり先の戦いの『神聖剣』見事だったよ ヒースクリフ」
「リオン君の指揮能力も見事だったよ やはり君の冷静な状況観察能力には目を見張るものがあるな」
「私は私のできることをしたまでだ …それと、少し話は変わるが1ついいか?」
「あぁ 構わないよ」
ヒースクリフさんはあくまででも、穏やかな表情で返す
「貴方は今の世界の状況…これをどう思っていますか
リオンさんの質問にヒースクリフさんの眉がピクリと動いたような気がした
「リオン君…それは一体どういう…」
リオンさんの唐突な敬語と
直後、黒い光の筋がヒースクリフさんへ向かって行き、そのまま剣をヒースクリフさんの胸に突き立てる…その寸前で紫色の障壁が発生し、同じく紫色の Immortal Object というシステムメッセージが表示された
不死存在…私はそれに見覚えがあった 私達が絶対に持っていない属性 それを持っているということはつまり…
「キリト君!? リオンさんも何を…」
2人の突然の攻撃に驚き、キリトさんに駆け寄ろうとしたアスナが、その表示を見て動きを止める
辺りが静寂に包まれる中、システムウィンドウはゆっくりと閉じた
リオンさんとキリトさんは武器をヒースクリフさんに向けたまま数歩下がる
「し…システム的不死…って…一体… 答えろ! ヒースクリフ!!」
一言も話さないヒースクリフさんに対して、ポテトさんは立ち上がり、あからさまに怒りを帯びた声で叫ぶ
しかし、ヒースクリフさんは答えず、厳しい表情のままキリトさんとリオンさんのことを見据える
先に口を開いたのはキリトさんだった
「これが伝説の正体だ この男のHPは何があっても
そこでキリトさんは言葉を切り、上を見上げる
「…この世界に来てからずっと疑問に思っていたことがあった… あいつは今どこで俺達を観察し、世界を調整しているんだろう…ってな でも俺は単純なことを忘れていたよ それこそ、ゲームをやったことのある子どもだったら、誰でもわかるような事さ」
それに続くように、リオンさんが口を開いた
「貴方は前にこう言っていましたよね… 『他人のやっているRPGを傍から眺めることほどつまらないことはない』 …そうでしょう 茅場晶彦」
リオンさんの呼んだ名前に、周囲が凍り付いた
まさかこの場に、このデスゲームを強要させた張本人がいるとは夢にも思わなかったからだ
「本当…なんですか…? 団長…」
アスナもどこか信じられないといったように、かすれ声でヒースクリフさんに訊ねたが、ヒースクリフさんは答えず、小さく首を傾げて2人に向かって言葉を発した
「…なぜ気付いたのか参考までに教えてもらえるかな…?」
「俺が最初に可笑しいと思ったのは、あのデュエルの時だ 最後の一瞬、あんたは余りにも速すぎた」
「やはりそうか… あれは私にとっても誤算だったよ 君の動きに圧倒され、思わずシステムのオーバーアシストを使用してしまった」
ヒースクリフさんはキリトさんの言葉に、僅かに唇の片端を歪め、仄かに苦笑の色を浮かべる
「予定では攻略が第95層に到達するまでは明かさないつもりだったのだがな…」
ゆっくりとプレイヤー達を見回すと、笑みの色合いを超然としたもの変えて、堂々と宣言した
「…確かに私は茅場晶彦だ 付け加えると、最上層にて君たちを待つはずだったこのゲームの最終ボスでもある」
それをキリトさんの隣で聞いていたアスナは小さくよろめき、リオンさんは怒りを通り越したのか、呆れたような顔をする
「…趣味がいいとは言えないぜ 最強のプレイヤーが一転、最悪のラスボスなんてな」
「まぁ晶彦先輩らしいといえば、らしいですが…」
「中々いいシナリオだろう? 結構盛り上がったと思うが、まさかたった4分の3地点で看破されてしまうとはな… キリト君、君はこの世界最大の不確定因子と予想していたが…まさかここまでとは」
茅場はうすら笑いを浮かべながら肩をすくめた
声も姿も違うが、私はその茅場の姿に2年前の巨大なローブのアバターの無機質な感じを重ね合わせていた
茅場は笑みを滲ませながら続ける
「…最終的に私の前に立つのは君だと予想していた 全10種類あるユニークスキルの内、『二刀流』は全プレイヤー中で最大の反応速度を持つ者に与えられ、その者が魔王に立ち向かう勇者の役割を担うはずだった 勝つにせよ、負けるにせよ、ね しかし君は私の予想を超える力を見せてくれた 攻撃速度といい、洞察力といい… まぁ、この予想外な展開もまたネットワークRPGの醍醐味と言うべきかな…」
茅場がそう言い終わった時、1人のプレイヤーがゆっくりと立ち上がった
服装から察するに、恐らく[血盟騎士団]の幹部メンバーだろう 朴訥そうな細い目に凄惨な苦悩の色が宿っている
「俺達の忠誠…希望を…よくも…よくも…よくも―――っ!!」
巨大なハルバードを握りしめ、茅場に対して絶叫しながら飛びかかった
でも、茅場の方が一瞬早く、
その男性に視線を向けると、HPバーにグリーンの枠が点滅しているのが見えた…麻痺状態だ
茅場はそこで止まらず、ウィンドウを操作し続ける
「あぅ…」
「たみっ…!」
「ぐっ…!」
急に全身に力が入らなくなってそのまま床に伏してしまい、そんな私を支えようとしたておさんも私の傍で床に倒れこむ 恐らく私達にも麻痺状態を付与したのだろう
それでもどうにか周りを見回してみると、キリトさんと茅場以外の全員が床に伏し、呻き声を上げているのが見えた
キリトさんは倒れこんだアスナの上体を抱え起こしながら、茅場に向かって視線を向けた
「どうするつもりだ… この場で全員殺して隠蔽するのか…?」
「まさか そんな理不尽な真似はしないさ」
茅場は微笑しながら、小さく首を左右に振る
「こうなってしまっては致し方ない 少々予定を繰り上げて、私は最上層の{紅玉宮}にて君たちの訪れを待つことにしよう 90層以上の強力なモンスター群に対抗する為に育て上げた[血盟騎士団]、そして攻略組プレイヤーの諸君を途中で放り出すのは少々不本意ではあるが…何、君たちの力ならきっとたどり着けるさ…だが、その前に…」
茅場はそこで言葉を切ると、キリトさんを見据え、右手の剣を床に突き立てた
「君には私の正体を看破した報酬を与えなくてはな チャンスをあげよう 今、私とこの場で戦うチャンスを 無論不死属性は解除し、システムのオーバーアシストも使用しない 私に勝てばゲームはクリアされ、現状生存している全プレイヤーがこの世界からログアウトできる… どうかな?」
キリトさんは床に伏しているリオンさんの方をちらりと見やって、茅場に訊ねた
「…だったらなぜリオンを麻痺状態にした? リオンだって自力でお前の正体を看破したはずだぞ…?」
「彼女が私の前に立つのは必然だったからだよ 何せ、彼女は私の後輩なのだから それに…」
そこで一旦一呼吸おいて茅場は続ける
「彼女は最初からこの勝負を降りるつもりだった そうだろう?」
リオンさんは茅場の問いには答えず、ただ俯く
茅場はそんなリオンさんから視線を外し、再びキリトさんに視線を向ける
「さて… どうするのかな キリト君」
そして茅場の再びの問いに、アスナは自由に動かせない体を必死に動かして首を横に振った
「駄目よキリト君…! 今は…今は退いて…!」
アスナの言うことは最もだ ここは遅くなってもいいから確実且つ、安全に行くべきだと思う…でも恐らく、キリトさんは…
「…いいだろう 決着をつけよう」
私の予想通り、キリトさんは頷いた
「キリト君…!」
アスナの悲痛な叫びに、キリトさんは視線を落とすと、笑顔を作って言った
「ごめんな… でも、ここで逃げるわけにはいかないんだ…」
「死ぬつもりじゃ…ないんだよね…?」
「あぁ 必ず勝つ 勝ってこの世界を終わらせる」
「解った 信じてるよ キリト君」
キリトさんはアスナの手を強く長く握ると、手を離して静かに横たえ、立ち上がった
そして茅場にゆっくりと歩み寄りながら、背中の2本の剣を抜き放つ
「キリト! やめろっ…!」
「キリトーッ!」
「キリトさん!」
「キリト! 戻れ!」
エギルさんとクラインさん、ポテトさんとひま猫さんが必死に呼びかけると、キリトさんは振り返り、そちらを向いた
「エギル 今まで剣士クラスのサポート、サンキューな 知ってたぜ、お前が儲けたお金の大部分を中層プレイヤーの育成につぎ込んでたこと」
そう言って、エギルさんに微笑みかける
「クライン… あの時…お前を、置いて行って悪かった… ずっと…後悔してた…」
掠れた声で言った途端、クラインさんは涙を溢れさせながら、喉が張り裂けんばかりに絶叫した
「て…てめぇ! 謝るんじゃねぇ! 今謝ってんじゃねぇよ! 許さねぇぞ…俺は! ちゃんと向こうで、飯のひとつも奢って貰ってからじゃねぇと、ぜってぇ許さねぇからな!」
そんなクラインさんに対して、キリトさんは頷く
「あぁ 解った 向こう側でな」
そして右手を突き出し、親指を立てる
「ポテト 俺をギルドに誘ってくれたこと…本当に感謝してる それと、ギルドの皆と過ごした日々は思いのほか楽しかった 後、お前が作ったフライドポテト…凄く美味しかったよ」
ポテトさんにそう言うと、ポテトさんの周囲にいる皆を見渡して告げた
「キリトさん 貴方がこの世界を終わらせてください お願いです」
俯いたまま言ったポテトさんの言葉に、キリトさんはゆっくりと頷く
「ひま猫 お前にはβ時代から世話になりっぱなしだったな …こんな俺と組んでくれて、ありがとう」
キリトさんはひま猫さんに沿う言葉を発すると、ひま猫さんは一瞬、何かを迷ったような顔をしたが、直ぐに覚悟を決めたような顔をすると
「…俺が止めたところでお前は行くんだろ? 解った 俺はもう止めないよ …その代わり必ず勝て! いいな?」
「あぁ 必ず」
ひま猫さんが発破をかけると、頷いて答える
「タコミカ テオ …2人共、向こうでも仲良くな 結構似合ってるぜ」
そして私達を見ながら、
「キリト! 死ぬなよ!」
「キリトさん! 勝って! そして戻ってきて!」
「あぁ」
キリトさんは私達の言葉に頷くと、最後にアスナを見詰め、体を翻した
「…悪いが、1つだけいいか」
「何かね?」
「簡単に負けるつもりは微塵も無い でも…もし仮に俺が死んだら―――しばらくでいい アスナが自殺できないように計らってほしい」
それに対して、茅場は興味深そうに片方の眉を動かすと、無造作に頷く
「…良かろう 彼女は<セルムブルグ>から出られないように設定しておく」
「キリト君、駄目だよ! そんなの…そんなのないよ―――っ!!」
アスナの涙混じりの絶叫に対し、キリトさんは振り向かず、両手に持つ剣を構え、臨戦態勢を取る
茅場は左手でウィンドウを操作し、キリトさんのHPと同じ、レッドゾーンギリギリに合わせた
続いて、『changed into mortal object』―――不死属性を解除したというメッセージが、茅場の頭上に表示される
そこで茅場はウィンドウを閉じて、床に突き立てた長剣を抜き、十字盾の後ろに構えた
1度手の内を見せている以上、キリトさんが勝つには短期決着で決める他ないだろう
時間が1秒、2秒と過ぎていくごとに、2人の間の緊張がこちらにもピリピリと伝わってくる…
そして何の合図もなく、キリトさんは地面を蹴って、茅場に向かって行った
アインクラッド編はあと2話ぐらいかな…?
それではまた次回に