ソードアート・オンライン ~PotetoEdition~ 作:水名(仮)
最初の部分重たいかもです
それではどうぞ
SIDE:タコミカ
気が付くと私は広い平原にいた
そこを当てもなく彷徨いながら歩いていると、遠くの方にぼんやりではあるが見覚えのある人影が見えた
もしかしてと考え、思わず走って向かうと、やっぱりておさんだった
「ておさん! 良かった…やっぱり来てくれた…!」
そして抱き着こうと歩み寄った直後、突如視界がブラックアウトした
「えっ…」
辺りを見回してみたが、周囲は闇が広がるのみ
「ておさん! ておさん!! 誰か!」
思わず叫ぶが、自分の声が反響するだけで返事はなかった
必死に不安を抑え、出口を探して歩く
しかし、いくら歩いても出口が見えてこない…
それでもしばらく歩いていると、ふと何処からか聞き覚えがあるような声が聞こえてきた
―――どうして
「誰かいるんですか!?」
咄嗟に返すが、返事はなかった
それでも声が聞こえた方向を見ていると、再び声が聞こえてきた
―――どうして…私達を巻き込んだの…?
え…?
―――私達はあなたに誘われてあの世界に来ただけなのに
多分この声の主が言ってるのは、
「私だってああなるなんて…っ!」
そのことに関して、私が否定しようとした時、先ほどの声とは別の声が聞こえてきた
―――お前は俺らの人生を奪ったんだ
―――貴方は幸せになる資格なんてない
―――これ以上迷惑を掛けないでくれよ 頼むから!
私は…ただ…!
―――ただ…? どの口が言ってんだよ
ふとておさんのものと思しき声が聞こえてきたので、思わず振り返るとそこにはておさんが立っていた
「ておさん!? いつからそこに…?」
私がておさんと再会できたことについて、嬉しさ半分、驚き半分でいる間もておさんは続ける
―――お前があんなこと言わなければ俺らが巻き込まれることもなかっただろ
ておさんに言われた言葉に対して、私は何も反論が出来なくなる
「…ごめんなさい…」
―――謝って済む問題じゃないよ
―――どうやって責任を取るつもりなの!?
―――お前さえいなければ!
―――あいつの代わりにお前が死ねば良かったんだ!
―――もう元の日常には戻れないんだぞ!
―――この過去はもう変えられない!
―――許さない…!
―――ずっと信じてたのに!
「…ごめんなさい…ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」
私は耳を塞ぐようにして蹲り、呪文のように謝り続けた
…
~~~~~~
「…ミカ… タコミカ…!」
「うぅ…?」
聞き覚えのある声が聞こえてきて私は目を覚ます
上体を起こし、眼にたまった水滴を拭ってから返した
「…おはよう アスナ」
「随分と魘されてたみたいだったけど大丈夫なの…?」
「えっ? そうなの?」
「その様子だと全く気が付いていないみたいね…」
う~ん? そんなに魘されてたのかな…
「そんなに魘されてたの?」
「こっちに声が聞こえてくるぐらいには…」
…
「ごめん…」
「別に怒ってるっていう訳じゃないのよ ただ少しだけ心配になっただけだから」
「そうじゃなくて… 私は…」
先程の夢で精神面的に不安定になっていたのか、それ以上言葉を続けることが出来ず目から涙が溢れてくる
「大丈夫よ 私がいるから…」
両手で顔を擦っている私を優しく抱きしめながらアスナは呟いた
…確実にアスナの方が辛いはずなのに慰めてくれる、それなのに何もできない自分が嫌になる
~~~~~~
「落ち着いた?」
「お陰様で」
しばらくした後、アスナは私から腕を離すと少しだけ離れ、ベッドに腰かける
「そういえば今日で60日目だっけ…?」
「多分ね」
私達がこの世界に閉じ込められてから、そんなにも時間が立っていたことに驚きが出てくる(これは私の体内時計換算なので合っているかどうかはわからないが)
あの時、
もし仮にここに閉じ込められたのが私1人だけだったら、いつか全てを諦めていたかもしれない
だけど、不謹慎かもしれないがアスナがいてくれたから何とかまだ頑張れる
でも、この小さい鳥籠の中でやれるようなことはもうほとんどやったと思う
ここに来てから数日ぐらい経った頃に籠の隙間から外に出ようと思ったけど、システム的に保護されているのか出ることが出来ず、ならばと置いてあるクッション類を外に投げ、私達のことを知らせようと思ったが、そちらも外に出すことは叶わなかった
でも、私は絶対に諦めない―――無事にアスナを脱出させるまでは
ゴシック調のベッドの天蓋を支える壁にある鏡を見ながら、今日も自分を励ます
そこに映る姿は昔とは微妙に異なり、顔のつくりこそ変わっていないものの、髪は太ももぐらいまで伸び、耳はエルフのように先が尖っていて、その右耳には赤い宝石のイアリングが付いている
身にまとうのは心もとないぐらい薄い、黒いドレスで胸元には血のように真っ赤なリボンが付いている
それに加え、背中からは不思議な虫のような羽が生えている
おまけに素足なので、今も大理石製のタイルの冷たさがしんしんと伝わってくる…
私は鏡に映る自分の姿を見ながら胸元のリボンをそっと撫でていた時、ふと私が今一番嫌悪している声が響いてきた
「その表情が一番美しいよ、ティターニア」
そちらを振り返ると、1人の金髪で長身の男性がいた
「泣き出す寸前のその表情がね ―――凍らせて、飾っておきたいぐらいだよ」
「なら そうすればいいでしょう」
その顔は造り物の様に整っている(実際、作り物だけど)が、口許に浮かべるすべてを蔑むような微笑がすべてを台無しにしている
私は直ぐに目を逸らし鏡越しにそいつのことを監視し始め、アスナも抑揚のない声で返す
「貴方なら何でも思いのままでしょう ―――システム管理者なんだから」
「またそんなつれないことを言う 僕が今まで君に対して無理やり手を出したことがあるかい? ティターニア」
「こんな場所に閉じ込めておいてよく言うわ …それとその変な呼び方で呼ぶのはやめて 私はアスナよ―――須郷さん」
須郷は不愉快そうに唇を歪めると、吐き捨てるようにして言った
「興ざめだなぁ この世界では僕は妖精王オベイロン、君は女王ティターニア プレイヤー達が羨望の眼差しで見上げるアルヴヘイムの支配者… それでいいじゃないか 一体いつになったら僕の伴侶として心を開いてくれるんだい?」
「無駄よ いつまで経っても貴方にあげるのは軽蔑と嫌悪だけ」
「やれやれ… 気の強いこと…」
奴は片頬を吊り上げて笑うと、私の方を向き、そのままゆっくりとこちらに向かって歩き始めた
「やっぱり君を手折るには…彼女を使うしかないのかなぁ…?」
充分に近づいたところで、私は須郷に対して反射的に右ストレートを入れようとしたが腕を掴まれ、そのまま腕を持ち上げられる形になった
左手を使うことはできたが、そんなことをしたらこいつは何をするか分からない…それが私に向くんだったらまだいいけど、アスナに向いたらと思ってしまうとこれ以上は抵抗できなかった
まるで須郷は抵抗するにできない私の反応を愉しむように、開いている手で胸元のリボンの端をじわじわと引っ張り始めた
羞恥と恐怖から思わず私は目を強く閉じてしまう
「やめなさい 須郷」
直後、アスナの静かだが確実に怒りを含んだ声が聞こえてくると、須郷は喉の奥をククッと鳴らして胸元のリボンから手を離した
須郷から解放された私は床にへたり込み、今まで止めていた息を取り返すかのように浅い呼吸を繰り返す
「冗談さ 彼女に手はかけないよ なにせ…君がお世話になってる病院の院長の娘さんだからね それにもうすぐ君達の方から僕を求めてくる」
直ぐにアスナがこちらに向かってきて、私の背中をさすりながら須郷を睨む
「気は確か?」
「ふふ そんな口が利けるのも今だけさ じきに君達の感情は僕の意のままになるんだから」
私は須郷の言っていることの意味が分からず、思わず顔を上げる
奴はにやにやとした笑いを鳥籠の外に巡らせた
「見えるだろう? この広大な世界では今も数万という数のプレイヤーがゲームを楽しんでいる しかし、彼らは知りやしないのさ フルダイブ技術が何も娯楽の為だけに存在しているのではないという事実を!」
私達が口を噤んで聞いている間も須郷は続ける
「このゲームはただの副産物だ フルダイブ用インタフェースマシン…つまりナーヴギアやアミュスフィアは電子パルスのフォーカスを脳の感覚野に限定し、照射して仮想の環境信号を与えているわけだが―――仮にその枷を取り払ったらどうなるか」
そうして見開かれた須郷の目に宿る狂気的な輝きに、私は本能的な恐怖を感じ取った
「―――それはね 脳の感覚処理以外の機能…すなわち感情、思考、記憶までも操作できる可能性があるということだよ!」
須郷の発した常軌を逸した言葉に私達は絶句するほかなかったが、それでも何とか絞り出すように声を出した
「そんな…そんなこと許されるはずが…!」
「誰が許さないんだい? それに既に色々な国で研究が進められている でもね、この研究にはどうしても人間の被験者が必要なんだよ 自分が今何を考えているのかをきちんとコトバで説明してもらわないといけないからね」
甲高い笑いを洩らしながら、奴はせかせかとした様子で鳥籠の中を歩き回る
「脳の高次機能には個体差が多い だからどうしても多くの被験者が必要になる だがおいそれと人体実験なんてできやしない ―――ところがねぇ…ある日ニュースを見ていたら…いるじゃないか 格好の研究素材が1万人もさぁ!?」
奴の言わんとしていることを想像してしまい、思わず背中に悪寒が走る
「―――茅場先輩は天才だが大馬鹿者さ あれだけの器を用意しておきながら、たかがゲーム世界を創造するだけで満足するなんてね SAOサーバー自体に手を付けることは叶わなかったが、プレイヤー達が解放された瞬間に、その一部を僕の世界に拉致出来る様にルーターに細工することは容易いことだったよ」
須郷は手でグラスを持っているかのような形を作り、見えない美酒を味わうかのように舌を這わせて続けた
「いやぁ…クリアされる日を今か今かと首を長くして待った甲斐があったよ 流石に全員とはいかなかったが、結果として300人もの被験者を確保できた 現実ならどんな施設でも確保できない人数さ 本当に仮想世界様様じゃないか!」
奴はまるで妄執の熱に突き動かされるように、言葉を捲し立て続ける
「300人の旧SAOプレイヤー諸君の献身的な働きのおかげで研究はこの2ヵ月間で大いに進歩したよ 人間の記憶に新規オブジェクトを埋め込み、それに対する情動を誘導する技術は大体完成した 魂の操作―――実に素晴らしい!」
須郷のやっていることは人クローン技術や死者蘇生と並ぶ、絶対に人が触れてはいけない領域―――そういうことは私でも何となくだが分かる
「そんな…そんな研究…お父さんが許すはずがない!」
「無論あのオジサンは何も知らないよ 研究は私以下極少数で秘密裏に行われている…そうでなければ商品にできないからね」
「商品…?」
私は須郷の言ったことに反応し、思わず聞き返す
「アメリカの某企業が涎を垂らして研究終了を待っている 精々高値で売りつけるさ―――いつかはレクトごとね」
奴の言葉に私は無言を貫く
「僕はもうすぐ結城家の人間になる まずは養子からだが、やがては名実共に正式にレクトの後継者となる 君の配偶者としてね だからその為にもここで予行演習しておくのは悪くないと思うけどねぇ」
それに対して、アスナは小さく、しかし確かにはっきりと首を横に振った
「そんなこと、絶対にさせない いつか現実に戻ったら真っ先に貴方の悪行を暴いてやるわ」
「やれやれ…まだ解っていないようだね ここまで実験のことを話してあげたのは君達が直ぐに何もかも忘れてしまうからだよ 後に残るのは僕への…」
そこで須郷は言葉を切り、不意に左手を振ってウィンドウを開いた
「今行く 指示を待て」
それだけをウィンドウに向かって言うと、再び私達に不快な笑みを向けた
「―――という訳で、君達が僕を盲目的に愛し、服従する日が近いということが判ってくれたかな? しかし僕も君達の脳を早期の実験に供するのは望んでいない 次に会うときはもう少し従順であることを願うよ」
奴は猫撫で声で言うと、私達の髪を一撫ですると身を翻して、足早にドアへと歩いて行った
やがて籠のようなドアの開閉音が響き、再び静寂が周囲を包んだ
その中で須郷が最後に言った言葉が頭の中にしばらく残り続けた
他の人が気にしないと言っていても、自分は気にしてしまう タコミカはそういったタイプです
それではまた次回に