ソードアート・オンライン ~PotetoEdition~ 作:水名(仮)
それではどうぞ~
今日は12月31日 いわゆる大晦日に当たる日だが私は<シヤ―ヤ>というエルフの村でお風呂に入っている
<シヤ―ヤ>村はいわゆる圏外村というやつでアンチクリミナル・コードが機能していない
ではなぜこのようなことが出来るのかと言うとこの村自体がインスタンスマップ…つまりヨフェル城などと同じように外部?から隔離されたマップだからである
このお風呂に入っているのは私だけではなくアスナとアルゴさんも入っている
アスナは勿論のことながらアルゴさんも装備を全解除してお風呂に入ってはいるが頬の鼠のような髭のマークだけは何故か取れていない…
何気なしに私は浮かんでいるバナナの葉を束ねたっぽいものを浮かべたり沈めたりしながらくつろいでいるとアスナがぽつりと呟いた
「フォレストエルフの村の方はどうなのかな…」
「フォレストエルフの方はお風呂は狭いけどご飯が超凄かった」
私がそう答えるとアスナは私の方を向いて言った
「ダークエルフのご飯も十分凄いと思うけど…?」
「なんて言うんだろ… どこかの三ツ星レストラン並みの料理が出てきてね 結構おいしかったよ」
「そう言う割にはあんまり顔に出てないゾ?」
アルゴさんにそう言われたので私は気を逸らすようにかなりくつろいでいるアルゴさんに返した
口が裂けても慣れてるなんて言えないし…
「そうですかね…? まぁこのお風呂がそれだけよかったっていう事ですよ」
「その点にはオレっちも同感ダナ~ これを体感したらもう戻れないヨ… パーティに入れてくれてありがとナ 2人とも」
アルゴさんがお礼を言うとアスナはかぶりを振ってからアルゴさんにお礼を言った
「ううん 私達もアルゴさんにはしっかりとお礼を言いたかったから ありがとう 地下墓地のボスの行動パターン割り出しの為に丸1日キャンプしてくれて」
「別に気にしなくていいヨ オレっちこそ悪かったナ アーちゃんやターちゃん、キー坊やテオ坊に心配かけちまって しかもオレっちを探しに来たときに危険な目に遭ったんダロ?」
アスナがチラッとアルゴさんの方を見るとお見通しと言わんばかりに笑っていたのでアスナは鼻の下まで沈むとぶくぶくとお湯を鳴らして誤魔化した
アルゴさんが丸1日もキャンプしていた理由はエリアボスがβ時代と外見も名前も違っていたことが原因である
最初こそボスの姿を確認したら直ぐに帰って攻略本第1号を出すつもりだったらしいけどいざ確認してみたら全くの別物だったのでどうせならデータを取っていこうとしたらしかったがこれが思ったより難しく、気が付いたら丸1日が経過していたという
ボスモンスターは巨大で包帯が所々に巻かれたゾンビで斬、突、貫通に耐性を持っていて中々強敵だがボス部屋の所々にあるレバーを操作してパズルを解くと部屋に日光が差し込んできて(無論日光なので昼間限定)ボスの弱体化が可能…とのこと
アルゴさんが苦労したのはこのパズルで後半はほぼ意地でやっていたらしい
そのおかげで昨日の30日のお昼に攻略組の選抜メンバーでそこまで苦労せずに倒せたがやっぱりというかなんというかALSとDKBの対抗が凄まじかった キャラメレさんと意識さんは途中何回かキレかけたと言ってたし…
そしていかに私達がアルゴさんの情報に―――アルゴさんに依存しているかが分かった
お湯に映る自分の顔を見ながら考えているとアスナがアルゴさんを遠慮がちにでも真剣そうに呼んだ
「あの… アルゴさん…」
「どうしたんだイ? アーちゃん」
アルゴさんはアスナの真剣な感じを察したのかくつろぐのをやめて体を垂直に戻した
「地下墓地のボスをスムーズに倒せたのはアルゴさんが頑張ってくれたおかげだし そのことにはとても感謝してるんだけど…初見のボスを相手にソロでデータを取るのは少し危険すぎると思うの」
それに対してアルゴさんは淡い笑みを浮かべたまま続きを促していたのでアスナは続けた
「私も昔は1人で迷宮区にもぐったりしてたから人のことは言えないんだけど…でもアルゴさんの情報は私達みたいな攻略プレイヤーだけじゃなくて後から<はじまりの街>を出たミドルプレイヤーの人たちにとっても凄い助けになってる もし仮にアルゴさんに何かあったら攻略そのものが止まっちゃうくらいに… だから…ううん…私はアルゴさんが一人で無茶しちゃうんじゃないかって心配なの… その…友達として…」
アスナがそう言うとアルゴさんはにかっと笑うとここがお風呂場だからかやけに響く声でお礼を言った
「ありがと アーちゃん」
そして真っ直ぐにアスナを見詰め、アルゴさんにしてはややスローな口調で続けた
「オイラの事 心配してくれるのはとても嬉しいヨ 正直オイラも一昨日のはちょっとやりすぎたって思ってるシ …でもオイラにはどうしても体を張って情報を取り続けなきゃいけない責任があるんダ」
「それって情報屋として?」
「まぁそれもちょっとだけあるかナ でも違うヨ」
アルゴさんは小さな水滴を散らしてかぶりを振るとアスナの質問に答えた
「元βテスターとして、だヨ」
それを聞いたアスナは息を呑んだが、直ぐに返した
「…そうなんだとしても アルゴさんが独りで危険な役目を背負わなければいけないという理由にはならないわ 同じ元βテスターのキリト君やタコミカ、ヒマ猫君だってフロアボスの攻略戦にはいつも攻略集団のレイドに参加してるんだし…アルゴさんもせめて偵察のサポートメンバーぐらいは出してもらってもいいと思うけど…」
「そのコ―リャクシュ―ダンっていう呼び方ちょっとまどろっこしいよナ オレっち的にはフロントランナーの方がかっこいいと思うけどナ~」
一旦間を置くようにニシシと笑ったアルゴさんは目の前に漂ってきたバナナっぽい果物を指でつつきながらアスナに問い返していた
「んー… アーちゃんがそうやって心配してくれるのはオイラが非戦闘タイプのビルドだからダロ?」
「え…えぇ…まぁ…」
アスナは途惑いつつも頷いた
確かにアルゴさんはクローと防具は装備しているものの朱猫さんのようなAGI極に振っていると思う点が多く情報屋特化ビルドだと勝手に考えている
その為攻撃方法の少ない普通のモンスターだったらまだしも攻撃方法の多いボスモンスターだと危険が多い…
そんな考えをアスナもしていてアルゴさんがその考えを見抜いたようにもう一度ニシッと笑うと近くに遭ったハーブの束を無言で掴んでアスナに向かって投げた
それをアスナがキャッチするとアルゴさんは先ほどのバナナっぽい果物を握り、勢いよく立ち上がった
「論より証拠っていうやつだナ ちょっとやってみよっカ アーちゃん」
そう言って御影石製と思しきお風呂のサイドに立ったアルゴさんをアスナは唖然としながら眺めていた
「やるって…何を?」
「そりゃぁモチロン…デュエルはちょっと大げさかナ チャンバラだヨ」
右手で器用にバナナっぽい果物をくるくると回しながら広大な洗い場へと歩いて行った
アルゴさんの話を要約するとアルゴさんはバナナっぽい果物でアスナはハーブの束で模擬戦っぽいことをやってみようという話だった
お風呂場なのでお互い完全無防備状態で始まると思ったとき、アスナがアルゴさんに訊ねた
「あ…あの…水着着ていい…?」
するとアルゴさんはキョトンとしてから自身の体を見下ろすと軽く頬を膨らませた
「あのナー オイラがこのミニマルボディっぷりを晒してんの二 そのプロポーションのアーちゃんが恥ずかしがるってどーいう事ダ!」
「そういう問題じゃないです!」
「ま いいけどサ…」
良いんだ… でもじゃぁどうするんだろ…?
「それで…アルゴさんにも水着を着てほしいんだけど…」
「オイラ水着なんて持ってないゾ?」
「じゃぁ…今作るから!」
アスナはそう言うと手早くアルゴさんの水着を作り、いよいよチャンバラ…?の開始となった
アスナが着用しているのは4層で作った白のワンピース型の水着でアルゴさんが着用してるのはアルゴさんの要望の黄色のタンキニとなっている
因みに私は2人の邪魔にならないようにお風呂の端の方に移動している
「えーっと…今更だけどどういうルールなのかな…?」
「ターちゃんに審判やってもらって先にベシッとやった方の勝ちということにしよっカ」
「りょ…了解…」
私に振らないで… というか擬音じゃわからない…
私のそんな考えなどお構いなしにアルゴさんがこっちを向いたので私は仕方なく開始の合図を出した
「じゃぁ…開始で…」
私が合図を出すと2人は臨戦態勢になった
「ほんじゃマ… いつでもどうゾ?」
しばらく対人戦特有の膠着状態が続いたが先に動いたのはアスナだった
「行きます…!」
宣言と同時にアスナは右足を前に踏み出したがアルゴさんは姿を消した…というよりとてつもない速さで移動した
直後に黄色い残像がアスナの左脇を掠めて後方へと抜けていった
それにアスナは咄嗟に反応し歯噛みをしながら思い切りジャンプすると空中で反転して着地と同時に両足をスライドさせて距離を取るとハーブの束を掲げて身構えた
その反対側では左手を腰に当てて右手でバナナを人差し指の先でグルグルと回しているアルゴさんの姿があった
「いやぁ あの速度に反応するとはさすがアーちゃんダ あの一発で決めるつもりだったけど今のはベシッじゃなくてピシッだったからナ~」
「じゃぁ続行ね?」
大丈夫かな… 目で追えるかな…
アスナの問いかけに対してアルゴさんはニシッと笑ってみせた
そこからはまた膠着が続いているもののアスナがじりじりとアスナはアルゴさんを警戒しつつ浴槽の方へとスライドしていきやがて右足の指1本を浴槽の縁へ引っかけ、なおかつそれを悟られないようにポーズを保っている
これは洗い場と浴槽の境目が分かりづらいこのお風呂だからこそできる芸当だと言えるかな?
やがて天井にたまった水滴が地面に落ちてきたタイミングでアルゴさんが仕掛けた
今度は横からではなく正面から真っ直ぐに突っ込んできた アスナは迎撃するそぶりを見せるがアルゴさんはハーブの束の先端をかいくぐってアスナの懐に潜り込もうとしたがアルゴさんが大きく傾いた
「しまッ!?」
そして沈没寸前のアルゴさんに向かってアスナは一撃を入れようとしたがアルゴさんは不自然に動いていた
なんと水面を走ったのだ…
理論上は可能かもしれないがそれを実際にやってのけたのはアルゴさんが初めてかもしれない
豪快な水しぶきを上げながら4歩ぐらい走ると流石に限界が来たのか頭から水に突っ込み、少しするとぷかりと浮かんできた
「ニャハハハ!」
お湯から頭だけを出したアルゴさんが愉快そうに笑うと体勢を崩したのか浴槽の縁にしりもちをついているアスナも笑い始めた
私もそんな二人の様子がおかしく見えて思わず笑い始めた
大体10秒ぐらい笑った後2人はほぼ同時に立ち上がり今度は普通にお風呂の中を歩いてアルゴさんはアスナの元へと向かった
そして洗い場に上がると右手に持っていたバナナを浴槽に投げ入れて大きく伸びをした
「ン~ いやぁ…楽しかったナ~ お互いピシッが一発ずつだからチャンバラは引き分けっていう事でいいカ?」
「え…えぇ… 勿論」
何だか釈然としないな… でもまぁいっか
アスナも納得して頷きハーブの束を浴槽へと戻した
アスナはしばらく水面に広がる波紋を眺めていたが顔を上げるとアルゴさんに訊ねた
「さっき水面を走ったのって何かのスキルなの?」
「ン~…」
アルゴさんは濡れた髪の先をくるくるとするとアスナの質問に答えた
「ホントだったら情報料貰うトコなんだけどまぁいっカ 結論から言うと努力のタマモノだヨ 4層の川でオイラ〖フローター・サンダル〗使ってたロ?」
「えぇ」
「アレ中々楽しくてナ あちこち走り回ってたんだケド ある時うっかり装備し忘れたまま水に足を踏み出しちゃったんだよナ 当然沈んだけどその時に1歩だけ水面を歩けたんだヨ…ほら子供のころプールとかで1回だけやったことあるだロ? 右足が沈む前に左足を前に出せば水に沈まずに走れるという理論」
そうそうそれそれ… テレビで見たのを1回だけやろうとしてたや でも確か水槽に片栗粉か何かを大量に入れたらやりやすくなるんだったっけ?
「…やったような気もするけど…」
「アレをできるかもって思ったら試さずにはいられなくてサ その日以降川とか風呂とかで練習してどうにか4歩までなら行けるようになったというワケ まぁいわゆるシステム外スキルっていうやつだナ」
「へ…へ~」
それに対してアスナは微妙な反応を返しつつアルゴさんに質問した
「それ 私にもできるかしら…」
「どうだろうナ? オレっちができたからシステム上は可能なんだろーケド… 実際にはオイラみたいな小柄なアバターで尚且つAGI極じゃないと厳しいかもナー ターちゃんには劣るかもだけどアーちゃんの立派なボティじゃ中々…」
「別に立派じゃないです!」
アルゴさんの言葉に対して私も思わず胸を隠すように腕を体の前に回した…
その様子を見ていたのかアルゴさんは「シシシ」と笑いウィンドウを操作して水着を脱ぐとアスナにトレードウィンドウを飛ばした
「水着ありがと、返すヨ」
「ううん 情報代替わりに貰っておいて」
「いいのかイ? じゃぁありがたく貰っとくヨ」
アスナがそれを断ったのでアルゴさんもトレードを中止したのでアスナも白い水着を脱いだ
そこからはまたお風呂でくつろいでいたがふとアスナが横にいるアルゴさんに質問した
「アルゴさんはデュエルの経験多いの?」
アルゴさんはそれに対して首を横に振った
「そーでもないナ 正式サービスが始まってからはさっぱりダ」
「それにしては結構戦闘慣れしてたけど…」
「そーカ? 寧ろ即興であんなことが出来るアーちゃんの方がよっぽど戦闘慣れしてるって思うナ おネーさんまんまと引っ掛かったヨ」
アルゴさんの先ほどの作戦の評価を聞いたアスナは思わず首を縮めていた
「あれは…その…夢中で咄嗟に…」
「文句を言いたいわけじゃないサ とてもうまい手だったから誉めてるだけだヨ もしアーちゃんさえよかったらオイラもその手使わせてもらってもいいかナ?」
「も…勿論 どうぞどうぞ」
「ニシシ ありがと んじゃ情報料払わないとナ」
にかっと笑ったアルゴさんはアスナが何かを言い出す前に口を開いた
「アーちゃんはデュエルが怖いのカ?」
そう聞かれたアスナは頷いた
「…うん… 怖いっていってもこの層に来てからキリト君と一回だけデュエルしただけなんだけど… いや…正確に言えばデュエルを始めることすらできなかった カウントダウンが終わって剣を向け合った時に体が動かなくなっちゃって…」
アスナは自身の体を抱き、当時の心境を伝えるようにして続けた
「別にキリト君が怖かったっていう事じゃないの 彼は真剣だったけど決して攻撃的とかじゃなかった 対人戦のコツを教えてって頼んだのは私の方だしデュエルも初撃決着だったのにすごく怖くて… このまま続けるのは絶対嫌だって思っちゃって…」
そう言い終わるとアスナは口を水面に沈めるとぶくぶくとし始めた
「…その気持ちは分からなくもないけどナ さっきのチャンバラごっこと本物のデュエルはやっぱり違うヨ 初撃決着とはいえHPが減ることに変わりはないからナ」
アルゴさんの言葉にアスナが頷くと顔を上げ、アルゴさんの方を向いた
「…ちょっとだけ話を戻すけど… アルゴさんがソロで偵察できるのはさっき見せてくれたとてつもない素早さがあるからよね? どんな攻撃も回避できるっていう自信があるから危険なダンジョンにもソロで潜れる… デュエルで私に伝えたかったのはそういうことなんでしょう?」
「そう言われちゃうと自惚れ感が強いけどナ」
アルゴさんは少し苦笑いすると肩をすくめて続けた
「でもまぁ 確かにアーちゃんの言う通りいざという時は逃げれば何とかなると思ってる節はあるヨ これからはちゃんと足元にも気を付けるけどナ」
アルゴさんはそう言うとウィンクしたので今度はアスナが苦笑いした、しかし直ぐに表情に戻すと真剣な口調でアルゴさんに質問した
「でも AGI一極型はHPが少ないし頑丈な防具も装備できないでしょ? もし何かの拍子にモンスターの重攻撃を喰らったとかトラップにはまって動けなくなったらって考えたことは無いの?」
「そりゃぁ有るヨ」
今までとは少し違うような透き通ったような笑みを浮かべたアルゴさんは言った
「オイラもHPが減るのは怖いサ 今のアインクラッドじゃ死んでも蘇生できないからナ… 生き延びることだけを考えたらそれこそターちゃんみたいにSTR極にするべきだろうナ …いや いっそ<はじまりの街>から出ないほうが利口かも知れなイ でもオイラにとっては生き延びることより今やってることの方が少しだけ優先度が高いのサ」
「それは…元βテスターだから?」
「それもあるけどそれだけじゃないヨ」
アルゴさんはニヤっと笑いもう一度ウィンクした
「ホントだったらこれ以上は別料金を頂くところだけド 最高の風呂に誘ってくれたお礼にもう一つだけタダで教えるヨ」
「う…うん」
「さっきアーちゃんはオイラが独りで危険な偵察戦をする必要はない、同じ元βテスターのキー坊達だって攻略集団に参加してるんだからって言ってたロ?」
アルゴさんの言葉にアスナが無言で頷くとアルゴさんは右手の人差し指を立て、それを左右に振った
「でもな、キー坊が完全なソロをやってないのは単純に危険性が減るからだけじゃないと思うゾ」
「じゃぁ何…?」
「決まってるだロ」
そしてアルゴさんは人差し指でアスナの鎖骨辺りを軽くついて
「アーちゃん達がいるから、だヨ」
ニッっと笑った
キリが良い所が分からなくて長くなってしまいました…
それではまた次回に