ソードアート・オンライン ~PotetoEdition~ 作:水名(仮)
それではどうぞ~
「…二層の<マロメ>の近くでレベリングをしている時でした 小さな谷の奥で岩肌に鉄の鉱脈を見つけたのでメイスをツルハシに持ち替えていつものように掘り始めたんです 普通の鉱脈だったら鉱石を7~8個ぐらい掘ったらその鉱脈は枯れてたんですけど、そこは掘っても掘っても枯れなくて… 最初は当たりの鉱脈かなって思って喜んでいたんです でも次第に怖くなってきて…百個を超えたあたりでようやく気付きました これっていわゆる…」
「無限湧きバグ…?」
キリトさんリーテンさんの話を聞いていてどういうことなのかを理解したのか呆然と呟いた
それにアスナは首を傾げていたのでキリトさんは補足するように説明する
「モンスターやアイテムが正常な数を超えて出現し続けるプログラムの異常のことだよ SAOでバグが起こったっていう話は聞かなかったけど起こる時は起こるものなんだな…」
「へぇ~… つまり同じところで鉄鉱石を掘り放題っていう事よね? そんな宝くじの1等が当たったみたいなこともあるのね」
無邪気なアスナのコメントに私達は思わず苦笑いをして 代表してておさんがアスナに対してキリトさんの解説に付け加えた
「そう単純な問題でもないんだ バグを利用するのはいわゆるグリッジと言われてて 1人用のゲームならその人個人がどう思うかの問題だけなんだけどMMOみたいに複数人でやるようなゲームでは運営にバレるとデータを巻き戻されたり最悪アカウントが停止なんていう事もありうる」
「じゃぁリーテンさんは鉱石を諦めた…っていう訳じゃないのよね? 鎧がそこにあるんだから」
アスナの言葉にリーテンさんは首を縦に振って肯定した
「はい… 迷いながらも私はツルハシを止められませんでした 鉄鉱石が無限に取れるならアイアンどころかスチール装備を全身分作れる… その考えで頭がいっぱいになっちゃって…」
「無理ないよ 俺もそんなところを見つけちゃったら同じような考えになるよ」
キリトさんがそう言うとシヴァタさんも「勿論俺も掘るぞ」という謎の対抗を見せてきたのでアスナは呆れたがキリトさんは気にせずそのまま続けて質問した
「えっと… 一応確認だけどその無限湧きポイントはそのまま?」
「いえ…」
リーテンさんは首を横に振って否定した
「大体30分ぐらい掘り続けてたんですけれど突然岩肌のテクスチャが崩れたみたいになって… すぐに戻ったんですが その後はもう掘っても鉱石は出なくなりました」
「運営がバグに気づいて修正したのか? いやでも運営といってもな…」
キリトさんが首を捻って考えているとシヴァタさんは肩をすくめた
「バグが治ったんだったらそういう事じゃないのか?」
「といっても今、SAOはアーガスのスタッフですら手出しできない状態だからな… もしバグを修正できるとしたら管理者権限を持ってる茅場晶彦ただ1人だけで…」
「じゃぁ茅場が修正したんだろ」
シヴァタさんの言葉にキリトさんは「そうなのかもな」と頷くと逸れていた話を本筋に戻した
「つまりリーテンさんのフルプレートアーマーはその時の鉄鉱石で作ったわけか…でもよく千個以上も1人で運べたなぁ… 鉱石の腐るまでの時間は長めだったはずだけどそれにしても大変だったんじゃないか?」
キリトさんは鉱石を運ぶまでにかかった苦労を想像しながらリーテンさんに聞いていたがリーテンさんは再びかぶりを振った
「いえ… それですけど私1人で運んだわけじゃないです もし仮に運べても宿の保管箱には入りきらない量ですし…」
「あぁ…いわれてみれば確かにそうだな…」
宿屋には備え付けのストレージがありそこは滞在中なら自由に利用できるが流石に鉄鉱石千個は入りきらない大きさである
重たい鉱石系の素材の保管方法はだれもが悩むと個人的には思う
「それなら持ち運びできる溶鉱炉を採掘現場まで持っていって そこで片っ端から溶かしちゃうのは? インゴットにすれば結構持てるよね それが無理でも直接鍛冶屋NPCに持ち込んで順番に溶かしていけば…」
アスナが思いついた2つのアイデアをキリトさんは理由を述べつつダメ出しした
「残念だけど持ち運び可能なポータブル・フォージは武器防具の製作と強化ができるだけで鉱石の精錬は固定型の大型炉じゃないとできないんだ 鍛冶屋に持ち込むのはありだけど他のプレイヤーに見られると面倒なことになりそうだな 生産職でもないプレイヤーが繰り返し大量の鉱石を鍛冶屋に持ち込んでいるのを見たら街の外に鉱石を山積みにしてることを知らせるようなものだからなぁ…」
「私もそれが怖くて…丁度2層で鍛冶屋の強化詐欺事件があったという噂が流れていた頃でしたから、やばい人たちに後をつけられてたらどうしようって…」
リーテンさんが話した内容はシヴァタさんにとっても初めて聞く内容だったらしかったが彼女を案ずるような顔で語りかけた
「リッちゃん その事件は裏にいろんな事情があって詳しいことは言えないんだけど 強化詐欺をやってた連中も本当の悪人ってわけじゃなかったんだ それに全員が被害者に謝って弁償もしたからもうもう悪い奴らはいなくなったんだよ」
「そうだったんだ ありがとうシバ…教えてくれて」
お~ お熱いことお熱いこと
そんな2人の様子を私はしばらく温かい目で見ていたがキリトさんが話を本筋へと戻した
「…なら 結局鉱石はどうやって…?」
リーテンさんは正面を向くと説明を再開した
「はい…ええっと…実際の運搬手段もですけれども私には鉱石を使ってもいいのかという迷いもあったんです タンクとしては喉から手が出るほど欲しいですけど明らかにバグだというのは分かってたのとグリッジで手に入れた装備を使っていいのか、運営にばれてBANされたらどうしようっていう恐怖で動けなくなっちゃって… それで1層で知り合って、装備のメンテをしてもらった友人に思い切って相談してみたんです」
「メンテを? じゃぁその友人は鍛冶屋なのか?」
キリトさんが質問するとリーテンさんはこくりと頷いた
「ええ まぁ鍛冶屋と言っても武器と防具の作成スキルを少しずつ修行しているだけでお店は開いていないんですが…その子も女の子なんで仲良くなってメンテとかちょっとした作成とかを頼むようになったんです」
「へぇ… 女の子の鍛冶屋か…」
女の子の鍛冶屋…? 確かどこかで… もしかしてリズかな…?
もしかしたら違うかもだけどリズのことを思い出しているとリーテンさんは続けた
「フレンド・メッセージで鉄鉱石のことを相談したら直ぐに返事がきて… SAO以前のネットゲームの経験はそこまでないって言ってたんですがその時はもう一刀両断っていう感じで」
そこまで言うとリーテンさんは淡い笑みを浮かべた
「迷ってる場合じゃないでしょ この世界で一番大切なのは生き延びること、次にこのゲームをクリアすることなんだからバグでもなんでも利用して強くなんなさいよ、って それに もしBANされるとしてもそれはここから出られるってことなんだから怖がることなんて何もないでしょ、って…私全くその通りだと思って 鉱石を運ぶのもその子に手伝ってもらって 幸い他の人には気付かれずに<マロメ>の村の鍛冶屋で全部〖スチール・インゴット〗にできたんです」
やっぱりリズの事だった
私の疑念が1つ解消されたところでアスナがリーテンさんに対して問いかけていた
「じゃぁそのフルプレートアーマーはNPCじゃなくてそのお友達の鍛冶屋さんが作ったの?」
それに対してリーテンさんは誇らしそうに頷いた
「そうです! 熟練度がギリギリで彼女はNPCに頼んだほうが良いって言ってたんですけれど私はどうしてもって頼み込んで…何度も失敗してはインゴットに戻してまた叩いてを繰り返して、一晩かけて体と脚、籠手と靴、兜の五箇所をしっかりと作ってくれたんです」
「へぇ… いい友達でいい鍛冶屋だな…」
キリトさんがリズについて褒めるとリーテンさんは明瞭な笑みを浮かべた
そこからはリズの作ってくれたスチールアーマー装備に身を固め、第3層のトレント相手に狩りをしていたところをALSにスカウトされてどうしようかと迷っていたリーテンさんは今度もリズの勧めでギルドに加わって、第4層攻略中にシヴァタさんと出会ってからはなんやかんやあって今の関係になったとのこと
そして人目を忍んで密会を重ねるうちにギルド同士の融和を考えるようになって手始めに今回のカウントダウン・パーティを企画したという
意外にもDKB側はリンドさんが乗り気でパーティも楽しみにしているらしいが問題はALS側だ
私達はキリトさんが取り出したライム水をほぼ同時に飲むと本題へと入った
「えぇ…っと まずリーテンさんはALS側に起こっている問題についてシヴァタにどこまで話しているんだ?」
キリトさんの質問に先に反応したのはシヴァタさんだった
「それだよリッちゃん 昨日ちょっと問題が起こったけど何とかするってメッセ送ってきてからそれっきりだろ? 俺どうなったのか心配で…」
「ごめんね シバ…」
リーテンさんはシヴァタさんに謝罪したがその顔には板挟みの苦悩が滲んでいる
ALSのフロアボス抜け駆け作戦はギルド全体に口止めがされているのだろうと思う
リーテンさんはギルドメンバーとしてそれを守らなければいけない一方でパーティの実行者もやっているのでその心情はある程度察することが出来てしまう…
「何か問題が起こったなら何で相談してくれないんだ リッちゃん 確かに俺はDKBのメンバーだけどそれ以前に同じSAOのプレイヤーじゃないか それに気づかせてくれたのは他でもないリッちゃんなのに…」
シヴァタさんがリーテンさんの肩に手を置いて説得を試みるがリーテンさんは俯いたままだった
キリトさんは一瞬私達にアイコンタクトを取ると軽く咳払いをして口を開いた
「リーテンさんが詳しいことを答えられないんだったら俺が説明するよ シヴァタ、どうか落ち着いて聞いてほしい…今夜ALSの主力はカウントダウン・パーティをすっぽかして 単独でフロアボスを討伐しようとしているんだ」
キリトさんの言葉に驚いた様子を見せたのはシヴァタさんだけではなくリーテンさんもだった
危うく椅子から落ちそうになっていたが鎧をガシャリと鳴らして何とか踏みとどまっていた
そしてリーテンさんは目を大きく見開いてキリトさんに聞いていた
「キ…キリトさんがどうしてそれを…!?」
「悪い…情報元はまだ明かせない でもALSから情報が漏れたわけでも情報屋から情報を買ったわけでもないから安心してほしい」
「そう…ですか… いえ、いいんです キリトさんほどの人であれば情報収集能力もトップレベルでしょうから…」
「それは買いかぶりすぎだよ」
キリトさんは私達と顔を見合わせながら苦笑いをすると続けた
「俺は攻略集団のはぐれものだしいつも好き勝手にやらせてもらってるからALSやDKBにどうこう言えるような立場じゃないってことは解ってる でも…俺やアスナ、テオやタコミカもこれ以上2大ギルドに反目してほしくないって本気で思ってるんだ 適度なライバル関係なら攻略の原動力になるからいいんだけど…今回の抜け駆けは明らかにやりすぎだ 成功したらDKBとの確執は修復不能なものになるし、万が一失敗したら最悪ALSが壊滅する恐れすらある 何せ区切りの5層ボスにギルド単独で挑もうとしてるんだからな…」
キリトさんが口を閉じると考えるように頭を抱えてたシヴァタさんが呻くように言った
「だがどうしてそんなことに…? 確かにキバオウはガサツな男だがこんな無謀な作戦を立てるほど馬鹿じゃないはずだ 単独でフロアボスに挑むことがどれだけ危険かあいつも分かっているだろうに…」
シヴァタさんの言う通りキバオウさんはこんな作戦を立てるとは考えにくい
キバオウさんがこの作戦を立てた意味を知ろうと私達は全員リーテンさんの方を向いていた
しばらくリーテンさんは唇を噛んでいたが意を決したように頷くと話し始めた
「…キリトさん達がそこまでご存じなら私の知ってることをお話しします」
リーテンさんはライム水を飲むと背筋を伸ばし、ゆっくりと話し始めた
タコミカはカップルはそっと見守る主義です
それではまた次回に